ラストスタリオン   作:水月一人

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Blood Type C

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鳳白

STR 10       DEX 10

AGI 10       VIT 10

INT 10       CHA 10

 

LEVEL 1     EXP/NEXT 0/100

HP/MP 100/0  AC 10  PL 0  PIE 5  SAN 10

JOB ?

 

PER/ALI GOOD/DARK   BT C

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 異世界召喚された鳳たちは、ジャンヌを皮切りに次々とそのチート能力を披露していった。彼らのステータスは軒並みこの世界の水準を大きく上回っており、そのステータスが明らかになるたびに、アイザック達は度肝を抜かれた。

 

 ところが、最後に残された(おおとり)(つくも)の番に異変は起きた。これまでの流れからして、さぞかし凄い能力を持っているだろうと期待された鳳であったが、彼が公開したステータスはびっくりするほど惨めなものだったのだ。

 

 ステータス画面は自分にしか見えないため、鳳はそのステータスを口頭で伝えるしかなかった。だから騙そうとすれば騙せたわけだが……彼がその数値の一つ一つを正直に伝えていくと、初めのうちはどよめきと苦笑で応えていた聴衆は、基本ステータスが全て10であることを知らされた瞬間、沈黙に変わった。

 

 続けて可変ステータスのレベル1、更には職業が不明であることを告げられた時、それを聞いていたアイザックの困惑はピークに達したようだった。

 

「おい、君。我々が分からないからって、からかってるんじゃないだろうな?」

 

 沈黙を破ってアイザックが冗談めかした口調でそう言った。白はそうならどんなに良かっただろうかと思いながら、

 

「どうせ騙すんなら良い方に騙しますよ。スキルの一つでも使えたら、そうしたかも知れない」

「君は神技(アーツ)古代呪文(スペル)は使えないのか」

「残念ながら一つも」

「なんてこった……どうして君一人だけ、こんなことになってるんだ?」

 

 アイザックは眉毛をピクピクさせながら、困ったように背後に控える部下たちを振り返った。主人の疑問の視線を受けても、神人たちは自分達に分かるわけがないだろうと言った感じに、黙って首を振った。分かるのであれば、他のメンバーのチート能力にいちいち驚いたりもしなかっただろう。

 

 答えの見えない疑問に場の雰囲気がどんよりと曇る。そんな時、あっと小さな声をあげて、ジャンヌが何かに気づいたように言った。

 

「そうだわ! 飛鳥、あなたこっちに召喚される直前に、別キャラでログインしてなかった? だから私達、最初はあなたが誰かわからなかったんだけど」

「あ! そうだったそうだった! そういや、ソフィアがどうのこうのと掴みかかられて、肝を冷やしたんだった」

 

 カズヤはその時のことを思いだし、ポンと手を打ったあと、すぐにバツが悪そうに顔を背けた。状況が状況だけに何も言うつもりはないが、彼がやったことを水に流したわけじゃない。鳳はギラリと睨むような視線をカズヤに向ける。

 

 しかしそんな恨みがましい顔をしている場合ではない。彼はすぐに気を取り直すと、

 

「確かにそうだ。俺はあの時、ソフィアに会いに行くつもりで、新規キャラクリエイトをしてサーバーに入っていた。そのままだと俺が現実の鳳白だと言うことを信じてもらえないかも知れないと思って……」

「鳳白って、飛鳥の本名なの? あらやだ、源氏名みたい。今度から(しろ)ちゃんって呼んでもいいかしら。つくもより可愛いわ」

「好きに呼べよ。みんなそう呼ぶよ。つーか話が脱線するから、少し黙れ」

 

 鳳が苛立たしげにジャンヌを睨みつけていると、カズヤがなにかに気がついたように続けた。

 

「あー、もしかして、これもゲームを再現しているってことじゃないのか? AVIRLの職業補正や、リロイの超回復みたいに。俺たちのステータスは、あの魔法陣が現れた時に使用していたキャラに合わせてあるんだよ」

「そのせいで、俺はレベル1でこっちに飛ばされたってのか?」

 

 鳳がうんざりした顔でそう嘆くと、カズヤはそんな彼の哀れな姿を見ながら、

 

「あはははははははっ!!」

「何がおかしい!」

 

 突然、他人の不幸を笑い出したカズヤに対して、鳳が激昂して掴みかかる。しかし、高レベルのカズヤに、レベル1の鳳がいくら攻撃したところで、子犬にじゃれつかれてるようなものであった。彼は苦笑交じりに攻撃を捌きながら、

 

「いや、だって、仲間たちがみんなチート能力持って召喚されてるのに、一人だけ無能だなんて、お約束すぎんだろ。どこの主人公だっつーの。おまえ、昔っからそういう美味しいとこ持ってくよな」

「くそが……これが自分のことじゃなきゃ笑ってられたかも知れないが、しかしこれは現実なんだ。俺はこれからどうしたらいいんだ?」

 

 鳳は力が抜けたようにへなへなと地面に両手をついた。いくら攻撃しても一向にダメージを与えられないことに疲れたのもあったが、これから先、どうやって生きていけば良いものか……将来を考えると、どっと肩に重い物がのしかかってくる。

 

 ジャンヌはそんな鳳の肩を叩き、

 

「まあまあ、白ちゃん。そう気を落とさないで。レベル1っていうのは逆に言えば、それだけ伸びしろがあるってことかも知れないわよ」

「そんな慰めいらねえよ。俺はいますぐ使える力が欲しかった」

 

 鳳が涙目で嘆いていると、それまで鳳たちのやり取りを呆然と見守っていたアイザックが話しかけてきた。

 

「つまり、どういうことなんだ……? さっきから、君たちが言っていることがいまいち理解できないんだが」

 

 異世界人の彼らには、ゲームだの別キャラだのログインだの、元の世界の言葉の意味が分からなかったのだろう。鳳は我が事ながら面倒くさくなって投げやりに、

 

「つまり、こいつらは成長しきった最強の姿でこっちに召喚されたのに、俺だけがうっかり生まれたばかりのステータスでこっちに飛ばされちゃったって感じです。生まれたばかりだから、何もかもが低レベルですし、職業も決まってないんですよ」

「君たちの世界には、職業が無い人間なんてものがいるのか……?」

 

 年越し派遣村とかに行ったらボコボコにされそうなセリフが飛び出してきた。鳳は逆にアイザックに尋ねてみた。

 

「そりゃ、普通、生まれたばかりの赤ん坊は職業にも就いてないでしょう? そういや、この世界ではどうやってジョブを決めるんですか?」

「いいや、普通の人間は何らかの職業を持った状態で生まれてくるぞ。戦士の子は戦士、盗賊の子は盗賊と言うだろ」

「なんですって?」

 

 まるで蛙の子は蛙みたいな口ぶりだが、実際、この世界ではそれが常識のようだった。職業選択の自由が存在する鳳たちには信じられない世界だったが、逆にアイザックからすれば、彼らの方が不思議な生き物に見えるのだろう。

 

「それじゃあ、君たちの世界では、職業はどうやって決まるのだ?」

 

 どうと言われると……普通なら学校行って就職活動をして、入社試験を受けて圧迫面接に耐えて……となるのだろうが、多分、アイザックの聞いてる職業はそういうのではなく、ゲーム上の職業のことだろう。

 

 鳳はキャラクリエイトの場面を思い出しながら、アイザックにも分かるように説明しようとしたが、

 

「えーっと、普通はキャラクリした直後にサイコロを振って……出た目の分だけ各ステータスにボーナスを割り振って、そうして決まった初期ステータスで、ある程度の職業が決まるん……ですけど」

 

 ちんぷんかんぷんなアイザックの代わりに、カズヤが食いついてきた。

 

「そうだったそうだった。そんで、強力な職業に就くには、ある程度サイコロを厳選しないといけないんだ。俺はそれで補助術士になった」

「私は騎士になったわ」「拙者は何も考えずに暗殺者にして、後で後悔したでやんすよ」「リロイ・ジェンキンス」

 

 アイザックがぽかんとした表情で言う。

 

「もしかして……まさか君たちは全員、好きに職業を選んだということか? 信じられない」

「いや、信じられない言われても。それが普通でしたから……あ、そうか!」

 

 その時、カズヤがなにかに気づいたように声を上げた。

 

「こいつが無職なのは、ステータスのせいだよ。サイコロボーナスは最低でも5は貰えるようになってたから、オール10なんてステータスは本来あり得ない。最も簡単な戦士になるにもSTRが11以上必要なんだ」

「あー、そういうことか……それじゃあ、俺もどれかのステータスが上がったら?」

「自動的に職業が決まるのかも知れないな。確か15までなら訓練で上げることが出来るんですよね?」

 

 カズヤが確認するようにアイザックの部下たちに尋ねると、彼らは呆気にとられながらも、

 

「は、はい。確かにそうです。ですが上がると言ってもほんの少しですよ?」

「もしかしたら勇者補正で上がりやすいかも知れないし、試してみろよ。無職よりマシだろう」

 

 カズヤにそう勧められ、鳳は渋々頷いた。

 

「やるしかないから、やるけどよ……なんで俺だけこんな目に」「そうふてくされるなよ。上手くステータスを上げれば、狙った職業に就けるかも知れないぞ?」「それはあるかも知れないわね。せっかくだから、白ちゃんも伝説のロードを目指してみたらどうかしら?」「そう上手くいくかなあ?」「わからんが、面白そうだから色々試してみようぜ」「他人事だと思ってよ」「カズヤのステータスの傾向からすると、ロードはSTRとDEX、INTとCHAが高いようね……ねえ、CHAってどうやったら上がるのかしら?」

 

 鳳たちは周りそっちのけで好き勝手に話を続けた。ゲーマー脳に侵されている異世界人の奇行を目の当たりにして絶句していたアイザックは、ようやくハッと我に返った。

 

「君たちは本気で職業は選べると思っているのか?」

「ええまあ。取り敢えずやっとけって感じですけど」

「ふーむ……それは面白そうだな。もし本当にそんな事が出来るというなら、我々も協力を惜しまないぞ。必要なことは何でも相談してくれたまえ」

「ありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げた時、鳳はさっき気になったことを、ふと思い出した。

 

「そう言えば……ステータスのことで一つ聞きたいことあったんですけど」

「なにかね?」

「Aが人間、Bが神人なら、Blood Type Cってなんなんですか? どうして俺だけCなんだろうって、ずっと気になってたんですけど」

「え!?」

 

 するとアイザックと部下の神人全員が、一瞬だけ驚愕の表情を見せた。しかし、彼らはすぐに取り繕ったように平静を装うと、

 

「いいや……そのような人間は聞いたことがない。まさか君はCなのか??」

「え、ええ……そうなんですけど。これって……」

「それは不思議だ。どういうことなのか調べさせよう」

 

 アイザックがそう言って部下に命じると、彼らはお互いに頷きあってから練兵場を出ていった。それまでとは明らかに違う様子に不安になる。顔に出さないようにしているが、何かを隠しているのは間違いない。

 

 尤も、何を隠しているのかは何となく見当がついているのだが……

 

「ところでさあ、おまえの個性と属性ってなんだよ。善良にして闇属性って、どこの中二病だよ。超ウケるんですけど」

 

 鳳とアイザックがお互いに余所余所しい雰囲気で無言のやりとりを続けていると、空気を読まないカズヤがゲラゲラと笑いながらやってきた。個性はともかくとして、この光とか闇の属性の方も、いまいち何なのか分かっていなかった。アイザックに尋ねてみると、

 

「実は、我々にもよく分かっていないのだ。その者が持つ、生まれついての何かとしか言えないな。因みに、闇属性の人間はいくらでも存在するが、神人では見たことがない。その傾向からして、精霊に関係があるのではないかと思われているのだが」

「精霊の加護を受けてるかどうかの違いとか、そんな感じでしょうか? あれ? じゃあ、闇属性は何の加護を受けてるんだ……?」

「さあ、なんだろう」

 

 アイザックも分からないと言った感じに首を振る。カズヤはようやく二人の微妙な雰囲気に気づいたのか、変なことを聞いてしまったかなと、取り繕うような感じで後を続けた。

 

「そうだ。もしかすると、これも職業に関係あるのかもな」

「職業?」

「ああ。闇属性じゃないとなれない職業とかがあるんじゃないか。例えば忍者とか。ハクスラ系のRPGだと、割と定番だろ?」

「忍者! いいでやんすね! 拙者、本当は忍者になりたかったでやんすよ」

 

 その単語にAVIRLが食いついてきた。あっちの世界のゲームには、忍者という職業がなかったから、彼はそれに近い暗殺者を選んだのだそうである。だからもし、こっちの世界で忍者になれるんならなってみたいから、鳳にそれっぽいステータスを目指してくれと頼んできた。

 

 いや、おまえの欲望のために職業を決めるのは冗談じゃないと断っていると、それじゃあ何になりたいのかと詰め寄られ、その後は鳳の職業についての話題になっていった。本当はBloodTypeについて、もっと突っ込んだ話を聞きたかったのだが……

 

 アイザックは涼しい顔をして会話に加わっている。兵士たちは荒らされた練兵場の修復で忙しそうだ。きっと誰に尋ねたところで、もう答えてくれることはないだろう。だから鳳はそれ以上、無理に尋ねることはしなかった。

 

 尤も、聞くまでもなく、何となくそれは分かっていた。これまでに受けてきた歴史講釈では、この世界には3種類の人類が存在して、それぞれ、人間、神人、そして魔族と呼ばれていたはずである。

 

 闇の眷属、魔族……BloodType AでもBでもないなら、考えられるのはこれしか残っていないだろう。おあつらえ向きに彼の属性はDARKと来ている。

 

 これがこの城の住人達にとってどういうことを意味するのか……どうやら鳳は、自分の悲惨なステータス以上に気を配らなければならないことが出来たようだった。

 


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