ラストスタリオン   作:水月一人

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白いお花畑

 バルティカ大陸北西部に位置するボヘミアの地は、千メートル級の山々が連なる大山脈だ。感覚的には日本アルプスに近いところで、本家と違って標高は若干低いがその分範囲は広大で、日本列島がすっぽりと収まってしまうというくらいあるという、かなりの秘境であった。

 

 無論、そのような土地で人が暮らしていくことは困難であるから、昔は帝国との国境線を、人が住んでいるか住んでいないかで判断していた。要するに、南の大森林、北の大山脈と呼ばれ、ボヘミアは帝国が国家として認めていないような辺境だったのである。

 

 そんな辺境の地が一躍脚光を浴びるようになったのは、300年前の勇者戦争が起きてから数年が経過した頃、ボヘミア北部の山地に巨大な銀山が発見されたことが発端だった。銀は言うまでもなく全世界共通の財であるが、ところで忘れているかも知れないが、神人がその刃で傷をつけられたら最悪の場合死に至るという、神人特攻の素材でもあった。

 

 その頃、勇者派との泥沼の戦争を繰り広げていた帝国にとっては、ここが落とされたら死活問題という重要な戦略拠点であり、以来、ヘルメスを除く4大国が共同で管理する、帝国の植民地となっていた。

 

 発見から300年近く経った現在でも、その銀の産出量は世界一であり、帝国から勇者領、新大陸に至るまで、流通している銀貨の全てが、ここボヘミア鉱山から産出したものと言われている。

 

 そんな帝国の心臓部とも呼べる北部と違って、ボヘミア南部は特にこれと言った生産物のない不毛の地であった。一応、あちこちから鉄鉱石が取れるのであるが、どの鉱山も産出量はまちまちで北部ほど大規模な炭鉱が開発されることはなく、取り尽くしたら次の鉱山へと移動するという炭鉱夫の集団が生活しているくらいで、人が定住するような集落は殆どないと思われていた。

 

 しかし、道案内に雇った行商人に言わせればそれは間違いで、こんな不毛の土地であっても、それなりに集落は存在するらしい。彼らは非常に閉鎖的であり、外部との交流を快く思っていないためあまり知られていないが、それでも、周辺の集落やその集落を渡り歩く行商人とは、それなりに取引を行っているようだった。

 

「いやあ、それにしても皆さん、健脚でいらっしゃる。流石、大森林を渡り歩いていただけありますね」

 

 今回、道案内を買って出てくれた行商人は、勇者領を根城にしているトカゲ商人のキャラバンの一つだった。ゲッコーとはまた別の蜥蜴人であるが、ここでも縁があるというのだから、どうやらこの世界で秘境とトカゲ商人はセットのようである。

 

 彼らは集落間の物資を移動することで、その利ざやを稼ぐタイプの行商人らしく、持ち込んでいる物資は少なかったが、同行する職人の数は多かった。到着した村で御用聞きをし、鍛冶や大工仕事を行って、その代金として手に入れた物資を持って、村から村へと渡り歩くのがパターンであるらしい。わらしべ長者みたいであるが、まあ、そのくらい荷物を少なくしなければ、この山道を歩くのは困難だからであろう。

 

 彼らは、いくら冒険者とは言え、都会からやってきた鳳たちが、音を上げずに苦もなくキャラバンについてくるのを見て、最初は驚いているようだった。それはもちろん、つい最近まで大森林を歩き回っていたからだが、そのことを話すと納得すると同時にすごくビックリされてしまった。

 

「たった5人であの大森林を? それは凄い! なるほど、ここは道は険しいですが、大森林と違って魔物の数は少ないですから、あなた方ならなんてことないんでしょうね。商人があの森を歩くには、どうしても魔物対策が必要ですから、キャラバンが大きくなりがちなのです。我々のような規模の行商では、とてもとても無理ですよ」

「でも山歩きは慣れてるみたいだ。適材適所ってことだね」

「ええ、身軽な分、足は早いですから。山地では、日が昇っている間に、集落から集落へと移動し続けるのがコツなのです。それさえ守っていれば、道に迷うことはありません。逆に、無理をして先を急ごうとすると、遭難の危険があります。必ず、村人の言うことを守り、遠回りでも着実に、隣村から隣村へと一歩一歩進んでください」

 

 例えば大森林なら、コンパスの方角にさえ気をつけていれば、最終的には力技でも目的地周辺につくことは出来る。しかし、山地では単に方角だけを頼りにまっすぐ行こうとしても、すぐに峡谷や断崖絶壁にぶつかってしまってそれ以上進めなくなるのだ。

 

 焦っても結局遠回りになるので、それよりも、どの集落も最低でも隣の集落とは交流があるから、その情報を頼りに進んでいった方が確実に目的地に近づけるというわけだ。そうして村から村へと道を繋げていき、最終的に目的地にたどり着いた時に、どの経路を辿ってくれば一番近いかを逆算すれば、それが最短ルートになるというわけである。

 

 なんというか、ネットワークのノードとリンクの関係みたいなものだ。

 

「我々はそうやってボヘミアを渡り歩いているのです。ですから、申し訳ございませんが、あなたがたの目的地である砦への行き方はわかりません。私たちが出来るのは、あなたがたを最初の村へ案内することだけです。そこから先は、みなさんが目的地にたどり着けるように、村人たちと上手に交渉してください」

「わかりました。全く何の手がかりもないよりは、ありがたいですよ」

「出来れば、我々も一緒に探して差し上げたいのですが、こちらも仕事ですので」

「いえいえ、構いません」

 

 鳳はそう返事をかえしながらも、ふと思い立ち、

 

「ところで、話は変わるんですけど……実は俺、議会のお使いの他にも探しているものがあるんですよ。それで、普段からこの辺の山を歩いているあなたに話を聞きたいんですけど」

「おや、そうなんですか? ええ、私で良ければ何でも聞いてください」

「実は、この近辺にしか生えていないという薬の原料になるという植物があるそうなんですよ。その薬の名は、ハイポーション。MPポーションの上位版で、昔は帝国にも流通していたものだそうなんですが……」

 

 するとトカゲ商人はあっさりと、

 

「ええ、存じております。それでしたら、今から行く村でも手に入ると思いますよ」

「……は?」

 

 鳳はまさかこんなあっさり見つかるとは思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。いくらなんでも都合が良すぎるから、何かの間違いじゃないかと思い、

 

「いや、そんなまさか……えーっと……ハイポーションの原料はですね、なんつーか、地面からにょきーっと伸びる茎の先端に、丸っこい実をつける植物の、実が熟してきたらナイフで傷をつけると、翌日にはトローっと樹液が染み出してくるという……」

「ええ、そうですね。見たことがあります」

「マジで!?」

「え、ええ……そうだと思うのですが……私もそこまで言われると自信が無くなってきてしまいました」

 

 鳳があまりにも仰天しているので、トカゲ商人は少し困惑気味に、

 

「……もしかすると、あなたのおっしゃってる物とは違うかも知れません。ですが、それも村に着けばわかるんじゃないですか」

「そ、そうですね。すみません、俺から聞いといて否定するようなことばかり言って」

「いえ、いいですよ。でも、そんなものを手に入れてどうするんですか? あれはMP回復する以外に使い道なんて何もありませんよ?」

 

 もちろん、自分で使うに決まっているが、そんなことを言うと変な目で見られるかも知れないと思い、

 

「それは……うちには神人の仲間が居ますから! MPいっぱい使いますから!」

「なるほど、仲間のためにMP回復手段を多くしておきたいのですね。流石、高ランク冒険者ともなれば、準備が違いますなあ」

 

 トカゲ商人はそんな仲間思いの鳳に感心していたが、当の鳳の仲間たちは冷たい視線で彼のことを見つめるのだった。

 

**********************************

 

 そうしてトカゲ商人に案内されること半日で、目的の村に到着した。到着した時にはもう夜が間近で、畑などを見ている余裕はなかった。鳳たちは、ここでトカゲ商人たちがいつもお世話になっているという村長の家に泊めてもらい、翌朝、改めて村の人達に次の村までの道案内を頼むことになった。

 

 村長は鳳たちの来訪目的を聞くと表情を曇らせ、

 

「ああ、あの砦の……」

 

 と言ったきり渋い顔をして押し黙ってしまった。何か問題でもあったのかなと思ってソワソワしていると、村長の代わりにダンという村の若手が(と言っても50代のおっさんであったが)、

 

「俺たちは帝国とも勇者領とも関係を絶って、ここでひっそりと暮らしてるんだ。なのに、そんな俺たちの縄張りで、我が物顔で帝国と勇者領にドンパチやられちゃあ面白くないってわけだ」

「あー……なるほど」

 

 自分たちは招かれざる客と言うわけだ。鳳たちがバツが悪そうに座っていると、

 

「まあ、お兄ちゃんたちのせいじゃないから、そう畏まらないでいい。あんたらが目的を達したら、砦がなくなるってんなら協力もするぜ。勝っても負けても、あれにはさっさと出てって欲しいからな。やっぱり兵隊にこの辺をうろつき回られるのは怖いだろ」

「そうですね、すみません……お騒がせして」

「明日、朝になったら案内人を紹介してやろう。こっから砦方向だと……あの村が近いかなあ……その先はまた、あの村の奴らに聞いてくれ」

 

 ダンはそう言うと、今日はもう遅いからと言って、寝床を案内してさっさと帰ってしまった。村長は相変わらず無口で、なんだかいたたまれない思いがした。こりゃ明日になったら早めに出ていった方が良いと思いつつ、鳳たちは床についた。

 

 翌朝……

 

 日が昇ると同時に起きた鳳は顔を洗いに村の井戸まで歩いてきた。ヴィンチ村に来てからすっかり人里の生活に慣れてしまい、午後に起きることもザラだったが、大森林にいる頃は少しでも昼の時間を稼ぐために、誰に言われなくても太陽が昇れば勝手に目が覚めたものである。久々に遠出したことで、体がその感覚を思い出したらしい。

 

 濁った水でじゃぶじゃぶ顔を洗っていると、朝食のために野菜を収穫してきたらしい、親切そうなおばあさんがジャガイモを分けてくれた。ありがとうと頭を下げつつ、これは流石に生では食べられないなと思い、どこかでかまどを借りられないかとキョロキョロしていたとき……彼は、視界の片隅に白いお花畑を見つけた。

 

 なんだろう、あれは……

 

 何故かわからないが妙に心惹かれる……鳳はふらふらとその花畑へと近寄っていった。そこは畑と畑の間にある土手と言うか斜面であり、だから最初はただの雑草だと思っていた。ところが、彼がよくよく近寄って見てみれば、その白い花に混じって丸い実が生っている。なんというか、かっぱの頭みたいな形をしたそれは、紛れもなく芥子坊主であった。

 

「ほわ~! マジであった! ケシはここにあったんだ!!」

 

 苦節大体1週間……ニューアムステルダムの街でこれを見せられた時、本当にケシの花々が咲き乱れる光景が見られるとは思わなかった。鳳は真っ黒クロスケを見つけたサツキとメイみたいに小躍りすると、早速とばかりにその芥子坊主を拝借しようとしたが、

 

「いや待てよ、これって誰かの畑なのかな?」

 

 どう見ても土手に勝手に咲いているようにしか思えないが、これだけ群生しているとなると、誰かが管理しているのかも知れない。そう思って見てみると、いくつかの芥子坊主には、小さな袋みたいなものが取り付けられており、そこにトロトロと樹液が流れ込んでいるのが見えた。

 

 確かケシはまだ熟してない実が傷つけられると、防衛機能として毒を生成する。それがアヘンというものらしいが、するとこれは誰かが収穫しているものに違いない。やっぱり勝手に取っちゃまずいよな……と思いながら、鳳が指を咥えて袋の中身をジロジロと見ていると、

 

「……それ、欲しいの?」

 

 突然、声を掛けられて鳳は飛び上がった。目の前のブツに気を取られすぎて、いつの間にか人が背後に来ていることに気が付かなかったらしい。鳳は、多分ここの畑の主だと思い、慌てて斜面から下りると、

 

「すみません! 珍しかったから、ついつい近寄って眺めてしまいました」

「そう……それ、まだ収穫するの早いから、取っちゃ駄目だよ」

 

 やってきたのは一人の小柄な老人だった。目は落ちくぼみ、腕は骨に皮が張り付いているみたいに細くて、なんというか、息を吹きかけただけでもポッキリと折れてしまいそうなくらい貧弱である。実際、風もないのに歩くそばからふらふらと揺れて、まるでジャンキーを絵に書いたような老人だった。

 

 彼は鳳の横をふらふらと通り過ぎると、畑のケシを一本一本確かめている。鳳がその姿を物欲しそうに眺めていると、

 

「……欲しいんなら、分けてやろうか?」

「良いんですか!?」

 

 もちろん、自分からも頼むつもりであったが、まさか相手から先に言われるとは思わず、鳳は勢い込んで返事した。老人はそんな鳳に向かってふらふらと揺れながら、

 

「いいよ~……でも、代わりにちょっと頼み事聞いてよ」

「頼み事ですか?」

 

 なんだろう? と思っていると、目の前でふらふらしていた老人が急にバランスを崩し、今にも倒れそうになった。鳳が慌てて彼の体を支えると、すると老人はそのまま鳳の背中に当たり前のようにおぶさって、

 

「それじゃあ、まずは家まで送ってよ。すぐそこだから」

「……はあ」

 

 まるで子泣き爺みたいな爺さんだ……そんなことを考えつつ、鳳は老人に言われるままに村の中を歩いた。

 

 老人の体は恐ろしく軽く、見た目通り、本当に骨と皮で出来ているようだった。吐く息は病院のような匂いがして、彼の体が薬漬けであることが窺える。道案内する声にはやる気が全く感じられず、なんだか半分寝ながら喋っているかのようにボソボソと響いた。初見でジャンキーみたいだなと思った通り、実際に老人はかなりのジャンキーだったのだ。

 

 鳳が言われるままに彼をおぶって家まで運んであげると、彼は家に着くなり寝台によっこらしょっと寝転がり、そこにあったすりこ木みたいに丸いパイプを咥えて、なにやらプカプカ吸い始めた。

 

 老人がパイプの先端に日を近づけると、ジリジリと何かが焦げるような小さな音がして、何かの煙が部屋に充満した。それが鳳の鼻に届いた時、彼は一息嗅いだだけで、『あ、これがアヘンか……』とわかるくらい、劇的な心地よさが脳内に広がった。なんというか、夢見心地というか、体が眠っているかのようにものすごくリラックスしているのに、頭の方は何故かやる気に満ちているような、もっと嗅いでいたいという快感があった。

 

 老人はパイプを使ってスーッと煙を吸い込むと、体の細胞の一つ一つに染み渡るぜと言わんばかりに長い息を吐いてから、まあそこに座りなよ、と言わんばかりに、自分の前にあった(むしろ)をトントンと指で叩いた。

 

 鳳がそこへ腰掛けると、老人は自分が吸っていたパイプを差し出し、手近にあった乳鉢を手に取った。鳳がどうしていいのか分からずにいると、彼は乳鉢でゴリゴリと何かの結晶を削り、細かくなった粉を耳かきみたいなものでパイプに落とした。そしてパイプにランプの火を近づけると、「吸え」と言って鳳を促した。

 

 鳳が言われた通りに、炙られた煙を吸い込むと……

 

 次の瞬間、まるで体の中にユートピアが現れたかのような、得も言われぬ快感が全身を包み込んだ。ピンクの羊が空を舞い踊り、陽気なタコがずいずいずっころばしをしているような楽しさだった。聞こえるはずもないのに、遠くの方からストラヴィンスキーの春の祭典が聞こえてくる。目をつぶればサイケデリックな幻想が、網膜のスクリーンで暴れているようだった。

 

 これがアヘン……うーん、凄い……こんな世界があったなんて!

 

「あ~……こりゃあいいわ~……」

「いいだろう……」

「はい~……いいです~……」

「うん~……パイプ返して」

 

 鳳がパイプを返すと、老人はまたそのパイプを使ってアヘンを吸い込み、長いため息を吐いてから、また鳳にパイプを差し出し、受け取った鳳がまたアヘンを吸い込んで……ぐるぐるぐるぐると、二人は回し飲みのようにアヘンを吸い続けた。

 

 鳳がこの素晴らしい体験に心を打たれていると、老人がぼんやりとした目を空中に向けながら、誰ともなしに呟くように話し始めた。

 

「僕はアヘンが好きでさあ……一日中でも吸っていたいんだなあ」

「わかりますわかります……」

「でもさあ~、今年は収穫量が少なくて、ちょっと物足りないんだよ」

「そうなんですか~……」

「でさ、ここより山奥の村はまだ収穫前だから、分けてもらいに行きたいんだよね。でも、僕はこの通りだから、山道が大変で大変で……多分、隣村に辿り着く前に死んじゃうと思うんだよ。だからさあ、君、道案内するから連れてってくれないかなあ」

「あ~……」

 

 鳳はアヘンと聞いて二つ返事でオーケーしそうになったが、その一歩手前で、まだ残っていた理性で仲間のことを思い出し、

 

「でも、俺……仲間と一緒に砦にいかないとなんですよね」

「……砦?」

「はい~……こっから東の方で、帝国と勇者領が戦争やってんですよねえ。俺、そこに行かなきゃなんですよ」

「そっかあ……」

 

 鳳がその旨を伝えると、老人は少し考え込むような素振りを見せてから、

 

「なら僕もそこまで行こう」

「……え?」

「思い出したんだが、砦のすぐ近くに、ケシの大草原がある。ここのケシもみんなそこから分けてもらった物なんだ。ならば最後に、それを見ておくの乙というものだろう」

「はあ……?」

「僕は足手まといだが、道案内くらいは出来ると思う。どうだい、君。僕をそこまで連れてってはくれないか」

 

 老人はそう言ってアンニュイに笑ってみせた。鳳がなんて答えていいか分からず黙っていると、突然、家の扉がガタガタと開けられて、外から誰かが入ってきた。

 

「おーい、ポポル爺さん! いるかい? 実は遠くから来た若いのが一人居なくなってんだが、あんた知らんか……って、ここにいたんかい」

 

 やってきたのは、昨日村長の家でも会った若手のダンだった。彼は鳳が老人と一緒に仲良くアヘンを吸っているのを見ると、はぁ~……っと溜息をつきながら、

 

「まったく。道案内してやるつもりで家まで行ったら……まさかこんなところで爺さんとラリってるなんて……」

「鳳、おまえ……」

 

 見ればダンの背後でギヨームが頭を抱えていた。どうやら、起きたら鳳が居なくなっていたから、みんなで探していたようだ。気がつけば空は青々と晴れ、太陽はだいぶ上空まで昇っていた。ここに来てまだそんなに経っていないつもりだったが、信じられないことに、相当の時間が流れていたようだ。

 

 鳳は呆れ返る仲間たちに謝罪しながら、取り敢えず知り合ったばかりの老人を紹介した。彼が道案内をしてくれると言うと、ダンは最初はすごく驚いていたようだが、やがて一人で何かに納得すると、

 

「爺さんは体はともかく頭の方はしっかりしてるから大丈夫だろう」

 

 と太鼓判を押してくれた。こうして鳳たち一行は、足腰もろくに立たないジャンキー爺さんを仲間に加えたのである。

 


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