ラストスタリオン   作:水月一人

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フェニックスの街へようこそ

 以前にも言及したが、人間の記憶とは意外と曖昧なものなのだ。アメリカ人の多くは911の記憶を鮮明に覚えていると言うが、実際に話を聞いてみるとみんなてんでバラバラであり、場合によっては、事件当日には絶対にあり得なかったはずの出来事を、あたかも目撃したかのように語りだす始末である。

 

 しかもその間違いを指摘しても、みんな目をパチクリするばかりで、絶対に自分の記憶違いを認めようとしないのだ。何故なら、これだけの重大事なんだから、みんなまるで映画を見るように鮮明に覚えており、そこに間違いが潜んでいるなんて考えられないからだ。

 

 ところが、様々な事例によって、この映画のような記憶……フラッシュバルブ記憶には嘘が混じっていることが証明されている。人間は、間違いようがないと思っているようなフラッシュバルブ記憶をも、案外簡単に書き換えてしまう。例えば、事件後に放送された時系列的にも整合性の取れたドキュメンタリー映像を、自分の記憶としてアップデートしてしまっていたりするのだ。

 

 何故、こんなことが起きてしまうのか? と考えてみれば、人間がこのフラッシュバルブ記憶をどのように保存しているかが見えてくる。フラッシュバルブ記憶は、脳内にmpegのような映像アーカイブとして記録されているわけではなく、思い出そうとする度に、せいぜいト書き程度の情報を付加された台本を元に、脳内で再生されているのだろう。

 

 人間の記憶は、脳というハードウェアに、シナリオを流し込んで、再生されているようなもののようなのだ。

 

 ところで、話は変わるが……とある双子の話をしよう。

 

 一卵性双生児のジェームス・ルイスとジェームス・スプリンガーは生後間もなく養子に出された。二人はお互いに双子の兄弟がいることを知らずに育ったが、ある切っ掛けでそのことを知ると、お互い会ってみたいと考えて連絡を取り合い、実際に39年ぶりに再会した。

 

 こうして再会した二人には驚くほど多くの共通点があった。まず一卵性双生児というからには、二人の容姿や身長体重は殆ど同じだった。

 

 だが、似ていたのはそれだけではなく、二人とも高血圧気味の偏頭痛持ちであり、学生時代は落第すれすれの成績だった。二人とも同じメーカーの愛車に乗って同じ銘柄のタバコを吸っていた。共通点はまだまだ続き、更には、二人には離婚歴が有り、どちらも最初の妻と二番目の妻の名前が同じ。二人の息子の名前も同じなら、飼っている犬の名前まで一緒だったのである。

 

 ここまでくると流石に作り話なんじゃないかと疑われそうだが、そうして調べはじめてみると、世界中には似たような事例がいくつも見つかったのである。どうやら双子というのは、例え同じ両親に育てられなくても、似たような人生を歩むらしいのだ。

 

 ユダヤ人の父とカトリックの母を持つ一卵性双生児のオスカーとジャックは、両親の離婚後、父母に一人ずつ引き取られた。オスカーは母に引き取られてドイツでヒトラー・ユーゲントに入隊し、父親に連れられたジャックはトリニダード・トバゴのユダヤ人街で育った。

 

 二人は全く真逆のコミュニティに所属していたため、大人になっても再会することはなかったが、50近くになって双子の共通点を調べる研究に協力するために再会を果たした。

 

 すると別々に研究室へやってきた二人は同じ服を着ており、共通の癖があり、どうやら似たような趣味嗜好や生活習慣を持っていることが分かった。二人はその後、どちらもガンで亡くなった。二人はわりと似ていた。普通、ここまで真逆のコミュニティで育てば、全くの別人が現れるんじゃないかと思いきや、案外そうでもなかったのである。

 

 もしかして双子は魂が繋がってるのだろうか? と思いたくもなる出来事だが、どうも人間の個性というものは、思ったよりも両親からの遺伝の影響が大きいようなのだ。

 

 これらのケースを踏まえて、その後、多くの双子の追跡調査が行われた。それによって判明したのは、人間は肉体面だけではなく精神面も、DNAの影響を強く受けているらしいことだった。特に数学や音楽、それからスポーツの才能は、驚くほど両親の才能に左右されるそうである。残念だが、トビはタカを産まないのだ。

 

 ところで、遺伝子が肉体だけではなく精神面にも強く影響するというなら、もしも生き別れの双子のジェームス達が別れる日に戻って、それぞれが貰われていく家を取り替えてしまったら、どうなるだろうか?

 

 恐らく、結果は同じだろう。DNAが全く同じ二人の赤ちゃんは、自分たちの人生が入れ替わったなんて気づくこともなく、同じような人生を歩むはずだ。つまり元ジェームス・ルイスはジェームス・スプリンガーの人生を追体験し、元ジェームス・スプリンガーはジェームス・ルイスの人生を寸分違わず追体験する。生まれたばかりの赤ん坊は、まだ生活環境による個性への影響を受けていないのだから。

 

 ところで、こうして39年が過ぎた後に再会した二人の記憶と、二人の人生を取り替えることなく、記憶だけを入れ替えるのとでは、どこが違うのだろうか……?

 

 ここから先はオカルトチックな話になるが、以上を踏まえると、人間の記憶というものは、実はDNAの影響を受けていると言えるのではないか。同じ個性を持つものが同じ場面に遭遇しなければ、同じ記憶は形成されないのだから、記憶もDNAの影響を受けていると考えられるのでは。

 

 先の例だと、二人のジェームスとは全く関係ない別人と、片方を入れ替えたらどうなるかを考えてみればいい。例えばジェームス・ルイスとドナルド・トランプを入れ替えたらどうなるか。その場合、入れ替わったトランプはジェームスとは全く別の人生を歩むだろう。トランプの強烈な個性は、きっと人生の様々な場面で、ジェームスとは違う選択を選ぶからだ。すると記憶の共通性も失われる。

 

 そんな二人が39年ぶりに再会したとして、ドナルド・トランプとジェームス・ルイスが、記憶を取り替えてみることにしたとしよう。しかし、こうして記憶を入れ替えたジェームス・ルイスは、自分のことをドナルド・トランプと認識するだろうか? 恐らく、強烈な違和感を感じるだけで、それが自分の人生だとは感じられないのではなかろうか。どんなに記憶を弄っても、彼のDNAに刻まれた個性は変わらないからだ。

 

 ジェームス・ルイスと、ジェームス・スプリンガーであった時には、恐らく感じなかったであろう違和感がある。この違いを生み出したのは何か? もちろん、トランプのDNAだ。

 

 考えても見れば、人間の記憶も脳のどこかに保存されているのだろうから、DNAの影響を受けるのは必然なのかも知れない。記憶がどのように保存されているのかはまだ分からないが、仮にそれを取り出せたとして、別の誰かに移植してもそれは意味を成さないだろう。

 

 記憶というソフトウェアは、非常にシビアに、肉体というハードウェアを選ぶのだ。そこに互換性は殆どない。

 

 だが逆に言えば、そこまで肉体(ハード)を選ぶのであれば、記憶(ソフト)の方は我々が考えている以上にシンプルなものでいいのかも知れない。それこそ、薄っぺらい演劇の台本のようなものでも、この演者なら絶対にこう演じるという決まりがあるなら、一度失われた記憶を再度作り出すことは可能だろう。

 

 まあ、実際に我々の記憶がそこまで薄っぺらいことは無いだろうが、それは思ったよりも圧縮が効いていて曖昧なものであるのは間違いない。そうでなくては、人生の膨大な記憶を全部覚えておくなんてことは、絶対に出来ないはずだ。

 

 その証拠になるかも知れないが、我々はしょっちゅう記憶違いをするし物事を忘れてしまう。そしてフラッシュバルブ記憶が改ざんされていても、そのことに気づけない。我々の記憶は、思った以上にいい加減なのだ。

 

 つまり、そのいい加減な記憶を外部に保存するのも、意外と容易なはずである。

 

***********************************

 

 ヴィンチ村のお祭りから一夜明け、勇者領と大森林の境にある無人の荒野、その渓谷の中にあるヘルメス卿の迷宮に鳳たちは戻って来ていた。ポータルで運びきれなかった獣人たちへの指示と、そこにある神人製造機……便宜上P99と呼ぶことにするが、これを調べるためだった。

 

 P99は遺跡の壁際にあるサーバーに繋がれており、端末からその制御が出来るようになっていた。この機械がどういう仕組みで動いているのかは、さっぱり分からなかったが、動かし方は簡単に分かった。ドキュメントが残されていたからだ。

 

 それによるとP99は、まず元となる人間の全細胞をスキャン、量子化し、続いてその人のDNAから神人の設計図を作り、別々に保存しておいた記憶と混ぜて、また新たな肉体を作り出しているらしかった。

 

 どうせDNAから新たな肉体の設計図を作るなら全スキャンは必要無さそうだが、その工程が入っているからには何らかの意図があるのだろう。実際、新たに作られた体が元と乖離していたら、混乱が起きそうなものだが……ジャンヌは性別も肉体も完全に入れ替わってしまったというのに、自分を見失わずにいられたのは、多分、こうすることに意味があったのだろうと推察される。

 

 また記憶が別々に保管されているというのも示唆的だ。

 

 サーバーに残されていた記録によれば、神人はリュカオンを征伐するために作り出されたわけだが、その際、人間が死ぬことが非常にネックになっていた。先進的な国の人々は、自国の軍隊から死者が出ることを極端に嫌がるからだ。

 

 そんな厳しい条件がある中、神人化は死んでも復活できるという理由で採用されたわけだが、その具体的な方法がどんなものなのかは、映像記録を見ただけではわからなかった。だが、P99のドキュメントを見て、ある程度の推察は出来るようになった。

 

 どうやら人間の記憶と肉体は相互に対応するものらしい。どちらかが欠けても駄目で、例えば鳳の記憶をジャンヌの肉体に植え付けようとしても不可能なのだ。鳳の記憶を再生するには鳳の肉体が必要で、その肉体を生成するにはDNAが必要といった塩梅のようである。

 

 P99はそのDNAと記憶、肉体の状態を保存し、仮に戦闘で肉体が失われても、すぐ復活できるように管理しているらしい。その際、本人の記憶はP99に保存された時点に戻ってしまうから、定期的なバックアップが必要である。

 

 ただ、鳳が何度死んでもすぐ復活している事実から、記憶は後にシームレスに保存されるようになったようだ。だが少なくとも、今目の前にある機械ではそこまでは対応しきれていなかった。

 

 どうも、これは対リュカオン戦争の際に最初に作られたプロトタイプのようである。しかしプロトタイプとはいえ、ジャンヌを復活させた機能は十分であるから、あまり気にする必要はないだろう。

 

 それよりも、この機械の存在によって、この世界に仕組まれたカラクリの一端が見えてくる。

 

 何かと言えば、記憶が別に管理されているということは、ゼロから新たに作成した記憶から、人間を復活させることも可能なのではなかろうか?

 

 具体的に言えば……例えば、大昔の人間であるアインシュタインの脳細胞は保存されているが、このDNAを元に体を作り、彼の半生を元にした記憶を新たに生成すれば、アインシュタインは生き返ることが出来るのではなかろうか……?

 

 先に述べた通り、人間の記憶というものは曖昧で、思ったよりも圧縮の効いたものなのだ。アインシュタインくらいの有名人であれば、彼の伝記や残した手記、その他様々な逸話から、それっぽい記憶データを作り出すことができるのではないか。

 

 そうして新たに作られた人間は、完全なアインシュタインとは呼べないだろうが、少なくとも本人は自分のことをアインシュタインだと思っているはずだ。

 

 つまり、これが放浪者(バガボンド)の正体なのである。

 

「……なるほどのう。確かに、お主の言う通り、その方法でなら大昔の人間……例えば儂のような放浪者を復活させることも可能じゃろう」

 

 鳳がP99の端末を弄りながら、自分の思いついたことを話してみると、それを聞いていたレオナルドがこう返した。

 

「しかし、それなら、儂の死に際の記憶をどう考える? 儂は死の間際、精霊ミトラと出会って、彼の要請に応じてこの世界へやってきたのじゃ。少なくとも、儂はそう記憶しておるのじゃが、これはどこから出てきた記憶なんじゃろうか」

「うーん……言われてみればそうだな。作られたレオナルド・ダ・ヴィンチの記憶に、そんなオカルトを混ぜる必要は無い」

「それに儂は、最初からこの世界に、レオナルドとして生まれてきたわけではない。儂はこの世界で普通に暮らしておったら、ある日突然、レオナルドの記憶が蘇ってきて、今の儂になったのじゃ。儂になる前の人間の記憶もちゃんと残っておる」

 

 鳳はポンと手を打ってから、

 

「それだ。逆に考えると、それこそ不自然な話なんだよ。P99の仕様から考えると、人間が復活するには、記憶だけじゃなくて肉体も必要と考えられる。とすると、爺さんになる前の爺さんは、レオナルドのDNAを持って生まれてきたことになる。でも、それって普通じゃ考えられないことなんだよ」

「……完全に一致する必要はないのではないか? 例えば、マニがガルガンチュアの記憶を継承したのは、あの子がガルガンチュアの子孫だったからじゃろう。子孫と先祖、そのくらいの違いであれば、記憶の継承は起きると考えれば、儂に近いDNAを持った人間がこの世界にたまたま生まれたと考えることは出来んのか?」

 

 鳳はとんでもないと首を振って、

 

「それがまずあり得ないんだ。人間の遺伝子は染色体の中にあり、染色体には一つあたり数百から数千の遺伝子が含まれている。その遺伝子は、30億もの遺伝子プールからランダムに選ばれてて、父と母それぞれ23本ずつ、計46本の染色体を持って人間は生まれてくるんだ。その組み合わせは天文学的な数字で、まず同じ人間は生まれないと考えていい。逆に、マニとご先祖様は10世代くらい違うけど、そのくらい差があっても、何も無いところからランダムに生成されるよりは、遺伝的に似てると考えられるわけだ」

「ふむ……つまり、儂らがここにいるのは、何か仕組まれていなければありえないというわけか。じゃが、それは別に不思議でもなんでもないんじゃないか? 儂らのような、大昔の人間がこうして復活しておるのじゃ。そこに何の作為も無いほうが、寧ろ不自然じゃろうて」

「そりゃまあ、そうか……」

 

 鳳はポリポリと頭を引っ掻いてから、

 

「しかしそれじゃあ、誰がそんなことをしてるんだ? 何のために? 爺さんをこの世界に呼んだのがミトラなら、精霊がそうしてるって考えてもいいんだろうか?」

「そう考えるのが妥当じゃろう……それに、彼らには目的がある。ミトラは儂に、この世界で他の神々と戦っていると言っていた。その戦いに協力してくれと」

「確かに、ヘルメスも似たようなことを言っていた。それが何かと尋ねたら、答えられないと言っていたんだが……」

 

 何故なら、それを知ること自体がリスクだからだ。このあいだ、ヘルメスと対話したことで確信したが、彼ら精霊は間違いなく、鳳たちよりも高次元の存在のようである。

 

 そんな彼らからすれば、鳳たちの考えていることなど筒抜けだろうし、鳳たちの一生など一瞬の出来事に過ぎないだろう。

 

 しかし、それじゃあ何故、そんな彼らが鳳たちのような低次元の放浪者に、助力を求める必要があるのだろうか? 彼らは鳳たちに神々との戦いに協力しろと言っていたわけだが、具体的にどうすればいいかは言わなかった。

 

 とにかく、今自分たちにやれることは、まだ正体が明らかにされていない残り二柱の創世神、ラシャとエミリアのことを調べるくらいだが……この、幼馴染の名前がついた神様は、一体何者なんだろうか。

 

***********************************

 

 遺跡の調査後、鳳は獣人たちの処遇をレオナルドたちに任せて、一人でヘルメス領へと飛んだ。タウンポータルが使えるようになったお陰で、今までに行ったことのある街なら好きに訪問出来るようになったのだが、その中には例の国境の街も含まれていたのだ。

 

 鳳はヘルメス領へ戻ると、こっそりとアイザックの居城があった場所を調べてみた。P99を使ったら、もしかしたら仲間を復活させることが出来ないかと考えたのだ。

 

 鳳たちは勇者召喚という尋常ではない方法でこの世界に呼び出された。その仕組はさっぱりわからないが、少なくとも鳳たちがこの世界にこれたということは、元々どこかに彼らの記憶が残されていたからだろう。もしかしたら自分たちも、対リュカオンの戦いの際に、神人化された人間の一人だったのかも知れない。

 

 その記憶が都合よくP99の中にあるとは限らないが、残っていると仮定すれば、あとは彼らのDNAを見つけさえすれば復活する目があるんじゃないかと考えたのだ。

 

 結果としてそれは徒労に終わり、仲間たちの痕跡は跡形もなく消え去っていた。どうも帝国軍は、勇者と名のつくものをとにかく毛嫌いし、例えそれが髪の毛一本であっても、残っているのが我慢できないようであった。

 

 鳳は兵士たちが巡回する中をコソコソと嗅ぎ回り、瓦礫の山をひっくり返していたりしたのだが、ついに見つけることは出来ず、逆に兵士に見つかって追いかけられる羽目になった。

 

 とは言え、ヘルメスとの邂逅以降、この世界でもはや彼に敵う魔法使いなどいるわけもなく、彼は軽く追っ手を撒くと、また丘を越えて街へと戻った。

 

 徒労に終わった彼は街の中央広場にあった酒場のテラス席に陣取り、完全に様変わりしてしまったその広場の様子を眺めつつ、己の行動を後悔していた。

 

 せめて、もう少し早く、仲間の遺品を探しに来るべきだった。いや、さらし首にされていた彼らの遺体を、あの時なんとしても取り返しておくべきだった。あの時はそうする力が無かったし、何より、仲間の死体を見るという行為が、どうしても腰を重くさせてしまったのだが……今となってはそれを悔いても後の祭りである。

 

「フェニックスの街へようこそ」

 

 鳳がそんな自責の念に駆られていると、注文したドリンクをウェイトレスが運んできた。彼女は見かけない鳳のことを旅行者と勘違いしたらしく、歓迎の意味もこめてそんな言葉を口にした。

 

「……フェニックス?」

「はい。何度壊されても、不死鳥のごとく蘇るから、いつの間にかそう呼ばれるようになったんだそうです。勇者領で帝国が負けて、またここが戦場になりそうだって言うのに、みんな気楽なもんですよ」

 

 そんな彼女の言う通り、道行く人々はどこかのんびりしていて、これから戦争が起きるかも知れない街の様子とは思えなかった。難民で溢れたり、帝国軍に包囲されたり、燃やされたり、度重なる騒動の末に、住人たちはどこか達観してしまったのだろうか。ちょっとやそっとじゃ動じなくなっているようだった。

 

 考えても見れば、ここを最後に見たのは、炎に包まれて崩れ去る街を尻目に大森林に逃げ込んだあの日以来だった。あの盛大に燃え盛る炎の中から、またここまで街が再生しているのだから、ある意味フェニックスという名前は相応しいかも知れない。

 

 もっとも、その炎をつけたのも、他ならぬ(フェニックス)なのだから、なんとも皮肉な話であるが……

 

 鳳はドリンクをグイと飲み干すと、チップと代金をテーブルに置いてから、ポータルの光の中へと消えた。突然、目の前から人が消えてしまったウェイトレスは、最初は仰天していたが、すぐにテーブルの上にお金があることに気がつくと、それを懐にしまって、それ以上詮索すること無く去っていった。

 

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