ラストスタリオン   作:水月一人

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物理と魔術とステータス

 それが魔王復活の兆候かどうかはともかく、仮にそうでなくてもオークが強敵であることに間違いはない。これからそのオークに席捲されてしまった大森林を取り戻すには、かなりの戦力アップが必要だろう。

 

 幸い、ピサロとの戦いに勝利したことで、共有経験値は800と、また結構な量が入っていた。その前にマニへつぎ込んだ経験値を回収しつつ、お釣りが来るレベルである。そして言うまでもなく、鳳とジャンヌの二人は、ボーナスポイントというチートポイントを所持している。これらを駆使して、パーティーのレベルアップを図れば、例えオークであっても物の数ではないだろう。

 

 鳳たちは、大森林遠征を前に、意見交換をしながら経験値の分配を行うことにした。

 

 と言っても、経験値を流し込むだけの他のメンバーと違って、鳳とジャンヌは、まずはステータスについて考えなければならなかった。何も考えずに、上げられるステータスを全部フラットに上げてもそれなりに強くなれるだろうが、出来れば自分の戦闘スタイルに合わせて効率よく上げたいところである。

 

 でなければ、仮にボーナスポイントが100あるジャンヌであっても、適当に割り振ってしまったら、あっという間にポイントが尽きてしまうのである。ポイントは基本6ステータスだけではなく、HPとMPにも振らねばならず、しかも一度振ってしまったらやり直しは効かないのだ。

 

 そもそも、このステータスとは何なのか? 以前、鳳がライフル銃を片手に試したところ、ステータスとは能力の絶対値ではなく、持ち主が持っている能力を底上げする補助(バフ)値らしいことは分かっていた。

 

 例えば銃がそこそこしか扱えない鳳のDEXを10から11に上げてみたら、かなり命中率があがったわけだが、もしこれがギヨームだったらもっと劇的な変化が見込めるわけである。また、脳筋剣士であるジャンヌなら、普段使わない魔法に関係ありそうなINTやMPを上げるのは効率的ではなく、その分、他のステータスに回したほうがいいだろう。

 

 他に分かっていることと言えば、STRの高さがAGIとDEXに影響することである。これは簡単に言えば、筋力を上げすぎると敏捷性や器用さが損なわれるということだ。実際、スポーツなんかで、マッチョ化したせいで動きがぎこちなくなってしまった選手を見たことがあるだろう。あんな感じだ。また、年を取れば筋力が衰え、代わりに器用さや敏捷性が増すこともあるようだ。

 

 しかし、世の中には筋肉ムキムキでありながら敏捷に動ける者だっている。それに神人たちは軒並み、力も耐久力も魔法力も強い。この違いはどうやって生み出されているのだろうか?

 

 鳳たちは冒険者ギルドにお願いして様々な人々のステータスを調査し、それがVITにありそうだということを突き止めた。要するに、耐久力があれば、無理な方向転換や高速移動時の照準など、細かい動きも制御しやすいと言うことだ。

 

 実際、時速40キロで全力疾走している人間の前に猫が飛び出してきたとして、それを避けようとしたらどうなるだろうか。力がなければ転んで怪我をするだろうし、頑丈でなければ方向転換した瞬間に捻挫をするだろう。つまりSTRとVITのバランスが重要なのだ。

 

 またVITは、大方の予想通りHPの伸び方にも影響があった。これは他人のステータスを参考にしたわけではなく、実際に鳳のステータスを弄っていて判明したことだが、どうやらHPは、VITが高いほどボーナスポイントで上がる量も増えるようだった。

 

 具体的には、VITが10の時にHPを上げたら50上がるが、VITが11の時なら55上がると言った具合だ。実際にはそんな単純な上がり方ではなく、STRやレベル、他のステータスなんかも参照しているようだが、大体こんな感じで上がっていく。

 

 面白いのはHPを上げた後にVITを上げても、一度上がったHPはそれ以上上がらないから、HPをたくさん上げたいなら、先にVITを上げておかないと損をするということである。普通、HPとVITが一対一に対応するなら、それが前後しても良さそうなものだが、どうやらそういう仕様らしいのだ。

 

 この仕様を駆使すれば、高VIT低HPの神人をクリエイト出来るわけだが、そんなことして何になるのだろうか?

 

 思いつくのは、HPがゼロになれば、その肉体は死を迎えるわけだが……極端な話、神人はP99さえあれば、また復活が可能なので、場合によっては高HPで粘るよりも、さっさと死んでしまった方がいいことがあるのかも知れない。例えば、リュカオンに捕まったらひどい拷問を受けるとか……

 

 まあ、そんな妄想はともかく……以上から高STR、AGI、DEXを実現するには、高VIT、HPが必要ということが判明した。つまり、物理戦闘力を重視する者は、必然的にINTやMPを上げにくくなるというわけである。何というか、上手く出来ているものである。

 

 因みに、このINTは魔法の威力に直結していた。

 

 例えばINT10のファイヤーボールと20のそれでは威力が全然違う。測定する機械があるわけでもないから大雑把であるが、およそ10倍くらい威力が上がっているようであった。

 

 ただし、消費するMPも倍になるから、単純にINTを上げすぎても良くない。MPの上限は999で間違いないようなので、威力を求めてINTを上げすぎると、一度の戦闘で使える魔法の回数が減ってしまうのだ。

 

 だから、単純に威力を求めるのであれば、INTを上げるのではなく、より上位の魔法を覚えた方が良い。

 

 おさらいになるが、古代呪文には8段階のレベルが存在する。

 

レベル1 エナジーフォース

レベル2 エンチャントウェポン・ディスペルマジック

レベル3 スリープクラウド・スタンクラウド

レベル4 ファイヤーボール・ブリザード

レベル5 ライトニングボルト(・プロテクション)

レベル6 レビテーション(・タウンポータル)

レベル7 ディスインテグレーション(・サモン・サーヴァント)

レベル8 メテオストライク(・リザレクション)

 

 カッコ内は失われた禁呪として、この世界では存在しないと言われている呪文である。そして現在、レベル6以上の神人は存在しないらしい。

 

 ともあれ、これらの呪文のうち、攻撃魔法に属するエナジーフォース<ファイヤーボール=ブリザード<ライトニングボルト<ディスインテグレーションは、このレベル順の通りに威力が増していく。

 

 因みに、これらの呪文のMP消費量には殆ど差がなく、INT10の状態なら、どれもMP30前後で使用可能である。ただし、エナジーフォースだけ、5前後と低い。多分、連発を前提とした魔法なのだろう。

 

 状態異常魔法の代名詞であるスリープ・スタンクラウドは、レベル2魔法のディスペルマジックで相殺可能であるが、ディスペルは攻撃魔法を弾くことが出来ない。攻撃魔法は物理攻撃と同じで、盾や物陰に隠れることで回避できるのだが、物理障壁を作るプロテクションの魔法は、今のところ鳳にしか使えない禁呪である。

 

 ……と思いきや、実は復活したジャンヌもプロテクションが使えるので、もしかするとある程度の戦闘技能が必要とか、何らかの条件がある神技なのかも知れない。他にも、鳳がサモン・サーヴァントを使っても何も起こらなかった。てっきり、ジャンヌやギヨームのような仲間を呼び寄せられるのかなと思っていたのだが、そうではないらしい。まあ、彼らは給仕(サーヴァント)ではなく、仲間だから当然といえば当然だが……もしかすると、これも古代呪文とは別の体系に属する魔法なのかも知れない。

 

 ところで、最上位の攻撃魔法はディスインテグレーションではなく、メテオストライクであるが、これの威力に限ってはINTの大小は関係ないようだった。と言うのも、この魔法は名称通りに大気圏外から隕石を落としているらしく、つまりその威力は落ちてくる隕石の質量に依存するわけである。

 

 この隕石をどうやって選んでいるかはわからない。恐らくはたまたま近くを飛んでいるデブリをランダムに落としているだけだろう。だから、場合によっては映画アルマゲドンみたいな小惑星を引っ張ってきてしまうこともあるかも知れないが、大抵の場合、威力はそこそこである。

 

 何故、これが最上位魔法なのか不思議であるが……憶測だが、このシステムを作った当時の地球には、例えば月面にマスドライバーがあったのではなかろうか。もしくは軌道上の衛星に何かやらせたりとか、色々と理由はありそうだ。

 

 因みに、メテオストライクを除けば、最上位の攻撃魔法はディスインテグレーションであるが……これはゲームでは核熱魔法として表現されていたものだが、現実では少し毛色が違うようだった。まあ、実際に呪文を唱える度に放射能を撒き散らしていたら溜まったものじゃないから、当たり前といえば当たり前だろう。

 

 実際に、どうやって巨大な爆発を起こしているのかは想像するしか無いが、恐らくは反物質を用いているのだと推測される。と言うか、核反応を毎回起こすよりは、そちらの方がよっぽどスマートだから間違いないだろう。

 

 人類は、第五粒子(フィフスエレメント)という無尽蔵のエネルギーを手に入れたわけだが、それは純粋にエネルギーであって、物質ではない。だからこそ、次元を超えてやってこれるわけだが……このエネルギーを現実で作用させるには、何らかの方法で変換しなければならない。

 

 例えば、エナジーフォースはエネルギーを用いて空気を圧縮し、それをフレミング左手の法則で弾き飛ばしているようだ。この攻撃を受けた対象は、突然見えない何かに押されて物凄く驚くのだが、ぶっちゃけ威力はお察しである。これをうまく利用するには、対象を押して硬い壁に叩きつけるとか、足を掬って転ばすとかの工夫が必要だろう。

 

 ブリザードは、要はエアコンと同じ原理で、空気分子の運動エネルギーを奪ってどこかへ放出してしまうわけである。すると気圧差が生じるから、周囲から風が吹き付けて吹雪となる。ファイヤーボールは以前に考察した通り、生き物の脂肪をそのまま酸化し燃やしてしまう。ライトニングボルトは空気中の分子を激しく摩擦し、雷を発生させるといった具合である。

 

 こう考えると、ディスインテグレーションが、毎度まいどどこかから放射性物質を転送してきて、それを連鎖反応させているとは考えられないわけである。恐らく、雷を発生させるのと同じ原理で反物質を生成し、それをどこかに保管しておいて、一気に爆発させるとかそんな感じだろう。

 

 古代呪文は魔法のように見えるが、れっきとした物理現象なのである。INTというステータスは、それをどのくらいの強度で行うかを決める指標というわけだ。つまり、強すぎれば、かえって使いづらくなってしまう。

 

 結論としては、鳳のような魔法職であればMPは上限まで上げておくべきだが、INTは程々にしておくのがベターだろう。出来ればボーナスポイントを貯めておいて、必要ならば、状況に応じて威力を上げていく、そんな具合に。

 

 さて、残る基本ステータスはCHAだが、これは文字通りカリスマ性に影響があるのは間違いないようだった。理由はガルガンチュアとなったマニのCHAが異様に高いことだ。

 

 共有経験値を注ぎ込まれて、ご先祖様の力を継承したマニは、レベルキャップを越えて成長しており、ステータスも軒並み上がって、獣人は絶対に上がらないはずのVIT、INT、CHAの三種も増えていた。それも驚きであったが、特に目を引いたのがCHAで、これが20と伝説クラスの数値を示していたのである。

 

 これが何に影響があるのかは一目瞭然であった。ガルガンチュアになったマニは、ピサロに従っていた獣人たちに恐れられ、それまで兄貴分として接していた猫人たちからも一目を置かれるようになっていた。

 

 人間にはどのくらいの影響があるのか分からないが、どうも獣人には本能的にCHAの高い人物を見分けて従う傾向があるらしい。もしかすると、過去にはビーストテイマーのような職業があったのかも知れない。

 

 こうして判明してしまえば身に覚えもあった。鳳がガルガンチュアの村にいた頃、彼は村人たちによく馬鹿にされていたが、ジャンヌやギヨームは全くそんな事がなかった。メアリーに至っては神扱いされていたが、彼らは軒並みCHAが高かったのだ。

 

 逆に鳳と同じくCHAが最低値であったルーシーは獣人達を苦手にしていたが、それが理由だったのだろう。てっきり戦闘力の差でそういう扱いを受けていたのだと思っていたが、分かってみれば単純なものである。

 

 そんなわけで、獣人とよくつるむことも多い鳳は、CHAを上げておくにこしたことはないだろう。以上を踏まえて、ボーナスを振ったところ、彼のステータスは現在、以下の通りになっている。

 

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鳳白

STR 15        DEX 15

AGI 15        VIT 20

INT 20        CHA 15

 

BONUS 20

 

LEVEL 99     EXP/NEXT 591/999999

HP/MP 1843/999  AC 10  PL 0  PIE 5  SAN 10

JOB ALCHEMIST

 

PER/ALI GOOD/DARK   BT C

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