ラストスタリオン   作:水月一人

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これだからハッタリは利かせておくに限るのだ

 レオナルドとの対話から新たな懸案事項は出てきたが、今は勇者だなんだと考えていても始まらない。老人から新たな武器も手に入れてパワーアップした鳳たちは、ギルドから派遣された助っ人冒険者たちを仲間に加えて、いよいよ魔族が席巻する大森林へと向かった。

 

 いつもなら少数精鋭で動くことを好む鳳たちが人手を頼んだのは、これから向かう大森林で数多くの戦闘が予想されるからだった。つい数ヶ月前までガルガンチュアの村に滞在していた彼らは、その近辺に現れるオアンネス族たちを退治して回っていたわけだが、その時に潰したコロニーには、かなりのオアンネス族たちが暮らしており、その一人ひとりがオークを出産するのだとしたら、それは今頃とんでもない数に膨れ上がっていることが予想されたからだ。

 

 尤も、この事態を引き起こしてしまったレイヴンたちによれば、オークは仲間同士でも争うことがあったらしいから、想像よりもその数は少なくなっているかも知れない。だが、逆に言えば競争を勝ち残った凶悪な個体ばかりが残っているわけだから、こちらの数も多いにこしたことはないだろう。

 

 助っ人に呼んだ冒険者たちはみんな腕利きだった。オークとタイマンで勝てるとは言わないまでも、簡単に殺されるようなことはないだろう。ミーティアには馬鹿にされていたが、アントンもそれほど筋は悪くなく、剣ならそこそこ使えるようだ。実は、ヴィンチ村でジャンヌが通っていた流派と同じらしく、純粋に剣技だけならジャンヌよりも上手らしい。尤も、ステータスが段違いだから、実際に戦えばアントンが千人束になってかかってもジャンヌには敵わないだろう。

 

 そのジャンヌにあっさり破れてしまったサムソンも、本来なら言うまでもなくかなり強い冒険者だった。彼自慢のSTR20は、実際にジャンヌさえいなければ人類最強であったろうし、そのジャンヌの戦闘スタイルが変わった今、彼以上のSTRを誇る者はもういないかも知れない。

 

 神技は使えないが、両手に鋼鉄のナックルをはめた格闘術は、実際に岩をも砕いた。よく熊殺しなどという触れ込みの怪しげな格闘家がいるが、彼の場合は本当に熊を殺したと言われても信じてよさそうである。

 

 鳳たちはそんな腕利きの冒険者達を引き連れて、迷宮のある峡谷でキャンプしていた獣人たちと合流してから、大森林へと入っていった。

 

 この獣人たちは、鳳のタウンポータルに入ることが出来なくて、迷宮の近くに残っていた者たちだった。彼らはピサロに敗北して仕方なくレイヴンに加わっていたが、それから解放された今は、ガルガンチュアとなったマニに従うことにしたようだ。別に彼がそうしろと言ったわけではないのだが、獣人の本能がそうさせるのか、行き場のない彼らはマニを新たな族長として仰いでいるようだった。

 

 マニはそんな彼らに勇者領で手に入れた鋼鉄の武器を与え戦わせることにした。彼に言わせれば、獣人は道具をすぐ壊してしまうが、それはメンテナンスが出来ないからで、それさえクリアできれば、元々ステータスに恵まれている獣人がかなり戦力アップするのは間違いないそうである。恐らく、牧場にいた猫人たちを見てそう考えるようになったのだろう。

 

 その効果は間もなく証明された。大森林に入ってすぐ、川沿いのコロニー跡で発見したオークとの戦闘で、獣人たちは驚異的な活躍を見せた。ギヨームたち前衛斥候が発見したオークは別の集団から逸れたのか、少数で孤立するように河原の近くの魔物を狩ったりして暮らしているようだった。

 

 元々弱い個体だらけなのか、体長は鳳たちが戦った時よりも一回りは小さく、初戦としてはやりやすい相手と言えた。獣人たちはそれを知るや、初めての経験で緊張している冒険者達を置き去りに、先陣を切って突っ込んでいってしまった。

 

 彼らからしてみれば、自分たちの森を我が物顔でうろつきまわる魔族に我慢出来なかったのだろう。周辺の獣人を襲ったのであろう人骨が転がっているのを見つけると、よほど腹に据えかねたのか、正に虐殺と言っていいくらいの勢いで片付けてしまった。

 

 特にマニの活躍は凄まじく、最初は鳳たち冒険者の言うことを聞くようにと、獣人達を嗜めるつもりで追いかけていったのだが、乱戦になるや味方をちょくちょくフォローしながら、二体三体と続けざまに襲ってくるオークを返り討ちにしてしまった。

 

 強くなったのは知っていたが、こうして実際に戦っている姿を見るのは初めての鳳は、その変貌ぶりに舌を巻いた。何というか、マニは強いと言うか、とにかく速くて卒がないのだ。

 

 例の得意武器にしているスリングがくるりと一回転するや、次の瞬間、襲いかかるオークの額から血しぶきが上がって仰け反ったかと思えば、更に次の瞬間には、その首や関節がおかしな方向に捻じ曲がっている。今のはどうやったんだろう? と思ってマニの姿を探せば、元の場所にはもうおらず、既に全然違う場所にいる。

 

 もしかすると動きが速いのではなく、トリッキー過ぎて目で追えないのかも知れない。繰り出す技はとにかく省エネで、無駄な動きを殆どしない。正直、あれと戦っても勝てる気が全然しなかった。

 

 戦闘が終わるとマニは獣人達を並べて、人間たちの言うことを聞かないと駄目だと説教をしていた。プライドの高い獣人たちが若者に公開説教なんかされたら怒り出しそうなものだが、彼らの顔は寧ろ、どうだ俺たちの族長は強いだろうと誇らしげに見えるのだった。

 

 この一件があってから、冒険者たちの獣人を見る目が変わったようで、冒険心に火がついた彼らはそれから先は競い合うようにしてオークの群れを倒していった。競い合うとは言っても、冒険者と獣人たちは仲が悪いわけではなく、戦闘を繰り返していくうちに連携も取れるようになり、やがてお互いに認め合う存在になっていた。

 

 もちろん、古参の仲間たちも活躍しており、ギヨームは言わずもがな、斥候をしながら戦闘になれば正確無比な射撃で敵を釘付けにし、ルーシーは新しく覚えたバトルソングでパーティー全体の底上げをしてくれた。そしてメアリーのクラウド魔法は、集団戦闘の要である。

 

 新しい体を手に入れたジャンヌの強さも相変わらずで、以前のようにパワーで圧倒する場面は無くなったが、その代わりに一体の処理スピードは格段に上がっていた。例のDEX補正のかかる魔剣フィエルボワで正確に急所を貫くのが功を奏しているらしい。以前はパワーはあっても大雑把だったのだろう。

 

 因みに、武器は変わっても、長剣も小剣も同じ剣であるから神技も同じものが使えていた。

 

「紫電一閃……虎口裂波乱撃斬っ!!」

 

 豪快なフルスイングから繰り出される剣戟が、目に見えるかまいたちとなって敵を襲う。それがオークの肌に触れると血しぶきが上がり、グチャグチャに引き裂かれた肌の下から骨が覗いた。

 

 堪らずオークが怯んだところへ肉薄すると、彼女は目にも留まらぬ早業で、今度は魔族の急所を正確に貫いた。この間、わずか数秒であるから、彼女の通り過ぎた後には死体の山が築かれた。

 

 とは言え、彼女も背中に目がついているわけではない。突出すれば敵に囲まれ背後を狙われることもある。

 

「うおおおおおおーーっっ!! 爆・裂・拳!!!」

 

 だが、そんな時は、戦闘中も彼女の尻ばかりを追いかけているサムソンが、敵を始末してくれるから安心である。彼がその膂力で敵を吹っ飛ばすと、それに気づいたジャンヌが追撃して、オークはあっという間に倒されてしまった。

 

「はあはあ……怪我はないか!? ジャンヌよ」

「ええ、大丈夫よ、サムソン。ちょっと油断したわ……チラッ。そっちこそ怪我はない? チラッチラッ」

「俺は大丈夫だ! 俺はお前さえ無事であれば、それでいい!」

「まあ、そんなこと言って! あら……本当に怪我しているじゃない。いらっしゃい、お薬を塗ってあげるわ……チラッ」

 

 いちいちチラチラ見るんじゃない……嫉妬するとでも思っているのだろうか……

 

 ジャンヌは救急キットから傷薬を取り出すと、ほんのちょっと赤くなっているサムソンの膝小僧を丁寧に包帯で巻いている。そんなサムソンは得も言われぬ恍惚の表情を浮かべて、今にも飛び上がりそうであった。

 

 正直なところその行動は、鳳の感心を惹くよりも、他の冒険者達の嫉妬を買っていた。困ったことに、元の姿を知っている鳳は何とも思わなかったが、それを知らない周りの冒険者からすれば、ジャンヌは絶世の美女なのだ。

 

「おい、リーダー! 水もってこい!」「はいはい」「リーダー! 魔族の血でべっとりだ! 石鹸ください」「はい、よろこんで」「リーダー!」「少々お待ちを」

 

 鳳はそんな冒険者たちのイライラを鎮めるべく、後方で雑用係をやっていた。そのせいか、リーダーのくせに戦闘が出来ないというイメージがついてしまったのか、気がつけば冒険者たちになめられて、今となっては怒りのはけ口である。

 

 レベルが上って近接戦闘も出来るようになったというのに、なんでこんなことばかりしているのかと言えば……鳳が前線に出ると頼んでもないのに、敵と当たる前にギヨームの援護射撃が飛んできて、ルーシーのバフがかかり、影のようにマニが付き従ってくるのだ。おまけにジャンヌは戦闘中もチラチラこちらの様子ばかり窺っているので、はっきり言って前に出ないほうが作戦的に都合が良かったのである。

 

 彼らからすれば、これまでの低レベルな印象が拭えないのだろう……ならば後方で古代呪文を使えば良さそうなものだが、それはメアリーで間に合っていた。彼女の仕事を取るわけにもいかず、とは言え鳳にしか使えない魔法は全然戦闘には向いておらず、こうなるとやれることは雑用くらいのものだった。

 

 一体、何のためのレベルアップだったのだろうか……鳳がそんな不条理を噛み締めていると、同じく率先して雑用を買ってくれていたアントンが話しかけてきた。

 

「いや~! それにしても、おまえのパーティーって本当に強いな。低レベルでAランクに上り詰めた理由が分かったよ」

「そうだろう?」

「特にジャンヌさんは凄いな。神人とは言え、あの早業はとても同じ人間がやってる物とは思えない……なんやかんやパワーもあるし、まるで隙がないな。ガルガンチュアとどっちが強いんだろうか」

「さあ……流石にジャンヌの方が強いんじゃないか?」

 

 彼女とマニではスキルも素ステも違いすぎる。でも、ご先祖様の記憶を継承した分マニのほうが経験が豊富なので、もしかすると彼が勝つかも知れない。やはり、戦闘スタイルを変えたせいか、まだまだ鳳の目に彼女の動きはぎこちなかった。

 

「二人とも神技の使い手だけど、やっぱり本家本元の神人であるジャンヌさんの方が多彩だよな。あの紫電一閃だっけ? あれってどんだけバリエーションがあるんだ?」

「……? バリエーションって?」

「ほら、さっきは虎口裂波乱撃斬だっけ? この間は桜華なんちゃら陣だったし、その前も少し違ったじゃん。よくあれだけ多くの技を使い分けられるよなって感心していたんだよ」

 

 鳳はポンと手を打って、

 

「ああ、あれか。一つだよ」

「……は?」

「いや、だから、ジャンヌが使ってるのは紫電一閃、一種類だけだよ。その後についてるなんちゃらかんちゃら斬りってのは、その場で思いついた言葉を適当に叫んでるだけなんだ」

「……はあ!? なんでそんなことすんのっ!?」

「まあ、色々あってだなあ……」

 

 アントンは目を丸くしている。まあ、気持ちはわからなくもないが、これには深い事情があるのだ。

 

 元々、この世界の人々が神技(アーツ)と呼んでいるのは、鳳たちの世界ではゲーム中のスキルだった。そのゲームでも同じように技名を叫んでスキルを使っていたのだが……しかしこのユーザーインターフェースは、まだVRMMO黎明期ではわりとハードルの高い仕組みだった。何が悲しくていい年した大人が技名なんて叫ばねばならないのだという抵抗感があったのだ。

 

 そのため、最初期にはこれがネックでやめてしまう者が続出したわけだが、それでも残った者たちがこの気恥ずかしさをどのようにして乗り切ったのかと言えば、それはなりきりプレイだったのである。

 

 どうせみんな、エルフやドワーフなんかのアバターに姿を変えているのだから身バレはしない。それでも恥ずかしいのであれば、いっそそのキャラになりきってしまえばいい。なりきって、もっと恥ずかしい技名を叫んでいれば、そんなの気にならなくなるだろうと、一部のユーザーが『黄昏よりも昏きもの……』みたいな詠唱を始めると、それが爆発的に広まっていったのだ。

 

 何というか、木を隠すには森、恥ずかしい技名を隠すにはもっと恥ずかしいセリフを叫んでしまえというわけである。

 

 こうして、より恥ずかしい技名を叫ぶのが通例になってくると、そのうち有志が恥ずかしい技名ジェネレーターなるものを公開し、ユーザーはこぞって自分オリジナルの技名を使うようになっていった。すると、よく使う自分の必殺技にはバリエーションを持たせたくなるのが人情というものであり、ジャンヌはそれを今も続けているというわけである。

 

 鳳も、ただのファイヤーボールを打つ時でさえ、オリジナルの長ったらしい詠唱を唱えていたものであるが……しかし、そんな前世のことを何も知らないアントンに、こんな話をするわけにもいかず、どうしたものかと腕組みしていると、そんな二人の元に、周辺の斥候に行っていたギヨームが近づいてきた。

 

「鳳! ここから先の崖付近で、周辺の村から逃げてきたらしき獣人たちの集落を発見した。好意的な連中のようだ。どうする?」

「え? マジ? もちろん会いに行こう。今は仲間がいればいるだけ助かる」

 

 鳳は好都合だとばかりに会話を打ち切ると、ギヨームにくっついて問題の集落へと向かった。

 

*******************************

 

 その集落は非常に狭い崖の上にあった。恐らく、周辺の村が襲われた後、逃げてきた人々が不安にかられて見晴らしがいいという理由だけで作ったのだろう。それははっきり言って人が住んでいる集落と呼べるようなものではなく、塹壕とか防空壕とか、何かそういった感じの避難所みたいな場所だった。

 

 そこに居た人々は一つの部族ではなく、周辺のあちこちから逃れてきた人々が寄り集まっているらしい。聞けば、みんな突然現れたオークの群れに抗しきれず、逃げるのが精一杯で、自分たちが住んでいた村がどうなったかはわからないそうである。

 

 幸いと言っていいか分からないが、そんな避難民のお陰で、この周辺の集落がどこにあるのかが分かったから、鳳たちはその情報を元に被害にあった村々を効率よく回ることが出来た。

 

 戦闘を覚悟していたが、訪れた村にはもうどこにもオークはおらず、避難所を見つける前に鳳たちが倒した群れが最後だったらしい。メアリーに上空から確認してもらったところ、周囲におかしな動きもなく、この辺りはもう安全のようだった。

 

 その旨を伝えると、集落の人々はほっと胸をなでおろしてから、逆にこれからどうしたらいいかと相談してきた。一部の男たちは、村のかたきを討つためにガルガンチュアについていくと言っていたが、それ以外の女子供はいつまでもここに隠れているわけにもいかない。

 

 どこかの壊滅した村を再建するか、それとも、勇者領まで彼らを連れて行くべきかと判断に迷っていると、そんな鳳にマニが近づいてきて言った。

 

「お兄さん。村を作るなら、いい方法があるんですが……」

「どゆこと?」

 

 聞けば、マニはご先祖様の記憶の中で、彼が住んでいたガルガンチュアの村を作った時のことを知ったらしい。鳳は彼からその方法を聞いて驚いた。何故ならそれは、今の鳳にしか出来ないことだったからだ。

 

 果たして、それがどんな方法かと言えば……

 

「星々の欠片を集めし小惑星(アステロイド)、天空の高みより高き宇宙(そら)より来たれ、そは天駆ける炎の不死鳥、生命の方舟、轟音とともに現れ唸れ、流星降臨! メテオストライクッ!!」

 

 崖の先端に立った鳳は、避難民たちの注目を集めながら、その杖を空に向けて翳した。その瞬間、二匹の蛇が絡みつく杖の先から光の翼が現れ、続いてはるか上空から一筋の光が落ちてきた。

 

 それは、まだ昼間だというのに、燦然と輝く星だった。驚いた人々が硬直して見上げていると、それは徐々にこちらへと近づいてきて、間もなく上空から空気を切り裂くゴオゴオという轟音が耳に届いてきた。

 

 それは一直線にこちらへ向かって来る隕石だった。あんなものが直撃したら即死である。人々が慌てて逃げ出そうと背中を向けるも、その時にはもう隕石はすぐ崖下に広がる樹海の中に落ちてしまっていた。

 

 ドォォーンッ! っと鼓膜が破れそうな音が鳴り響き、その衝撃でその場に居た者たちが吹き飛んでいった。森の木々にとまっていた鳥たちが一斉に飛び立ち、隠れていた野生動物たちが群れをなして逃げ出していく。

 

 地震のように地面が揺れて、隕石の落下でえぐれた地面から岩石が飛びだしてきた。そのまま行けば鳳に直撃しそうな軌道を描いていたが、彼は慌てること無く真正面に捕らえると、手にした杖をその岩石に向けて振り下ろした。

 

 するとその瞬間、岩石は跡形もなく消え去ってしまい、驚いたことに空に飛び散っていた岩や土埃が次々とその杖の中に吸い込まれていったのである。そして人々が唖然と見守る中で、鳳は杖の中に岩や土を全て吸い込むと、

 

(なら)せ」

 

 今度はその杖の先端から吸い込んだ岩石や土が飛び出していって、さっき隕石が落ちたことでむき出しになっていた地面を、あっという間に埋めてしまった。

 

 こうして全てが終わった時、そこには綺麗な円を描くクレーターが残されていた。爆発の衝撃でなぎ倒された木々が燃え広がり、良い焼き畑になるだろう。後はこの中心に雨よけとなる大木をどこかから運んでくれば、ガルガンチュアの集落の一丁上がりだ。その大木を運ぶのもケーリュケイオンを使えば楽勝である。

 

 なるほど、あの村はこうして出来たのか……マニもレオナルドも、もしかすると鳳は勇者なのかも知れないと言っていたわけだが、その傍証が早くも見つかってしまった。自分は本当に勇者なのか? と、もう少し悩んでいたいところだったが、これは覚悟を決めねばならないのかも知れない。

 

 そんなことを考えつつ背後を振り返れば、まるで神様でも見るような目つきで獣人たちが地面にひれ伏し、彼のことを見上げていた。一緒に来た冒険者たちは、何を見たのか未だ処理が追いつかず真顔のまま突っ立っている。

 

「これはあの高名なレオナルド・ダ・ヴィンチから授かった奇跡の杖です。どうです? 凄いでしょう!」

 

 鳳がテレビショッピングみたいなわざとらしさで大げさに言うと、ようやく時が動き出したように人々の顔に笑顔が戻った。

 

 これだからハッタリは利かせておくに限るのだ。こんなのは本当なら、メテオストライクの一言で済んでしまうことだった。だがそうしていたら、今ごろみんなの鳳を見る目つきは変わってしまっていただろう。

 

 人間が恥を知る生き物で良かった。そして暫く使っていなかったのに、しっかりと詠唱を覚えていた自分の中二的な資質に、彼は失望感を覚えるのであった。

 


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