ラストスタリオン   作:水月一人

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300年前の魔王

 魔王討伐の際、死を覚悟した鳳が咄嗟にケーリュケイオンに閉じ込めたメアリー。しかし、ヴィンチ村に届けられた杖の中から出てきたのは、メアリーではなく、『真祖ソフィア』を名乗る神人だった。見た目はメアリーそのものである彼女は、鳳がゲームをしていた頃のパーティーメンバー『灼眼のソフィア』であるとも主張していた。

 

 彼女の纏っている綺羅びやかな純白のドレスと、額にはめられたティアラは、皇帝エミリアに言わせれば間違いなく真祖ソフィアのものらしい。と言うか、鳳もつい先日、帝都で彼女がそれを身につけているのを見たばかりだ。

 

 入り口で警戒していた護帝隊の二人も困惑気味にソフィアのことを見つめている。どうやら長生きの彼らは、かつてそこにいる彼女に仕えたこともあったらしく、信じられないものを見ているようなそんな素振りだった。

 

 一体何が起きているのか分からない一同は、暫くの混乱の末に、ようやく落ち着きを取り戻すと、とにかく杖から出てきたソフィアに話を聞くことにした。

 

「そうね、まずは何から話せばいいのか……そっちから質問してくれた方がやりやすいんだけど。アビゲイル、話が長くなるから紅茶を戴けないかしら」

 

 まるで勝手知ったる他人の我が家と言わんばかりに、ソフィアは応接セットのソファに腰掛けると、壁際で気配を消していたアビゲイルに向かって紅茶を所望した。彼女は少し戸惑いを見せたが、すぐに職業意識を取り直すとお辞儀をしてから部屋を出ていった。

 

 皇帝のお墨付きもあり、杖から出てきた彼女が真祖ソフィアであるということはもはや疑いようもない。と同時に、レオナルドが可愛がっていたメアリーでもあるようだ。老人は渋面を作ると、人が変わってしまった彼女に向かって尋ねた。

 

「取りあえず、状況を整理したい。お主はその昔、神聖帝国を作った真祖ソフィアで相違ないな? と同時に、300年前に、勇者が連れてきたメアリーでもある」

「そう、間違いないわ。私はつい最近まで、記憶を封じられてメアリー・スーと名乗っていた」

 

 レオナルドはあっけなく断定された事実に、頭が痛いと言わんばかりに額に手を当てながら、

 

「300年前、勇者はお主のことを自分の娘じゃと言って連れてきた。儂はそのことを疑っておらんかったのじゃが……それが事実じゃと言うと、何故、彼はそんな嘘を吐く必要があったんじゃ?」

 

 するとソフィアは少し言いづらそうに口を濁した。そこへアビゲイルが帰ってきて、応接セットに座る四人の前にティーカップを並べると、それに紅茶を注ぎ始めた。耳鳴りがしそうな沈黙の中で、紅茶を注ぐ音だけが部屋の中に響いている……

 

 ソフィアはティーカップを持ち上げ一口含み、アビゲイルに向かって満足そうに頷いたあと、徐ろに言った。

 

「……面倒くさいことは嫌いだから単刀直入に言うわ。それは私が300年前の魔王だったからよ」

「なん……じゃと……?」

 

 レオナルドは驚愕に目を見開いている。隣に座っていた鳳も当然のごとく驚いていたが……ふと見れば、皇帝の表情は殆ど変化していなかった。その様子からすると、どうやら彼女はこの事実を秘匿していたらしい。

 

 鳳は、やはり帝国は信用してはいけないのか……? と思いもしたが、その内容を考えてみれば、彼女が口外しなかったのはある意味当然だったろう。何故彼女が魔王と化してしまったのか、その理由を知ったらそれも仕方ないように思えた。

 

「300年前。魔王になってしまった私は、当時の勇者……つまりツクモに討伐された。その後、彼は死にかけていた私の身体を『神の揺り籠』を使って再生し、ケーリュケイオンに記憶を封印して、自分の娘と偽ったのよ。理由はどうあれ、私は魔王になってしまって、多くの人々を殺してしまった。生きる気力を失くし、責任を取って死にたがっていた私のことを、彼は救おうとしたのね」

「何故、お主は魔王になってしまったのじゃ……?」

「まずは、魔王はこの世界の最強生物が、ラシャの影響によって誕生するという前提を踏まえて話を聞いて欲しい。ちょっと長くなるから、質問は後回しにしてね」

 

 ソフィアはそう前置きしてから、忌々しそうに話を続けた。

 

「今からおよそ千年前、私はこの世界に降り立った。それからずっと魔族と戦い続けてきたの。その頃の人類はネウロイから遠く離れた大陸の北端で、怯えるようにひっそりと暮らしていた。私はその現状を打破すべく、『神の揺り籠』を使って神人を作り出し、魔族への備えとしたのよ。

 

 始めは上手く行ったわ。知ってると思うけど、魔族は理性が無いんで頭が悪い。だから神人の敵じゃない。そうして魔族を撃退し続け、帝国の版図を広げていったんだけど、その内、たまにものすごく強い魔族が現れるようになったのね。言うまでもないけど、魔王のことよ。

 

 私は魔王を倒すために神人の数を増やしたの。単体では敵わないから、数の暴力で対抗したってわけ。それで最初の危機は乗り越えたわけだけど、それから定期的に帝国に魔王が襲来するようになってしまったのよ。

 

 結論から言えば、魔族は一人の魔王を生み出すために蠱毒を行なっているわけだから、ある程度強くなった個体は、当然、私たち神人も取り込もうとやって来るわけ。こうして私たちの帝国と魔王との戦いが始まったんだけど……魔王は討伐しても討伐しても、また必ず現れて、それは来るたび前回の魔王よりも着実に進化していたの。

 

 魔族はそうやって、種そのものが魔王の記憶を蓄積して、必ず敵を上回る個体を作り出そうとするシステムなんでしょうね。つまり、私たちの帝国も、いつしかネウロイの蠱毒の一環になっていたわけよ……でも、あっちは失敗してもいくらでもやり直しが効くかも知れないけど、こっちはそうはいかない。だから、ついに限界が訪れたわ。

 

 私は、定期的に襲来する魔王の対処のために、神人を増やしていった。新たに5つの国を興し、経済を発展させて兵を養い、そして300年前、それは10万を越える大軍勢になった。これでどんな魔王が現れようが万全だと思っていた、でもそれは逆だった。

 

 魔族は自己を強化するために、敵を食らってその性質を奪うか、犯して自分の眷属を増やそうとするわけでしょう? 私は魔族のように敵を犯したりはしなかったけど、結果的に神人という眷属を増やしすぎてしまった……神人は、私が『神の揺り籠』で作り出した、いわば私の子供たちで、彼らにとって親である私の言うことは絶対だった……つまり私がこの神人の帝国の皇帝として、世界最強になってしまっていたってわけよ。

 

 ラシャは……そうして生まれた世界最強の者に、問答無用で寄生するのよ。気がつけば、私は魔族を倒し続けた結果、経験値が貯まりまくっていた。神人ではあり得ないほど高レベルになっていて、そして神人にはあり得ないステータスの変動もしていた。私はそれを自分に都合よく、デイビドの恩恵を受けていると思っていたんだけど、どうやらラシャの影響を受けていたみたいね。

 

 私は、この世界に来てから700年間魔王と戦い続けていたから、それなりに魔王というシステムについても理解していた。だから、自分がおかしくなりつつあることにも気づいた。だけど、一度こうなってしまったらもうどうしようもなかった。デイビドのサポートもそうだけど、ラシャの命令も、私たちには感知することの出来ない高次元方向から、直接脳内に下されるのよ。私にはこれから逃れるすべはなかった……

 

 私は自分が魔王になりかけていると考えた。このままじゃ世界を滅ぼしかねないと焦っていた。死を選ぼうとも考えたけど、きっとそうした場合、私が貯めに貯めた共有経験値が、誰か別の神人に注がれて魔王になるだけだったでしょう。多分、エミリアがなっていたんじゃないかしら」

 

 何気なく話を振られた皇帝が、ぎょっとした表情で冷や汗を垂らしている。ソフィアはニヒルな笑みを浮かべ肩を竦めつつ、

 

「だから私は悩んだ挙げ句、自分を確実に倒せる人間を作り出そうとしたのよ……それがツクモ、あなただったわけ」

「俺が……?」

 

 鳳が困惑気味に反復する。彼女はその声を受けて、申し訳無さそうに頷くと、

 

「その時の私は、自分が魔王ジャバウォックになろうとしていることが分かっていた。そのジャバウォックを倒せる人間……って考えた時に、真っ先に思い浮かんだのが、あのゲームのギルド、荒ぶるペンギンの団のメンバーたちだったわけよ……

 

 私たちは、それこそ何万回と、呆れるくらいゲームの中でジャバウォックを退治したわ。だからこそ、私の魔王としてのイメージはジャバウォックという架空の魔獣に固定されていたんだけど……

 

 そして幸か不幸か、あのゲームのサービス終了時点の全ユーザーのパーソナルデータが、『神の揺り籠』には残されていたのよ」

「何故そんな物があの中に?」

 

 鳳が驚いて尋ねると、彼女は困ったように頷きながら、

 

「DAVIDシステムも、あのゲームも、実は開発元が一緒だったからよ……薄々、勘付いてはいたんでしょう? ちょっと話がややこしくなるから質問は後にして」

「あ、ああ、わかった……」

「神人は、その個体の遺伝情報と記憶情報が別々に保存されている。だから肉体が滅びても、『神の揺り籠』を使って復活することが出来る。あなたもそのことは知ってるでしょう。更にもう一歩踏み込んで、放浪者はその人の遺伝子と大雑把な記憶があれば、放浪者自身が記憶を補完して復活することが出来る……実はこれがそのまま勇者召喚の正体なのよ。私は、あなたの遺伝子とサーバー内に残されていたゲームのパーソナルデータから、あなたを復活させることに成功した……」

 

 だから鳳の記憶はその時点で止まってしまっていたのか……やはり、鳳の人生はあの後もちゃんと続いているらしい。元の世界でその後彼が何をしたのかは分からないが、ともあれ、ソフィアは鳳を復活させると、すぐに限界を迎えて魔王になってしまった。

 

 そして魔王になってしまった彼女は理性を失い、そこから先は何も覚えていないようだった。だが彼女が知らなくても、何が起きたかはここにいるレオナルドと皇帝が知っている。皇帝はソフィアの後を続けた。

 

「真祖様は魔王になった直後、理性を失って帝国を破壊し始めました。私たちはなんとか止めようとしましたが歯が立たず、やがて止めようとする私たちをも取り込み、ジャバウォックは更に強くなってしまいました。

 

 帝都の護帝隊だけではもうどうしようもなく、かといって五大国の軍隊が出てきても、強くなりすぎたジャバウォックには太刀打ち出来ませんでした。私たちは建国以来、初めての国家存亡の危機に狼狽えるだけで、これと言って有効な手立ては何一つ見つけられませんでした。

 

 ところが、そんな時にどこからともなく精霊が現れて、暴れるジャバウォックを抑え込んでくれたのです」

 

 鳳はハッとして叫んだ。

 

「そうだ、精霊! 精霊がいた! 爺さんをこの世界に呼びつけ、俺に力を授けた……こいつらは一体、何者なんだ?」

 

 鳳の言葉に皇帝は首を振って返し、期待したソフィアも彼の問いたげな視線を受けて肩をすくめると、

 

「まるでわからない。私は精霊という存在がいることは知っているけど、レオやツクモみたいに、話をしたことはないのよ。そういう意味では、私よりも寧ろ、あなた達のほうが詳しいんじゃない」

「創世神話では、お前が精霊を作ったことになってると言うのに?」

「ああ、それ? その嘘を吹聴したのは私よ」

 

 鳳も、レオナルドも、その場にいる人々全員が、思わぬカミングアウトに面食らった。まさか創世神話の中に、真祖ソフィアが吐いた嘘が混じってるなんて……

 

「なんでそんなことをしたんだよ?」

「簡単な話よ。神人を作ったのは私だって言うと、みんなどうやったのかって知りたがるでしょう。でも、精霊が作ったって聞かされれば、そんなもんかって納得する」

「あ、ああ~……なるほど。ハッタリを利かせたわけか」

「そういうこと。精霊というのは、私にはよくわからないけども、恐らくはラシャやデイビドと同じような存在でしょうね。仮にこの世界がゲームだとしたら、ゲームマスター的な存在っていうか……まあ、そういうのを人は神って言うわけだけど」

 

 ゲームの中かも知れないというのは、もちろん鳳も考えた。ステータスだったり、魔法だったり、ゲームっぽくないと思うほうが無理というものだ。彼は尋ねた。

 

「お前はこの世界がゲームかも知れないという、兆候のような物を見つけたのか?」

 

 するとソフィアはあっさりと否定して、

 

「いいえ、まったく。っていうか、もしもそうなら、こんなのいつかGMがリセットして終わりにしてるでしょう。そうならないのだから、違うと考えたほうが良いわ」

「それもそうか……」

 

 そもそも、現実と区別がつかないゲームの中であるならば、意識すること自体意味がないだろう。鳳たちが黙ってしまうと、二人の会話が終わったと見た皇帝が話を戻した。

 

「とにかく……精霊の介入によって一次的にジャバウォックは抑え込まれましたが、討伐には至りませんでした。正直、精霊が魔王を倒せないとは思えないので、もしかすると彼らには直接手を下せないような理由があるのかも知れません」

「そうだなあ……」

 

 精霊は敵なのか味方なのか……レオナルドは精霊ミトラに、他の神々と戦う手助けをしてくれと言われてこの世界に来た。鳳がヘルメスに力を授けられた……と言うか、ゲーム時代の力を取り戻したのは、間もなく魔王オークキングと戦う可能性があったからと考えれば、やはり味方と考えて良いような気もするが……

 

 だが鳳はその力を得たせいで、魔王になる危険性に怯えなくてはならなくなってしまった。正直、どっちが良かったのか……判別に苦しむところである。

 

 それは300年前の勇者も同じだったろう。その彼とパーティーを組んでいたレオナルドが当時のことを話してくれた。

 

「精霊が魔王を抑えていた頃、儂らは帝国に侵入してきた魔族と戦っておった。魔族は魔王に呼応するかのように、ワラキアの大森林から唐突に現れ、神人10万もの大軍をもってしても食い止めるのが精一杯じゃった。儂とアマデウス、アイザックの三人は、帝国が討ち漏らした魔族を退治して人間を守っておった。神人は強いが、他種族には割りと薄情なところがあるからのう……そんな人間たちは、魔族にとってはデザートみたいなもんじゃった。

 

 儂らはそうして人々を助けておったわけじゃが、助ければ助けるほど、大所帯になっていくのは必然じゃろう。やがて、助けた避難民が増えすぎて身動きが取れなくなってきてしまった。そして魔族はそんな身動きの取れない羊の群れを見過ごしてはくれなかった。儂らにも捌ききれんほど大量の魔族が人々を襲いはじめる……そんな絶体絶命のピンチに現れたのが勇者じゃった。

 

 その頃の儂らは既に現代魔法を確立させ、多くの迷宮を踏破して、人知を超えた力を手にしていた。しかし、勇者の力はその比ではなかった。あやつはあらゆる神技と古代呪文を使いこなし、近接戦闘にも長けておった。そして儂らから現代魔法をも習得し、その圧倒的な力は神人すらも従わせ、ついには単身で魔王に挑むまでに成長してしまった……

 

 勇者パーティーなどと呼ばれておるが、実際に魔王と戦ったのは勇者一人だけだったのじゃ。儂らはその周りで露払いしていたに過ぎん。何せ相手は体長数十メートルを越える巨体のくせに、尋常でない速度と身体能力を持ち、殺人光線まで吐き出したからのう……じゃが、あやつはそんな魔王に挑み、ついに倒してしまった」

 

 レオナルドが手も足も出なかったという300年前の魔王は、話を聞く限り、この間倒したオークキングとは力の差が有りすぎた。それは魔王の元となった個体に、強さの違いがあったからだろう。

 

 300年前の魔王は目の前にいる真祖ソフィアだったのだ。その時の彼女は10万人の神人の頂点に君臨し、その神人という種全体の能力が元となったのであれば、生まれた魔王の力は半端ではなかったはずだ。オークキングと違って、その眷属が魔王に従わなかったことだけが、唯一の救いだったろう。

 

「この世界に来てから何度か歴史の講釈を受けたが、そう言えば真祖ソフィアというのはいつの間にか歴史の舞台から姿を消していたな。大昔のことだから死んだんだろうって勝手に思ってたけど、考えてもみれば神人は殺さない限り老衰では死なないんだった。彼女が消えたのはこういうわけだったのか」

 

 鳳の言葉に皇帝が頷く。

 

「はい。公には真祖様は魔王との戦いで行方不明になったことにしてありますが、実際は真祖様こそが魔王だったので、公表することが出来なかったのです。あの頃の帝国は、魔王のせいで国土が荒廃しきっていました。神人は著しく数を減らし、頼りの真祖様も、もうおりません。帝国には次の魔王が攻めてきたらどうなってしまうかと言う不安が蔓延しておりました。この上、実はそれを引き起こしたのが真祖様だと知られれば、何が起こるか分からなかった……それで一部の神人が結託して、この事実を伏せることにしたのです。カイン卿を含む、五大国の主たちもこのことを知りません……唯一、ヘルメス卿を除いては」

 

 ヘルメス卿は恐らく勇者経由でその事実を知っていたのだろう。そして、その勇者が魔王化しかけていたことも知っていた……彼は魔王になる前の勇者から、メアリーとケーリュケイオンを預かり、そして勇者が居なくなるとそれに殉じるように、彼自身もこの世から去ってしまった。

 

 彼はメアリーのことを子孫や側近にも知らせなかったようだが、それは皇帝と同じように、事実が漏れると世界が動揺すると考えたからか、もしくは、自分の子孫がメアリーを政争の道具に使うことを嫌ったのだろう。実態はどうあれ、彼女は勇者が自分の娘として残した、最後の希望だったのだから。

 

 それにしても……ソフィアがこうしてこの世界の真祖として君臨していた理由は分かった。だがまだ一つ、はっきりしていないことがある。

 

「ソフィア、もう一つ聞きたいことがあるんだが、良いか?」

「何かしら?」

「そもそも、お前……元の世界のゲームの中で、『灼眼のソフィア』を操作していたのは誰なんだ? 俺はてっきりエミリアだと思っていたんだが、調べてみると、俺たちがゲームをしている時にはもうエミリアは死んでいたようなんだ……彼女の振りをしていたんだから、お前にはその理由が分かるんだろう?」

 

 するとソフィアは何ともいえない複雑な表情を見せてから、口をパクパクと開け、声にならない声を漏らしながら、両手で首の後の辺りをグイグイと押さえつけてから、やがて諦めたように肩を竦めてみせると、

 

「……それについては、いつかあなたに話さなければならないと思ってはいたわ……でもそれは、サービスが終了して数年経って、もうあなたが私のことを思い出さないようになってからと、そういうつもりだった……だから本当なら話したくないんだけど」

「今更だろう。話してくれ。じゃないと、これからどうしていいかわからない」

「そうね……そうした方が良いでしょう。でも、これは本当に言いにくいことだから、出来ればツクモ以外の人には席を外して欲しいの」

 

 レオナルドと皇帝が目配せしあっている。それは自分たちにも話せないことなのか? と問いかけるレオナルドに対し、ソフィアは当たり前だと言わんばかりに頷くと、老人たちはそれじゃ自分たちは席を変えようと、部屋を出ていった。

 

 応接室には鳳とソフィアだけが取り残された。朝日が昇り、陽光が部屋いっぱいに広がっている。彼女の純白のドレスが光を吸って、まるで輝いているように見えた。鳳がそんな彼女の対面に座り息を呑み込んでいると、やがて彼女は話しだした。それは予想よりも遥かに胸糞の悪い、忘れたくても忘れられない昔話の続きだった。

 


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