フェニックスの街からほど近い平原に、無数のテントが立ち並んでいた。先のヘルメス戦争のおりに帝国入りし、そのまま駐留を続けていた勇者軍の駐屯地である。戦争が終結したため順次撤退してはいたが、未だにその数ざっと1万が領内に留まっており、ただでさえ苦しいヘルメスの財政を圧迫していた。
無論、友軍とは言え他国の軍隊の駐留費をヘルメスが請け負う義務は無いのであるが、彼らが居なければヘルメスは解放はおろか、下手したら今ごろ魔王に蹂躙されていた可能性もあったため、そんなことは言えた義理ではなかったのである。
とは言えそれも今日までの話であった。最後まで残ったその1万も、つい先日、本国から撤退命令が出され、今日は朝からその準備で大忙しだった。因みに、ヴァルトシュタインが抜けた今、総司令官はスカーサハが務めており、彼女は今回の撤退を持ってついにお役御免となる予定である。
さて、そんな慌ただしい駐屯地に、ウェイトレスの服を着て、営業スマイルを絶やさない少女がふらりとやってきた。もしここが秋葉原だったらチラシでも配ってそうな出で立ちであるが、こんなのでも今や世界でも屈指の
フェニックスの街に帰ってきた彼女は、最近、ギルド酒場のウェイトレスに返り咲いたため、そんな格好をしていたのだが……そんな格好なものだから、ゲートを守っていた兵士は最初彼女のことに気が付かず、街からやってきた物売りかなにかと勘違いして追い返そうとしていたようだった。
しかし、彼女の行く手を遮ろうしていた兵士も、間もなく彼女が誰であるかに気がつくと、今度は背筋をピンと伸ばして最敬礼で彼女を迎えた。忘れているかも知れないが、ルーシーはスカーサハの妹弟子であり、駐屯地は顔パスなのだ。
彼女は会釈代わりに手にした杖を軽く掲げてゲートを潜ると、いきなり現れた謎のウェイトレスを見て目をパチクリしている兵士たちに愛想を振りまきながら、駐屯地をのんびりと横切っていった。行き先は中央のひときわ大きな幕僚用テントである。
「こんにちわー! スカーサハ先生いますかっ!」
「あら、ルーシー。今日はまた唐突ですね。どうしましたか?」
スカーサハはアポもなしにいきなり現れたルーシーに驚いていた。彼女はそんな姉弟子にむかってプンスカと怒りを向けながら、
「どうしたもこうしたも、街で兵隊さんに聞いたんですよ。先生、明日にも勇者領に帰っちゃうそうじゃないですか。どうして言ってくれなかったんですか?」
「正式に決まったのがついさっきだからですよ。ヘルメスを発つにあたって、フィリップにも挨拶をしておきたかったから、どうせこの後ギルドへいくつもりだったのですが」
「そうなんですか? ギルド長も手が空いたらこっちに来るって言ってましたよ?」
「そうでしたか。行き違いにならなくて良かったわ。おや……せっかく来てくれたのに、立ち話もなんですね。座ってください、お茶にしましょう」
ルーシーがテントへやってきた時、スカーサハは撤退のための執務をしていたようだった。彼女は手を止めると立ち上がって茶葉を取り出し、ストーブで無造作に温められ続けていたヤカンのお湯で紅茶を入れた。ルーシーはマグカップを受け取ると両手でそれを持ち、フーフーと息を吹きかけながら言った。
「先生も居なくなっちゃうと、ここも寂しくなっちゃいますね。まだヘルメスも平常通りに戻ったってわけでもないんだし、もう暫く居ることは出来ないんですか」
「軍隊はただ集結しているだけでもお金が掛かりますからね、戦争が終わったのであれば、速やかに解散するのが筋ってものです。本音を言えば、後継問題が片付くまで、連邦議会としてもこのまま留まっておきたいところなのですが……これ以上、勇者・鳳に負担を強いるのも本意ではありませんから」
鳳の名前が出るや否や、ルーシーはプンスカと怒りの表情を作り、言った。
「鳳くんなんて困らせてやればいいんですよ。知ってます? あの人、権力を持つや昔の仲間を捨てて、さっさとパーティーを解散しちゃったんですよ。言ってくれれば私たちだって何でも手伝うつもりだったのに、政治のことは一切私たちに関わらせようとはしないんです。ジャンヌさんなんてこの世界に来る以前からの仲間だったって言うのに、用が済んだらあっさりしたもんですよ。正直、あんな人だったなんて思わなかった」
「……色々とあったみたいですね。一応、話は聞いてますが、そんな風に言うものじゃありませんよ。勇者にも何か事情があるのでしょう」
「事情があるなら話してくれればいいじゃないですか。なのに、鳳くん……あれからずっと私たちのこと避けてるみたいで、まともに話もしてくれないんですよ。そりゃ、ジャンヌさんとのこともあるから、気まずいのかも知れないけど……話すら出来ないんじゃ、フォローのしようもないじゃないですか」
「ジャンヌさんの事って言うと、彼女が勇者に、男女の関係になれないかと迫ったってことね?」
「うっ……先生、なんか言い方がいやらしいですよ」
ルーシーが愚痴をこぼしていると、それを聞いていたスカーサハがポツリと言った。まあ、ぶっちゃけ彼女の言うとおりなのだが、言い方次第でこうも抵抗を感じるのは何故なんだろう。ルーシーは頬を引きつらせながら、
「まあ、有り体に言えばそうですけど。断るだけならともかく、避けるまでするのはあんまりですよね」
「そうですね……でも確か、勇者には好きな女性がいたのではありませんでしたか」
「ミーティアさんのことですか? それならそれで、二人共ものにしてやるくらいの甲斐性を見せないでどうするって言うんですか。曲がりなりにも勇者なんて呼ばれているくせに、情けない」
スカーサハは苦笑しながら、
「いえ、そうではなく、確かあなたが言ってたんじゃないですか? 勇者は、前の世界で好きな女の子が居たのだけど、その子を不本意な形で失ってしまったせいで、傷ついているって」
「……ああ、そういえば」
「案外、その方に操を立てているのかも知れません。もしそうなら、そんな悪しざまに言うのは可哀想ではありませんか」
ルーシーは言葉に詰まった。一方的に愚痴だけ聞いててくれれば気楽だったのに、
「……先生は割りと鳳くんに好意的なんですね」
「そうですね。ですが、それはあなたも同じでしょう。彼には、不思議と人を惹きつける何かがある。そう思いませんか?」
「そうかなあ……?」
「そうでなければ怒ったりなんかしませんよ。人は期待をするから、裏切られたと腹を立てる。どうでもいい相手なら、そもそも気にすらしませんから」
ルーシーはなんだか言いくるめられてるような気がしてならなかったが、かと言ってどんな反論も出てこなかった。このところずっと鳳の煮え切らない態度にイライラしていたが、それも彼に対する一方的な期待の裏返しだったのだろうか……
彼女がうーんと唸りながら黙りこくっていると、スカーサハはまたとんでもないことを言い出した。
「ところでルーシー……ひとつ聞きたいのですが。あなた、処女ですか?」
ルーシーは思わず口に含んでいた紅茶を噴き出し、むせ返った。
「ブーッッ!? な、な……突然、何を言い出すんですか、先生!?」
「いえ、皆まで言わなくても分かりました。ちょっと気になったもので」
「……私の体験なんか気にして何になるって言うんですか」
ルーシーが不貞腐れたように唇を尖らせていると、スカーサハは苦笑交じりに、
「ほら、ついさっき、あなたが言ったじゃないですか」
「……何を?」
「曲がりなりにも勇者だと呼ばれる者なら、女の一人や二人、同時にモノにしてやるくらいの甲斐性を見せろと」
「……はあ」
「それで、ふと思いついたんですよ。あなたはそう言うけれど、実際にあの鳳白と言う青年が、そんな器用な真似をして見せたら、どう思うんだろうかって……」
「……え?」
「つまり、ジャンヌさんとミーティアさんですか? 両方と付き合って、両方にいい顔をしながら、両方とも食っちまったら……あなたはどう思いますか? やはりそれも勇者の甲斐性だと思いますか?」
ルーシーは返事に窮してしまった。言われてみれば、それは嫌だなあと言う気持ちのほうが勝っていた。だが客観的に見て、双方がそれで納得するのであれば、それはそれで良いんじゃないかと言う気持ちもあった。トータルでどっちなのかと言われるとまた選択に困るのであるが……
それにしても、今日の姉弟子はどこか飛ばしているなと思いつつ、ルーシーは冷や汗をかきながら、
「……鳳くんは、そういうことしないと思いますよ。もし二人と付き合うとしたら、ちゃんと二人共、同じくらい愛してくれると思いますけど……」
スカーサハはそんな返事を受けて苦笑しながら、
「そうね、そうなのでしょう。それが彼の持つ道徳性であり、あなたの持つ期待なのでしょう。あなたは、そうならなかったから、だから怒っているんでしょうね」
「……はあ」
ルーシーは上手く言いくるめられているような気がして不満げに口を尖らせながら、
「……先生、なんか今日はやけに絡みますね。私に何か思うところでもあるんでしょうか?」
するとスカーサハは遠くを見るような眼差しを向けたかと思うと、少し伏し目がちに視線を逸らせながら続けた。
「あなたには何もありませんよ。ただ、ちょっと……思い出したことがありまして」
「思い出した……?」
「……さっき、あなたは勇者に避けられていると言っていたでしょう? 実は、私もなんですよ」
「え……?」
寝耳に水だった。ルーシーがどういう意味かと尋ねてみると、
「思い返してみるとどうもそういう節があるなと。彼がヘルメス卿となり、そして私がここの司令官として着任してから2ヶ月が経っているでしょう? 当然ですが、その間、私たちは仕事の都合で面会する機会が多々あったはずです……ところが、私はこの二ヶ月、公の場で彼と会った記憶がないんですよ。何か用事があって庁舎に赴く時、いつも出迎えてくれるのはペルメルかディオゲネス、部下の神人のうちどちらかだったんです」
「それは気の所為ではなくて?」
「私もそう思っていたんですけどね、ただ、どうもそうではないらしいという証拠みたいなものも出てきてしまいまして……」
「……証拠?」
スカーサハはこっくりと頷いてから、
「実は、連邦議会からの帰還命令が来る少し前に、大君から手紙が来ていたのです。ちょっと調べたい物があるから、勇者軍の仕事が片付き次第、一度ヴィンチ村に来てくれと言うものでした。大君は、どうやら300年前の勇者のことを思い出したいようなのですが……」
「300年前……? そんなもの、今更思い返したところで、何かあるんですか?」
ルーシーがそんな疑問を呈すると、スカーサハもその通りだと言いたげにはっきりと首肯してから、
「私もそう思いました。今更そんな昔話を聞きたがるなんて変だなと……ただ、そこに書かれていたことを見てすぐに考えが変わりましたが」
「……手紙にはなんて?」
すると彼女は眉根を寄せて深刻そうな表情を作り、
「……本当は、本人が言い出すのを待つべきなのでしょうが、やはりあなた達は仲間なのだから知っておくべきだと思うので……」
「はあ……?」
ルーシーが、なんで彼女はこんなに回りくどく前置きをしているのだろうと思っていると、やがて決心したかのように、スカーサハは矢継ぎ早にその言葉を口にした。
「手紙にはこう書かれてました。300年前の勇者と、今代の勇者は同一人物だと」
そう言われても、ルーシーはすぐにはその意味が頭に入ってこなかった。300年前の勇者と、今代……つまり鳳が同一人物? 意味が分からない。彼女がちんぷんかんぷんだと言いたげに目を回していると、スカーサハは続けて、
「私も、そんな馬鹿なって思いました。私は300年前の勇者とも面識があります。その彼と勇者・鳳はまるで別人であるという認識があります。私は二人が別人であると、確信していたのです。ただ、そう思いながらも、300年前の勇者のことを思い出そうとすると、どうも妙な引っ掛かりがあると言うか……」
「どういうことです?」
「……私は以前、あなたに言いました。300年前、一時期、私は勇者と恋仲になったことがあるのだと」
「はい」
「なら、私は勇者・鳳を見たら、彼を愛おしく思わなくてはおかしいでしょう。ですが、私は彼を見ても別段そうは思いませんでした。だから、やはり300年前の勇者と彼は別人だと、私はそう結論しようとしたのです……ところが、その時ふと、思い出したのですよ……300年前、私は確かに勇者と恋に落ちました。そういう記憶がある。ですが……どうしてそうなったのか。具体的に勇者とどんなラブロマンスがあったのか。それを思い出そうとしても、実は何も思い出せなかったのです」
その言葉に、ルーシーはいよいよ思考力を失ってしまった。正直、目の前の姉弟子が何を言っているのかさっぱりわからない。ただ、そこには何か退っ引きならないものがあることだけは、わからないなりにも分かっていた。スカーサハは続けた。
「何しろ300年も経っているから、細かいディテールを忘れている、というなら分かります。ですが、こうも見事に記憶が抜け落ちているとなると、おかしいと言わざるを得ないでしょう。私は処女ではありませんが、身持ちは硬いほうだと信じています。例え相手が勇者だからと言って、体を求められたからそれに応じるというような、そんな付き合い方はしなかったでしょう。私は彼とそれなりの蜜月があった。でも私はその中身を全く覚えていないのです」
困惑するルーシーに対し、スカーサハは続けざまに言った。彼女は自分の身に起きた出来事を、どこか他人事のように捉えながら、客観的な事実のみを積み上げて、そして結論したのだ。
「つまり、300年前の勇者と、今代の勇者・鳳白が同一人物であるのだとしたら、私は……我々は彼に関する記憶を失っている……ということです。誰が? 何のために? そもそも、どうやったのかも分かりませんが、私たち人類は、恩人であるはずの勇者の記憶を都合よく捻じ曲げられている可能性があるのです」
「それは本当なのですか?」
「……現状では、かも知れないといったところですが。私はそうなんじゃないかと思っています……だから、これはもしもの話なのですが、ルーシー?」
スカーサハはほんの少し震える声で言った。
「もしも今後、勇者に求められるようなことがあったら……躊躇せずにその身を差し出しなさい」
それは全く予想だにしない言葉だった。
「……え!? 逆ではなく?」
ルーシーが面食らってそう言うも、スカーサハは撤回せずに頷いて、
「ええ、処女だとか、そんなこと気にしないで、思い切って彼に身を委ねなさい。どうせ、いつかは誰かとそういうことをするんだから……」
「なんでそんな……?」
その、ともすると身持ちが軽い娼婦みたいなセリフが、とても姉弟子のものとは思えず、ルーシーが再度問いただそうとした時だった。
「失礼します!」
天幕の入り口が開いて、外から伝令の兵隊が入ってきた。何しろ、話していた内容が内容だから、二人ははっと息を飲み込んで振り返った。その様子に違和感を感じたのか、伝令はまずい時に来てしまったと言った感じに後悔の表情を浮かべつつ、努めて目を合わさないよう天井の方を見ながら続けた。
「フェニックスの街の冒険者ギルドから、フィリップ様がお見えになりました。総司令官殿に面会を求めていらっしゃいますが、いかがしますか?」
「そうですか、ここへお連れしてください。ご苦労さまです」
「はっ!」
伝令はくるりと回れ右をすると、背筋をピンと伸ばしたまま去っていった。間もなく、彼がギルド長を連れて戻ってくるだろう。二人はさっきの話を蒸し返す気にもなれず、どことなく余所余所しい調子で続けた。
「ルーシー……あなたはヴィンチ村に戻らず、暫くはこちらに残るつもりなのですよね?」
「はい。元々、私はこの街の出身ですし、その……鳳くんというか、仲間のことも気になりますから」
「ええ、そうなさい。ただし、ここに残るなら修行は怠らないように。あなたは目を離すとすぐにサボろうとするから」
「そんなに言わなくても、大丈夫ですよ。信用ないなあ」
「あると思ってたんですか?」
「うっ……」
割りと容赦のない言葉に絶句する。まあ確かに、そう言う傾向があることは否定できないが、それはレオナルドの脳みそが痒くなるような座学の話だ。スカーサハが教えてくれた現代魔法の訓練や、発声練習などは苦ではないので続けられるはずである。まあ、それも彼女なりにではあるのだが……
ルーシーがそんな弱気なことを考えていると、スカーサハはふと思い出したように、
「……そう言えば、あなたに会ったら言っておこうと思ってたのですが」
「なんです?」
「勇者領はロバートの即位を警戒しています。出来れば排除したいくらいなのですが、勇者・鳳は公正を重んじているために手が出しづらく、万が一のことも有りえます。そうならないよう、あなたから勇者にそれとなく伝えてください」
「は、はあ……でも、さっきも言った通り、今は難しいと思いますよ?」
「一応、気に留めといてください。一番いいのは、このまま勇者がヘルメス卿として正式に即位してくれることなのですが……」
スカーサハはそう愚痴るように呟くと、今度はルーシーの目をじっと見つめてから、少しだけ消極的な響きを含みながら言った。
「それから……これも言うか言うまいか少し悩んだのですが……」
「なんですか?」
「あなたは大君レオナルドが、現代魔法ではなく古代呪文を使っている場面を見たことがありますか?」
彼女はそう言われて、かつてこの街から逃げる際、レオナルドがメアリーでさえ使えない大魔法を使っていたのを思い出した。普段の彼は古代呪文なんて使うことは無かったからすっかり忘れてしまっていたが、あれはどうやったんだろうと思いきや、
「もしも今後、あなたに力が必要なことが起きたら、帝都にいる私の知人を訪ねなさい。その昔、大君は帝都にほど近い迷宮で、古の大魔法使いからあの技を伝授されたそうです。彼は今や現代魔法の大家ですから、もうその力に頼ることも無いでしょうが、あなたにはまだまだ有益かも知れません」
「なんと? そんな凄い迷宮があるなら、どうして教えてくれなかったんですか。早速、近い内に訪ねてみることにします」
ルーシーが鼻息を荒くしていると、スカーサハは呆れるようなため息交じりに、
「いえ、あくまで必要になってからにしなさい。あなた、迷宮を簡単に攻略できると思ってるようですが、下手をすると生命に関わるような場所ですから、それを肝に銘じて起きなさいね?」
「ええ~……そんなに危険なんですかあ?」
「あのですね、そもそも、神人でないただの人間が古代呪文を使うということ自体が、ものすごく危険なことなんですよ。邪な気持ちで入ったら、まず無事では済まないでしょうね。だから言うかどうか迷ったんですが……」
「そ、そうなんですか……因みに、先生は攻略済みなんですよね? 出来れば攻略法とかあったら教えて欲しいんですが」
するとスカーサハはキョトンとした表情で、
「私ですか? 私は入ったことすらありませんが?」
「え? なんで?」
「なんでも何も、私は元々神人ですから。古代呪文は普通に使えますし」
「ずるいっ!!」
二人がそんな会話を続けていると、まもなくギルド長がやってきた。彼もルーシーと同じく、勇者領へ帰るというスカーサハに別れの挨拶をしに来たらしい。
ヴィンチ村で臨時のギルド長をやっていた彼であるが、ヘルメス戦争が終わってフェニックスの街の復興が進んでいるのを知ると、ミーティアと共に暇乞いをして帰ってきたのだ。彼はヴィンチ村に行くのなら、そのことをレオナルドに謝っておいて欲しいと言いつつ、三人は懐かしいヴィンチ村の話に花を咲かせるのだった。