両開きのドアを押し開けて、ギルド酒場にギヨームが入ってきた。以前なら、見た目が少年でしかない彼を誂うならず者がいたものだが、今となってはそんなことをする恐れ知らずなど一人もいなくなっていた。というか、最近は鳳の使いのメイド少女も良くやってくるから、お客も慣れてしまったのだろう。
頻繁に少年少女が通ってくる酒場ってどんなんだ……などと思いつつ、ミーティアが頬杖をつきながらその動向を見守っていると、多分ルーシーに用事があるんだろうと思いきや、彼はまっすぐギルドの受付の方へとやってきた。
「おや、珍しい。お客様、ギルドにご依頼でしょうか?」
「んなわけねえだろ、冒険者なのに」
「それじゃ仕事を探しに来たんですか? 知ってると思いますが、ここのところヘルメスの治安が良くなりすぎちゃって、ギヨームさんにお願いするような高ランクの依頼なんてありませんよ。失せ物探しとかなら沢山ありますが」
「いや、仕事を探しに来たんでもない。つーか、平和になって残念みたいに言うんじゃねえよ、あぶねえギルド職員だな」
「実際、仕事がなさすぎて退屈なんですよ。いっそ本気で酒場の方にデビューしようかなとか考えちゃうくらいで」
「別に俺は止めやしないが、フィリップが嘆くぞ……って、こんなこと言いに来たんじゃなかった。今日はそのギルド長に挨拶に来てさ。奥に通してくれないか?」
「……挨拶? 結婚でもするんですか?」
「ちげえよ! 本当に面倒くさい職員だな。暫く留守にするからその挨拶だ」
いつもの癖で軽口を叩いていたら、飛び出してきたのは寝耳に水なセリフであった。ミーティアは驚いて、どういうことかと尋ねてみたら、
「別に永久に居なくなるわけじゃねえよ。ちょっとレオに教わりたいことが出来て、ヴィンチ村まで行こうと思ってんだ。手応えを掴むまではあっちにいるつもりだから、いつ帰ってこれるか分からなくってよ」
「教わりたいこと?」
「俺のクオリアについてちょっとな。まあ、修行みたいなもんだ」
「ギヨーム君、修行に行っちゃうの?」
ギヨームがミーティアと話していると、それを背後で聞いていたルーシーから声が掛かった。見ればお盆を胸に抱きながら、彼女がてくてくと歩いてくる。ギヨームはどっち向いて喋れば良いのかわからないと思いつつ、どうせ彼女にも挨拶するつもりだったからと肩を竦めて振り返り、
「いや、修行っつーかなんつーか……」
「ふーん……こないだの孤児院の先生のこと気にしてるのかな」
「だから違うっての! ……現代魔法に関してちょっと思うところがあってよ。レオに相談したいだけだよ」
「そっかあ……ギヨーム君がパワーアップを目指すんなら、私も帝都に行こうかなあ。私も、このままじゃいけないかなって思ってたし」
「違うと言うのに……っつか、帝都? ヴィンチ村に帰るんでなく?」
ルーシーは頷いて、
「実は先生に勧められていたんだ。帝都の近くに迷宮があって、昔おじいちゃんがそこで修行したんだって。もしも力が必要になったら、そこに行きなさいって」
「迷宮攻略……一人じゃ危なくねえか? 砂漠の迷宮みたいに精神攻撃してくるところばかりじゃないぞ。物理的に仕掛けてくる迷宮もあれば、問答無用の即死トラップなんてもんもある。せめてジャンヌを連れてくか、俺が帰ってくるまで待ってろよ」
「うーん……ジャンヌさんかあ。最近のあの様子じゃ、難しそうだよね」
ルーシーはため息交じりにやれやれと首を振った。鳳がヘルメス卿になって以来、ジャンヌは日に日に元気を失っていった。原因はもちろん、彼に拒絶されてしまったからだ。ギヨームはそれを男女のことだからある程度は仕方ないと思っていたが……とは言え、普通ならそうなっても会話くらい成立しそうなのに、鳳がここまで粘着質だとは思いもよらず、正直最近は考えを改め始めていたところだった。
だから、まあ、一度くらい文句を言っても罰は当たらないだろうとしたところ、例の孤児院の女医に諭されてしまったわけだが……ルーシーには違うと言ったが、ギヨームはあの言葉が相当堪えていた。せめて同じ高みにいるのなら、殴って言うことを聞かせてやるくらいのことは言えただろうが、確かにあの女の言うとおり、今の自分はただの口だけ達者な子供に過ぎなかった。
「ジャンヌさんは引き篭もってしまってて、最近はギルドにも寄り付かないんですよね。少し前までは、そこでサムソンさんが励ましている姿を頻繁に見かけたんですが……」
「そうか、サムソンが……」
今までは一生懸命粉をかけても相手にされていなかったが、傷心の今なら彼にもチャンスが回ってくるだろう。相手が弱ってるところに付け入るなんて、あのハゲもゲス……ではなく、ソツがないなと思っていたら、
「『貴様は俺と並び立つ強き者! こんなことでヘコタレてどうする。自信を持て、胸を張れ! アタックあるのみだああぁぁーーーっ!!!』なんて言って……」
「って、マジで応援してんのかよ。アホか、あいつは。それじゃ鳳に取られちまうだろうに……」
ギヨームが呆れながらそんなことを言っていると、噂のサムソンが酒場に入ってきた。彼はキョロキョロと店内を眺めてから、ギヨームたちが集まっていることに気づき、にこやかに近づいてきたのだが、
「よう、サムソン。おまえ、モテないだろう?」
「なんだと貴様!」
「いや、褒めてんだよ」
来て早々馬鹿にされて怒るサムソンを相手に、ギヨームは旅立ちの報告をしてから、自分が居ない間の事を任せた。しっかりジャンヌのことを元気づけてくれと言うと、彼は男らしく胸を張って任せろと言っていた。根がどうしようもない善人なのだろう。
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ギルド長に出発の挨拶を済ませ、路銀の足しに簡単な配達の依頼を受けてから、ギヨームは勇者領へ発った。ルートは現在工事中の街道ではなく、既存のアルマ国へ向かうルートである。
新しいルートには興味があったし、途中でガルガンチュアの村にも寄れるから、出来ればこちらを通りたいと思っていたが、工事が中断してしまった今では、どこで足止めを食うか分からず、断念せざるを得なかった。鳳と言うか、貴族連中が何やら揉めているようだが、生活改善のためにもインフラ整備は早く行って欲しいものである。
街道が整備されているとは言え、アルマ国のルートも庶民にはなんやかんや難所であり、護衛の冒険者を雇うか、商人のキャラバンに同行するのが一般的だった。戦争後、人の往来が頻繁になった現在では、護衛専門のキャラバンなんてものも存在するようだが、ギヨームの場合は寧ろ同行者が居るほうが邪魔であり、普通なら1週間はかかる道を、彼は単独でたったの2日で踏破してしまった。
別段、急いだつもりはなかったのだが、パーティーの斥候として大森林で長く活動していたお陰で、森歩きと探知スキルが尋常ではない成長を遂げていたらしい。戦闘スキルも、今では簡単な魔物の群れなら障害にならず、自分でも強くなっている実感はあったのだが……とは言え、これでも恐らく、鳳とは相対的にどんどん差が開いているのだから、やってられないというもんである。
勇者と並び立つような人間というのは、どんな感覚なのだろうか……? もしかして、若かりし日のレオナルドも、自分と似たようなコンプレックスを抱いたのだろうか? そんなことを考えつつ、大森林を抜けて勇者領へと入った。
アルマ国から先は街道も整備されており、今度は単独よりも、数頭立ての乗り合い馬車を乗り継いだ方が早かった。最近はヘルメスへの荷物が多く、人も行き交うから混雑しているらしく、馬車内はぎゅうぎゅう詰めで、下手に眠ろうものなら幌から落っことされそうなくらいだった。
これじゃ馬も参ってしまうだろう思ったが、途中で頻繁に交換して凌いでいるらしかった。これでも路線が赤字にならないのだから、今の物流がどれだけヘルメスに向かっているかがよく分かる。早くもう一つの街道も開通して欲しいものだと、乗り合わせた乗客がぼやいているのを耳にした。これだけ人々に求められても上手く行かないのだから、国家運営とは余程面倒くさいものなのだろう。
確かレオナルドは、それを嫌ってヴィンチ村に籠もっているはずだった。生前はあちこちの国で行政に参画していたはずだが、こっちではもう関わり合いになりたくないと徹底して避けていた。人間社会というのは、どこの世界も似たりよったりと言うことだろうか。
アルマ国から高速馬車を乗り継いで4日後、ヴィンチ村に到着した。馬車を降りて広場に立つと、村はいつも通り長閑で、まるで過去に戻ってきたような錯覚を覚えた。ギルドの看板だけが降ろされていたが、それ以外は何もかもが前のままだった。尤も、自分としてはそれが一番大きな違いであり、言い知れぬ落胆を覚えた。
一時期世話になっていた牧場に行くと、すぐに牧場主が飛んできて、ギヨームの帰還を喜んだ。牧場の外れでは相変わらず猫人たちがゴブリン退治に勤しんでいた。牧場主が言うには、彼らもタカる相手がいなくなって寂しい思いをしているようだ。
酷い評価だと思いはしたが、確かに、両手いっぱいの野菜を抱えて、ギルドに入っていく鳳の姿が見えないのは、何となくパズルのピースが欠けてるような落ち着きない気分にさせられた。いつもそんな彼に、これでもかと野菜を持たせていた段々畑は、熱帯地方に近い気候のお陰で、今も作物で満たされていた。ギヨームはそんな畑の中の道を通って、丘の上のレオナルドの館へと歩いていった。
館の玄関に立つと、当たり前のように執事のセバスチャンが控えていて、「おかえりなさいませ」の挨拶以外、特に何も言うこと無く館内へ案内してくれた。館内の様子が思ったよりも賑やかなので、誰か来ているのかと思えば、スカーサハが滞在しているらしい。
いつもの応接室ではなく、レオナルドの
「誰が来たかと思えば、ギヨームか。どうしたんじゃ? 儂に何か用事かいのう?」
「ああ、ちょっと聞きたいことがあってよ。俺一人だけちょっと戻ってきたんだ」
「左様か。ルーシーはおらなんだか。あの馬鹿弟子は、役に立っておるかのう?」
「酒場の店員って意味ならそりゃ役に立ってるだろうが……そう言う意味じゃないんだろうな」
ギヨームは、ヘルメス卿になってからの鳳の様子を話して聞かせた。スカーサハからある程度聞いていたのだろうか、レオナルドも最初のうちは顔色を変えずに聞いていたが、ジャンヌを避けるだけではなく、ミーティアやルーシー、果ては彼が苦労を買ってまで助けたルナさえ避けてる様子を聞かせると、そのうち段々顔色が曇ってきた。
「……なんつーかもう、修行僧かっつーくらい、女を避けてる感じがするな。一応、アリスってメイドがいるが……まあ、ありゃ使用人って感じだからかね」
「ふむ……女性を避けている……か……」
「何となくそう感じるぞ。だから、ルーシーが役に立つ立たないって話なら、そもそもあいつは鳳に近づくことさえ出来ねえし、近づけたところで、まあ、役に立たねえだろうなあ……政治経済のことなんてからっきしだしよ」
「左様か……ならばいつまでもあんなところでグズグズしとらんで、こっちに帰ってくれば良いものを」
「……? 帰るも何も、元々あいつがあの街出身だから、元の生活に戻してやったんじゃなかったのか?」
すると老人は首を振って、
「いいや。何か事が起きた時、あの子の魔法が役に立つじゃろうと思ったからじゃ。彼女は儂の弟子でもあるが、お主らのパーティーメンバーでもあるからのう」
「へえ……そんなつもりだったのか。そういや、あいつもそんなこと言ってたな。自分も修行したいから帝都の迷宮に行こうかなって」
「……なんじゃと!? 儂は教えとらんぞ、あんな危険な場所。誰から聞いたんじゃろうか」
「
スカーサハが名乗り出ると、老人は立ち上がって目を見開き、苛立たしそうに頭の上から怒鳴りつけた。
「何故、そんな勝手なことを! 修行の付け方にケチはつけんが、命あっての物種とも言うじゃろう。あの才能を失うこともまた損失なんじゃぞ」
「申し訳ありません。しかし、勇者のことも放っておけなかったのです……もし、事が起これば現状では対処が出来ないでしょう。レベルアップが急務だと思ったのです」
「その判断はまだ時期尚早じゃろう。あの子も無鉄砲なところがあるから、無茶をしなければよいのじゃが……」
「なんか知らんが、ジャンヌと一緒か、俺が帰ってくるまで待てって言っといたから大丈夫だろう。つーか、あいつに期待するのはわかるが……どうしたんだ、あんたら? なんかちょっと、様子がおかしくないか。何かあるなら、俺にも話して欲しいんだが」
ギヨームが訝しがりながら二人のことを睨めつけると、さっきまで怒っていた老人はバツが悪そうに腰を下ろし、神人は困ったように眉根を寄せた。明らかに何か隠している態度だった。
「……あんた、新大陸の人だったよな。戦争も終わったんだしさっさと帰りゃいいのに。こんなところで二人でコソコソ何してるんだ? なあ、レオ。俺にも言えないことなのか。もしもそうなら仕方ない、諦める。何も聞きゃしねえよ。だがもし俺にも関係あることなら言ってくれ」
ギヨームが真剣な眼差しでじっと老人の目を見つめると、やがてレオナルドは諦めたようにため息を吐いてから、
「……まだそうなるとは決まってない話じゃぞ。その前提を忘れずに、まずは落ち着いて話を全部聞いてくれるか」
「何が何だかよく分からねえが、話の腰を折らないでくれってことか? いいだろう」
ギヨームが聞く態勢を見せると、レオナルドは何から話したものかとあれこれ逡巡しながら話し始めた。鳳と300年前の勇者の関係。そしてその勇者が消えた理由。
話を黙って聞いていたギヨームはみるみると青ざめ、
「……魔王化だと?」
「左様。どうもこの世界には、始めから魔王を生み出すための仕組みが存在していたらしいのじゃ。鳳のあの破格の力は、彼と彼の仲間を際限なくパワーアップさせるものじゃが、もしも魔王を倒した者が次代の魔王になるのであれば、実はあれは魔王の力じゃったのかも知れんというわけじゃ。そしてそれは300年前の勇者の様子からも窺い知れる……」
「それであいつ、女を避けていたってのか」
ギヨームは悔しそうに舌打ちした。
「くそっ! そうならそうと言ってくれりゃいいのに、どうして何も言わないんだ。なんで、なんでもかんでも自分ひとりで決めやがる!? そんなに俺たちが役に立たねえっつーのか!?」
「そんなわけはなかろう。恐らくは、自分が変わっていく姿をお主らに見られたくないんじゃろう……300年前の儂は、女を取っ替え引っ替えしだし、変わっていく勇者に苦言を呈するだけで、彼が苦しんでいることに気が付けなかった。300年も経ってそれを知った時、言ってくれれば良かったのにとひどく後悔したが、仮に気づいていたところで何が出来たわけでもないじゃろう……お主らには、そんな後悔をして欲しくないものじゃが……」
「……ちっ」
ギヨームはグッと言葉を飲み込んで、腰を下ろした。考えてもみればレオナルドの言う通り、知ったところで今の彼には何も出来そうもなかったのだ。なのにそのことを300年越しに知らされた老人を前に、取り乱してどうするのだ。
レオナルドは変わっていく勇者に何が起きているかすら知らされず、ただケンカ別れみたいに離れていくしかなかったのだ。それを教えてもらっただけでも、自分はまだマシだろう。彼は目の前の老人に同情した。
なのに声を荒げてしまって申し訳ない気分でいると、レオナルドはそれを見透かしたかのようにおどけた調子で、
「ま、そんなわけで、儂らは魔王化を止める手立てがないかと、こうして集まって相談しておったのじゃ。今の所、何も分かっておらんから、お主らと変わらんがのう。事情を知っとった分だけ怠慢とも言える……まあ、憂えていても仕方あるまい。そんな話はさておいて、今日は何をしに来たのか? 金の無心か」
「んなわけあるかよ! 話が脱線しちまったが……いや、ある意味これで良かったのか? 急がなきゃいけない理由も出来たわけだし」
「なんのことじゃ」
「実は……最近、仕事が無くて暇でよ、レベルアップも出来ないから伸び悩みを感じてたっつーか、俺も戦力アップする方法がないかとちょいと考えていたんだよ。で、そんな時に、こないだの戦争で勇者軍が使ってた兵器を思い出して、そいつを作れないかと思って色々試していたんだが……」
「作る? なんじゃ、鍛冶屋にでも就職しようと言うことかいのう。だったら儂ではなく、マニに相談したらどうじゃ」
「ちげえよ馬鹿、作るってのは……こうやってってことだよ」
ギヨームがプンスカしながらじっと手を翳し、集中して力を込めると、どこからともなく光の礫が集まってきて、彼の手に巨大なライフルのシルエットが浮かび上がった。しかしそれは、それ以上形を保つことが出来ずに、暫くすると消えてしまった。
ここまで来る道中でも試行錯誤していたのだが、やはり駄目か……ギヨームががっかりしてため息を吐いていると、しかしそれを見ていたレオナルドの方はそうでもなかったようで、身を乗り出して驚いたように、
「今のは……お主の
「ああ。俺のスキルは銃を作り出すものだから、もしかして軍で使うような強力なライフルも作り出せるんじゃないかって思ったんだ。でもどうしても形が保てなくてよ……そんな時、ヴァルトシュタインがこれを見て、『
「なるほどなるほど……お主、これを作り出す時、一つ一つの部品をイメージして組み立てようとしておるな?」
「分かるのか?」
すると老人は嬉しそうに二度、三度と頷いてから、
「分かるとも。お主がやっているのは、確かに儂の幻想具現化と同じことじゃ。高次元に存在するイデアにアクセスし、クオリアを生成、それを現実に引き出そうとしておる。儂はその作業を、一旦キャンバスの上に描き出すことによってワンクッション置いてやっておるのじゃが、お主はそんなものを使わずに一足飛びにやろうとしておるから上手く行かんのじゃろう」
「お、おう……俺には何か分からねえけど、レオには分かるんだな?」
「分かる……と言えば分かる……が、儂が分かったところで、お主が分かるとは限らぬ。最終的には、伝えるようなものではなく、感じるといった方が良いような技術じゃからな」
禅問答のような言葉に、ちんぷんかんぷんのギヨームは首を捻った。レオナルドは、さもありなんと言った感じにウンウンと頷いてから、
「……ルーシーに期待しておったのじゃが、他の現代魔法に冴えを見せるわりに、幻想具現化の方はとんと理解出来ないらしくてのう……もう諦めておったのじゃが、まさかお主の方にその才能の片鱗があったとは。全く気づかなかったわい」
「才能? おいおい、俺に作れるのは銃だけなんだぞ? レオとは根本的に違うよ」
ギヨームが驚いて否定すると、レオナルドは苦笑いを浮かべながら、
「今はそう思っておるじゃろうが、その技術を理解していくうちに、認識も変わってくるじゃろう。そう、正に幻想具現化とは、その認知の歪みなのじゃ……すぐに理解せよとは言わぬが、まあ、話を聞いておけ。その軍用ライフルとやらを作り出したいのは確かなのじゃろう?」
「ああ。出来るのか?」
「うむ。恐らくは……どれ、少し脳のマッサージをしてやろう。スカーサハも座りなさい、久しぶりに、儂自らが手ほどきをしてやろう」
レオナルドはそう言って二人を座らせると、工房の黒板も使って自らの編み出した技術、『幻想具現化』について話し始めた。