ラストスタリオン   作:水月一人

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いい年こいたwwおっさんがwww冒険者ギルドとかwwwwww

 どこへ行くなり好きにしろ……

 

 アイザックと決別した鳳とジャンヌは、メアリーの住んでいた謎空間から脱出し、城の裏にある大庭園に戻ってきた。彼らは一度城に戻って仲間たちに事の経緯を伝えようと思ったが、それより早く、二人が裏切ったことが城に知れ渡っていたらしく、中から彼らを探す兵士たちの声が聞こえてきたので、断念せざるを得なかった。

 

 なんとなくアイザックは邪魔をしないだろうと勝手に思っていたが、やはり他の仲間達を連れて行かれるのは嫌だったのかも知れない。もしくは、ジャンヌにけちょんけちょんにやられた神人が、復讐心から勝手に行動したのか……どっちにしろ、何も知らない兵士と戦うわけにもいかず、二人は隠れるように裏庭から森林を通り、城を取り囲む運河を渡って城下町とは反対の方へと逃れたのだった。

 

 パーティーチャットで仲間たちと連絡を取れないかと考えもしたが駄目だった。会話機能があることに気づいてないのか、もしくはもう、彼らも鳳たちを仲間だと思ってないのか……穀倉地帯の麦穂の間に隠れながら城の様子を窺っていると、段々と考えが暗くなってきた。

 

 それも仕方ないだろう。勢いで出てきてしまったが、これからどう生きていけばいいのか、二人は全く何も考えていなかったのだ。

 

 勝手がわからぬ異世界で、元の世界に帰れるあてもなく、本当なら城下町で情報を得たり武器を買ったり、準備くらいはした方がいいだろうに、もはやそれも叶うまい。ロールプレイングゲームで言えば、こんぼうも50ゴールドも与えられずに、いきなり城外に放り出されたようなものだろうか。ゲームならどんだけケチなんだ、この王様はと笑ってられるが、いざ自分が同じ状況にハマったらため息しか出なかった。

 

 とはいえ、

 

「いつまでも、ここでこうしてても仕方ない。とにかく街を見つけようぜ」

 

 鳳がそう提案し、ジャンヌがコクリと頷いた。

 

 城下町の外には穀倉地帯が広がっていたから、もしかすると探せば農夫なり猟師なりが住む集落が近くにあるかも知れない。地平線が見えるほど遠くまで広がる平原には、見たところそれらしき集落は見えなかったが、幸いにも近くの丘の向こう側まで街道が伸びているのは確認出来たから、街道を辿っていけばいずれどこかの街に辿り着くだろう。

 

 鳳たちは街道を遠目に見ながら、まずは丘の上を目指した。直接、街道を進んだほうが良いのだろうが、万が一、城から追っ手が出てきたとしたら、漫然と街道を行くのは危険かも知れないと思ったのだ。尤も、後からしてみれば考えすぎでしかなかったのだが。

 

 遮蔽物のない平原を強い向かい風に逆らいながら歩いていると、鳳の前を進んでいたジャンヌが立ち止まり、遠くの方を指差した。

 

 指先を目で追ってみると、そこには数頭の牛がノシノシ歩いているのが見えた。もしかして、練兵場で鳳が仕留めた牛モンスターではないか? と思っていたら、突然、その牛の群れを取り囲むように、複数の人影が躍り出て戦闘が始まった。

 

 ピカピカと閃光が走り、炎が上がる。牛モンスターと戦っている連中は狩りに慣れているらしく、大きな牛の群れを圧倒している。逃げ惑う牛を容赦なく剣士が襲い、血しぶきが舞い散った。かなりの使い手だ。きっと手練の冒険者なのだろう……冒険者? 自然とそう思ってしまったが、本当にそんなものがいるのかな……とぼんやり考えていると、

 

「ゲームで見慣れた光景だから勘違いしちゃうけど、やっぱり異世界なのね。この世界では普通に、その辺りを魔物が跋扈してるんだわ……もっと気をつけなきゃ」

 

 というジャンヌの言葉にハッと我に返った。

 

 そうだった。ここはもうゲームの世界ではない。夢みたいな話であるが、これが現実なのだ。今、モンスターに襲われても、戦えるのはジャンヌだけ。鳳はせいぜい怪我をしないように逃げ惑うしかない。そう考えると、街道を外れて歩いていることが、ものすごく不安に思えてきた。

 

 二人は慎重かつ足早に先を急いだ。それでも街道を進まなかったのは、丘の上という高所を目指したほうが、結局は街を見つけるのに都合がいいと思ったからだ。

 

 その丘は遠くから見ると小さく見えたが、実際に登ってみると結構な高さがあった。城下町から峠までは約5キロほどの距離があり、意識しなければ気づかないくらいの、なだらかな斜面が1キロ以上続いていた。

 

 その斜面を滑り降りるように風が吹き付け、体を押し返すものだから遅々として進まない。それでも一歩一歩進んでいくと、峠にあった樫の大木の下までたどり着いたら、そこは素晴らしい絶景だった。

 

 眼下に広がる穀倉地帯の麦穂が、風に揺れる度にキラキラと輝き、まるで金の絨毯みたいだった。遥かに臨むアイザックの城の城下町は、放射状に伸びる道路で綺麗に区画整理されており、外の田園風景と併せてヨーロッパの町並みを思わせた。

 

 しかし二人を喜ばせたのはそんな景色ではなく、丘を登りきった先に街を見つけたことだった。

 

「見て、白ちゃん。あそこに街があるわよ」

 

 遠目にもはっきりと見えるくらい濃い黒煙が立ち上り、長い煙突が何本も天に伸びている。街道にはひっきりなしに馬車が行き交い、まだ街までかなりの距離があったが、往来の雑踏が手に取るように分かるくらい、かなりの人口を抱えた街のようだ。

 

 丘を挟んで反対側に見える城下町とそう距離は変わらないように見えたから、両者の間は10キロくらいだろうか。そこへ辿り着くにはまだまだ大分歩かなければならなかったが、目標が見えている分だけ気楽になったらしく、街へ到着したのはそれからあっという間だった。

 

 何が書いてあるのかさっぱり分からない汚いゲートをくぐって、ところどころ石畳が剥げた街路を突き進む。喧騒と人混みはかなりのもので、地球の大都市を思わせるくらいの賑わいだった。

 

 行き交う人波に揉まれていると、なんだか歩き慣れた日本の雑踏を思い出して懐かしくなる。まだ異世界に召喚されて2日しか経っていないはずなのに、それがものすごく昔のことのように思えた。

 

 街の中がゴミゴミしているせいか、馬車は街の中まで入っては来ず、町の入口を表すゲートの外側に停まって、そこで荷物を下ろしているようだった。大きな荷物を背負った人々が列をなして街の広場へと向かい、そこで積み荷を広げて商売している。

 

 露店を開くのに、特にルールとかは無いのかな? と思いながら、商品を眺めつつ歩いていると、そんな露天商の中に大きな獣耳をつけた人影を見つけた。あれは多分、カチューシャとかそんなんじゃない。

 

「なあ、あれはもしかして、獣人か?」

「やだ、可愛い! 私、ケモミミに目がないのよ」

 

 ジャンヌがオカメみたいに目尻を下げていたが、見たところ獣人達の境遇はあまりよくない感じだった。

 

 露天商の何人かは人足として獣人を連れているようだが、その扱いはムチで叩かれたり、頭ごなしに怒鳴られたりと散々なものだった。その逆は見かけないから、多分、この世界では基本的に人間>獣人の図式が成り立っているのではないだろうか。神人が人間を見下していたように、人間もまた獣人を見下しているのだろう。なんというか、救われない話である。

 

「みんな、元気が無くて可哀相……ペットじゃないのは分かってるんだけど……」

 

 獣人のそんな扱いを見ていると、案の定、動物好きらしいジャンヌがしょげ返っていた。鳳はジャンヌほどのショックは受けなかったが、代わりに自分のステータスBloodTypeCを思い出し、そっちのほうが気になった。

 

 もしかして、BloodTypeCとは、彼らのことなのではないか? 思い返せば、アイザック達が鳳に向けていた視線が、露天商が獣人に向ける目つきと被っているような気がする。いずれどこかで確かめねばならないが、その時までBTのことは誰にも話さないほうが良いだろう。彼は心のなかでそう決めた。

 

 そんなこんなで露店を覗いたり、街の様子を眺めているうちに、気がつけば太陽は傾き、西の空が大分赤くなってきていた。心なしか人通りも少なくなり、人混みの間から吹き付ける風が冷たく感じる。

 

 そろそろ今日の寝ぐらを決めねばならないが、しかし困ったことに二人には先立つ物がなかった。

 

「まいったなあ……宿を取ろうにも金がなきゃどうしようもない」

「どさくさに紛れて、お城の兵隊さんから借りた剣を持ってきちゃったけど、これ、売れないかしら?」

「ナイスだ、ジャンヌ。でも、それを売っちゃったら本当に何も出来なくなるから、最終手段だな」

「そうね。なら今日は野宿かしら。一日二日なら、屋根がなくても我慢できるわ。その間にどうするか考えなきゃ……」

「いや、出来れば一日でも野宿は避けたい。どっかにダンボールとか新聞紙でも落ちてるならともかく」

「そんなのあるわけないでしょう」

 

 野宿するにあたって怖いのは、夏の暑さや冬の寒さだけではない。ノミやダニなどの見えない生物が一番やっかいなのだ。特にここは異世界であるし、何が地面を這っているかわかったもんじゃない。マラリアなどの病気を媒介する蚊などもいるかも知れないし、その手の病原体対策をしておかないと、病気に罹ってからでは遅すぎる。

 

「白ちゃん……なんか手慣れてるわね。一体、どういう生活してきたらそんな発想になるのかしら?」

「別に、こんなの常識だろう?」

「そんなことないと思うけど……でも、それじゃあ、どうするの? 野宿が駄目ならどこか屋根があるところに泊まるってことだけど」

「そうだなあ……」

 

 二人が今日の宿を探して、ああでもないこうでもないと話し合ってる時だった。そんな二人のことを遠巻きに見ていた男が近づいてきて、

 

「おまえら仕事を探してるのか? 金稼ぎたいならうちにこないか」

「……あなたは?」

 

 突然話しかけてきた男を警戒しつつ、鳳が何者かと尋ねてみると、彼は手にしていた鉄のヘルメットをカンカン叩きながら、

 

「俺はあの山で炭鉱を開いてる者だ。街に入って煙突を見たならわかるだろう? この街は鉄材の生産地で、かなりの石炭需要があるんだ。で、俺は炭鉱で石炭を掘り出して、この街に運ぶ商売をしているって寸法さ。見たとこそっちのおまえさんは、すげえガタイが良いから、いい坑夫になると思うな。うちは歩合制で能力とやる気さえあれば、いくらでも稼げるから。だからどうだい? うちに来たら」

 

 男は会話をしていた鳳ではなく、主にその後ろにいたジャンヌに向かって話した。無視されるのは少々傷ついたが、まあ、話の内容からそうなるのも無理はない。確かにSTR23のパワーがあれば、炭鉱のような力仕事は天職と言えるだろう。どうせ何かで金を稼がなきゃならないのだし、悪い選択ではないのではなかろうか。

 

 しかし、当のジャンヌは、

 

「冗談じゃないわ炭鉱夫なんて、可愛くない! か弱い私には似合わないわよ」

 

 男はどこがか弱いんだと言いたいのをぐっと堪えながら、

 

「そうかい? ……まあ、無理にとは言わないけどよ。おまえさんなら即戦力になると思うんだがな。もし気が向いたらあっちの事務所を訪ねてくれよ。うちは全寮制で、朝晩の食事付き、給料から天引きしたりもしないし、こんな恵まれた現場、大陸中探してもなかなかないんだぜ」

 

 彼は自慢げに胸を張ってそう言った。確かにそれが本当なら、労働基準法もないようなこの異世界では破格だろう。無一文の今、当面の生活資金を稼ぐためにも、暫く厄介になるのも悪くないかも知れない。

 

 鳳の方は割と乗り気なことに気づいたのか、男は改めて彼の方に向き直ると、

 

「兄ちゃんも興味あるなら来てくれよ。仕事ならいくらでもあるからさ」

「はい。考えときます」

 

 男はもう一度ジャンヌに声をかけてから去っていった。

 

 鳳がそんな男を愛想よく見送っていると、全く乗り気じゃないジャンヌがジト目で話しかけてきた。

 

「白ちゃん、あんたまさか行くつもりなの?」

「まあな。俺はなかなか悪くない選択肢だと思うけど」

 

 彼が頷くと、ジャンヌは信じられないといった感じで、

 

「私はごめんよ? 行くなら一人で行ってちょうだいね」

「そうは言うがジャンヌ、他に行くあてがあるのかよ?」

「それは……」

「全寮制って言ってたし、雨風しのげて飯も食える、無一文の今、乗らない手はないんじゃないか? 何も一生炭鉱夫やろうってんじゃないんだ。取り合えず、最初は彼にお世話になって、金が溜まったら改めて別の仕事につけばいいって話じゃないか」

「……でも、炭鉱よ? 多分、あなたが考えてるよりずっときつい仕事だし、命の危険だってあるんじゃないの。ちゃんとそういうリスクまで考えて決めたの?」

 

 言われてみると確かに……他にやれそうなことがないから飛びついてしまったが、リスクについては全く考慮してなかった。バツが悪くなった彼は、自分の浅はかさを気づかれないように、質問を質問で返した。

 

「そうは言っても、ジャンヌさんよ。俺たちにやれる仕事なんて他にないだろうし、大体、こっちの世界に来たばかりで、まだ何かやりたいってわけでもないだろう?」

「まあ……そうだけど」

「なら、他に選択肢はないじゃないか。それともジャンヌはやりたいことでもあるってのかよ」

 

 もちろん、意地悪するつもりで聞いたわけじゃない。寧ろ、本当に他にやれることがあるなら聞いてみたいという気持ちが強かった。

 

 その言葉に、ジャンヌはウンウン唸りながら考え込んでいたが、突然、巨体に似合わないもじもじした仕草を見せながら、

 

「……やっぱり異世界って言ったら、あれじゃない? 冒険者ギルドで冒険者登録して、ファンタジー世界を股にかける大冒険をするのが定番なんじゃない?」

 

 鳳は嘲笑った。

 

「はっはっは! いい年こいたおっさんが、何バカなこと言ってやがんだ。もう一度、周りを見てから物を言えよ。この街の露天商達は地に足をついた商売をしてるし、炭鉱経営者が地方労働者を雇って鉄鋼業を行ってるような世界なんだぜ。そんなゲームみたいな施設があってたまるかよ」

「なによ~……ゲームみたいな世界なんだから、冒険者ギルドがあったっていいじゃない」

「現実を見ろ現実を……さあ、馬鹿なこと言ってないで、さっきのおっさんに頭下げて今日の飯にありつこうぜ」

「まだ無いと決まったわけじゃないでしょ。取り敢えず誰かに聞いてみましょ。ちょっと、そこいくお兄さん!」

「おーい、恥ずかしいからやめろよ……」

 

 鳳に馬鹿にされたジャンヌは引っ込みがつかなくなったのか、顔を真っ赤にしながら通行人を捕まえて道を尋ねた。巨漢のゴリマッチョに突然からまれ通行人がビビっている。鳳はそんな可哀想な通行人を助けようと間に入ろうとしたが、

 

「へえ、冒険者ギルドならそこでっせ」

「あんのかよっ!!」

 

 助けるつもりが裏拳でビシッと突っ込みを入れる鳳のことを、奇異な表情で見つめながら通行人は去っていった。

 

 口を引きつらせながらそれを見送っていると、勝ち誇った表情のジャンヌが言った。

 

「ほれ見なさい、何事もチャレンジせず、すぐに諦めてしまうのが今の若い子の悪いところよ。文句を言うのは、まずはぶつかってからしなさいよね」

「う、うっせえな。だって、普通あると思わないだろ?」

「でも残念、あったのよ。ほら、いつまでもうじうじしてないで、ちゃっちゃと冒険者ギルドに向かうわよ。私達のチート能力があれば、きっとどうにかなるわよ」

 

 ジャンヌは不貞腐れるようにその場でへたり込んでいる鳳の首根っこを掴んで、ズルズルと引っ張っていった。

 

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