ラストスタリオン   作:水月一人

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違うだろうっ!

 すごい愉悦だった!

 

 自分のことをバカにしたあのクレアを抑えつけ、四つん這いにして無理やり後ろからガンガン突き上げてやったのだ。彼女は鳳の巨根に屈し、自らもっと犯して欲しいと懇願した後、何度も何度も果てたのだ。ざまあみろ。男をバカにするからそんなことになるのだ。鳳は快感で身悶えているクレアに吐き捨てるように怒鳴りつけてやった……

 

********************************

 

 ……最悪の目覚めだった。

 

 頭の中で工事でもしているかのようなガンガンとした痛みが走り、何故か体のあちこちに切り傷が出来ていてヒリヒリしていた。よほど飲みすぎたせいか、刺激を受け続けた胃がビクビクと痙攣して吐き気がした。体がフラフラしているのはまだ血中に大量のアルコールが残っているからだろう。

 

 素っ裸で寝てしまったからか体が完全に冷え切ってしまい、寒気がしてブルブル震えていた。悪寒がするのは、もしかすると二日酔いのせいだけじゃないかも知れない。

 

 夢見も悪かった。昨日クレアに言われたことを、よっぽど気にしていたのか、彼女を犯して言うことを聞かせる夢を見ていた。夢の中の彼女は素直で可愛かった。それを起き抜けに思い出して、気分は際限なく沈んでいった。

 

 これ以上ないほど最悪の目覚めだ。

 

 だがそう思ったのは束の間のことで、最悪はもっと別の形で現れた。

 

 とにかく、こう頭が痛くてはやってられない。まずは顔を洗って服を着て、アルコールを抜くため水を飲まねば……そう思って体を起こし、ベッドから降りようとした時だった。

 

 立ち上がろうとして手をついたら、何かいつもとは違う感触がした。あれ? と思って振り返ると、鳳の下敷きになるような格好でベッドの上にアリスが寝ていた。

 

 なんでこんなところに彼女がいるんだ? と思いはしたが、すぐにそんな考えは忘れてしまった。見れば彼女の服のあちこちがはだけて白い肌が晒されおり、ところどころ蚊に刺されたような痕が見える。そしてめくれ上がったスカートの下から覗く足の付根の辺りには、乾いた血の跡がべっとりとついていた。

 

「なん……で?」

 

 鳳は言葉を失った。一瞬にしてパニックに陥り、何をどうしていいかわからなくなった。びっくりするくらい動悸がしてきて、さっきとは比べ物にならない目眩が襲ってきた。信じられない程の罪悪感が押し寄せてきて、胸が苦しく張り裂けそうになった。呼吸をするのを忘れてしまっていたようで、ようやくそれを思い出して息を吸い込んだ瞬間、大量の汗がにじみ出てきて、さっきまでの寒気を助長して体の震えが止まらなくなった。

 

 しかしこれだけ動揺していても、自分が何をやってしまったのかはすぐ理解出来た。理解して、そして物凄い吐き気が襲ってきた。彼はベッドから飛び降りると、まっすぐ部屋の窓を開けて外に向かってゲロを吐いた。胃がひっくり返るような強い圧迫感が下からこみ上げてきて、何分間もげえげえ吐き続けた。

 

 胃の中身を全部吐き出すまで吐き気が収まらず、それがようやく収まった時には気力も体力もごっそり奪われていた。視界は涙で滲んで周りは何も見えなくて、もうこのまま何もかも投げ出して気絶してしまいたかったが、今は自分のことなど気にしていられないと、どうにかこうにか気を取り直し、彼は開け放った窓から叫んだ。

 

「誰か! 誰かいないか!! ペルメル! ディオゲネス!」

 

 しかし街はひっそりと静まり返っており、誰の返事もかえってこなかった。地面にはところどころ黒い焦げ跡が残っており、昨日、自分がさんざん暴れまわったせいで、町の人達がみんな逃げ出してしまったのだと彼は気づいた。

 

 どうすればいいのだろうか……? わからなかったが、とにかくアリスをこのままにしてはおけないと思い、彼はたった今逃げ出してきたばかりのベッドに戻った。彼女はそのベッドの上で、死んだように眠っていた。その姿が、これが夢ではなく現実であることを、嫌でも彼に思い出させた。

 

 どうしようもない後悔の念が押し寄せてくる。

 

 動悸と目眩で頭がおかしくなりそうだったが、それでも彼は彼女に近づくと、手を取って脈を取り、生きていることを確認した。しかしそれでホッとしてはいられなかった。彼女の呼吸は弱々しく、顔色は真っ青で死人のようだった。体のあちこちが擦り傷だらけで、よほど自分が乱暴にしてしまったのだろう。

 

「アリス……アリス!」

 

 呼びかけても返事はなく、揺すってもピクリとも反応しなかった。投げ出された手足は人形のように力なく、放っておいたそのまま死んでしまいそうだった。

 

 このままじゃいけない……でも、どうしたらいいのだろうか……?

 

 鳳は反応を示さないアリスを前にして、オロオロと部屋の中をうろつきまわることしか出来なかった。彼は医者じゃないから、今彼女に起きていることがわからなかった。やがて、とにかくその医者を呼んでこないと始まらないと思った彼は、服を着てフェニックスの街まで医者を呼びに行こうと考えた。だが服を着ている途中で考えが変わって、彼はベッドの上に寝ていたアリスを抱き上げると、取るものも取り敢えず家から飛び出した。

 

 確か町外れの孤児院には医務室があったはずだ。医者を頼るなら、とにかくそこへ連れて行くのが一番早いだろう。彼はアリスを担ぎながら、ひっそりと静まり返る街の中を駆け抜けた。

 

 空はようやく白み始めたばかりで、まだ足元も覚束なかったが、そんな薄闇の中でも彼はどうにか孤児院までやって来れた。寝静まっている建物を見ると、古い田舎の小学校みたいな建物の端っこから明かりが漏れていた。子供たちがいつ体調を崩すかわからないから、医療スタッフが常駐しているのだろう。彼は迷わずそっちへ向かった。

 

 医療室は学校の保健室みたいなもので、外からでも内からでも入れるように勝手口がつけられていた。彼はその入り口に立つと、アリスを抱えて塞がっている両手の代わりに、足を使って扉をドンドン叩いた。

 

 その音が思ったよりも大きかったからだろうか。間もなく、中から不機嫌そうな表情をした女性が出てきて、

 

「なんです? 騒々しい。そんなに大きな音を立てなくても聞こえていますよ……どうしたんですか?」

 

 確かカナンの診療所にいたアスタルテという名の看護師である。鳳は彼女に向かってアリスに起きたことを伝えようとしたが、言葉に詰まって何も出てこなかった。彼が入り口に突っ立ったままソワソワしていると、アスタルテはその腕に抱かれているアリスの様子を見て察しがついたらしく、

 

「……言いたいことは山程ありますが、今はとにかく治療が先です」

 

 彼女は鳳の胸ぐらをぐいと掴んで診療所の中に引っ張り込むと、戸惑っている彼にアリスを寝台に寝かせるように指示してから、パタパタと足音を立てて続きの部屋に駆けていった。

 

 間もなく、そこで仮眠していたであろう看護師たちが集まってきて、棒立ちしている鳳とアリスを見比べて暫し動揺したあと、気合を入れ直すかのように、シャンと背筋を伸ばして動き始めた。アリスを救うため、生々しい指示が飛び交っている。

 

「体を拭くお湯を。それから定期的に呼びかけて」「縫合を必要とする傷はありません」「ザーメンを吸い出すポンプを持ってきてください」「ポンプってこれですか?」「違う、そっちのシリンダー」「えーっと……」「これですよ。わかりませんか」「すみません」「先生、お湯を沸かしてきました」「そこに置いてください」

 

 アスタルテが中心となって、忙しそうに看護師たちに指示を飛ばす。彼女は人肌に温めた濡れタオルで、寝台に横になっているアリスの下半身を拭おうとして、すぐ何かに気づいたように手を止めると、振り返って鳳をドンと突き飛ばした。

 

「治療の邪魔です。出ていきなさい」

 

 廊下に押し出された鳳は、まるで紙切れのようによろよろとよろけて、壁に激突してズルズルとその場に腰を落とした。バタンとドアが閉じられて、中から緊迫した会話と忙しそうに動き回る足音が響いてくる。

 

 鳳が自分のしでかしたことに後悔しながら両手で顔を覆っていると、足音が近づいてきて彼の横でピタリと止まった。恐る恐る顔を上げれば、院長のベル神父が神様みたいな厳かな表情でじっと鳳のことを見下ろしていた。その顔を見ているだけで、彼は物凄い罪悪感を感じてドキリとしたが、神父はそんな鳳に向かって思いのほか優しい声で、

 

「ついてきなさい」

 

 彼はそう言うと背中を向けて歩きだした。その背中に生えた羽がパタパタとはためいている。鳳がどうしたらいいんだろうかと迷っていると、神父は数メートル先で立ち止まって振り返り、黙ってじっと彼のことを見ていた。彼はその目に急かされるように立ち上がり、先を行く翼人の後に続いた。

 

 外は大分白んできて陽が差し始めていた。鳳が連れてこられたのは礼拝堂で、窓から差し込む光に照らされた十字架が神々しかった。アリスの快気をお祈りでもするのかと思いきやそうではなく、彼は礼拝堂の隅に設けられた小さな部屋の扉を開けて鳳に入るように促してから、自分はもう一つある別の扉から中に入っていった。

 

 多分これはテレビなんかで見たことのある懺悔室だろう……鳳は少し迷ったが、やがて意を決して中に入っていった。

 

 室内には椅子が一脚だけあって、壁の向こうからは人の気配がした。入ってきた扉を閉めて椅子に座っていると、その壁にあった小さな窓が開いてベル神父が顔を覗かせた。

 

「ここで話したことは誰にも聞かれません。これは神とあなただけの対話です。父と子と精霊の御名によって。アーメン」

 

 ベル神父は十字を切ってパタンと窓を閉じた。その瞬間、静寂が戻ってきた。向こう側の人の気配ももう感じられず、鳳は本当にこの世界にたった一人になってしまったように感じた。彼はどうしようと戸惑っていた。まごついていると、壁の向こうから凛然たる声が響いてきた。

 

「神を信頼し、あなたの罪を告白しなさい」

 

 その言葉を聞いた瞬間、鳳は罪を犯してしまったのだと言う事実が、今までで一番強く感じられたような気がした。きっとそれまでは、どうやって後始末をつけようと、そんなことばかり考えていたのだろう。まずは罪を受け入れなければならない。そう思ったら、胸のつかえが取れたかのように、自然と言葉が口から出てきた。

 

「人を殺してしまいました……この世界に来たときから、いつかそんな日が来るんじゃないかと思っていました。俺はその罪に耐えきれず、酒に逃げました。酒に溺れ、気がついたら、女の子を傷付けてしまいました。

 

 このところずっと、好きだった幼馴染の声が聞こえてきたんです。殺せ、殺せって……それは憎しみを助長し、精神を蝕んでいきました。俺は昔、その女の子を他人に傷付けられて亡くしました。だから俺は絶対にそうならないと誓ったはずなのに、やってることは彼らと同じだったんです。

 

 力が制御出来ないんだから仕方ないじゃないかとか、むしゃくしゃしていたとか、クレアが悪いとか、仕事のストレスだとか……言い訳ばかり思いつきましたが、そんなもん全部ひっくるめて間違いでした。

 

 俺は単に、自分の弱さを受け入れられなかっただけです。とんでもない間違いを犯しました……

 

 魔王を倒してから体に異変が起きていたんです。気がついたら勝手にどんどん経験値が入ってきて、常人とは比べ物にならない力が溢れてきました。見ないように見ないようにしていましたが、勝手に上がり続けるレベルを前に……俺はこの力を使えばどんなことでも出来るという優越感や、他人とは違うという特別感に、知らず識らずの内に捕らわれていたんだと思います。

 

 STRを高くしたのも間違いでした。今の俺は軽く小突くだけで、簡単に人を殺すことが出来るんです。幻聴も聞こえるし、そのせいか俺は怒りをコントロールするのが段々難しくなってきて、殺人衝動や性衝動が抑えられなくなっていました。魔王化の影響があったんです。俺はそれが分かっていながら、いつまでも人の間で暮らしていたんです。

 

 本当はさっさとここから出ていかなきゃいけなかった。

 

 あと少し、ほんの少しでいいから、せめて領内が落ち着くまで……クレアが領主と認められるまで……ルナの子供が手がかからなくなるまで……そんな風に理由をつけて、その日を遠ざけてきたんです。

 

 魔王になってしまうくらいなら、いつでも死んで良いと思っていたのに。俺は本当は……怖かったんです。みんなと別れるのが……辛かったんです。

 

 でも……今は誰かを傷つけることの方がずっと怖い……アリスは何も悪いことしていないのに……一生懸命だったのに……そんな彼女の尊厳を踏みにじってしまうなんて。俺は自分が許せない。

 

 もう、限界だったんです。このままここに俺がいたら、世界を滅ぼしてしまうかも知れない。そうなる前にもう俺はここから出ていこうと思います……」

 

 鳳の長い告白が終わり、また沈黙が訪れた。それから一分くらい静寂が続いたあと、壁の向こうから神父の厳かな声が聞こえた。

 

「許します。あなたが罪を告白し、心から悔い改めようとしていることを、神は必ずお許しになるでしょう」

 

 鳳は壁の向こうに向かってペコリとお辞儀した。正直、信者でもなんでもない自分にその言葉が何の意味を持つのか分からなかったが、ただ許すという言葉を聞いただけで、何だか無性にありがたくなった。だが、そんなのは一時的な感情でしかないことは彼もわかっていた。

 

 懺悔室から出ると、すぐ反対側の扉の脇に既に神父が立っていた。彼は告白を聞いて、鳳が街を出ようとしていることを知り、思いとどまるよう何か言葉をかけてあげたいと思ったが、職務に忠実である彼には出来なかった。二人は無言で頷きあうと、そのまま礼拝堂から出ていった。

 

 と、廊下に足を踏み入れた時だった。そこをたまたまルナが通り過ぎようとしていた。深刻そうな表情の彼女は礼拝堂から神父と鳳が出てくるのを見つけると、始めはハッとした顔で立ち止まってから、すぐにバツが悪そうな表情を作り、鳳から視線を逸らせながら神父に訴えかけるように言った。

 

「あの……アリスが運び込まれたと聞いて……」

 

 医務室の場所を探していたのだろう。鳳はその態度から彼女が既に事件のことを知っていると悟ると、歯を食いしばり、深々と頭を下げながら、

 

「……申し訳ありませんでした」

「あ……ヘルメス卿」

 

 彼は何かを言いかけているルナを真っ直ぐ見ることが出来ず背中を向けた。ルナはそんな彼の背中に声をかけることが出来ず……そうこうしているうちに耐えきれなくなった鳳の方からその場を後にした。

 

 歩く速度が機関車のように、次第に早くなっていき、建物から出た時にはもう殆ど駆け足になっていた。

 

 鳳はハアハア呼吸を荒げながら無人の街を駆け抜けた。既に日が昇って明るくなった街には砂埃が舞っていて、まるで西部劇の鄙びた荒野の町みたいだった。

 

 自宅の近くまでやってくると、昨日の爪痕がくっきりと残っていた。地面はところどころ真っ黒に焼け焦げていて、ボコボコ穴が開いていた。雷の直撃で崩れたのであろう、庁舎の屋根から何枚も瓦が落ちていた。その衝撃でほとんどの窓が割れて、足の踏み場もないほどガラスの破片が散らばっていた。

 

 彼は自室に飛び込むと、大森林にいた頃から愛用していた大きなリュックを引っ張り出してきて、とにかく手当たりしだいに荷物を詰め込み始めた。今の自分なら大森林に入りさえすれば食料の調達は難しくないはずだ。だから着替えと火付け道具一式を入れ、あとは薬草やこまごまとした物をリュックに詰めると、彼はそれを背負って外に出た。もはや一刻の猶予もない。早く旅立たなければならない。これ以上ここに留まれば、もっと多くの人達に迷惑をかけてしまう。

 

 ところが、そう決心して家を飛び出した彼の前に、一人の女性が立ちはだかった。彼女は罪悪感と焦燥感のせいで硬直している彼の顔を、ここは通さないといった決意を秘めた目でじっと見つめていた。

 

 鳳はその眼力に負けて視線を逸らした。この様子なら、既に彼女も彼がしでかしたことを知っているのだろう。この世界に来てからずっと一緒にいた相棒……ジャンヌだった。

 

 ジャンヌは両手を大きく広げて鳳を通せんぼするように立ちふさがると、キッと睨みつけるような視線で彼に向かって言った。

 

「どこへ行くつもり?」

 

 鳳はその目を真っ直ぐ見ることが出来ずに下を向きながら、

 

「……どいてくれ。俺はここから出ていかなければならない。お前は既に知ってるだろう? この世界の勇者は、魔王を倒した後に魔王化の影響に晒されるんだ。世界そのものが魔王を求めて強い個体を支配下に置こうとしている。俺はそれに負けないようにしていたが、どうも限界みたいなんだ。これ以上ここにいたら、また誰かに迷惑をかけてしまう。だから行かなきゃ……」

「バカヤローーーッッッ!!!」

 

 まるで疾風のような速さでジャンヌの拳が飛んできた。下を向いていた鳳はそれを見ることすら出来ず、直撃を食らって吹っ飛んでいった。物凄い痛みが頬に突き刺さり、ミシミシと音を立てて奥歯が折れた。

 

 彼はよろけながら壁まで吹き飛んでいくと、ドンと壁に肩を打ち付けてその場に崩れ落ちた。ヒリヒリと痛む頬っぺたと、ジャンヌに殴られたというショックで、彼の足は痺れたように動かなくなった。

 

 鳳は呆然としながら、懇願するように言った。

 

「聞いてくれ! もう自分でも抑えられないんだ。日に日に強くなっていく殺人衝動と、女を支配したいという欲望が……俺はもう、ちょっとイライラしただけで人を殺したくないんだ! あまつさえ、俺のことを信頼している女の子を傷付けたくなんて……だから頼むよ! 俺をこのまま行かせてくれ! 俺は魔王になるくらいなら……やっぱり死んだほうがマシなんだよっっ!!!」

「違うだろうっ!!!」

 

 しかしジャンヌは譲らなかった。彼女は目を真っ赤にして顔を紅潮させながら、なおも言い訳をしようとしている鳳に向かって叫ぶように言った。

 

「お前の気持ちなんかどうでもいいんだよ。逃げようが死のうが、好きにすればいいだろう!? 魔王になるってんならなればいい。その時は俺が止めてやるっ! ……でも今はそうじゃないだろう? まずは、ちゃんと謝りなさいよっっっ!!!」

 

 鳳はその言葉を聞いた瞬間、ハンマーで頭を殴られたような気分になった。

 

「傷付けてしまった子がいるなら、ちゃんと謝りなさいよ。それで罪が消えるわけでも、許してもらえるかもわからないけど……そうしないでこのまま逃げてしまったら、あなた死んだって後悔するわよ?」

「ああ……ああ……ああああああああぁぁぁぁぁ~!!!」

 

 鳳は馬鹿みたいに雄叫びを上げていた。それはいつしか涙声に変わっていき、止めどなく溢れる涙で、顔はぐしゃぐしゃになっていった。

 

 自分は罪悪感に押しつぶされて、また間違えそうになっていたのだ。みんなのためだと偽ったり、罪を犯した罰だとか言って格好つけたり、そうやって逃げ出そうとしていたのだ。

 

 ジャンヌに殴られ、責められ、その痛みで彼はようやく自分の間違いに気がついた。

 

 彼は絶対に許さないと思っていた連中と同じようなことを、自分がやろうとしていたことがショックで、そのあまりの情けなさで、体の力が全部抜けてしまった。

 

「さあ、行きましょう。駄目なら、私も一緒に謝ってあげるから」

 

 ジャンヌはそんな彼の腕をぐいと引っ張り上げた。肩に伸し掛かる鳳の体はずしりと重くて、殆ど自分で立っていることが出来ないようだった。彼女はそんな彼を担ぐようにして、ふらつきながら歩いていった。

 

 朝日に照らされた二つの影が折り重なって一つに見えた。二人の影はこんなに仲良さそうに見えるのに、どうして二人の心はこんなに離れてしまったのだろうと、ジャンヌは思った。

 

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