鳳がフェニックスの街で散々やらかしていた頃、ヴィンチ村のレオナルドの館では、何も知らないレオナルドとスカーサハが、今日も彼の魔王化を阻止する方法を探していた。しかし、いくら彼らが過去の文献をあたり、ケーリュケイオンを調べても、何の糸口も見つからなかった。
翼人を怪しんで調査に向かったギヨームからは、未だに何の連絡もなかった。彼は何か分かったらギルドを通じて連絡すると言っていたのだが、音沙汰ないのは何も無かったからか、それとも本当にあれが当たりだったからだろうか?
ギヨームは腕利きの冒険者だし、単に連絡が遅れているだけだと思いたいが、もしもそうでないなら誰か人を雇って調査をするか、直接行って確かめるしかないだろう。出来ればこの忙しい時に、そんなことはしたくないのだが……
スカーサハはそんなことを考えながら、今日もニューアムステルダムから取り寄せた文献を調べていた。そんな時だった。
「誰か! 誰か来てください!!」
いつもは静かな屋敷にそんな叫び声がこだました。聞き覚えのあるその声は、メイド長のアビゲイルのもののようだった。彼女にしては珍しく切羽詰まった声色に、何事かと廊下に飛び出せば、別方向から執事のセバスチャンが早足で近づいてきた。
「何かあったのでしょうか?」
「わかりません。旦那様の書斎からみたいです」
普段は慇懃丁寧なセバスチャンも、さっきの声によほど慌てているのか、スカーサハに一礼するとさっさと歩いていってしまった。不安に思った彼女はその背中を追いかけて、二人は共にレオナルドの書斎へと入っていった。
書斎にはさっき叫び声を上げたアビゲイルが呆然と座っており、中央でうずくまる誰かを支えているようだった。顔面蒼白の彼女が助けを求めるように顔を上げる。するとその膝には、ぐったりと力なく目を閉じたレオナルドの頭が乗っていたのだった。
「
「アビゲイル、一体どうしたのですか!?」
部屋に入った二人が驚きの声を上げると、血の気が失せた紫色の唇をブルブル震わせながらアビゲイルが言った。
「わかりません。換えのお紅茶をお持ちしたところ、旦那様がここに倒れておりまして、いくら呼びかけても目を開けてくれないのです」
「なんと! 旦那様……旦那様!」
セバスチャンがそれを確認するかのように、必死になって声を掛けるも、レオナルドは力なく薄目を開けたまま、まるで死人のように反応しなかった。
その姿を見たスカーサハの背筋に悪寒が走る。彼女はまさかと大君の元へと駆け寄って、その脈拍を取った。幸いなことに、不安は杞憂だったようで、レオナルドはまだ脈も呼吸もあるようだった。彼女はホッと安堵したが、それですぐ大君が目を覚ますわけじゃない。
何が原因で彼は倒れてしまったのだろうか……? スカーサハが手かがりがないかと周囲を見渡すと、アビゲイルの背後に無造作に転がっていたケーリュケイオンを見つけた。状況からして、大君はここでこれを調べていたのだろう。何かを発見してこうなってしまったのか、それとも……?
倒れた原因はわからなかったが、いつまでも主をこのままにはしておけない。彼らはぐったりして目を覚まさない彼を寝室へと運んだが……結局、それから数日間、レオナルドはいくら呼びかけても目を覚ますことはなかった。
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タウンポータルをくぐってガルガンチュアの村のギルド前に出ると、最近、職員になったばかりのマニの母親がたまたまそこに居て、ギョッとして固まっていた。彼女は鳳がポータルを使うことを知っていたが、やはりいきなり空中から飛び出して来られると誰だって驚くだろう。
鳳が脅かしてしまってすまないと謝罪すると、彼女は慌てて首を振って、
「とんでもない、勇者様には親子ともども、いつもお世話になっておりますから」
「マニは元気ですか?」
「はい。元気に族長を務めております。こうして親子一緒に暮らせるようになったのも、みんな勇者様のお陰です」
別にそんなことはない、マニもお母さんや、レイヴンたちみんな一人ひとりが頑張った結果だろう。鳳がそう言うとマニの母親が否定し、それをまた鳳が謙遜し返すといった感じに、暫くおばちゃんの井戸端会議みたいな応酬を繰り広げた後、彼はマニの居場所を聞き出してからその場を後にした。
マニは現在ガルガンチュアを名乗り、この辺一帯を取り仕切る酋長みたいになっていた。ピサロの襲撃以降、この辺の部族はみんなバラバラになってしまったのだが、それを解決した彼がリーダーとしてみんなから認められたのだ。
こうしてリーダーとなったマニは、狼人も猫人も兎人も、種族も混血も関係なく全てを受け入れると、元々、自分の村だけでやろうとしていた改革を行った。すなわち、マニのお母さん達レイヴンに鍛冶屋や雑貨屋などの人間がやるような商売をさせて、狩猟の得意な獣人たちには鉄の道具を与えたのである。
これは思った以上に上手く行って、襲撃のせいですっかり数を減らしてしまった獣人社会を、急速に、そしてより大きく復興させる役に立っていた。獣人たちはレイヴンからのサービスを受けたお陰で、今までとは比べ物にならないほどの収穫を得られるようになり、また、今までは漫然と剥がしていたせいで、半分以上捨てざるを得なかった動物の皮も、レイヴン達が余すこと無く綺麗に剥がしてくれるようになり、皮革産業にも手が出せるようになったのだ。
そして、この皮をトカゲ商人達が欲しがり、ひっきりなしに村を訪れるようになって、そんなわけで村とギルドを結ぶ小道の両側には、今や所狭しと商店が立ち並び、ひっきりなしに人が行き交う大通りみたいになっていた。
ガルガンチュアの村は、この辺一帯の首都になったような感じである。
通りを抜けて村に入ると、きゃあきゃあと奇声を発しながら、大勢の子供たちが駆けていった。子供たちの集団は狼人に限らず、いろんな種族が入り混じっているようだった。だが、それを遠巻きに眺めている母親のグループの方は、種族ごとに別れていて、どうやら子供のほうが国際的なようであった。
壁なし藤棚屋根だった家々も大分様変わりしていて、全ての屋根がもう雨水を通さないようにしっかりとした板張りになっており、そして中央付近のもっと裕福な家々は、土や竹の壁で囲われていた。おそらく、レイヴンの左官屋がやってくれたのだろう。
元々家と呼べないようなものだったとは言え、この短期間に変われば変わる物だなと感心していると、村の中央広場の岩に乗っかって、日向ぼっこしている長老の姿が見えた。
元からヨボヨボの爺さんだったが、ちょっと見ない間に輪をかけて老け込んでしまったようだった。そろそろ死期が近いのか、こころなしか一回り小さくなってしまった彼を心配してか、直ぐ側には村の若い狼人が護衛のように立っていた。恐らく、子供たちにからかわれないように気を利かせているのだろう。
その護衛は、鳳がここで暮らしていた時、すぐ隣の家に住んでいた男だったようで、彼は鳳の姿に気がつくと顔を綻ばせて、
「ツクモ!」
彼は嬉しそうにそう叫んでから、すぐ近くにあった族長の家に駆けていっては、入り口から中に向かって、
「ガルガンチュア! ツクモが来たぞ!」
そんな彼の声に呼応してか、暫くすると族長の家からドタドタと足音を立ててマニが飛び出してきた。
獣人は成長が早いせいか、こちらも暫く見ない内に大分感じが変わっていた。数ヶ月前に別れた時は、まだどこか幼さを残していた顔つきはすっかり精悍な大人のものに変わり、そして体は父親には劣るが、引き締まった筋肉質なものになっていた。
鳳は南部遠征の時にたくさんの兎人に会ったことがあったが、それと比べてもマニはやはりというか、かなり違った。考えてもみれば、彼の血の四分の三は狼人なんだから、殆ど草食動物の皮を被った肉食獣と言ったほうが正しいのだろう。それでも彼に付き従う獣人たちより一回りは小さいのだが、まとっているオーラのようなものが違った。
尤も、性格の方はあまり変わっていないようで、彼は鳳の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきて、
「お兄さん! お久しぶりです。今日はどうしたんですか? 村に遊びに来てくれたんですか? 長老も喜びますよ」
「うん、実はちょっと行きたい場所があってね、その途中に立ち寄ったんだ。後で詳しく話すから、少し時間をくれないか?」
「もちろんいいですよ。今日は村に泊まっていかれますか? お母さんに頼んで、夕飯の用意をしてもらわなきゃ。そうそう、今は長老と一緒に暮らしているんです。ワンちゃんも一緒ですよ」
「そうなんだ。それは楽しそうだな。でも今日は泊まっていく気はないんだ。少しでも早く行かなくちゃなんなくて……」
「そうですか……残念です。それで一体、どこへ向かうつもりなんです?」
「おい、ガルガンチュア!」
鳳とマニがそうやって立ち話をしている時だった。背後に十数人の男たちを引き連れた、どことなく不遜な雰囲気を漂わせている狼人が現れた。彼は中央広場に入ってくるなり、そこにいた鳳の頭の先から爪先までをジロジロ見てから、
「この人間は誰だ? 誇り高き森の獣王がペコペコ情けない。おまえ、リーダーなら、そんなみっともない真似はよせ」
男はそう言うと鳳の肩をドンと突き飛ばした。それを見た瞬間、マニの毛が逆立つ。
「やめろゲルト! その人は勇者様だぞ!」
「なに? 勇者だと……?」
ゲルトと呼ばれた男はその言葉に一瞬面食らったように硬直したが、すぐに元の不遜な態度に戻り、
「ふん! それがどうした。たかが人間ごとき、この誇り高きゲルト様が恐れるものか。おまえ、こんなのの相手をしてないで、さっさと追い出してしまえ」
「おまえ、まだ言うか! これからは人間とも仲良くしなきゃいけないと、俺は何度も何度も口を酸っぱくして言っているだろうが!」
「おまえはおかしい。俺たちは今まで人間なんかに頼らずやってきた。なのに、どうして今更ペコペコしなきゃならない」
「ペコペコしろと言ってるわけじゃない。仲良くしろと言ってるんだ。不必要に相手のことを見下す態度を改めろと言ってるんだ!」
「自分より弱い相手を見下して何が悪い」
「人の強さは力だけにあるんじゃないと、何故わからない! 俺たちは協力しあうから強くなれるんだ。おまえの持ってる剣や爪は誰が作った!? おまえはレイヴンや人を見下しすぎる。いい加減にしないと、俺にだって考えがあるぞ!」
「なんだ? やるか? いいだろう。俺もいい加減、おまえが獣王なのが、我慢ならなかったんだ。ここらで決着をつけようじゃないか」
どうやらゲルトという男はマニの政敵のようである。彼は恐らく自分より若いマニに従うのが嫌なのだろう。一触即発の雰囲気の中、鳳は自分が来たせいでとんでもないことになっちゃったなと思いながら、二人の間に割って入り、
「まあまあ、待て待て、こんなことで喧嘩なんかするんじゃないよ。せっかくみんな一つにまとまってこれからって時に」
「しかし、お兄さん……」「邪魔するな!」
マニも、それに突っかかってきたゲルトも、二人とも不服な様子である。鳳はそんなマニを押し止めると、苦笑いをしながら、
「要するに、俺が強ければ問題ないんだろう? 相手してやるからかかってこいよ」
「なに!?」
まさか脆弱な人間ごときがそんなことを言いだすとは思わなかったのだろう。ゲルトは一瞬虚を突かれたように目を丸くしたが、すぐに気を取り直すと、
「ふんっ! 勇者だかなんだか知らないが、人間ごときが馬鹿にしがって! いいだろう! 死んでも俺は知らないからな!」
ゲルトはそう言うと間合いを測るようにパッと飛び退り、爪を立て、鋭い眼光で鳳のことを睨みつけた。鳳はそんな戦闘態勢の狼人に対して、徒手空拳のまま、特に身構えもせず棒立ちしている。
屈強な森の獣人に向かって、武器も持たずに突っかかってくるなんて……よっぽど自分のことをナメているのかと思ったゲルトは、怒り心頭と言った感じに牙をむき出しにすると、
「うおおおぉぉーーーーんっっ!!!」
腹の底から地面が震えるくらい大きな雄叫びを上げて、その無防備な男に飛びかかっていこうとした。
ところが……ゲルトの脳は確かに地面を蹴るように命令しているはずなのだが、何故か彼の足は地面に縫い付けられたかのようにピクリとも動かなかった。
おかしいと思った彼は、気合を入れ直すと、自分の太ももを叩いてから、再び飛びかかろうと地を蹴った。
しかし、地面を蹴ったはずの彼の足はなおも動かず、勢い込んでいた彼はバランスを崩して、前に進むどころか、その場に尻もちをついてしまった。唖然とするゲルトは慌てて立ち上がろうと地面に手をついて、そして気づいた。自分のその手が、何かに怯えるように、ブルブルと震えていたのだ。
ハッとして顔を上げると、鳳はさっきとまったく同じ場所で一ミリも動かず、じっとこちらを睨みつけていた。
彼は武器を持たず、ゲルトより一回りも二回りも小さい、見た目は貧弱な人間にしか見えなかった。だが、彼の野生の勘が騒いでいる。これは決して手を出してはいけない相手だと……
ろくに相手のことを見てもいなかったゲルトは、この時になって初めて彼の目を覗き込んで……そしてその瞬間、全身にゾクゾクと悪寒が走るのを感じた。
その瞬間、彼はまるで蛇に睨まれた蛙のようにピクリとも動けなくなり、ついには呼吸すら忘れて目の前の脅威にひたすら気圧されていた。彼にはもうこの場を収拾するすべが見つからなかった。彼は自分が虎の尾を踏んだことに、ようやく気がついたのだ。
それから暫く、そんな睨み合いが続いていたが……やがて鳳はふっと表情を和らげて、敵意は無いと言った感じに漫然とした歩幅でゲルトの方に近づいてくると、そっと手を差し伸べながら言った。
「どうした。殺したりはしないから、安心してかかってこいよ」
ゲルトはその言葉を聞いた瞬間、忘れていた呼吸を取り戻し、そして羞恥心から顔が熱くなっていくのを感じた。きっと彼の顔が毛深くなかったら、周りに気づかれていただろう。
彼は差し伸べられた手をバシッと払いのけると、
「ふ、ふん! 生意気な人間め! 今日のところはこれで勘弁してやる!」
そう言うやいなや鳳に背を向けて、文字通り尻尾を巻いて逃げていった。
自分たちのリーダーが、まるで本物の獣になってしまったかのように四つん這いになって駆け去っていく……取り巻きたちは、わけも分からずその後に続いたが、中の数人には鳳の力に気づいた者もいたようである。
彼らは鳳に向かってペコペコとお辞儀をしてから去っていった。きっと後でゲルトにどやされるに違いない。鳳がそんな姿を苦笑いしながら見送っていると、すぐ隣にマニが並んできて、いい気味だと言った感じにニヤリとした笑みを浮かべながら、
「流石、お兄さん。あのゲルトが子供扱いだ。それにしても、随分雰囲気が変わりましたね」
「そうか? おまえほどじゃないだろう? 前までならまず話し合おうとしてたじゃん」
「獣人たちは、いつもこの通りで……遠慮していたら統制が取れませんからね」
「そうか。俺も似たようなもんだ。もう、なりふり構ってられないからな」
鳳がそんな言葉を口にすると、マニは不思議そうに首をかしげながら、
「何かあったんですか? そう言えば、話があるってさっき言ってましたが」
「ああ……ちょっと場所を変えようか? 歩きながら話そう」
鳳はそう言うと、まだ少しざわついている中央広場から出ていった。
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「……魔王化ですか」
二人はいつも釣りをしていた近所の河原までやって来た。ヴィンチ村で作った釣り竿を持ち、マニが叩いた釣り針に餌をつけて糸を垂らす。川の流れと釣り糸の作る波紋をじっと見つめながら、鳳は魔王を倒した後に自分の身に起こった出来事を話して聞かせた。マニはそれを黙って聞きながら、う~んと驚きの唸り声を上げていた。
「ああ、どうもこの世界は俺を魔王にしたくって、不必要な力を無理矢理与えてきているらしいんだ。俺はそれがどこから来るのか、どうすれば阻止できるのか分からなくって、お手上げ状態なんだ。そんで、何か手がかりはないかと思って、ネウロイに行ってみようと思ってるんだけど……」
「ネウロイ!? 危険じゃありませんか?」
「ああ、危険だ。だから行くんだけど。ほら、ネウロイって魔族の故郷なんだろう? 普通ならそこで魔王が生まれるはずだ。なら、魔王化に関する何かがそこにあるかも知れないと思ってさ」
「うーん……そうかも知れないですけど。本当に大丈夫かなあ?」
鳳は少し投げやりな感じに、
「わからん。だからもしもの時のために、おまえには連絡係になって欲しいんだ。一応、一ヶ月で帰ってくるつもりなんだが、それを過ぎても俺が帰ってこなかったら、おまえからヘルメスの仲間に連絡してくれないかな」
「そりゃ構いませんけど……」
「おい、引いてるぞ」
鳳が指差すと、マニの釣り竿がしなっていた。彼はお手製のリールをキーコキーコと巻き上げると、釣り上げた小さな川魚をポイとリリースし、彼はまた代わりの餌を針に付け直しながら、
「……僕も、一緒に行きましょうか?」
「いや、その必要はないよ。一人のほうが動きやすいし」
「でも、人数が居たほうが何かあった時に安心じゃないですか?」
「いや、空飛んでくつもりだから、少ないほうがいいんだ」
「ああ……そっか」
マニは不安そうである。確かに、そんな危険な場所に一人で行くなんて聞いたら誰でも不安になるだろう。だが、鳳はなんとかなるんじゃないかと思っていた。それくらい、今の彼の力はどんどんおかしくなっていたのだ。
結局、それから一言二言会話を交わした後に、鳳は暗くなる前に発ちたいからと言って会話を切り上げた。マニは、本当に鳳は伝言を頼むためだけに来たのだなと残念に思いながらも、事情が事情だけに引き止めるわけにもいかないと、その決断に従った。
鳳は釣り竿をマニに返すと、すぐ近くの岩場に置いておいたリュックサックを背負い、
「それじゃ、ちょっくら行ってくらあ」
「危険そうだったらすぐに帰ってきてくださいよ。お兄さんなら、ポータルを潜れば一瞬なんだから」
「分かってるって」
彼はそれでもまだ不安そうなマニの言葉を軽く受け流すと、旅立つためにレビテーションの呪文を唱えた。その瞬間、周囲から風が集まってきて、ふわりと彼の体を宙に押し上げた。
ところが、いざ飛び立たんとして地面を蹴った彼の体は、少し上がったところで何故かガクリとバランスを崩し、そのまま地面に下りてしまった。
あれ? おかしいな……と思った彼は気を取り直して再度飛び立とうとしたが、今度もまた同じように、少し浮いたところで彼の体は地面の方へと引っ張られてしまった。
鳳は首をひねった。なんだか感覚がおかしい気がする。まるで、急に体重が増えてしまったような……
そう思った時、彼はハッと閃いた。そしてまさかと思いながらも、じっと意識を集中し、自分の腰の辺り目掛けて軽くゲンコツを振り下ろした。
「あいたああああーーーっっ!!!」
するとその瞬間……たった今まで二人の目には何も映っていなかった空間に、突然、ルーシーの姿が現れた。
あまりに突然のことにぎょっとするマニ。不意打ちにゲンコツを食らって地面をゴロゴロと転がるルーシー。鳳はそれを見て驚くと同時にため息を吐いた。どうやら彼女は、鳳に気付かれないよう、