ラストスタリオン   作:水月一人

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柔よく剛を制す

 鳳とルーシーがネウロイに飛び立った頃、フェニックスの街からはジャンヌとサムソンもまた旅立とうとしていた。

 

 旅立つ直前にやって来たギヨーム達の誘いを断り、自分たちは帝都に行くつもりだと告げると、二人は馬を買うために市場へと向かった。ところがこのところの好景気でよほど需要が生まれていたのか、フェニックス近辺の牧場の馬は殆どが売られてしまっており、残っていても信じられないような値段がつけられているのだった。

 

 A級冒険者、それも勇者パーティーの一員である二人なら、決して手が出せない額では無かったが、どうせ無駄になると分かっていては買う気になれなかった。彼らは移動のために馬を欲しているだけだから、帝都に着いたらそれを売り払うつもりだったのだ。あっちでは普通の値段しかつかないだろうから、これじゃ大損間違いなしである。

 

 仕方ないのでフェニックスで馬を買うのは諦めて、乗合馬車に乗っていこうとしたのだが、そのつもりで広場にやってきたら、臨時馬車駅は人でごった返していた。

 

 鳳が領内の移動の自由を認めたために、馬の値段が高騰しているわけだから、それは当然と言えば当然だった。移動の需要増で馬車の方も増発されているようだが、それでもまだ追いつかないくらい、今のフェニックスは人の出入りが激しいようだった。

 

 次の便はとっくに満席で、その次もその次も駄目そうであり、このままここで待っていたら、馬車に乗る前に日が暮れてしまうだろう。行商の馬車に便乗することも考えたが、向こうも商売だから足元を見られてしまい、軽く交渉しただけでその気も失せてしまった。ついでに言うと、サムソンは巨漢で場所を食うから、行商の方も嫌がった。

 

 そんなわけで、彼らは馬車を諦めると、そのまま徒歩で街道に出た。二人とも健脚だから、いくつかの村を徒歩で通り過ぎるくらい、大した問題にはならないだろう。なんなら帝都までそのまま行ってもいいくらいだが、それだと時間がかかりすぎてしまうから、結局どこかで馬を調達しなければならないのは間違いないのだが……

 

 早く見つかればいいけれど……そんな会話を交わしながら二人が街道を足早に歩いていると、いくつかの馬車とすれ違ったり追い抜かれていった後に、一台の馬車が彼らの少し前方で止まった。

 

 見たところ行商人ではなく、貴族か誰かの私用の馬車のようだった。もしかして知り合いだろうか? そう思いながら近づいていくと……天蓋付きの馬車の中から、羽をはやした壮年の男が窮屈そうに現れた。

 

「あら、ベル神父でしたっけ? こんな場所でお会いするなんて、奇遇ね」

「うむ、君等はヘルメス卿の友だったな。こんなところで何をしている?」

「帝都に行く途中なんですよ」

「……帝都に? 徒歩で向かうつもりか?」

 

 ベル神父が怪訝そうな表情を見せると、ジャンヌは苦笑いしながら、

 

「いいえ、まさか。実は馬が手に入らなくって……乗合馬車も混雑してて、とても乗れそうになかったから、馬が見つかるまで行けるとこまで行こうと思って、こうして歩いてるとこなのよ」

「そうか。君等のことだから修行の一環かと思ったが……そう言う事なら我々の馬車に来なさい。途中まで乗っていくと良い」

「良いんですか?」

 

 神父は厳かに頷くと、

 

「これも神の思し召しだ。少々窮屈かも知れないが」

 

 二人はお言葉に甘えて馬車に乗ることにした。

 

 ジャンヌ達が馬車に乗り込むと、神父の言った通り、中は本当に狭くて窮屈だった。と言うか、神父とサムソンが大きすぎて無駄にスペースを圧迫していると言うのが正しいかも知れない。神父は体が大きいだけではなく翼も生えているから、見た目以上にスペースを必要とするのだ。彼が器用に翼をたたんで、どうにか収まってる感じであった。

 

 馬車には神父の他にも数人の職員が乗り込んでいて、みんな首からロザリオを掛けているところを見ると、どうやら彼らも神父に感化されたキリスト教徒のようであった。みんな宗教をやっている人特有の、親切そうな笑みを讃えながら、道連れの二人を快く受け入れてくれた。

 

 それにしても、情報ソースはマリみてくらいしかないのだが、確かロザリオをつけているのはカトリックだけではなかったか……? とすると、この神父もカトリック教徒のはずだが、この世界にヴァチカンはない。いや、宇宙のどこかにあるのかも知れないが、この場合、彼らは何を信じていると言うのだろうか……? もしかして、この神父が教皇扱いなのだろうか……? コンクラーベとかしたのだろうか?

 

 ジャンヌがそんなどうでもいいことを考えていると、その信者らしき者が間をもたせる感じに尋ねてきた。

 

「勇者様方は帝都まで何しに?」

「昔の知り合いに会いに行くのよ。魔王と戦った仲間のメアリー……ほら、真祖ソフィアって子がいたでしょう?」

 

 ジャンヌは何気なく言ったつもりだったが、その言葉に馬車の中がどよめいた。いつも一緒に居たから分からなかったが、考えても見ればこの国の人にとって彼女は神様みたいなものだから、やはりインパクトが強いのだろう。

 

 ジャンヌはなんだか自慢しているみたいで気恥ずかしくなって、話題を変えるように尋ねた。

 

「あなた達こそどちらまで?」

 

 信者は軽く確かめるように神父の顔色を窺ってから、

 

「私たちは東方の孤児院に向かっているところです。フェニックスの方が軌道に乗ってきたので、暫くはあちらの方を手伝おうかと……例の事件以降、まだ院長が決まっていないのですよ」

 

 例の事件とは孤児を引き取る振りをして売春をさせていた件である。あの事件があったせいで、孤児院のある一帯は鳳に取り上げられて直轄領になっており、現在は国境警備の軍隊が駐留しているらしい。それは一時的な措置のつもりだったのだが、思ったよりも国境問題が長引いてしまい、駐留も長くなっているようである。

 

 神父は忌々しそうに言った。

 

「野盗が出没するよりはよほどマシだが、武器を持った大人がずっと近くに居ては、子供たちも不安だろう。行って安心させてやらねばならない」

「そうだったの……それは心配ね」

「プリムローズ卿が解決のために動いてくれているようだが、これがなかなか難しい問題らしい。難民をいつまでも放置しているから野盗が現れるのだが、かと言って、それを受け入れるのは地元民の心情が許さないそうだ。これも一つの戦争の爪痕だな。昨日まで殺し合っていた相手の手を取るのは、想像以上に困難なのだろう」

「そう……戦争は嫌ね。何も生み出さないもの」

「如何にも。それを商売のようにいつまでも繰り返している連中は、滅殺されてしかるべきであろう」

 

 その言葉にはどこか神父らしからぬ剣呑な響きが含まれていた。まさか神の使徒である神父がそんな言葉を口にするとは思いもよらず、一瞬、馬車内の空気が凍った。だが、神父はそれほど深い意味で言ったわけではなかったのだろう。彼はすぐに話題を変えると、またいつものような厳かな口調で語り始めた。

 

 馬車の中でそんな他愛もない世間話を繰り返しながら、いくつかの村を通り過ぎて、一行は一日目の宿場町に到着した。まだ日は十分高かったのだが、馬を休ませることも考慮しなくてはならず、余計な荷物が二人分も増えてしまったのだから文句は言えなかった。

 

 馬車を降りたジャンヌたちは神父に礼を言ってから別れると、今度こそその宿場町で馬を手に入れるつもりで歩き回った。ところが、ここまで来てもまだ馬の需要は衰えず、首都と値段も変わらないので断念せざるを得なかった。

 

 結局、その事情を神父たちに話して翌日以降も便乗させてもらうことになり、おまけに宿を探していると知ったら、わざわざ同じ宿の一部屋を空けてくれた。どうやら、東方に行く際の定宿にしているらしく、融通が効くようである。

 

 そんな具合に何から何まで世話になってしまって申し訳なく、彼らは荷物を宿に置くと手持ち無沙汰に街に出た。宿に居ると肩身が狭いから、暗くなるまで街でも散策していようというつもりだったが、観光地でもないただの宿場町は見どころも少なく、大通りを端から端まで歩いたらもう飽きてしまった。

 

 しょうが無いので街からすぐの穀倉地帯をぼんやり歩いていたら、隣にならんだサムソンがうーんと唸り声を上げながらこんなことを言い出した。

 

「ところであの翼人とは何者なんだ?」

「え……ベル神父のこと?」

「前から街で見かける度に思っていたんだが、今日一日、一緒にいて確信した。あれは相当の達人だぞ。あの尋常ならざる雰囲気は只者じゃない」

「そうかしら? 私にはそんな風に見えなかったけど……」

「鳳がスカウトしてきたそうだが、やはり勇者と言われるだけあって、凄い知り合いがいるものだな。達人は達人を呼ぶというやつだろうか」

「うーん……白ちゃんがそこまで考えていたとは思えないけど……」

「二人とも、ここに居たか」

 

 二人がそんな話をしていると、噂の張本人が街の方からやってきた。別に悪口を言っていたわけではないのだが気が引けて黙っていると、神父は気にした素振りもみせずにふらりと近寄ってきて、

 

「宿の者が夕食の支度をすると言っている。そろそろ戻らないか」

「え? もうそんな時間なの? ごめんなさいね、あなた達までお待たせしちゃって。すぐに戻るわ」

「構わない。では後ほど」

 

 神父はそう言うと踵を返してさっさと来た道を戻り始めた。このまま一緒に宿に戻るか、それとも少し間を置いて戻ったほうがいいだろうかとジャンヌが迷っていると、彼女の横にいたサムソンがその背中に声を掛けた。

 

「ベル神父! ひとつ聞きたいことがあるんだが」

 

 引き止める声を聞いて、神父はゆっくりと振り返った。サムソンはそんな神父に向かって少し緊張するような声色で、

 

「不躾なお願いで申し訳ないが……あなたを相当の手練とお見受けした。出来れば、一度でいいから手合わせをしてくれないか?」

「なに?」

「ちょっとサムソン!」

 

 神父は突然の申し出に戸惑い目を丸くしていた。ジャンヌはそれを見て失礼だと思い、サムソンを嗜めるつもりで声を上げたが、

 

「ふむ……食前の運動には丁度いい。一本勝負で良いだろうか?」

 

 ところが神父は思いの外あっさりとその申し出を受け入れてしまった。これにはジャンヌのみならずサムソンも驚き、

 

「え、いいのか?」

「ああ、いいぞ。君も徒手格闘をやる口だろう?」

「あ、ああ、そうだ。いや、そうです」

「なら私も心得が有る。かかってきなさい」

 

 神父は軽くそう言い放つと、腰だめに両手を構えて体全身を沈めるように深く腰を落とした。両拳を軽く握り、手首は空の方を向いている。左足はサムソンに向かって真っ直ぐに伸ばされ、右足は深く屈伸しており、半身になって迎え撃とうとする、なんとも独特な構えを見せた。

 

 しかし、低く構えたその姿勢に意外と隙が見つからなかったのか、サムソンは少々戸惑った感じに距離を取ると、ボクシングのファイティングスタイルみたいに両拳を顔の前に構えた。

 

 二人はそのまま暫しお見合いをするかのように睨み合ったあと……その空気に耐えきれなくなったサムソンの方から仕掛けた。

 

 巨大な肉弾のようなサムソンが、巨体からは想像も出来ないような速度で神父に飛びかかっていく……

 

 ところが神父は、サムソンの拳が届くより前に、独特な動きで一瞬にして間合いを縮めると、その動きに驚いている彼の脇をすり抜けて背後を取ろうとした。

 

 サムソンはそうはさせじと慌てて振り返り、窮屈そうに小さくジャブを放つ。

 

 しかしそんな無理な体勢で打った拳では、神父を捕らえられるわけもなく、神父はサムソンに密着したまま更に円を描くように彼の背後を取ろうとして、二人はまるでダンスでもしているかのようにもみ合いを始めるのであった。

 

 隙があればすぐ腕を絡め、足を刈ろうとする神父のいやらしい動きを嫌って、サムソンが距離を取ろうと大きく飛び退く……

 

 すると神父はその隙を逃さず、彼の呼吸にあわせて跳躍し、着地点まで先回りすると、サムソンの足を水平蹴りの要領でパンと跳ねてしまった。

 

 着地点を狙った攻撃に流石のサムソンも耐えきれず、バランスを崩して背中から地面に落下していく……しかしサムソンはパンっと地面を両手で叩いて受け身を取ると、そのままバク転の要領で一回転して着地した。

 

 また、二人の間に距離が生まれ、それと同時に動きが止まった。

 

 サムソンの額から、ひんやりとした汗が流れ落ちた……神父は見かけによらず、打撃系ではなくて投げを得意としているのだろうか? しかし、その独特な構えを見て、サムソンは考えを改めた。いや、どっちが得意と言うわけではなさそうだ、きっと両方やるはずだ。

 

 サムソンは今度は好きにはさせないぞとばかりに、一直線に突っ込んでいかず、間合いに入る直前にフェイントのジャブを無駄打ちしてから、タイミングをずらして飛び掛かっていった。

 

 神父はそんな動きにはまったく釣られず待ち構えたまま、いよいよサムソンの拳が届くかという距離に入ろうとした瞬間に、また独特な動きで彼の体勢を崩そうとした。

 

 しかし今度はそれを予想していたサムソンが、間合いを外そうとする神父の動きを先回りして拳を突き出す。先手を取られた神父はなかなかやるなといった感じに、サムソンの拳を受け流すと、二人の間でバシッバシッと乾いた音が轟いた。

 

 次々と繰り出されるサムソンのパンチを、神父はくるくるとダンスを踊るような独特な動きでいなしていく……それを傍から見ているジャンヌの目には、どれだけの技の応酬があったのかわからないくらい、二人の動きは鋭くて速かった。

 

 しかし、総じて素人目にも分かるのは、サムソンの方が苦戦しているということだった。彼は神父の低く構える独特な動きに翻弄されて有効打を浴びせることが出来ず、逆に神父はいくらでもサムソンの隙を突くことが出来ただろうにそうはせず、まるで弟子に稽古でもつけるかのように淡々とその攻撃を受け流していた。

 

 彼が達人だと言ったサムソンの言葉に間違いはなかった。神父はどことなく中国拳法に似た技を使い、一方的に繰り出されるサムソンの攻撃を一度もその体に受けることなく、全て腕や足を使って防御していた。

 

 そして最後にバチンッ! っと肉と肉がぶつかりあう音がして、また二人が距離をとった時、サムソンは体から湯気が出るくらい汗だくになり肩で息をしていたが、それに相対する神父の方は、何もなかったかのように涼しい顔をしているのだった。

 

 実力の差ははっきりしていた。地上最強を自負していたサムソンはその事実に打ちのめされそうになる気持ちを抑えると、裂帛の気合を込めて、

 

「うおおおおおおおぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

 と雄叫びを上げ、

 

「爆・裂・拳っっ!!!」

 

 全身の力をただただ右の拳に乗せた必殺の正拳突きを、神父に向かって打ち放った。その気合の一撃がまるで巨大な岩のような錯覚を思わせ、神父に迫る。

 

 しかし、彼はそんなサムソンの一撃を真正面に受け止めると……次の瞬間、ありえないことが起きた。

 

 サムソンの拳を神父の腕が絡め取ったと思った瞬間、突然、サムソンの体がふわりと浮き上がり、ポンとその体が宙に飛んでいってしまったのである。

 

 まるで空気投げみたいに、サムソンの力を利用したその投げは、信じられないくらい高く放物線を描き、彼の体を宙に飛ばした。

 

 サムソンは驚きながらも、どうにか空中で体勢を立て直そうとしたが力及ばず、背中から地面に叩きつけられた。強い衝撃と共に肺の中にあった空気が全部外に吐き出される。息苦しさに耐えきれず、四つん這いになってゴホゴホ咳き込んでいると、その時にはもう目の前に神父の足があって、彼ははっと顔を上げた。

 

 見上げれば神父はもうこれ以上やるつもりはないと言った感じに手を差し伸べながら、いつもの厳かな表情で立っていた。それを見て彼我の力量差を理解したサムソンは、力なく項垂れると、素直に負けを認めるのであった。

 

「参りました。俺の負けだ」

「いい運動になった。君もなかなかやるな」

「ご冗談を! ここまで清々しく打ち負かされたのはジャンヌ以来だ。びっくりするほどあなたは強いな!」

 

 サムソンは汗だくになった額を腕で拭いながら立ち上がると、彼とは対象的に汗一つかかずにいる神父に向かって頭を下げて教えを請うことにした。

 

「完全に俺の負けだ。どうしたらあなたみたいに強くなれるだろうか? 何かヒントを貰えませんか?」

 

 そんなサムソンの素直な態度に、神父はこれはいい加減なことは言えないなと、少し考えるような素振りを見せてから、

 

「そうだな……君は力が強いが、強いゆえにそれに頼りすぎてしまう傾向がある。柔よく剛を制すという言葉がある。硬い剣は脆く砕けてしまうが、柔らかい剣は折れてもまだ使い道があるだろう。一見して無駄に思えることも、柔軟さを持って取り組んでみれば、意外と面白い発見があるものだ。例えば、君はいつも最高の力で拳を打ち抜こうとするが、それも間違いではないが、次の動きに繋げるためにもっと遊びがあっていいはずだ」

「なるほど……」

「だが無駄なものは無駄でしかない。君は先程フェイントのつもりで、何もない空に拳を打ち出していたが、あれは無駄だ。もっと自然に、流れるような動きを意識したほうがいい。自然で無駄のない動きというのは、案外避けにくいものなのだ。水は柔らかくて掴みどころがないが、その流れは岩をも砕く。形がなく、変幻自在に姿を変える水のような構えが、私は体術の理想だと思っている」

 

 サムソンは感嘆の息を漏らした。たった今、戦ってみたからこそ分かる。神父の言う通り、彼はいつも無駄のない直線的な動きを心がけているが、一見して無駄な神父の回転するような動きに全ていなされてしまった。

 

 それどころか、無駄な動きをしていないつもりのサムソンの方がこれだけ息を乱していると言うのに、神父の方は平然と汗一つかいていないのだ。これには圧倒的な実力差以外にも、埋められない何かがあるのだろう。

 

 サムソンはそれを認めると、神父に向かって頭を下げ、

 

「御見逸れしました。まったくもって、あなたの言う通りだ。俺は感動した……神父……いや、師父! よろしければ、俺をあなたの弟子にしてくれませんか?」

「なに?」

 

 サムソンが目をキラキラしながら詰め寄ると、神父は珍しく戸惑ったような表情で後退ったが、すぐにいつもの厳かな表情に戻り、

 

「うーむ……私には孤児院の仕事がある故、弟子は取れないが、プリムローズ領までの道行きでいいならば稽古をつけて差し上げよう」

「よろしいのですか!?」

「ああ、君がそれでいいならな」

「もちろんです、師父! ジャンヌ、先を急ぎたいところすまないが、東方まで彼らと行動を共にしてもいいだろうか?」

「ええ、私もそれで構わないわよ。お師匠様が出来て良かったわね、サムソン」

 

 鳳の魔王化阻止は、もしも見つかればいいなといった程度のものだった。なら然程急ぐ旅でもあるまい。ジャンヌは苦笑しながらその提案を受け入れた。

 


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