ラストスタリオン   作:水月一人

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鳳さん……正座

 狭い室内に、まるで工事現場みたいにバリバリと飯を貪り食う咀嚼音が響いていた。ミーティアの膝に突っ伏していた鳳は、アリスが運んできた食べ物を見るなり、それに飛びついて、まるで飢えた狼のようにガツガツと食い始めた。

 

 その食いっぷりは尋常ではなくて、それを見ていたギヨーム達は、彼に何があったのか聞きそびれてしまうくらいだった。と言うか、そんなの聞くまでもなく、その落ち窪んだ眼窩とげっそりと痩けたほっぺたを見れば、彼がお腹をすかせていることは一目瞭然だった。どうやらこの様子だと、ルーシーとはぐれてからほぼ一週間、彼は何も食べていなかったと考えていいだろう。

 

 鳳は差し出された食料を飲み物のように流し込み、うっかり喉につまらせてゲホゴホと咳き込んでは、アリスに出された水筒を引ったくるように受け取って、それをまたごくごくと飲み干した。

 

 顔面を紅潮させながら、喉に詰まった食べ物を嚥下した彼は、フルマラソンを終えたランナーみたいに呆然としたあと、はぁ~……とため息を吐いてから、

 

「いやあ~……死ぬかと思った。つーか、真面目な話、死んだと思ってたんだけど、なんで俺まだ生きてるの? あの後何があったの? いや、それより、みんななんでここに居るの? あれ? ここってまだネウロイだよね? みんなどうやってここまで来たの?」

 

 矢継ぎ早に投げかけられる疑問の数々に、ギヨームはうんざりした口調で、

 

「そりゃ、こっちのセリフだろうよ。助けに来てやったらいきなり襲いかかってきやがって。危うく死ぬところだったんだぞ」

 

 鳳はそれを聞いてポンと手を叩くと、少し興奮しながら、

 

「あー……ごめん。なんかよくわかんない内にあんなんなっちゃってたんだよ。俺もなんでギヨームとガルガンチュアさん? ……ってか、あれマニだったんだろ? よくわかんないけど、戦ってんなーって思ってたら、ミーティアさんまで出てくるし、マジわけわかんなくて。つーか、凄いね。なにあれ。君、暫く見かけないと思ってたら、アホみたいに強くなったね。なにやったらあんなんなるの?」

 

 ギヨームはそんなセリフを聞いて更にうんざりとため息を吐きながら、

 

「それでも、こっちがやられてんじゃねえかよ! おまえこそ人間やめてんじゃねえ、馬鹿野郎!」

「あいたーっ!!」

 

 鳳の言葉にイラッとしたギヨームが容赦なく頭を殴りつけてくる。鳳が強かに打ちつけられ、ヒリヒリする脳天を擦っていると、そんなギヨームの背後から苦笑交じりにルーシーが話しかけてきた。

 

「鳳くん、混乱しているのは分かるんだけど、そろそろ落ち着いて何があったか話してくれないかな? あの時、私をポータルで送った後、どうして君は一人でこっちに残ってしまったの?」

 

 鳳はルーシーに言われて、ようやく当時の状況を思いだし、

 

「あー、そうだった。なんて説明すればいいのかな……つーか、ルーシー。俺たちが別れて、あれから何日くらい経ってるの?」

「6日とちょっとだけど」

「ははあ……そりゃギリギリだったんだな。実はね? あの後、何かあったってわけじゃなくって、寧ろ何もなかったんだよ」

 

 ルーシー達はどういうことかと首を捻っている。鳳は正直あまり思い出したくないと言った感じにため息を吐いてから、

 

「実はあの後、俺はさっきの謎空間に閉じ込められちゃってたんだよ。ルーシーがポータルを潜った後、俺も続こうとしたら、いきなりポータルが消えちゃって、周りが見えなくてなって、ひたすら真っ暗で……それだけなら良いんだけど、何故か魔法も使えなくなっちゃってさ? ポータルも出せなきゃ、火をおこすことも出来なくって、参っちゃったんだよ」

「あー……」

 

 ルーシーはなんとなくその理由が分かった。鳳が閉じ込められたのは、恐らく精神だけのアストラル界。古代呪文は機械が操っているものだから、あの世界では何の役にも立たないのだ。ともあれ、そんなことを今説明しても仕方ないので話を促すと、

 

「特に何か危害が加えられていたわけじゃないんだけど、気がつけば、とにかく何も見えない真っ暗闇の中で、俺はどうすることも出来ずにふわふわ宙に浮かんでたんだ。もちろん、なんとかしようと足掻いてはみたさ。けど全然駄目で、気がつけば全身冷や汗まみれで、段々頭もガンガンしてきて、それでも1日か2日はまだなんとか頑張れたと思うんだけど……腹が減ってくると、もうまともな判断なんて出来なくなっちゃってさ? ついに頭がおかしくなったっていうか、魔王化の兆候が出てきて、あ、こりゃ駄目だ……って思った時には、俺はオークキングになっていたんだ」

「自分があれになっていたってのは覚えているのか?」

 

 ギヨームの問いかけに鳳は頷き、

 

「ああ。俺もオルフェウス卿みたいに、魔王になっちゃったんだなって思って、やばいとは思ったんだけど、寧ろこうして魔王になっても誰にも迷惑をかけずに死んでいけるなら、それはそれでありかなと……そう考えたあとは、殆ど意識を手放していた。たまに、ふっと我に返りもしたけど、その時はもうひたすら空腹と戦い続けている感じで、頭がおかしくなっちまった方がマシだとさえ思って……で、実際に考えないようにしてたら、そしたらなんか、ギヨームとガルガンチュアさんが出てきて、あれ? って感じで……」

「うっかり彼女を殺しそうになって、ようやく我に返ったってところか」

「いやあ、ごめんね。自分でも何やってんだかさっぱりだったから……つーか、どうして俺はオークキングになっちゃったんだろう。オーク族でもないのに、考えてもみればおかしな話だよな」

 

 鳳がそんな感想を漏らしていると、ルーシーが何かに納得した感じに、

 

「それは多分、鳳くんにとっての、魔王のイメージがオークキングだったからだね。だから君のクオリアがあれを呼び出してしまったんじゃないかな」

「クオリア? ……どういうこと?」

「さっきのあの真っ暗な世界……アストラル界ってのはクオリアが収められている場所のことなんだ。迷宮は、クオリアが物質世界に具現化したものだから、実は迷宮とさっきの世界は常に重ね合わせで存在しているんだ。迷宮の中が物理法則から逸脱しているのは、その影響を受けていたからだったんだね。

 

 鳳くんは、迷宮のルールに違反したせいで、物質世界から精神だけが引き剥がされて、アストラル界に取り残されちゃったんだよ。要するに、いきなり体を失っちゃったから、魔法も使えなければ何も見えなくなっちゃって、その恐怖心と言うか、心細さから逃れるために、最終的に自分を魔王に変えてしまったんだと思うよ。魔王ってのは強さの象徴でもあるでしょう?」

「ははあ……なるほど、なんとなくわかったけど……」

「今ので分かるのかよ!」

 

 というギヨームのツッコミはさておき、

 

「ところで、オークキングになってた俺をギヨームが倒した後に出てきたあれはなんだったんだろう。俺はあんな天使みたいなの見たことないぞ」

「そりゃ、あっちのほうが、本物のおまえの魔王のイメージなんだろ」

 

 今度はギヨームが何かに納得した感じに、

 

「魔王ってのはつまり神の敵対者、堕天使のことだ。だからもし、おまえが魔王化に耐えきれず魔王になっちまったら、きっとあんな姿になるんだろうよ」

「ふーん……そうか。俺はあんな風になっちまうのか。正直、ジャバウォックやオークキングみたいになるのは嫌だけど、あれくらいならなっちまっても別に構わないかもな」

「やめてくれよ? 勝てる気がしないから……」

 

 ギヨームの顔は、うんざりを通り越してそろそろげっそりしてきた。鳳はそんな彼に苦笑を返しながら、ふと思いついて、

 

「つーか、ルーシーからアストラル界なんて怪しげな単語が出てくるとは思わなかった。それって現代神智学の用語だよね? オカルト趣味の人でも無い限り、普通は知らないと思うんだけど……どこでこんな言葉を覚えたの?」

「そうなの? ミッシェルさんはおじいちゃんと同時代人って言ってたけど?」

「ミッシェルさん……?」

 

 鳳はちんぷんかんぷんと言った感じに首を捻ってから、

 

「ふむ……俺の方は一旦置いといて、ルーシーこそあの後どうなったの? 俺が閉じ込められたみたいに、そっちも閉じ込められちゃったの?」

「ううん。私はちゃんと帝都に辿り着いていたんだよ。で、暫く待ってみても鳳くんが全然出てこないから、きっと何かあったんだと思って……」

「え? 帝都に居たのに、どうやって帰ってこれたの?」

 

 ルーシーは、鳳と逸れた後にあった出来事を話して聞かせた。帝都にいたジャンヌたちと合流して迷宮に行ったこと。その最奥で迷宮の主ミッシェルと出会ったこと。彼はレオナルドの知人で、精神世界のエキスパートであること。彼に教えてもらって、カウモーダキーを使ってポータルを作り出し、ここへ戻ってきたこと。

 

 彼女が全てを話すと、鳳は目を丸くしながら、

 

「それじゃ、この短期間に迷宮一個攻略してきて、新たな力を得て、ついでにギヨーム達を途中でピックアップしてきたっていうのか? はあ~……いやあ、ホント凄いね、君。いや、君たち。ギヨームもそうだけど、マニも、さっきのあれはマニだったんだろ? つい先日別れた時とは、みんな別人じゃないか。どうしたらこんな急激に成長出来るってんだよ。精神と時の部屋にでも入ってきたの」

「だから、そんなことおまえに言われたくねえんだよ、こっちは」

 

 ギヨームがうんざりと返事を返し、ルーシーもマニも苦笑いしながらこっちを見ていた。

 

 鳳は、久しぶりに少し喋りすぎてしまい、喉の乾きを覚えてさっき貰った水をもう一口飲もうとし、水筒の中身が空っぽなのに気がついた。

 

「どうぞ……」

 

 すると彼の視界から、きっちり一歩分外れたところに立っていたアリスが、すっと前に進み出てきて、彼に一本の飲み物を差し出した。受け取る彼の隣には、さっきからずっと寄り添うようにミーティアが座っていて、少し潤んだ瞳で彼のことを見つめていた。

 

 鳳は、そんな二人の姿を見て、そう言えば、自分が何故魔王化を阻止しようとしていたのか? それは彼女らと末永く暮らしていくためだったことを思い出して、何だか急に気恥ずかしくなってきた。

 

 今はまだ道半ばであったが、彼女らはそれでも自分を信じて、こんなところまで追いかけてきてくれたのだ。彼は二人になんて声を掛けていいか分からず、ほんのり顔を赤らめながら、アリスに受け取った飲料のプルタブを起こして、中身をゴクゴク飲み始めた。

 

「……あれ? これって、コーラじゃん?」

 

 シュワシュワと舌の上で弾ける炭酸の刺激に驚いて、彼はたった今自分が飲んでいたボトルを口から離した。

 

 そして良く見てみれば、それは日本で暮らしていた時に、どこの自販機でも買えた赤いコーラの缶であることに気がついて、彼は驚きの声をあげた。

 

 なんでこんなものがここにあるんだろうか? というか、どうしてアリスが持ってるんだ? 彼が驚いて彼女に尋ねてみると、

 

「ご主人様の水筒が空になっていらしたので、すぐに換えをご用意しなければと、少し辺りを散策していました。すると、そこにあった不思議な箱の中に、奇妙な器に入った飲料水がございましたので、持ってまいりました。お気に召しませんでしたでしょうか?」

「いや、全然。コーラは大好物だったから嬉しいけど……って言うか、ご主人様?」

 

 アリスの呼び方がなんか変わってるな? と思っていたら、変わっているのはそれだけではなく、彼女の鳳を見つめる瞳も、今までと段違いに熱量を帯びたものになっているのに気づいて、彼は慄いた。

 

 そんな神様でも見るようなキラキラした目で見られては、あの日、欲望に耐えきれずに彼女を押し倒してしまった罪悪感が胸をえぐる。鳳が、戸惑いながらどうして呼び方を変えたのかと尋ねると、

 

「はい。お嬢様にあなたとの結婚の約束を報告しましたところ、今後はあなたにお仕えしなさいと仰せつかりました。これよりこの身はあなたの下僕。どうか一生、おそばに仕えさせていただきたく思っております。ご主人様」

 

 そう言って彼のことを見上げるアリスの瞳は、正に恋する乙女のようだった。

 

 あれ? 結婚しようって言ったのは確かだけど、そりゃ責任を取るためであり……つーか、ぶっちゃけ見方を変えれば、彼女にとって自分はレイプ犯なんだぞ……と、鳳が戸惑っていると、

 

「ところで、再会を喜び合ってるところ悪いんだが、一体、ここはどこなんだ? 確か、おまえら、迷宮を攻略中に逸れたんだろ? まさか、このへんてこな部屋もその迷宮の中なのかよ?」

 

 ギヨームの言葉にハッと我に返った鳳は、改めてアリスがコーラを見つけてきたという箱を見返して、そこが例のラブホ部屋の中であることに気がついた。さっきから自分が腰掛けているのは回転ベッドで、何も知らないミーティアが寄り添うようにそのベッドに腰掛けている。

 

 鳳は、もしも彼女がこのベッドが何のためにあるのか知ったらどんな顔をするのか、ほんのちょっぴり好奇心に駆られたが、まずはギヨームに返事しなければと、

 

「ああ、そうなんだよ。この迷宮はとにかく注文が多いやつでさ? 俺たちは迷宮の指示をクリアしながら、どうにかこうにかここまで辿り着いたんだけど、そしたらこの部屋が……」

 

 そう、説明していた鳳の顔が、みるみるうちに青ざめていった。

 

 みんな、言葉を飲み込んでしまった鳳のことを、どうしたんだ? と首を傾げて見ている。

 

 彼はゴクリとつばを飲みこんだ。

 

 どうしたもこうしたも、これ以上話を続けたら、ここで何が起きたかバレてしまう。秘密は墓まで持っていくつもりだったのに、こんなあっさりバレてしまうなんて……

 

 いや、まだだ。まだバレたと決まったわけじゃない。ここは口八丁手八丁でなんとか誤魔化してしまえば……

 

 鳳の頭がそうしてフル回転し始めた時だった。突然ブーンと言う電子音が聞こえてきて、部屋の奥にあったモニターに薄っすらと明かりが灯った。その小さな音に気がついたマニがどうしたんだろうとそちらを見て、それに気づいた他のみんなも釣られてそっちの方を向いた。

 

 そうして全員の注意がモニターに注がれると、まるでそれを待っていたかのように、徐に画面の右から左に向かってテロップが流れ始めた。

 

 絶・対・に・セ・ッ……

 

「あああああああぁぁぁぁーーーーーっっ!!!!」

 

 その時、突如、絶叫みたいなルーシーの声が室内にこだまして、キンキンとみんなの耳をつんざいた。驚いた全員の注意が彼女に注がれると、彼女はわたわたと大げさに両手を振り回しながら、まるでこの世の終わりのように青ざめた表情で、

 

「わああっっ!! 鳳くん! 見てみて、あそこ! ずっと探しても見つからなかった、部屋の出口があるじゃない! そうか! ここは男女ペアで入らなきゃいけない迷宮! 定員オーバーだから関係ない人は出てけってことだね! いけないいけない! ルール違反をしたらまた大変なことになっちゃうぞ! それじゃ、余計な人たちは部屋から退場しようか! さあさあ、ギヨーム君もマニ君も、グズグズしないでさっさと部屋から出ようね!」

「あ、おいっ!? 待てよ? 何なんだ急に、おまえ!?」

 

 ギヨームもマニも、突然のルーシーの奇行に驚いて、成されるがままに連行されていく。ルーシーはさらにアリスをロックオンすると、

 

「アリスちゃん! ご主人様に再会できて幸せなところ悪いんだけど、ここは奥様に譲ろうか!」

「あ、おい、ルーシー!」

 

 彼女はそう言って小脇に抱えるようにアリスを羽交い締めにして部屋の扉まで引きずって行ってしまった。鳳はそんな彼女を呼び止めようとして手を伸ばしたが、彼女は青ざめた表情で最後に一瞬だけ振り返ると、

 

「それじゃ、二人とも。あとはよろしく。ごゆっくり!」

 

 と言って、部屋から出ていってしまった。

 

 その瞬間、バタンとドアが閉まって、すーっとその扉が消えてしまった。鳳は慌てて部屋の壁をガンガン叩いてみたが、もうそこには外に通じる出口は無くなってしまっていた。コンクリートの壁は硬く無機質で、恐らく鳳が本気で叩いてみても、その先はどこにも繋がっていないだろう。

 

「また……閉じ込められたのか?」

 

 電光石火の早業に、鳳は殆ど身動きが取れなかった。流石、レオナルドに逃げることにかけては天下一と言わせただけのことはある。実に見事な逃げっぷりである。

 

「鳳さん」

 

 鳳が妙な具合に感心しながら、彼女らが消えていった壁に向かってため息を吐いていると、背後からミーティアの優しい声が聞こえてきた。どことなく甘えるようなその声に、どきりとして振り返れば、彼女が天使みたいな純白の笑みを湛えて、彼のことをじっと見つめていた。

 

 その笑顔が眩しすぎて、鳳は正視することが出来なかった。考えても見れば今、彼は好きな人とこの閉鎖空間で二人きりなのだ。ラブホなのだ。なんだか気恥ずかしくて息することすら苦しかった。次第に胸がドキドキしてきて、暑くもないのに冷や汗が出てきた。顔が紅潮しているのだろうか、視界がぼやけて目眩もしてくる。

 

 ミーティアはそんな初心(うぶ)な仕草を見せる鳳のことを、まるで聖母のように慈愛に満ちた瞳で見つめながら、何故か急に右手の親指をグイッと上げて、サムズアップのジェスチャーをしてみせた。

 

 なんだろう? 二人っきりになれて嬉しいという意思表示だろうか。鳳がモジモジしながら、彼女に倣ってサムズアップしてみせると、彼女はそれを見てクスリとした笑みを浮かべてから、その指をそのまま顔の辺りまで持ち上げていって、まるで後ろを見ろと言わんばかりに前後に揺らした。

 

 鳳の視線がその指先を辿って行くと……彼女の肩越しに例のモニターが見えた。そこには黒い背景に白字で、飾り気のないありふれたフォントでこう書かれてあった。

 

『絶対にセックスしなければ出られない部屋』

 

 鳳はそれを見た瞬間、思い出した。そう言えば、笑顔のミーティアは怖いのだ。彼女が恥ずかしがったり笑ったりすると、まるで般若のように邪悪に顔が歪むから、それが男を寄せ付けなかったはずだった。なのにさっきから、彼女は天使みたいに笑っている。

 

 鳳は、更に胸がドキドキしてきた。暑くもないのに額から汗がダラダラと垂れて、視界がぼやけて目眩がしてきた。

 

「鳳さん……正座」

「はいぃぃーーっ!!」

 

 彼女の笑顔はますます魅力的になっていく。鳳はそれを見て地面に両手をつくと、言われてもないのに自分から額を地面に擦り付けるのだった。

 

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