ラストスタリオン   作:水月一人

26 / 384
よくわかる現代魔法①

 異世界に召喚されてからたったの二日で、城から追い出されて行き場を失った鳳とジャンヌは、城からほど近くの街(それでも10キロくらいは離れてる)で生活を始めた。当初は二人で魔物退治などのクエストをこなすつもりだったが、鳳があまりにも無能であるため、現在はジャンヌ一人が冒険者として街周辺の魔物退治を行っている。

 

 冒険者稼業を始めたジャンヌは、やはりと言うべきか、驚くほどの活躍を見せギルド長を喜ばせていた。最初こそ、モンスターを殺すことを躊躇って教育係のギヨームを苛つかせていたが、一度経験してしまえば、廃課金と同じで罪悪感もなくなってしまったとかなんとか言っていた。

 

 例えはあれだがわかりやすい。元々、中二病を拗らせて女騎士ロールプレイまでしていた中年男性であるから、案外、こういうマタギ生活みたいなことが向いていたのかも知れない。今ではギルドのエースと呼ばれるほどにまで成長している。

 

 因みに鳳の方は、それを指を咥えて見ているだけで、たまに掲示板に張り出されるお使いクエストをこなして、小遣い稼ぎをするのが関の山だった。小遣い稼ぎと言うだけあって、本当に子供にも出来てしまうから、近所の子供と競争することもしばしばあり、気がつけばギルドの連中よりも、そんな子供たちと一緒にいることが多い始末である。

 

 冒険者ギルドはそんな具合に、街のお使いから魔物討伐まで幅広くやる、なんでも屋みたいなものだった。支部は勇者領を中心に世界各地にあるそうだが、通信技術が発達していないから、支部間の連携はあまり無いらしい。

 

 ただし、隣り合う支部は依頼内容次第で交流があるから、活躍すれば知名度もじわじわ浸透していくそうで、エースクラスは通り名で呼ばれ、世界を股にかける冒険者も中にはいるようだ。ところで意外……でもないかも知れないが、ギヨームも『ザ・キッド』の通り名で呼ばれる、割と知られた冒険者であるらしい。何というか、見た目そのままの名前である。

 

 因みに冒険者には達成した依頼の難易度でランク付けがされるのだが、彼は数少ないAランク冒険者の一人だそうだ。そんな彼は、元々は勇者領で活動をしていたそうだが、目立つことを嫌ってこっちの支部に移ってきたそうである。ギルド長は拾い物をしたと単純に喜んでいるようだが、ただの小学生にしか見えない彼が、たった一人でこんなガラの悪い街で暮らしているのは、なんだか腑に落ちない感じがした。

 

 両親はどうしているのだろうか? 異世界チート転生のお約束で、放浪者も見た目と違い中身は大人のようだから、自活していても不思議ではないのだが、彼はそういうプライベートな話はあまりしたがらなかった。

 

 さて……鳳がやれるような簡単な仕事を除けば、冒険者ギルドの依頼は主に3つに分類される。モンスター討伐、護衛、それから探索だ。

 

 まずはじめに、モンスター討伐は言わずもがな、人々に依頼されて人里に現れた魔物(モンスター)を狩る仕事である。

 

 この辺は帝国の食料庫と呼べるくらい穀倉地帯が広がっているのだが、すぐ南にはワラキアと呼ばれる大森林があって、そこから魔物がちょくちょくやってきては畑を荒らすらしい。国がなんとかしてくれればいいのだが、そんなのは現代人だから言えることで、こちらの農家は自分達で対処するしかない。しかし、魔物は全て猛獣だから、自警団のようなものを作っても限度がある。

 

 そんなわけでギルドは農家から依頼を受けて冒険者を派遣し魔物を退治する……まんま現代のハンターみたいな仕事だが、これが一番実入りも良くて依頼数も多い、ギルドの花形の依頼だそうだ。

 

 続いて護衛は、主に街から街へ渡り歩く商隊(キャラバン)を、目的地まで安全に送り届けるのが仕事である。たまに貴族なんかが、個人的に護衛を雇うこともあるそうだが、基本的に商隊相手だと思っていい。

 

 この街はヘルメス国の国境で勇者領へと続く街道が通っている。しかし勇者領へは森の中を通らなければいけない。森は魔物が棲息しているだけではなく、盗賊なんかも潜んでいるから、護衛の需要は割とあるらしい。

 

 何事も起こらなければこれほど楽な仕事はないのだが、難点は敵が出たとして相手を選べないことと、とにかく日数がかかることだそうだ。特に護衛は往復ではなく片道のことが多いから、行ったはいいが帰りは徒歩でとなりやすく、その間、別の依頼を受けたほうが結局は実入りが良かったということも多いらしい。だったら始めから商隊付きの傭兵になればいいやと、そのまま雇われる冒険者もいるらしく、需要が多い割に、なり手がすくない仕事のようだ。

 

 そして最後は探索……これには大雑把に二種類のものがある。

 

 まず一つは、魔物の巣を発見すること。この街は討伐依頼が頻発するくらい魔物がちょくちょく出没するわけだが、中には人里近くに巣を張って定期的に人を襲うような知恵のある魔物もいるらしい。鳳が城で殺されかけたゴブリンなんかがその典型である。

 

 冒険者ギルドでは集落からの依頼を受けて周辺を探索し、魔物の生息地を発見しては、駆逐するという仕事を請け負っているそうである。元々判明している巣を襲撃するのではなく、発見から駆除までするわけだから、かなりの経験と勘が試されるわけだが、ギヨームはこれが得意らしく、その相方としてジャンヌは主にこの仕事を受けているようだ。

 

 そしてもう一つの探索とは、文字通り遺跡(ルインズ)迷宮(ラビリンス)の探索である。この世界にはなんと、ゲームみたいな不思議なダンジョンがあちこちに点在するらしいのだ。

 

 ギルド長からのレクチャーでは……この世界の歴史は、記録に残っているのはせいぜい300年前からで、それ以前のことは口伝でしか伝わっていない。各地にある迷宮はその先史時代のものではないか? とのことだった。

 

 曰く、この世界には創世神話があり、それによると世界は四人の神様によって創られたのだとか。四人はそれぞれ、エミリア・デイビド・リュカ・ラシャと呼ばれ、万物の根源をなす四元素を司っていた。そう……エミリアである。メアリー・スーが、この世界の神様の名前だと言っていたのは、どうも本当のことらしい。

 

 四柱(よはしら)の神は仲良く世界を創ったまではいいものの、それを統治する人間のあり方で揉めて喧嘩を始めた。結果、ラシャはリュカを殺し、デイビドは逃げ出し、エミリアは閉じこもった。世界はラシャの生み出した魔王によって火に包まれたのだが……ここから先は、城で聞いた創世神話と同じである。

 

 エミリアは魔王を倒すべくソフィアという名の化身(アバター)を地上に遣わし、彼女が五精霊を生み出して魔王を倒した。その後ソフィアは行方不明となったが、五精霊は各国の守護精霊として実在している。300年前、本当に現れたことが記録として残っているのだ。

 

 そんなわけで、エミリアは神の中の神と呼ばれ、この世界で最も偉大なる神として崇拝されている。メアリーの言葉を借りれば、エミリアとソフィアと精霊は三位一体……その精霊に創られた神人たちは神の子孫であることを誇りに思っており、そうではない人間や獣人(リカント)のことを蔑んでいるそうだ。

 

 故に神聖帝国の正式名称は『神の神たる(デウス・)エミリアの治める(エスト・)聖なる帝国(エミリア)』と呼ぶ。彼らにとってエミリアは国であり神であるというわけだ。

 

 続いて、遺跡や迷宮は、ソフィアが魔王と戦った、神話時代のものと考えられている。

 

 迷宮(ラビリンス)と言うだけあって、その構造は人間の常識を超えており、トラップや謎解きはもちろん、奥に進んでるはずなのにいつの間にか外に出ていたとか、狐につままれたような出来事が当たり前のように起こるらしい。しかしその迷宮を攻略して得られるお宝もまた常識外れで、手に入れることが出来れば巨万の富を得ることもあり得ると言われている。

 

 具体的には、大昔、スクロール魔法を完成させた先駆者は、迷宮で得た宝を使用したのだと言われている。ティンダーの魔法を思い出せば分かるだろうが、あれに特許料が入ってくると思えば、迷宮がどれほどの富を生み出すかわかるだろう。要はそういう力が手に入るのだ。

 

 そんなわけで、迷宮探索はギルドでも最大目標の一つなのだとか。コツコツと知名度を上げてきたジャンヌは、今後迷宮にチャレンジする機会があるかも知れないと嬉しそうに語っていた。羨ましい限りである。

 

 さて、そんな具合に冒険者として着実に出世街道を歩いているジャンヌと対象的に、鳳の方はいつまで経っても街の中で燻っていた。彼が何をやっているのかと言えば、とにかく訓練所通いである。

 

 鳳は才能が無いだけではなくジョブもない。恐らく、このままじゃスキルを覚えることすら出来ないだろうから、訓練所でステータスアップするよう、教育係(ギヨーム)に命じられていたのだ。

 

 城でも言われたとおり、基本ステータスは地道な鍛錬で上げることが出来るから、ステータスの変動があれば何らかの職業に就くことが出来るかも知れない。訓練所では、木剣を使っての戦闘訓練のような実技の他、魔法の基礎を教えてくれる座学があり、鳳はどちらかと言えば後者の方で、知識を蓄積することを好んで行っていた。

 

 やはり、元の世界で魔法系ジョブに就いていたくらいだから、こっちの方に興味があったのだ。

 

 以前、ギヨームも話してくれたが、この世界の魔法は大まかに二種類が存在する。神人が使う古代魔法(エンシェント)と、人間が使う現代魔法(モダンマジック)である。

 

 そのうち古代魔法は、鳳たちがよく知る元の世界のゲームと殆ど同じものだった。どうしてそんなものがこの異世界に存在しているのかは分からないが、女神様の名前から察するに、彼女(エミリア)に何か関係があるのは間違いないだろう。

 

 古代呪文(エンシェントスペル)は、元の世界のゲームの魔法使い系ジョブが覚える魔法そのものであり、覚えられる種類が厳格に定められている。具体的にはゲームで魔法使いはジョブレベルが上がるごとに新しい魔法を覚えていくのであるが、こちらの世界でもそれを踏襲しているのだ。

 

 例えば、こっちの世界で魔法使い(メイジ)として生まれた子供は、生まれつき魔法レベル1のエナジーフォースを使うことが出来、成長して魔法レベルが2に上がったら、エンチャント・ウェポンやディスペル・マジックを覚えると言う寸法だ。

 

 因みにこの後、

 

レベル3 スリープクラウド・スタンクラウド

レベル4 ファイヤーボール・ブリザード

レベル5 ライトニングボルト

レベル6 レビテーション(・タウンポータル)

レベル7 ディスインテグレーション(・サモンサーヴァント)

レベル8 メテオストライク(・リザレクション)

 

 の順番で次々と覚えていくのだが、この世界の魔法使いは最大でもレベル5までしか存在しないらしい。じゃあ、なんでレベル8までしっかり定義してあるのかと言えば、真祖ソフィアが使っていたという伝説が残っているからだとか。

 

 因みに、カッコ内はゲームでは存在したのだが、こちらの世界では失われた禁呪と言われており、真祖ですら使うことが出来なかった魔法である。まあ、瞬間移動に召喚に復活と、その内容を考えれば理由も分かるような気がするが……

 

 ところで、鳳は神人に襲われた時にジャンヌをポータルで呼び出したことがあった。魔法どころかあらゆるスキルに対して無能である鳳が、何故あの時、都合よくポータルを作り出すことが出来たのか不思議ではあるが……今は考えても無駄だろう。エミリアのことも含め、もう少しこの世界のことが分かってから総括した方がいいだろう。

 

 続いて、神技(アーツ)である。これは元の世界のゲームでいえば、近接戦闘スキルに当たる。流し斬りとか、高速ナブラみたいなものだ。これは僧侶(プリースト)が主に使うものだそうである。

 

 古代呪文(スペル)がレベル5までしか使えないように、こちらもそれほど複雑な物は伝わっていないようだ。聞いた話では、流し斬りとか二段斬りとかパリィとか、元の世界では基本技と呼ばれるものしか存在せず、ジャンヌの使う紫電一閃とか快刀乱麻みたいな大技はないらしい。

 

 とは言え、それじゃ使い物にならないのかと言えばとんでもなく、技によってはバフやデバフ、ステータス異常を引き起こすようなものがあるのだ。

 

 例えばジャンヌとカズヤが試していたように、流し斬りが完全に入れば一時的にSTRが5減って行動が阻害される。いや、ジャンヌみたいな化け物なら阻害で済むかも知れないが、STRが10しかない鳳が食らえば半減だ。ただで済むとは思えない。ド派手な演出の大技よりも、実はこういった地味な技のほうが有用だったりするからわからないものである。

 

 尤も、これら古代魔法(エンシェント)はジャンヌのような例外を除けば、基本的に神人しか使えない。だから相手を選べば避けることが出来るが……現代魔法はそうはいかない。

 

 見た目、ただの小学生でしかないギヨームが、虚空からピストルを抜き出したように、その使い手はどこに存在するか分からない。おまけに、職業に左右されず、基本的にはMPを消費しないというのが現代魔法の特徴であるから、使用者によっては神人よりもよほど性質が悪かった。

 

 現代魔法はMPを使わないという性質上、もしかしたら鳳にも使うことが出来るかも知れない。故に彼は訓練所で主に座学を中心に受けていたのだが、この現代魔法(モダンマジック)なるものも古代魔法(エンシェント)同様に、いくつかにカテゴライズされていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。