ラストスタリオン   作:水月一人

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魔王からは逃げられない

 冒険者たちは高レベルの者が多かったから、MPもそこそこ溜まったようだ。それでも鳳の最大MPの半分程度にしかならなかったが、すぐに回復できるMPがこれだけあると思えば上等だろう。彼はさっき使った分のMPを補充してみて、それを確認した。

 

 ちなみに鳳たちがそんなやり取りをしている間も、ギヨームとマニは敵をうまく引き付けてくれているようだった。正直、上空から見た被害の大きさから、相当の苦戦を覚悟していたが、思ったよりも敵は柔らかいようだ。それもそのはず、よく見ればそれは自分の体を維持できるだけの耐久度が無くて、自分の肉片を撒き散らしながら行動しているのだ。

 

 ギヨームの作る対物ライフルの攻撃は、魔王の体に深々と突き刺さり、そいつの体力をきっちり削っていく。魔王はその攻撃を嫌がって何度も反撃を試みようとしていたが、自分よりもずっと小さなマニの動きに翻弄されて、完全に注意が削がれているようだった。

 

 このまま続けていれば、その内あれは自滅するんじゃないか? 鳳たちはそれを遠巻きに見ていたが、すぐにそれは間違いだと思い知らされた。

 

「信じられない! 人を食べているの!?」

 

 その時、ギヨームに散々痛めつけられたカバは雄叫びをあげると、急に背中を向けて人の群れへと突進していった。慌ててマニが引きつけようとするが、生命の危機に本能がそうさせるのか、食事中は彼の挑発が全くきかないようだった。捕食による回復を目の当たりにし、ルーシーはその光景に激怒した。

 

「あんなの絶対駄目だよ! みんなを逃さなきゃ! 私がみんなをポータルで逃がすから、鳳くんはあいつをもう人に近づけさせないで!」

「分かった。そっちは任せる」

「私も隠蔽魔法でルーシーを手伝いましょう。この戦いにはついていけそうもありませんから」

 

 スカーサハが悔しそうにそう言って、妹弟子の後についていこうとしている。鳳はそんな彼女のことを呼び止めると、ステータス画面を開いてパーティーリストの中から彼女の名前を探しながら、

 

「ちょっと待ってください。出来れば先生もこっちをお願いします」

「これは……」

 

 鳳が共有経験値を流し込むと、彼女の体が柔らかな光に包まれた。彼女は自分のステータスを確認して驚きの声を上げている。きっと今頃、レベルアップのファンファーレが鳴り響いている頃だろう。

 

「共有経験値ってやつで、えーっと、説明は後でしますから。今はとにかく古代呪文が使える神人がいると助かります」

「わかりました。レビテーション!」

 

 鳳が依頼した瞬間、正に打てば響くと言わんばかりに、スカーサハはたった今覚えたばかりの魔法を使って前線にすっ飛んでいった。人々に襲いかかろうとしている魔王を電撃で痺れさせ、クラウド魔法で瞬間的に意識を奪ってルーシーの隠蔽魔法を助けている。突然、魔王の体がごっそりと削げ落ちたのは、オルフェウスの竪琴で何かをしたのだろうか? さっきルーシーに話を聞いただけで、もう何か掴んだようだ。おまけにマニの動きが急に早くなったところを見ると、どうやら現代魔法も使っているらしい。

 

 ちょっと切っ掛けを与えただけで、すぐにこれだけの攻撃を試せるのか……流石にレオナルドの弟子なだけあると舌を巻きつつ、いつまでも見とれている場合ではないと、慌ててギヨームの陣取る高台に飛んでいったら、着いた瞬間に思いっきり殴られた。

 

「いつまでぼんやりしてんだよ! さっさと何とかしろ!! あれを仕留めるのがおまえの役目だろう!」

「わ、わりい……つい見とれちまって」

「まあ、分からなくもねえが……つーか、あの魔王も思ったより手応えがないしな。厄介なのは回復能力くらいで、ルーシーがみんなを逃しちまえば、それで打ち止めだ。本当に、あれは神の野郎が送ってきた魔王なんだろうか?」

「それは間違いないだろう。あんな滅茶苦茶な進化をする生物はいないよ。神が無理矢理作り出したとしか思えない。単純に、みんなが強くなりすぎたんじゃないか。おまえもまだ必殺技使ってないだろう」

「……案外、上の世界ってのも、俺たちが思ってるほどヤバい場所じゃないのかもな」

「油断するなよ。もしかするとカナン先生が言ってた通り、ヘルメスのほうが本命なのかも知れないから」

「そうだな……それじゃちゃっちゃとこいつを片付けて、あっちに合流しようぜ」

「ああ」

 

 鳳は頷くと、自分のステータス画面を開いた。アマデウスの迷宮で世界の仕組みを知り、自分の力を正当なものと認めたことで、彼はステータスを弄ることに全く不安が無くなっていた。すると、それまでは一度振ったらそれっきりだったステータスも、今は好き勝手に上げ下げ出来るようになっていた。

 

 多分、それをポジティブに捉えたことで、本当にこの世界がゲームみたいな感覚になっているのだろう。どうやってるのかは知らないが、エミリアが第5粒子エネルギーを使って、鳳の体が強化出来るようにしてくれたのだ。それは大昔、彼女と肩を並べてやったゲームの主人公みたいなものだった。ただそれだけのことと考えたら、もう怖いものは無くなっていた。

 

 魔王は人間の成れの果て……その有り得ない巨体と、鼻がひん曲がりそうな異臭と、ボタボタと肉片が溶け落ちる無様な姿を見ていたら、なんだか哀れな気がしてきた。自分とあれと、どっちがより化け物じみているというのだろうか。どこでこうも違ってしまったのか。そんなことを考えながら、彼は杖を構えた。

 

「どうするつもりだ?」

「スカーサハ先生に出来なくて、俺だけがやれるのは禁呪を使うことだけだよ。崩壊魔法(ディスインテグレーション)を仕掛けて、あれを消滅させる」

「そんな、上手くいくのかあ?」

「いくさ。今の俺のINTは99だ」

「……はあ!?」

 

 最後の市民がポータルへ消えた。それを見て、鳳が杖を高々と上げてぶん回すと、意図を察したマニがルーシーを回収し、すかさずスカーサハがレビテーションで二人の体を宙に浮かべた。

 

 それと同時に、彼女がライトニングボルトをぶっ放すと、それをもろに食らった巨大カバはビリビリ感電し、その場で巨体をズズンと地面に横たえた。その姿はあまりにも脆く、ギヨームの言う通りまるで手応えが感じられなくて、本当に肩透かしだった。

 

 だが、油断は禁物だろう。魔王はそれでもなお生き汚く、屍肉を漁って回復を図ろうとしている。鳳はそうはさせじと杖を天に掲げると、そんな魔王に引導を渡すべく、この世界最強の禁呪を唱えた。

 

「万物の根源たる粒子。光となりてその力を解き放て。陰は陽、陽は陰。崩壊せし物質は流転し、また新たなる世界を生み出さん。ディスインテグレーション!!」

 

 屍肉を喰らい、復活しようとしていた魔王の目論見は敢え無く潰えた。鳳の魔法が魔王を襲うと、その巨体が強烈な光によってかき消されてしまった。そしてそれが小さな太陽のように、いやそれよりも明るく光り輝いたかと思うと、突如としてその光は崩壊し、灼熱の炎を吹き上げる爆炎となった。

 

 次の瞬間、目もくらむような閃光と全身を叩きつけるような衝撃波が周囲を襲った。その爆風で周辺を取り巻く建物は吹き飛び、瓦礫の山がまるで砂埃のように街全体に舞い上がる。鼓膜を突き破るような鋭い痛みが走り、キンキンと耳鳴りがして、音は後からついてきた。堪らず、耳をふさぎ目を閉じると、鳳は古代呪文(エナジーボルト)の障壁を作って、自分とギヨームの盾にした。

 

 ゴオゴオと吹き上げる爆炎が空気を轟かす。あちこちから瓦礫が落下するバシャバシャという雨みたいな音が聞こえてくる。閃光の後、街は砂埃に塗れて何も見えなくなっていた。爆心地はクレーターのようにえぐれて、もはや元の町並みは原型を留めていない。

 

 終わった……鳳はそう確信していた。何しろこれだけの爆風が吹き荒れたのだ。その中心にいたあの怪物が無事であるわけがない。

 

「……嘘だろ?」

 

 しかしそれはあまりにも楽観的すぎた。鳳たちは、そいつの攻撃が単調すぎて全然当たらないから、その評価を低く見積もりすぎていたのだ。

 

 強さにだって種類はある。速さ、力強さ、頭の良さ、そしてタフさだ。そいつはとても頑丈だった。信じられないくらいに。

 

 砂煙が晴れてくると、爆心地には、未だあの巨体が健在だった。体の表皮が削れ、一回り、いや二回りは小さくなっているように見えたが、それでも、それはまだちゃんと呼吸をして、グルグルと気持ちの悪い唸り声を上げていた。

 

 呆気にとられる鳳たちの目の前で、そいつがヨロヨロ起き上がると、体の上に雪のように降り積もっていた瓦礫が落ちて、また砂塵が舞った。魔王は犬みたいに体をブルブルと震わせてそれを全部払いのけると、まるで馬のいななきのような咆哮をあげながら、高々と前足を上げた。

 

 全長60メートルはあろうかというそいつの直立は、正に聳え立つ高層ビルのようだった。一瞬にして日光が遮られ、街に巨大な影が落ちる。そしてそいつが前足を下ろすと、ズズンと強烈な地響きがして、本当に地震のように地面がグラグラ揺れていた。まるで自分がどこも怪我をしていないことを確かめているようだった。

 

 あれを食らって生きているのか?

 

 鳳は信じられない思いを抱えながらも、すぐさま自分の杖に残っていたMPを吸い出した。今の一撃で自分のMPを全て消費していたから、これがなければお終いだった。とは言え、自分の持てる限りのMPを消費した攻撃を跳ね返された今、この虎の子のMPがあってもジリ貧なことには変わりなかった。

 

「おい、どうすんだよ!?」

 

 ギヨームの焦る声がキンキン響く。

 

「俺にだって、わからないよ! とにかく、今は攻撃を継続するしか方法が無い。あいつに回復をさせなければ、いつか倒れるかも知れないから」

「本当に倒れるのか?」

 

 ギヨームが冷や汗を垂らしながらぼやいている。鳳も同感だったが、かと言って他にやれることはない。とにかく今は最善を尽くして、MPが無くなるまで攻撃を続け、無くなったら無くなったでその時に考えよう。

 

 しかし、鳳たちがそうして臨戦態勢を整えた時だった……

 

「グオオオオオオオオォォォーーーーーーッッッ!!」

 

 と、腹の底から響くような雄叫びを上げて、突然、ドッスンドッスンと魔王がその場で足踏みをし始めた。まるで馬が前足を掻くようなその姿から、もしかしてそのまま突進してくるのではないかと思った彼らは身構えたが……ところがそいつは鳳たちの前まで突進してくると、弧を描くようにして急旋回し、そのまま明後日の方向へ駆けていってしまった。

 

 何のつもりだ……? まるで高跳び選手の助走みたいに駆けて行ってしまった魔王の後ろ姿を、二人は今度は油断すまいと身構えながら、じっと目で追っていた。しかし、それは止まるどころかどんどん加速して行き、ついには街から外に飛び出してしまった。

 

 そして砂埃を上げながら草原を駆け抜けていった魔王は、あっという間に小高い丘を越えて、その向こう側に消えてしまった。鳳たちはそれを呆然と見送った後、まだ暫く動けなかったが……

 

「ど……どういうこっちゃ?」

「もしかして……逃げたのか?」

 

 ギヨームがボソッと呟く。まさか、魔王が逃げるなんて考えられないが、考えられないだけで有り得なくはない。これはゲームの中じゃないのだ。いや、そもそも逃げられないのは主人公の方で、魔王が逃げられないわけじゃない。

 

 鳳がパニックになってそんなどうでもいいことを考えていると、ルーシーを抱えたマニとスカーサハが彼らのところを飛び込んできた。

 

「鳳くん、あっちはヴィンチ村の方角だよ!!」

 

 ルーシーは、ぽかんとしている鳳たちの下へ駆け寄ってくるなり、青ざめながらそう叫んだ。鳳は一瞬、だからなんなの? と思ったが、

 

「……まさか、ルーシーが逃した人たちを追いかけたってことか!?」

 

 彼女はポータルで人々をヴィンチ村に送ったのだ。村はここからだいぶ遠いが、回復手段として食べる人間が居なくなったあのデカブツが、もしもそれに気づいていたとしたら……それは十分に考えられた。

 

「大変だ! すぐに戻ろう!」

 

 鳳がポータルを出し、5人は慌ててヴィンチ村へ戻った。

 

 村に戻るといつもの広場が避難民でごった返していた。命からがら逃げてきた人々はみんな泥だらけで、中にはひどい怪我を負っている人たちもいた。館の使用人たちが忙しそうに、そんな人々に応急手当をしている姿が見える。

 

 普段は長閑な過疎の村なのに、数千を超える避難民が詰めかけて、今にも死にそうな絶望的な表情をしてるのを見るのは堪えた。たが、実際に死んでしまった人たちや、あっちに残った人たちを思えば、ここはまだ天国だろう。尤も、あの巨大なカバが本当にここを目指しているのでなければだが。

 

 鳳たちがポータルから出てくると、避難民達が藁をも縋るといった感じに彼らのことを取り囲んだ。鳳たちは、そんな彼らを不安にさせまいと、もう大丈夫だと言って回ったが、実際にはこれからどうなるかは未知数で、またどこかへ逃したほうが良いのかも知れないと内心では不安に思っていた。

 

「鳳さん!」

 

 そんな避難民達を元気づけて回っていると、その姿を見つけたミーティアとアリスが駆け寄ってきた。きっと彼女らも館から応援に駆り出されたのだろう。手には包帯と水差しを握りしめていて、服はところどころが血で汚れていた。

 

 彼女らの背後にはアントンと気絶から回復したエリーゼも居て、どうやらミーティアと久しぶりに再会し、話に花を咲かせていたようだ。彼女らは鳳の下へ近づいてくると、

 

「話はアントンから聞きました。首都はとんでもないことになっているようですね。でも、鳳さんが帰ってきたってことは、あっちはもう片付いたんですよね?」

「……それが、まだわからないんだ。実は魔王と戦闘中、やつが突然俺たちに背中を向けて逃げ出してしまったんだよ」

「逃げた……?」

「ああ、信じられないんだけど。それでこっちの方に向かったから、村は大丈夫かって心配して見に来たんだけど」

 

 鳳たちがそんな会話を交わしている時だった。避難民達の間からどよめきのような声が漏れてきて、それが波のように村全体に伝わっていった。誰かが地響きのような音を聞いて、それがどんどん近づいていることにみんなが気づいたのだ。

 

 ドドド……ドドド……と、最初は馬群が遠くから近づいてくるような音が聞こえてきて、それはやがてズドンズドンと道路工事でもしているような衝撃音に変わっていった。地響きが文字通り地面を揺らし、ついさっきまで見舞われていたその恐怖を思い出した人々の中から悲鳴が沸き起こる。

 

 本当にやってきたのか? 鳳たちは村には手を出させまいと、水際迎撃をするつもりで上空に飛び上がった。あの魔王は図体がでかくて、思いのほか素早くもあったが、一度動きを止めてしまえば殆ど射的の的みたいなものだった。例え鳳の最強魔法が効かなくっても足は止まるはずだ。

 

 今度こそ油断せずに体力ゼロまで削ってやる……彼らがそんな決意をしながら待ち構えていると、ところがその地響きのような足音は、確かにニューアムステルダムの方からこっちの方へと向かっていたが、それはまっすぐヴィンチ村へはやって来ずに、そこよりも大分北の方を通過して、そのまま東へと駆け抜けていってしまった。

 

 当然、こっちへやってくると思っていたのに、まさか村を素通りするとは思わず、鳳はまた放心しかけたが、すぐに気を取り直すと奴の行き先を探るべく、更に上空へと高度を上げた。

 

 ヴィンチ村より東方に集落は無く、砂漠を抜けたらもうそこは大森林だ。鳳がこれ以上は無理という現界まで高度を上げて魔王の行く手を探ると、果たして、巨大な化け物の立てる砂煙は、本当に大森林へと向かっているようだった。

 

「どういうつもりでしょうか……まさか、あの魔王は本当に逃げ隠れしているつもりなんでしょうか?」

 

 鳳が手かざししながらそれを見下ろしていると、そのすぐ隣に並ぶように上がってきたスカーサハがポツリと言った。

 

 魔王はその巨体のパワーもあって、直線ならばとんでもなく足が速かった。ちゃんと計測したわけではないが、恐らく平均時速100キロは下回らない感じである。そんなのが森の木々を倒しながら走り去る様は、殆どブルドーザーかダンプカーである。

 

「しかし、逃げると言っても、あんなにデカくちゃ大森林でも丸見えですよね。どうしましょうか。このまま追跡するか、準備万端整えてから奴を追いかけるか」

「……このまま追いかけても、こちらが息切れするだけです。あれなら見つけるのは容易いでしょうし」

「そうですね。やっぱ一度戻って、MPをこれでもかってくらい溜めてから行ったほうが良さそうだ。あっちにはガルガンチュアの村があるから、そこから迎撃に出ましょう」

「いや、待て。やつは北東に向かってるようだ」

 

 二人がそんな会話を続けていると、それに口を挟む感じでギヨームがそんな言葉を口にした。その意味が分からず、二人が首を捻っていると、ギヨームは少し難しい表情を作り、

 

「……太陽の位置から方角を割り出すと、あいつは東じゃなくて北東に向かってる。このまま突き進めば、多分、行き着く先はヘルメスとオルフェウスの国境辺りだ」

「それがどうかしたのか?」

「忘れたのか? カナンはもう一体、魔王が現れたと言ってそっちに向かったんだ」

「あっ!!」

 

 鳳の心臓がドキリと跳ね上がった。まだ絶対とは言い切れないが、もしもそれが本当なら、あの魔王はもう一体の魔王に合流しようとしているということだろう。それが何を意味するのか……鳳はカナンの言葉を思い出した。

 

 戦力の分散は愚策だ。もしも勝てそうになかったら、一時撤退して合流しよう……

 

 それは魔王ではなく鳳たちに向かって言った言葉だったが、今こうして逃げ隠れしている魔王の姿を見ていると、あながちそれもあり得るのではないかと不安になってきた。魔王はただの化け物にしか見えないが、あれでも元は人間だったのだ。劣勢になった途端に逃げ出したり、あれにも全く知恵がないわけじゃない。

 

「ちょっと考えられないが……二体の魔王が共闘なんかしたら流石にマズい。ルーシー、ヘルメス国境にポータルを開くことは出来るか?」

「多分出来るけど、ゴメン。回復しなきゃMPがなくて……」

「俺のポータルで一番近いポイントは……帝都か。流石にあそこからじゃ時間がかかりすぎるな。ギヨーム、カナン先生とは連絡取れないのか?」

「あっちからは出来るみたいだが、俺からは無理なんだよ。おまえの念話と同じだ」

「俺の……?」

 

 ギヨームは多分、パーティーチャットのことを言っているのだろう。普段、あまり使わないからすっかりその存在を忘れていた。と言うのも、あれは距離が遠いと殆ど通じないからなのだが……一度、ものすごく離れていた大森林のマニと繋がったことがある。アマデウスの迷宮以降、能力に対する忌避が無くなった今なら、案外繋がるかも知れない。

 

 とにかく物は試しだ。カナンには繋がらないが、今までの経験からしてパーティーリストにある人物なら繋がる可能性はある。国境には今、ヘルメス軍が駐留して、反乱軍と戦っているはずだった。ヴァルトシュタインなら必ずそこに居るはずだ。

 

 鳳がそう思って自分のパーティーリストを眺めていると……ヴァルトシュタインより先に、彼はその先頭あたりに、クレア・プリムローズの名前を見つけた。

 


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