ラストスタリオン   作:水月一人

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本当の仲間

 暗闇に悲鳴が轟いた。その悲鳴に混じって水棲魔族の声が聞こえてくると、班員たちはパニックになって逃げ出そうとした。

 

 インスマウスに捕まってしまったら、彼女らはレイプされて魔族の子供を産まされる。そんなことには絶対になりたくなかった。

 

 でも、だからこそ悲鳴の主を助けなければ……と言う班員との間で口論が始まり、少パニックが起きている中、事情を察した鳳はいつまでも隠れていられないと彼女らの前に姿を現した。

 

 ザンッと大きな着地音を立てて、背後に彼が突然現れると、班員たちは腰を抜かして悲鳴を上げた。

 

「……あ、飛鳥さん!? あんた、生きてたの?」

 

 死んだと思っていた鳳の突然の登場に、班員たちは驚愕して声を震わせている。幽霊でも出てきたと思っているのだろうか。鳳は、足ならちゃんとあると、彼女らを睨みつけながら言った。

 

「俺があの程度で死ぬと思ったか。バカにしやがって」

「ごめん……私たち、本当はそんなつもりじゃ……」

「他の班の奴らに頼まれて、仕方なかったんだよ!」

「謝るから、だから……」

 

 班員たちは真っ青になり、口々に言い訳をしている。鳳はそんな場合じゃないと首を振ると、

 

「ああ、もう、そういうのはいいから。それより、グダグダ言ってないでついてこいよ」

「え? ついてこいって……?」

「もちろん、助けるんだよ!」

 

 鳳がそう言って走り出すも、班員たちは誰一人としてその後に着いてこようとしなかった。彼は数メートルほど駆け出したところでたたらを踏んで立ち止まると、眉を顰めて振り返った。

 

「どうしたんだよ? あの悲鳴が聞こえなかったのか?」

 

 班員たちはバツが悪そうに黙りこくっている。そんな中で、さっき一人だけ助けに行こうと主張していた訓練生が一歩踏み出し、

 

「で、でも……私たちが行っても、助けられるかわかんないし。最悪やられちゃったら、魔族の子供を産まされるかも知れないし……」

「まあ、そうだろうな」

「自信ないんです。だから……」

「でも、おまえらドミニオンになるんだろ? これから、魔族と戦おうってつもりなんだろう? そのための訓練を受けてきて、そのための装備も持っているんじゃないか。もしここで動かなければ、そんなのなっても意味ないんじゃないか」

 

 班員たちは相変わらずバツが悪そうに黙っている。鳳はそんな彼女らに向かって突き放すように言った。

 

「そうかい。じゃあ、逃げたきゃ逃げろよ。俺を陥れたことなら気にしなくていい。誰かに頼まれたから、仕方なく従ったんだろう。でも、それを後悔する気持ちがあるってんなら、これからはもう他人の言葉なんかに従わず、自分で決めろよ。ここで逃げると言うなら、自分の意思で逃げるんだ。俺は行く。じゃあな」

 

 鳳はそう吐き捨てると、今度は振り返らずに、悲鳴の聞こえた方向へと走っていった。

 

 班員たちとのやり取りで少々時間を食ってしまった。襲撃を受けてからどのくらいの時間が経っているだろうか。襲われてる連中も、ゴスペルを持ってるだろうから、そう簡単にはやられないと思いたいが、実戦経験がないから、案外、鳳の班の奴らとそう変わらないかも知れない。

 

 インスマウスの目的が生殖で間違いないなら、すぐに彼女らが殺されるということはないだろう。だが……生きているのと死んでいるのと、それってどっちの方がマシなんだろうか。男である自分には、想像することすら出来なかった。

 

 川に近づくに連れ、ギィギィという声は大きくなっていった。その騒がしさから推定しても、10や20では済まないだろう。最低でも数十体。それだけの数を一人でやるのは困難だろうが……

 

 パキパキと木の枝を踏む音が背後に続いている。結局、班員たちは覚悟を決めて、鳳の後に続いたようだ。みんな顔面を蒼白にして、既に泣いている者までいる。魔族と戦うと言ったら、新兵なんてこんなものなのだろう。

 

 自分はなんで平気だったんだろうかと他人事のように思い出しながら、鳳は腰にぶら下げていた自分のゴスペルを引き抜くと、振り返らずに班員たちに指示を飛ばした。

 

「俺が斬り込む! お前らは無理をせず射撃で援護してくれ! 絶対にバラバラになるなよ? 誰か一人でも襲われそうになったら、全員で助け合うんだ。俺もすぐ戻るから、パニックになるな。水から出た水棲魔族の動きは鈍い、焦らずに対処すれば絶対大丈夫だ!」

 

 彼はそう言い捨てると、筒状のゴスペルに光の刀身を伸ばして、単身、斬り込んでいった。

 

 狭い河原にはまるで地引き網漁みたいに、無数のインスマウスが蠢いていた。連中は押し合いへし合いしながら、時に相手の頭の上を乗り越えて、中央の何かを目指していた。そこから女性の悲鳴が上がり、藻掻く腕が空を切っていた。何を奪い合っているかは一目瞭然だ。

 

 鳳の横を複数の光弾が追い越していく。それが魚人の群れに突き刺さると、ボンッと弾けて血飛沫が上がった。それで敵襲に気づいた数体がギョロリとした目でこっちを見るが、もう遅い。鳳が光の剣を一閃すると、魚人共の体を真っ二つに切り裂かれた。

 

 スーッとケーキでも切るような手応えで、胴から切断された魚人の頭がボトッと地面に落ち、ドロッとした血液が地面を染めた。仲間が殺られたことでギィギィと大騒ぎをする連中は、アズラエルが連れていたギー太と見分けがつかず、なんだか少し悲しくなった。

 

 だがそんなことは言ってられない。鳳は襲いかかってくるインスマウスの群れの中を、光の剣を振り回しながら駆け続け、中央で助けを求めている訓練生のために、どうにかこうにか隙を作った。

 

 彼女は突破口を見つけるとボロボロになった服を引きずり、白い肌を晒しながら必死に転がり出てきた。そんな彼女に追いすがる魚人を切り伏せてやると、訓練生はゴロゴロと河原を転がり血まみれになりながら、援護射撃を続けている仲間の方へと駆けていった。

 

「ゴスペルは!!?」

 

 迫りくる魚人の群れをいなしながら叫ぶと、一拍あってから、

 

「ほ、他の班の人達と一緒に、まだ、あっちのキャンプに!」

 

 あっちというのがどっちか分からなかったが、多分、対岸のことだろう。対岸にはキャンプの跡らしき場所が見え、そこに物が散乱していた。

 

 鳳が川を一足飛びに飛び越えて着地すると、対岸にいた別の群れがその音に驚いて一斉に彼の方を振り返った。その迫力に、前に進むか後ろに戻るか少し迷ったが、キャンプの跡にゴスペルが転がっているのを見つけるや、彼はそれを拾って一直線に敵の中に突っ込んでいった。

 

 インスマウスの群れの中には、先程の訓練生みたいに、魔族に群がられている別の女生徒が見えた。

 

「受け取れ!!」

 

 インスマウスを斬り伏せながら強引に突き進んでいった鳳は、彼女に手が届くくらいまで近づくと、拾ったゴスペルを思いっきり投げた。瞬間、背中に衝撃が走り、無数の魚人に殴り掛かられバランスを崩したが、代わりに、たった今まで成すすべもなくインスマウスに嬲り者にされていた彼女が力を取り戻し、復讐とばかりに群がって来る魚人共を強引に蹴散らした。

 

 一角が崩れたのを見るや、鳳は足を踏ん張って追いすがる魚人の群れから逃げ出し、火事場の馬鹿力で大暴れしていた彼女と協力して脱出する。

 

 するとすぐ目の前に別の訓練生が転がっているのが見え……下半身をむき出しにして無残に放心している彼女を引っ張り上げると、一か八かと二人がかりで担ぎながら川の中を突き進んで、元来た岸辺へと駆け上った。

 

 そんな二人の後を追いすがるインスマウスの群れに、無数の光弾が突き刺さり、ドンドンドン!! っと光が弾けて、辺りに一瞬閃光が走った。

 

 それが目くらましになって追撃が怯み、どうにかこうにか逃げることに成功した鳳たちは、助けた訓練生を担いだままジャングルの中に飛び込んだ。班員たちは、それを的確に援護射撃で助ける。

 

「もう一人いるんだ!」

 

 放心状態の女生徒を地面に下ろすと、一緒に彼女を抱えてきた訓練生がハアハアと荒い呼吸を立てながら叫んだ。もう一人とは、きっと対岸に取り残された仲間のことだろう。一刻の猶予もないと、鳳が頷いて駆け出そうとすると、最初に助けた訓練生が彼が持ち帰ったゴスペルを引ったくるように手に取り、自分も連れて行けとばかりに二人の横に並んだ。

 

 その後に、鳳の班の連中も躊躇いもなく続く。ここまでの戦闘で、全身にアドレナリンが駆け巡り、恐怖心が薄れたのだろう。落ち着いてやれば出来るという自信も出てきたのか、その瞳はギラギラと輝いていて、最初とはまるで別人だった。

 

「俺たち三人で対岸に渡る。おまえらはまたこっち側から援護してくれ」

「分かった」

 

 班員たちはそれだけ短く答えると、鳳たちが渡河しやすいよう即座に射撃を始めた。彼らはその援護射撃を受けて、今度は危なげなく渡河に成功すると、三人で連携し片っ端から次々とインスマウスの群れを片付けていった。

 

*******************************

 

 落ち着きを取り戻し、訓練通りにやれば勝てると分かると後は早かった。鳳の班員たちからはそれまでの甘えた態度が一切無くなり、今までにない物凄い集中力で的確に敵を撃ち抜いていった。

 

 インスマウスの群れは確かに数は多いが、そのでたらめな攻撃は連携の取れた軍隊とゴスペルの前では敵ではなかった。光弾は当たりさえすればまず相手を無力化し、仮に組み付かれたとしても、身体強化能力のお陰で互角以上に戦えるのだ。

 

 それが分かってくると余裕が出てきたのか、彼女らは新型ゴスペルの能力を駆使して、ツーマンセルで一体の敵に対処するよう連携さえし始めた。新型によって威力を増した光弾が当たれば、それがどこであろうと相手はほぼ確実に絶命するのだ。

 

 お陰で途中からは、死角から攻撃を食らうことは無くなり、前衛の鳳たちはただ目の前の敵に集中するだけで済むようになっていた。そして形勢が完全にこちらに傾くと、魚人の群れは程なくしてその場を後にし、散り散りに逃げていった。

 

 魔族はたとえ分が悪かろうと死ぬまで戦うような連中が多いが、この水棲魔族には逃げるという選択肢もあるようだ。それは奴らが社会性動物だからだろうか。仮にここで敵に敗れたとしても、生きてさえいれば、また数を増やして復讐できるという考えがあるのだ。ベヒモスもそうだったが、そういう進化をした魔族は厄介だ。

 

 レヴィアタン勢力はおよそ1億個体。実際の数はどれだけか知れないが、そんなものを全部駆逐できる日は果たしてくるのだろうか……

 

 魚人たちの逃げ去った後には、ひどい有様の全裸の少女が取り残されていた。体は暴行を受けてあちこち傷や打撲の痕があり、顔は殴打を受けて見るも無惨に腫れ上がっていた。膣から血の混じった精液が溢れ出し、恐らく抵抗した際にやられたのであろう、膝が砕けておかしな方に曲がっていた。

 

 殺してくれと泣きながら繰り返す女性を前に、男性である鳳はどうすることも出来ず、他の訓練生に任せて自分は周囲の警戒にあたった。犠牲者を励ます牧師のように穏やかな声と、膝に添え木を当てる際に上がる悲鳴を聞くたび、なんとも遣る瀬無い思いが駆け巡った。

 

 鳳は手の空いている訓練生にインスマウスの死体を集めるように言うと、それを河原の一箇所に積み上げて、ゴスペルの一斉射で焼き尽くした。魔族は、食べることでも強くなる。もしも死体をこのまま放置しておいたら、逃げた連中が戻ってきて進化してしまう可能性があった。

 

 大森林で獣人たちが、土壌が汚染されるからと言って魔族の死体を焼いていたのは、恐らく元々はそれが理由だったのだろう。長い年月で培われた獣人たちの知恵が、そういう形で伝わったのだ。

 

 焼け焦げた魚人たちの死体からは、焼き魚の香ばしい匂いが立ち込めて、空きっ腹を刺激して止まなかった。

 

 犠牲者に服を着せ、添え木を当てて柔らかい下草のベッドに寝かせたあと、鳳はしんと静まり返る訓練生たちに向かって言った。

 

「訓練はまだ2日あるけど……ギブアップしよう。けが人を抱えてゴールするのも訓練かも知れないけど、これはただのけが人じゃない。水棲魔族が内陸部に侵入していたことも報告しなきゃならない。多分、これは想定外の出来事だと思う」

「……あんたに従うよ」

 

 犠牲者を出した隣の班の訓練生たちはほぼ反射的にそう返してきた。魔族に襲われたショックで、もう心が折れてしまったのかも知れない。鳳の班の方も似たようなもので、魔族を撃退して安心したら、また恐怖心が戻ってきたようだった。彼女らの同意も得て、2つの班は共に訓練を終了することにした。

 

 ところが……翌朝、明るくなってから、救助のヘリを呼ぶために発煙筒を使ったのだが、スモークが切れて暫く経ってもヘリは一向にやってこなかった。おかしいと思って再度スモークを焚いてみたが、今度もやっぱり救援が来る様子はない。

 

 発煙筒は、訓練生の数だけ持たされていた。だからまたしつこく焚くことも出来るが、二回やって駄目なものをもう一度試す気にはなれなかった。

 

「どういうことかな? 救助が来ないのも訓練のうちってこと?」

「いや、流石にそれはないだろう。実際にそんなことをして訓練生が死んでしまったら元も子もないんだし」

「じゃあ、どうしてこないんだよ?」

「……たまたま、影になってて見えないとか?」

「そう……なのかな?」

 

 正直、その可能性は低いと思ったが、鳳たちは取りあえず手近に見える高所を目指し、そこへ登って再度発煙筒を使用してみた。日は既に高く晴天であり、煙を遮るような物は何一つ見当たらなかった。だが、それでも、待てど暮らせど救助のヘリが来る気配は無かった。

 

 こうなると考えられることは一つ、

 

「多分、俺達と同じように、魔族に襲われた班が出たんだろう」

「もしかしたら本部もやられてるのかもね」

「どうする……?」

「定期的に狼煙を上げながらここで待つか、怪我人を抱えてゴールを目指すか……」

 

 出来ればもう動きたくは無かった。だが、発煙筒を使い切ってもまだ本部が気づいてくれない可能性もあった。そうなった場合、時間を無駄にしただけで結局ゴールを目指さないといけないのだし、何より怪我人の具合が気掛かりだった。両足を砕かれた彼女は発熱して、今は意識が朦朧としている。痛みも定期的に襲ってくるらしく、出来るだけ早くちゃんとした病院で診て貰いたかった。

 

「行こう。ゴールに近づけばそれだけ発見してもらえる可能性も高まるはずだ」

 

 反対意見はなく、鳳たちは怪我人を抱えての強行軍を選択した。

 

 さて、こうなると最初の方針は変えねばならなかった。このまま川を遡っていくのは、ただでさえ時間がかかる上に、またインスマウスの群れと遭遇する危険性があった。他に取れる方法といえば、ゴールの位置を確認しながら、獣道を探して出来るだけそっちに近づいていく方法だが……そんなことせずとも鳳には秘策があった。

 

 彼は自分のゴスペルを取り出すと、それで行く手を阻む藪や立ち木を払って進むことにした。マダガスカルでやったのと同じ方法だが、今回それをしてこなかったのは、言うまでもなく、それが訓練の趣旨に反すると思ったからだ。だが今はそんなこと言ってられない。

 

 班員たちはそれを見て、最初からやれよと思ったかも知れないが、特に何も言わずに後についてきた。こうして鳳が無理やり切り開いた道を、怪我人を乗せた即席の担架を抱えた訓練生たちが黙々とついていく。途中、高台を見つけては、その度に狼煙を上げて合図を送ってみたが、結局その日は日が暮れるまで、彼らが発見されることはなかった。

 

 翌朝、日が上がってからまた狼煙を上げてもリアクションは無く、そのことにももう慣れてしまった彼らは特に文句を言うこともなく出発した。けが人の容態は相変わらずだったが、意識はだいぶはっきりしてきたようで、彼女は自分ひとりだけ歩きもせず迷惑を掛けてしまっていることをしきりに詫びはじめた。しかし班員たちはそんな彼女に、良い訓練になると笑い飛ばして、一行は黙々と行軍を続けていたのだが……それが思わぬところから待ったがかかった。

 

 鳳が草木を刈りながら順調に先頭を進んでいると、彼は不意に立ち眩みのようなものを感じた。あれ? っと思った時にはもう遅く、彼はその場にしゃがみ込むと、ゴスペルを落として両手を地面についた。

 

「飛鳥さん? どうした!?」

「いや、大丈夫だ」

 

 鳳は班員にそう返しつつも、目がぼんやりして暫く動けそうもなかった。ただ、幸いと言っていいか分からないが、彼はその立ち眩みの正体に気づいていた。ずっと光の剣で草木を刈り続けていたせいで、要はMP切れを起こしてしまったのだ。

 

 光弾や光の剣は作るだけならエネルギーを消費しないが、何かに接触すればエネルギーを消費する。その際、脳内で変換された第5粒子エネルギー(MP)が消費されるわけだが、どうやらそれが尽きてしまったようだった。

 

 鳳の魔力容量は高いので、普通ならそんなことにはならないのだが、一昨日の立ち回りと、けが人を早く運ぼうと気が急いていたために、思った以上にMPを消耗してしまったようだった。普段からMPを無駄遣いする訓練生という立場もまずかった。MPの自然回復は微々たるものなのに、訓練を続けていたせいで、いつの間にかすっからかんになってしまったらしい。

 

 あっちの世界みたいに、アルケミストの能力があればMPが回復する草木の判別もつくのだが、今はそんなものを望めるわけもなかった。都合よくアヘンが生えているわけもなく、こうなると取れる手段は、出来るだけ省エネで進むことだが……果たしてゴールまで保つだろうか。鳳がそんなことを考えていると、

 

「もう十分だよ。あんたは休んでな。ここからは普通に獣道を進もう」

 

 そんな彼の考えを見透かしたかのように、訓練生たちが提案してきた。

 

「ここまで来たら、多少遠回りしても今日中にたどり着けるだろうし、私たちだってそれくらい出来るから」

「そのための訓練も受けてきたしね」

「担架は用意できないけど、飛鳥さんは後ろの方で休んでて」

「……いいのか?」

「良いも悪いも、班員同士助け合う。そういう訓練じゃないの」

 

 班員たちはそう言って屈託ない笑顔を向けてくる。一度は裏切りもした、あのまるで頼りなかった彼女たちが、こうして頼ってくれと言っているのだ。鳳は彼女たちの成長に感謝すると、素直にその厚意に甘えることにした。

 

 訓練生たちは来た道を少し引き返して獣道へ出ると、分かれ道に差し掛かる度に偵察を出しながら、ジャングルの道なき道を進みはじめた。一人が木に登り、偵察に出た斥候と位置を確認し合いながら、次はどっちに進むかを決める。そうしてまた分かれ道に差し掛かったら同じことを繰り返す。そうやってコツコツと進み続けるのはとても根気のいる作業だったが、それでも彼らは着実にゴールへと近づいていた。

 

 鳳は訓練生に肩を借りながらそんな彼女らのことを見つめていた。あっちの世界に居た時は、これを全部ギヨームがやってくれていたのだ。お陰で鳳は森で一度も迷ったことはなかったし、それどころか、今みたいに歩きづらさを感じることもなかった。彼はいつも歩きやすい道を選んでくれていたのだ。意識が朦朧とする中で、鳳はそんな破格の仲間のことを思い出していた。彼は今頃何をしているだろうか……

 

 お互いに励まし合いながら、訓練生たちは密林を突き進んでいった。日が暮れてタイムリミットが迫ってきたが、絶対に諦めるなと叱咤し続けて、彼女らはひたむきに目の前に聳える山を目指した。あの頂上にはゴールがあって、そこに行きさえすれば、この長く苦しかった訓練はようやく終わるのだ……ついにドミニオンになれるのだ!

 

 そしてその時、彼女らは唐突に思い出した。先を進むことばかりに夢中になって、いつの間にか目的を見失っていた。自分たちの目的はゴールすることではなく、ましてドミニオンになることでもなく、今は怪我人を届けることだった。もうゴールは目前だったが、だからこそ、ここまで来たら本部の人間も気づいてくれるはずだ。

 

 彼女らは躊躇なく発煙筒を取り出しスモークを焚いた。その煙が空へと上がっていくと、間もなく山頂の方で動きがあった。ヘリが飛び立ち、鳳たちの頭の上をホバリングしている。ロープが投げ降ろされ、それを伝って数人のドミニオンの隊員が降りてきて、怪我人を見つけてすぐに彼女を引き上げてくれた。

 

 事情を問われ、インスマウスに襲われたことを言うと、やはり他の班も襲撃を受けて、今ゴールにある本部は大騒ぎらしい。もう訓練どころじゃないので乗っていくか? と言われたが、鳳たちは首を振った。怪我人を無事に届けられたら、もう憂うことはない。だから最後は自分たちの足で、ちゃんとゴールまでたどり着きたかった。

 

 ヘリが去ると、日が傾き暗くなった獣道を、彼女たちはまた歩き出した。もう後少しだ。頑張ろう。肩を並べて健闘を称え合って、鳳たちは最後の力を振り絞って山の斜面を登っていった。やがて山頂に明かりが見えてくると、そこに人がいるのだと分かって、どうしようもないほど安堵感がこみ上げてきた。

 

 肩を貸してくれている班員を見れば、目に涙を浮かべている。照れ隠しをするように、後ちょっとだぜと元気に言う彼女に引っ張られて、鳳も最後の力を振り絞って歩を進めた。本当の仲間になれたような気がしていた。

 

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