サムソンが応急手当を受けていたテントの周りには、いつの間にか人だかりが出来ていた。一度は死んでしまったと思われた彼が、隊長の口づけで復活したかと思えば、何故か見知らぬ男の姿に変わってしまったのだから、彼女らが騒ぐのも無理ないだろう。
起き抜けにまたジャンヌを口説こうとしてキザなセリフを吐いていたサムソンは、彼女にぴしゃりとやられると、まるでこの世の終わりみたいに大げさに項垂れた。その姿が猿人だった時の彼そのままだったから、突然の変貌に声を失っていた隊員たちにも何が起きたのかがわかったらしく、楓がおそるおそるといった感じに尋ねてきた。
「あの……隊長、その人はもしかして……?」
「ええ、サムソンよ。彼、元々は人間だったって、白ちゃんも言っていたでしょう?」
ジャンヌの肯定によって更にどよめきが起きる。楓はその言葉にまじまじとサムソンの顔を覗き込みながら、
「本当にサムソンさんなんですか? 私のこと、わかりますか?」
「おお! お前のことは、なんとなく覚えているぞ。よくご飯をわけてくれた人だな。記憶の方は曖昧だが、お腹の方が覚えている。いつもありがとう」
楓は自分の印象を聞いているのだろうが、サムソンはなんだかトンチンカンなことを言っている。その感じからすると、どうやら魔物だったときの記憶は曖昧のようである。その辺のことを詳しく聞いてみると、彼はこんなことを言い出した。
「ジャンヌ、お前を追いかけてこっちの世界に渡ってきてからは、半分眠ってるような感じだった。夢と現実、2つの世界を交互に渡り歩いてる感じで、よく場面が飛んだ。俺はずっと夢の中で師父と修行を続けていて、ミッシェルを認識するまで数年かかったような気がする。お前と再会してからは日々が飛ぶように流れていき、勇者と合流してからは更に加速していった。こうして思い返せば、あっという間だったと思う……俺はどれくらい、こっちの世界で魔物をやってたのだ?」
「16年よ、16年……よく、そんな状態で意識を保てたわね」
「16年!? そんなに経つのか……俺の感覚では、せいぜい1~2年といったところなのだが」
彼の記憶が曖昧なのは、魔族の小さな脳では考えられることが少なすぎて、そんな風に時間が早く過ぎてしまうよう感じられるからだろうか。もしくは、師匠と修行をしていたと言うから、案外ベル神父辺りが力を貸してくれていたのでは……
ジャンヌがそんなことを推察している時だった。
「隊長! 海の方から誰か飛んできます!」
サムソンを囲んでざわついている人垣の向こうから、緊迫した伝令の声が聞こえてきた。天使たちは、あらかた拘束してワイヤーでぐるぐる巻きにしてあったが、遠くに落ちた者がまだ残っていたのだろうか? 正気であるなら問題ないが、また襲ってくるようなら自分が戦うしかない。病み上がりのサムソンに無理をさせたくないので、出来れば戦闘は避けたいが……
彼女がそうして警戒している間に、近づいてくる影の正体が分かってきた。それが意外な人物だったから、ジャンヌたちは一瞬それが誰だか分からなかったが、
「……コカビエル様? ラミエル様!」
戻ってきたのは真っ先にアザゼルに飛びかかっていき、最初に巨大クジラに食べられてしまった二人の天使だった。背後にはそのアザゼルを連れている。てっきり死んでしまったと思っていたが、あの状況からピンチを脱して、逆にアザゼルを捕まえてきたのだろうか?
正直言って、その可能性はあまり高くないだろうが、何にせよ彼らが生きていた事自体は僥倖である。少々不可解ではあるがその辺りの事情も今から聞けばいいだろう。ジャンヌがそのつもりで隊員たちの前に歩み出ると、ドミニオンの隊長の姿を見つけた二人は翼をはためかせて彼女の前まで降りてきた。
ところが、ジャンヌはそうして目の前に降りてきた二人の姿に、どうしようもない違和感を見つけて言葉を失ってしまった。逆に二人の方は落ち着いた表情でのんびりした口調で話しかけてくる。
「ドミニオンの隊長よ。あなたに厄介事を押し付けるだけ押し付けて、何の役にも立てずにすまなかった。天使が守るべき人間を、逆に傷つけるなんて不甲斐ない……」
「い、いえ、それは構わないのですけど……それより、その、お二人のそのお姿は?」
彼女の前に降りてきた二人は、顔貌こそは以前のままだったが、その背中に生えている翼の形が決定的に違っていた。純白の鳥の羽のようだった彼らの翼は、今はコウモリみたいに薄くて黒いものへと変わっていた。
その姿はどこからどう見ても天使ではなく、堕天使である。ジャンヌが警戒心をあらわにすると、彼らは大丈夫と言わんばかりに大げさに頷いて、
「うむ、そのことについて、君たちに話さなければならない。私たちは見ての通りもう天使ではなく、死んで魔族に転生してしまったのだ」
「転生……ですって?」
「詳しいことはこのアザゼルが話してくれる。ドミニオンの隊長よ。どこか天使のいない場所で、彼の話を聞いてはもらえないだろうか」
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堕天使のリーダーであるアザゼルが現れると、拘束していた一部の天使たちがまた暴れだそうとした。ミッシェルが出てきて認識阻害魔法を掛けてくれたお陰で、どうにか天使たちは正気を取り戻したが、やはりこの反応はおかしすぎた。
一体、何がそこまで天使たちを攻撃衝動に駆り立てているのか? それも追々分かってくるだろうと言ってから、アザゼルは話し始めた。
「もはや断る必要もないだろうが、我々、この施設の囚人は全て魔族である。元々、ここに集められたのは天使だったはずが、何故このようなことになっているのかと言えば……実は天使という人種には、神のアルゴリズムとも呼ぶべき不都合な仕組みが施されていたからだ」
「神のアルゴリズム……?」
「ウイルスと言っても差し支えない」
アザゼルはそう吐き捨てるように呟いてから、質問に答えるのではなく、逆にジャンヌに問いかけてきた。
「あなたはアズラエルという天使が、レヴィアタンという魔王になってしまった経緯を知っているだろうか?」
「え、ええ、それはもちろん……アズラエル様は、ダーウィン撤退戦の時、手負いのレヴィアタンに自分を食べさせたら、逆に魔王の意識を乗っ取ってしまったって言ってたわ。それ以来、彼女は魔族の体を持ちながら、天使の心のままで生きていらっしゃるようだけど……」
ジャンヌはそこまで自分で言ったところで、直感的に、アザゼルがこれから言わんとしていることが分かったような気がした。まさかと彼女が顔を強張らせていると、アザゼルは相変わらず抑揚のない口調で、彼女のその直感を肯定した。
「そう……実は天使という種族には、魔族に捕食されることでその魔族の心を逆に乗っ取ってしまうという性質があったのだ。正確には、魔族に敗れることによって、その能力を受け継ぎ、天使の体が魔族化するのだが……私たちはそうして魔族となった」
「自分たちから進んで魔族になったってこと?」
「そうだ」
「なんで、そんなことをする必要が? 魔族になる理由なんてどこにもなさそうに思えるのだけど……」
「いや、そうとも言えない。君はさっき天使たちが我を忘れて大暴れする姿を見ているはずだ」
「ええ、たしかに見たわ……」
「あれを見たならば分かるだろうが、どうやら天使には、堕天使を見たら否応なく攻撃するよう、予め神の命令がインプットされていたようなのだ。もしも見かけたら前後の見境がなくなり、あたかも魔族になってしまったかのごとく、自分が滅ぶか相手が死ぬまで、天使は暴れ続けるように出来ていたのだ」
アザゼルの言葉に、その背後にいたコカビエルとラミエルも頷いている。ジャンヌももちろん気づいていたが、そう言われてもまだ納得がいかず、
「では、あなた達はそうならないように魔族に……堕天使になったというの?」
「そうだ」
「でも、そもそもあなた達が堕天使にならなければ、天使たちはおかしくならなかったわけよね? あなた達がそんなことせず、今も天使のままだったら、この島は平和でいられた。積極的に堕天使になる必要なんて、やっぱり無かったんじゃないかしら?」
「そう、我々も最初はそう思っていた。だが、それでは駄目だったのだ」
「どうして?」
「順を追って説明しよう……」
アザゼルはそう言うと一旦目を閉じ、何から話し始めれば良いか吟味しているかのように暫し沈黙をしてから、おもむろに話し始めた。
「どうして今まで、天使が魔族に敗れると魔族化することが知られていなかったのか……理由は2つあり、まず1つは神は天使に対し、魔族と直接戦ってはならないと命じ、あなたたちドミニオンを創設したから。そしてもう1つは、もしも魔王が誕生してしまったら、オリジナルゴスペルによって速やかに処理されていたからなのだ。
天使は元々魔族とあまり関わり合いがない。だから滅多なことで堕天使になることはなかった。それでもたまに事故は起きたが、それが表沙汰にならなかったのは、堕天使が誕生するとすぐに天啓が下りて、神域がオリジナルゴスペルの使用を許可していたというわけだ。
ところが16年前に事情が変わった。人類は『再生』が出来なくなり、ここ北海では、天使が魔族との前線に立たざるを得なくなった。天啓が訪れなくなり、ゴスペルの使用許可もすぐには下りず、すると天使の記憶を持ったまま魔族化する個体……堕天使がちらほら現れ始めたのだ。
彼らは身体は魔族になってしまったが、心は天使のままだった。だから当然、生きているならまだ人類に貢献したいと考えた。だが、そうして彼らが事情を話したくて近づいていっても、天使たちは狂ったように彼らを攻撃し、とても話し合いにはならなかった。
失意の堕天使は対岸のノルウェーに落ち延び、そこで魔族として生きはじめた。魔族化した天使はほぼ魔王クラスと言って差し支えないくらい強く、故に強力な魔族が跋扈する北欧でも十分に暮らして行けた。
彼がそうして魔族として暮らしていたら、やがて同じように魔族化してしまった仲間が落ちてきて、いつしか堕天使勢力は巨大になっていった。彼らは元々天使だったから、例え拒絶されたとしても人類のために尽くそうとして、誰にも頼まれてもいないのに、北海油田に近づこうとする魔族を掃除して回っていた。
ところが、そんな彼らの最大の天敵として立ちふさがったのが、プロテスタントの大罪人、ビリー・ザ・キッドだったのだ」
「……たまたま現場がかち合った時、彼が問答無用で堕天使を攻撃してきたのね?」
ジャンヌはなんとなくその光景を思い浮かべて、溜息を吐いた。アザゼルはまた厳かに頷き、
「そうだ。キッドの力は強大で、魔王クラスの堕天使たちでも近づくことすら出来なかった。天使と違って話は通じるだろうが、近づけなければ意味がない。堕天使たちはどうにか彼と接触を図ろうとしたがどうすることも出来ず、お互いに牽制し合う日々が続いた。その関係が変わったのは、私が堕天使になったのが切っ掛けだった」
「あら、てっきりあなたは最初期に堕天使になった一人だと思っていたけど……」
アザゼルは首を振り、
「違う。私は比較的最近、堕天使になった。実はそれまで私は囚人ではなく看守として、キッドの監督をしていたのだ。他の天使たちはキッドを嫌っていたが、私は彼のことが好きだった。キッドは気が荒いが曲がったことはしない。ここへ送られた時点で自分の役目をちゃんと理解し、責務を全うしようとしていた。だから私は彼に気を許し、いつしか私たちは相棒と呼び合う仲になっていた。
私たちはいつも二人で堕天使や魔族を蹴散らしていた。そんなある日のことだった。欧州大陸からブリテン島に、強大な力を誇る魔王が渡ってきた。魔王は他の魔族を蹴散らしながら、ブリテン島を北上しシェトランド諸島に迫った。北海油田の警備をしていた私たちは天使を引き連れ、早速これを始末しようと海峡を渡った。するとそこに堕天使勢力が現れた。彼らもまた、油田を守ろうとして魔王を追いかけていたのだ。
私たちはこうして魔王を挟んでばったり出くわしてしまったのだが……あとは大体想像がつくだろう。天使たちは魔王ではなく堕天使たちを攻撃し、それでも魔王を倒そうとする堕天使たちとで、今日みたいに三つ巴の戦いが始まってしまったのだ。
やらなくてもいい無駄な戦いをして、私たちは双方ともに傷ついた。魔王はどうにか退治出来たが、この戦いで多くの天使が犠牲となって……そして私は魔族として転生したのだ。
戦いの後、スコットランドの森で目覚めた私は変貌した自分の姿に気づくと同時に、今まで心の底から憎くてたまらなかった堕天使の正体に気がついた。そして彼らが我々に害を及ぼすつもりが無いことにも気づいた私は、これを早く仲間に伝えなくてはと思い、シェトランド諸島に戻った。
結果は言うまでもないだろう。仲間と思っていた天使たちは、私の姿を見るなり襲いかかってきて、まったく話にならなかった。だが、幸いなことに私にはキッドという理解者がいた。彼は天使たちとは違って、ちゃんと私のことを認識し、おかしなことが起きていることに気がついてくれた。その後、彼は逃げのびた私と合流し、堕天使と接触を果たし、こうして私たちは協力関係を築くに至ったのだ」
「そう……そんな経緯があったの……」
アザゼルの話を聞いて、ジャンヌは堕天使たちに心底同情していた。堕天使は、一度肉体が滅び、魔族に転生してもなお、人類への貢献を願う人たちだったというのに、天使たちにおかしな習性があるせいで、一方的に攻撃され、話を聞いてさえもらえなかったのだ。
今日だって、何人もの堕天使が、神の用意したオリジナルゴスペルによって消滅させられている……ジャンヌは溜息をつくと、自分に言い聞かせるように首を振った。
「でも、だからといって、天使を無理やり堕天使にしてしまうのはやり過ぎだと思うわ。直接会わなければ戦闘にはならないんだから、例えばギヨームに頼んで事情を説明するとか、もっとスマートな方法は取れなかったの?」
するとアザゼルは彼にしては珍しく、少し感情的に声を荒げながら、
「もちろんしたとも! ……そうした結果が、今回の囚人たちの反乱だったのだ」
「……どういうこと?」
「我々の意向を受けて、キッドはアイスランド基地にいる全ての天使にこちらの事情を話してくれた。すると囚人たちは我々の話に耳を傾けてくれたのだが、看守たちは頭ごなしに否定して、一切無かったものとして黙殺してしまった。
元々、囚人とは神域の意向に背き、独立独歩で歩んでいた天使たちだったから、自分たちが神に操られていると知ったら、自ら堕天使になることに躊躇いはなかった。ところが、看守たちは逆に神の威光に縋る保守的な天使たちだったから、このような不都合な真実を受け入れられなかったのだ。
彼らは、囚人たちが自ら堕天使になろうとしたら、無理やりそれを止めようともした。それが我々、囚人が起こした反乱の正体だ。彼らが先に攻撃してきたのだよ。
そして彼らは、あなたたちがタンカーに乗ってアイスランドへ着いた時には、これらすべての話を知っていながら、何も知らない振りをして、あなたたちと何食わぬ顔で過ごしていたのだ」
「そんな……本当なの?」
ジャンヌがアザゼルの背後にいるコカビエルとラミエルに聞くと、彼らは自明のことと言わんばかりに首肯し、
「反乱など起きてはいなかった。我々は、ただ彼らを鎮圧することしか頭に無かった。結果が同じであれば問題ないと、だから君たちに嘘をついたのだ。だが、天使の中には本当に覚えていない者もいるだろう。自分たちの信じる神に偽りがあったとしても、平気で自分の記憶すら捻じ曲げてしまえる人間というものは存在するのだ」
「堕天使への憎しみが消えた今では、それがどんなに愚かなことかが分かる。だが、もしもこの体がまだ天使だったら、こんなことは言えなかっただろう。だから私は、アザゼルが無理やり私を魔族に変えたことを、感謝こそすれ恨んでなどいない」
初めて会った時、どこかイライラして感情的に見えた二人が、今はまるで憑き物が落ちたかのようにすっきりした表情でいる。これこそ本来の彼らの姿なのだろう。それを変えてしまえる神の存在を、ジャンヌは初めて怖いと感じた。
アザゼルはそんなジャンヌに、
「だが、あなたの言うことも一理あるだろう。我々はこれ以上、天使を無理やり堕天使に変えたりはしない。信仰の自由は守られるべきだ。その代わり君たちには、このことを神域に正しく伝えてほしいのだ」
「わかったわ。実はウリエル様がいらしているから、すぐにでも伝えられるわ」
「そうだったのか。ならば特に、天使が魔族に捕食されると、必ず強力な魔族が生まれるところが引っ掛かると伝えて欲しい」
「いいけど、どうして?」
するとアザゼルは気難しげに眉を顰めて、
「こうして生まれる堕天使は、魔王に匹敵する力を秘めている。元々、天使という種族が強力なのだから当然なのだが……神域は今まで、これらの魔王を全て、オリジナルゴスペルを使って始末してきた。それは四大天使の意思ではなく、天啓によって……つまり、神の意思でそうしてきたわけだ。
おかしくないか? 神は人間を管理するために天使を作ったはずだが、その天使は魔族に捕食されると簡単に魔王になってしまう……これではまるで、魔王の食事を神が用意しているみたいではないか?
しかも、その魔王は今までずっとゴスペルによって処理されてきた。キッドの話に拠れば、そのエネルギーの残滓が亜空間に大量に溜まってきており、このまま増え続ければ、いつ宇宙を破壊するか分からないと言うではないか。
神の代弁者たる天使が魔王と化し、人間を保護する名目でゴスペルが使われ、世界は危機に瀕している……神は自ら宇宙を破壊したがっているのだろうか?」
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隊長の周囲を取り巻くドミニオンたちからどよめきが漏れた。天使ほどではないが彼女らにとってももちろん神は大切な存在であろうから、そんな神への信仰を揺るがすような話を聞いてしまったら当然だろう。隊員たちの中には聞くんじゃなかったと言いたげに、露骨に耳を塞いでいる者たちもいた。
ミッシェルはそんな彼女らの姿を、少し離れたところで遠巻きに眺めていた。その表情がどこか上の空に見えるのは、彼の頭の中が実際に今、とある別の考えによって支配されていたからだった。
神が宇宙を破壊したがっている……そんなアザゼルの言葉を聞いて、彼はつい最近、鳳を占った時の結果を思い出していた。それは、まるでアザゼルの疑念を裏付けるかのように、この世の終焉を予言していた。
ただ、占いは一人の魔王の登場によって滅びると予言していたので、まったく同じというわけではなかったが、宇宙が滅びるという結果自体は同じであるから、気にしないわけにはいかなかった。
もちろん、占いはただの占いであるし、的中するとは限らない。それに、あの時は鳳が悩んでいたため黙っていたが……
やはり、彼には話しておくべきだろうか。占いとは占った本人のための物であり、活かすも殺すも本人次第で、ミッシェルが知ってるだけでは意味がないのだ。このままでは宇宙が破滅してしまうかも知れないと鳳が意識することで、破滅を回避することも出来るかも知れない。問題は、彼が帰ってきた時にちゃんと気持ちを切り替えられていればいいのだが……
ミッシェルがそう決心した時だった。
彼はふと、周囲がやけに静かなことに気がついた。ついさっきまで、目の前に大勢のドミニオンや天使、そして彼が認識阻害をしている堕天使たちがいたはずだが……気づけばその姿がどこにも見えなくなっていた。
そしてこの濃密な空気というか、嫌な気配は……明らかに尋常じゃない。彼はそう思い、その気配を探るように振り返った。するとそこには、2つの金色に輝く人影が、ミッシェルを取り囲むように立っていた。
その2つ人影は完全にただの光の塊でしかなく、その顔までは確認できなかったが、ただミッシェルにはそれが誰だか何となく想像がついていた。そして彼らがこのタイミングで出てきたということは、ミッシェルが占い結果を鳳に伝えることを阻止しようとしているのだと言うことも、容易に想像がついた。
彼は光に向かって言った。
「アストラル界に逃げ込んでも、無駄だよねえ?」
そう言い残し、彼は光にかき消されるように消滅した。