ラストスタリオン   作:水月一人

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獣王

 鳳が、もしかすると自分は人間じゃないかも知れない……と言いだしたことから始まったステータス論議。途中、ギヨームのレベルアップの結果などから、どうやら人間は巷間で考えられているような、貧弱なだけの種族ではなさそうだと言うことがわかってきた。

 

 レオナルドの推測では、この世界の最初の人類こそが人間であり、彼らはエミリアの加護を受けている。故に、神人と比べれば微々たるものだが、それでもなんらかのチート能力を得ており、それはレベルによって増減しそうである。そんなことが判明したわけだが……

 

 それはさておき、最終的に鳳のステータスのボーナスポイントを何に使うかと言う話になって、MPを上げてみたところ、彼はアルカロイド検知なる、なんか使えるんだか使えないんだかよく分からないスキルを覚えたのだった。

 

 その後、新スキルを覚えたばかりの鳳が大喜びでそれを試している間、退屈をしていたメアリーがいつの間にか寝てしまっていたので、その日はそれでお開きになった。

 

 明けて翌日。

 

 一行はこれまで一ヶ月間お世話になったキャンプを畳んで、移動を開始するための準備を始めた。鳳のステータスの話で後回しになってしまっていたが、元々、昨夜の話し合いはギヨームが、そろそろ新大陸を目指そうと提案したのが発端だったのだ。

 

 改めて話を進めたところ、鳳もジャンヌもレオナルドも移動することには異存無く、メアリーを説得した今、懸念材料も無くなったので、彼らは特に揉めることもなく移動を開始することになった。

 

 幸い、ここ一ヶ月のサバイバル生活で集めた食料があったお陰で、一週間くらいなら食べ物に困らないで済みそうだった。荷物も馬が運んでくれるので余裕があり、後はどういう経路で新大陸を目指すかと言う問題だけである。しかし、それが中々厄介だった。

 

 そもそも、一ヶ月前に大森林に逃げ込んできた鳳たちは、自分たちが大森林のどの辺りにいるのか見当がつかず、移動しようにもこれといった目標もなかったのだ。

 

 大森林にはこれと言った街はなく、目印になりそうなのは北方を掠めるように通っている勇者領とヘルメス領を繋ぐ街道だけなのだが……一ヶ月が経っているとは言え、いかにも追っ手が待ち構えていそうな場所には、流石にまだ近づきたいとは思えず、それならいっそ直接勇者領を目指したほうがマシだろうと言う話になった。

 

 ただ、理論上は方位磁針の指す方向に従って、西へ西へと進んでいけば、いつかはたどり着けるはずなのではあるが、何しろ森の中だから何が起きるかわからない。出来れば道案内くらいは欲しいところである……

 

 そこで、まずは集落を探そうという話になった。

 

 大森林には様々な部族(トライブ)が集落を作っており、主に狩猟をして暮らしている。それぞれの部族のテリトリーは広範囲であるから、そんな中から集落を見つけるのは至難の業と言われているが、獣人も生き物であるから水がなければ生きてはいけない。ならば、水場を探していれば、いずれ集落にたどり着くはずだ。

 

 というわけで、丁度、鳳たちがキャンプをしていたのも川沿いだったので、これを辿っていこうということになった。方角的には西でも北でもなく、南へ向かってしまうのだが、必要な回り道だと思って気にしないことにした。

 

 そんなこんなで、出発してから2日が経過した。初日は移動に慣れていないことも考えて、日が暮れる前に早めにキャンプをしたせいでそれほど進めなかったが、二日目は早朝から移動をはじめて結構な距離を稼ぐことが出来た。最初の拠点から直線距離で40キロと言ったところだろうか。あまり進んでないように思うかも知れないが、道のない森林のうえ、日が暮れるのも早いから、案外こんなもんである。

 

 それに、移動が遅くなる原因もあった。スキルを覚えたばかりの鳳が、森で何かを見つけるたびに、いちいち立ち止まって調べようとしてしまうのだ。他の人にはただの草木にしか見えないものが、彼には宝の山に見えるのだ。

 

「おいっ! いいかげんにしろよ。どんだけ人を待たせりゃ気が済むんだ!」

 

 そんなわけで3日目の今日も、歩き始めて半刻もしないうちに鳳が立ち止まってしまったから、先頭を進んでいたギヨームがついにキレた。

 

「まあまあ、そんなに急いだところで、都合よく集落が見つかるわけでもないだろ。ここは気長に周囲を探索しながら進んだ方が、後々のためにもなるんじゃないか」

 

 鳳がそんな火に油を注ぐような事を言うと、ギヨームはいよいよ怒り心頭と言った感じに乗っていた馬から飛び降り、鳳の頭をポカンと一発引っ叩いて、

 

「やかましいっ! ジジイじゃあるまいし、呑気なこと言ってんじゃねえよ。まだ食料に余裕はあるとは言え、これだっていつまでももつようなもんじゃないんだぞ。早めに集落を見つけなければ、また野宿生活に後戻りだ。そんなこと繰り返してたら、いつまで経っても新大陸なんかたどり着けやしないだろうが」

「つってもなあ……こうして見てみると、薬草って結構貴重なんだぜ? そりゃ、民間療法程度のもんなら、その辺にいくらでも生えてるんだけど、劇的なのは中々お目にかかれないんだ」

「そんなの知らねえよ。夜になってから一人で勝手に探せばいいだろう? 俺たちまで巻き込むなよ」

「夜は夜で、摘んできた草を処理するのに時間を食うんだよ。ほら、MPポーションも結晶にした方が効果が高かっただろう?」

「それこそ、街に戻ってからやってくれ! 今はこの状況を打破するのが先決だろうが」

「う、うーん……仕方ないなあ……」

 

 鳳はそれでもまだ後ろ髪を惹かれるようにチラチラと背後を見ながらも、ギヨームに押されるような格好で隊列に戻った。

 

 パカパカと蹄の音を立てながら、三頭の馬が歩いていく。大きな荷物を乗せた先頭の馬をギヨームが引き、その後にレオナルドを乗せた馬の手綱を引く鳳が続いた。最後尾の馬にはメアリーが乗り、その横にはジャンヌが歩いている。どうせ馬の手綱を引くなら爺さんよりも女の子を乗せた方が良いのだが、ジャンヌのほうがメアリーと仲が良いので自然とこうなった。

 

 キャアキャアと楽しそうな女の子(?)同士の会話を横目に、じじいを乗せた馬を引っ張りながら、さっき摘んできた草を喰んでいると、上の方からそれをじーっと見ていた老人と目があった。

 

「食うか? MPが少し回復するぞ」

 

 と差し出すと、老人は受け取った草の匂いをクンクンと嗅いでから口の中に放り込み、

 

「ふむ……確かに回復しておるようじゃ。それになんだか甘いのう」

「花の付け根に蜜を蓄えているみたいだな。花弁は蜂だけが入れる構造になってて、その他の虫に食われないように毒で覆われている。良薬口に苦しって言うだろ? 俺たちはその毒でMPを回復してるわけだが……養蜂にも使えそうだし、出来れば何株か持って帰れりゃいいんだけど……」

「そういうのも、お主のスキルで分かるのか?」

「まあな。アルカロイド探知で薬物のある場所が分かって、ライブラリーでその種類が分かるって感じだ。後はそれを上手く処理できるスキルがあればいいんだけど、神様もそこまではサービスしてくれなかったようだよ」

「ふーむ、そりゃ便利じゃのう……しかし、儂も長いこと生きておるが、お主のような不思議な放浪者(バガボンド)は初めてじゃ。放浪者は大抵凄い能力持ちじゃが、お主は少し度を越してる気がするぞい」

「何度も言ってるけど、俺には何の得にもならんのだけどね……」

 

 鳳は苦笑いしながらそう言ったあと、ふと思いついて、

 

「そういや爺さん。あんた300年生きてるんだよな? 神人でもないあんたが、どうやってそんなに長く生きられたんだ? あんたも放浪者だけど、それと関係あるの?」

「ふむ、そうじゃのう。そうかも知れんが。儂にも分からん」

 

 鳳はがっくりと項垂れた。

 

「自分のことだろう?」

「鳳よ。では神人はどうして何百年も生きられるんじゃ? お主にその理由が分かるかいのう?」

「え?? そりゃ……わからないけど」

「それと同じことじゃ。神人は神人だから長生きする。儂も儂だから長生きする……としか言いようがない。お主はテセウスの船という話を知っておるか?」

「ん……? ああ」

 

 ギリシャ神話の英雄テセウスが、ミノタウロスを倒して凱旋した時に乗っていたとされる船が、アテネに後世まで保存されていた。ところが船は木製だから、時が経てば朽ちてしまう。そのため、何度も修理したりパーツを交換したりしていたのだが、ついには全ての部品が別のものと入れ替わってしまった。

 

 この時、全てのパーツが入れ替わった船は果たしてテセウスの船と呼べるのだろうか。もしも、腐ってしまった元のパーツを無理矢理にでもつなぎ合わせたら、それもやっぱりテセウスの船と呼べるのだろうか。

 

「儂ら人間も新陳代謝で日々細胞が入れ替わっておる。大人になった時には、もう生まれた時の細胞は殆ど残っていない。しかし、脳や一部器官の細胞は、生まれてから一生入れ替わらないと思われており、それ故に人間は老いて死ぬ定めにあるわけじゃが……

 

 ところで、もし脳細胞や一部器官の細胞までもが日々新しい細胞に生まれ変わっていたとしたらどうじゃろうか。常に新品の細胞に入れ替わっていたら、その人には老化も死も訪れぬかも知れん」

「つまり、神人や爺さんがそうだと?」

「かも知れん。と言うておるじゃろう。自分の体の細胞分裂なんて意識することも出来ぬから、それは誰にも分からぬよ。可能性の話じゃ」

「ふーん……」

 

 もしそうだとしたら、レオナルドは300年前のレオナルドと同一人物と言っていいのだろうか。いや、そもそも、この世界のレオナルド・ダ・ヴィンチは、地球の16世紀ごろに活躍したレオナルドとは、文字通り細胞一つの共通点もない。なのに、彼をレオナルドと言ってもいいのだろうか?

 

 鳳たちがそんな禅問答みたいな話をしていると、先頭を歩いていたギヨームが突然立ち止まって言った。

 

「なあ! あっちの方なんだけどよ、かなり光って見えないか?」

 

 彼がそう言って指差す方角を見てみると、確かに森の奥のほうが他よりも明るく光って見えた。それは何かが発光しているという感じではなく、そこだけ陽が差しているといった感じの明るさである。

 

 川が近いから、もしかしたら池や沼かも知れないが、そこが集落か広場になってる可能性も捨てがたい。川べりからは距離があり、少々遠回りになるが、一行はその場所を目指してみることにした。

 

******************************

 

 森の中に差し込む光に歩いていくと、そこに人工物らしき建物のシルエットが見えてきて、一行は色めきだった。

 

 しかし実際にその場所までやってきてみたら、そこには集落なんかは無くて、打ち捨てられた小屋が建ち並ぶ空き地が広がっているだけだった。もっと正確に言えば、既に小屋と呼べるような物は一つもなく、高床式の土台があちこちに残されているだけである。

 

 空き地はどこもかしこも胸の高さくらいある雑草だらけで、足を踏み入れることを躊躇するほどだった。唯一、中央付近だけはぽっかりと地面の土が見えていて、在りし日にそこを頻繁に人が往来していたことを思わせた。

 

 その空き地をぐるりと歩いてみると、家が立ち並んでいる広場から少し離れた場所に、大きな穴がぽっかりと空いており、そこだけは他の地面とは土の成分が違っている感じがした。おそらく村の便所として使われていたからではなかろうか。今もあまり草木が生え揃わないその大穴の隣には、よく見れば柵で囲ってあるスペースがあり、そっちは逆に旺盛に雑草が茂っているようだった。

 

 その雑草を掻き分けて地面を探ると、錆びついた農具のようなものが落ちていたり、明らかにここで人が暮らしていた形跡が窺えた。道具が残されているのは、慌てて出ていったからだろうか。更によく見れば、あちこちに積み上げられた石があり、もしかするとそれは墓標だったのかも知れない。

 

 居なくなってから、どれくらいの時間が経過したのだろう。生えている草木の様子から察するに、さほど時間は経っていないようだ。となると、どうしてこの集落の人達が、ここを捨てて出ていったのかが気にかかるところであるが……

 

「ツクモ、何かわかった?」

 

 地面に顔を近づけて、じっと雑草を観察していたら、メアリーが近づいてきた。中央の広場を見れば、ギヨームが馬から荷物を下ろしている。多分、休憩がてらこの周辺を調べてみるつもりなのだろう、メアリーたちが乗っていた馬は、もう仲良く並んでその辺の雑草をむしゃむしゃと食べていた。

 

「多分、人が居なくなってから半年かそこら……長くて1年といったところかな」

「どうして分かるの?」

 

 鳳は雑草を指差して、

 

「ここに生えているのは、どれもこれも冬には枯れちゃう草花ばかりなんだよ。人が住んでいると、雑草はすぐに抜かれてしまうから、そういう草しか生えなくなるんだ。森の木々は冬になっても枯れたりしないで、何年もそのまま立ってるだろう?」

「へえ、そうなの。知らなかったわ」

「だから、つい最近まで人が住んでいたのは間違いない。問題は、どうしてその人達がここを出ていってしまったのかってことだけど……」

 

 二人でそんな会話を交わしていたら、ギヨームが近寄ってきた。

 

「鳳。今日はまだ早いけど、ここにキャンプを張って周辺を探索しようかと思う。ここに村人は居ないようだけど、獣道くらいは残ってるかも知れない」

「ここの人たちはどうして出ていってしまったのかな?」

「さあ、分からねえ。ただ、レオが言うには、部族社会(トライブ)の連中は、狩場の動物を狩り尽くさないように、数年ごとに移動を繰り返すそうだ。だもんで、案外、近くにいるかも知れないから、ここを拠点に探すのも有りかも知れないってさ」

「ああ、そういう可能性もあるのか……それじゃ、すぐには離れない方が良さそうだな」

「取り敢えず、今日明日と周辺を探ってみようかと思う。一応、食料確保に獲物がいたら狩るつもりだけど、問題の部族の縄張りだとしたら、怒られたりしねえかな?」

「緊急避難的に許されるとは思うけど……どんな相手かわからないのが困るな。出来るだけ川魚で済ませたいところだが……」

「しーっ……!」

 

 二人がこれからの予定を話し合っている時だった。突然、ギヨームがピクリと眉毛を動かしたかと思うと、人差し指を唇に当てるジェスチャーをしてみせた。

 

 どうしたんだろう? とポカンとしていると、彼は棒立ちでいる鳳たちをグイグイと引っ張りしゃがませて、

 

「何かがいる……しまったな。ここまで近づかせてしまうなんて」

「魔物か?」

「いや、人間だ……10……20……いや、もっとか。隠れてこっちの様子を窺っているようだ。ここの集落の人間……ってわけじゃなさそうだな」

 

 ギヨームはそこまで言うと、もはや隠れていても意味がないと思ったのだろうか、クオリアで光る銃を作り出しそれを構えながら、離れた場所にいるジャンヌたちにも聞こえるような大きな声で叫んだ。

 

「誰だっ! 俺たちに用事があるなら、隠れてないで出てこいよっっ!!」

 

 その声に驚いたのか、退屈そうに剣で雑草を刈っていたジャンヌがハッとして身構えた。少し遅れて、レオナルドも手にした杖を片手に立ち上がると、何やらブツブツと唱え始めた。遠くて聞こえないが、多分共振魔法(レゾナンス)の一種だろう。

 

 手持ち無沙汰の鳳は、同じく武器を持たないメアリーを背中に隠しながら、中腰になって辺りを警戒した。ギヨームは敵の場所が分かっているようだが、戦闘経験の少ない鳳にはそれがさっぱりわからなかった。

 

 広場の中央に下ろした荷物にライフルがあるから、出来れば取りに行きたいところだが、相手が弓や銃でこっちを狙ってないとも限らないので、下手に動けなかった。ダッシュして取りに行くことも出来なくはないが、それで敵の攻撃を誘発しては元も子もない。やれることは、だた身を低くして、家の土台の影に隠れるだけだ。

 

 鳳はバクバクと鳴る胸の鼓動を抑えながら、いざとなったらメアリーだけでも逃さなければと考えていた。実際には、神人のメアリーを守る必要なんかなく、一目散に逃げなきゃいけないのは鳳の方だったろうが、突然の事態に頭が上手く回らなかった。

 

 だからもし、このまま戦闘になっていたなら、怪我をするか最悪、無駄死にしていただろう。ギヨームたちは手練ではあるが、流石にこの人数を相手にしながら足手まといは守れなかったはずだ。しかし、そんな不安は杞憂に終わった。

 

 鳳たちが警戒して身構えていると、その時、広場を取り囲む森の中から、一人の偉丈夫がぬぅ~っと姿を現した。

 

 身長2メートルは優に超える大男で、ジャンヌに勝るとも劣らない筋肉質の体が、見る者をそれだけで威圧した。上半身は裸で、服と言えば粗末な腰巻きをつけているだけだったが、寒そうに見えないのは、その体が毛皮のような体毛で覆われているからだろう。

 

 下半身の尾骨の辺りからは、長い毛並みのいいしっぽが垂れ下がっており、風がないのにパタパタ揺れているのは、それが作り物ではない証拠だった。そして首から上には、人間のものとは似ても似つかない、狼そのものの頭が乗っかっていた。獣人である。

 

「おいおいっ!! それ以上近づくなよ、そこで止まれっ!」

 

 その堂々とした姿にあっけに取られつつも、ギヨームは手にした銃を獣人に向けたまま、威嚇するように叫んだ。獣人はそんな彼に一瞬だけチラリと視線を向けると、こちらには敵意が無いと言わんばかりに、片手を上げてそれを制しつつ、ギヨームではなく広場の中央にいるジャンヌと老人の方に顔を向けた。

 

 見た目小学生にしか見えない彼よりも、そっちの二人の方がリーダーっぽく見えたからだろうか。ギヨームからすれば不快な行動でしかなかったろうが、それが嫌味に思えないのは、その男の威風堂々たる姿があるからこそだ。

 

 その時、脳裏を何かが弾けるように過ぎっていった。鳳は、なんとなく、その男の顔に見覚えがあるような気がしたのだ。正直、獣人の顔なんて殆ど見分けがつかなかったのだが、何故かその顔は、つい最近どこかで見かけたたような気がするのだ。

 

 鳳が、どうしてだろう? とその記憶を辿っていると、ギヨームに銃を向けられたままの男は、獣人らしい、表情があってないような表情で、

 

「問おう。そこに居るのは大君(タイクーン)レオナルドと見たが、違ったか」

 

 男がそう言うやいなや、杖を構えていたレオナルドは眉毛を釣り上げて目を丸くしながら、

 

「如何にも。そういうお主は……おお! 一ヶ月前の攻防戦の時以来だな、獣王(ビーストキング)よ」

 

 その通り名を聞いた瞬間、鳳の頭の中にもパッとその名前が蘇った。

 

 獣王ガルガンチュア。あの名もなき街を守る際、レオナルドの呼びかけによって、各地のギルドから集まってきた一人である。攻防戦の際には、ジャンヌと並んで、その膂力のみで多くの帝国兵を退けてきた強者だ。MPを消費しないから鳳とは縁が無かったが、ギルド酒場で補給している時に何度かお目に掛かった覚えがあった。

 

 ガルガンチュアは、未だに銃口を向けたままのギヨームに軽く会釈するように頷くと、手を差し出したままレオナルドの方へと歩いていった。そんな二人ががっしりと握手を交わしたところで、それを合図にギヨームが銃を下ろし、そして森の中から続々と獣人たちが姿を現した。

 

 その数はギヨームが言った通り、30は下らなかった。偵察や探索技術が高いギヨームが、こうもやすやすと近づかれてしまうのだから恐れ入る。獣人というのは、天性の狩人と言っていい、きっとそんな種族なのだろう。

 

 これがもし敵だったら今頃どうなっていたことだろうか……鳳はそんなことを考えて身震いすると同時に、新たに合流した獣王の仲間たちの勇姿を、心強く思っていた。

 


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