ラストスタリオン   作:水月一人

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ここで遭ったが地獄の三丁目!

 河原に積み上げられた死体は100体は下らなかった。人間のような手足を持つ二足歩行の動物を相手に、虐殺と言っていい数字であったが、それでも殆ど罪悪感を感じないのは、相手が異形だからだろうか。

 

 頭部から背中にかけてびっしりと生えた鱗と、魚にしか見えない顔。目蓋が無く透明の膜の張った目はぎょろりと大きくて、死んでもまだ動きそうな存在感があった。臀部(でんぶ)には尾びれのようなしっぽが生えており、よく見ると手足の指の間にヒレがついている。戦闘で鱗が剥がれ落ちたのであろう。背中のあちこちに抉れるような穴がぼこぼこと空いており、それが蓮コラみたいに見えてメチャクチャ気持ち悪かった。

 

 見ているだけで恐怖を煽ると言うなら成功と言えるが、徹頭徹尾不快な造形は、どうしてこんなものを創り出したのだろうかと、神の良識を疑いたくなった。そう言えば、神と言うと形而上の漠然とした概念のように思えるが、この世界にはれっきとした神様が存在し、確か魔族はラシャが作り上げたものだったはずである。

 

 するとラシャは、我々人間を否定して、こんな異形を作りたかったのか? 人間と比べて、これのどこが優れていると言うのだろうか。いきなりリュカを殺してしまったり、どうもこの荒ぶる神は、一筋縄ではいきそうもない存在のようだ。

 

 そんなことを考えていると、レオナルドが寄ってきて、

 

「そう言えばお主、この間、自分が魔族かも知れぬと悩んでおったようじゃが……これを見た今はどう思っておる?」

「あ、ああ……そうだな」

 

 自分は魔族じゃない。見るからに人間である。鳳は老人に返事を返そうとしたが、すぐには言葉が出てこなかった。

 

 確かに、自分がこれと一緒だとは思えない。手足が二本、頭が一つで二足歩行という共通点を除けば、人間とは似ても似つかない魚人と、鳳が同じ種族だと到底考えられなかった。そして獣人とも違う、神人とも違うとなれば、自分はやっぱり人間なのだろう。

 

 しかし、人間とはなんだ?

 

 この世界には、様々な種族がいて、それぞれ信じている神様が違ってて、どうも色んな人の話を聞く限り、そんな多種多様な種族全部をひっくるめて人類だと言う。

 

 そんな中に人間が……鳳の知る地球という惑星に君臨していた、霊長類ヒト科のホモ・サピエンスにそっくりな人間と言う種族もいるわけだが、見た目は自分と同じでも、BloodTypeが違う彼らは、果たして同じ人間と呼んでも良いのだろうか。

 

 例えば、人間の限界を軽々と凌駕するジャンヌの力。

 

 なにもない虚空から銃を取り出すギヨームの力。

 

 彼らが人間なのか、それとも、自分が人間なのか。

 

 本物の魔族というものを見て、鳳はますます分からなくなってきた。

 

「戦士よ。一発もらっていたが、大丈夫か」

 

 鳳たちが会話をしていると、そこにガルガンチュアがやってきた。彼はジャンヌの背中の傷を見ながら鼻をヒクヒクさせている。多分、ドクダミの臭いが気になるのだろう。

 

「心配してくれるの? でも平気よ。私はHPもVITも高いから、そんなにダメージは受けないみたい」

「おまえは強いな。おまえが居てくれて助かった。俺たちだけでは、負けはしなかったろうが、倒しきれなかっただろう。感謝する」

 

 ガルガンチュアが礼を言うと、彼の部族の男たちが珍しいものを見たように立ち止まった。彼らもジャンヌの戦いっぷりを目の当たりにしたのだから、その強さに異論は無いのだろうが、それでも族長が頭を下げるという行為には抵抗があるのだろう。

 

 そんな空気を察したのか、ジャンヌが慌てて謙遜をする。

 

「お礼なんてとんでもない。あなたが援護してくれたから、私もこの程度の怪我で済んだのよ。こちらこそお礼を言わせて頂戴。ありがとう」

 

 まるで止まっていた時が動き出したかのように、獣人たちは元の作業に戻っていった。未開の部族ルールなど知らないが、面子みたいなものがあるのかも知れない。人間社会などどこまで言っても面倒くさいものである。

 

 そんなことを考えながら獣人たちの作業を見守っていると、彼らは河原に転がっていた魔族の生死の確認を終えたあと、今度はそれを一箇所に集め始めた。

 

 何をするんだろうと思っていると、周辺の探索に出ていた別の獣人のグループが大量の焚き木を抱えて戻ってきて、河原の真ん中でいくつもいくつもキャンプファイヤーをはじめた。

 

 それだけ見たらもう言わずともわかる。しかし、これだけの死体を焚き火で焼こうなんて本気なのだろうか。それとも、魔族は見た目が魚だし、まさか食べるつもりじゃないだろうな……と考えていると、うっかりそれを口に出してしまっていたのか、

 

「少年よ。我らはそんなことはしないぞ。魔族の肉なんて固くて食えんからな」

 

 いつの間にか背後にいたガルガンチュアが、ギロリと睨みながらそう言ってきた。

 

 やばい。怒らせてしまっただろうか……

 

 鳳が冷や汗をかいてドギマギしていると、そんな彼を見て獣王はニヤリと笑った。どうやら、彼流のジョークだったらしい。そりゃそうだろう、いくらなんでもこんな不気味なものを食べようなんて、まともな神経をしていたら思わない……鳳は胸をホッとなでおろしたが、

 

「こんなものを食べるのは人間だけだ」

 

 付け加えるようにポツリと漏らしたガルガンチュアの言葉に、鳳の心臓がどきりと鳴った。

 

 そう言えば、城でゴブリンを倒した時、兵士たちが肉がどうこう言っていたのを思い出した。あの時は本当かどうか確認を取らなかったが……本当に、人間はこんな不気味な生物を食べてしまうというのだろうか? もしもそうなら、一体、どちらの方が化け物だと言うのか。

 

 そんなことを考えていたら、キャンプファイヤーに焼かれた魚人の死体が、ジュージューと音を立てて焼け始めた。すると河原全体に焼き魚のような香ばしい匂いが立ち込めてきて、彼の胃酸を刺激した。

 

 その瞬間、鳳はその日最も激しい吐き気を覚えた。

 

********************************

 

 獣人達による死体の焼却は一晩中続けられた。放って置いてもそのうち微生物が綺麗サッパリ片付けてくれるはずだが、そのままでは土壌が汚染されてしまって、暫く河川に影響が出るらしいのだ。なので最低でも内蔵を処理し、焼いて置かなければならないそうである。生きてても死んでからも、魔族は獣人たちにとって厄介な存在であるようだ。

 

 鳳たちはその作業が終わるまで付き合おうと思っていたが、その気が滅入るような作業を見ていたら、段々目眩がしてきてしまい、結局立ち去ることにした。夜中に森を移動するわけにもいかないから、すぐ近くに野営しているだけなのだが、せめてそれが見えないところにいなければ、正気を保っていられなかったのだ。

 

 内臓処理と一口に言っても、それは要するに腹の中身を全部かき出してキャンプファイヤーにぶち込むわけである。しかも、二足歩行の人間に近いシルエットのものから、内臓を引きずり出してる光景だけでも、かなりくるものがあったが、おまけにそれが全部妊婦だったのだ。

 

 ジャンヌが戦闘中に命乞いをされて意表を突かれたと言っていたが、レオナルドがその死体の一つひとつを確認したところ、どうもあのオアンネスなる魔族は、全て妊娠中のメスだったらしい。どうやら奴らは、出産をするためにこの川までやってきたようなのだ。

 

 しかし、それは少し考えにくいと、老人は険しい顔をしてみせた。

 

 魚人(オアンネス)は見てくれの通り、基本的に水辺に棲息する魔族である。淡水海水を問わないため、海に棲息しているか、大森林なら河川の周辺に集まるわけだが……ところが魔族の住むネウロイのある南半球と、神聖帝国のある北半球とでは、大森林の河川はそれぞれ独立しており、上流は繋がっていないのだ。

 

 とすると、オアンネスがここ北半球に居たということは、海を通って河口から侵入したと考えられるわけだが……この河川の下流はブレイブランドに繋がっており、その周辺を魔族が通ったならば、人間の漁師が気づいて騒ぎになっているはずなのだ。

 

 オアンネスが現れたのは半年くらい前であるから、勇者領で暮らしていたレオナルドが気づかないわけがない。ならば、この魔族はどこから侵入してきたというのだろうか……?

 

 100体程度なら、たまたま見逃したという可能性もある。だが、それならそれで、こんな上流ではなく、もっと下流の方で魔族の侵入騒ぎが起きていなければおかしいだろう。

 

 そうなると最終的に考えられるのは、この魚人族が陸路を使って北半球に侵入したということであるが……魚人がまったく陸上を移動しないというわけでもないので、その可能性も否定できなかったが、北半球の河川と南半球の河川は、知られている限りでは、最も近い場所でも数百キロは離れているそうである。そんな距離を、ヒレのついたベタベタの手足で、この魔族が歩いて踏破したとは少々考えにくかった。

 

「じゃが、他に可能性がないなら、そう考えるしかあるまいて……問題は、何故奴らがそうまでして、こっちにやってきたかと言うことじゃが。こんな前例、聞いたことがないで、まるでわからんのじゃわい」

「例えば魚人は出産のために、安全な場所でメスだけのコロニーを作るとか、そういった習性はないの? 安全な場所を探していたら、偶然こっちにたどり着いてしまったとか」

「ふむ……お主の言う通り、どいつもこいつも妊婦であるなら、出産のためにこちらへやってきたと考えるのが妥当じゃが……しかし、はっきりそうとは言い切れん。魔族の習性は謎に包まれておる。危険を犯してまで、わざわざ調べようとする物好きはおらんからのう……一度、ギルドに戻って調査依頼を出してみたいが」

「それじゃ出来るだけ早く勇者領に行きたいところだな」

「いや、そう慌てる必要もない」

 

 鳳が移動の急を提言するも、それを老人が否定した。

 

「ガルガンチュアの部族は、冒険者ギルドの窓口になっておるのじゃ。村の近くに駐在所があるから、そこへやってきた連絡員に依頼する方が効率が良いじゃろう。出来れば自分の目で確かめたくもあるしのう。そんなわけで、お主らには悪いが、もう暫くこの老人に付き合ってくれんか」

「俺たちで、南半球まで行って調べようってことか?」

 

 そんな気が遠くなるようなことはしたくないぞと言わんばかりに、ギヨームが確認を取ると、レオナルドは首を振って、

 

「そこまで本格的なのはギルドに任せよう。儂は被害に遭った部族などから情報を得たいのじゃが、どうじゃろう」

「わかった。急ぐ旅でもあるまいし、俺は構わないぜ」

 

 無論、鳳やジャンヌに文句があるわけもなく、メアリーに至ってはもう暫く森の暮らしが出来るとあって、逆に喜んでいる様子だった。

 

 そんなこんなで、翌朝。

 

 魔族の始末を終えたガルガンチュアの部族と合流した一行は、一路彼らの集落を目指して森を歩き始めた。目的が変わり、暫く森に残って魔族の動向を探りたいと言うと、獣王はそれなら丁度、駐在所に連絡員が滞在していると教えてくれた。

 

 出かける時、わけあって暫く滞在すると言っていたから、帰ったらまだいるかも知れない。オアンネスの調査をしたいと伝えると、自分たちも気になっているから、依頼をするなら協力しようと約束してくれた。

 

 そんなわけで、連絡員と入れ違いにならないように先を急ぐことにした。ガルガンチュアによると、彼の村はこのすぐそばで、急げば一日で到着すると言っていたのだが、この一ヶ月の潜伏でだいぶ慣れたと思っていたのに、獣人たちと比べると、鳳たちの森での移動速度はまだまだ遅かったらしく、結局、到着までに一度の夜営を挟んで二日かかってしまった。

 

 獣人たちの言葉を信じて、無理をして先を急いだつもりだったが、交代で馬を乗り継いで、肩で息をするほど頑張っても、鳳の足は獣人の速度の半分にも満たなかった。ジャンヌですらついていくのがやっとだというのに、獣人たちは森歩きに慣れているらしく、まだまだ余裕があるようだった。

 

 結局一日で帰ることを諦め、みんなで野営をしている最中、一人ぶっ倒れていた鳳の姿を、獣人たちが鼻で笑っていた。人間は軟弱でだらしないと言われても、悔しいが本当のことだから何も言い返せなかった。

 

 実際、彼ら獣人は誰も彼もが屈強な戦士だった。素手で魔族に立ち向かうなんてことは、人間には到底不可能で、そう考えると彼らと神人は身体能力だけを見れば対等なのか知れない。

 

 しかしそう考えると不可解なことがある。

 

 人間よりもずっと強い獣人が、こんな森の奥で未開人のような生活を送っており、おまけに人里で見かけた獣人は、みんな人間の奴隷だったのだ……どうしてなんだろう? 不思議でならなかったが、そんなこと本人たちに面と向かって聞けるわけもなく、移動疲れで爆睡した翌日には、もう忘れてしまっていた。

 

 翌朝、早朝に出発したのに、村についたのは太陽が中天を通り過ぎた後だった。予想に反してガルガンチュアの村は川沿いではなく、深い森の中にあった。

 

 川から離れ、昼間なのに夜みたいに暗い森に入り、まるで飛び石のように沼が散らばる湿地帯を抜けると、50メートルを超える巨木が立ち並ぶ、地面がコケ類とシダ類で覆われ緑の絨毯みたいになっている場所に出た。見上げれば天使の梯子みたいな木漏れ日が差し込み、ところどころに立っているマングローブみたいな木々が、その光を反射して輝いて見えた。

 

 見渡す限り、膝丈以上の草木は生えておらず、森の中だと言うのに異常なくらい視界が開けている。そんな幻想的な場所を通り過ぎると、突然、緑の雲にぽっかりと穴が空いたように光が差す広場が現れて、ガルガンチュアの集落はそこにあった。

 

 広場の中心には、この辺一帯で最も幹が太く100メートルはあろうかという大木が立っていた。多分、元々あったその巨木の周りの木を切り倒して作られた広場なのだろう、それを取り囲むように家々が立ち並んでいる。家はどれも簡素な作りで、高床式の土台の上に、藤棚みたいな屋根が乗っていて、最低限の壁しかない家は、プライバシーの概念などどこかに捨ててきてしまったかのようであった。

 

 それぞれの家は板を渡しただけの、簡易な橋のような廊下で繋がっており、それを伝って村中どこでも遊びに行くことが出来るようだが、それはすなわち自分の家が往来になることを意味していた。多分、雨に濡れずに済むという、機能性だけを考えて作られたのだろう。もしかすると、雨季にはこの辺は湖みたいになるのかも知れない。

 

 村には家畜がいるらしく、ガルガンチュアたちが帰ってきたことに最初に気づいたのはその豚だった。柵で仕切られただけの豚舎でブヒブヒと大合唱が起きると、その声に気づいた村の子供たちが飛び出してきて、まだ遠くにいる父親たちに向かって手を振った。

 

 その瞬間、それまでずっと厳つい顔をしていた獣人たちの顔が綻び、風もないのにしっぽがゆらゆら揺れ始めて、集団の雰囲気がガラリと変わった。そんな風にソワソワしている獣人たちを見て、もはや規律もないだろうと思ったのか、族長のガルガンチュアがもう自由にしていいぞと言うと、彼らは村へと一直線に駆けていってしまった。こうして見ていると、ただの犬ころである。

 

 こうして村に到着した鳳たち一行は、休憩もそこそこ、すぐまたギルドの連絡員と会うために腰をあげた。

 

 話によれば、ギルドの連絡員は村に滞在していると言っても、少し離れた場所に小屋を建てて駐留しているのだそうである。獣人たちの村はプライバシーもへったくれもないから、街の住人にはきついものがある。このままだと連絡員が来たがらないから、ギルドと話し合った結果、宿舎を建てて、それをガルガンチュアが管理しているのだそうだ。

 

 突然の来客に好奇心を抑えられない子供たちの視線を掻い潜り、ガルガンチュアに案内されて村外れから再度森に入り、ほんの数分歩いた場所に小屋はあった。周囲と違って少し高台になっているのか、地面が乾いていて他と違って歩きやすい。地盤が家を建てるにも適しているのか、思ったよりも大きな建物の出現に、もっと小さな小屋をイメージしていた鳳は少々驚いた。

 

 大きさとしては例のギルド酒場くらいはあるんじゃなかろうか……? 久しぶりに人間の住処らしい住処を見て、何故か妙に安心する。レオナルドは森に暫く滞在すると言っていたが、ここを貸してもらえるなら割と快適に暮らせそうだ……

 

 そんなことを考えていると、ガルガンチュアが家の前に立ち大声で、

 

「御免! 駐在員はいるか!」

 

 彼が叫ぶと間もなく家の中でドタバタと音がした。足音は複数、三人くらいいるのだろうか。そこまで広くはない建物のあちこちから、お前が行けとか、そっちが出ろとか、怒鳴り合う声が聞こえてくることからして、どうも駐在員たちの仲はあまり良くないらしい。

 

 しかし、それがなんだかどこかで聞いたことのあるような気がして……はて、どうしてだろう? と思っていたら、怒鳴り合う二人の間を取り持つような声が聞こえてきて、最終的にその声が押し出されるような格好で入り口の方に近づいてきた。

 

「はいはい、いま出ますよー」

 

 扉の中から聞こえる声は、やっぱりどこかで聞いたことがある。ふと隣を見れば、ジャンヌとギヨームも首を傾げていて、どうやら彼らも鳳と同じ印象を持っていたようだった。

 

 その理由は間もなく判明した。ガチャリと音がして扉が開くと、中から一人の女性がひょっこりと顔を出し、

 

「え?」「あれ……?」「なんでおまえがここに……」

 

 それを見た鳳たちは、三者三様に驚きの声をあげるのだった。

 

 その感想は、出てきた女性も同じだったらしく、彼女はそこにいる鳳たちの顔を見て目を丸くすると、素っ頓狂な声を上げた。

 

「ええ!? ギヨーム君? ジャンヌさんに、鳳くんも……」

 

 目の前に、あのギルド酒場のルーシーが居た。

 

 いつものオクトーバーフェストみたいなお仕着せを着て、相変わらず人好きのする笑顔を見せて。どうして彼女がここにいるのだろうか……? それは分からなかったが、ここに彼女がいるということは、奥にいる他の二人はもしかして……

 

 鳳がそんなことを考えていると、件の人物たちが家の奥から大声で、

 

「なに!? 鳳っ!? ああああーーーっっ!! てめえ、この野郎! ここで遭ったが地獄の三丁目!!」

 

 そんなセリフを口走りながら、ギルド長フィリップと従業員のミーティアが、血相を変えて飛び出してきた。

 

 彼らは鳳の姿を見つけるや、眉を釣り上げ、目を血走らせ、腕まくりして、一目散に鳳に向かって突き進んでくる。

 

「なんで? どうして?」

 

 そのあまりの迫力に気圧されて、鳳は即座に回れ右して逃げ出そうとしたが、その試みは怒りに駆られた二人の前にはあまりに無力だった。

 

 彼は間もなく取り押さえられて、二人にボコボコにされた。遠巻きにそれを見ていたルーシーだけが、そんな彼らを止めようとしてくれていたが、割と普通に無視されていて、物の役にも立たなかった。

 


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