ラストスタリオン   作:水月一人

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決闘

 2日連続してギルドに泊まった鳳は、まだ日が昇って間もない早朝に、レオナルドと一緒に駐在所を出た。鳳とハチとの狩猟対決を見届けるため、彼は人間であるが、過去の大戦の英雄なので、立会人を頼まれたのだ。

 

 レオナルドは大あくびをしながら、いつも手にしている杖でカツンカツンと地面を鳴らして、実に面倒くさそうに鳳の前を歩いていた。老人のくせに朝に弱い彼は、普段ならまだベッドの上なのだ。

 

 鳳はそんな老人が歩きながら眠ってしまわないように、その背中を見守りつつ、ここ数日で気がついたことを尋ねてみた。

 

「ほう……あのステータスにそんなカラクリがあったとはのう……良く気づいたもんじゃわい」

「制限があるとはいえ、ステータスの増減を直接いじれる俺じゃなきゃ気づかないだろうな。人間は、ステータスが上がったとしても緩やかだし、神人はそもそも数字が変わらない。見たところ上がるステータスも、体格に恵まれてる人はSTRやVIT、そうじゃなければDEXやAGI、他にもINTが上がる傾向が強いみたいだな」

「なるほどのう……では今後お主は、ステータスを上げるだけではなく、素の能力も意識して鍛えていかねばならんのう。せっかくSTRが上がっても、素の筋力が貧弱では元も子もないわけじゃ」

「STRを上げてから積極的にさぼって、DEXとAGIを上げようってのは夢だったな。多分、STRが下がると他が上がるのは爺さんが言ってた通り最大値の問題だ。年を取ると、STRの高さは体への負担につながる。だからSTRが下がって、代わりのステータスが上がるんだろう。そうすれば、ボーナス的には変わらないから」

「ボーナス……な。お主ら、未来人の感覚は独特じゃな」

 

 老人はそうため息交じりにつぶやいて肩をすくめた。この手の話は、ジャンヌにはすんなりと受け入れられるのだが、昨日ギヨームも苦労していたように、そもそもコンピュータゲームを知らない人にはよく分からないものらしい。

 

 それから、鳳の経験値の問題もある。

 

「ふむ……獣人の子供にやられて、生死の境を彷徨ったら、またレベルが上っておったのか……それも二回目となると、恐らくお主は、普通の人間とは違って、失敗をしたほうが経験値が上がるんじゃろうな」

「やっぱ、そうなるよな」

 

 老人はゆっくりと大きく頷いて、

 

「それに、その方がしっくりくる。普通、成功体験からは殆ど経験を得られないもんじゃ。そもそも人は経験があるから成功をするのではないか。

 

 例えば、儂は絵を描くが、描いた絵が下手くそじゃから、次はああしようこうしようと試行錯誤するわけじゃ。その試行錯誤が経験となって、いつか成功にたどり着く。

 

 なのに現実は魔物を倒すなど、成功をしなければ経験値が入らないのでは、本末転倒じゃろう。それこそ、お主らの言う通り経験値ではなく、討伐ボーナスとでも呼んだほうが良いじゃろうな。

 

 そしてその、討伐ボーナスを得たからといって、何故レベルが上がるのか……これもよくわからぬ」

 

「まあ、その辺は、いかにもRPG的で、俺にはわかりやすいんだけどね」

 

「また、お主らの言う、コンピュータゲームとやらか……ふむ。儂はお主らと知り合って、エミリアという神への印象が大分変わったぞ」

 

 レオナルドは何か塩っぱいものでも舐めたような顔をしている。まあ、その気持ちは分からなくもない。エミリアは……あれは相当のオタクだ。それも『灼眼のソフィア』なんてロールプレイをしてしまうくらい、痛いオタクなのだ。現代日本を知らない昔の人たちには、理解不能だろう。

 

「それはともかく、お主がエミリアの影響を受けていないというのは、これで確実となったな。エミリアの眷属である神人とは、お主はまるで違うルールで生きておる。儂ら、人間ともどうやら違う。傷の治りが早いのは、その影響じゃろう」

「俺が失敗を糧に成長するってのはわかったけど、それじゃ共有経験値はどうなんだろうか。これは決して失敗したから上がったって感じじゃないぞ。特に今回は全く経験値が入ってないんだし」

「そうじゃのう……どれ、一つ、今までにその共有経験値が入ったときの状況を思い返してみよ」

 

 鳳はこめかみを両手の人差し指でグリグリとしながら、

 

「えーっと……最初は練兵場でカズヤのファイヤーボールで焼かれたときだ。目覚めた時になんか勝手に入ってた。次は、あの街から脱出する時だったな。この時は、何かを失敗したとは思えない。むしろ、上手くやれたと自画自賛に思ってたくらいなんだけど……」

「ふむ……これだけでは分からぬな。サンプルが少なすぎる。しかし、やはりパーティーの共有経験値というだけあって、大勢で何かを成し遂げた時に入るのではないか? 最初のは分からぬが、二回目はお主の言う通り、帝国軍の撃退に成功したからと考えるのが妥当じゃろう」

「そうだなあ……となると、これからは出来るだけパーティーメンバーと一緒に行動してみるのが吉か。なんかやってたら、いつか経験値が入るかも知れないし」

 

 鳳がそう返事をした時だった。少し先を歩いていたレオナルドが突然、杖を地面に突き刺して止まった。彼は杖の頭に両手を乗せて、休めの体勢を取りながら、道の脇にある雑木林の木陰に向かって声をかけた。

 

「そこにおるのは誰じゃ? 儂らに何か用か」

 

 誰か居るのだろうか? 鳳は老人の視線の先を探った。すると、雑木林の中からガサガサと雑草をかき分ける音がして、ひょっこりと一人の獣人が現れた。頭の上には兎みたいな耳が生え、他の獣人たちとは違って顔はより人間に近い。狼人の集落の中で、たった一人兎人であることでやけに目立っていた、マニである。

 

 こんな早朝に、こんな村はずれの雑木林に、用事も何もないだろう。明らかに鳳たちがやってくるのを待っていたに違いない。一体何の用だろうと、彼の出方を待っていると、マニはおどおどとした上目遣いをしながら、実に足取り重く嫌そうに鳳の前までやってきて、

 

「あの……その……村に行くんですか」

 

 鳳とレオナルドは顔を見合わせた。

 

「そりゃあ、この先にはおまえんとこの村しかないからな」

「……どうして、本当のことを言わなかったんですか?」

「本当のこと……?」

 

 鳳がわけがわからないと言った感じで首を傾げていると、マニは少し苛立たしそうな様子で、

 

「お兄さんは、ハチ君に不意打ちなんてしてなかったじゃないですか。あの時、本当のことを言えば、ハチ君と決闘なんかしなくてよかったはずなのに……どうして、そうしなかったんですか?」

 

 まだ少し理解が難しかったが、決闘がどうこう言ってることから、恐らく彼は鳳がジャンヌを止めに行った時のことを言っているのだろう。

 

 あの時、ガルガンチュアがジャンヌの要求を拒否していたのは、ハチが鳳の方が先に手を出してきたからだと言っていたからだ。しかし、鳳はマニが虐められているのを止めようとしていただけなんだから、本当のことを言えばあの場は丸く収まったはずだと、彼はそう言っているのだろう。

 

 鳳はその言葉を聞いて、なんだかむかっ腹が立ってきた。だったらあの時、マニがあの場でそう言えば良かったのではないか。なんで今頃になって、しかも鳳に言ってくるのだ。

 

「いや、俺は本当のことしか言ってないと思う。先に手を出したのは本当だ。俺はあいつのことを突き飛ばした」

「それは僕を助けようとしたからじゃ……」

「でも、おまえは言わなかったじゃないか」

 

 鳳はマニの言葉を遮るようにピシャリと言った。

 

「俺がおまえを助けようとしたことを、おまえはあの場で言わなかったじゃないか。なのに、後からやってきた俺が、実はマニ君を助けようとしたんですって言っても、何の意味があったというんだ? 本人が否定しているっていうのに」

「それは……」

「ハチとの決闘なら気にすんな。遅かれ早かれ、あいつとはぶつかってたと思うよ」

 

 鳳は大きくため息を吐くと、これ以上は時間の無駄だと言った感じに、返す言葉もなく俯いているマニの横を通り過ぎた。彼はそのすれ違いざまに、

 

「罪悪感を感じているなら、俺なんかにこそこそ言ってないで、ガルガンチュアに言うんだな。真実はおまえの中にしかない。本当のことを言えるのはおまえだけなんだ」

 

 鳳の言葉をマニはプルプル震えながら聞いていた。その顔が、自分だって言えるんならそうしてると言っているかのようだった。レオナルドは先を進む鳳に追いつくと、

 

「手厳しいのう。相手はまだ子供ではないか」

「そうはいっても、俺はそれで死にかけたんだぞ?」

 

 そう言われては何も言い返せない。老人はやれやれと言った感じに肩を竦めた。

 

「それに、優しくしてやったところで、どうせ俺はいつか居なくなるんだ。彼自身が虐められているという現状を変えたいと思わない限りは、結局何も変わらないだろうよ」

「かも知れぬが……それが出来ぬから虐められているのじゃろうて。何の因果か彼はこの集落でただ一人の兎人であるし、そう突き放さずとも……はて? そう言えば、あの子はどうして、この集落にあって一人だけ種族が違うんかのう?」

「さあ……俺も気になってたんだけど、よく分かんないんだよね」

 

 振り返るとマニはさっきと同じ場所で佇んでいる。二人は首を傾げると、それ以上は会話せず、村の広場へと急いだ。

 

*********************************

 

 早朝にも関わらず、村の広場には既に集落のほぼ全員が集まっていた。楽しいことが何もない大森林の奥地では、他人の決闘であってもお祭りみたいな娯楽になるのだろう。鳳が姿を現すと、人垣から好奇に満ちたどよめきが起こった。

 

 中央では族長のガルガンチュアと長老の男が待っており、そのすぐ横にハチが居て、鳳の姿を見るや敵意むき出しの視線を向けてきた。ガルルルル……っと唸り声が聞こえてきそうな勢いである。鳳はそんなハチの威嚇を涼しい顔で受け流すと、レオナルドと一緒にガルガンチュアの前へ歩み出た。

 

 長老がレオナルドに椅子を勧め、下手くそな美辞麗句を並べてから着席する。ガルガンチュアはそれを見届けると、鳳とハチの手を掴んで彼の両脇に並べ、村人たちに宣言するようにその手をぐいっと引っ張り上げた。

 

「これより、我が子ハチと、人間ツクモの決闘を行う」

 

 オオオオーッ! っと、広場に集まっていた村人たちから歓声が上がった。彼らは待ちきれないと言わんばかりに、やんやと手足を打っては進行役のガルガンチュアを急かす。

 

 ガルガンチュアがハチを我が子と呼んだのは、血縁関係があるからではなく、この村の住人すべてが家族だという意味だろう。きっと彼らは全員で一つの家族という意識で暮らしているのだ。その証拠に彼らの声を聞いていると、ハチへの声援はあっても、鳳へのものは一つもない。完全アウェーである。

 

 ガルガンチュアはそんな“家族”に向かって静まれ静まれ! っと叫び、彼らが落ち着くのを待ってから、ゆっくりと今回の勝負の方法について話し始めた。

 

「決闘は狩猟で行う。期間は今から明日の日没まで。方法は自由だ。ハチもツクモも銃を使っていい。罠を使っても良い。ただし、獲物を他人から貰ったり、奪ったりするのは駄目だ。必ず自分の手で捕まえること。

 

 獲物の種類は何でも良い。魚でも鳥でも、イノシシでもヒヒでもいい。相手より大きな獲物を捕まえて来た方が勝ちだ。例えそれが兎や鹿でも、相手が獲ってきた熊よりも大きかったら勝ちだ。

 

 二人共、この条件で良いな?」

 

 獣王は二人と、集まった大勢の村人たちに確認してから、続けた。

 

「ならば、獣王ガルガンチュアの名において、勝者は敗者に言うことを聞かせる権利をくれてやる。二人共、相手に何をどうするか、ここで宣言しろ」

 

 するとハチは一歩前に進み出て、鳳に対して敵意むき出しの視線を浴びせながら、大きな声で叫ぶように言った。

 

「俺が勝ったら人間は出てけ! 俺の前からいなくなれ!!」

 

 ギャラリーからヤンヤヤンヤの歓声が上がる。ハチはその声を受けて気持ちよさそうに鼻をひくつかせていた。どうやら自分が注目を浴びることで、自尊心が満たされているらしい。

 

 対する鳳は思わずぽかんとしてしまった。ぶっちゃけ、一度死にかけて、ここまで話がこじれて、ついには決闘にまでなってしまったのだ。当然、死ねとか、くたばれとか、息をするな吐くなとか、もっとキツイ要求をされるんだと思っていたのだが、拍子抜けも甚だしい。

 

「……どうした、少年。おまえの番だ」

 

 鳳が肩透かしを食らって固まっていると、ガルガンチュアが怪訝な表情で声をかけてきた。彼はハッと我を取り戻すと、

 

「あー……俺は特に要求とかないです。どうせ負けるわけないし、さっさと始めましょう」

 

 するとそれを聞いた村人たちが、それを挑発と受け取ったのか、

 

「なんだと!」「我らをバカにするな!」「勝負を逃げる気か!」

 

 などなど、思い思いに鳳に怒りの言葉をぶつけ始めた。もちろん、彼にそんなつもりは無かったのだが、どうやらハチ=家族が馬鹿にされたから、自分たちも馬鹿にされたと思ったらしい。

 

 鳳へのブーイングで広場は騒然となり、その大音量で耳がおかしくなりそうだった。レオナルドも長老も、耳を塞いで迷惑そうに眉を顰めている。堪らずガルガンチュアが近寄ってきて、怒鳴るように鳳の耳に向かって叫んだ。

 

「何でも良いからさっさと決めろ! 村人たちを刺激するな!」

「あー、はいはい! わかりましたよ……まいったなあ」

 

 鳳は後頭部をボリボリとひっかくと、何か良い要求はないかと頭を捻った。真っ先に思いついたのは、同じく、村から出てけというものだったが、実際問題、ハチがこの森で一人で生きていけるとは思えない。そんなことになったら寝覚めが悪い。かと言って、他に特にこれと言った要求も思い浮かばない。舎弟になれと言ったところで、こんな癇癪持ちに付きまとわれても面倒くさいだけだし、死ねとか腹をかっさばいて詫びろというのも大人げない。

 

 それで結局困ってしまった鳳は、キャンキャンと吠える犬みたいな村人たちの姿を見て、ふと思い立ち、

 

「それじゃあ、俺が勝ったら負け犬みたいに、ハチには腹を出して謝罪してもらおう」

 

 それだけで良いと、鳳としては寛大な要求のつもりだったのだが……

 

 ところが彼がその言葉を口にした途端、それまでギャースカうるさく吠えていた村人たちが、突然しんと静まり返り……みるみるうちに顔面が紅潮してきたかと思うと、今まで以上に敵意のこもった目つきで鳳のことを睨んできた。

 

 次の瞬間、怒号が轟き、さっきとは比べ物にならないくらいの騒ぎが広場を包んだ。鳳としては何の気もない要求が、どうやらシャレにならないくらいやばい行為だったらしい。

 

 この雰囲気は流石にまずいと思ったのか、レオナルドが慌てて鳳に駆け寄ってくる。

 

「これ、鳳。これ以上、彼奴らを刺激するでない。今ならまだ変えられるじゃろうから、すぐに撤回するのだ」

「あ、ああ、そうしよう……」

 

 そう言われて、鳳も慌ててガルガンチュアに訂正しようとしたときだった。

 

「みんな静まれ! 静まれ! 俺はこの要求を飲む!」

 

 興奮する村人たちの前にハチが颯爽と飛び出して、まるで族長にでもなったかのように高らかと宣言した。

 

「俺は負けない! だから何を要求されても同じ! みんな心配するな!」

 

 きっと、さっきから応援してもらってるせいで気が大きくなっているのだろう。自信満々に言ってのけるハチに対し、怒っていた村人たちは溜飲を下げると、その寛大で勇敢な行為を褒め称えて喝采をあげた。

 

 村のあちこちから、ハチを称える声援が聞こえる。あんなのに負けるなと叫ぶ村人たち。鳳は完全に彼らを敵に回してしまったようである。

 

 そんな完全アウェーな状況の中で、ガルガンチュアが村人たちに負けじと声を張り上げる。

 

「では! 決闘はこの条件で行う! 不正がないように、二人には見張りをつけることにする! ハチ! ツクモ! それぞれ、見張りを指名しろ!」

 

 どうやら公平な見届人を選ぶために、決闘の張本人達に選ばせてくれるらしい。だったら誰にしようかなと鳳が考えていると、先にハチが進み出て、

 

「ガルガンチュアに見張ってほしい! 族長なら絶対不正を見逃さない!」

 

 ハチがそう声を張り上げると、彼を応援する村人たち全員が、賛成賛成! とそれに追随した。この集落で一番信用が置けるのは族長において他にはいない。

 

 ガルガンチュアは族長の仕事もある手前、まさか自分が選ばれるとは思っていなかったようだが、結局は村人たちの声に押されて受諾した。それから、面倒なことを押し付けられてしまったと言った感じに鳳の方へ向き直り、

 

「ツクモよ、おまえはどうする!」

 

 頼みやすいのはジャンヌだが、あれだけ怒っていた彼を、二人で行かせたらギスギスしそうだ。ここはギヨームに頭を下げてお願いするのが無難だろうか……鳳がそう考えて指名しようとしたときだった。

 

 広場の人だかりの後ろの方で、ひょこひょこと動くうさ耳が見えた。遅れてやってきたマニが、中に入れなくて周りをうろうろしているらしい。鳳はそのよく動く、白く大きな耳を見て、何となく思い立った。

 

「マニがいい。ハチの見張りには、マニを指名する」

 

 鳳がそう宣言した瞬間、人だかりの中からどよめきが起こった。そこにいる誰一人として、鳳がマニを選ぶとは思わなかったのだ。突然自分が注目され、やってきたばかりのマニがきょとんとしている。

 

 鳳としては、罪悪感を持っているマニに仕事を与えることで、その気持ちを払拭する切っ掛けになればいいんじゃないか……その程度のつもりであったが、ガルガンチュアは困惑気味に聞き返す。

 

「マニだと? しかし、マニはまだ子供だ。子供だけで森に入るのは危険だ。誰か他の大人にしたほうが良い」

 

 しかし鳳は首を振って、

 

「だからいいんです。子供二人なら不正のしようがないでしょう? もし、他の大人をつけたら、獲物を狩れないハチをかわいそうに思って、代わりに獲物を狩ってしまうかも知れない」

 

 その言葉に村人たちから怒声が上がった。我らはそんな卑怯な真似はしない。侮辱だ。訂正しろ。鳳は興奮する村人たちの声を無視して、

 

「それに、獲物が取れなければ、そもそもこの勝負は成立しない。ハチはもう大人なんだ。それでも心配だと言うなら、あなたが止めて下さい」

 

 ガルガンチュアは、ぐうの音も出ずに渋い表情で押し黙った。そんな族長に代わって、村人たちが問題ない、二人で行かせろとシュプレヒコールを上げる。こうなっては仕方がない。ガルガンチュアとしてはまだ不安だったが、結局、村人たちの熱意に押されてそれを受諾せざるを得なかった。

 

「それでは、この条件で決闘を行う! 二人共、ここに己の名誉と誇りを賭け、正々堂々と勝負することを誓え」

「誓います」「誓うぞ!」

 

 ガルガンチュアの宣言に、鳳とハチが応えてうなずく。村人たちは二人に向かってやんやと声援を送る。二人への応援の数は大体9対1……いや、99対1の割合だろうか。どっちが多いかは言うまでも無い。

 

 興奮する村人たちの後ろの方で、まだ事情がよく飲み込めてないマニが怪訝な表情でこちらを見ている。鳳は彼の視線を受け流すように、肩を竦めてみせた。

 

 こうして二日間に渡る決闘の幕が開いた。鳳とハチ、どちらが勝つか。無責任に賭けをする声が、いつまでも広場に響いていた。

 

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