ラストスタリオン   作:水月一人

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レベルアップのファンファーレ

 ハチとの決闘後、村での鳳のヒエラルキーは上がった。

 

 獣人の集落で暮らすようになってまだ一月も経っていないが、彼らの習性というか性質というか、そういうものがだいぶ分かってきた。獣人はとにかく強ければ偉い。逆に弱ければ何をされても仕方がない。非常にシンプルなルールで動いているが、それだと集落が維持できないから、結局のところ、集落のリーダーが弱い者を保護することで集団が成り立っている。まるでサル山のサルみたいだが、未開の部族なんてものは、どれもこんなもんなんだろう。

 

 そんなわけで、あの決闘で巨大クマを倒すという快挙を成し遂げた鳳は、村での中堅どころの尊敬を集めて、いつの間にか村のヒエラルキーの上位グループと見做されるようになっていた。

 

 隣村が依頼を出すくらいだから、あのクマはこの村の連中でも倒すのは難しく(そりゃ素手だから……)、出来るのはガルガンチュアくらいのものだと思われていた。それを倒したわけだから、鳳は族長に準ずるくらいの力があると村人たちは思っているようだ。

 

 実際には、そこには人に言えないカラクリがあったわけだが……意地悪な者ならすぐに気づきそうなものを、獣人はあまり頭がよろしくないから、思いつきもしないようである。

 

 ともあれ、それで具体的に鳳の村での待遇がどう変わったのかと言えば……

 

 まずは、ある日突然、鳳の家にいきなり長老がやってきて、鳳に妻帯と10人の家族を養うことを許すと宣言して去っていった。そんなこと突然言われても困るのだが……なんのこっちゃと首を捻っていると、近所の人が教えてくれた。どうやらこの集落では、住人が勝手に妻帯したり、子供を産んだりしてはいけないらしい。それには必ず族長の許可がいる。

 

 クマ退治の時にガルガンチュアも話してくれたが、獣人の生まれつきの能力は、両親のレベルに依拠している。獣人にはレベルキャップがあり、成長に限界がある。高レベル同士の両親からは高レベルの子供が生まれやすいが、もし両親のどちらかのレベルが低かったら、思いもよらない低レベルの子供が生まれてくる可能性がある。だから彼らは結婚には細心の注意を払うのだ。

 

 そして当然、生まれてくる子供の数にも制限がかかる。高レベルの子供ならいくら生まれてきても良いが、低レベルな子供はいるだけ邪魔なのだ。要は平均値の問題で、村全体のレベル平均が高ければ高いほど、次世代の平均値も高くなるのだから、可能な限り低レベルが生まれるようなことは避けたいわけである。

 

 そう言うわけで、長老は鳳に妻帯の許可と家族の数なんてものを伝えてきたのだ。尤も、そもそも鳳は獣人ではないし、レベル上限も(多分)ないから、これは形式的なものでしかないのだが……恐らく長老たちは、鳳も村の仲間になったんだよと言いたかったのだろう。その気持ちはありがたいので、素直に受け取っておく。

 

 それからもう一つ。家を引っ越すことになった。

 

 以前にも言及した通り、この集落は樹齢千年くらいありそうな巨木の陰にすっぽりと収まるように広がっているのだが、御神木的なその木の根っこに近いほどヒエラルキー上位の家族が暮らしている。鳳は今までよそ者で、狩りも出来ない役立たずと思われていたから、村の外縁部にゲストハウスを与えられていたわけだが、今回の件で序列が上がったために、村の中央付近へと引っ越すように言われたのだ。

 

 しかし、いきなり引っ越せと言われても、村の中央部は既に他の家族で埋まっている……どうするんだろう? と思っていたら、なんてことない、村のみんなが一つずつ家をずらすことで、まるまる一軒空けてしまった。この集落の家は、族長の家を除いてどれもこれも似たような作りで、土台と簡単な屋根がついてるだけで、壁らしい壁もなく、違いは広さくらいのもんだから、みんな自分の家に愛着を持ってないのだ。

 

 ギルド長が駐在所に誘ってくれていたし、正直、この集落にそこまで長居するつもりは無かったのだが……鳳が断る前に村人たちが引っ越してしまっていたので、そんな理由で、なし崩しにそのまま居候することになった。

 

 新しい家は、前に住んでいた外縁部の掘っ立て小屋と違って、手入れが行き届いていて、掃除の必要は無かった。床面積も三倍くらいあったが、相変わらず壁という概念が無いものだから、隣近所から丸見えなのは本当にどうにかして欲しいものである。とりあえず、寝床の周辺だけでも、タープを蚊帳みたいに吊ってプライバシーを確保する。

 

 さて、そんなこんなで思いがけず広い家を手に入れてしまった鳳であったが、家族を増やしてもいいという言葉に釣られたのか、間もなく新居にジャンヌとメアリーが引っ越してきた。

 

 別に頼んだわけじゃないのだが、例の騒ぎで鳳が死にかけたこともあって、ジャンヌは純粋に彼のことを心配していたようである。プライバシーもクソもないような村だから、無理しなくてもいいと言ったのだが、ジャンヌの決意は固いようだった。まあ別に今更ホモがどうこう言うつもりもないので、その厚意を素直に受け取っておく。

 

 対して、メアリーはそんなジャンヌにくっついて、と言うか、単純に村の方が楽しそうだからと言う理由だった。元々、300年も結界の中に閉じ込められていた彼女は、逃避行の最中の、森での生活もエンジョイしてしまうくらい、外での刺激に飢えていた。

 

 ギルドの駐在所に居候するようになってからは、寝床の心配をしなくて済むようになったのだが、それが返って物足りなかったようである。鳳が村で生活しているのを密かに羨ましく思っていたらしく、この機会にやってきたというわけである。

 

 ところで、神人がやってきたということで、村は一時騒然となった。神人と獣人は仲が悪いからかな? と思ったら全くの逆で、獣人からしてみると、神人は神様みたいなものであるらしい。

 

 300年前、森を追われた彼らが結果的に神人の帝国に助けられたという歴史もさることながら、やはり神人が使う魔法が、獣人たちには神の奇跡に見えるのだそうだ。獣人は、人間と違って現代魔法も使えないから、神人が使う異能の力を畏れているというわけだ。対する神人は自分たちの神を信じない獣人のことを見下しているそうだから、なんとも皮肉な話である。

 

 なにはともあれ、そんな感じに鳳の新生活は始まった。

 

***************************

 

 ガルガンチュアの集落での一日は、鳥の大合唱で始まる。日が昇るや、村の神木である巨木に巣を作った鳥たちが一斉に目を覚まし、ピーチクパーチクさえずるのだ。その大音量は唖然の一言で、村に来た初日はダンプカーでも突っ込んできたのかと勘違いするほどだった。今ではもう慣れたものだが、それでもどんなに疲れていても、毎朝定刻に起きてしまうくらいの騒がしさである。

 

 引っ越してきて一番変わったことは、その鳥の糞害が減ったことだった。木の下にある集落だから、中央に行くほど被害は増しそうに思えるが、木があまりに巨大だから、鳥はアクセスのしやすい外側に巣を作って、かえって中央の方は少ないようなのだ。ヒエラルキーの高い家族が、村の中心に家を作るのは、そういう理由もあるのだろう。

 

 今日も鳥の大合唱で目を覚ました鳳は、先に起きていた二人と一緒に、村で唯一の炊事場でご飯を作り、今日の予定を話しながら、のんびりとした朝食の時間を過ごしていた。

 

 ジャンヌは例の殴り込み事件のことを気にしてか、村に引っ越してきてからは積極的に近所を回って関係改善を試みていた。とは言え獣人社会のルールなんて、力こそパワーを地で行くようなものだから、村人たちは既に何も気にしちゃいないのだが、彼としては何かしないと落ち着かないようだった。今日もガルガンチュアの家へ行って、一緒に狩りに行く予定だそうである。

 

 メアリーは鳳に代わって子どもたちと遊んでいる。彼女は村人たちに神人として畏れられていたが、そんなの子供には関係ないので、気がつけばいつの間にか子どもたちの人気者になっていた。今までは村の子供達の面倒を見るのは鳳の役目だったから、それはそれで少し寂しくもあったが、まあ、彼女が楽しんでくれてるなら良いだろう。

 

 子供たちは現金だから、とにかくメアリーの古代呪文を見たがった。見たって特に何がどうというものでもないのだが、大人たちが恐れるくらいだから、きっと凄いものだという感覚なのだろう。今日も村の隅っこの方で、メアリーは子どもたちにねだられるまま、エナジーボルトで何かを吹き飛ばしていた。

 

 さて、鳳はそんな村の光景を眺めながら、ごろりと横になって自分のステータスを確認していた。何故そんなことをしているのかは言わずもがな、レベルが上ったからである。

 

 ハチとの決闘後、宴会も終わって村が落ち着いた頃、ふと思い立ってステータスを確認してみた鳳は、また自分のレベルが上っていることに気がついた。ついでに今回は、鳳のレベルだけではなく、共有経験値も入るというおまけ付きだったのだ。

 

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鳳白

STR 10↑       DEX 11↑

AGI 10↑       VIT 10↑

INT 10↑       CHA 10↑

 

BONUS 1

 

LEVEL 5     EXP/NEXT 330/500

HP/MP 100↑/50↑  AC 10  PL 0  PIE 5  SAN 10

JOB ALCHEMIST

 

PER/ALI GOOD/DARK   BT C

 

PARTY - EXP 100

鳳白           ↑LVUP

†ジャンヌ☆ダルク†

Mary Sue         ↑LVUP

William Henry Bonney   ↑LVUP

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 これには正直驚かされた。というのも、鳳は決闘に行く前レオナルドと話した際に、自分は失敗した時に経験値が入るんじゃないかという仮説を立てていたからだ。なのに、今回は失敗らしい失敗は何もしていないのに、レベルが上っているだけではなく、共有経験値まで入っていたのだ。

 

 これは一体どうしてだろう?

 

 考えられることは、今回は前回と違って、冒険者ギルドで正式に依頼を受けたということだ。この共有経験値とやらがTRPGで言うところのクエスト経験値であるなら、ギルドの依頼というのはいかにも大義名分になりそうな感じがする。

 

 他にも、鳳一人だけじゃなく、パーティーを組んで依頼を受けたというのもあるかも知れない。

 

 今回の事件……と言うかクエストは、ガルガンチュアが居なければクリアすることは不可能だった。本人は気づいてもいないし、そもそもパーティーメンバーですらないのだが……まあ、ゲストメンバーもありだと考えれば辻褄は合うだろう。

 

 そんな馬鹿な。現実はゲームじゃないんだぞ。大体、TRPGだというならゲームマスターはどこにいるんだ? と言われると、困るどころか、いかにもそれっぽい『神』というのが存在するから性質(たち)が悪い。常識に捕らわれていても、何もわからないことに変わりはないのだ。そもそも、ステータス画面が見えている時点でお察しである。

 

 ともあれ、とりあえずはこの共有経験値をどうしようか……?

 

 何も考えずに自分につぎ込めるような性格だったら良かったのだが、幾度となくガチャ死をしてきた現代人のSAGAが、そんなギャンブルを躊躇させる。確実に強くなるのが分かっているギヨームに突っ込んだほうがいいんじゃないか? いっそ、メアリーというのも手かも知れない。

 

 鳳がそんな具合に、あれこれ考えて悶絶していると、件のメアリーが帰ってきた。

 

「ひゃ~……MPが空っぽだわ。子どもたちが中々離してくれなくて。まいっちゃった」

「ほらよ、草でも食っとけ」

 

 鳳が近所で摘んだ草を投げると、彼女はハムハムとかじり始めた。一応、MP回復能力のある薬草だが、鳳が街で作った高純度結晶には遠く及ばない。今後のことを考えて、出来ればまたいくつか手にいれたいのだが、こんな大森林のど真ん中ではそれも難しい。どこかにケシでも生えてればいいのだが……そうではないのだから、MPの無駄遣いは控えて欲しいものである。

 

 そんなことを考えつつ、鳳はふと思い立って尋ねてみた。

 

「そういやあ、メアリーってレベルいくつなの?」

「私……? レベル1よ」

「ふーん……って、レベル1~っっ!!??」

 

 頬杖をついていた腕が外れて頭がゴチンと床にぶつかった。鳳はくらくらする頭を抱えながら、素っ頓狂な声を上げてしまった。レベル1? まさか、そんな人間が、自分以外にも居たなんて……しかも、ずっと一緒に行動していたのに、今まで気づきもしなかったなんて……

 

 鳳が予想外の出来事に目を白黒させていると、メアリーは憮然とした表情で、

 

「なによ。だって仕方ないじゃない。あそこから外に出たことがなかったんだもん」

「ああ、そうか……あそこには外敵なんて居なかったもんな。それじゃレベルを上げる機会が無かったんだ」

「そうよ。なのにそれを笑うなんて、ツクモってば嫌なやつね」

「すまん、すまん」

 

 鳳はすぐに頭を下げた。何しろ、自分だって他人のことは言えないのだ。

 

「俺以上に、低レベルの人間の気持ちがわかる人間もいないのにな。つい驚いて、無神経なことを言っちまった。すまない」

「……別にいいわよ。悪気がないのは分かってるもの」

「そういや、お前が戦闘している姿って見たことなかったな。古代呪文も使えるようだから、てっきり高レベルだと思ってたんだけど」

「神人は生まれつきエナジーボルトなら誰でも使えるのよ」

「ふーん……因みに、ステータスってどんななの?」

 

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Mary Sue

STR 15        DEX 16

AGI 17        VIT 15

INT 16        CHA 18

 

LEVEL 1     EXP/NEXT 0/1000

HP/MP 750/300  AC 10  PL 0  PIE 10  SAN 10

JOB MAGE Lv1

 

PER/ALI GOOD/LIGHT   BT B

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 メアリーのステータスはなんというか、以前に聞いたリロイ・ジェンキンスのものと良く似ていた。普通の人間と比べたら大したものなのだが、ジャンヌみたいな華には欠ける。何というか、可もなく不可もなくと言った感じの数値である。

 

 だが、それが補正値だと判明した今、これはそう捨てたもんでもないだろう。神人という種族は、例えるなら、あらゆる行動に常時何倍かのバフが掛かっていて、人間には使えない特殊な魔法を使えるユニットなのだ。おまけにレベル1にも関わらず、高HPとMPを誇っており、自己回復能力まで備えている。

 

 メアリーはエナジーボルトしか使えないが、確か以前に城で聞いた話では、神人はレベルが上がればHPとMPが上がり、新しい魔法を覚えていくはずだった。となると、もう、やることは一つっきゃない。

 

「なあ、メアリー。そんならおまえ、レベル上げたくないか?」

「え? そうね。いつまでもみんなに頼り切りなのは癪だし、私もツクモみたいに大物を狩って、村の人達に自慢したいわ」

「俺は自慢なんてしてないけどね……そうか、それじゃレベル上げるか」

「うん。でもどうするの? ジャンヌと3人で狩りにいく?」

「いや、そんなことしなくて良いんだ。もっと効率のいい方法があるから」

 

 鳳はそう言って、自分のステータス画面に見える、メアリーの名前の横のレベルアップの文字をポンと指先で叩いた。するとさっきまであった共有経験値がみるみるうちに減っていき、最後はゼロになってしまった。

 

 きっとこれで、メアリーに大量の経験値が入ったことだろう。神人のレベルを上げるのは初めてだが、レベル30代のギヨームが50代まで上がった実績があるのだ。きっと劇的な変化が起こるに違いない。

 

 鳳がそんなふうに思ってワクワクしていると、

 

「……きゃああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」

 

 突然、メアリがー悲鳴を上げてその場にしゃがみこんでしまった。

 

 その思わぬ行動に、鳳は飛び上がった。

 

 メアリーのことを神人様と言って崇めていた村人たちが、何事かとギョッとして、家々から顔を覗かせた。

 

 そしてガルガンチュアの家からは、その声を聞きつけたジャンヌが飛び出してきて、その風圧だけで人を轢き殺せるんじゃないかと言わんばかりのスピードで、家の中に飛び込んできた。

 

「どどど、どうしたのっ!? メアリーちゃん!? 白ちゃんに何かされたの!?」

「おいこらっ! お前が普段、俺のことどういう目で見てるかわかったぞっ!!」

「え!? それじゃ白ちゃん、何もやってないのね?」

「……いや、やったけど」

 

 ジャンヌは険しい表情でじろりと睨んだ。ただでさえ存在自体が凶器みたいな男にそんな風に睨まれたらちびりそうになってしまう。鳳は真っ青になりながら言い訳した。

 

「いや、やったっつっても、特別なことはしていない。いや、特別かも知れねえけど……あー! もう、面倒くせえな! メアリーのレベルを上げてたんだよ」

「レベル?」

「いつぞや、お前のレベルも上げたことがあっただろう? あの方法で」

 

 鳳が釈明していると、悲鳴を上げていたメアリーが頭を抱えながらゴロゴロと床を転がりだした。

 

「あああああ、頭が……頭があ……」

「どうしたの? メアリーちゃん。頭が痛いの?」

「頭の中で変な音がするよー!」

 

 もしかして頭が痛いのかと思いきや、どうやら痛いわけではないらしい。それはともかく、

 

「変な音?」

「うん、さっきから、ずっと同じ、耳障りな音が頭の中で流れてるの。耳をふさいでも聞こえてくる。これってどういうこと? 私、おかしくなっちゃったの? もしかして、一生このままなの!?」

 

 彼女は自分で立てた仮説に青ざめている。そんなことは無いと言えたら良いのだが、原因がはっきりしないことには気休めも言えない。とりあえず、

 

「それってどんな音なんだ?」

 

 と鳳が尋ねてみると、

 

「えーっと、えーっと……ちゃらららんちゃんちゃんちゃーん! ちゃらららんちゃんちゃんちゃーん!」

 

 メアリーが必死に伝えようとするその旋律を聞いて、鳳とジャンヌは目を見開いた。

 

「ちゃらららんちゃんちゃんちゃーん! って同じ音が繰り返し繰り返し流れてきて……あ、止まった……なんなのこれ!?」

 

 困惑するメアリーが、涙目で鳳たちの顔を見上げていた。対する彼らも同じように困惑した表情でメアリーのことを見つめていた。困惑するのも無理はない。何しろそれには聞き覚えがあったのだ。

 

「これって……あれよね?」

「ああ、ドラクエだ」

 

 メアリーが必死に伝えてきたそれは、ドラクエのレベルアップの時になるファンファーレだった。要するに、たった今メアリーの頭の中では、はぐれメタルを倒したときのようにファンファーレが鳴り続けていたのだ。

 

 そりゃ知らなかったらびっくりするかも知れない。耳をふさいでも聞こえてくるから、彼女は自分の頭がおかしくなったんじゃないかと焦ったのだろう。しかし、それを知っている者からすればお笑いだ。

 

 どうやら神人は、レベルアップをするとファンファーレが鳴るらしい。いや、もしかするとメアリーだけかも知れないが……ただ一つ言えることは、これでほぼ確実に、この世界には、鳳と同じ時代を生きた人間が関与していた可能性があるということだった。

 

 鳳たちはこんなしょうもない現象で、その形跡を見つけてしまったのである。

 


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