大森林の行商人、
バルティカ大陸には、西側の海に流れ出る大きな河川が二つあるのだが、ガルガンチュアたちの住む集落は北の流域にあり、問題の村は南の流域にあるらしい。普段、商人たちは一週間おきに、その川の河口にバザールを張って、獣人たちと取引をしている。その際、胡椒の受け渡しもしているそうだが、ここ数ヶ月音信不通で、いつまでたっても現れなかったそうである。
川を遡上して確かめたくても、大森林の奥地は危険で誰も行きたがらないため、鳳たちにお鉢が回ってきた格好だ。何があったかわからないが、大森林ではこのところ、魔族の侵入が相次いで確認されているから、最悪の事態も想定しなければならない。
と、まあ……そんな難しいクエストに、ド素人のルーシーを誘ったもんだから、ギヨームが機嫌を損ねてしまったのだが……この選択は、後々決して無駄では無かったと思い直すことになる。
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鳳白
STR 10↑ DEX 11↑
AGI 10↑ VIT 10↑
INT 10↑ CHA 10↑
BONUS 1
LEVEL 5 EXP/NEXT 430/500
HP/MP 100↑/50↑ AC 10 PL 0 PIE 5 SAN 10
JOB ALCHEMIST
PER/ALI GOOD/DARK BT C
PARTY - EXP 100
鳳白 ↑LVUP
ジャンヌ
メアリー ↑LVUP
ギヨーム ↑LVUP
ルーシー ↑LVUP
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南部遠征が決まり、その準備に追われている時、鳳はギルド長に呼ばれて、魚人駆除の報酬を貰った。報酬の殆どは隣村のお酒で、金銭的には微々たるものだったが、初めてパーティーで受けた正式な依頼だったから、中々感慨深いものがあった。
鳳はギルド長から報酬を受け取ると、元々どうして依頼を受けたのかを思い出し、自分のステータスを確認してみた。すると狙い通り、今回のクエスト達成の報酬として、共有経験値が入っているようだった。
どうやらパーティーで何か一つのことを達成すれば、共有経験値が入るという仮説は当たっていたらしい。
残念ながら、自分のレベルはまだ上がっていなかったが、早速、この共有経験値を誰かに割り振ろうと考えていると、彼はパーティーメンバーの中にルーシーの名前を見つけた。
「なに? ルーシーの名前が?」
「ああ、おまえかメアリーのどっちかに経験値振っとこうと思って開いたら、ルーシーを見つけて驚いたんだ」
鳳がギヨームにこのことを伝えると、彼は難しい顔をしながら、
「あいっかわらず、お前のその能力は唐突だな……どういう人間がパーティーメンバーとして選ばれるんだ? 一緒に行動していたレオやガルガンチュアは入ってないんだろ」
「二人共、ギルドや部族のリーダーだから、俺のパーティーには入れないとか、そんな感じじゃないか。案外、二人がそんなしがらみを捨ててフリーになったら、ここに名前が浮かび上がってくるのかも」
「それは試してみるわけにもいかねえな……それよりルーシーだ。名前があるってことは、あいつもレベルを上げることが出来るってことだよな?」
「うん。どうする? レベルを上げたら、もしかすると自分で自分の身を守れるくらいにはなるかもよ」
鳳がそう提案すると、ギヨームは少々長考した挙げ句に、何かを吹っ切るように首を振って、
「いや、今はそんな賭けに出ている場合じゃないだろう。ミーティアの言う通り、あいつのことは俺やお前が守ればいいのさ。それよりも、確実に強くなるやつに経験値を割り振った方が良い」
「そうか。じゃあ、お前に入れとくか?」
「いいや、ここはメアリーだろう」
二回連続になるから不公平かなと思っていたのだが、ギヨームはメアリーを推してきた。
「神人はなんだかんだ強力な種族だ。レベルを上げて損することは絶対ない。それにあいつは今、Mageレベル3で、もう一つ上がったら攻撃呪文を覚えるはずだろう? 俺はその可能性に賭けたいね」
「なるほど。それもそうだな」
ファイアーボールには一度殺されかけた経験があるから、その威力のほどはよく知っている。
「それじゃあ、メアリーに経験値を振るぜ?」
「ああ、やっちまえ」
鳳が頷いて、ステータス画面の名前をポチッと押すと、遠くの方でメアリーの悲鳴が上がった。
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「もう! レベルを上げるなら上げるって、先に言ってよね! あれ、すっごいびっくりするんだからね!」
ガルガンチュアの集落を出発してから小一時間、結構な距離を歩いたというのに、メアリーはまだお冠だった。神人はレベルアップする時、頭の中でファンファーレが鳴っている……そんなトリビアをすっかり忘れていた鳳は、うっかり彼女に何も告げずに共有経験値を割り振ってしまったから、突然のファンファーレに驚いたメアリーがみんなの前で大恥をかいてしまったのだ。
たまたまその姿を目撃した村人たちは、神様と思っていたメアリーの滑稽な姿を見て、彼女も愛嬌があるんだなと笑っていたようだが、要らぬ恥をかかされたメアリーがそれで許してくれるはずもなく、鳳とギヨームの二人は馬に乗せてもらえずに、地べたを歩かされるはめになった。
「なんで俺まで……」
と、ギヨームはぶつくさ言っていたが、経験値をメアリーに入れようと言い出したのは彼なのだから連帯責任である。因みにメアリーのレベルは、今回の投入で23まで上がり、首尾よく攻撃呪文も覚えてくれた。
Mageレベル4で覚える二つの呪文、まず1つ目、ファイアーボールは鳳が一度殺されかけた火炎魔法だ。攻撃者から放たれる火球が対象に衝突すると炸裂し、炎を吹き上げて燃やし尽くす。以前、一体何が燃えているのか? と疑問に思っていたのだが、どうやら攻撃対象の体内にある脂質がその火種らしく、体の中から破壊されるため、直撃するとまず助からない。逆に範囲魔法のつもりで地面を対象にしても殆ど威力がなく、もしかしたら火傷するかもといった程度である。
対して2つ目、ブリザードは猛烈な吹雪を発生させて、対象を吹き飛ばす範囲魔法だ。その威力は凄まじく、2階建ての家くらいなら吹き飛ばしてしまうほどで、その冷気に至っては数秒触れているだけでも、体内の血を凍らせ凍傷を起こすほどだが、残念ながらそれで対象がすぐ死ぬわけではない。複数の敵に囲まれた時に、相手を近づけさせないために使う魔法といった感じである。
尤も、数秒で凍傷を起こすなら、一分もあれば凍死するわけで、例えばスタンクラウドなりのクラウド系魔法と合わせると、非常に悪質な攻撃が可能だと推察できる。次にオアンネス族のコロニーを襲撃する時にでも試したいところだ。そんなことを言っていたら、ギヨームに、「おまえって、本当にエグいこと平気で思いつくな」と褒められた。
そのチャンスは意外とすぐにやってきた。
南部への遠征にあたっては、二つのルートが計画された。
一つは、商人たちがいつも物々交換のときの待ち合わせに使っているという河口から、川を遡上するルート。これは一度、大陸西部の海に出るということだから、非常に遠回りに思えるが、水路を使えるぶん、実は徒歩よりよっぽど早く目的地にたどり着くことが可能と思われた。しかし、昨今のオアンネス族の侵入を考えると、この水路を通るというのがネックで断念せざるを得なかった。
もう一つは、出来るだけ川を通らずにまっすぐ徒歩で南下するルート。言うまでもなく、道なき道を進むこのルートは難航が予想されるが、しかし、大森林にはあちこちには種族間ごとの
問題の集落はガルガンチュアの村からは、真南に進んでおよそ500キロ程度の距離にあるらしい。東京大阪間くらいの距離であるが、森の中を通るから、馬に乗っていても片道2週間くらいの行程が予想される。しかし、安全に関しては背に腹は代えられないので、鳳たちはこちらのルートを選ぶことにした。
ところが安全のために選んだはずのルートでも、彼らは魔族に悩まされることになった。補給のために立ち寄った集落のどれもこれもが、近場にオアンネス族のコロニーを作られてしまって困っていたのだ。
自分たちだけで対処が出来るガルガンチュアのような強い部族ならともかく、殆どの部族社会は魔族に対して劣勢に立たされている。もしそうでないなら、人類はもっと大陸の南まで進出しているはずだし、今回のような依頼が来るわけがないのだ。
そんなわけで、鳳たちが村に立ち寄る度に、彼らは魔族駆除のための助っ人を頼まれた。
補給をお願いする手前、そしてもちろん、困ってる人たちを無視することも出来ないために、鳳たちは助っ人を買って出た。そうして、否応なしにオアンネス族と戦っているうちに気づいたのは、南に行けば行くほど、その数が増えていくということだった。
出発してから二週間はとっくに過ぎ、あと一日で南の大河の流域へと入るという頃には、一日に二度のコロニー潰しを依頼されるにまでなっていた。魔族の数は増える一方であり、彼らの故郷ネウロイが前人未到の地であるという理由がよくわかった。とにかく数が凄いのだ。
そしてこれだけの戦闘をこなしていると、当然問題も出てくる。メアリーのMPが尽きてしまったのだ。
オアンネス族のコロニーを襲撃するうちに、だんだん戦闘がルーチン化してきたのだが、その際の主力は言うまでもなくメアリーだった。手順は以下の通りである。
まず、奇襲をするために夕暮れを待っていたら時間がいくらあっても足りないから、レオナルドの現代魔法で認識阻害をしながら近づき、メアリーがスタンクラウドをお見舞いする。打ち漏らした連中をジャンヌとギヨーム、それから村人たちが飛び出して追撃し、その間にメアリーは無力化した魚人たちをブリザードで凍らせる。
以上。非常にシンプルだが、コロニーさえ発見できればこの方法で殆どが駆除できた。昼間だから、獲物を狩りに出掛けている魚人もいるだろうが、そこまでは面倒見きれないから、あとは山狩りでもしてくれと言って、鳳たちは次の集落へと向かっていた。だが大抵、次の集落でも同じことをやらされるわけである。
こうして連続戦闘が続くと、メアリーのMPを回復する暇がない。大体、一回の戦闘でどのくらいのMPを消費するのかと言うと、魔法を二回使って30程度の消費があるらしい。ところが、彼女が一日に自然回復するMPは10程度なのだ。
メアリーの最大MPはレベル23の時点で360ほどだった。戦闘を続けているうちに経験値が入ったお陰でレベルが上がり、現在レベル24なのだが、それでも365しかない。
HPは2000を優に越えてるのに、どうしてMPはこんなに少ないんだと歯がゆくなるが、元々、MPの最大値は999なのだ。これは前の世界のゲームの仕様がそうだったし、こっちに来てからもカズヤのMPがそれを証明していた。従って、決して彼女のMPが少ないわけじゃないのだ。
問題は消費量……これを減らせないのであれば、あとは回復力を上げるしかない。もしここにMPポーションの高純度結晶があれば、全くなんの心配も要らなかったのだが、ヘルメスから逃げてくる時に全部置いてきてしまった。自分で楽しむ分だけでも持ってくればよかったのにと後悔したが、後の祭りである。
そんなわけで、あと1日で調査対象の村(もしあればの話であるが)までいけると言う距離まで来たというのに、一行はメアリーのMP回復待ちで足止めを食っていた。ここから先も、当然オアンネスとの戦闘が予想されるので、必要な停滞である。
戦闘続きで疲弊気味のメアリーやジャンヌの気晴らしにもなるだろう。後は少しでもMPの足しになるような、アルカロイドを含んだ薬草が見つかればいいのであるが……
鳳はこの休憩中に、獣人たちの情報と自分のスキルを使って、何かないかと周辺を探索して回っていた。
今回からパーティーメンバーリストは日本語にします