ラストスタリオン   作:水月一人

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また聞いたことのないスキルばかり覚えやがって

 翌朝、ほとぼりが冷めた頃を見計らって村に帰ると、村人たちはもうすっかり普段どおりの生活に戻っていた。やたらと怒りっぽいくせに、怒りが去れば少し前のことなどすぐに忘れてしまう。野生動物みたいな連中である。そんな村人たちはともかくとして、長老には実際悪いことをしたと思っていた鳳は、早速ガルガンチュアの仲介を受けて謝りに行った。

 

 とはいえ、長老も一晩寝たらすっきりしてしまったらしく、鳳が顔を出しても、何しにきたの? と言わんばかりにケロっとしていた。怒りが長続きしないのはいい事なのか悪い事なのか、取り敢えず、事情を話し謝罪する。

 

 長老は鳳の殊勝な態度に満足したようだったが、どうしてあんなことしたのか理由を話し、出来ればキノコを見せて欲しいと言うと、キノコのことは教えられないと言って態度を硬化してしまった。昨日の晩、ガルガンチュアも誤魔化していた事を考えると、どうしても秘密にしなきゃいけない理由があるのかも知れない。

 

 実際問題、鳳以外の人にはわからないだろうが、あのキノコは相当胡散臭い。出どころは不明だし、あの時光った光量から薬の効き目を推測すると、ラリっちゃうどころか、食べた人が死んでもおかしくないくらいだった。

 

 どうしてそんなものを長老が持っているのだろうか? 気になるものは気になるので、なんとかその秘密を知りたいところであるが……とは言え、しつこく聞いたらまた怒られそうだし、平身低頭謝罪をして、ここは時間をかけて信用を得たほうがいいだろうと鳳は考えた。

 

 それから数日間、彼は長老のご機嫌取りに奔走した。

 

 降霊の儀の時こそ村の注目を浴びる長老であったが、普段はフガフガ言いながら過ごしているだけで、あまり村人たちから相手にされてない。年寄りは大概そんなものだが、だから若いのにたまに相手してもらうとそれだけで嬉しいらしく、長老は鳳の腹の中など気づかずに純粋に喜んでいた。少々後ろめたくはあったが、それはそれである。

 

 長老の命令で豚舎のうんこ掃除をし、村人への回覧を回し、彼の親族たちの面倒を見て、イノシシが食いたいと言われれば狩りに行き、魚が食いたいと言われれば釣ってきて、肩たたきに腰もみに、長老が眠るまで扇子で扇ぐことまでした。

 

 どこの王侯貴族だと言いたくなるほどの傍若無人ぶりだったが、残念ながら彼が上機嫌になったところを見計らっても、やはりキノコの秘密は教えてはもらえなかった。

 

 まあ、それも仕方ないことだろう。もうすっかり村での生活にも馴染んでいるとは言え、結局のところ鳳は外からやってきた人間でしかないのだ。いつ居なくなるかわからないような人間に、村の秘密をおいそれと教えるような者はいない。ましてや、長老は村の中心人物なのだ。そろそろ諦めて、他のことに目を向けたほうが良いのかも知れない。

 

 それに、追い出された時にも考えたように、鳳だっていつまでもここにいるわけにはいかないのだ。ここに骨を埋めるつもりなどサラサラないし、いい加減人里も恋しいし、帝国の動向も気になった。

 

 メアリーはここの暮らしを気に入ってるようだが、なんやかんやここは帝国から近いし、いつまでも自分たちが見つからないでいられるとも限らない。元々、ここには新大陸へ渡る途中に、ちょっと立ち寄っただけなのだから、やはり、そろそろ出ていくことを考えなければならない時期に差し掛かっているのではなかろうか。

 

 その際、円満にお別れ出来るように、あんまり村人と揉めるようなことは控えるべきだろうが……

 

 そんなことを考えつつ、鳳はその日も長老のご機嫌を取りに彼の家へとやってきた。もうキノコのことは半分くらいどうでも良くなっていたのだが、このところ毎日通っていたので、日課になってしまっていたのだ。

 

 南部遠征して以来、これといったクエストは受けておらず、レオナルドも何も言ってこないから、やることが無くて暇だったのもある。

 

 そんなわけで、暇つぶしも兼ねて長老の様子を見に来たのであるが……鳳はここ数日、キノコが欲しいという物欲のためとは言え、毎日のように長老の家に通っていたことを神に感謝した。もしも今日、ここへ来なかったら、多分ずっと後悔したに違いないからだ。

 

「こんちわ~! 長老、遊びに来たんですけど……長老~?」

 

 鳳はいつものように長老の家にやってくると、奥に向かって挨拶をした。何しろ壁のない吹きさらしの家だから、中の様子は丸見えである。見れば長老は自分の部屋で横になっているようだ。もしかしてまだ寝ているのかなと思いもしたが、元々老人は朝が早いし、いつもならとっくに起きてる時間である。

 

「長老~? お邪魔しますよ~?」

 

 おかしいなと思った鳳はひと声かけてから家に上がると、彼の部屋へとずかずか入っていった。しかし長老はそれに気づかず自分の部屋で横たわり、顔中に汗をかいて苦しそうな息を立てながら、

 

「う~ん……う~ん……苦しいよ~……助けて~……」

「……長老?」

 

 長老は顔を真っ赤にし、肩を使って荒い呼吸を繰り返していた。手足は力なくダラリと垂れ下がり、全身汗だくで、板張りの床に汗で水たまりが出来ているほどだった。そのくせ、いつもはツヤツヤしている狼の鼻が、今はカサカサ乾いている。

 

「ちょ!? 大丈夫ですか? 長老!?」

 

 鳳は最初長老が悪ふざけをしているのだろうと思ったのだが、あまりにその様子がおかしいので、彼の額に手をやると……するとその手のひらに信じられない熱さが伝わってきて、びっくり仰天した。

 

 体温計がないからはっきりした温度は分からないが、それでも尋常じゃない熱を発していることだけはすぐに分かった。フルマラソンしてきた人だって、こんなに熱くはないだろう。

 

「う~ん……う~ん……苦しい~……」

「あわわわわ、大変だ! すぐ人を呼んできます!!」

 

 長老は目を回してうわ言のように苦しい苦しいと繰り返している。鳳はこのまま放っておいたらまずいと思い、慌てて家から飛び出した。

 

 とは言え、救急車もないこのご時世、おまけに医者を呼ぼうにもこんな森の奥深くではどうしようもない。やれることはせいぜい、家族を呼んでくることくらいだが、不運なことに、長老の家族は出払っていて誰も居ない。こうなると頼れるのは族長だけだと、鳳はすぐ近くにあったガルガンチュアの家へと駆け込んでいった。

 

「ガルガンチュアさーん! ガルガンチュアさん! いませんか!? 長老が大変なんです!」

 

 しかし、族長の家に入って奥に声をかけても誰の返事もかえってこない。族長の家は他とは違って、プライバシーが確保されているから、奥の様子はあまり見えない。もしかして、こっちも不在なのか……? と焦っていると、

 

「う~ん……ゴホゴホ……」

 

 と、家の奥の方から弱々しい誰かの声が聞こえてきた。

 

「……ガルガンチュアさん?」

「う~ん……う~ん……ゴホゴホ……」

 

 さっきの今である。まさか、ガルガンチュアも長老みたいに倒れてるんじゃあるまいな? ……鳳は最悪の事態を想定して、今は遠慮している場合じゃないと思い、

 

「お邪魔します!」

 

 と叫んで家の中へと飛び込んだ。

 

 ガルガンチュアの家は、村の中心の大木に寄り掛かるように建てられており、部屋は全て簡単な板壁で区切られている。間取りはシンプルで、玄関を入るとまず長い廊下がまっすぐ伸びていて、その左右にいくつも部屋があるといった作りだった。

 

 壁はあるが他の家と同じく風通しは良く、中の様子は見えなくても音は聞こえた。鳳はひんやりとした廊下を抜け、わざと大きな足音を立てながら、声の聞こえてくる方へと向かっていった。途中、何度もガルガンチュアの名前を呼んだが返事はない。勝手にお邪魔しているという罪悪感から、出来れば誰も居ないなんてことがなければいいのだけど……と思っていたが、寧ろそれを発見した今は、誰も居なきゃ良かったのにと後悔した。

 

 家の奥の方……ガルガンチュアの部屋よりは手前まで行くと、部屋の中から人のうめき声が聞こえてきた。鳳はさっきから聞こえてくる声だと気づくと、すぐにその部屋へと入っていき、

 

「……え!? マニ??」

 

 そこに寝転がっている人を発見し、彼は驚いた。狼人の集落の中で、たった一人の兎人であるところのマニである。

 

 ここはガルガンチュアの家なのに、どうしてマニがこんなところにいるんだろうか? と思いはしたが、そんなことよりも、今はその容態である。

 

「おい、マニ? マニ? 平気か?」

 

 鳳は床に寝転がっているマニに駆け寄ると、跪いてその上半身を抱き起こした。彼の体に触った瞬間分かった。物凄い熱である。これは長老と同じだぞと思っていると、抱き起こされていることに気がついたマニが苦しそうに、

 

「う~ん……助けて……」

「どうした? 苦しいのか?」

「水……水ください……」

「わかった! すぐに汲んでくるから!」

 

 鳳はマニを元通りそっと床に寝かせると、もはや一人ではどうしようもないと、村中の家々を回って助けを求めた。

 

*******************************

 

 長老が倒れていることを知った村人たちは、大慌てで水を運んできてくれた。鳳が煮沸消毒した濡れタオルで長老とマニの汗を拭いていると、別の家でも彼らと同じように高熱で倒れている人が発見された。

 

 一人二人ならともかく、こう立て続けとなると考えられることは一つしかない。どうやら、村で疫病が発生しているらしい。

 

 鳳がその点を指摘すると、それを聞いた村人の一人が心当たりがあったのか、昨日、今日と、調子が悪い人が何人かいると言い出した。

 

 それで村人たちを確認したところ、妊婦や子供を含む多数の人々が、ここ数日熱を出して寝込んでいることが発覚したのであった。

 

 その後、村人たち総出で患者を一箇所に集めて隔離すると、鳳たちは冒険者ギルドへと避難した。長老の容態は気になったが、その場に残ってもやれることは何もない。寧ろ、いたずらに患者を増やすだけである。

 

 看病はメアリーとレオナルドが中心になって病人の面倒を見てくれることになった。メアリーは不老非死の神人だから病気に罹る心配はなく、レオナルドも300年間これといった病気をしたことがないそうなので、彼らに任せておけば感染拡大は防げるだろう。

 

 問題は、既に感染している人たちの回復であるが……鳳たちは医者でもないのでどうしようもなかった。そもそも、何の病気に罹っているのかも分からないのに、助けようもない。

 

 一応、免疫力を高めるために、これまでちまちまと集めていた、葛根や麻黄を煎じて飲ませて見たが、メアリーに言わせれば効いてる様子は全く無いようである。どうやら村人たちが罹っているのは、ただの風邪ではないらしい。

 

 となると、最悪の事態は鳳たちに感染してしまうことであるが、

 

「……これは暫く、ここから退避したほうがいいかも知れないな」

 

 今後の対応を協議していると、ギルド長がそんなことを言い出した。

 

「冷たいようだが、獣人が罹るような病気は、我々人間だと致命傷になりかねない。せめてここが人里の近くで、医者を呼べればまだマシなんだが……」

 

 ギルド長の言うことはもっともである。ここでの生活に慣れてきたことで、すっかり忘れてしまっていたが、そもそもここは大森林……ジャングルの中なのだ。どこにどんな病原菌が潜んでいるか分かったものじゃない。

 

 ペストやマラリア、黄熱やコレラ。どれもこれも、抗生物質のない今、罹患したら命の保証はない。

 

「……なあ、鳳。おまえのスキルで薬を作れねえのか? 麻薬が作れるなら、普通の薬も作れそうなもんだが……」

 

 ギヨームがダメで元々といった感じに言う。鳳は首を振りながら、

 

「それなんだけど、実は新スキルを覚えたらいけるんじゃないかと思って、余ってたボーナスポイントを振ってみたんだよ」

 

 南部遠征から帰ってきた時点でボーナスポイントは2余っていた。今後なにかあった時のためにと思って使わずに溜め込んでいたのだが……鳳は今回の件を受けて、試しにスキルが覚えられそうなステータス、INTにボーナスを振ってみた。

 

 INTは神人の魔法の威力に関係するだけで、何の意味もないステータスだと思っていたのだが、この間ルーシーのレベルが上がってそれが増えたところ、現代魔法の才能に目覚めたのを見て、もしかしてと思ったのだ。

 

 一応、ボーナスポイントも2あったし、1上げて駄目だったらMPに切り替えてみればいい。そう思って、ダメ元で振ってみたところ……

 

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鳳白

STR 10        DEX 11

AGI 10        VIT 10

INT 12        CHA 10

 

BONUS 0

 

LEVEL 6     EXP/NEXT 210/600

HP/MP 100/50  AC 10  PL 0  PIE 5  SAN 10

JOB ALCHEMIST

 

PER/ALI GOOD/DARK   BT C

 

SKILL

アルカロイド探知

博物図鑑

酸化還元マスタリー

アルカロイド抽出

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「賭けには勝って、新スキルを覚えはしたんだよ……『酸化還元マスタリー』ってのと『アルカロイド抽出』っての」

「また聞いたことのないスキルばかり覚えやがって……で、それは役に立つのか?」

「役に立つと言えば立つんだけど、今じゃないって感じなんだ」

 

『酸化還元マスタリー』は自然にある様々な素材から酸やアルカリを生成するスキルで、『アルカロイド抽出』はその名の通り、素材から薬効成分を抽出するスキルである。因みに両方とも、MPポーションの高純度結晶を作った鳳には、元から知識としてあった。今後はスキルを使って、より効率的に行えるというだけの話である。

 

 そんなわけで、もし既に薬の成分が分かっているなら薬品を生成することは可能だが、そもそも何の病気かすら分からないので、今は役立てようもない。

 

「まあ、考えても見りゃ、俺はアルケミストでドクターじゃないからな。同じ薬品を扱う職業でも、ちょっと毛色が違うんだよ」

 

 ギヨームは何を言ってるのかわけがわからないといった感じに肩を竦めてから、

 

「それじゃ、ギルド長が言う通り、ここからおさらばする時が来たって感じか」

「おさらばではない。村が平常に戻れば、また戻ってくるさ……いや、その時には別の駐在員に任せたいところだが」

 

 そんな具合に、ギルド長たちが撤収も視野に入れた今後の身の振り方を話し合っている時だった。駐在所の玄関がドンドンと叩かれ、外から声が聞こえてきた。

 

「御免! フィリップはいるか?」

 

 声の主はガルガンチュアだった。このタイミングで彼がやってくる理由などわかりきっている。恐らく、村で起きている疫病の対処を、冒険者ギルドに依頼しにきたのだろう。

 

 しかし、当たり前だがギルドだって万能ではない。そんな方法があるなら、撤収の準備なんかしているはずもないので、もしガルガンチュアがそう言い出しても断るしかないだろう。

 

 ギルド長はバツが悪そうに顔を歪めながら、ガルガンチュアを迎え入れた。

 

「やあ、ガルガンチュア。今回は酷いことになってしまったな。さぞかし村人たちのことが心配だろう」

「ああ。だが仕方ない。これも自然の摂理だ」

 

 ところが、ガルガンチュアは思ったよりも潔い感じだった。思えばこんな森の中で暮らしているのだから、この手の流行り病も、一度や二度ではないのかも知れない。案の定、彼はギルド長と一通り挨拶を交わしてから、

 

「すまないが、ギルドに依頼をしたい」

 

 と言い出した。ギルド長は先の理由から、疫病を治すのは難しいだろうと言ったのだが、ガルガンチュアは首を振って、

 

「いや、俺は病気を治せなどと言わない。薬があるから、取ってきてくれと頼みたいのだ」

「え!? 薬があったの!?」

 

 あきらめムードだった鳳たちは、その事実を知って素っ頓狂な声を上げた。ガルガンチュアは、こいつら何を興奮しているのだろうと首を傾げながら、

 

「あの熱病は、俺たちがたまになる病気だ。薬もある。それがあれば、大体の者は回復する」

「そうだったのか……なら早く言ってくれよ」

 

 ギルド長が安堵のため息をつくと、だから今話してるんじゃないかと、少々ムッとした感じにガルガンチュアは続けた。

 

「薬はあるが……実はそれを持っている部族と、俺達の部族は仲が悪い。だから、俺が取りに行くと断られてしまう。そこで、少年、おまえに頼みたい。俺の代わりに薬を取ってきてくれないか?」

 

 鳳たちは一も二もなく頷いた。今日の今日まで、こんなに世話になった村である。このまま何も出来ずに去るのでは寝覚めが悪いと思っていたところだ。特に鳳は、ここ数日間、ずっと一緒だった長老の容態がとても心配だった。老人の体力が、いつまでもつかわからない。

 

 彼らはお安い御用だと請け合って、超特急で遠征の準備を始めた。

 




ステータス画面省略してるけど、ちゃんとメンバーリストも見えていると思いねえ
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