ラストスタリオン   作:水月一人

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王家の遺産

 難民軍がアルマ国を出発するまで、また一週間の時が流れた。それは説得に時間がかかったわけではなく、単純に軍隊として行動するための準備期間であった。

 

 ヴァルトシュタインが言った通り、難民たちは当面の生活の保障さえしてくれれば、移動すること自体にはそれほど抵抗を示さなかった。既にここに来るまで、長い旅を経験していた彼らにしてみれば、そんなの今更だったし、現実にアルマ国が立たされている状況を聞かされ、国王自らが謝罪の言葉を口にするのを見た彼らは、感謝こそすれ恨みなど全く感じなかったのだ。

 

 彼らは寧ろ、そうまでして自分たちを支援してくれる国王に感激していた。もしも今後、アルマ国に何かがあったら、必ず駆けつけると約束するほどだった。もはやアルマ国民と言って良いほどである。

 

 北風と太陽の寓話のように、人は物理的に無理矢理動かそうとしても動かない。人を動かすならまず心を動かせばいい。そうすれば人は自ずから動き出す。それを示すかのように、そこから先の編成はスムーズに行われた。

 

 1万人の人間を、ただ漫然と引き連れて歩くことは出来ないので、まずはいくつかの小隊に分けねばならない。ヴァルトシュタインは、自分の子飼いの部下や、スカーサハ達冒険者、難民の中から戦闘に長けたもの、合計100人を選んで小隊長とし、部隊を100に分けた。

 

 そしてそれぞれ100人前後の人々を振り分けていくわけだが、実際の軍隊と違ってその構成員は難民だから、家族を一纏めにしたり、老人や子供のような弱者が偏らないように気を配って配備するのには、相当の時間がかかった。

 

 こうして編成した100の小隊で、一度地図を見ながらオリエンテーリングし、全小隊が無事に問題をクリアできることを確かめてから、いよいよ出発という運びとなった。これだけのことをするのに、一週間が必要だったわけである。

 

 出発にあたってはアルマ国王が見送りに来てくれ、わざわざ健闘を祈ってくれた。難民たちはその姿に心を打たれ、またいつかこの国に戻ってこれたら嬉しいと口々に言いながら、元気よく出発していった。これが一歩間違えば野盗になるかどうかの瀬戸際だったと考えると、なんとも感慨深いものである。

 

 スカーサハは出発間際、遠くからそれを見届けていた国王の元へと駆けつけ、改めて、彼のこれまでの尽力に感謝の意を表した。

 

「アルマ王。ヘルメス戦争以降、今日まで難民のことを、本当にありがとうございました。お陰でどうにか、行軍だけは出来るくらいにはなりました。今はまだ寄せ集めに過ぎませんが、今後アルマ国に何かあったら、あなたのために駆けつける軍があることを覚えておいてください」

「それは……なんとも頼もしい限りだ」

 

 国王は気のない返事を返した。目の前の女子供と老人ばかりの集団を見てれば、誰でもそんな感想を抱くだろう。スカーサハそんな彼に苦笑交じりに、

 

「難民がいなくなれば、帝国は勇者領へ入る大義名分を失うでしょう。しかし、彼らがこのまま黙っているとも思えません。また何かしらの難癖をつけてくることが予想されます。くれぐれも、警戒は怠らないようにしてください」

「ええ……分かっておりますとも。しかし、議会はもう、私の手には負えませんよ。リベラルは、耳障りの良いことばかり言って話を聞かない。現実に、我が国が蹂躙されるようなことでも起きない限り、彼らが意見を変えることはないでしょう」

「そうならないと良いのですが……」

「かと言って、保守派がまともというわけでもない。最近は、魔王派などというおかしな連中まで現れて、非難の的になっています」

「魔王派……?」

 

 まさか魔王崇拝者なんてものが幅を利かせているのだろうか? スカーサハが困惑していると、国王は知らなかったのか? とため息を吐きながら、

 

「帝国憎しの感情が行き過ぎて、いっそ300年前に魔王が滅ぼしてくれれば良かったのにと言うような連中のことです。魔王襲来以降の歴史を振り返ってみると、勇者が魔王を討伐したにも関わらず、神人は数を減らし続けている。だから元々、勇者がいてもいなくても、神人は滅亡に向かっていた存在だったのではないのか。だったらいっそのこと、こちらから攻め込んでいって、帝国など滅ぼしてしまえと言うわけです」

「なるほど……そんな考え方の人たちが」

「最近はそういう過激な若者が増えてきたのです。勇者領は平和が続いたせいか、極端な意見ばかりが目立つようになってしまった。議会すらまともに機能しなくなってしまった今、もう自分の身は自分で守るしかないのかも知れません……嘆かわしいことだ」

 

 国王は額に手を当てて、目をつぶり首を振った。スカーサハはそんな彼に同情はしていたが、掛ける言葉が見つからず黙るしかなかった。冒険者ギルドは政治からは一定の距離を取るスタンスだった。それに、自分だってこれから、厳しい逃避行が待っているのだ。他人に同情しているような余裕はない。

 

 言葉が続かず二人が沈黙していると、遠くの方から彼女を呼ぶ声がした。

 

「……申し訳ございません、アルマ王。そろそろ行かなくては」

「いいえ、お気になさらず。では、私はここからお見送りしましょう。道中お気をつけて、ご武運を」

「ありがとうございます」

 

 挨拶を交わして、スカーサハは踵を返し歩き始めた。ここから目的地まで、数百キロの距離がある。また長い旅が続く。彼女が気合を入れ直していると、そんな彼女に向かって、ふと、アルマ王が思い出したかのように、

 

「そう言えば……大君(タイクーン)はご健在なのでしょうか。姿を眩ましてから、もう大分経ちます。そろそろ議会にも顔を出してもらいたいところなのですが……あなたは、彼の居場所をご存知ありませんか?」

 

 するとスカーサハは頭を振って、

 

「残念ながら。大君は帝国から指名手配されていらっしゃいますので、まだ暫くは表に出て来ることはないでしょう。一人で何でも出来る方ですから、心配はないのですが」

「そうですか……」

「多分、どこかのギルド支部には顔を出すでしょうから、議会の様子をそれとなく伝えておきましょう。あなたが探していらっしゃったことも」

「そうしていただければ……いや、お引き止めして申し訳ない。あなたも、何かあったらいつでもご相談ください」

「いいえ、ではまた」

 

 アルマ王は名残惜しそうに何度も別れの言葉を口にした。二人は今度こそ別れた。

 

********************************

 

 アルマ王はその場に佇んで、スカーサハの背中を見えなくなるまで見送った。やがて最後の難民まで居なくなると、先程までの喧騒が嘘のように静まり返り、辺りには静寂が戻ってきた。

 

 連邦議会に押し付けられてから、ずっと難民を受け入れていた広場(キャンプ)は、人の足に踏み固められて地面が黒ずんでおり、ぺんぺん草さえ生えていなかった。これからどのくらい経てば、また元通りの緑が戻ってくるか分からないが……ともあれ、これでようやく肩の荷が下りた。彼はほっとため息を吐き、そしてすぐにまた別の意味でため息を吐くのだった。

 

 確かに、難民の世話はしなくて済むようになったが、これで全てが終わったわけじゃない。スカーサハも言っていた通り、相変わらず帝国の触手は勇者領に伸びており、そして最悪の事態が起きた時、最も危険なのはアルマ国なのだ。

 

 もしもの時のために備えて置かなければならない……国王はそう肝に銘じてから、乗ってきた馬車の方へと振り返った。

 

 天蓋付きの馬車は、広場から少し離れた丘の上に停められていた。国王が動いたのを見ると、すかさず近衛兵の騎馬が駆け寄ってきて、エスコートするように左右に展開し、その馬車へと誘った。まだ遠くにあるその車体を見上げながら歩いていると、窓に掛かったカーテンが揺れて、中に乗っていた人の顔が一瞬だけ見えた。

 

 絶対に見つからないようにと言って、わざわざ隠れていたくせに、よほど待ちくたびれたのだろう。きっと、馬車に戻ったら、イライラと小言をぶつけてくるに違いない。彼はそれを思ってほんの少し憂鬱になった。

 

 馬車に近づくと、主人の帰りを待っていた御者が恭しく観音開きのドアを片方だけ開けた。ステップに足をかけて中に乗り込むと、案の定、中で待っていた人が不満の声を上げた。

 

「遅いぞ! アルマ王。待ちくたびれたではないか」

 

 国王はそんな金切り声を浴びせられ、内心、耳栓でもしておけば良かったと舌打ちしながらも、努めて愛想笑いを崩さずに返事した。

 

「申し訳ございません、ヘルメス卿。何ぶん、スカーサハ様は切れ者ですので、こちらの意図を勘ぐられないよう、タイミングを見計らっていたのでございます。お言いつけ通り、ちゃんとレオナルドの行方については確かめて来ましたよ」

 

 身を乗り出していた金髪のふてぶてしい顔つきをした若い男は、その言葉に溜飲を下げたのか、体を引き戻して背もたれにどっかりともたれかかった。ヘルメス卿と呼ばれるこの男は、言わずとしれたアイザック……新しく即位した12世ではなく、その甥である前ヘルメス卿アイザック11世である。

 

 ヘルメス戦争後、先祖代々の居城であるヴェルサイユから逃げ出した彼は、大森林に潜伏した後、頃合いを見計らってここアルマ国へと落ち延びていたのだ。

 

 アルマ国は、帝国と勇者領を繋ぐ街道の出口にあり、地理的にヘルメス領と最も近かったために、昔から付き合いのある、言わば親戚みたいなものだったのだ。アイザックのニュートン家とアルマ王家も数代前には血縁関係にあり、戦争前はその関係を利用して経済的にも政治的にも、勇者領で最大の発言力を持っていたのがアルマ国だった。そのため、国王はアイザックに頭が上がらなかったのだ。

 

 そういった事情もあり、国王はアイザックが落ち延びてくると、危険を承知で今まで匿ってきた。当然、帝国も他の12氏族も勘ぐっていたが、今までどうにか隠してこれたのは、多くの難民が国境を出入りしていたことが大きかった。アイザックは、難民に紛れて入国したわけである。

 

 だが、そのカモフラージュのための難民が居なくなってしまった今、いつまでもここに居ては、帝国に見つかってしまう。そのため、アイザックは次なる潜伏場所へ移ろうとして焦っていたのである。

 

「それで、アルマ王。レオナルドは今どこに?」

「残念ですが、ヘルメス卿。大君の所在は掴めませんでした。ヘルメス戦争後、彼もまた帝国と揉めたこともあり、未だに行方を晦ましているようなのです」

「なんだと? 何もわからなかったのか!?」

 

 国王はアイザックにキンキン声を叫ばれる前に首を振り、

 

「ですが、スカーサハ様に言わせれば、大君は各地の冒険者ギルドに寄って、常に最新の情報を得ているだろうとのこと。つまり、一方通行とは言え、連絡を取る手段は持っているように思われます。これを利用すれば、こちらから情報を流して、彼を誘導することは可能かも知れません」

「なるほど……上手くやるしかないか」

「……どうせならアイザック様も、彼らと一緒にボヘミアへ向えば良かったのでは? 今更、彼らがあなたに危害を加えるとも思えませんし」

 

 国王がそう提案するも、アイザックはブルブルと首を振って、

 

「冗談じゃない! 誰のせいで、俺がこんな目に遭っていると思ってるのだ。みんな、あのヴァルトシュタインという男のせいではないか。俺は、あの男に城を落とされたんだぞ?」

「かも知れませんが……おそらく、今現在、ヘルメス卿が最も安全で居られるのは、あの難民の中だったと思いますよ」

「だとしてもだ。俺は一度敵と決めた相手に膝を屈するようなことはしたくない」

 

 それはあのヴァルトシュタインが言うセリフだろう……アルマ国王は心の中でそう独りごちた。

 

 彼は元帝国将兵でありながら、今は難民のためにその帝国と戦う道を、自ら選んだのだ。対する、アイザックの方は別段何も変わってない。頭を下げる相手など、どこにもいないのだから、要は難民と一緒に泥水を啜るのを嫌ったのだろう。

 

 二人の将軍としての差が、はっきり出たなと国王は思ったが、顔には出さなかった。どちらに率いられる方が、民は幸せだろうか。

 

「ヘルメス卿。それで、これからどうするおつもりですか……?」

「どうもこうもないさ。まずはレオナルドを探す。話はそれからだ。見つからなかった場合は考えたくないな」

「……そう言えば理由をお聞きしていませんでしたが、何故、あなたは大君の居場所を知りたかったんでしょうか」

「ん……? そう言えば、言っていなかったかな?」

 

 アイザックは実際には意図的に理由を隠していたのだが、アルマ王にそう言われて今更隠しても仕方ないと判断し、

 

「ふむ……まあ、王には世話になったから、特別に話してやろう。実は、我がヘルメス公家には代々伝わる家宝、ヘルメス書という物があるのだ」

 

 そう言ってアイザックは、いつも携帯していた彼の荷物の中から一本の巻物を取り出し、アルマ王に手渡した。国王はいきなりそんなものを手渡され、戸惑いながら、

 

「これは……読んでもよろしいのでしょうか?」

「構わんよ。君に読めるものならな」

 

 なんだか思わせぶりな態度は気にかかったが、せっかくだからと巻物を紐解いて見てみると……そこに書かれていたのは、まるで子供の落書きみたいな、どれもこれも見たことのない文字ばかりで、国王は読もうとしても全く読めなかった。

 

 わかるのは、ところどころに挿絵のようなものが描かれてあり、不思議な文字はそれを説明してるのだろうと言うことだけだった。アイザックは未知の文書を前に困惑しているアルマ王を面白そうに眺めながら、

 

「ヘルメス書とは、初代ヘルメス卿が、子孫のために遺した秘伝の書なのだ。しかし、見ての通り、その内容は理解出来るように書かれていない。彼は自分の知恵が、子孫以外に利用されることを恐れたんだな。

 

 初代は伝説の勇者と共に戦ったパーティーの一員だが、アマデウスやレオナルドのような大魔法使いとは違い、殆ど魔力を持たなかった。それでも、稀代の錬金術師と呼ばれた彼は、多くの科学知識や、兵器の設計図などを作成し、その書物に遺した。中には、メアリーが閉じ込められていたような、魔法を使った結界みたいな強力なものも含まれている。

 

 だから、その内容が理解できれば、武器になるのは間違いないのだ。俺は今、国を追われてこうして逃亡の身であるが、それを手に入れさえすれば、まだ巻き返しのチャンスはあると言うわけだ」

 

「なるほど……では大君は、これを読む方法を知っているというわけですか?」

「いいや、そうじゃないんだ」

 

 しかし、アイザックは首を振り、

 

「初代は勇者派を率いて帝国と戦ったため、帝国からひどく恨まれていた。そのため、将来、自分の墓が荒らされないように、誰にも見つからない場所に隠したんだ。ヘルメス書を読むためのヒントは、おそらくその墓にあるのだが……実は子孫である俺たちにもその場所がわからない。墓には、墓守がいるはずなのだが、その行方がわからないのだ」

「墓守……ですか」

「初代は、帝国は元より、勇者派の人間たちも避けて、どこかの獣人部族にその大役を担わせたらしい。だから、大森林を探せば、どこかにその一族が残っているはずなのだが、何の手がかりも無く探すのは無理だろう。もしかするとレオナルドなら何か知っているかも知れないから、どうしても話を聞いてみたかったのだ」

「なるほど……そういうわけだったのですか」

「ああ。だが、もし彼が見つからなければ仕方ない。地道な作業になるが、大森林の部族を片っ端から当たってみることにしよう。実は、手がかりもあるんだ」

「ほう……それはどんな?」

 

 するとアイザックはヘルメス書に描かれている、一つのマークを指差し、

 

 

【挿絵表示】

 

 

「この書物には所々にこのマークが描かれている。実はこれが墓守のことを示しているのだ。それは恐らく、部族のシンボルとして丁重に扱われているだろうから、大森林の部族を一つずつ当たっていけば、いずれこれを知っている連中に行き当たる。墓は恐らくヘルメス領に近い場所にあるはずだ。ならば墓守もその辺りにいるだろう。幸い、俺には神人の部下二人が残っている。彼らがいれば大森林の中でも危険もない」

「二人の神人……確か、ペルメル様とディオゲネス様とおっしゃいましたっけ」

「ああ。明日にでも彼らを呼び寄せて、出発しようと思っている」

「明日ですか……それはまた急ですね」

「アルマ王には世話になったな。いずれこの礼は必ずする。俺がヘルメスの遺産を受け継いだ暁には、また一緒に勇者派をもり立てていこうではないか」

 

 馬車はカラカラと車輪を鳴らして街道を進んでいた。アイザックは国王との話を終えると、閉め切っていたカーテンを開いて外の様子を窺った。難民は去り、もう彼のことを見咎める者はいないだろう。

 

 よく晴れて雲ひとつ無い天気だった。アルマ王城を取り囲む外壁が日に照らされて、浮き出るようにくっきりと見えていた。だが、その王城がやけに遠くに見えるのは何故だろう……? ふと気がつけば、馬車はその王城とは逆の方向へと向かっている。

 

「おい、アルマ王。この馬車は城とは逆に向かっていないか?」

「……ええ。実は出発を前に、ヘルメス卿にどうしても見ていただきたい物がありまして……」

「なんだ?」

「すぐに分かります」

 

 不穏な空気が流れる。まさか、人格者のアルマ王が裏切るなんてことはないだろうが……アイザックは嫌な予感がしていたが、馬車を飛び出そうにも周りを近衛兵たちに囲まれていて、下手な動きは出来なかった。

 

 やがて、馬車は城から少し離れた雑木林へとたどり着き、暫く進んだ場所で唐突に止まってしまった。周囲には何も無く、ただ木々が視界を覆っているだけである。

 

「……おい、アルマ王! ここはどこだ? 何故こんな場所に馬車を止める?」

「それは……あなたも既にお気づきでしょう」

 

 アルマ国王のその言葉を合図にしたかのように、その時、突然周囲の雑木林の影から、複数の帝国兵が現れた。予め予想をしていたアイザックはすぐに馬車を飛び出したが、さっき彼も思ったように、すぐにアルマ国の近衛兵によって取り押さえられた。

 

「アルマ王! 図ったな!」

「悪く思わないでください……私も国と民を人質に取られては、仕方なかったのです」

 

 アイザックが国王の裏切りを糾弾するも、彼は眉一つ動かさずに地面に取り押さえられていたアイザックのことを、じっと憐れみを込めて見下していた。

 

 アイザックは近衛兵の腕から何とか逃れようと身を捩ったが、屈強なその腕はびくともしなかった。顔を真っ赤にしてのたうち回っている元ヘルメス卿の周りを、帝国兵が続々と取り囲む。もはやこれまでと観念した彼が、涙目になって顔をあげると、一人の帝国兵が彼の前に歩み出て、

 

「お初にお目にかかります、11世陛下。カリギュラ帝に命じられ、あなたからヘルメスの遺産を受け取りにやってまいりました。こんなに早く見つかるとは、私にも運が回ってきましたかね」

「誰だ貴様は!」

 

 アイザックが悔しそうに叫ぶと、男は不敵に笑い、

 

「申し遅れました。私はフランシスコ・ピサロと申します。丁度、神人の部下が欲しかったところなのですよ。せいぜい、あなたには役に立ってもらいましょうか」

 

 ピサロはそう言うと、彼の背後に整列していた部下に命じて、アイザックのことを拘束した。

 


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