やったことは間違いだ。
だがこの怒りだけは間違いだとは言わせたくない。
───こんな兄ちゃんでごめんな。
兵藤一誠。この名前を知らない人間はこの駒王町にはいない。特に覗きにの常習犯として。
正直、なんで少年院に入っていないのかが全く分からない。毎日覗かれ続けて心を病んだ女子生徒が大勢いるのに、先生達は口頭での注意だけしかしない。職務怠慢じゃないのか?
まあ、そんなことは今はどうでもいい。
夜の駒王町のオフィスビルの一室から、懸命に自転車を漕ぐ兵藤一誠を狙う。構えるのは狙撃銃。これを渡してきた奴は明らかに怪しかった。でもその言葉に
風や建物による空気の流れを予測し、兵藤一誠の頭を狙い撃つ。
スコープ越しに、兵藤一誠の頭が吹っ飛ぶのが見えた。これで死んだ筈だ。
呆気ない。これが覗きをやり続けて俺の妹の心を病ませた挙句、いきなり服を剥いで性別が男ってだけで家族にすら怯えるようにしたクソ野郎の末路か。
ふぅ、と一息つく。
やけに嫌な予感がした。
咄嗟にスコープを覗く。そこには頭を吹っ飛ばしたにも関わらず、何故か
「何だよ、それ…………………化け物じゃねぇか」
しかもどこかがどう強化されているのかはわからないが、強くなっていそうな様子だ。ご都合主義な主人公かよ。頭が理解しようとするのを拒んでくる。
弾丸をリロードする。今度は対戦車弾。しかもこの銃を渡してきた奴曰く、化け物に有効打を与えられる特殊弾だそうだ。
────特に、悪魔には。
よく化け物を狙う。駒王町の有名校である、駒王学園の有名人達が集まる。全くもって邪魔だ。
リモコンのスイッチを押す。 兵藤一誠に向けて、俺のいるポイントとは違う場所から光が飛来する。それを駒王学園の有名人達は、触れただけで消し去ったり、雷を出して対抗したり、剣で切り払ったりする。
動けない兵藤一誠を置いて有名人達は散る。そして兵頭一誠は安全だと思ったのか、ボロくなった廃墟に逃げ込む。
そこはトラップを設置しておいた廃墟だった。
兵藤一誠が入った瞬間、その入口という入口付近を全て爆破し、中に閉じこめる。そして基礎と骨組みの一部を爆破して崩壊させる。プラスティック爆弾だが、材料だけなら子供の小遣いで集められる。威力は不安だったが、大丈夫だったようだ。
普通ならこれで終わりだ。だが兵藤一誠は頭を吹っ飛ばしたにもかかわらず生きていた。まだ安心できない。
瓦礫の中から、赤い鎧を纏った兵藤一誠が出てきた。ご都合ファンタジーにも程がある。どこまで特別なんだアレは。
切り札の対悪魔用対戦車弾を兵藤一誠目掛けてぶっぱなす。
それに対して兵藤一誠はビームのようなものをぶちかまして、対抗するどころかこちらの切り札を打ち消した。
そのビームはそのまま俺に向かって飛んでくる。使った武器以外は普通の人間である俺にはオーバーキルだ。
間近にビームが迫った時、やけに時間が遅くなったような感覚を覚えた。
何故か、心を病む前の妹と、家族の顔を思い出す。これが走馬灯というものなのだろうか。
許せなかった。妹を傷つけて平然としている兵藤一誠が。
許せなかった。謝りもしないその態度が。
許せなかった。何度もやめろと言われていたにも関わらず、何度も覗きを繰り返すその人間性が。
許せなかった。散々被害者を作り出しておきながら、のうのうとお前が生きていることが。
ごめんな。俺、お前を傷つけた兵藤が許せなかったんだ。お前は今も泣いてるのに、アイツはヘラヘラと笑ってるんだ。お前と同じ被害者を沢山生み出しているのにさ。
ごめんな。帰りたかったけど、帰れないや。
でも、最期にアイツを呪っておこう。
「死んでしまえクソ野郎」
そんな最後の言葉は、俺の命と共に光に飲まれて消えてしまった。
「一誠!大丈夫!?」
「はい…………でもなんでいきなり…………?」
「赤龍帝の力を恐れた誰かかしら…………?」
「でも、一誠さんが無事で良かったです」
「そうね。さあ一誠、早く帰りましょう」
「はい部長!」
「………………お兄ちゃん?」
自室に閉じこもり続けていた少女は、ふと窓から夜空を見上げてそう呟いた。