ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢 作:鈴見悠晴
終わりの始まり
海賊王ゴールDロジャーが始まりを告げた大海賊時代も,気づけば15年以上がたった。
まさしく弱肉強食を体現した新世界は、弱者には生き残ることすらできない。選ばれたものだけのこの海は、新参者の存在を許さない。
既に複雑に絡み合った勢力図は新戦力の存在を瞬く間に絡め取り、気づけば引きずり込み、抗うものを藻屑に変える。
新世界、気候が安定した海域を一隻の海賊船が走っていた。
「おい、エース頼むからよ、もうちょいこの辺の海に興味を持ってくれ。いつまでもこのままのやり方でいけるとは俺は思えねぇ」
甲板に吊り下げられたハンモックに揺られている船長ポートガス・D・エースの横で、この船のクルーで元情報屋のスカルという男が困り果てたような表情で話している。
「やめとけ、スカル。エースがその手の話をちゃんと聞いたことがあったかよ」
文章がびっしりと書かれたメモ帳をひらひらと振りながら声をかけてくる副船長にして船医のマスクド・デュースの言葉に船員達から笑い声が上がる。
「そうはいってもお前ら、また七武海の時みたいに勝手に話を進められても困るだろ。俺はあんなぎりぎりの出港はもうこりごりだ。エースは俺らの船長なんだからある程度の知識はつけてもらわないと」
「無理だ無理、諦めた方が良いぜ。船長はそろそろコタツと遊び出すからよ」
何とか説得を試みるスカルだったが、彼の言葉は一切届かずにほかの船員に一蹴された。
「そういうことだ、スカル。その手の話はお前らでやっといてくれ」
そういってハンモックから立ち上がって、オオヤマネコのコタツの所に行ってしまったエースをみて、がっくりと肩を落とすスカルに救いの手が差し伸べられた。
「それで、スカル君。このあたりの海は一体どういう状況なのですか?確か政治的に非常に危うかったエリアだと記憶していますが」
船内への入り口ギリギリの所から一人の男が声を出していた。彼の名前はミハール。眼鏡をクイと持ち上げた彼は狙撃手であり、元教師。彼はこの船の頭脳担当のひとりで、こう言った話題に比較的興味がある男だった。
「先生、あんただけだよ。真剣に考えてくれるのは」
そういうスカルの後頭部に衝撃が走る。
「バカ、何がミハールだけだ。ちゃんと聞いてるよ。あんな船長なんだ、俺らがしっかりしないとな」
スカルを叩いたデュークは真剣な表情を浮かべていた。
「ああ、悪いな」
「気にもしてねぇから、さっさと話せよ」
引きこもりのミハールに合わせて船内に入った彼らは、三人思い思いの場所に座り込んだ。
「この辺は大物海賊の縄張りなんだよ。あんまり暴れてほしくないんだ」
最初に口を開いたのはスカル、彼は骸骨をかたどったモチーフを居心地悪そうに触っていた。
「大物海賊ですか、彼が聞くと喜んで喧嘩を売りに行きそうですね」
「違いねぇ」
それぞれ真剣な顔をつきあわせている彼らの声量は小さくなっていった。
「だけどな、この辺はゲッコー・モリアの縄張りだ。今まで俺らが戦ってきた相手とは間違いなく格が違うぞ。絶対に手を出すべきじゃない。エースの狙いが白ひげならなおさらだ」
「そりゃそうだ。無駄な戦いは避けるべきだしな。……それとなく航路を変更するか?」
ここにいる誰よりもエースの目標を理解しているデュークはスカルの意見にうなずいてみせると、一つ提案を行なったが、それはミハールに却下された。
「それはやめた方が良いだろうね、このあたりは革命軍の影響力が強いんだ。最近政変が相次いでる。補給もろくにできない可能性がある」
「はぁ!! この辺はモリアの縄張りなんだろ。なんで革命軍が動いてんだよ?」
「さあね、だが新聞にはそう書いてあったよ。モリアが革命を後押ししてるのか、それともモリアの存在を知らないのか。何かあるんだろうね。どう思うスカル?」
デュークにスカル、二人とは違う知識から来る意見に議論は過熱していく。
「俺もわかんねぇよ。ただモリアはJOKERと同盟を組んでいたことがあるから……その辺のつながりだと思うけど」
「とにかく、今は大事にしないままやり過ごすしかなさそうだね」
「なるほどねぇ、この辺は結構やばいんだな。楽しみだな」
話し込んでいた三人組の直近くに船長のエースが立っていた。その表情は新しいおもちゃを見つけたときのようで三人に嫌な予感を感じさせた。今までならここまで話を聞かれることもなかったし、気づかれることもなかった。シャボンディ諸島からエースは人の気配に敏感になったようにデュークは感じていた。
「聞いてたんだな、エース。じゃあわかるよな、縄張りを抜けるまではおとなしくしててくれ」
慌てながら声を上げるスカルをみてエースはにんまりとした笑顔を浮かべた。
「何言ってやがる。そりゃ向こうの出方次第だ。やりたいようにやらねぇと海賊やってる意味がねぇだろ」
そう言ったエースに三人とも肩を落とし、諦めたような笑みを浮かべた。
そんな噂をされていたモリアは一味の主力を集結させていた。
「キーシッシッシ、半信半疑だったがまさかほんとに生き返るとはなぁ」
「HAHAHA、つれないこと言うじゃねぇか。同じ敵と戦った仲間だろう」
「今は敵だろう?こっちはルーキーの頃の借りを返したって良いんだ」
モリアの本拠地、世界最大の海賊船であるスリラーバークの中央に立てられた古城。応接室として作られていた空間、JOKERの海賊団スーサイドスクワッドと机一つ挟んでにらみ合うスリラーバーク海賊団。
船長達は余裕のある笑みを浮かべているが、船員達はそうはいかない。緊張感を高めていく両者だったが、どちらか片方が折れるようなことはなかった。モリアの部下達はJOKERのスーサイドスクワッドに張り合えるだけの戦力として成長していた。
「ハンナバルの時とは違うなぁ、互いに変わったもんだ。そう思わねぇかモリア」
「キーシッシッシ、そりゃそうだ。あの頃とは違う、立場も時代もな。今のあんたは船長か?それとも金獅子の配下に下ったのか」
緊張感を増していく配下に当てられたのか、トップ二人も少しづつ緊迫感を帯びていく。
「シキが戻ってきたんだ。新世界の勢力図はまた塗り替えられる。だが、今のままじゃぁ駄目だ」
「またあんたらしい事だ。海賊王に興味がねぇならあの海賊旗を降ろしたらどうだ?組織もそうだ、あのままドフラミンゴにくれてやるのか?」
「海賊王、ONEPIECE、……価値を感じねぇな。だがあの海賊旗は俺の信念が誓われたモノだ。下げることはしねぇよ。それに組織はもういらねぇ、既得権益にがんじがらめになったあれは必要ない」
そう語るJOKERの表情はモリアの記憶にあるものとは少し違う気がした。狂いきっていないというか…普段よりも理性的だった。
「それでここに、俺に何のようだ」
モリアが立ち上がり、背後に置かれていた刀を手に取って抜きはなつ。
「何、挨拶に来ただけだ。クロコダイルもそうだが、血の気が多くて困る」
それに呼応するかのようにJOKERも立ち上がり懐から小ぶりのナイフを取り出した。
モリアは違和感について考えるのをやめた。この男のことなんて考えるだけ無駄なのだから、自分にできるやり方で、剣を合わせれば何かわかるものがある。
互いの獲物が覇気をまとい、衝突した。
互いにほんの遊び程度の一撃の衝突に常人では意識を保つほどの余波を生み出して、宙を割った。
「で、どうするのプリンちゃん?」
「どうもしねえよ、ここには釘は刺しにきただけだ。ちょいとバカンスでも楽しんで、特等席を確保しにいくさ」
自らの船でくつろいでいるJOKERに話しかけるハーレクインは、うっとうしそうに対応するJOKERを見て嬉しそうに笑った。
「で、どうするんで船長?やっちまいますか?」
最近加入したばかりの新入りの言葉にモリアはいつもの笑みを引っ込めて真剣な表情を浮かべてこう言った。
「全船に伝えとけ、動くなってな」
そのらしくない発言に多くの部下が見せた困惑したような表情をみて、モリアは言葉を続けた。
「あの男が何でこんな所にいると思う?ナニカがあるのさ……ナニカがな。戦うのはそれが何かわかった後でも遅くはない」
言い切ったときのモリアの表情はいつもの笑みよりも凶悪で、彼の嗤い声はまさに海賊というモノだった。
「グララララ、若造どもが。ずいぶんとやんちゃしてるじゃねぇか」
偉大な航路、後半の海新世界の中でもさらに奥。ほとんどの海賊が到達することすらできない海域を悠々と旅する鯨をかたどった船の船首で、この船の船長たる男エドワード・ニューゲートは周囲の人間は一切感じることもできない何かを感じていた。
「どうしたんだよい、親父?」
船長の異変にいち早く気づいた一番隊隊長、通称不死鳥のマルコに声をかけられた白ひげがマルコを見ることは無かった。
「マルコぉ、ちょっとばかし寄り道するかぁ」
彼の視線の行く先には水平線が広がっており、その向こうにはレッドラインが世界を分かっていた。
これがちゃんと最終章になります。
更新頻度はあんまり上がらないと思いますが、ぼちぼちやっていくので読んでくださると幸いです。