ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢 作:鈴見悠晴
JOKERという男についてわかっていることはその知名度に反して驚くほどに少ない。
彼はいったいどこで、いつ、誰の子として生まれてきたのか?その答えを知る者はいない。なんせ本人さえ知らないと言うのだから、他人にわかるはずもない。瓦礫に包まれ滅びた王国で生まれた悪魔の子などと本気で思う人間がいるほどに、彼の出生は謎に包まれている。
そんな彼がJOKERと呼ばれるようになったのはいつからなのか?そして、その前の名前とは一体何なのか?
彼の存在が初めて知られたのは、40年以上前一枚のトランプを持ったピエロの写真が手配書に乗った。
名称不明のその男は凶悪なロックス海賊団に所属していた人一倍凶悪で、イカレた犯罪者だった。だが、当時の海賊島ハチノスにはそんな奴が大勢いた。
それ故、多くの民間人に海兵が犠牲になっていたが、彼の注目度は決して高くなかった。当時はロックス海賊団だけでも船長のロックス・D・ジーベックにシャーロット・リンリン、エドワード・ニューゲート、金獅子のシキとJOKER以上の犯罪者が数えられないほどにいた。
ロックス海賊団だけではない。周りを見渡せばのちの海賊王ゴール・D・ロジャーがおり、他にも多くの海賊が海を我が物顔で支配していた。彼覆えるだけの余裕が海軍にはなかった。彼はある種見逃されていたのだ。
そんな彼の懸賞金が跳ね上がった一つの事件があった。
一つの国が滅んだのだ。
いったい誰が一番でかいことができるのか?始まりはその程度の酒の場での話だった。だが参加していた連中が問題だった。ブエナ・フェスタという男が集めた連中は止まることなく、一つの祭りを始めた。
期限は一週間、誰が一番でかいことができるのか?中には海軍に喧嘩を売るものや、大量の財宝を発見するものもいた。そんな彼ら全員をあざ笑うようにJOKERは新聞の一面を独占し、世界にその名を轟かせた。国民をたきつけて戦争を起こさせた彼は武器を売りつけ、傭兵として部下を派遣して金を稼いだ。
彼はこの祭りに勝利し、そして一つのメソッドを確立した。このとき彼がやったことをまねて、戦争屋としてフェスタは裏世界で成り上がった。
この事件を機にJOKERの懸賞金は跳ね上がり、ロックス海賊団が解散したときには14億に到達していた。
ゴッドバレー事件でロックス海賊団が消滅してからは、金獅子のシキの下で特殊戦闘部隊長として働いていた。彼の手によって滅んだ国も、死んだ海兵も、数知れず。いつしか彼の名前は新聞でも見なくなっていった。あまりに凶悪な彼の事件は世間に対する悪影響が考えられると、情報操作が行なわれた。世界政府にとっては幸運なことにJOKERの起こす事件も減っていった。
なぜなら、この時期彼はグランドラインにいなかった。
北の海に身を潜めていた彼はエッドウォーの戦いの知り、もう一度グランドラインに戻ってきてシキの逮捕をきっかけに独立した。
それ以降世界の表側ではなく、裏側で動いてきた彼は知る人ぞ知る男になって居た。これだけ大きな事件を起こしながら、彼について詳しく知るものは多くない。
そんな彼を目にしたときエースの背中を何かが這い上がっていった。首筋に感じるチリチリとした感覚。
この海に出てから、何度かあった危険な相手との戦いでも感じたことのない感覚に大きなバックステップで距離をとった。
この時、新世界にある夏島の一つ。人一人住んでいないこの無人島に停泊していたスペード海賊団は、上陸する彼らをばれないように遠巻きに隠れてみていた。
しかし、彼らの船が上陸したその瞬間にJOKERの目は確実に彼ら全員を捉えた。そして一部のクルーの姿は掻き消えて、目の前に立ちふさがっていた。
CPのメンバーや、暴君くまがスペード海賊団のクルーの前に仁王立ちしているが、エースは動くことができなかった目の前に詰め寄っていたピエロの狂気の嗤顔にあてられていた。
「ん~、見覚えのある顔だ。最近手配所が出てたはずだな、小僧懸賞金はいくらだ?ん?」
「4億」
「HAHAHA、見所のあるルーキーってとこか。悪くねぇ、だが世の中には触れちゃいけないモノがある。俺たちのようにな」
この体になってから初めて感じるような寒気の中、動き出そうとした敵と味方の間に炎の壁が生じた。
「お前ら逃げろ!!」
視線を一切切ることなく、両腕から広げた爆炎で仲間を助けようとする。
JOKERは動かなかったが、彼の部下の元CP9のメンバー数名が炎を乗り越えたのを感じた。
JOKERはエースが動いても反応もしなかった。エースが戦闘員ではないクルーに襲いかかろうとしていたロブ・ルッチを蹴り飛ばそうとしたが、しっかりとガードされる。
僅かな時間だったが、逃げることすら難しい。むしろ不可能とすら感じる。
「何だ、逃げるのか?略奪に来たんだと思ってたんだが……まぁ全員殺せば一緒だ」
そう言って片腕を上げて振り下ろそうとした瞬間にエースが声を張り上げた。
「決闘だ!!俺とあんた、この戦いは二人の間でけりをつけよう」
「……そんなもんに俺が乗るとでも?俺は悪人だ、名誉なんてそこらの犬にでも食わせてきた。そこまで命が大切なら海賊になんぞ成るんじゃねぇよ」
「俺が死んだら、俺がそこまでの男だったって事だ。だが船長としてこいつらの命は守らせてもらう」
そんな彼の言葉を無視してルッチなどは動こうとしていたが、JOKERが彼らを止めた。
「HAHAHAHAHA……止めだ。全くムカつくやつだ。何だろうな、お前の顔を見てるだけでイライラしてくるんだよ。なぁルーキー、後悔するなよ」
流水の用に上から下に素早く潜り込んだJOKERの両手には計六本のナイフが握られている。
迫る斬撃に本能が危険を告げる。シャボンディ諸島で戦った海兵と同じような気配が迫る。炎の体が間違いなく切り裂かれる。
この男もロギアの体を捕らえる何かを持っている。
『火銃』
炎の弾丸を放ちながら距離をとり、大技で決める。そんな思考を読み通したかのようにJOKERは容赦なく距離を詰める。
回避という言葉を知らないかのように、まっすぐに火銃をその身に受け止めて、コートを燃やしながら近づいていく。JOKERが投げた右腕のナイフを回避したエースの眼前に右腕が迫っていた。
「やっぱり、ロギアのルーキー。回避が下手だねぇ!!」
顔をつかみ取ったJOKERはそのまま地面に叩き付けた。
久しく感じていなかった衝撃が脳内を揺らす。意識が一瞬飛ぶ。その行動はほとんど反射的なモノだった。全身を炎に変えて、爆炎を生み出す。
左手に持っていた三本のナイフのうち二本をぽいと放り捨てたJOKERは残った一本を逆手に握り直すと、自らの右腕ごと貫かんとエースの顔に振り下ろして、エースが放った爆炎に包み込まれた。
何とか拘束から逃れたエースは自分の右頬が切り裂かれていることに気づき血を拭った。
爆炎に包まれていたJOKERは炎上していたコートを脱ぎ捨てると、焦げた髪の毛をかき上げて嗤った。
全身火傷に、ピンポイントの火銃を受けた場所は炭化している用にも見える。常人なら間違いなく死んでいる状態で嗤ってみせたJOKERは先ほどの焼き回しのように突っ込んできた。
『蛍火』
両手から放たれたいくつもの炎の弾を、また同じように全身に浴びながら距離を詰め、
『火達磨』
それら全てが火力を上げて、全身を覆い尽くした。
完全に炎上しながらその歩みは決して止まらず、JOKERの赤い瞳がエースを貫く。
同じ事は繰り返さない。エースも進んでくるJOKERに合わせて今度は攻撃を放つ。この一撃で決めるという思いが込められた一撃が周囲全てに熱波を放った。
『火拳』
「残念、俺は回避が嫌いなだけで、できないわけじゃない。人間はそんなもん喰らったら死んじまう。HAHAHA」
派手な爆炎の中、振りの大きさを利用した回避で気づかれないうちに背後に回られていたエースは腹部と背部に熱を感じた。
腹に一本、背中に一本そこまで大きいわけではないが、致命傷には十分な刃渡りのナイフが突き刺さっていた。
一瞬のうちに海に向かって投げ飛ばされていて、何とかしようと能力を使おうとしたが、それすらできずに海に墜ちた。
「「エース!!」」
船長を助けようと海に走りだそうとした連中はCP9にすぐさま取り押さえられた。
「全員動けなくしてから、船長の後を追わせてやれ」
縄に縛られて海に投げ込まれた彼らの視界に最後に見えたのは海を自在に泳ぐナニカだった。