ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢   作:鈴見悠晴

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最も中心に近い土地、魚人島

海底1万メートル、本来なら太陽の光も届かない真っ暗な深海の世界。

しかし、そんな暗黒の世界でも陽樹イブといわれる特殊な気が運んできた地上の光に彼らは照らされていた。

「…ここは、魚人島か?」

周囲の明るさに目がついていけず視界がちかちかする。周囲の光景はつい先日見た景色に酷似しており、目を凝らしながら周囲を見渡せば仲間たちが魚人たちと何か仕事をしているのを確認した。

「なんだ、もう目ぇ覚ましたんか。ずいぶん早いのぉ」

他の魚人たちと比べても明らかにデカい。和服をしっかりときている男は近づいてくるとエースのそばに腰を下ろしあぐらを組んだ。

 

「まだあんま動かんほうがええ。芸術的に致命傷にならへんラインを刺されとったが、出血も多い」

「あんたが助けてくれたのか?」

「別に気にせんでええ、こないだうちのもんが世話になったらしいからな。借りを返しただけじゃ」

 

エースはこれが初めて会うはずのこの男に貸しを作った覚えなどなく、記憶をさかのぼる。それでも一切心当たりがない様子のエースを見て、隣に座っていたジンベエが口を開いた。

 

「魚人島で悪ガキどもをとっ捕まえたじゃろう。あん馬鹿どもはうちの預かりやった」

「ああ、あれか。気にもしてねぇよ。ここまでしてもらって、これじゃ釣り合わねぇ。この借りはいつか返さしてもらう」

「いらんわ、うちの見習いが見とった。JOKERに喧嘩を売るような向こう見ずな阿呆に貸しなんぞ作りたくないわ」

 

一緒になって働いている魚人と人間を少し遠い目をしながら見つめるジンベエの横顔をエースが見つめる。

 

「気にもしてなかったんだが、何であの若い集は問題を起こしたんだ?最初はあんたの管理不行き届きだと思ったが、そういうわけじゃなさそうだ」

「……時代が変わったんじゃ、世代が変われば価値観が変わる。わしらの代は人間という種族を恨むやつが多かった、今の世代はこの世界そのものを恨んどる奴らが多い。あいつらにはわしらの考えは理解されん」

 

腕を組みなおして考え込むジンベエはエースの返答を必要としておらず、エースと向き直ると言葉を続けた。

 

「これはわしらの問題じゃ、お前らは手を出さんでいい。地上にはわしらの船で運んだるから心配いらん」

「そうかい、ありがてぇな。じゃあ言葉に甘えさせてもらおう」

「……リベンジを考えてるなら止めとけ」

「そいつあ聞けねぇな、何よりやられっぱなしは性に合わねぇ」

 

平気な顔をして立ち上がったエースの肩をつかんで向き合うとジンベエは真剣なまなざしでエースの瞳を見つめた。

「お前さん、家族はいるか?」

その視線は厳しく、エースに誤魔化しを許さなかった。

「…東の海に弟がいる」

「その弟が殺されたくなかったら止めとけ、あの男は必ず殺す。それだけの力と実行力を持ってる」

ジンベエの言葉がこの場を支配する。珍しく言葉を失ったエースをおいて、ジンベエが立ち上がる。

「ゆっくり頭ぁ冷やせ。時間はある、まずはその傷を治したらええ」

立ち去っていくジンベエをよそにエースはこれまでとは格が違う、相手にしたこともなければ、想像もしたことのない強敵を相手にするということの意味を考えさせられていた。

 

それから数週間の間、スペード海賊団は魚人等を中心にその体を休めながら住民を手伝い生活していた。

エースの傷もよくなっていき、そろそろ地上に送ってもらおうかという話をしていた時に事件が起こった。魚人島で魚人たちが暴れているというのだ。

どうにも衛兵たちでは手も足も出ずにいるらしく、その暴漢どもを抑えに行こうとエースたちが現場に向かおうとした。しかし彼らの前にのタイヨウの海賊団副船長を務めているアラディンが立ちふさがった。

 

「エース、この件にはかかわるな」

「なんでだよ、あいつらは」「うちの船長が出向いてる。ここは俺たちの顔を立ててほしい」

そういって語るアラディンは普段の優しい表情ではなく、厳しい表情を浮かべていた。彼の表情からその事情を推測したエースは彼の言葉にうなずいた。

「手は出さない、約束する。だから行かせてくれ、あのあたりの人たちには俺らも世話になってる」

アラディンはエースの言葉に数舜悩みを見せたが、うなずくともう一度くぎを刺した。

「手は出さないでくれよ」

 

人ごみをかき分けながらエースが到着したころにはすでに、戦いが始まっており、ジンベエが数人の魚人をのしてしまっていた。

「この程度の連中を集めてお前さん何をするつもりじゃ、ホーディー」

群衆の中、普段の親分としての顔ではなく七部海”海峡”のジンベエの顔を見せる彼に、敵対していた魚人や人間が数歩後ずさる。そんな彼らを押しのけて、ジンベエの視線を真正面から受け止めたホーディが歩み出てきた。

 

「ジンベエさん、俺らはあんたにも、王家にも失望したんだ。いつまでもあれだけやられて、まだ人間と戦えない王はもういらないだろう。俺たちが俺たちの王を選ぶべきだ。これまでも、これからもいつまでたっても地上での魚人の立場は変わらない、変えられない王はもういらない!!」

両手を広げてそう大声で語った彼の目にはジンベエは写っていなかった。その姿はかつての弟分であるアーロンと近いモノがあったが、ナニカが違った。そしてそのナニカがジンベエに不気味さを感じさせていた。

 

「この島はあれだけの事件を乗り越えて、前に進もうとしておるんじゃ‼ ホーディー、オトヒメ様の願いを、意思を忘れる気か‼」

「くだらない、それを死者の呪いというんだ。世界は生者が作るもの、俺たちの感情が作るものだ。死者の意思を免罪符に使うな」

「……お前さんとはどこまでも平行線じゃのう、ホーディー。話はしっかりと聞いてやる、お前さんらを牢屋に叩き込んでからな」

「いつまで魚人街の代表を気取ってる、あんたの意見はもう時代遅れなのさ」

 

魚人空手を修めたもの同士の戦いは周囲の水分の主導権争いに等しい。ジンベエ、ホーディともにその手から、周囲の水分を支配下に置いていく。

最初に動いたのはジンベエ、その動きはすさまじく滑らかで、意識と意識の隙間をついた完璧なものだった。

まっすぐに放たれたその一撃はホーディのクロスされた両腕に防がれた。

本来なら水分を伝播し、直接衝撃を伝える一撃に防御は意味がない。しかし、魚人空手にはもちろん魚人空手を防ぐための技がある。

 

『梅花皮』

 

大気の水分ではなく、己の体内の水分に意識を集中させコントロールする技に覇気を合わせた防御技はジンベエの正拳突きを受けとめきって見せた。

まさか受け止められるとは思っていなかったジンベエが驚きの表情を浮かべる。

『5000枚瓦、回し蹴り』

防御からの素早い攻撃に転じたホーディーのけりがジンベエの頬を掠める。

紙一重で攻撃をかわしたジンベエはからぶったホーディに一撃を加えようとするが、ホーディもからぶった足をそのまま地面にたたきつけると追撃の構えを取る。

『『鮫肌掌底』』

くしくも互いに選択した技は同じ、この武にささげた時間の分ジンベエが有利かと思われた。しかし、予想外に相打ち。完全な相殺に終わった一撃にジンベエは一つの答えに至ろうとしていた。

 

身体能力的な話ではない。この相打ちの理由は純粋な技の練度にある。自分の技の練度が低いのではない。目の前の男の練度が高いのだ。ジンベエは自分の戦い方を理解している。魚人としても恵まれた肉体を生かした魚人空手は実践で磨かれ、唯一無二のものになっている。では相対するホーディの戦い方はというと、肉体的にはジンベエと同じレベルにありながら、弱いモノの戦い方なのだ。

 

しっかりと周囲の水分を支配しながら、自らの力だけでなく周囲の力や敵の力を操る戦い方。

まさしく魚人空手の理念を体現したかのようなこの戦い方を一体どうやって身につけたのか?以前とは完全に違う戦い方に秘められた完成した基礎能力。

 

「ずいぶん実力を上げたのう。それだけに残念じゃ、自分と向き合いながら出した結論がそれとは」

「ずいぶんと上から目線じゃねぇか。あんたらは知らねぇんだろ、あんたらが、フィッシャー・タイガーが暴れてた時期が魚人街が一番良かった時期なんだよ!!」

ホーディが一気に腰を落とすとその両腕に水心をつかんだ。その両手を包み込んだ水は意思を持って動き出し、サメの形を象った。

『群鮫』

ジンベエのその首元を、両腕を、その命を食いちぎらんと迫る水のサメをジンベエは受け流していく。

『火旋』

その両腕は間違いなく、水をつかみ優しく受け流していた。両者魚人空手の神髄に至ろうとするもの同士の戦いは、魚人空手に触れたことのあるモノ全てを魅了していた。

 

中でもホーディの強さは周囲の目を引いていた。

ジンベエはこの魚人島でも一目を置かれた存在だった。元々兵士としてこの国を守り、今では王下七武海としてこの国を守っている彼の強さは皆知るところだったが、ホーディーは違う。彼はただの魚人街の無法者で、ただの犯罪者のはずだった。伝統派といえるほどに美しく戦う彼の姿はそれだけ予想外なモノだった。

 

膠着した戦況だったが、勝負の天秤は突然に傾き始めた。

ジンベエが回避を選択しようとしたとき、ホーディーの表情がこれまでのコントロールされたモノとは違う肉食獣のそれに変わった。

『撃水』

それは魚人空手を学び始めた魚人がその日に習う初歩中の初歩。全ての技に通ずる水の理解を深める技だが、ここまで極めたモノが使うと意味合いが変わる。

本来ならせいぜいはたかれたほどの衝撃を与える技だが、ホーディーが使えば容易く命を奪うことができてしまう。

ここまでの戦闘でジンベエも油断していた。この男の狙いは自分で周りの群衆の前で倒してこそ意味があるのだと、無力な民間人を襲うことはしないだろうと信用していた。だがそんなジンベエの信頼をよそに『撃水』が無力な民間人の元に向かっていき、一瞬で蒸発した。

 

彼らの前に立ち塞がったエースは腕を前に突き出しており、メラメラの能力の余波の炎が周囲に広がっていた。

「こっちの心配はいらねえ、ジンベエ」

エースの方を向かないジンベエが放つ気配は変わりはじめた。

「かたじけない、エースさん。できるならこのあたりから民間人の避難をお願いしたい。このバカ相手には殺す気でかからにゃならん」

魚人族という種族は特殊な種族だ。彼らは自分が何の魚人なのかという事と向き合わねばならない。もし自分が凶悪な肉食獣なら、その残虐性を持ち合わせているという事に他ならない。

ジンベエはジンベエザメの魚人だ。ジンベエザメはとても温厚で、人を襲うようなことはしない。だが、ジンベエは若い頃、己の感情をコントロール仕切れていなかった。それは太古の記憶、彼らがまだその巨体を生かしていた時代の記憶。

ジンベエの放つ気配がホーディーのモノと同質のモノに変わる。

 

「まずい!!、全員今すぐ逃げろ!!ここから少しでも離れるんだ!!」

状況をいち早くつかんだアラディンが警告を放ち、タイヨウの海賊団の面々が周りの連中をひっつかんで逃げ出す。

「覚悟せぇよ、ホーディー。お前さんが望んだ事じゃ、後悔するな」

「はっ、ようやく不殺なんぞという下らんこだわりを捨てたか。それでいい。そのあんたに勝ってこそ意味がある」

ホーディー、ジンベエ両名ともにしっかりと腰を落として地面を踏みしめた。

彼らの右腕に握り混まれた水心、それは己の信念を貫くために、相手の信念を打ち砕くために、どれだけごまかそうと彼らの中心にあったオリジン。

 

魚人空手“奥義”

『武頼貫』

互いの全力がぶつかり、筋力の限界まで引き絞られた一撃が周囲の水分全てを揺らす。覇気の衝突、大気の振動、その中でホーディーは己の敗北を理解した。

自らの体内の水分が振動を始めたのを感じる。内臓の破裂とそれに伴う吐血でホーディーの体が崩れ落ちる。だがそのプライドがそうさせたのか意識を手放すことはなかった。

 

「……さっさと殺せ」

息も絶え絶えに放ったホーディーの言葉を聞いて、ジンベエはその首を横に振った。

「わしは殺すつもりで技をかけた。生き残ったのはお前さんの強さの証明じゃ、恥じることはない。ゆっくり牢獄で頭を冷やすと良い」

ジンベエの言葉に嘘はなかった。彼は本気で殺すつもり殴った。そしてもう戦うことのできない男を殴る理由は彼にはなかった。

「ハァ、ハァ。やっぱりあめぇな。はぁ、そんなんだからあんたは兄貴分も弟分も守れねぇのさ」

頭から倒れていたホーディは何とか体をひっくり返すと、陽樹イブを見つめた。

「ああ、最後にはタイヨウが見たかった。俺は神の横に立つに値しない。どうかあの理想の世界を」

服を引き裂いたホーディの姿を見て、ジンベエが声を上げる。

「お前さん、何を」

「JOKER、万歳!!!!」

PIPIPI嫌な機械音が鳴り響き、仕掛けられていた爆弾がホーディの体内で爆ぜた。

その爆発は以外と小規模なモノで、周囲に大きな被害をもたらすことはなかった。体内からはじけ飛んだホーディーの体は無残なものになり果てて、以外にも死に顔は満足そうだった。

飛び散った血を正面から受け止めたジンベエが顔についた血をその手で拭うと、その下から出てきたのは怨嗟の海を泳ぐモノの姿だった。

「……」

何も言わずに立ち上がったジンベエはそのままどこかに消えていった。

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