ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢 作:鈴見悠晴
「あなたたち実はとても仲がいいんじゃない?」
異様に湿度が高く、太陽の光が届かない島の中にある海賊たちの隠しアジト。森の中に隠された古城、入り組んだ廊下の奥の扉に体重をかけて立っている女性が、椅子に座っていたクロコダイルに声をかけた。声をかけられた男は明らかに機嫌が悪く、眉間に刻まれたしわがどんどん深くなっていった。
「どうやらお前の眼球はガラス玉か何かでできているらしい。いったいどこに仲のいい要素があった?死にたくないなら軽々しく口を開くな」
「……」
その言葉に女性は大きく仰々しく肩をすくめて沈黙を示した。その姿を見た男は舌打ちを撃つと加えていた葉巻を大きく吹かした。クロコダイルはJOKERとの同盟を組む際の交換条件として古代兵器の情報を得ており、それを捜索していたが、なかなか思い通りに進まない現状に苛立ちを募らせていた。だからこそ今回の呼び出しに答えたともいえるのだが……
男のイライラが限界に達しかけていたときになってようやく、新しい気配が近づいてきていた。
「どうやら待ち人が到着したようよ」
近づいてきた気配にニコロビンが声をかけると、クロコダイルはそっけなく対応した。ただしそっけないのは声色だけで、すでに我慢は限界に達しているのか室内からは水分が完全に失われてしまっており、ロビンの唇が割れた。
「すでに予定の時刻は過ぎてる。とっととこの部屋に連れてこい」
そう言って葉巻を目の前の机に押しつけたクロコダイルの指示に従おうと、ニコ・ロビンが扉を開けて迎えに行こうとするが、部屋にあった影からナニカが這い出てきた。
「キーシッシッシ、態度がデカすぎるんじゃねぇのかワニやろう。この場所を貸してやってるのは俺だぞ。今日ここであの頃のけりをつけったっていいんだ」
真っ黒の人型に見える化け物がより明確に見えるようになっていき、色を取り戻していく。手配暑などでよく見られる一人の男を象った。その姿を見て、モリアの到着を確認したクロコダイルは立ち上がり一歩距離を詰めた。
「下がってろ、オールサンデー。…モリアよ、俺は待たされるのが嫌いだ。お前との会話に無駄にした時間分の価値が見いだせなければ、ここでお前の野望は終わる」
室内からは水分が失われているだけでなく、クロコダイルの力の象徴である砂まで舞い始めている。冗談が通じるような状況ではないことを理解してモリアガ指を鳴らす。彼らの周囲を影が包み込み、この空間を完全に支配下に置いたモリアだったが、この状況を正しく理解しながらクロコダイルは一切ひるんだ様子を見せなかった。それどころか彼はその行動を見てようやく信用を見せた。周囲からの干渉を完全に遮断するこの空間に招いたということが、用意された情報の価値を証明していた。
「魚人島に何かある?お前はそういいたいわけだ」
話を聞き終えたクロコダイルの眉間にはまたしても深いしわが刻まれていたが、そこに込められた感情は苛立ちではなかった。
「確証があるわけじゃねぇ。ただ俺たちもそろそろメインストリームに戻らねぇといけない時期じゃねぇのか?そろそろ俺たちの世代が存在感を出さねぇとな」
「それに関しては一理ある。四皇に海軍、寝ぼけたあいつらの目を覚まさしてやるということか」
頭脳派として名前を挙げているクロコダイルの頭の中ではこの同盟の意味や、モリアの意図など多くの事が処理されていく。だが、確度の低い情報をもとに行動をしてもいいものか?さらに目の前の男を信用してもいいのか?多くの可能性を受けべては消していく。そうして頭を悩ませる彼にモリアは嗤って見せた。
「なぁに、あの頃と同じただの同盟だ。すべてが終わればまた戦う。こういう風にな。それに俺らは海賊だ。それぐらいが健全ってもんだ、あの男が示してきたことさ。最後に立つためにできることはすべてやる当たり前のことだろう」
脳筋とすら揶揄されることのあるモリアが雑に距離を詰める。これがモリアの魅力であり、彼独特のカリスマを生み出している。これはクロコダイルの持つカリスマ性とは真逆のものであり、多くの場面で彼らは相いれない存在だったが、クロコダイルとモリア両方に共通していることが一つあった。彼らはともにJOKERの元で戦った経験があって、海賊の哲学を芯からたたき込まれていたのだ。
そんな彼らの海賊哲学をさかのぼっていくと、その源流ともいえるものに突き当たる。現在最もそこに近い男は、ほかの誰とも違う高みに居た。
「ジハハハハ、どうやら動き出したようだな。あいつらから目を離すなよ若造」
「ふっふっふ、アンだけ長い関係でも信用しないのか?」
そんな彼の船に客人として乗っていたドフラミンゴは目の前の男の底知れなさにJOKERと話していた時と同じものを感じていた。
「違う、俺は奴を誰よりも信頼しているのさ。あれだけ長い時間を共に過ごした。あの男は俺の右腕だった男だ。誰よりも海賊なんだよ、俺たちは。利用し、利用される、気を抜いたやつが死んじまうのさ」
「なら俺は信用してていいのかい?」
嗤っているシキにほんの少し敵意を向けて挑発するが、シキはそれを意にも解さなかった。
「…俺を相手にそういった立ち回りはまだお前にゃ無理だ若造。お前は狂気は受け継いだが、あの智謀は引き継げなかったようだな。今の質問に何の意味があった?JOKERを思い出せ、奴は無駄なことはしない、どんなに意味のなさそうなことでも最後には意味を持たせるんだよ」
シキの興味はすでにドフラミンゴから失われていたのか、一切確認もしなかった。
「サッサと行け。俺の相手をするにはお前じゃ荷が勝ちすぎる」
多くの海賊が水面下で動き出している中、本当に水面下で動き出している連中がいた。
「ジンベエの親分が消えた‼」
「あの人は今頭に血が上ってる。暴れられたりしたら俺たちじゃどうにもならんぞ」
タイヨウの海賊団のメンバーが一人慌てた様子で話していた。周りは最初彼が何をそこまで慌てているのかわかっていなかった。
「ちげぇよ、どうやら魚人島を出ていったみたいなんだ」
「なんだよ、頭を冷やしに行っただけだろ。そこまで問題にするようなことじゃないだろ」
「馬鹿、もしあの人がJOKERの所に行ってたらどうするんだよ」
その言葉に曽於の場にいた全員が顔を蒼くする。自分たちの口で数秒前に言った言葉が頭をよぎる。今の彼ならもしかしたらするかもしれない。それぐらい今の彼は普通じゃない、そしてもし彼が暴れたらどうなるか、予想もできない。
大慌てで動き出した彼らに人間の一団が声をかけた。
「待てよ、俺らも連れて行ってくれよ。そろそろ海に出てぇ」
エースを先頭にした彼らの言葉に魚人達は顔を見合わせる。
「船長がjokerのところに行ってるかどうかもわからんぞ」
「そん時はどこか適当な島において来てくれればいい。なんにせよあいつを止めるやつがいるだろ?」
そう言って不敵に笑うエースの表情に先頭に立っていた魚人が大きくうなずいた。
マクロ一味が乗っている船は魚人が乗っている船にしては珍しくコーティングがなされていた。
その船体に巨体が一切減速することなく突っ込んでくる。コーティングは破けることはなかったが、あまりの衝撃に甲板の木材が割れて、ひびが入る。
「なんや隠れてるかと思ったが、まさか堂々とおるとは」
そこに立っていたのはまさしく鬼だった。周囲に殺気を振りまきながら、真っ赤な目を血走らせている。
「なんだ、お前が来るということはホーディは負けたのか。あの自信は過信だったということだね」
そんなジンベエを見てもツーフェイスはその表情は変わらなかった。
「部下が死んだというのに、その態度か」
「お前も海賊だろ?そこまで熱くなるなよ」
互いに海賊、その両手は血にまみれている。ジンベエの目と同じようにデントの火傷に包まれた側の目が真っ赤に光る。