ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢   作:鈴見悠晴

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箱庭の中の怪物

「こんなとこまで、入り込まれるとはなぁ。お前らを甘く見てたか?どう思う火拳のエース」

唇をかみしめて悔しさをあらわにするエースは標的として見定めた男の顔を前にして、掌を強く握りしめることしかできなかった。

 

事態が動き出したのは突然だった。どんどんと敵地奥深くに入っていったのだが、一切敵の攻撃がなかった。

こちらの作戦通りにジンベエ達がうまく囮として機能したかと考えていたときだった。あっという間の急襲、ここが敵地だと言うことを思い出させるような波状攻撃に、エースが覚悟を決めて非戦闘員を巻き込まないように逃がすことをきめる。

 

戦闘員達とともに必死に血路を開き、なんとか仲間を逃がしたと思ったそのときだった。

今までとは違う、本気の攻撃に全員が自分のことに手一杯になる。自分たちの船に敵が乗り込んでくるが、彼らを追い出すことすら満足にできていない。

 

そんな中、エースの視界に連れ去られていく仲間が見えた。

「何してやがる、お前らぁ!!」

炎を放ちながらそちらに向かおうとする。前半の海ならばそれだけで良かっただろう。しかし、ここは新世界。彼らはロギアを知っている。覇気の存在を知っている。エースと仲間の間に入ってくる連中は体に、獲物に覇気をまとって立ち塞がる。

 

結局仲間をむざむざ連れて行かれてしまったエースを前に、役目を終えたとばかりに覇気を使える連中は引いていった。後に残ったのは足止め用の雑兵のみ。

そいつらを全員片付けた時、映像電伝虫がその瞳を開いていた。

 

「仲間を返せ!!」

苛立ちのままに言い放ったその言葉にJOKERが笑みを深くする。

「だったらとっとと俺の島から出ていけ、といいたいところだが……今は俺も忙しい。お前の仲間を拷問する余裕もないわけだわかるか?ん!! おめぇのようなルーキーの相手をしてる場合じゃねぇんだよ!!」

最初は上機嫌そうにも見えたが、その後に見せた恐ろしい般若のような表情が全てを物語っていた。

「いちいち付き合ってやる暇がねぇんだ。だから海賊らしく行こうじゃねぇか。取り戻してみろよ腕尽くで、お前はどうやら時代の中心に引き寄せられる男らしい。HAHAHA 全くもってそっくりだよ、その雰囲気が」

 

そう語るJOKERの笑顔はいつものモノよりも引きつっていて、その奥から怒りや恐れのようなモノを感じることができた。胸のあたりをぐっと抑えたJOKERは自らにも言い聞かせるように言った。

「笑えよ、なぜそんな顔をしている? HAHAHA」

信号が消えて反応を示さなくなった電伝虫を前にエースは怒りに身を震わせていた。

その姿に周囲の仲間達も逃げたしたいような感情に駆られる空気感を放つエースは、不意にその空気を霧散させた。

 

「俺はあいつらを助けに行く。お前らはジンベエの所に」

「突然なんか言い出したかと思えば、俺たちはお前のクルーだ。お前について行くぜ」

その言葉にみんなが同調する。クルーの言葉に船長のエースはやれやれと言わんばかりに首を横に振った。

「好きにしろ」

そこに残されていたのは、スペード海賊団の中でも戦うことしかしてこなかった腕自慢のバカばかり。

彼らは自分たちが今いる居心地の良い場所がどれほど貴重なのかを知っている。だから戦える、力の限り、恐れを胸に秘めながら……

 

 

雲の中に身を隠した男が大きく嗤いながらとある戦況、いや災害の場を見ていた。

「フッフッフ、またとんでもないモノが出てきたもんだな」

金獅子のシキが持つ切り札の一つ。特殊な環境に適応した化け物達が所狭しと暴れ回る。シキに付き従う海賊達にとっては見慣れた光景だったが、今回はどうやら違った。

 

この怪物達はなぜ強いのだろうか? 

その身体能力がすさまじいから? それとも進化の過程で得た特殊な能力が強力だから?

もちろんそれらもあるだろう。しかし、もっと単純明快な答えがあった。

 

奴らはでかいのだ。ほかの生物よりも、何より人間よりも。だから強い、スケールが違うから。なら同じレベルの大きさを持つ生物がいればどうなるのか? 同じ土俵の上に立てるのであれば勝負が成り立つ。そしてそれ以上の大きさを持つ生物がいればどうなるのか、今までとは違う光景がそこにあった。

 

シキの配下に下った連中は皆、怪物達の力をまるで自分たちの力であるかのように錯覚していた。そして金獅子の名前の元に自分は無敵だとでも言わんばかりの全能感によっていた。しかし、そんな彼らは今新世界に来たばかりに味わった無力感を感じていた。

 

目の前に広がる光景は一言で言えば怪獣戦争だった。

巨人の数倍はある巨体に、巨大なライオンが飛びかかる。しかし普通の人間には巨大なライオンでもその巨体にとってはネコ程度の大きさでしかなかった。飛びかかってきたライオンがかみついた腕ごと地面に叩き付ける。

その一撃でこれまでいくつもの街を滅ぼしてきた猛獣が絶命する。

 

襲い来る巨大なゴリラを殴り飛ばし、カマキリを叩き潰す。一瞬で動物を骨に変えてしまうアリの大群は、一息で吹き飛ばされてしまった。その化け物の名はオーズ。かつて国引きと呼ばれた正真正銘の化け物だった。

 

 

ゴッサムでのジンベエとくまの戦いも佳境をむかえていた。ジンベエの体は数カ所の骨折に、ひどい打撲に切り傷、火傷も多く見受けられた。少なからず血を流しており、激戦の後が見て取れた。しかしそんなことは相対する相手を見れば吹き飛んでしまうだろう。

 

皮膚の一枚下に見えているのは金属的な質感の何か、戦闘の途中で破れてしまった服の下からはパイプのようなモノやハンドルのようなモノまで見て取れる。

額を伝う血と一緒に何か火花のようなモノが散っている所からも普通ではないことがわかる。

機械の体が上げる軋んだ音がなんとも耳に残ってしまう。そんな光景を見ていた連中の心の声をジンベエが代弁する。

 

「なんとも奇妙な体になったもんじゃのう」

「奇妙か。ふっ、なかなか的を得た感想だ。今の俺は人間とは言えないだろうな。人間でも機械でもないナニカ。それが今の俺だからな」

「打ち込んだ感覚が奇妙なのも当然か。鋼鉄の体だろうと水がなかろうと、たいした違いは無い」

 

その拳に砕けぬモノなしと強烈な戦意を放つジンベエだったが、くまはそんなジンベエに笑って見せた。

「部下を止めなくて良いのか?」

ジンベエの部下達はもう既に目的地の第一プラントに向けて動き出しており、ここにはもうみんな残っていなかった。

「何じゃ突然、お前さん止めるつもりもなかったじゃろうが」

「止める必要性もなかったからな。計画が始動すれば何もかも関係が無い」

 

くまは腰を落として、大きく四股を踏んだ。

美しく太い一本の柱のようにまっすぐに脚が上げられて、ゆっくりと降ろされてきたが、大地が揺れたかのように錯覚するほどの力強さがそこには宿っていた。大地に根を張った巨木がそこにはあった。

 

機械の体、テクノロジーという利点を生かし戦い方ではなく、くま本来の戦い方。恵まれていた体格と相性の良かった相撲という武術に悪魔の実の合わせ技。くまはこの戦い方で七武海になったのだ。

『突っ張り圧力砲』

無数に打ち込まれていく空気の弾丸をジンベエが水の弾丸で相殺し、躱しながら近づいていく。

 

空気と水という弾丸の元になって居るモノの違いが如実に表れてくる。

足場を固めて熱い弾幕にジンベエの体が捕まり始める。このままでは距離を詰めることはできないと判断したジンベエはまっすぐにくまに向かうのではなく、川の中に飛び込んだ。

 

『海流一本背負い』

 

水の柱がまっすぐにくまに向かい、圧力砲にあたって水しぶきに変わる。

そこにジンベエがまっすぐに突っ込んでくる。飛び散っている水滴を受け止めて撃水を放っていく。

互いの弾幕がぶつかり合って、ジンベエの放った水が水滴に変わる。

 

互いの距離が近づいたとき、くまもその手を止めて、周囲の大気を一気に圧縮した。

『魚人空手奥義 無頼漢』

『熊の衝撃』

互いの最大の威力を持った一撃が衝突した。

 

激しく軋んだような音の果てに立っていたのはジンベエだった。

勝敗の差を分けたのは体のコンディションだった。生身の体というのは浮き沈みの激しい分、理解が深ければ高い状態を維持できる。逆に機械の体は基本的に墜ちていく一方で、直すためには大規模な調整が必要になる。

 

くまの体はベストとは比べられない状況だった。機械的な輝きを放っていた瞳から静かに明かりが失われていった。その光が完全に失われたその瞬間に大きく火花を散らして、その巨体は活動を止めた。

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