ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢   作:鈴見悠晴

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悪夢の邂逅

グランドライン、前半の海、海賊達の港町“ハンナバル”

 

海賊達のたまり場である酒場は犯罪者の巣窟であるこの島に置いても特別な場所だ。大物海賊団の旗の下に保護されたこの店で暴れるようなことは許されない。もし暴れでもしたら次の日にはこの島からいなくなってそこらの海に浮いているだろう。そんなこの島で一番の安全地帯であり、危険地帯でもあるこの店が背負う海賊旗には骸骨に真っ赤に彩られた笑顔の口元と、オールバックにセットされた緑の髪、ナイフと拳銃が描かれていた。

この海賊旗はグランドライン前半の海で非常に良く見受けられ、海賊専門の店を表す印になって居た。この海賊旗が掲げられている港町には共通点があった。一つは天竜人が滞在したことがある街、彼らの多くはマリージョアをはじめとする一部地域をのぞき、一度訪れた場所はほとんど訪れない。しかし、彼らは一度の滞在でも権力が許す限りの横暴を尽くし、その街や国から全てを奪っていく。

そしてもう一つは海賊に略奪された街、海賊の手により滅ぼされた街の住人にとって海軍は自分たちを助けてくれなかった連中にすぎず、次はきっと守るからなどという言葉に信頼などは生まれない。

 

世界政府に対しての強烈な不信感を持った彼らは政府を信じない、もちろん海賊も信じない。彼らは自分たちを守るために自警団(法を犯した力)を持った。ピエロの海賊は彼らの心を誰よりもよく理解して、彼らが望むモノを与えた。彼らが持っていなかったしたたかさと、望んでいた力を、そして悪魔の契約を残していった。

まさに負のスパイラルだろう。彼らが掲げた海賊旗に引き寄せられた海賊達が起こす犯罪、それを止めるためにさらなる武力を、さらなる財力を、港町はスラムのように治安を悪化させながら犯罪者達が跋扈する街を瞬く間に作り上げた。

 

「なんだか騒がしくないか店主?」

カウンターに座っている男が店主から受け取った酒をあおり、普段よりも緊張感を感じられる街の雰囲気を問いかけた。

「仕方ないだろう、今この街には懸賞金が5000万を超える奴らが三人もいるんだ」

「この時点で5000万を超えてるのは珍しいな、どんな奴らがいるんだ」

店主はすぐ近くに設置されていた提示判から手配書を三つ持ってきて、カウンターに並べた。

「一人目が、懸賞金6000万 砂漠の王 サー・クロコダイル。海賊狩りを行なっている海賊だ。既に20近い海賊団が犠牲になってる、空席の王下七武海に入るんじゃないかって噂されてる。お宅らのとこも気をつけな」

「ああ、最近噂になってるな。何でもロギアらしい、会ったらとにかく逃げさせてもらうよ」

 

「それが良いだろうな。二人目は懸賞金7200万、天夜叉 ドンキホーテ・ドフラミンゴ」

「知らねぇ名前だな。一体何したんだい?」

「わからない、一切情報が無い。……ただし、北の海(ノースブルー)出身だ」

それを聞いた男が眉をひそめて掲げられていた海賊旗を指さした。

「これ関係か?」

「さぁな、だが無関係だとは思えない」

 

「最後がこいつだ。影の支配者 ゲッコー・モリア、懸賞金8000万」

「一番やばい連中だな、スリラーバーク海賊団。まさかこの島に来てるとは……」

「理解したか?この島の状況を、まさに危険地帯だ。いくら不文律があるとは言え、衝突しないという保証はない」

「よく理解したよ。じっと息を潜めて彼らが過ぎ去るのを待つとするよ」

肩をすくめた彼らの背後で爆音が響き、壁が吹き飛ばされた。

 

そこにはまさに地獄が広がっていた。

さっきまで自分たちの街があったそこは、まるで砂漠のように干からびて砂に覆い尽くされていた。その砂漠を覆い尽くそうと暴れる影と砂嵐の中に二人の巨漢が立っていて、一人は6メートルほどのがっしりとした体に負けない刀を肩に乗せて笑った。

「キーシッシッシ、どうした砂漠の王。さっきまでの余裕がなくなってるぞ」

彼の背後にはいくつかの真っ黒なボールのようなモノが浮いており、その後ろには仲間と思われる連中が慌てた声を上げる。

「船長、この街で暴れるのはまずい」

何とか抑えようとするが彼らが二人に近づくことはできなかった。

「言ってくれるじゃねぇか、デカ物が。その首を政府への手土産にしようか!!」

黒いスーツに身を包んだ男がコートを脱ぎ捨てた。

 

砂嵐《サーブルス》』『欠片蝙蝠《ブリッツバット》』

 

クロコダイルの大きく開いた両手から二つの砂嵐が一気に街を飲み込んで、彼の体を影のコウモリが貫いた。

「俺にこんな攻撃は効かねぇよ」

穴だらけになった砂の体が一気に崩れて、クロコダイルが砂嵐の中を泳ぐようにモリアに迫る。

乱雑に振り抜かれたモリアの刀が間違いなくクロコダイルの体を貫いた。

「二度も同じことを言わせるな、俺は砂だ。こんな攻撃は効かねぇよ」

砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)

鋭く振り抜かれたクロコダイルの右腕が砂の刃に変わり、モリアがその巨体に似合わぬ素早い動きでそれを回避し、距離をとる。

両者の顔にはもう既に笑みはなく、強烈な殺気がその場を支配していた。

 

しかし、両者ともに動かなかった。いや、動けなかった。

「フッフッフ、お前らにはあそこにある海賊旗が見えねぇのか?直に巡回の連中が来る。フッフッフそれまでせいぜい仲良くやれ」

ピンクのコートを身にまとったこれまた大きな男は手をおかしな形に変えて、戦闘の余波でできたがれきの上に腰掛けた。

「お仲間もだ。これ以上罪を増やすな、あの男はメンツが潰されるのは嫌いだが、バカは嫌いじゃない。案外助かるだろうよ、フッフッフ」

 

「貴様、覚えておけよ。必ず殺してやるからな」

「同感だ、その影を奪い取って二度と太陽の下を歩けなくしてやろう」

拘束された二人が怒りをあらわにする中でドフラミンゴは嗤って見せた。

「フッフッフ、フッフッフッフッフ」

 

 

 

その笑い声が海に溶けて数刻、巨大なガレオン船がゆっくりと港に着港した。

港町にいた連中はそれだけでその船から放たれる強烈な死臭に気づいた。血のにおいがするわけでもない、それでもその船からは濃密な死の気配が放たれていた。

「は、HAHAHA。こいつはひでぇな、ボロボロじゃねぇか」

船から数十名のクルーが下りてきて、先頭に立つ男の持った電伝虫が大きく口を開けて嗤っていた。その電伝虫は拘束されて身動きが取れないモリアとクロコダイルの前に置かれた木箱に乗せられ、その背後には数名の明らかにほかのクルーとは違う連中が立った。

 

『お前らが暴れてくれたらしいじゃねぇか、んん。どう落とし前つけてくれるんだ?』

明らかに楽しんでいるその声は同時に背筋を寒くさせるナニカが込められていた。もしも満足のいかない答えが返ってくれば容赦なく殺されるであろうことは間違いないと声だけで周囲のモノに確信させた。

 

「何で俺が落とし前をつけなきゃいけねぇんだ」

「やりたいんだったら直接出向けよ。戦ってやるから、キーシッシッシ」

 

そんな声に全く臆することなく二人は応えた。彼らの答えに一部のクルー達は殺気立つが、直接的な行動に出ることはなかった。

『HAHAHAHA!!』

電伝虫の表情がより大きくゆがんだ。

『若く、無鉄砲。ただしそれをやるには状況と相手を選ばなきゃなぁ。一つゲームをしよう。何をしても何をやってもいい、船にクルーを乗せて出航した時点でその船とその船に乗せているクルーは見逃してやるよ。さぁ、ITぁ、SHOW TIME!!』

その言葉と同時に彼ら二人を拘束していたドフラミンゴの能力が解かれ、次の瞬間にガレオン船と正面のクルー達から大量の銃弾が放たれた。

 

普通なら間違いなく死ぬ爆炎と悲鳴の中、クロコダイルは砂になり、ゲッコー・モリアは影と場所を入れ替えて、見事にその攻撃を躱していた。

傍観者として眺めていたドフラミンゴもこのまま逃げ切るのかと見ていたが、その表情に僅かな緊張が走った。

さっきまでただ電伝虫の後ろに立っていただけだったピンクのスーツをまとった男がただサングラスを外しただけだったが、その時ドフラミンゴは彼が覇気をまとったのを感じた。

「……これじゃエンターテインメントとしても二流だ」

彼は二枚の金貨を胸ポケットから取り出すと、それを親指ではじく。すると空中でその形を変えて針のように鋭くなった金がクロコダイルとモリア向かって飛んだ。

モリアはとっさに剣を振るったが、金の矢はモリアの剣を形を変えてすり抜けて見事に彼の肩を貫いた。

クロコダイルは回避しようとしなかったが、本能が警鐘を鳴らし、ギリギリのところで首をひねった。その結果躱しきることはなかった。最初に感じたのは熱、それが数年ぶりに感じる痛みだと言うことに気づくまでそう時間はかからなかった。頬骨のあたりを一閃されたような傷が走り、血がゆっくりと滴り落ちた。

「……ジョォーカァーー!!」

クロコダイルを支配したのは激しい怒り、だがその痛みがすぐさま彼を冷静にした。

自分を最強たらしめていると思っていたロギアがあっけなく破られた。その事実が彼に撤退という選択肢をとらせた。

両名ともに負傷が冷静さを呼び、まさしく脱兎のごとく逃げて見せた。そんな彼らの逃走を見て、ガレオン船やその船員はより一層攻撃の手を強めたが、電伝虫の周囲にいた数名は全く動きを見せなかった。

 

撤退に成功したクロコダイルとモリアを見送り、電伝虫を回収し帰ろうとしている連中に後ろから声をかける人間がいた。

「おいおいJOKER、久しぶりの再開に何もなしか?泣けてくるね」

大きく腕を広げながら大げさに悲しんで見せたドフラミンゴは、こちらを全く気にもとめない連中にしびれを切らしたか覇王色の覇気を放って見せたが、それにすらほとんど反応は示されなかった。

そんな中、さっき覇気をまとった攻撃をして見せたスーツの男だけは振り返ってみせた。

『せっかく平凡に生きれる環境を与えてやったのに、こっちに戻ってくるとは物好きだな』

電伝虫から聞こえてくる声は先刻までの楽しんでいた声とは違い、落ち着いた底冷えするような声だった。

『まぁゆっくりと前半の海(パラダイス)を楽しめば良いさ、俺は新世界で待つ……ここまで来てみろ、これるのならな。HAHAHA』

普段のような勢いのある笑い声ではなく、どこか愁いを帯びたような笑い声だった。

「フッフッフ、ああ、ゆっくりと首を洗って待ってろ」

そのドフラミンゴの言葉を聞いて電伝虫は瞳を閉じた。

「ドフラミンゴ、受け取れ」

電伝虫を抱えていたスーツの男は胸ポケットから一枚の紙を出した。

「ボスのビブルカードだ」

「フッフッフ、良いのか?勝手にこんなモノを渡して」

そのドフラミンゴの言葉に対して肩をすくめて答えた。

「傘下でもない連中に与えるのには反対したんだがな、ボスの意向だ」

「苦労がうかがえるな、お前名前は?」

「テゾーロ。ギルド・テゾーロだ」

「覚えておこう、テゾーロ。フッフ、またいつか会うだろう」

 

テゾーロはこの後ハンナバルの再建を託され、己の手腕を見せつける。貴族などと繋がりを持ち、北の海からグランドライン前半の海に続く闇のルートと金は世界政府も手出しできぬものになり、黄金帝の異名を勝ち取った。

彼が再建したハンナバルはまさに金と闇の集結地になり、海賊達のレースを名物とした島になった。

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