ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢 作:鈴見悠晴
和の国 騒乱
四皇の一角、百獣海賊団の船長カイドウは満足のいく死を求めていた。今の時代に絶望し、死ぬこともできない彼は自分のことを殺すことができる人間を探して、探して、探して、探して、探して、……そして見つけられなかった。だからそんなやつが、自分を殺すことができる強者が出てこれる世界を作ろうとしていた。
カイドウはワノ国を支配下に置き、縄張りの本拠にすることで海軍やほかの海賊との不要な戦闘を避け戦力の拡大を行なっていた。世界を揺るがすほどの戦力がため込まれて天然の要害に囲まれたワノ国はマグマがため込まれた火山のような代物。いつ噴火するのかわからない、自分が与える刺激で噴火しないとは限らない。わざわざ来ること自体が難しいここへわざわざやってくる変わり者もいない。
誰もがそう思っていた
黒く彩られた巨大な蒸気船の船首、一人の男が立っていた。正装といえるだろう、紫色のスーツに、コートを着込んだピエロはいつも浮かべている笑みを引っ込め、風を一身に受けながら両の腕を大きく広げた。
「ンー、良い風だぁ。さぁお前ら乗り込むぞしっかりと捕まれよ、滝を登るぞ!!」
ワノ国を囲んだ特殊な海流を難なく乗り越えた5つの海賊船。彼らは一切のためらいなく、眼前に広がる水流の壁である滝に向かって突き進んでいった。水面から顔を出した鯉にあらかじめ用意されていた縄をかけて一気に滝を登る。
あまりの水流の強さに明らかに船体にダメージが入っていくが、それを無視してひたすら昇っていく。
「船長!!、このままだと沈んじまいます!!」
全ての船で似たような報告が上がったが、どの船でも船長達の反応は素っ気ないモノだった。
いくつかの船で船体に穴が開き、浸水してきてるが、結局沈没するような船は一隻も無かった。鯉の勢いに任せて最後には投げ出されるように彼らの船はワノ国に到着した。
間違いなく全ての船が修理を必要とするほどの損傷を受けていたが、彼らは最初の関門を無事に突破した。
この日、ワノ国に電撃的なニュースが走った。
一つ目は海賊の上陸、そしてもう一つがワノ国6つの郷の内の一つ希美の壊滅だった。勇猛果敢、その武名を世界に轟かせていたワノ国ではこんなことは歴史をひもといてもなかなかない事件の裏には侍の弱体化があった。将軍が黒炭オロチになってから、武道が禁止され、自分たちの体で、技で戦うことを忘れつつあった侍達は新世界の海で戦い、四皇の首を狙う海賊達を撃退することはできなかった。
衝撃のニュースが駆け抜けたワノ国だったが、鎖国されたこの国の中で起こった事件が外にまで伝わることは珍しい。しかしこの国に縁があり、今もそこに強く太いパイプを持つ海賊がいた。彼はこのニュースをワノ国の外にいるモノの中で最も早く聞きつけていた。
「ジハハハ、なかなか久しぶりに聞く名前だ。お前にしてはまたずいぶんと焦っているじゃないか。うちで一番弱く、唯一俺のやり方を理解していたお前がなぁ。ジハハハ」
その声は空島よりも高いところから、響いていた。
ワノ国、花の都、天守閣。
普段であればごますりの男達や芸者であふれかえっている場所に珍しくたった一人、黒炭オロチが電伝虫を前に座り込んでいた。
「……何だあれはお前が常々言っていた光月の連中じゃあねぇって考えたわけだ」
明かり一つ無い部屋でその両目を閉じきったオロチには普段とは違い覚悟が見えた。
「そうだ。あれは赤鞞じゃぁない。もしあいつらだったら俺の首を、それ一つを狙う。わざわざ希美を狙う理由がない。わざわざ犠牲者を出すはずがない。そして何より時期が違う」
「そうかい、それでわざわざ連絡を寄越したその理由をさっさと言ったらどうだ」
電伝虫の向こう側から聞こえてくる酒を飲んでいる音を聞き、オロチはその両目をカット開いた。
「今回の連中に対して、うちは一切関知しない。おまえの縄張りで、海賊が暴れてんだ。お前が責任を持って解決しろ!!カイドウ!!」
声を張り上げたオロチに対してカイドウが少し面食らったような雰囲気をにじませながら、笑って見せた。
「ウォロロロロ、俺に喧嘩を売るやつなんて久しぶりじゃねぇか。ええ、おい……モリア以来か」
その言葉にオロチが畳に拳を振り下ろした。
「そのモリアも今暴れてるんだ!! お前の不始末だぞ」
「モリア“も”?」
どこか楽しそうな気配を含ませたカイドウは相手の情報を得ようとしていた。
「わかっているだけでも、“影の王”モリアに“黄金帝”テゾーロがいる。つまりモリアがあの“闇の皇”と同盟を組んでまでこのワノ国まで攻めてきているのだ!!」
そのカイドウの態度に我慢できなくなったのかオロチが立ち上がり、声を荒げた。しかし、カイドウはオロチとは対照的に大きく笑い出した。
「ウォロロロロ、ついに来たのか。あの弱虫が、最後の戦争を始める気か……。良いだろうオロチ、黙ってみていろ。これはあいつと俺の戦争だ。なぁに、いつもと同じだ、すぐに終わるさ、ウォロロロロ」
カイドウの声はとてもうれしげで、そしてどこかさみしげだった。
現在の海を支配しているモノ達の多くが乗っていた船、海賊王ゴール・D・ロジャーの最大の敵であり、世界をひっくり返そうとした伝説の海賊団、“ロックス海賊団”。JOKERとカイドウの因縁は彼らがまだ海賊見習いだった時代にまで遡る。
「ウォロロロロ、引っ込んでいろ弱虫が」
「いつか!しっかりと!この俺が殺してやるよ、カイドウ!!HAHAHA」
ロックス海賊団に所属していた連中からすれば見慣れた光景。いつだってカイドウに軽くあしらわれたJOKERが介抱されて運び込まれ、数時間もすればいつも通り仲よさげにはしゃいでいる。
あのころの喧嘩に、腐れ縁についに決着がつこうとしていた。
カイドウとJOKER、二人とも互いの考えを読み合い、動き出していた。
純粋な数で言えば、間違いなくカイドウ側の方が多い。しかし、数で押し切っての勝利などカイドウの臨むところではない。そんなことはわかった上で、カイドウは数で押してくる。この死地を乗り越えて見せろとそれができないやつに興味は無いと、笑うカイドウを、そんなことは知っていると嗤うJOKERを互いに幻視していた。だからこそ互いに信頼を置く人間を“そこ”に向かわせた。
「キーシッシッシ、来やがったな」
しんしんと積もる雪の中、ゲッコー・モリアは津波のように押し寄せてくる黒い大群を、彼らの先頭を歩いている巨大なマンモスを見つめていた。
まだ戦い始めるには距離がある中でジャックとモリアの視線が間違いなく交差する。
「あの日救った命を捨てに来るとはな」
この振動はモリアの鼓膜までは決して届いていなかった。しかし、モリアはその言葉を確かに聞いた、認識した。
ジャックの静かなつぶやきがワノ国を舞台にした巨大な戦争の号砲になった。
「
モリアの足下を中心にして一気に影が雪で真っ白に染め上げられた大地を覆い尽くし、そこからモリアの部下達と数多のゾンビが這い上がってきた。
そんなモリアの軍勢の中、一人がジャックに飛びかかった。
ブゥン
振り抜かれたマンモスの鼻が一体のゾンビを吹き飛ばして、ジャックが声を張り上げた。
「破壊しろぉ」
その一言でジャックの軍勢が一斉に襲いかかり、ゾンビ兵団がそれを迎え撃つ。
その戦況はまさしく一進一退。ゾンビ兵団の肉体が無造作に切り裂かれ、潰されていく。ジャックの軍勢はゾンビ兵やモリアの部下の手で影が奪われて、戦闘不能に追い込まれていく。
この戦闘が拮抗している原因はまさにモリアの能力の覚醒にあった。部下達が容赦なく影を引っぺがして、近くのゾンビを強化していくことで何とか一体一体の戦闘力でも、数でも劣っているにも関わらずジャックの軍勢と互角に戦っていた。
あのときとは違う。あの日とは違う。仲間を失わないですむように、誰一人失わぬように……
「ここで勝たねぇと、俺は前に進めねぇんだよ!!」
背負っていた刀を抜き放ち、敵を切り捨てながらモリアはジャックに迫った。マンモスの形をとったジャックの振り抜いた鼻とつばぜり合う。互いに武装色を使いこなすもの同士だからこそ成り立つ生身と刀のつばぜり合い。衝撃波が戦場を駆け抜けて、ジャックの体が宙を待った。
「さっさと立ち上がれよ象野郎、お前じゃ相手にならないからよぉ」
全身からすさまじい覇気を放つモリアを前にジャックの軍勢は誰一人動くことができない中、舞っている砂埃の中からジャックが人の姿をとって立ち上がった。
「うっとおしい連中だ」
ここは鈴後、モリアが苦汁を飲んだ地、そして雪辱を果たす地。そして此度のワノ国騒乱最前線。