ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢 作:鈴見悠晴
かつては深い森に囲まれていた兎丼、その面影を一切見受けることのできない荒野がひたすら広がるこの地で一際目を引く人工物。
巨大な採掘場、ド派手に光が放たせているその場所に作業とは無縁のリングが整備されていた。
そこではもう既にボロボロになって戦っている囚人達が見受けられた。彼らはそれぞれがまともな武器すら持たず、大の大人ががむしゃらに暴れているだけの子供のようで、見るものに強烈な違和感を与えていた。
そんな彼らの戦いを横で眺めながら楽しんでいる連中がいた。百獣海賊団、大看板の一角疫災のクイーンをはじめとした連中はそれを肴に酒をあおり、お汁粉をすすっていた。大音声で流されているEDMの中。
「これじゃあ、駄目だ。エンターテインメントってモノがなってない」
突然止められた音楽の裏でぼそりとつぶやかれたような声量だったが、その声はしっかりとこの広い採掘場全体に届いた。
「おいおい、誰かは知らねえがこんだけエキサイトしてるのが見えねぇのか」
お汁粉の入った鍋を置いたクイーンは機嫌よさげにポーズをとりながら声のする方を振り向くと、そこにいた存在を彼は知っていた。
「……“黄金帝”ギルド・テゾーロよく知ってるよ。裏の世界のエンタメ王、あんたのショーはいつだってエキサイト!! だからこそ残念だよ、ここで殺さねぇといけないとはなぁ」
軽く振るわれたクイーンの右腕を合図に、数に勝るクイーン直下の兵団が襲いかかるが、彼らの攻撃がテゾーロの部下に届くことはなかった。テゾーロの部下は黄金でできた鎧に身を包んでおり、悪趣味なその鎧は雑兵を猛者に変えていた。
攻撃が効かない敵を前に余裕を失っていき士気が下がっていく部下を見て、しびれを切らしたクイーンは腰に差していた刀を振るいながら前線に立つ。
「この程度の雑魚にひるんでるんじゃねぇ、びびるくらいなら死んでこいよぉ」
その刃は敵だけではなく味方の背後も切りつけた。切りつけられた人間は明らかな異常をすぐに見せて、全身から出血を始めていた。
「さぁ、広げろよ。せっかくの
大きく腕を広げて笑っていたクイーンの眼前に黒い影が迫った。
「ぶべらぁ」
覇気に覆われた黄金のガントレットを振り抜いたテゾーロはしっかりとクイーンの顔面を捉えていて、クイーンは情けない声を上げながらその巨体を宙に舞わせた。
「一つ聞いておこうか、なぜ私よりも先に笑う」
ガントレットを金の指輪の形状に戻したテゾーロがクイーンの元に足を進めていくと、彼の足下が振動し始めた。
「やってくれるじゃねぇか、糞がよぉ」
怒りを全身から放ちながら能力を使って巨大化したクイーンが、その巨大な足を振り下ろす。
超重量級としか形容しようが無いほどの重量が空から降り注ぎ、粉塵が舞い上がる。
戦いはまだ始まったばかり。
この戦争で最大規模の戦闘が行なわれている鈴後。
配下の軍勢同士の戦いは徐々にジャック側に天秤が傾こうとしていた。次々に到着する援軍に、弱点の塩で確実に数の差を広げられていくモリア側だったが、依然としてその士気は高く、戦場に立っている人間にはその有利を感じ取ることはできなかった。
ゾンビ兵から解き放たれ、本来の持ち主の元に返ろうとする影をつかみ取り、自分の体に押し込むことで無理矢理のドーピングを行なって、開いていく数の差を質で埋めていた。自らの体にあふれる全能感を背景に狂気的な士気を放つ軍勢はまさしく悪夢と形容するしかなかった。
そんな戦いを繰り広げる中央では本物の大海賊による戦いが行なわれていた。
純粋な身体能力に勝るジャックはその巨体に反したようなスピードで動き回り、離れれば飛ぶ斬撃を打ち込み、近づけば手数とパワーで押し込もうと試みる。
「うおおおお」
まさしくジャックにとっては必中必殺の間合い。二刀を振るい数多の斬撃を打ち込む。
モリアはそれを刀で、影で防ぎ、あまつさえ反撃までねじ込んでくる。
互いにまともなダメージを与えることもできていない中、ジャックが先に仕掛ける。己の体と覇気を信じてモリアの反撃をあえて防がずにその身に受け止める。
ザシュ
突き出されたモリアの刀が脇腹から肩にかけて袈裟斬りにする。刀を振り切ったそのときを狙う。
二刀を力の限りに叩き付ける。防御に入ってくる影が視界を防ごうとしたが、その影ごと切り裂く。両手に感じた間違いの無い手応え、
「残念、偽物だよ」
背後に突然生じた強烈な気配、何とか防御の姿勢をとろうとするが刀を影によりかたどられたモリアが握っており、一瞬遅れる。
左の脇腹に生じる強烈な衝撃、吹き飛ばされそうになる体を必死にこらえる。
何とか踏みとどまって顔を上げた先には、影でかたどられただけの真っ黒なモリアから自分の武器の刀を受け取っているモリアがほとんど無傷でそこに立っていた。
しかし、完全に無傷というわけではなかった。僅かにだが、確実に自分の武器はあいつに届いていた。その証拠に左肩の部分は服が裂けて、その下から血が滲み出ていた。
痛み分けどころかモリアの有利かと思われた一連の戦闘だが、実際のところモリア側もギリギリの綱渡りだった。動物系特有の圧倒的な身体能力に回復力、このまま続けていてもジリ貧なところを悟らせないようにあえて余裕を見せて戦っていたその瞬間だった。
こちらの攻撃に一切の防御がなされずにそのまま素通りしていく。
本能と理性が最大級の警鐘を鳴らす。間違いなくこれは喰らってはいけない。武装色に彩られた剣が振り上げられているのを確認して先ほどまでと同じように影で防御しようとするが、剣がふれあった瞬間に悟る。これは防げない。保険として仕掛けておいた『影法師』と自分の場所を入れ替える。判断が遅かったか刃が自分の肩を薄く裂いていく。背後に姿を現した瞬間にあえて声をかける。武器を使えない以上致命傷は望めない。思考を奪え、余裕を作れ、
「残念、偽物だよ」
最大限の覇気と遠心力を乗せた後ろ回し蹴りが脇腹に突き刺さる。
(吹っ飛べ!!)
モリアの全力が込められたその一撃だったが、ジャックの体は浮き上がることすらせずに、数十センチ後退しただけだった。
能力と経験値で勝るモリアと、純粋な身体能力で勝るジャックは互いに切り札を残しながら緊迫感を増していく……