ONEPIECE FILM NIGHTMARE OF JOKER ピエロの見せた悪夢   作:鈴見悠晴

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釣り合う天秤

黄金の鎧をまとったテゾーロ、彼の戦闘力は新世界で見てもかなり上位に位置する。強化された防御力に攻撃力、込められた覇気、どれをとっても一流であることに疑いはない。だが、上には上がいる。この大航海時代以前からこの人世界を戦ってきた連中は桁が違う。彼ですらカイドウの言を借りれば“海賊ごっこ”なのだ。

何より“黄金帝”ギルド・テゾーロ、彼の強みは強さではない。金とコネクションこそが彼の持ち味、正面衝突を選んだ時点で彼は自分の土俵を降りていた。

 

ブラキオサウルスの無慈悲なスタンプが降り注ぐ。あまりの巨体とその外皮の強さに飛び道具は意味をなさない上に、鞭のようにしなる尻尾のスイングが死神のカマのように振り抜かれる以上危険地帯である足下で戦うしか残されていない。手持ちの黄金のコインも、ネックレスも、イヤリングも、9本の指輪も全て既に鎧に変えている以上これ以上の強化は見込めない。

テゾーロのにとって喜ばしいニュースは2つ。散々暴れ回ったクイーンのおかげで周辺一帯にいた百獣海賊団は壊滅状態に陥っていると言うこと、そしてもう一つは『黄金爆』であれば覇気も外皮も貫いてダメージを与えることができるということ。黄金の総量が己の強さにイコールでつながるテゾーロはこの絶望的な戦力差に、自分の全てを唯一の勝機にかけることを決意した。

 

自らの信念の旗を胸に刻む。徐々に近づいてくる攻撃を見切る。徐々にギリギリの回避になる攻撃に肝を冷やす。

それでもくだらない支配を認めてはいけない。あの海賊船に乗ったときに、彼があのくだらない支配を打ち破った瞬間に魅せられたあのときに……

 

見聞色の力を全力で稼働させる。躱して、振り下ろされた足に打ち込む。大してダメージにならないのはわかっている。それでも何度でも打ち切る。

 

燃えさかる札束の山前で呵々大笑する彼に魅入られたあのときから、金も、支配も、強さも絶対ではないと知った。

『俺が好きなモノを教えてやろう。火薬と炎だ。お手軽で破壊力は抜群♩ HAHAHA』

血にまみれた強者が、札束に包まれた金持ちが、人間の悪意と決意、そして狂気に包まれて爆炎にその身を焦がしていく光景。

 

テゾーロが打ち込んだ場所から黄金が広がって、クイーンの動きが鈍っていく。完全に動きを阻害することはできていない。端から砕かれていく黄金だが、その瞬間、間違いなくクイーンの動きは先ほどまでと比べると遅かった。

苛立ちとともに打ち込まれたスタンプを躱したテゾーロがこれまでの一連の戦いとは違う構えを見せる。

『黄金の業火』

テゾーロが本来ならゴールデン・テゾーロ状態で放つ大技だが、全身を覆っていた黄金の鎧をガントレットだけに集中することで擬似的に再現する。打ち込まれた瞬間に姿勢を崩したクイーンにそこからさらに連撃を加えていき、最後に突き出した両腕から現在出せる最大火力を放つ。

『黄金の神の火!!』

本来なら軍艦すらも沈めるレーザー砲だが、即席のモノだとそこまでの火力は出なかった。それでも鼓膜を破らんとする轟音を上げるテゾーロの一撃がクイーンを襲った。

テゾーロの会心の一撃、しかしその黄金の一撃がクイーンの命に届くことはなかった。

 

回避不能の一撃を躱せないと悟ったクイーンは己の腕を犠牲にする覚悟を瞬時に固めた。武装色硬化された右腕にそらされた一撃が空に一筋の光を放つ。その輝きは天に昇らんとする流れ星のようだった。

「その程度で、四皇を支える大看板!!この疫災のクイーンを倒せると思ったのかぁ!!」

人間の姿なら左腕に当たる場所、恐竜の姿だと左前足が大きくえぐれ、おびただしい量の血が出ていたが、それだけだった。全身全霊の一撃を放ったテゾーロにクイーンの返す刀で放たれた全力のスタンプを受け止めるだけの力は残っていなかった。

 


 

狭まっていく鳥かごの中、業火が燃え広がっていく。

キングの振るわれた刀にあっけなくちりばめていた糸が切り裂かれる。さすがに鳥かごや攻撃用の糸は切り裂かれることはないが、拘束や妨害のための細い糸は放つ端から燃やされ、切り捨てられる。

 

ドフラミンゴは周囲に散った炎を使い、懐にしまわれていた葉巻に火をつける。

ここ数年吸っていなかった煙が、勝ち目がほとんど無い相手に挑むこの感覚が、懐かしい。己の命をベットするこの感覚に脳が震える。

「フッフッフ、せめてその翼をもらおうか」

糸を鳥かごにかけることで、一気に上空まで跳ぶ。

「俺を相手に空中戦とは片腹痛いわ」

その翼を大きく広げたキングの突進を受け止める。

『蜘蛛の巣がき』

蜘蛛の巣状に広がった糸の盾、その隙間から弾糸を打ち込む。簡単に回避されていくが、それでかまわない、その数に限りは無い。

見事に地面を滑空しながら連射されていく弾糸を躱していくキングに大技を打ち込む。

『超過鞭糸!!』

これまで回避された弾糸以上の範囲と早さで放たれた糸が地面に巨大な穴を開ける。

「気は済んだか?」

すさまじい熱をを放っているその糸を握ると、その力で一気に引き寄せられ地面に叩き付けられた。

「その腕一本、貰おうか」

一刀のもとに切られた右腕が宙を舞う。

傷口を押さえて倒れ込んだドフラミンゴだったが、そんな彼を目の前にキングは一切手を出す気配がなかった。

「俺はお前を買ってるんだ、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。悪いことは言わん、この手を取って参加に下れ」

差し出されたキングのその手が、ドフラミンゴにはひどく滑稽に見えた。

 

「一つ聞きたい。……お前はなぜカイドウに従う?」

「あの男が俺たちの船長で、この世で最も強い男だからだ」

完結に告げられた答えはまさに予想通りで、一番つまらない答えだった。

「フッフッフ、強いから従う?ずいぶんとつまらない男だな、火災のキング。答えは最初から一つだ!!俺が王と認めるのは、俺の上に立って良いのは、後にも、先にもJOKERただ一人だ!!」

『海原白波』

周辺一帯を一気に糸に変えて、紡いでいく。堅く、鋭く、己の意思を込められたその糸は神をも殺す槍になる。

 

『16発の聖なる凶弾』

 

わずか16本の糸になるまで紡がれた糸がキングに向かって放たれる。

 

「そうか、……残念だ」

キングの背中の炎が一気に火力を上げていく、その覇気が刀を覆い尽くし、黒刀に至る。

数秒間の均衡の後に全ての糸が切り裂かれた。

全ての糸を切り裂かれ、覇気を打ち砕かれたドフラミンゴは鳥かごの中央で動くこともできなかった。

己に迫る、自分の命を奪おうと迫る黒刀が目の前でピタリと止まる。見覚えのある金色のかぎ爪がキングの刀を受け止めていた。

 

「クハハハ、お前にしては上出来だ」

鳥かごの隙間から体を砂に変えて入ってきていたクロコダイルはドフラミンゴとキングの間に入って、黒刀を受け止めると右腕を砂の刃に変える。

『砂漠の宝刀』

 

砂の刃を受けたキングは黒いコートについた砂埃を軽く払った。

「今日は落とす腕が多そうだな」

強烈な苛立ちを見せるキングを前に、ドフラミンゴの足下に転がっていた葉巻を拾い上げて一服したクロコダイルは不敵な笑みを浮かべていた。

それはまさに獲物を見つけた肉食動物を彷彿とさせた。

「鳥かごは解くな」

右腕を失っているドフラミンゴに簡潔に告げると、下半身を砂に変えて地面を這うように高速移動をするクロコダイルが右腕を突き出す。

右の手のひらを首を傾けただけで回避したキングは攻撃に移ろうとして気づいた。

この男の手のひらの上に回転している砂の球体があることに

『砂嵐 重』

顔の横で突然生じた砂嵐の衝撃波でつけていた仮面の角は折れ、ひびが入り、所々素顔も垣間見えていた。

「やってくれる」

キングの体がうごめきながら変形していく。純粋なプテラノドンでもなく、人間でもない。

動物系の“悪魔の実”共通の切り札。獣人型に形を変えていくキングの体に見えていた、いくつかの傷跡はもう既に血が止まっていた。

「どうやら能力は覚醒しているらしい」

そう言ったクロコダイルはかぎ爪のカバーを外した。

かぎ爪の先端から数滴ナニカが落ち、刺激臭を含んだ煙が上がる。

「……毒か」

「不満でも?」

「いいや、全く」

短く言葉を交わした強者二人、彼らの間に卑怯も、反則もありはしない。最後に立っていたやつが勝者。それが海賊の掟なのだから。

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