幼女、麦わら海賊団と共に行く   作:犬吾郎

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幼女、王女を群れ(仲間)に迎える

船が騒がしくなって1時間程立った。キッチンの食卓にはみんなが集めた食材をサンジが美味しく作った料理達が並んでいる。料理の数が多過ぎて机が見えなくなる程だ。

 

グゥ〜〜〜…

 

ヴァルのお腹が音を鳴らす。見てるだけで涎が出てしまいそうで早く食べたいが、まだ狼の姿で居た。ナミはビビをヴァルの目の前に連れて来て紹介する。

 

「ヴァル、この子はビビって言うの。アラバスタ王国の王女様で…あ、ヴァルには難しいわよね?簡単に言うならアラバスタ王国はヴァルの居たような島、王女は島の1番偉い人の子供って事。ごめんね?説明遅くなって」

「は、初めまして…では無いけど、その、これからよろしくお願いします」

 

ジーー…

 

「あ、あのぉ…?」

 

ジーー…

 

「「「「「(ものすっごく見とる…)」」」」」

「(凄く見られてる…これってもしかして、警戒されてる⁈)」

 

ビビはヴァルの反応無しに凝視されて心配になり誤解をしている。別にヴァルはナミから説明を受けたので警戒心を抱いてはいない。しかし、群れに突如入って来た新人なので、まず外見と顔の表情からどんな人間かを確認しているだけだった。

ヴァルは見た目の確認が終わって、次のステップに入る。突然立ち上がったヴァルにビビは驚いて体をびくつかせたが、恐怖で動けなかった。

 

スンスンッ…

 

「ヒィ…!」

「怖がらなくても大丈夫だよビビちゃん。ヴァルちゃん、匂い嗅いでるだけだから」

「おう、狼の習性って奴だ。そのままジッとしてろ」

 

ヴァルはビビから出てる恐怖の感情を感じ取りながら全身の匂いを嗅ぐ。

匂いは普通だったが、何故か渇いた砂のような感じがした。暫く嗅ぎ続けてビビから離れる。結論を言うと、危険人物では無いとヴァルは判断した。

 

「ヴァルちゃん、もう良いのかい?」

「ワン!」

「(こ、怖かったぁ…!)」

 

ビビは緊張と恐怖から解放されてホッと息を吐いた。

ヴァルは思う存分確認する事でやっと気を緩める。狼の姿から元の姿に戻った。ビビは目を丸くしてヴァルを見る。

 

「…え?女の子?」

 

ヴァルはウイスキーピークで飲まず食わずだったので流石に空腹が限界まで来ていた。驚いてるビビを気にせず、椅子に座って机に着き料理を食べ始める。

 

「まぐまぐ…」

 

空腹は最高のスパイスと何処かで聞いた事があるが、まさにその通りだった。ヴァルは夢中になって食べ進める。

一方のビビはヴァルが女の子の上、能力者であった事に驚きを隠せない。

 

「この子、能力者だったの⁈」

「えぇそうよ、名前はヴァル。気を許したら結構優しいから、心配しなくて良いわよ」

 

ナミはヴァルの頭を撫でながらビビにヴァルを紹介した。ヴァルは口元を派手に汚して料理を貪って行く。ルフィは料理を見て涎を滝のように流す。

 

「美味そ〜」

「お前はウイスキーピークでたらふく食ってたろ!!」

「だってー…」

 

ルフィが食べた物達は既に消化済みだった。有名な大食い女王も驚愕ものである。

ヴァルはルフィの方へ料理が乗ったお皿を何皿か近づけた。ルフィはヴァルに向けてキラキラと目を輝かせる。

 

「良いのか⁉︎ありがとうなヴァル!!」

「クゥ…!ヴァルちゃん、なんて良い子なんだ!」

 

料理を勢い良く食べ始めるルフィを見ながら続きを食べるヴァルを見てサンジが目を拭う。ナミはルフィに呆れた視線を向ける。幼女に飯を恵んで貰うとは恥ずかしく無いのだろうか。いや、ルフィにそんな恥ずかしさなどある筈が無かった。

 

「うんめ〜!」

「ん?ヴァルもう良いのか?まだスゲー量があるぞ?」

 

ヴァルが料理を食べなくなったのを見てウソップが言った。ヴァルは頷き、半分程残った料理を全てルフィの方へ寄せる。狼の群れではリーダーから獲物を食う権利があるが、ヴァルも無意識の内に本能でリーダーであるルフィに料理を明け渡していた。ルフィはますます嬉しそうに食べ進めて行った。

ヴァルはサンジの方へ行き足元に抱き着いた。美味しい料理を作ってくれたお礼をボディランゲージで表す。サンジはデレデレしながらヴァルの頭を撫でた。撫でられて直ぐ、ウソップやゾロ、ナミにも抱き着いてお礼をする。サンジはゾロが抱き着いたヴァルを抱き上げたのを見て殺意が湧いたが、ヴァルの前なので下唇を噛みながら蹴り掛かるのを我慢した。

 

お腹を満たした後はお風呂の時間になった。ナミはヴァルの頭を洗っている。能力者は水で満たされているお風呂が苦手な人も多いらしいが、ヴァルは好きなようだった。

お湯で満たされた浴槽にはビビが入っている。ビビは大人しく頭を洗われているヴァルを見て少し前の事を考えていた。

 

「(双子岬の時は吹き飛ばされ、ウイスキーピークの港では賞金稼ぎ達を1人で抑え込んでいたし…。この子、幼い子供とは思えないほど、凄い強さを内に秘めてたのね)」

「ビビ?どうしたの?」

「な、何でも無いわ」

「ふーん?」

 

自己紹介が終わったが、ビビは何処かヴァルを怖がっているように感じられる。ナミは少し考えるとヴァルの顔を覗き込んで言った。

 

「ヴァル、次はビビに頭洗って貰いましょうねー」

「え⁈」

「コクッ」

「ほら、こっち来て」

 

ビビはあたふたと断ろうとしたが、ナミとヴァルの視線に負けて湯舟から出る。ヴァルの後ろに行き髪に手を入れるとビビが目を見開いた。

ヴァルの髪はナミが毎日洗ってケアをしている為、島に居た時に比べ、光沢が増している。更に触れればサラサラと流れる感触を残す程に滑らかな髪質に仕上がっている。水で濡れていても一切手に引っかかる事が無かった。

ビビはヴァルの髪に魅せられて暫く触り続ける。

 

「なんて綺麗な髪なの?こんなの見た事が無い…」

「ふふ〜ん、でしょ?ヴァルの髪の毛は本当に綺麗なのよね〜♪」

「?」

 

ナミも参加してビビと一緒に髪を触り始めた。ヴァルは触られるのが嫌いでは無いので、2人の好きなようにさせる事にした。

 

ヴァルの頭を洗ってからのビビの態度は一変して、ヴァルを抱っこして湯舟に浸かるまでになった。元々適応能力が高いのか、一度恐怖心を無くせばビビもヴァルと言う名の沼に嵌ってしまった。ヴァルはウイスキーピークに上陸・脱出してから一度も寝ていない為、睡魔が限界に近づきポケーとした顔をしている。

ヴァルが眠たそうにしている事をナミは察知して、寝る前にウイスキーピークで借りパク(窃盗)した物をヴァルに着せた。

 

「私の服卒業ね、結構似合ってるじゃない!」

「可愛い!!」

 

そこには、ノースリーブでフードが付いた黒い上着、ショートパンツの青いジーンズを着たヴァルが居た。いつものぶかぶかで大きかったナミの服に慣れていた為、自分にピッタリのサイズに少しだけ落ち着かない。ナミとビビがキラキラした目でヴァルを見る。ナミは明日からこの服を着せる事に決めた。ヴァルにもう良いわよと伝えると、ヴァルは服を全て脱ぐ。というか全裸になった。

 

「……全裸⁈」

「やっぱり寝る時はそれが良いのね…」

 

野生で生きていた名残なのかは分からないが、ヴァルは寝る時に必ず全裸になって寝る事に拘った。ナミも何度か直そうとしたが、どうにもこれだけは譲れないのか言う事を聞かない為、諦める事にしていた。

 

 

 

真夜中になってヴァルは目を開けた。耳が無意識の内に音を拾って眠りから覚めた。

ビビの方から何やら音がする。見てみると、ビビは目を瞑って寝ているが体が震えている。気になってビビの顔を覗き込むと、ビビの目から涙が出ていた。泣きながら何かを呟いている。ヴァルは涙を見つめたまま、ビビの目元を布団で拭いた。

ビビが涙を流していると、何だかムカムカしたものが胸に込み上げてくる。

 

「ヴァル」

 

ナミがヴァルの名前を呼んだ。ヴァルが起き上がった振動で目が覚めたらしい。ナミが手でおいでのジェスチャーをするのでヴァルは側に寄った。

 

「ビビは今、凄く傷付いてるの。だからそっとしてあげて」

 

ヴァルはもう1度ビビの方を見た。血の匂いはしないので、怪我をしたとはどう言う事なのだろうと思った。

ナミはヴァルを連れて外に出る。上を見ると綺麗の夜空が広がっていた。

 

「ヴァルにはまだ難しい事かも知れないけど、聞いてくれる?」

「コクッ」

 

ヴァルはナミの隣に立ち、手摺りの上に腰掛けた。ナミは手摺りに肘を付いてヴァルに話し始める。

ビビはアラバスタ王国の王女だが、ある組織から命を狙われて国から逃げて組織に潜入し独自に調査をして来た。でも、ウイスキーピークでの騒動の中、みんなに組織のボスの名前を漏らしてしまい、それが組織にばれてしまった。昨日上陸した時に会ったイガラッポイ(本名イガラム)はビビに昔から仕えている人で、自分が囮になってビビとみんなを逃がしてくれたのだが、直ぐに船が攻撃されてしまった。

ナミは暗い顔をしながらゆっくりとヴァルが分かるように説明する。

 

「私はビビの国を助けてあげたい。何でビビがあんな思いをしなきゃいけないのよ、ふざけてる」

 

ナミは歯を食いしばりながら目を尖らせた。ナミも故郷であるココヤシ村をアーロンが率いる魚人海賊団に支配され実の親同然だったベルメールを殺害された幼少期を経験している為、怒りが込み上がって仕方なかった。

ヴァルはそんなナミの顔を見ていた。ナミから怒りの感情が溢れ上がって体の外に漏れている気配を感じる。ナミの顔を見ながら、先程のビビが頭に浮かんだ。泣きながら呟いていた言葉が耳の中に反響している。

 

イガラム…ごめんなさい…!

「………」

 

バキバキバキ!

 

「ヴァル⁈」

 

ナミがヴァルの見ると、手摺りに手を付いていた部分を小さな手で握り潰していた。ヴァルはよく分からないが、つい力を入れ過ぎて手摺りを壊してしまった。メリー号に対して申し訳ない感情が湧きながら、頭は酷く極寒のように冷え、胸は火山が噴火したように熱く煮えたぎっている。

 

ヴァルはこの日、麦わら海賊団と出会ってから初めて、表情は変わらないが、目を真っ赤に染めた本気の怒りの感情を露わにした。

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