リヴァース・マウンテンを下り始めて時間が経った。昇った時と同じように雲を抜けて海が見えてきた。みんなで嬉しそうに声を上げていると、突如目の前の海水が押し上がった。出てきたのは全長何メートルあるのかも分からない黒い物体だった。
「ク、クジラぁぁぁぁ?!!」
「ででで、デッカ―――――!!な、ななななな、なんじゃあありゃぁ――――――!!!」
「何でクジラがあんなにデカいんだよ!どうなってんだ!!」
見たことが無いもので良くわからなかったが、目の前に出てきた黒い物はクジラと言うらしい。この山程では無いがそれでも途方も無い大きさで、出てきただけで海面が揺れて船が転覆しそうになったが、何とか船を転覆させないことに成功した。クジラはそんな一味に気付かず山を見上げて吠え始める。余りにも大きい咆哮で鼓膜が破れそうになった。
ヴァルはみんなが耳を抑えて耐えている姿を見て、何を思ったのかクジラと呼ばれるものが攻撃をしてきたと勘違いをした。能力を使って体を狼に変えて段々と大きくなっていく。大きくし過ぎると船が潰れてしまうので船が潰れない大きさで止めた。ヴァルはクジラに向かって威嚇を始める。
「ガルルルル…!!!」
吠えていたクジラがヴァルの唸り声に気付いた。目だけを動かしてヴァルを見ると、凄まじい恐怖に襲われた。ヴァルは牙を剝きだして今にも噛みつきそうな状態をしている。体はクジラの方が大きいが、本能による物なのか確実に命を奪われる光景が脳裏に掠めた。クジラは身の危険を感じて、これ以上ヴァルを怒らさないように吠えるのを止めて静かに体を震わせながら海の中に戻り始める。戻し過ぎて頭の天辺しか見えなくなった。
ヴァルがクジラをビビらせた光景を見てクルーのみんながポカーンとした顔をした。みんなが我に返ると、ヴァルの近くに集まってよーしよしよしと体を撫で始める。ウソップとナミは泣きながら感謝の言葉を言った。
「ヴァル゛ヴヴヴヴヴ!!!お前、俺達の為にクジラ倒しちまったのか?ありがとうなぁぁぁぁぁ!!!」
「ありがどうヴァルゥ!怖かったよ―――!!」
ヴァルは体を小さくして狼よりちょっと大きいぐらいの大きさになった。泣いている2人に近づいて顔を舐める。舐められた2人はますます涙を流した。
「「滅茶苦茶良い子だぁぁぁぁ!!!」」
サンジが目を♡マークにしながら言ってきた。
「ヴァルちゃぁぁぁん♡助けてくれたお礼に今から特上の肉を使った料理を用意するね――――!!」
「あ?おいアホコック、俺にも酒」
「サンジ!俺も肉!」
「おめーらは何もしてねーだろ――――!!!」
クジラが隠れてから一味達は馬鹿騒ぎを暫く続けた。
思う存分騒いでから落ち着いて辺りを確認した。ヴァルは元の姿に戻ってサンジに作って貰った肉料理を食べながら見渡した。山を下り切って船は海の上にプカプカと浮いている。近くにある小島には灯台が立っていた。人の姿も見える。高齢のお爺さんだった。一味は灯台に近付いて確認する。
「おい爺さん、アンタ誰だ?ここで何してる」
ゾロがお爺さんに尋ねた。お爺さんは椅子を持って来て新聞を読みながら一味を睨みつけた。
「「「「「「…!」」」」」」
一味が構えて返事待つと暫くして口を開けた。
「…人に物を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀じゃ無いかね?」
「……あ、あぁそりゃそうだな。悪かった、俺の名は…」
「私の名はクロッカス、この双子岬で灯台守をやっている。歳は71歳だ」
「今名乗るのが先って言ったよなぁ⁉︎」
ゾロは思わず刀に手を掛けた。サンジがゾロを抑える。
「落ち着けバカ!それで、アンタ俺達の敵か?敵なら容赦しねぇぞ」
クロッカスがサンジの言葉を聞いてまた睨みつけて来た。一味はまた構えて返事を待つ。
「…辞めておけ、死人が出るぞ」
「ひぃぃ…!」
ウソップの悲鳴を上げた。サンジは冷や汗を出しながらクロッカスに聞き返す。
「へぇ?誰が死ぬって?」
「私だ」
「お前かよ⁉︎」
サンジも思わず腕を巻くって喧嘩越しになる。ウソップが両腕を押さえて止めた。
「先程ここに暮す巨大なクジラが吠えたと思ったら静かになったのでな、様子を見に出たんだが…。一体何をした?」
「それならヴァルがビビらせて海の中に頭隠したぞ?」
「何?」
みんながヴァルを指さした。クロッカスはヴァルを見て目を見開いたが、直ぐに目を元に戻した。
「嘘を言うな、まだほんの子供じゃないか」
「「「「「いや、嘘じゃねえよ」」」」」
みんなが揃って手でツッコミした。ヴァルはみんなの反応に料理を食べながら首を傾げた。クロッカスはヴァルを見てまだ信じられないような顔をしている。
「まあ嘘だろうが何だろうが、お前達がラブーンを止めてくれた事に変わりは無い。礼を言う」
「ラブーン?」
クロッカスはラブーンについて話し始めた。
ラブーンと呼ばれたクジラはアイランドクジラと言う種類の世界最大のクジラでウエストブルーに生息する生き物らしい。今から50年以上前にウエストブルーから海賊と共にやって来た時に、まだ幼く小さかったラブーンはこの双子岬で預かることになり、海賊達はいつか必ずまた戻って来る約束をした。
それから50年、一度も海賊達は戻って来ていない。何処かで解散したか、それとも余りに強大な他の海賊団や海に恐れをなして逃げ出したのか、理由は分からないがラブーンは約束を破られた。
クロッカスはラブーンに海賊団は壊滅したと伝えてもラブーンは聞く耳を持たず、「RED LINE」に頭をぶつけ続けている。その為、ラブーンの頭は傷だらけで、このままだといつか死んでしまうので、クロッカスはラブーンを治療し続けていた。
クロッカスの話を聞いたルフィは暫く黙り込んだまま考えた。すると遠くから船の音が聞こえた。見ると小舟に奇抜な男女2人が乗っている。女の方は美形でサンジの目が♡マークになっていた。丁度ヴァルが料理を食べ終えてサンジにお皿を渡して服を引っ張る。サンジはヴァルに目線を合わせる為にしゃがみ込むと、ヴァルはありがとうの意味を込めてサンジの頭を撫でた。サンジが目を♡マークにして空に浮かび上がるぐらい体をフワフワさせる。
クロッカスがこっちに来る2人を見て顔を歪める。
「また来たのかアイツらは」
「あの2人知ってんのか?」
クロッカスが言うには、あの2人は近くの町に住む輩でラブーンを仕留めて食糧にしようと企んでいるそうだ。ラブーンは大き過ぎる為、中々痛手を与える事が出来ないが、懲りることなくやって来ては銃弾をラブーンに向けてぶっ放す悪党共。最近では大砲も積んで来ていてラブーンの身に危険が増えているらしい。
ヴァルはラブーンが吠えている時の事を思い出した。吠えている時、怒りや悲しみと何かを待つ感情を確かに感じ取れた。みんなに攻撃した(誤解)のは許せないが、ラブーンなりに気持ちをぶつけないと居られなかったのだろう。
ヴァルはルフィを見つめる。ルフィはヴァルの気持ちを理解して命令を出した。
「俺もクジラに用が出来たからぶっ飛ばして良いぞ。ただし、命までは取るなよ」
「コクッ」
ヴァルはもう一度狼に変化して大きくなってからウソップにロープを咥えて持って行った。ウソップは良く分からなかったが、何となくヴァルの体にロープを巻き付ける。硬めにロープを縛った事を確認すると、ヴァルは小舟の方に跳躍した。跳躍の衝撃で船が揺れたが、それよりもヴァルの行動に一味は驚愕した。何とヴァルは小舟に向かって頭から飛び掛かり大きな口で乗っている2人ごと小舟を噛み砕いた。
「「「「えぇぇぇぇ⁈木端微塵にしたーーー!!」」」」
思わず2人を殺したかと思ったら口には小舟に乗っていた2人が咥えられていた。ヴァルが海に沈みながら咥えていた2人を思いっきり遠くへ飛ばした。一味は慌てながらヴァルが溺れる前にロープを全力で引っ張る。ヴァルは引っ張られながら海水によって力が抜けて元の姿に戻っていた。ヴァルは海水に触れた途端、力が抜けた感触が新鮮なのか手を閉じたり開けたりしている。船に上がって来たヴァルにみんなが説教をする。特にナミが怒っていた。
「あっぶねーだろ!!」
「飛び込むとか何考えてんだ!!バカヤローめ!!」
「ヴァルちゃん!危ないことしちゃダメでしょ!」
「ヴァル!いきなり海に飛び込むなんて、何考えてんの!!貴女能力者なのよ⁉︎」
「?」
ヴァルは能力者と言われて首を傾げる。みんながそれを見て察した。
「「「「(あ、そう言えば能力者って事教えて無かった…)ヴァル(ちゃん)、怒ってごめん…俺(私)達が悪かった」」」」
みんなが段々表情を暗くさせていってヴァルに頭を下げた。ヴァルは何でみんなが怒ってたのから急変して謝られた理由が分からず、オロオロとしている。
「ニッシシシ!スゲ〜吹っ飛ばしたなーー」
「「「「笑ってんじゃねーーよ!!!」」」」
ガーンッ!
「ず、ずみばぜん…」
ルフィがみんなに殴られて頭にタンコブが4つも出来た。痛そうだけど、何故か可哀想とは思えなかった。
ルフィはみんなに殴られた後、船のマストを壊してラブーンの頭に突き刺した。みんなはマストを壊したルフィに怒鳴りつける。ラブーンは余りの痛さに体を浮かび上がらせて悶えた。海面が大荒れになって転覆しそうになる。ラブーンはマストを突き刺されたお返しに小島にある灯台に思いっきりぶつけた。ルフィとラブーンが喧嘩を始める。どちらも中々良い勝負を繰り広げた。
ラブーンがルフィを灯台に吹き飛ばしてから突進して攻撃しようとする。ルフィは小島に立って突っ込んでくるラブーンに言った。
「引き分けだ!」
ラブーンは思わず止まった。ルフィはラブーンの目を見ながら宣誓する。
「俺は強いだろう?俺に勝ちたいだろうが!俺達の勝負はまだ着いてねんだ、だからまた戦わなきゃならない。お前の仲間は死んだけど、俺はずっとお前のライバルだ!必ずもう一度戦って、どっちが強いのか決めなきゃならない!俺達は
ラブーンが目をウルウルさせる。ルフィは笑って約束した。
「そしたらまた喧嘩しよう!今度は俺が絶対勝ち越してやるからな!」
ラブーンは涙を流して嬉しそうに空へ向かって吠えた。クロッカスや一味全員はラブーンを優しく見守った。