幼女、麦わら海賊団と共に行く   作:犬吾郎

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少し展開が早いです。


幼女、歓迎の島に降り立つ

船は海と繋がっている川に入って上陸しようと川に入った。島は白い霧で覆われていて少し先の方が見えずらい。

ウソップが不安そうに顔を青くしながら胸元をギュっと掴んでいた。

 

「お、おいみんな、き、聞いてくれ…!急に持病の…島に入るといけない病が…」

 

ウソップはつい先程言われた内容を思い出して嘘を付いていた。島に近づく前、ナミから記録指針(ログポース)にウイスキーピークの島の磁力が記録しなければ次の島へ進めない為、危険な生物や海賊が居たとしても島から出ることが出来ないと宣言されたからだ。

 

「じゃあ入るけど、良い?逃げ回る用意と戦う準備を忘れないで!」

「あ、あのぉ俺の持病が…。き、聞いて無いよね…?」

 

嘘がみんなの耳に入っていないことに気付いたウソップは、何処となく寂しそうで悲しそうな声を出した。その声さえもみんなは聞いていなかった。

 

島の奥の方まで入ると霧がますます深まった。みんなは気付いていないが、ヴァルは霧の中で何かが歩いたり走ったりしている足音を注意深く聞いていた。人の足音がいくつもあるように聞える。そのまま進むと霧の中に居る人影らしきものが見え始めた。

 

「あ?何か動いてるぞ」

「人だ。人がいるぜ」

「みんな、注意して」

 

用心しながら船を進めていると、辺りから大勢の人の声が聞こえて来た。悲鳴と言うより歓声のような声だった。

 

「「「「「ようこそ!ウイスキーピークへ!!」」」」」

 

霧が晴れるとウイスキーピークの港に辿り着いたが、辺り一面に人がごった返して笑顔でこちらを歓迎していた。

ルフィとウソップは笑って人を見渡し、サンジは若い女性が手を振っているのを発見してデレデレしていた。

 

「このアホ共」

「何緊張解いてやがんだお前らは…。ヴァル、気は抜くなよ?」

「ワフ」

 

港に船を着けて上陸すると、人だかりの中から髪をロールケーキのように左右3つに巻いた人が出てきた。名前はイガラッポイと言い、このウイスキーピークの町長をしている者だと言う。このウイスキーピークは海賊だろうと海兵だろうと関係無しに訪れた者達を持て成し歓迎することが大切とされ、今までの航海の話を酒や料理を飲み食いしながら宴会をしたいと言ってきた。それを聞いたアホ共は疑うことも無く飛びついた。残りの3人(内1人は現在1匹)はアホ共に対して冷たい視線を浴びせたが気付かれていなかった。

ナミとゾロも3人の後を追う為、船を降りる。

 

「よーし!宴だぁ!肉食うぞ!!」

「ちょっと待てルフィ!!」

「んにゃ?」

「ヴァルが船から降りようとしないの」

 

みんなが船を降りた中、ヴァル1人(1匹)だけが船に残っていた。舟の看板にお座りをしてナミが呼んでも頑なに降りようとしなかった。

 

「おいヴァル!何してんだよ、早く来いよ。肉あるぞ?」

「…」

「ヴァルちゃんが肉に反応しない、だと…?」

 

群れ(仲間)のリーダーであるルフィが呼んでもヴァルはジッと座っている。仕方ないのでルフィは一旦船に上がるとヴァルの頭を撫でた。

 

「仕方ねえな。じゃあお前の分の肉持ってきてやるから、メリー号で留守番してるんだぞ?」

「ヴァル、良い子にしててね?」

「ワン」

 

ヴァルはみんなの背中が見えなくなるまで見送った。みんなの後に続いて人が居なくなると看板に伏せ、目を閉じた。一見寛いでいるように見えるが、耳を立てて尖らせ辺りの音を調べている。ヴァルは密かに警戒態勢を取り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

船でお留守番を続ける事、数時間後。次第に空が暗くなり夜になった。島は寝静まったのか音も無くヒッソリとしている。

 

ピクッ

 

耳に何かの音を捉えヴァルは目を開けた。誰かが大勢でこちらに向かって来ている。立ち上がって目で確認すると、島の住人達が手に武器を持って船を囲んでいる。ヴァルは船から降りて船を背に立つ。住民達は不適な顔をしながらジリジリとこちらに近づく。

 

「コイツ毛皮にしたら、高く売れるかな?どう思うよ?」

「バカなこと言ってんじゃねえ。良いかお前ら、気を付けろよ。相手は狼だ。さっさと殺して船を物色するぞ」

「何言ってんだよ、この人数なら大丈夫だって」

 

何か話しているが気にする事無くヴァルはみんなが帰ってこないことに少し心配になった。

 

ドーン!

 

ヒィ…!グワァッ!

 

直ぐに心配は無くなった。奥の方から悲鳴や大きな音が聞こえる。多分みんなが暴れているのだと確信した。

心配の要素が無くなったヴァルは目の前に集中して威嚇を始める。

 

「グルルルル…」

「ッ!」

「おい何ビビってんだよ。少し大きいだけで、ただの狼じゃねえか」

 

先程から威勢の良い若い男がヴァルの威嚇に怯んだ者を見て鼻で笑った。そのまま1人前に出て武器を構えてヴァルに刃先を向ける。

 

「ジッとしとけよ?じゃないと毛皮が綺麗に剝がせないだろ」

「(ムカッ)」

 

ヴァルは目の前の者に侮られている事に気付き少し苛ついた。島の頂点に立っていた者として、自分よりも確実に弱い弱者に侮られるとプライドに傷が付く。苛立ち半分と牽制の意味を込めてヴァルはある行動に移すことにした。

 

「オラッ!!」

 

男が武器を上からヴァルの頭目掛けて振り下ろす。ヴァルはその場を動かず男の腕を見つめる。男は勝利を確信するとさらに勢いをつけて振りかざした。

 

ガキンッ!!

 

「…へ?」

 

ヴァルの頭に当たった筈の武器が何故か刃先の部分が壊れ吹き飛んだ。一同揃って何が起こったか理解して無い表情を浮かべている。男も武器の破片が飛んだ方を見つめたまま固まっていた。ヴァルはその隙を付いて男の元に一瞬で急接近する。

 

「な、何で…」

 

ブチッ!

 

「え?ブチッ?」

 

音がして確認する。武器を持っていた男の腕が肘の先から無くなっていた。腕が無いことに気付いた男の脳は、痛みの成分を分泌し始める。段々と痛みが増した男は顔を恐怖に染めながら後ずさりをした。千切られた腕から血が夥しく地面に落ちて染を広げた。

 

「あ、ああ、あああああああ!!!お、俺の腕が、腕がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ペッ!」

 

ヴァルは口に咥えていた男の腕だった物を地面に捨てた。恐怖に染まった顔を見て少し苛立ちが収まる。しかし優越感は全く起きず、逆に腕を噛みちぎって思った。ゆっくり動いてあげたのに自分の姿を認識する事も出来ず、腕を取られ喚き散らしている。この程度の者が自分とメリー号を襲おうとした事実に腹が立つ。ヴァルは鼻息を一度だけフン!と荒々しく出した。

腕をいつの間にか食い千切られた男の姿を見て、住民達が武器を構える。武器からは何かが焼けたような匂いがした。島から漂っていた匂いの正体はこれだとヴァルは理解した。

 

「ッ!打て打て打て、打ちまくれ!!!」

 

1人が叫んで武器から何かを打ち出した。ヴァルはメリー号に少しでも傷が付かないよう少し大きくなって体を張る。当たる前に体に力を入れる事を意識した。

 

ガキン!ガキン!

 

「痛ってーーー!!跳ね返った!!」

「な、何で銃弾が弾かれるんだよ…」

 

住民達が打った銃弾がヴァルの毛に当たると、壁にでも当たったように四方に跳ね返った。跳ね返った銃弾の一部が数人に当たり血を流している。ヴァルは銃弾が体に当たっても特に痛く無いが、ペチペチとした感覚が絶え間なく続くのでむず痒く感じた。体を後ろ足で掻きたくて仕方が無い。顔が痒い。

これ以上痒くなりたく無いヴァルは住民達の腕に目掛けて前足で引っ掻き、怪我を負わせる。腕に深い裂傷を負った住民達は痛さの余り武器を落として行く。男の腕は噛みちぎっているが、別にヴァルは住民達に危害を加える気は全くない。殺す事も簡単だが、住民達が弱すぎるのと、殺したら特にナミから叱られてしまうと考えたからだ。

 

「ワン!!」

「「「ヒィィィ…!」」」

 

一度だけ吠えると住民達は恐怖に怯えた。もう攻撃を仕掛けて来る気も無くなったらしい。もう危険は無いと判断したヴァルは腕を失った男の元に近づく。痛みでずっと喚いているので少し煩かった。

 

ドガッ!

 

「ゴヘッ」

 

男の頭を前足で踏んづけて地面にめり込ませる。気絶したようでやっと静かになった。それを見た住民達がまた怯える。

 

ヴァルは住民達を睨み付けながらメリー号に戻って住民達を監視しながらお座りをする。ルフィに言われた通り、お留守番の続きをしながらみんなを待つ事に決めた。


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