虚に救われた少女が、彼を殺すまでの話。   作:あおさ粉

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彼女(オリ主)の師匠目線から見たストーリーです。
書いてる途中で何が書きたいのか作者もわからなくなってきたので内容が取っ散らかってます。すみません。
朧名づけエピソードを捏造してます、ご注意ください。


彼女の"師"の話

辺りを見渡せば一面の炎、炎、炎。

自らが指示したことではあるのだが、いささかやり過ぎだったかと嘆息する。煙たくて仕方がない。

しかしこれも任務(しごと)なのだから、終わらせなければ。そう思い、自前の仕込み錫杖を音もなく持ち上げる。

 

今日の任務は何時もと同じ様に、とある一族の殲滅だった。

斬って、刺して、命を奪う、それを繰り返して動くモノを皆殺せばそれで良い。

そして最後に火を付けて全て焼き尽くして仕舞えば、彼らの死も、奈落(我ら)の存在も全て有耶無耶になって消える、それだけだ。

 

それだけの筈だった。

 

耳を澄ます。

錫杖の音、何者かの断末魔、炎が小さく爆ぜる音、それらの聞き馴染んだ音に混ざり、耳慣れぬ奇妙な音が耳に届いた。

何気なく、音のする方へ足を動かす。音を辿る様に、半ば導かれる様にしながら辿り着いたのは地下室への入り口だった。

地下へと降りる階段に近づくと、音はさらに大きくなる。どうやら、この先の様だ。そう判断し階段へと足を踏み出す。

階段を降り切ると広めの空洞が一つあり、そしてその一番奥、そこに“音源”は居た。

岩屋の洞の一部を利用し、木で格子を嵌めて作っただけの粗悪な座敷牢、その奥で一人の子供が泣いている。

感情のままに泣くのではなく、寄る辺なく途方に暮れた様に泣くその子供に、子供らしからぬその姿に、興味を覚えた。

 

「こんなところに童がいるとは」

 

声を掛けると、びくりとその小さな肩が震える。

子供はゆっくりこちらを見上げると目を見開き、体を強張らせた。瞳から明確に読み取れる感情は“怯え”。

殺してしまおうか、と思った。“かつての自分”を見る目に似た色を宿すその瞳は、見ているだけで不快感を掻き立てる。抹殺する者の一覧にこの童は入っていなかったが、死体がひとつ増えたところで何も問題ないだろう。たかが童、しかもこのような場所に閉じ込められている童が一人消えたところで気にする者もいない。

せめて苦しまないように一思いに殺してやろうと思い、錫杖に手を掛けた。

 

微かな違和感。もう一度、子供の瞳を見据える。

子供の目には先程と変わらず怯えの感情が浮かぶ。しかしそれは、目の前の私に向けられたものではない。ぼんやりと虚ろで、でも何処かは捉えている。

まるで目の前の私を透過して、どこか遠くを見るような。もっと言えば“未来の誰か”を見ているようなーー、そこまで考えて自らの思考の突飛さに可笑しくなった。

同時にこの子供が閉じ込められている理由に理解が及ぶ。確かにこの見透かすような瞳は異質だ。人は異質を嫌う。この子も私と同じく“ばけもの”なのだろう、だから排除された。

錫杖に掛けた手を離し、そのまま前に差し出す。

 

「生きたければ、共に来なさい」

 

似た境遇の者を憐れむ気持ちは、特になかった。

明確に言葉にするなら、唯の気まぐれ。ここで殺すには惜しいと漠然と思っただけだ。殺す命は受けていないのだから、拾っても問題ないだろう。

ここで手を取るならそれで良し、取らなければ殺す、それだけだった。

子供は突然なされた提案に目を白黒させて驚くと、少し悩むそぶりを見せる。しかしすぐに決心したような顔をして檻の中から手を伸ばし、私の手を取った。

 

それが彼女ー“幽”とわたしの始まり。

 

我ながら子供を拾う資格がなさすぎる思考回路に自分でも引いてしまうが、あの子はよく着いてきてくれたものだと首を傾げる。いや、着いてきてくれていた、と言うのが最早正しいのか。

 

自分でも引くほどの倫理観しか持ち合わせていなかった当時の私は、彼女を拾ってからもその壊滅的な価値観を遺憾なく発揮していた。

呼ぶときに不便だからと名前こそつけたものの、鍛えるためとはいえ幼い彼女を暗殺組織である奈落に加入させたり、物理的に血反吐を吐くほどの厳しい修行を付けた。人間的な生活に対する知識が圧倒的に不足していたのも相まって、食事は一日一食与えれば良い方、睡眠時間は殆ど与えないといったほぼ虐待とも言える生活を強いたこともある。

言い訳をさせて貰えるなら、自分は食事も睡眠も“あれば良い”程度なので、人間には食事や睡眠が必要であるという事実を当時の私はすっかり忘れていたのだ。500年余りの殺戮の日々はヒトらしい生活を忘れさせるのに十分だった、そう伝えて謝罪したら彼女に「その事実が嘘じゃないのが逆に辛い」と真顔で言われてしまったのを思い出す。

 

拾ってから数年が経つと、彼女は私が教えたことを吸収して目に見えて強くなっていった。

奈落の中でも有数の実力者に数えられるほどとなった彼女の姿を見て、弟子の成長した姿を嬉しく思いつつも、ある筈のない“もし”を夢想することも増えた。

“もし”あのとき私が彼女を拾わなければ、“もし”私が拾った後奈落に引き込まなければ、“もし”私が彼女の師でなかったならば彼女は、彼女はだけは、こんな血濡れた世界ではなく陽の当たる場所に居られたのではないかと。

今でも時々考えるこの問いに、答えは終ぞ見つかっていない。

言っても詮ないことだとは分かっている。過ぎた時間は戻らない。私は彼女を導くには、あまりにも闇に染まり過ぎていた。

私が“人”であれば、あるいは可能だったのだろうか。

 

 

二人目の子供を拾った。

 

任務先に居たその子供は、出会ったときには既に虫の息であった。

子供の体には頭から肩にかけて大きな刀傷が生々しく残されていて、大量の血がそこから溢れている。

間もなく死ぬ子供と、死ぬことも変わることのない自分。子供の吐き捨てた「死神」という言葉が胸に深く刺さった。

誰よりも死の近くに居ながら、誰よりも死の遠くにあるもの。私には死にゆく彼の気持ちは分からない。

それでも、と思った。それでも人を解ろうと、それでも人になろうとすることは出来るのではないかと。そしてこの少年となら何かわかるのではないか、と。漠然と、しかし妙な確信を持ってそう思った。

 

自分の血を注ぐことで死に掛けだった少年を延命する。少年の傷口は血の効果でみるみるうちに塞がっていく。驚きに目を丸くした少年の手を引き奈落へと連れ帰った。

幽には最初、拾うことを反対されてしまったが、必死の説得で納得して貰った。そもそも反対の理由が自分がやることが増えて面倒だからとかではなく、少年の教育に悪いというなんとも優しい理由なのが彼女らしい。

 

拾った少年は名前がないというので、まず最初に名前を贈った。

朧という考えた名前を告げると少年は目を輝かせ、反対に少女はうわぁ、と顔を顰める。

朧という字も幽という字も子供に付ける名前には向いていない、師匠は名付けのセンスないですよねとは彼女の言だ。

とは言え本人がその名前を気に入ったようなのでそのまま採用した。

拾った当初は傷と血の影響の経過観察が終わったら彼には暗殺組織の本部(こんなところ)からすぐにでも出て行って貰おう、と私も幽も考えていたのに、朧は私に何故か恩義を感じているようで、恩を返すまでは出ていきません!と押し切られてしまった。彼の押しが意外と強いことを知った日だった。

 

そしてそれからまた数年、幽と朧の間にあったちょっとした確執も、本人たちの間でどうにか解消して今ではすっかり仲良くなっている。いえ別に仲間外れにされて寂しいとか思ってないですよ、本当に。

弟子二人が戯れてる様子を見ながら、ここ最近考えていることが一つ。

 

“奈落を抜ける”

 

もちろん弟子二人を連れて。

このままここに留まり続けていては、朧をこちらの世界に引き込んでしまう。幽を奈落から引き離せなくなる。

何より私自身、自分の中の死神と戦わなければならないと、そのためにはこうするしかないとそう思ったのだ。

“先生が生徒と一緒に精進する学舎”

少し前に朧と話をしたときに出た言葉。私には人を導くことはできない、しかし共に成長することならできるのかもしれない、そう思った。

そして願わくば、その時隣には弟子二人がいてほしいと。

 

しかし、

私はまた間違えた。気付けなかった。

たった一人の女弟子がひっそりと決意を固め、どこか諦めたような笑みを溢していたことを。

奈落を抜けると伝えたときに見せた、出会った時のように虚ろになった彼女の瞳の意味を。

 

 

今まで行った数々の法度行為の責任を問われ、私は処刑されることとなった。

法度行為の告発をしたのは、幽。

そして私の処刑を執り行うのも彼女に決まった。本人が希望したそうだ。

当の私はというと自身の処刑よりーそもそも自分は死なないのだから今更処刑に何の感情も抱かないのだがー胸を内側から焦がすような正体不明の違和感の方が気がかりだった。

彼女は私が死なない体質なのを知っている。にも関わらず何故私を処刑させようとしている?意味がないと知っていて、何故?

何かがおかしい、何か見落としている、私は重大な過ちを犯しているのではないか、そう思うのに処刑を待つ罪人の身分では満足に弟子を問い詰めることすらできない。

 

「師匠、処刑の時間です。」

 

 

 

後ろ手に縄で縛られ敷かれた茣蓙の上に転がされる。背後には一振りの日本刀を持って立つ女弟子の姿。

処刑の執行を指示する声がどこからか聞こえた。

 

「貴方の遺体は、地球のどこかへ捨て置くこととなってます。」

「故郷の土の感触を存分に味わってください。」

 

感情を感じさせない声色で彼女はそう告げた。

 

「ああ、そうだ貴方の悪巧みとはなんの関係もない朧の、命まで取るのは忍びなかったので、奈落からの追放という形で容赦してもらいました。」

「暗殺術のひとつも覚えていない小姓など、居てもいなくても変わりませんし。」

 

それは不自然なほど平坦で、まるで言葉に出せない感情を腹の奥で飲み込んで押し殺すかのような響きをしていた。

 

「だからーーーーーー、だから安心して死んでください。『虚』」

「『死神』は今日死にます。その罪禍は私が貰い受けましょう。」

 

ここまで聞いてやっと私は彼女の意図を理解した。

彼女がなぜ私を処刑させようとしたのか、その本当の理由。

それは“私と朧だけを確実に奈落から抜けさせる”ため。奈落は脱退者を許さない、どれだけ逃げても隠れても探し出し、処分()を下す。

しかし脱退でさえなければいいのだ。処分を下されて、つまり“死んだことになってさえ”いれば奈落の目は届かない。私の体質を利用して彼女はその抜け道を使おうとしている。“虚”を自分の手で処刑(ころす)ことで死神の役目とその罪禍を全て自分の身で引き受けようと、私と朧が安全に奈落から離れられるようにしようとしている。

慌てて体を反転させて彼女の顔を見て、叫ぶ。しかし何もかもがもう遅かった。

「‼︎待ちなさい幽、貴方ッーーーーー!」

「さよなら師匠。どうかお元気で。」

 

振り下ろされた刃が首を断つ。

最期に見た彼女は美しく微笑んでいた。

 

嗚呼私は、最後まで彼女を正しく導くことが出来なかったのだろう。

私が、最後に彼女の背を押してしまった。

あの日拾った唯の少女(ヒト)は、私と出会ったことでたった今、“死神”(おに)になってしまった。




銀時="小さな鬼がたくさんの人との出会いを重ねて坂田銀時になった"
吉田松陽/虚="無限の時を生きる鬼が朧や松下村塾の塾生たちと出会って吉田松陽(ひと)になった"

オリ主="ただの人だった少女が、一つの出会いによって鬼へと変わった"

対比になってたらいいな(願望)
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