新しい、殺人鬼…?   作:さや

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新しい、殺人鬼…?

HUNTED NIGHTMARE

 

 

 最初にその"不審者"を目撃したのはリージョン(フランク)だった。

 

「ハントレスとデススリンガーを足してそのままみたいな奴が居た」

 

 と転げる様に儀式から戻って来た。

 

 そんな馬鹿な。と殺人鬼(キラー)たちは誰もが思った。

 

 そんな殺意を特盛にした生存者(サバイバー)が居てたまるか。

 いや、確かに最近はサバイバーも、ツインズの片割れを踏みつぶし、キラーをぶっ殺し始めてはいるが……。

 

 エンティティに連れて来られては居るが、彼らは言ってしまえばヤンチャ(では収まらないが)な悪ガキ共だ。若干周りのキラー達と毛色の異なる、ようは"子供"だ。

 そんな彼の言葉だから、なんだそれは、と殆どの者は取り合わなかった。

 

 

 

 

 

 だが他のキラー達も、直ぐにその存在を認めた。ぞくぞくと狩の儀式での目撃情報が上がっている。

 

 確かにフランクの言った通り、ハントレスとデススリンガーを足して、割らないままおっ放した様な奴が居た。

 

 存在した時代が重なるのか、デススリンガーの様にがっちりと着込んだ重そうな黒い服は意匠が似ており、左手には片手で撃てるのか怪しい銃。右手に生命の鏖殺のみを目的にした様な斧を下げてうろついている。

 

 なぁにあれ、新しいサバイバー? いや、まさか。

 

 あまりにも血生臭く、物騒なその人型生命に皆首を傾げるしかない。

 ぱっと見なら間違いなくこっち側だが、ブラック雇用主エンティティ様からは何のお達しもない。

 新しいキラーが増えれば皆それと把握するし、せっせとご飯(BP)を集めて世話を焼いたりもするが、あの"不審者"については誰も何も知らない。

 

 ただふらふらと彷徨って居るだけだ。

 

「上位者出てこいおらぁ! 居るんだろ!? この世界を見てる奴居んだろ!? ぶっ殺す! 上位者狩り殺す!」

 

 たまに斧と銃を掲げて『ジョウイシャ』なる者に怨嗟を吐き散らしながら駆け回るが、それだけで特に害もない。

 不思議とサバイバー側には認識されていないようだ。

 

 邪魔される訳でもないので放置で良いか、とその"不審者"を放置した。

 

 

 

 一人、ハントレスは例の"不審者"と違うモノを見たと言う。

 何時もの通りに鼻歌と共にサバイバーを肉フックへ吊るした所、ふと気配を感じた。そちらを向くと、蒼いイカが居たそうだ。

 

「人形ちゃんじゃない」

 

 フックの足元でうごうごと触腕をうごめかせ、じぃっとハントレスを見上げて居たが、次の瞬間しょんぼりと(彼女が言うにはイカが落ち込んだらしい)項垂れたのだそうだ。

 

 イカが……?

 

 そして何故かフックに吊るされていたサバイバーは、イカの言葉と共に引きつけを起し発狂し、頭が破裂して泡を吹いて死んだそうだ。まだ一回しか吊っていないのに。

 

 いや、イカが喋ったのか……?

 

 意味の分からない目撃例も有ったが、イカは"不審者"とは無関係だろう。

 その一度しか目撃されていない。

 サバイバーに関しては、バグか何かだろう。きっと。そうであってくれ……。

 

 

 

 

 しかしとうとう実害が出た。

 

「……ヤーナム臭がする。もっと言うと、医療教会の上層の学者共くさいぞ……! 居るな!? 更なる高次元の叡智に固執する奴が居るな!?」

 

 そんな雄たけびを発しながら、ブライトが追い回された。

 見た目とは裏腹に、インテリ系学者は『死ぬ』思いで逃走してきてその様を伝えた。

 視認はされて居ないだろうが、件の"不審者"は突然ぴたりと立ち止まり、ガキン! と硬質な音を立てて斧の柄を長くし両腕に構えると、猛然と駆けだしてきたのだ。

 

 キラーを追い立てるサバイバーが居てたまるか。

 

 どうやら『ジョウイシャ』並びに『医療者』にも殺意を抱いているようだが、ナースに(彼女と同列に並べて良いのか首を傾げる)ドクターは被害には遭っていない。

 それどころか、ドクターに至っては、姿さえ見かけていないのだそうだ。

 

 

 

 そして後日、鐘を鳴らすと高確率で殺意に満ちた"不審者"が飛び出して来る様になったレイスは暫く儀式には出て居ない。

 

 

 

 またある時スピリットが"被害"に遭った。

 

 例の"不審者"は普段、サバイバーにもキラーにも関わる事なく凶器を両手にフィールド内をぶつぶつ『ジョウイシャ』を探してうろついている。

 儀式そのものを邪魔をする事も無いからか、エンティティも彼を放置している。

 

 そう思っている時代が彼女にもありました。

 

 だがその日、ばったりと真正面からスピリットは"不審者"とかち合ってしまった。

 そしてまじまじと、(悍ましい傷などを無視すれば)際どいとしか言えない彼女を上から下まで見たかと思うと、ぱっと、一瞬にして"不審者"の衣服が消えた。

 

 一瞬で脱衣した。 

 次の瞬間にはパンツ一丁に、頭にはエクセキューショナーのご親戚の如き煌めく黄金の三角形を被っている。

 そして片腕を天へ掲げ、もう片腕は地に平行に伸ばした……かと思うと、突然叫び声を上げながらすさまじい勢いで膝をがくがくとさせ、屈伸をしだした。

 

 今でこそ恐ろしい見た目のキラーだが、それ以前に彼女は女子大生。

 存在だけでも正義である、やんごとなき女子大生。猫に成ったら飼い主に成って欲しいジョブ一位の女子大生。

 あからさまなまごうことなき変質者に悲鳴を上げ、涙目で逃げかえたって仕方ない。

 

 

 そして屈伸するのなら、あれも実はサバイバーなのでは? という話も持ち上がったが、やはりあんな悍ましいサバイバーは居て欲しくないし、エンティティは一切彼に接触しない。

 

 

 あれ? 幾ら何でも、おかしくないだろうか?

 

 

 

 

 流石にオカシイと思い始めたが、クソ上司様(エンティティ)は何の対策も講じないどころか、相変わらずに休みなしの儀式をご所望だ。

 今夜も儀式h

 

「人類を弄ぶ上位者は居ねがぁーーーー」

 

 とうとうキラーの待機場所に"不審者"が文字通り降って沸いた。

 

 

 そう言えばここ最近、誰もナイトメアが儀式に向かっていないな、という事実を唐突に思い出した。

 


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