新しい、殺人鬼…? 作:さや
何が起こったのかはさっぱり分からなかった。
脳が理解した順番に言えば、盛大にどつかれた様な背後から前へ突き抜ける勢いの衝撃。一拍置いてから、その衝撃に見合った強烈な痛みが脊椎を軋ませた。
目前、というか足元には今しがた設置したばかりのトラバミがある。うっかり自分で掛かる様なアホな事態にはならないために、必死に踏みとどまる。
これだけの鈍痛を与えるには何か得物が握っている筈だ、激痛を飲み下しつつも振り返るトラッパーの目に、例の新顔らしきサバイバー。
例の黒フードに、包帯を巻いた男がガッツリ腰を落とし追撃の手刀をぶち込む構えをしている。
「……狩人かお前!?」
向かい合って、フードの下に隠れた、グレーの淀み切った目に見覚えがあった。
そもそもさっきの衝撃は手刀だったのかと面食らう。
面食らうが、こちとらキラーだ。最近殺意が上がってきているサバイバーにも、メゲない、ショゲない、生かしてはおかないと今日も頑張っている。
こんなに近くに居るのだから当然切り付けるが、どう考えても物理法則を無視した動きでするりと避ける。
避けて、当然のようにまた右手の手刀を構えてる。
「まてまてまて」
「何だ」
にこっりした不気味な仮面の下で、盛大に顔歪めながら狩人を制止する。
意外な事に、素直に狩人はぶん殴る為に落としていた腰を上げる。普通に手刀をぶち込んだ右手が痛いのか、左手で押さえている。
「キラーに向かってくんな! サバイバーなら逃げろ!」
「何故」
さも不思議そうに首を傾げる。
そりゃもうたくさんの後輩にBP集めて来た古参キラーは頭を抱える。こっち側に居られてもイヤだが、エンティティを通さない、ルールにも従わない、凶器を持った殺人鬼に素手で殴り掛かるようなサバイバーもごめんだ。
というか、こいつ、絶対見かけたからでなく、わざわざ探して殴り掛かって来やがったな。
最近キラーの待機場所はお通夜の様な状態が続いている。
理由は明白。再び儀式に現れる様になった、狩人のせいだ。
前までは4人のサバイバーと、ぼんやりとうろつく異物の狩人という図式だったが、最近件の狩人はちゃっかり生存者の枠に入り込み、キラーを襲ってくるようになった。
そう、襲って来るのだ。
凶器を持ってなければいいだろ、とばかりに手刀でぶん殴って来るのだ。しかもその手刀が凶悪なのだ。肉の繊維を容赦なく叩き潰し、破壊し、骨を砕いて血管を断裂させる。最早素手とはなんだという勢い。
最初にぶん殴られたトラッパーが、「サバイバーは殴るな」「発電機回せ」「向かって来るな」「こっちくんな!」「おい、くそっ殴るな!」「脱出を目指せ!」「ゲート開いただろ!? お前も早く出てけ!」「血の遺志が美味しかった……? 血……BPかっさらってたのお前か!?」「アッーーーー!」と散々な目に遭った。
何故か酷く狩人を忌避しているエンティティは、本当に一切の介入を拒み、その癖全逃げされて勝手に不機嫌になっている。クソである。
それでも逃れる術はないので、ご要望通りに何とかキチガイ染みた狩人にも儀式を遂行させようとするが、ちっとも言う事ききやしない。
ただ幸いな事は、毎回居る訳でなく、運が悪いと生存者に紛れているという程度な出現率だろうか。そして倒された板や窓枠を越えられず、発電機を直せないという事だろう。
当人が言うには「ニッポンのニンジャと違う、一般人だぞ。ふざけるな殺すぞ」
……諦めて殺人鬼側だと認めた方が良いのではないのだろうか。
狩人が出現すると、著しく狩りを妨害される。おかしな話だ。狩る側を名乗る奴のせいで、キラーは大迷惑を被っている。
では生存者は楽して居るか、と言えばそうでもない。
狩人は脱出に不可欠な発電機の修理は出来ず、サバイバーは最初から一人欠けた状態で始まる。ただ心音を探り、全力でキラーからBP奪おうと餓えた獣の如く殴り掛かって来るのだ。
お前の様な生存者が居るか。
そして不思議な事に、一人欠けた状態で逃げ惑うサバイバーは狩人の存在に違和感を抱かない。というか、存在を認識できていない。3人しか居らず、キラーが狩人と取っ組み合い血肉ぶちまけ、一切関与して来ない事も不信に思わない。
いよいよ気味が悪い。
これはどう考えても人間のキラーではない。
いや、形は人間だが……何というか、ナイトメアに近い存在な気がする。
何故かブライトに関しては殺意が増しているし、彼と同じように(運よく謎の摂理の働くステップで動き回る狩人に傷を負わせられれば)儀式中に自身の大腿部に豪快に注射器ぶっ刺している。
実は同郷なのだろうか?
なんとかあの厄介な存在の処遇を、キラー達だけで決めなければならいのだ。取り敢えず、解決の糸口を掴むためにナイトメアに話を聞いてみよう。
返事がない。ただの儚い夢のようだ。
狩人の存在のせいで、思う様にサバイバーを吊っていけず、キラー達が苛立ちを募らせる今日この頃。
いつだったかの様に、亜空間に不自然にハッチが出現した。そして再び『やぁ』とばかりに、サバイバー仕様の心算なのか、黒フードにシャツの袖を捲り汚っねぇ包帯を巻いた狩人がひょっこり生えて来た。
「へい! 介錯一丁!」
前回内臓を盛大に豪快にぶちまけられたクラウンが、思わぬ俊敏さでハッチの扉を叩きつけた。あれ? お前解毒剤使った? という位には素早かった。
皆遠巻きに、各々凶器を構えつつ(敵意はないと示す為なのかは謎だが)片腕を空へ、もう片腕を地へ平行にした以前にも見た奇妙なポーズでを取る狩人を囲んだ(ゴーストフェイスとブライトは逃げた)。
対話を求めているのか何なのか分からないが、時々左右をスイッチするのを止めろ。何だか気色悪い。
おかしな話だ。これだけの無慈悲な殺人鬼に囲まれ対話を求めるなんて。
「何の用かね?」
実はこれが初めて狩人を見たドクターが、興味深そうに尋ねる。
「アッ、俺こう見えて赤ちゃんなんで雷光刺さるんでちょっと距離取って貰っていいですか今は死にたいんじゃなくて介錯で目覚めたい感じなんでちょっと人形ちゃん不足で発狂しそうなんで一回死んでここ戻ってくるの地味に遠いんであのあの」
キラー達に僥倖! どうやらこの傍迷惑キチガイ狩人はドクターが苦手で避けていたらしい! やった打開策だ!
残念なお知らせです。
狩人特攻が有るかに見えたドクターだったが、本当に『こうかはばつぐんだ!』というだけで、消滅はさせられない事が判明した。
どうやら死んでも五体満足で戻ってくる点は、サバイバーのようだ……。
しかしサバイバーにしては攻撃的で、暴力的で、血生臭い。身体が闘争を求めているのかこいつ。
エンティティに丸投げされた以上、対話をするしか無いようだ。一部から死ぬまで殺し続けろとの意見も出たが。
因みに以前も一時行方不明になっていたナイトメアの所在を聞いた。
「ナイトメアをハンテッドするのはライフワーク的な物だから仕方ない」
と、意味の分からない事を言われた。彼に何の恨みがあるのだろうか?
殺人鬼なので、恨みはしこたま背負っていそうだが。