オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!   作:定道

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偶然一致!? 蠢くシークレットプラン!!

 

 

 転校初日の放課後の生徒会室で、僕は実は腹黒だった白神ちゃん、家具へとジョブチェンジした天王トウカの二人と対峙していた。

 そう、彼女達と机を挟んで向かい合っている。ひとりは随分と低い位置にいるけどね。

 

 しかし、開幕早々どデカい一撃を貰ってしまった。正直ちょっとチビリそうなぐらい気圧されている。一連の流れが優位に立つための精神攻撃のつもりなら大成功だ。

 白神ちゃんは色々と話をすると言っていたが、一体どういうつもりなんだ? 何を要求してくる? やはり凍咲に近づくなって事かな、困ったもんだね。

 

 ともかく、話し合いするにしても不利な状況だ。この異様な雰囲気に飲まれないよう気を強く持たなくては……

 

「さて、まずはごめんなさいかな? 鈴木さんとツララさん達が迷惑をかけたみたいだからね。彼女達は私の為を思ってああいう行動をしたんだと思うの、許してあげてほしいな?」

 

 くっ、めちゃくちゃいい笑顔だ。絶対に白神ちゃんが彼女達をけしかけたな? いけしゃあしゃあと恐ろしい子だ。

 

「でも、過剰な反応には理由があるの。実は最近、クリスタルハーシェルをコソコソと嗅ぎ回る輩がいるんだ。結局正体はわからなくて……なかなか尻尾を掴ませないからみんなピリピリしてるの。気配はするのに姿の見えない監視者、まるで幽霊みたいだよね? 田中さんはなにか知らない?」

 

 へ、へえ? 怪奇現象かな? 怖いねえ?

 

「さ、さあ? 残念だけど幽霊に知り合いは居ないから分からないわね。でも、そういう事情があるなら仕方ないわ、彼女達には気にしていないと伝えて」

 

 ストーキングがバレていたのか? マジかよ、かなり念入りに気配を消したぞ?

 

「そっか! それじゃあ田中さん、もしも幽霊さんに会ったら伝えといてね、私達もこれ以上続けないなら気にしないって」

 

「そ、そうね、もしも出会ったら伝えておくから……」

 

 言外の圧が、圧が怖い。

 

「ありがとう田中さん、それじゃあ互いの誤解が解けた所で本題に入ろっか?」

 

 誤解……誤解かな?

 

「ええ、そうしましょう」

 

 僕がチー厶……というか凍咲君を嗅ぎ回っていた事を知った上で何を話すつもりだ? 

 ご丁寧にこれ以上しないなら許すとまで言って、僕になにかを要求するつもりか? 意図がわからん。

 

「そうだなあ……まず、私達の事から話そうか。もう知っているだろうけど、私達はクリスタルハーシェルって言う名前のチームだよ。トップランナーであり、舞車町で天王家当主の代理人を任された天王トウカ様がリーダーを務めているの。そして、この町を色々な悪い人から守ってるんだ。町のランナー達の取り纏めもしているね」

 

 うん、そのリーダーを君は椅子にしているよね?

 

「そして私もクリスタルハーシェルの一員、正式なウラヌスガーディアンズのメンバーだよ。もちろんトウヤ君とヒムロ君もね、さっき会ったと思うけど、ツララさん達四人とレイキ君もメンバー、全員で9人のチームなんだ」

 

 うん、知ってます。調べました。ストーキングの成果です。

 

 この町のランナーチームは大体君達の部下みたいなもんだね。町の大人ですら天王トウカの言葉は無視できないと言うか……実質支配している。

 とは言っても、別に恐怖による支配って感じじゃない、天王トウカは舞車町においてはかなり慕われている様だ。もちろん面白く思っていない奴らも一定数はいるみたいだけどね。

 

 恐るべし天王家、恐るべし天王トウカ……って思ってたんだけどね。

 椅子……椅子だもんなあ……恐ろしさのベクトルが斜め上に向かってしまった。

 

「だからさ、舞車町に新しい人が来たり、ちょっと変わった人が居たら話を聞きたいんだよね。田中さんはさ、私達に興味があるんでしょう? 特にトウヤ君に興味があるんだよね?」

 

 これは……素直に話すか? そこは嘘付いてもしゃーないもんな。

 

「そうね、凍咲君には可能性を感じる。否定はしない」

 

「やっぱり! 田中さんはよく分かってるね! トウヤ君の才能がちゃーんと分かってる! 本家の大人達は見る目がないから本当に嫌になっちゃうの! そうだよねトウカ様?」

 

 えっ、喜びすぎじゃない? トウヤ君に近寄る僕が目障りとかそういう話じゃないのか?

 

「まあな、お父様もそうだが、基本的には大人になるとソウルの深い部分が感じ取れなくなるみたいだな。ただ、感覚が研ぎ澄まされ過ぎるのにも弊害がある。それを考慮すれば一概に劣化したとは言えないかもしれん、或いはそれは成長の証とも――ひゃん!?」

 

 おい!? いきなり椅子の尻を叩くなよ! 真面目に話をしてただろ!?

 

「そんなの劣化に決まってるよね? だって、私はソウルが深く読み取れるようになってから格段に力を増したし、色々役にも立っている。トウカ様だって恩恵を受けてるでしょう?」

 

 ソウルが深く読み取れる? 僕にソウルギアの声が聞こえて、相手の潜在ソウルを感じられる様になったのと同じか? ソウルを鍛える内にソウルに対しての感覚が鋭敏になっていくのは僕もよく分かる。

 

 ん? 椅子が僕を見ている……下からの目線が凄いシュールだ。

 

「そうだな……確かに劣化だな。田中マモコ、ヒカリは白神家として癒やしの力を修業している。そして、どこを癒せばいいのか、どこを癒して欲しいのかを模索する内に、相手の望みが相対するだけで読み取れる様になった。ヒカリ相手に虚言は通用しない、だから君の目的を正直に――ひん!?」

 

 えっ、相手の望みが読み取れる? 心が読めるのか!? ヤバい!! ヤバすぎるぞ!? 僕の計画がおじゃんになる!

 

「もう、トウカ様ったら勝手にお喋りして……ふふ、安心して田中さん? 望みが分かるって言っても、具体的な考えが読み取れるわけじゃないよ? ああしたいなぁ……とか、こうされたいなぁ……とか、こうなりたいなぁ……とか漠然としたイメージがソウルを通じて伝わるだけ、だからこうやってトウカ様が叩いて欲しい所がわかるの」

 

 そう言ってペシンと左手で椅子を鳴らす白神ちゃん、椅子は嬉しそうにアハンと鳴いている。

 

 恐ろしい子だ。漠然とは言っても考えを読み取られるってのは恐ろし過ぎる。下手な嘘が通用しないって事だよな?

 

 まあ、僕は清廉潔白な正直者だから大丈夫……だよね? 要は僕の望みの部分を偽らなければいいんだろう?

 

「田中さんの望みは読み取りにくいね、ソウルが眩しくって変な感じ。だから教室で普通にお喋りするだけじゃ確信が持てなかったけど……ランナーバトルをしている所を見て確信した。田中さんにトウヤ君を害するつもりは無いってね」

 

 やっぱり屋上の様子見てたのか……怖い。

 まあでも、そのおかげで白神ちゃんは僕に悪意がないって分かってくれたようだ。

 そうそう、僕はただ凍咲君を誑かして強くして、役に立ってもらいたいだけで害するつもりはない、悪意0%だ。

 

「それに田中さんはムーンシリーズのソウルギアを使っていたよね!? しかもソウルランナーだけではなくソウルスピナーを同時に使用していた! ここまで材料が揃えば田中さんの正体と目的は導き出される!」

 

 そ、それだけで分かるのか? 僕が本当は男の子で不老不死を望んでいる事がマルっとお見通しなのか?

 

「ズバリ! 田中さんは月の加護を持つ月読家の人間! かつてソウルギアの原型を創り上げた一族! 選ばれし者にソウルの秘奥を授ける伝導者達! プラネット社を創設した十星族でありながら表舞台に姿を表さない影に生きる者達! そんなアナタがトウヤ君を選んだ! 可能性を見出した! それは世界に潜む闇に対抗する為の戦士としてトウヤ君を鍛え上げるため! そうでしょう!?」

 

「ふえっ!? そうなの!?」

 

 月読家の役目ってそういう物なの!? 初耳だよ!

 

 父さんにそれとなく聞いても教えてくれないし、母さんに聞くと修業を再開しましょうとか言いそうだからずっと知る事が出来なかった。

 

 確かに僕が生まれた家……月読家はめちゃめちゃ古風で大きいお屋敷だ。名前的にもなんか秘密のある家だとは思っていた。

 何せソウルギアが中心にあるこの世界、そのソウルギアのコアの製造を独占するプラネット社を束ねるのは惑星を冠する一族だ。

 そりゃあ衛星だけど月にも意味はあるよね。役目とか修業とか言い出す母親なんて普通はいない、何もない方がおかしい。

 

 でも、白神ちゃんが言っていた通りに月読家はネット等で調べても情報が出てこない。

 他の一族の様に世間一般に認知されている家ではなさそうだ。影に生きるって……忍者? ニンニン? ミカゲちゃんとキャラ被っちゃう?

 

 その点、他の惑星の一族は調べれば普通に公開されている情報が手に入る。なんならニュースでも名前をよく耳にする。

 なにせプラネット社のお偉いさん達だからね。政治家にも結構居る。あれも惑星の一族だろう、政界にまでガッツリ食い込んでやがる。

 

「もう、惚けちゃって……あれ、本当に困惑してるの? どういう事かな?」

 

 いや、どういう事って言われてもなあ? トウヤ君を見出したのは間違ってないけど、役目とかそういう意図はないぞ? 100%僕の都合だ。

 

「ヒカリ、お母様に聞いたことがある。月読家では子供達を育てる時にあえてソウルを鍛える意味や一族の目的を教えないと――はぁん!? ふ、複数のソウルギアを使いこなす為の育成方法で、明確な目的を他者が与えてしまうとソウルの可能性が阻害されるからだとか――きゃん!? ほ、本人のソウル傾向を5大要素全てに対して完璧に適合させる為らしいぞ?」

 

「ま、マジで!?」

 

 父さん達は勿体ぶってる訳じゃなかったのか!? 

 

 僕がソウルギアを4種類使いこなせるのは僕が天才だからだと思っていたのに……英才教育のおかげなのか?

 

「ああ、マジだ。お母様に聞いた話では少し昔に火星家の当主がその育成方法を娘に実践したらしく――ひゃん!? つ、つまり他の惑星の一族が実際に試す程には根拠と信憑性のある育成方法と言うことだ――あぁん!? そ、その火星家の娘の育成は失敗に終わったそうだがな」

 

 失敗? 穏やかじゃないですね。

 

「天王さん? 失敗とは具体的にはどういう事なの?」

 

「ああ、その娘はどのソウルギアの扱いも中途半端になってしまい、とても惑星一族のソウルギア使いとして認められるレベルの腕前にはならなかったそうで――きゃん!? そ、そして結局は火星を名乗る事を許されなくなり本家から遠くにやられ、確か今は普通に教師として暮らしていると聞いた――んんっ!?」

 

 ああ、なんだ。失敗って言うから嫌な想像しちゃったよ。廃人になったとか取り返しのつかないレベルかと思った。ソウルギアの扱いがヘナチョコになるだけか。

 

 ソウルギアは一種類に絞らないと大成しないってのが世間一般の常識だ。

 あー、僕自身は……どうなのかな? 今の所は上手く使いこなしてるけど、成長すればみんなに着いていけなくなるかもしれない。

 成長と共にソウルのバランスが崩れて選手として弱くなるってのは割と聞く、ジュニア部門では強かったけど、プロでは成長できなくてすぐに落ちぶれるのは珍しくはない。その逆のケースも少数だが存在するらしい。

 

 要はソウルの成長を思うがままにする事はとても難しいと言う事だ。

 自身の精神状態と密接に関わるソウルという不思議パワーは、強い想いに応えてくれるが、ネガティブな想いにだって影響を受ける。

 僕も給食でトマトやニンジンが出て来た日にはソウルの調子が悪くなる。テンション下がると技のキレが落ちるよね。

 

 そんなソウルを操る術、複数のソウルギアを使いこなして、ソウルメイクアップという技まで身につけた僕、田中になる前の名字は月読だ。母方の姓ってやつだね。

 

 恐らく白神ちゃんの言っていた事は真実なのだろう、天王家に近しい彼女が世間一般に流れていない月読家という存在を知り、その役目を知ってるというのはそこまでおかしくはない。

 

 そう、どちらかと言えばおかしいのは僕だ。月読家に生まれていながら役目についてあまりにも無知だ。

 

 惑星の一族が、ソウルを悪用する輩から人々を守ると言う役目を担っている事も、ユキテル君達に教えて貰うまで知らなかった。プラネット社のお偉いさんで金持ちな一族程度の認識だった。

 

 僕にあえて何も知らせないでソウルについて学ばせる。それは恐らく父さんと母さんは狙ってそうしたのだろう。

 そして、その教育方針は実際に有効だったのだ。僕のソウルギアに関する天才っぷりが皮肉にもそれを証明している。

 

 一年ごとに引っ越させて、僕に新しいソウルギアを与える。そして引越し先の町では必ず悪の組織が活動している。

 ほぼ間違い無く父さんは意図的にそれを行っている。悪の組織が活動している町にわざと引っ越して、僕にソウルバトルの実戦経験を積める様に促している。

 

 薄々感づいてはいたが……白神ちゃんの話を聞いて確信した。

 

 僕はやはり月読家の修業をさせられている。一族の役目を果たせる様に育てられている。

 いや、自主的に修業するように誘導されたというのが正しいか?

 

 察してはいたけど、やっぱりそうだったのか……僕は……僕は……そんな事にショックを受けたりはしない! 

 

 フヒッ! むしろ今となっては好都合だ! 月のソウルの存在を知った僕にはむしろありがたいね!

 

 何せ上手く行けば不老不死は僕の物だ! 悪の組織の計画を上手く乗っ取って月のソウルをこの手に収める! その機会を与えてくれたと思えば感謝しかない!

 

 グフフ、月のソウルさえ手に入れれば、不老不死さえ実現すれば、お役目などポイよ……絶対にそんなキツそうで重要そうな役割を担ってやるものか、ソウルの秘奥を伝授だとか戦士を鍛えるとかは勝手にやっててくれ。

 

 そんなもんはやる気のある奴にやらせておけばいい。なんか僕とマモリの他にも、会った事の無い従兄妹達が居るみたいだしね? 僕じゃなくても……まあ、ええやろ?

 

 だってぇ私は田中マモコだし? 月読じゃないし? お役目なんて直接聞いてないし? 世界に潜む闇ってナニそれ? マモコこわ~い♡ 暴力はんたーい♡

 

「へえーそうなんだ。凄い難しそうな育成方法だね。田中さんは本当に役目を知らさせていないんだ。じゃあ、ご両親に何を教わったの? どうして田中さんはトウヤ君に目を付けたの?」

 

 何をだって? そりゃあ、お前さん……

 

「お父様からはソウルギアで友達を作れって言われたわね。私は小さい頃はずっと家に閉じ込められていたの。初めて小学校に通う前に、友達と一緒に遊ぶのはとても楽しい事で、寂しさや不安を忘れさせてくれるって教わった。ソウルギアで一緒に遊ぶのが友達を作る一番の方法だって教えてくれた。私はその言葉を信じてこれまでソウルギアでみんなと遊び、この町では凍咲君を見つけた。だから、彼と一緒にランナーバトルをするのはとても楽しそうって思えたの」

 

 絶対楽しいぞ♡ 僕の代わりにラスボスを倒してくれる主人公を育成するなんて楽しいに決まっている。こんなに楽しいホビーバトル兼育てゲーは世界中を探しても中々ないやろ? 

 

 クリア特典は月のソウルだしね? 難易度高そうだけど……グヘヘ、楽しみだなぁ、待ちきれんなぁ、恋しいよぉ、切ないよぉ……フヒッ!

 

「なるほど、ソウルバトルを友と楽しむ心、それが一番大事と言う事か。確かに役目ばかりに心を囚われていては忘れてしまいそうだ。自由にソウルバトルを楽しませる……いい教え――ひん!?」

 

 おい、人がいい感じの事言ってんのに叩くな、そして鳴くな。

 

「なるほど! つまり田中さんはトウヤ君と一緒にランナーバトルを楽しみたいんだ! 分かるよ! 田中さんが心の底からそれを望んでいるのが分かる! あとこれは……なんだろう? えっと……安らぎと……永遠? そっか! つまり田中さんは楽しい時間がずっと続けばいいって望んでいるんだね!」

 

 ま、間違ってないかな? 実際にソウルバトルは楽しいと思う、手に汗握る拮抗した実力同士のソウルバトルを制するのは中々どうして快感だ。

 格下相手に圧勝するのはもっと好きだ。自分が身に付けた力で相手を思うがままにあしらうのめちゃくちゃ気持ち良い、勝利後には偉そうに出来て二度美味しい。

 

 それに、僕の一番の望みである不老不死は確かに永遠とも言える。白神ちゃんが相手の望みが分かるってのは嘘じゃねえな、ちょっとガバいみたいだけどね。

 

「ええ、その通りよ。私なら可能性を映し出す力で凍咲君の才能を導く事が出来る。そして強くなった彼には伸び伸びとランナーバトルをして欲しい、それはきっと楽しい事よ?」

 

 フフッ、僕はソウルメイクアップを自分だけではなく、他者にも施せる。これはかなりの高等技術らしく、早々に会得した僕に父さんは大層驚いていた。

 

 別に凍咲君を女の子にしようって訳じゃあない、そんな特殊な趣味は僕には無い。

 

 ソウルメイクアップとは可能性を映し出す技術、つまり本人に資質さえあれば、それを僕が引き出してやる事が可能だ。潜在能力を解放してあげられるって寸法だよ、ナメック星の最長老みたいにね。

 

 もちろん無制限に自由自在って訳じゃ無い、自分の可能性を探すのとは違って、他者の可能性を映し出すのは非常に時間が掛かる。方法自体はそう難しくなく、僕が相手の身体のどこかに触れてソウルを探るだけだ。

 

 ユピテル君にソウルメイクアップを毎晩試した所、彼はソウルストリンガーだけではなくソウルランナーも操れる様になった。   

 流石にストリンガー程巧みではないが、ユピテル君はそれなりにできるランナーともなったのだ。僕のソウルメイクアップの力でね。

 

 つまり、これから僕は、凍咲君に執拗にボディタッチを重ねて彼を目覚めさせてあげるのだ。

 

 グヘヘ、兄ちゃんええケツしとるのぉ? ここがええんか? てな感じで毎日セクハラをしまくれば、凍咲君は絶対に強くなる。

 あの抑え込まれているソウルを僕が呼び覚ましてあげよう。僕のソウルメイクアップにかかればチョチョイのチョイやで?

 

「……あれ、なんか良くないなぁ? 何を考えてるの田中さん?」

「ひぇっ!?」

 

 ち、近い!? 白神ちゃんの顔が近い!? 瞳孔が開いてて怖い!? 白神ちゃん目が怖いよ!?

 

「つ、強くなった凍咲君とソウルバトルするのを想像してたのよ? 決して邪な感情は――」

 

「へえ? 本当? 本当にそうかな……」

 

 この殺気は今朝の!? ま、不味い!? 殺られる!? 

 

「そ、それに私はこう思うの! 凍咲君と白神さんはとてもお似合いだなって! 幼馴染み同士って素敵よね! やっぱり幼馴染み同士が最高よ! 今すぐに結ばれるべきだわ!」

 

「えっ? え、えぇ……そんな、恥ずかしいよ田中さん……」

 

 椅子の上でモジモジしだす白神ちゃん……行ける! 行けるぞ!? 畳みかけるんだ!

 

「私は常々思っているの、やっぱり何時の時代も最高なのは幼馴染みだってね。謎の少女とか、転校生とか、気になる敵の女幹部とか、ぽっと出の女なんて所詮噛ませ犬よ、幼い頃から育まれてきた二人の愛の絆の前には鼻くそ同然ね。男の子はやはり幼馴染みの女の子と結ばれるべき、私のソウルがそう囁いている」

 

「え、えへへ……そうかな? やっぱりそう思っちゃうかな? 恥ずかしいなぁ……へへ」

 

 よし! 効いてるぞ! こいつは思ったよりチョロいぜ!

 

「ああ、本当に凍咲君は幸せ者ね。こんなに可愛くて一途で献身的で癒やしの力まで兼ね備えているパーフェクトな幼馴染みが居るなんて……それで? 式はいつ挙げるの?」

 

「やっぱり田中さんは信頼出来る子だね! きっと月読家の力でトウヤ君を強くしてくれる! 私は田中さんを認めます! トウヤ君をどうかよろしくお願いします!」

 

 はぁ……助かった。白神ちゃんが思ったよりちょろい子で良かったよ。クネクネと身体を揺らして妄想の世界へとトリップしている。くけけ、所詮は小娘よのう? 

 

「そうか、ヒカリがそう判断したのなら私からもお願いする。どうかトウヤを導いてやってくれ」

 

 お、下からも育成許可の声が聞こえてくるぞ?

 

「私はあの子が……トウヤが周囲とのギャップで悩んでいるのが分かっていながらなにも出来なかった。周囲の目を気にして、この町のランナーを統べる者として贔屓しては逆にあの子に辛い思いをさせると……いや、違うな、私はあの子にこれ以上嫌われるのが怖くて歩み寄れなかった。それだけだな……フッ、我ながら臆病な事だ」

 

「天王さん、貴女は……」

 

 ちゃんとトウヤ君の事を気にしていたんだね? 仲間思いの人で良かったよ。

 いきなり椅子へとトランスフォームした時は正気を疑ったが……思ったよりまともな人だった。ちょっと特殊な趣味があるだけだね。

 

「私はチームのみんなを、ウラヌスガーディアンズ達を家族の様に思っている。だが、今のチームは表面上は取り繕っているが、皆が大事な所を見て見ぬ振りして徐々に歪になってしまった。私を含めてだ」

 

 えっと、歪って椅子の事じゃないよね?

 

「そんな私達クリスタルハーシェルの前にお前が現れた。田中マモコ、君は先程ツララ達のソウルギアをレイキから守ってくれたな? 私はソウルギアを愛する者に悪人は居ないと信じている。そんな君なら信じられる。私達のチームに新しいなにかをもたらしてくれると……だから力を貸して欲しい、礼として私に出来る事ならなんでもしよう」

 

 ん? 今なんでもするって言ったよね?

 

「ええ、私は貴女達に力を貸す、約束する。その、それでね? 代わりって訳じゃないのだけれど、欲しい物があってね? それを手に入れるのに力を貸してほしいなぁ……なんて思ったりするんだけれども……」

 

「欲しい物? それはなんだ? できる限りは力を貸そう」

 

 よし! いい感じだ!

 

「その、天王さん達はEE団と敵対しているでしょう? それでね、奴等が狙っている月のソウルって奴があってね? その、平和的な利用方法の為にソレが欲しいと思っているの、とっても平和的な使い方よ? 全然私利私欲とかじゃなくてね? 物凄く世界の為になる使い方でね? だから、もしも機会があれば譲ってほしいなぁーなんて思っちゃったりしちゃったり……」

 

 僕みたいな善良な人間が不老不死になるのは世界の為だからね、嘘は言ってないよ? 本当だよ?

 

「月のソウル? ああ、例の奴か、月読家の君がアレを求めるのは道理か……分かった。本来ならアレを手に入れたら本家に渡す様に言われているが、私の出来る範囲内で君の手に渡る様に努力しよう、この町でなら本家には秘密裏に君に譲渡出来ると思う」

 

「ほ、本当に!? ありがとう天王さん! 契約成立ね!」

 

 やったぜ!! 一時はどうなるかと思ったが話し合いは大成功だ! 僕の計画の成功は確実となったぜ! クハハ!

 

「だが、田中マモコ、一つだけ聞いてもいいか?」

 

「ぐへっ!? な、何かしら天王さん?」

 

 何だ!? やはり天王トウカは一筋縄では行かないのか!? 椅子だと思って油断してしまった! 上げて落とすつもりか!?

 

「君の田中マモコと言う名前についてだ。その、本名ではないのだろう?」

 

 うっ、鋭……くないか? 僕が月読家の人間って知ってるなら当然そう思うよな? 田中は別に偽名じゃないけどさ。

 

「いや、何も真名を暴きたい訳じゃ無い。偽名を使うのには理由はあるのだろうしな。嫌なら答えなくてもいいが、一つだけその名について教えて欲しい事がある」

 

 何だ? ネーミングセンスについて物申したいのか?

 

「何かしら、私が答えられる範囲でなら質問には応じるけど?」

 

「ありがとう、聞きたいのは、その田中マモコと言う名を君が考えたのかどうかだ。それともそう名乗る様に言われたのか?」

 

 ん、何じゃそりゃ? どういう意図の質問だよ?

 

「それは……田中マモコはお父様にそう名乗る様に言われたのよ。それがどうかしたの?」

 

「そうか、やはりその名は月読家の関係者が騙る名と言う事か」

 

「えっと、どういう意味かしら?」

 

 なんだ? 同じ名前の人物が存在する? いや、田中マモコは流石に居ねえだろ?

 

「すまない、実は最近惑星の一族の間で密かに噂になっている話があってな、君は冥王家を知っているか?」

 

 冥王家? ああ、確かかなりの前に十星族から追放された一族だよな? プラネット社を追放された後に独自のソウルギア用のパーツを扱うハーデス社を立ち上げたとか言う奴だ。ソウルギア使いには常識レベルの知識だ。

 

 ハーデス社のパーツは尖った性能してて、玄人好みの品が多い。しかも攻撃力を重視した造りが多いから、速度と防御力重視の僕には合わない。

 でも、カイテンスピナーズのみんなは割と好んで使ってたな……アイツ等火力厨だからね。

 

「ええ、名前ぐらいは知っているわ。プラネット社を追放されてハーデス社を立ち上げた一族でしょう?」

 

「ああ、そこまで知っているなら話は早い。冥王家は、自分を追放した他の十星族を、つまりプラネット社をかなり恨んでいる。復讐を一族の悲願と言う程にその根は深い」

 

 へえ、そうなんだ? まあ、気持ちは分からなくも無い。僕も一度受けた屈辱は忘れないタイプだ。

 

「現在プラネット社が独占しているソウルコアの製造、冥王家はそれを我が物にしようと企んでいる。一部界隈では冥王計画と呼ばれるその計画が最近活発になっている。そして、この舞車町にも奴等のスパイが潜り込んだ形跡を見つけた」

 

「あら、そうなの?」

 

 それで、その話が僕に何の関係があるのかな?

 

「今現在、ジュニア部門のソウルシューターとソウルスピナーでAランクの頂点に立つ2つのチーム。彼等はどうやら冥王計画に加担しているようなんだ。しかも、水星と金星の一族から離反した者達もそれぞれのチームに在席している。由々しき事態だ」

 

「そ、そうなの?」

 

 いや、その2チームってまさか……

 

「ああ、ミタマシューターズとカイテンスピナーズ。この2つはここ数年で結成されたチームで歴史は浅いが、異常な程の躍進と成長を遂げた恐るべきチームだ。プロの指導や大人の支援、十星族の後押しも無しでそれを成せるのは尋常な事では無い。だが、その2つの躍進の陰には、ある同一人物が関わっている事が分かった」

 

「き、興味深い話ね?」

 

「その人物の名は、田中マモル。去年には木星の一族の木星ユキテルを唆し、ヨリイトストリンガーズというチームを立ち上げている。そしてヨリイトストリンガーズは恐ろしい程のスピードでAランクに駆け上がっており、恐らく今年中には彼等はストリンガー達の頂点に立つだろう、それ程までに勢いがある」

 

「た、田中マモル……ねえ?」

 

 へ、へぇ? そんな奴がいるのかー? どんなイケメンで天才な小学生なんだろうなー? 恐らく利発で聡明な子なんだろうなあ?

 

「私は田中マモルが月読家の人間だと睨んでいる。3つのチームが急激な成長を遂げたのは、田中マモルがソウルの秘奥を彼らに伝授したからに違いない。そして、君と名前がソックリだろう? 恐らく月読家の人間が騙らせる意味のある名前なんだと思ってな、そこが気になったんだ」

 

 あれ? お前が田中マモルだ!! とか、そういう話じゃないのか?

 

「ああ、そういう事ね? そうそう、多分そんな感じよ? いや、私は田中マモル君なんてイケメンは知らないけどね? あくまで推測よ? きっと、私の知らない親戚の子ね、間違いない、確定的に明らかよ」

 

「ふむ、月読家は若い世代同士を交流させないのか? 秘密主義は身内にまで徹底されているのか……」

 

 セーフ! なんかいい感じに勘違いしているぞ!? 

 

 はあ、今は女の子でよかった♡ これで天王トウカに反対されずに済む、凍咲君育成計画はおじゃんにならない。

 

 しかし、冥王計画ねえ? 意味が分からんな……僕が引っ越した後に、チームのみんなはそんな自作自演っぽい計画に加担したのか?

 

 電話とかメッセージでそこそこ連絡取り合っているけど……そんな事は一度も話題に上がらなかったぞ? 

 Aランクの頂点に立ったのはニュースでも確認したし、本人達から報告もあったから知っている。

 でも、そんな怪しげな計画を始めたとは誰も言ってなかったけどなあ?

 

 あーでもなぁ、ミカゲちゃん……ミカゲちゃん辺りが怪しい。あの忍者ニンニン娘は、マモル殿の為ですとか言ってとんでもない事を勝手に計画したりする。

 怪しいから警察署にソウル爆弾を仕掛けておきました! とか報告して来た時には流石に通報してやろうかと思ったが……やはり通報しておくべきだったか?

 

「やはり田中マモルは月読家の人間と考えてよさそうだな、ならばより一層注意しなくては」

 

 いやいや、田中マモルは一年間はお休みですよ。注意する必要は……

 

「田中マモルは今年の4月にこの学校に入学して来た。そしてマグルマランナーズなるチームを結成して以来、妙な沈黙を保っている。学校も休みがちで、ランクバトルにも消極的だ。意図が分からず不気味でな、君に聞けばなにか分かるかもと思ったんだが……そうか、知らないか」

 

「ふぁっ!?」

 

 た、田中マモルさんが4月に入学しているだと!?  

 

 う、嘘だ!? 誰だよそれは!? 同性同名の別人!? ドッペルゲンガー!?

 

「て、天王さん、その田中マモルは本当にさっきの話と同一人物なのかしら? 同性同名の別人じゃないの?」

 

「いや、私は田中マモルと実際にランナーバトルをしている。奴が入学してすぐに二人きりで対峙したんだ。奴の操るムーンシリーズのソウルランナー“プラチナ・フルムーン“は恐ろしい強さだった。あの機体を使いこなす奴は間違い無く月読家の人間だろう、奴が途中で棄権したので決着は付かなかったが……恐らく続けていれば負けていたのは私だな」

 

「なん……だと?」

 

 ぼ、僕の……偽物? ニセ田中マモル!? そんな馬鹿な!?

 

 


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