オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!   作:定道

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安全祈願!! 子知らずのペアレンタルラブ!!

「走れ! サテライト・オベロン!」

 

 俺の相棒が公園のバトルフィールドを走る。仮想ターゲットを次々と破壊して行く。

 何千何万回と反復練習したソウルチャージ、映像で確認して何度も癖を修正した機体をフィールドに投げ込むフォーム、どちらも完璧にこなしてサテライトオベロンをフィールドに放った。

 相棒は出来うる限りの速さと威力でフィールドを駆け回る。与えられたソウルに精一杯に応えてくれている。

 

 だが遅い、そして動きはぎこちない。方向転換の度にもたついている。

 

 これが俺の全力、チームのみんなと比べるのもおこがましい俺の実力……チームのお荷物が操るソウルランナーの姿だ。

 

 すっかり日が暮れた公園で、命令に反して家にも帰らず無駄な足掻きを続けている。こんな事をしても意味が無いと分かっていながら愚かな行為を止められない。

 

 俺は、こうすれば……努力しているポーズを取れば許されると思ってるのか? 

 我ながら浅ましい。こうしていれば、ヒカリとヒムロが慰めてくれると期待しているのか。

 

 分かっている。自分が弱くてみんなの足を引っ張っている事なんて自分が一番良く知っている。

 

 分かっていても……駄目なんだ。

 

 正しいフォームや勝つ為の試合の組み立て方、機体とパーツの相性、主要なランナー達の戦術や癖、ソウル力学に基づく空杜プロのソウルバトルメソッド。理屈でどうにか出来る部分、詰め込める知識はなんでも取り入れた。知識量は同年代ではトップクラスだと自負している。

 でも、肝心の所が出来ていない、俺は自分のソウルを相棒に十分に届ける事が出来ていない。

 

 ソウルランナーで最も重要とされる要素は“操作“、ソウルの操作だ。

 

 自身のソウルを機体にチャージしてソウルコアと共鳴し、自身の手から離れていても機体に自身の意思を伝え、心に描いた望み通りの動きを実現させるのがランナーの本分だ。

 

 俺にはそれが出来ていない。ランナーにとって最も重要な要素が、自身の気持ちと望みをソウルに乗せて機体に届けるという行為が十全に出来ていないのだ。

 

 俺は……俺のソウルは縮こまってしまっている。発する事を、望みを他者に伝える事に怯えているのだ。

 昔はなにも考えずに出来ていた行為が、あの日にヒカリを傷付けてしまって以来出来なくなってしまった。

 自分の望みのままにソウルを曝け出すのが怖くてたまらなくなった。

 

 理由が分かっているのに、思い通りにならない俺のソウル。それによってチームのみんなに迷惑をかけている現実。

 

 ああ、嫌になる。俺は、俺はどうすればいい? 

 

 俺は俺のソウルはなにを望んでいるんだ? やっぱりあの時感じた気持ちを……

 

「フフッ、やっと見付けた。家に帰ってないのね凍咲君」

 

「田中さん……」

 

 背後から聞こえてきた声の主はやはり田中さんだった。今日一日で聞き慣れた彼女の声を間違えるはずがない。

 

「田中さん、家に帰った方がいい。まだPTAがうろついてるかもしれない」

 

 自分で言っておいて滑稽なセリフだ。田中さんより遥かに弱い自分が、圧倒的な強者である彼女の身の安全を案じるなんて傲慢にも程がある。

 

「心配してくれてありがとう。でも、どうしても凍咲君の様子が気になったの」

 

 そんな俺の葛藤なんて知らずに、お礼を言ってくる田中さん。その綺麗な笑みに心がざわつく、俺のソウルがピクリと跳ねた気がした。

 

「田中さん、その……君はなんで俺の事を気にかけるの? 君は、君があの夜使っていた機体は月の名を冠する機体ムーンシリーズ、君はもしかして――」

 

「凍咲君? 私の事を話す前に一つだけ聞いてもいいかしら?」

 

「えっ、な、なにかな?」

 

 俺の憶測を遮って質問をして来る田中さん。

 

 その表情は、その瞳は真っ直ぐに俺を射抜いており、一切の虚偽を許さないと語っている様だった。

 

「凍咲君、アナタは強くなりたい? ソウルギア使いとしての力、戦う為の力が欲しいと望んでいる?」

 

 なんで、なんでそんな事を聞くんだよ。

 

「そんなの……そんなの当然じゃないか! 君だってさっきのやり取りを見ただろう!? こんな弱い自分を許せるはずがない! 現状に満足しているはずがない! 俺は力を求めてる!」

 

 激情のまま、自分の心のままに叫んでしまう。醜い感情を、身勝手な怒りを声に乗せて発してしまった。

 

「あっ」

 

 そして気が付く。彼女が、田中さんが俺の怒鳴り声に怯えている気配に。

 ああ、俺は最低だ。幾ら強くて底知れなくても、彼女は女の子だ。そんな事すら分からないなんて……

 

「ごめん……田中さん」

 

「いえ、私の方こそごめんなさい。不躾な問いだったわね。でも、どうしてもアナタの口から望みを聞きたかった」

 

 俺の意思? 一体それはどういう事だ?

 

「私については凍咲君の予想通り、この身は月読家に連なる者」

 

「やっぱり、そうなんだね」

 

 そこに期待している自分がいる。自分は彼女に選ばれたのではないかと希望を抱いてしまう。

 

「でもね、私は月読家の役目なんてどうでもいいの」

 

「えっ……?」

 

 役目がどうでもいい? 月読家なのに?

 

「私には、田中マモコには夢がある。叶えるのはとても困難だけどとても大事な願いを持っている。それを掴む為に、私は強いソウルギア使いを求めている」

 

「田中さんの夢? 役目ではない願い?」

 

 それは一体なんだ? こんなにも強い彼女はこれ以上何を望むと言うのだ?

 

「誰かに言われた訳でもない。生まれた家にまつわる役目も関係ない。私の心が、私のソウルが本当に望んでいる物がある。その為に、凍咲君に強くなってほしい。アナタに眠る可能性を私が目覚めさせてあげる」

 

 俺の可能性を、彼女の月読家の力で目覚めさせてくれるのか? 噂に聞くソウルの秘奥が俺に力をくれるのか?

 

「その代償として、強くなった凍咲君の力を貸してほしい。いつか訪れる私の願いに手が届く時に、私を助けてほしい。だから施しとは違う……これは契約よ凍咲君。力を手に入れた先には強大な試練が待ち受けている」

 

 強大な試練……世界に潜む闇ではないのか? 惑星の一族が、月読家が危惧しているシャドウ達とは違うのか? 

 

「田中さん、君の願いってなに? 試練って一体?」

 

「今は言えない。時が来ない事にはね。それを含めて契約よ」

 

 そう言って田中さんは右手を前に差し出す。その姿からは、彼女の並々ならぬ覚悟が、真剣さが伺えた。

 

「さあ、凍咲トウヤ! 力を欲するならこの手を取りなさい! ソウルストーンなんて使わない、互いの心で、互いのソウルに誓いを立てて契約を結ぶのよ! アナタにその覚悟があるなら……私の手を取って」

 

「俺の……覚悟」

 

 真っ直ぐに俺を見つめる田中さんを見つめ返す。

 そして、差し出された白い右手に目をやる。

 

 契約と覚悟か……そうだよな、なんの代償も払わずに力を得ようなんて虫が良すぎる。

 

 ふと、チームのみんなの顔が、ヒカリの顔が、トウカ様……いや、姉さんの顔が脳裏に浮かんだ。俺の大事な人達が思い浮かぶ。

 この契約の果て、その先には一体なにが待ち受けているのか? みんなに迷惑を掛けてしまうのではないのだろうか? そこまでして俺が強くなる事は本当に正しいのか?

 

 でも、それでも俺は……力を望む! 彼女を、田中さんを信じる!

 

「田中さん、俺は決めたよ。俺は力を望む、そして強くなって君の望みを叶える助けになる。契約しよう」

 

 彼女の手を、白くて小さい手を取りしっかりと握る。あの夜と同じでほのかに温かい感触が手のひらを通して伝わってくる。

 

「フフッ、契約成立ね凍咲君。いえ、トウヤ君?」

 

 そう言って微笑んだ彼女は、今まで見たどの田中さんよりも綺麗だった。

 

「うん、契約成立だね、マモコさん」

 

 夕暮れの公園。二人きりで手を繋ぎ、互いの心に、互いのソウルに誓いを立てた。

 俺は力を望み、彼女は願いの成就を望んだ。互いの願いを叶える為の契約がここに結ばれた。

 その先に待ち受けている試練の意味も、戦いの先に待ち受ける彼女の望みを知ることもなく。

 

 だが、俺は生涯忘れる事はないだろう。

 

 彼女と互いの望みを託した契約を、心のままに力を欲して誓いを立てた今日と言う日を。

 

 

 

 

 

 すっかり暗くなった自宅への帰り道、僕は軽やかな気持ちと足取りで歩みを進める。

 フフッ、嬉しいから自然とスキップになっちゃうね♡

 

「グヘヘ、クヒッ」

 

 思わず笑みがこみ上げてくる。ルンルン気分でスキップしながら笑顔で自宅へと向かう。

 

 フヒッ、こんなに上手く行くとは思わなかった。

 凍咲君……いや、トウヤ君はすっかり僕を信じてくれたみたいだ。いきなり怒鳴って来たときはちょっとビックリしちゃったけど大成功だった。

 いや、別に騙すつもりはないよ? トウヤ君は僕のソウルメイクアップでちゃーんと強くしてあげよう。そんじょそこらのランナーを指先1つでダウン出来る程に潜在能力を引き出してあげるのは嘘じゃない。

 

 でも、強くなったら、僕の代わりに強いボスや幹部級のソウルギア使いと戦ってもらう。

 ちゃんと約束したもんね? ちゃんと条件を提示した上で契約が成されたよね? 両者合意の上っすよ?

 

 懐に忍ばせたボイスレコーダーと、公園の草むらに隠しておいたカメラにちゃーんと証拠を残してある。

 ソウル動力の高い奴だから薄暗い公園でも僕達の姿をしっかりと写してくれただろう。やっぱり信頼と品質のプラネット社製品はいいね。

 

 契約不履行は許さないぞ♡ こっちには決定的な証拠があるんやで? やっぱり出来ませんってゴネたら出るとこ出てもらうぞ♡

 

 あっという間に家に着いた。ウキウキ気分だと時間が経つのが早いね。

 

「たっだいまー!! ユピテル君、お土産買ってきたよー!」

 

 流石に白神庵は遠いので、途中のコンビニでスイーツを買ってきてあげた。たまには洋菓子もいいだろう? シュークリームも好物だよね?

 

「ん?」

 

 玄関に見慣れない靴があるぞ? おっと、ソウルメイクアップを解除しちゃマズいな。

 

「おう! おかえりマモ……マモコ! お客さんが来てるぞ?」

 

 お客さん? 父さんの知り合いか?

 

「お客様? 父さんに御用かしら?」

 

「いや、お前に会いに来たらしい。かなり変わった奴らだけど……親父さんには電話で確認した。お前に会わせても大丈夫だし、俺の姿を見せても問題無いってよ」

 

 ふーん、今舞車町はPTAとかで物騒だから用心するのは大事だけど、父さんがそう言うなら危険な人達ではないね。

 

「マモル、今日の献立はトマトリゾットに人参のポタージュだぜ。早目に切り上げて早く夕飯にしてくれよ?」

 

 またトマトと人参か、ポタージュはユピテル君に食わせるとしよう。

 

「はいはい、善処します」

 

 シュークリームを冷蔵庫に収め、ユピテル君には念の為にリビングで待機してもらい、僕は客間へと向かう。

 

 お客さん達は僕を二十分程待っていたらしい、ふすまを開けて先ずは謝罪の言葉を口にする。

 

「申し訳ありません、お待たせしてしまった様で――うぇっ!?」

 

 思わず変な声を出してしまう。畳に座る来客達の姿に驚いたからだ。

 

 一人は多分大人だ。黒くて赤いラインの入ったソウルのスーツを身に纏い、赤い仮面を付けた怪しさの塊みたいな不審人物だった。和室には絶望的な程に似合わない装いだ。

 

 そしてもう一人、もう一人の子供は……この黒髪のイケメン美少年はまさか……僕? 

 そう、僕にそっくりだ。まさかこいつは例のニセマモルか? つまり正体は……もしかして……

 

「随分と遅い帰りでしたね。あなたの様な年頃の子どもが、この時間まで出歩くのは感心しません」

 

「す、すみません……」

 

 ニセマモルに開幕説教されちゃったよ、そっちなんて小4じゃないの? 

 

「な、生マモコちゃんだぁ! ハァ……か、可愛いなあ、フヒヒ……痛い!? つ、つねらないでくださいよぉ?」

 

 本当に大丈夫かこの仮面? 明らかに危険人物じゃない?

 

 怪しさ満点の二人に怯えつつも席に付く。取り敢えず話を聞かなくては始まらない。

 

「あの、お二人は私に用があるとのことですが、どういったご要件でしょうか?」

 

「そうですね、とりあえず立場を明らかにしましょう。私は私設地球環境保護団体PTA所属“月影のムーンリバース“です」

 

「お、同じくPTA所属、“灼熱のマーズリバース“です。よろしくねマモコちゃん」

 

「ぴ、PTA……よろしくお願いします?」

 

 父さん、仮面の方は今舞車町で一番ホットな危険人物だよ? 家に入れちゃ駄目な奴だよ? 全然大丈夫じゃねーよ。

 

 あっ、でも男子児童がターゲットって言ってたよな? マモコボディなら心配はいらないか。

 

「ま、マモコちゃん? 一枚だけ、一枚だけ写真撮ってもいいですかあ? で、出来れば半ズボンを履いてくれると捗って……痛い痛い!? 刺さってますう!? ソウルギアの使い方間違ってますよぉ!?」

 

「いえ、正しい使い方です。“シルバー・フルムーン“もそう思っているはずです」

 

 女の子でもダメじゃん、見境無しだよ。

 

「さて、立場を明確にしたところで本題に入りましょう」

 

「……マモルさん? 本題とは?」

 

 本当に見た目が僕とそっくりだ。なんだか妙な気分になる。

 

「まずは互いに元の姿に戻りましょう、マモル」

 

「へっ?」

 

 そう言うとニセマモルは立ち上がり、その姿が光に包まれる。

 そして、光が止んで出てきのは……

 

「か、母さん!?」

 

 僕の母親、月読ミモリの姿だった。

 

 おいおい、性別だけでなく年齢まで超越できるのか? 凄えな母さんのソウルメイクアップ。

 僕はてっきり妹のマモリか顔も知らない従兄妹達がニセマモルの正体だと思っていた。

 だって、三十路の母親が男子小学生に扮して小学校に通ってるなんて普通は思わないだろ? おかしい……おかしいよね? 

 

「どえぇ!? ムーンリバースさん女の人だったんですかあ!? そ、それにマモル君の……お、お母様!? そんなあ!? お義母様と知っていればカメラの件は……い、痛い!? なんで踏むんですかぁ!? なにもしてないですよお!?」

 

「お前が私をお母様と呼ぶな、不愉快です」

 

「そ、そんなあ!? マモル君そっくりの姿で私をあんなに開発したじゃないですかぁ!? 私のソウルを散々弄った癖にぃ!?」

 

「誤解を招く発言はおよしなさい。ソウルメイクアップを施してやっただけでしょう。アナタは少しは黙っていなさい、余計な口を開くと話が先へ進みません」

 

 畳の上で仮面の女を踏み付ける実の母親、息子の僕としては見るに耐えない光景だ。

 

「マモル、この女の目を気にする必要はありません。ソウルストーンによる契約で余計な事が話せぬように縛ってあります。その姿もよく似合っていますが、久し振りにあなたの姿が見たいです。成長したマモルを母さんに見せてください…」

 

 うっ、そう言われたら……断れねえな。

 

「分かったよ、母さん」

 

 ソウルメイクアップを解除してマモルの姿へと戻る。

 

 なんか人前で変身解除すんのは恥ずかしい、着替えを見られてる様なもんだよね?

 

「うへへっ、ムーンリバースさんのニセマモル君も悪くなかったけど、やっぱり本物が一番ですねぇ……ぐへぇ!? か、仮面を取っちゃ駄目ですよぉ!?」

 

 母さんがマーズリバースの仮面をむしり取る。出て来たのは僕の知っている顔だった。

 

「あ、赤神先生……」

 

 マジかよ、ちょっと危ない先生だとは思っていたけど……ガチの変質者に成り下がったのか。

 ホムラ君の伯母だって言っていたし、最後の方は教師としてもしっかりしてたから一応信じていたのに……

 

「マモル、万が一の時はこの女の正体を世間にリークしなさい。司法の裁きを受けさせなさい。そうすれば無力化できます」

 

 それは酷く……ないかも。

 

「ひ、酷いですよお!? そんな事言うならムーンリバースさんだって世間的にはアウトじゃないですかぁ!?」

 

 うっ、実の母親を庇ってやりたいが正論だ。まさかPTA活動にのめり込んでいたとは……複雑な気分です。

 

「ソウルメイクアップを使いこなす、私の正体を知る者はお前を含めて5人だけです。そして、お前は契約により私の正体を明かせない。なにも問題はありません」

 

 息子に知られるのは問題じゃないのか? 少なくとも僕の中では問題だ。

 

「さて、マモル。私がこの幼き頃の姿を写し出し、あなたに扮していたのはもちろん理由があります。聡いあなたにはお見通しでしょうがね」

 

 いや、分からねえよ母さん。母さんの真意がサッパリ分からねえっすよ。

 どういう発想で息子に変装すんの? どういう気持ちで三十路の子持ちが小学校に通うの?

 

「田中マモルが中心となり、来年の夏のスペシャルカップで冥王計画が実行に移される。今、惑星の一族の間では、この問題にどう対処するかが重要な課題となっています。それ故にあなたは狙われていた。三種のソウルギアでジュニアのトップを奪うであろう勢力は、彼等にとっても無視できない脅威です。なにせ来年のスペシャルカップでは五百年ぶりにグランドクロスが起こります。三種目で優勝を奪われれば、彼等の“シン・第三惑星計画“は破綻する。プラネット社の数百年に及ぶ働きが水泡に帰します」

 

「ふっ、なるほどね」

 

 また新しい計画が出てきちゃったよ。それに事態は既に取り返しがつかない所まで来ていた……やってくれたねミカゲちゃん?

 

「各地に潜む五つの組織の真の姿……“蒼き解放戦線ブルーアース“の“プロジェクト・オリジンブルー“もあなたを巻き込もうとしている気配がある……とても悲しい事です。そして、私達PTAも“オペレーション・ソウルリバース“をグランドクロスに向けて発動します」

 

 おいおい、陰謀渦巻き過ぎてない? やりたい放題だなこの世界の大人達は、秘密計画大好き野郎共め……

 

「マモル、あなたは目立ち過ぎた。私達の想像以上に。もはやどの組織にとっても、あなたの勢力は無視出来ない存在です。あなたはそれに気付いたからこそ、身を隠す為にソウルメイクアップを求めたのでしょう? そして、一ヶ月足らずで可能性を写す術を身に付けた。見事ですマモル、母として誇らしい気持ちです」

 

「ま、まあね」

 

 そうなのかな……実はそうだったかも、僕は凄いなあ。

 

「ですが、いきなり田中マモルが居なくなっては流石に不自然です。なので、お父さんと話し合って私達でもう一人の田中マモルを入学させました。あなたを守る為、他の組織の出方を探る為です」

 

「あっ、はい。ご迷惑をおかけしました」

 

 サラッと用意しちゃうのが凄いね? 自分で演じちゃうとこも凄い。守ってくれるのはありがたいけどさ。

 そして、一応ニセマモルの理由は分かった。納得出来るかは微妙だけどね。

 

「迷惑などとは思っていません。マモル、あなたとマモリは私達にとってかけがえのない子供達です。あなた達を守る為の行為を迷惑だなんて思いません。むしろ、迷惑なのは私達の方です」

 

「か、母さん?」

 

 いや、そんな重く捉えられると困っちゃうよ? 

 

「私は……母親失格です。あなた達の才能に甘えて重荷を背負わせてしまった。あなたにもマモリにも役目を押し付け、辛い思いをさせて来ました……本当にごめんなさい」

 

「そ、そんな事は……」

 

 ……ちょっぴりはあるけどね。

 

 家を出る前は散々修行を拒否したけど、母さんがそこまで気に病んでいたとは……役目は嫌だけど、母さんの悲しむ顔が見たい訳じゃない。

 

「ですが、あなた達は身を守るには十分な力を得ました。マモリはあの学園に居れば安全です。そしてマモル、あなたはそのまま田中マモコとして過ごしてください。クリスタルハーシェルの庇護下にいるのは賢い選択です。そのまま彼女達……いや、惑星の一族の味方となりなさい。それが最も安全な道です」

 

「えっ、ずっと田中マモコのまま過ごせってこと?」

 

 それは流石に勘弁だよ、安全の為とはいえ許容出来ない……出来ないよね? 

 

「いえ、来年の夏までです。スペシャルカップが終わればどんな結末であれ決着が……いや、私が、私達PTAがこの星からソウルギアを消し去ってみせます。その後ならば、あなたを含めた子ども達が争いに巻き込まれる事の無い世界が待っている。それまでの辛抱です」

 

 ソウルギアを消し去るか、一体どうやって実現するつもりなんだろうな? 一個一個壊して回るのは現実的じゃないよね。

 それに、僕はもうそれを手放しでは賛同出来ない。ソウルギアに愛着が湧きすぎた……気がする。

 うーん、でも僕の身の安全が確約されるなら……迷うなあ?

 

「分かりますマモル。優しいあなたはソウルギア達を案じているのでしょう? 安心してください、ソウルギアを破壊しても、コアに宿る意思は、ソウルストーンの中の彼等はあるべき所へ還るだけです。それは彼等にとって死を意味する物ではありません」

 

「それは本当なの母さん?」

 

 そういえば、普通に受け入れてたけど……オモチャが意思を持ってるって割とホラーだよね。

 もしかして夜中に動いてる? えっ、動いてないって? 疑ってごめんよ……

 

「ええ、ソウルストーンとは惑星のコアの欠片です。ソウルギアに宿る意志とは即ち惑星の意思。今地球上に存在するソウルギアのコアは99%以上が地球のコアの欠片です。PTAの目的は彼等を元の場所に還すこと、真の地球環境保護活動と言えるでしょう」

 

 ほえー? そうなんだ? 凄い壮大な話になったな。

 

「ですが、その意志こそが悲劇の元なのです。惑星の意思を、彼等の声が聴こえるのは子ども達だけ、だからこそ子ども達が犠牲になる。プラネット社は大局的に見れば正しいのかもしれませんが、私には彼等のやり方が許容出来ない。だから私は月読家の当主でありながら、PTA活動へと参加を決めました」

 

 うーん、つまりは一族を裏切ってる訳だよね? 父さんはその事を知っているのかな……

 

「ソウルギアで他者と競い、互いの心とソウルを重ねる。それは確かに素晴らしいことです。私もかつてはお父さんや、チームの仲間達、ライバル達と切磋琢磨しました。とても楽しく無邪気でいられた輝かしい日々の記憶です。でも、ソウルギアが無くとも人は分かり合える。五百年よりも前、私達の先祖がそうだった様に」

 

「は、はあ?」

 

 いや、たしかにソウルギアが無くても普通の生活に支障は無いけど……プロとか業界に従事している人達はたまったもんじゃないよね? 

 ソウルギア中心のこの世界では、失業者がヤバイぐらい発生しそうだ。戦力足るソウルギアが失われれば、各国のパワーバランスが崩れるのも含めて世界情勢が相当荒れるんじゃないの? ヤバくないか? 世紀末になりそうだ。

 

「私はかつてソウルギアを生み出した一族の末裔として、初代様の過ちを正します。初代ソウルマスター月読イザヨの理想は間違っていました。私がソウルギアの歴史を終わらせます、私が最後の月読家当主となるでしょう」

 

 つ、月読イザヨ? ガチで存在したのか……適当に思い付いたのに。シンクロニシティか?

 

「だからマモル、あなたはこの舞車町で大人しく過ごして下さい。田中マモコとして、惑星の一族に与しているのが一番安全です。優しく正義感の強いあなたには辛いかもしれませんが……どうかお願いです。けっして彼等には逆らわずに、来年の夏が終わるまで騒ぎは起こさないでください。私が……私達が全てを上手く収めてみせます」

 

 いや、別に進んで騒ぎは起こさないよ母さん? それに僕は惑星の一族に恨みとか隔意なんてない、

 むしろ長いものには巻かれたい質だ。寄らば大樹の陰ってやつだね。僕は権力に媚びる事に抵抗は無いぞ? 取り入る為に足ぐらいなら舐めよう。

 

「母さん、心配要らないよ。僕は田中マモコとして、この町で過ごすと決めているからね」

 

「その言葉が聞けて安心です。マモル……しばらくの間、あなたにもマモリにも会うことは出来なくなるでしょう」

 

 そう言って母さんは立ち上がり、僕の隣まで歩いてくる。

 

 そして僕を弱々しく抱きしめた。遠慮がちな力加減が母さんらしい。

 

「信じてもらえないかもしれませんが……お母さんもお父さんもマモルを愛しています。もちろんマモリの事もです。あなた達が健やかである事が私達のなによりの望みなのです……」

 

 ああ、それを疑ったりはしないよ母さん。

 

「母さん……信じるよ。嘘だなんて思わない」

 

「うぅ……ぐすっ、感動的ですぅ。あっ、鼻水が……た、垂れるぅ!?」

 

 少し黙っててくれねえかなぁ先生?

 

 母さんと抱き合ったまましばらく時が経ち、母さんはゆっくりと僕から身体を離した。

 

「では、マモル。私達は行きますね? 身体には気を付けてください」

 

 あっ! そうだ! 

 

「母さん、よかったら夕ご飯を食べていかない? 時間があったらでいいんだけど……地杜さんの作った人参のポタージュもあるよ?」

 

 母さんとマモリは人参大好きだったよね、理解し難いけどさ。 

 

「マモル……そうですね一緒に夕ご飯にしましょう。あの女狐が作ったのは気に食わないですが、久し振りにあなたと一緒に食卓を囲めるのは嬉しいです」

 

 えっ、母さん地杜さんと仲悪いのかよ。なんかモヤるぞ? 父さん……信じてるからね?

 

「ま、マモル君!? 私は!? 私はお夕飯に誘ってくれないんですかぁ!?」

 

「はあ、赤神先生も良かったら食べていきますか?」

 

「いやったぁ! お家にお呼ばれして、マモル君とお義母様と夕飯を共にするなんて凄い進展ですぅ! い、痛い!? 蹴らないでくださいよぉ!?」

 

 いや、呼んでねえよ? 勝手に家に来ただろ?

 

 そして、その日の食卓はユピテル君に加え、母さんと赤神先生とも一緒に囲むこととなった。久し振りに母さんと食事を共に出来る事は素直に嬉しい。

 なにせ母さんは人参のポタージュをたらふく飲んでくれる。母さん人参大好きだもんねって言えば疑われずに処理できる。

 懐かしいなあ……月読家ではマモリによく人参を押し付けたっけ、人参が大好きなマモリは喜んで食べていた。これも家族の助け合い、家族の愛情の姿だよね。

 

 さてさて、明日からは母さんの望み通りに大人しく過ごすとしますか。

 

 とりあえずは、トウヤ君を鍛えてあげないとね? 上手く行ったらEE団にけしかけよう。ぐふふ、正月頃には潰せるかな♡ 

 

 


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