オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!   作:定道

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神算鬼謀!! 成功確実パーフェクトプラン!!

 

 

 マモコさんと契約を交わした次の日の朝、いつもの様に合流したヒカリとヒムロと共に学校へと向かう。

 

 二人には昨日、心配させる様な態度をとってしまった事を謝った。

 

 昨晩に二人が俺を心配して送ってくれたメッセージ、その返信でも心配はいらないと伝えてはいたが、俺が実際に立ち直っている様子を見て二人は少し戸惑った雰囲気を出していた。

 ああいった事があってすぐに、俺がこんなに前向きな様子なのが珍しいからだろう。

 

 マモコさんとの契約は俺の心境を変化させてくれた。今までだったら、昨日の出来事を引きずってこんな心持ちにはなれなかっただろう。

 だが、そんな偉そうな事を考えてはいても、俺はまだ何も成し遂げてはいない。

 だけど、マモコさんは俺に可能性を見出してくれた。その期待に応えたいと思う。

 

 期待される事に不安もある。失望されるのではないかと恐怖もある。

 でも、あの契約は既に俺に力をくれているみたいだ。

 

 ほんの少しだけ前向きになれる力を、自分の事を少しだけ信じられる心の強さを。

 

 

 

 いつもと変わらない中央小学校までの登校路を歩み、俺達の5年5組の教室までたどり着く。

 現在の時刻はホームルーム開始の二十分前、チームの仕事がある場合にはもっと早くに登校したりもするが、みんなは昨日のPTA騒ぎで遅くまで働いたので、朝のミーティング等は中止だ。なのでこの時間に登校している。

 

 昨日、俺以外のチームのみんなは現場へと向かい、最終的に事態はEE団とPTA達との三つ巴の戦闘にまで発展したらしい。

 現場には例のPTA幹部“灼熱のマーズリバース“に加え、あの“月影のムーンリバース“まで出現したそうだ。

 そして、EE団の戦闘員達は殆ど捕まえたそうだが……PTAの二人には逃げられたと言っていた。

 

 トウカ様を含めた俺以外のクリスタルハーシェルの全メンバーに加え、二十人近くのランナーで取り囲んだにも関わらずに捕まえられない。

 マーズリバースが危険という噂はもちろんだが、ムーンリバースがPTAの中でも最強との噂に信憑性が出てくる……とにかく恐ろしい実力者なのは間違いない。

 

「マモコちゃん遅いね、もうすぐホームルームが始まっちゃうよ」

 

「そうだな、田中って意外と遅刻する奴なのか? それとも体調不良で休みかもな。トウヤ、あの後会ったって言ってたよな。調子が悪そうだったりしてなかったか?」

 

「いや、体調が悪そうには見えなかったけど……」

 

 マモコさん、どうしたんだろう。

 

 彼女以外の全クラスメイト達が席に着いた教室に、ガラガラと扉を開く音が響いた。

 

「あっ、マモコちゃんおはよう。今日は遅かったね、ホームルームぎりぎりだよ」

 

「おはようヒカリ……フフッ、遅刻する所だったわ」

 

 ヒカリに挨拶を返し、クラスメイト達とも挨拶を交わしながら俺の隣にある自分の席へと向かって来るマモコさん。

 なぜかちょっと疲れた様子だ。遅刻しそうで急いで登校したのかな?

 

「おはようトウヤ君」

 

 マモコさんが俺を名前で呼ぶ、それなら俺も……

 

「おはよう……マモコさん」

 

「な、名前で呼び合ってる……」

「おっ? トウヤ、田中、仲良くなるのが早いな!」

 

「うん、昨日ちょっとね」

 

 改めて指摘されると……ちょっと照れるな。

 

「トウヤ君、少し聞きたいのだけれど……もしかして、アナタは縄に興味があったりしない?」

 

「な、縄? それはどういう意味なの?」

 

「いえ、分からないならそれでいいのよトウヤ君」

 

 なぜか微笑ましい物を見るように、僕に優しい表情を向けるマモコさん。

 

 くっ、まったく意味が分からない。彼女の質問の意図が理解できない。脈絡がなさ過ぎる。

 いや、俺のソウルが未熟なせいか……悔しい、俺に力が足りないせいだ。まだまだ分からない事だらけだ。

 

 

 

 そして授業が終わり放課後、クリスタルハーシェルのチーム連絡用SMSグループにトウカ様のメッセージが表示された。

 

『今から第三体育館に全員集合してくれ、5年5組の三人は田中マモコを連れて来るように』

 

 絵文字やスタンプを一切使わないトウカ様らしい簡素なメッセージ、だけど違和感がある。

 

「全員集合? しかもマモコさんまで」

「うう、またか。田中の案内の続きが……」

 

 この端末もアプリも市販の物だ。傍受される危険性があるのでチームの重要な任務の通達には使用されない。

 つまり、これは任務とは別の要件、トウカ様の私的な用事と言う事か? 

 

「フフッ、天王さんから呼び出しが来たようね。ヒムロ君、案内はまた改めてお願いね。みんな、天王さんを待たせちゃ悪いから行きましょう」

 

 マモコさんに驚きは見られない、呼び出しを知っていたのか。

 

「……マモコちゃん? もしかして今朝遅れたのはトウカ様と話していた? 私に黙って?」

「ひ、ヒカリ? 近い、顔が近いわ……」

 

 朝に話し合ったのが本当なら、トウカ様とマモコさんが既に知り合っていると言う事だ。

 

 一体いつの間に……やっぱり田中さんは謎の多い人だ。

 

 

 

 そして、四人で揃って向かった第三体育館、そこには既に俺達以外の全員が揃っていた。

 

「来たか……よし、さっそく本題に入るとしようか田中」

「ええ、天王さん」

 

 体育館の中心に立つトウカ様へと歩みを進めるマモコさん。

 

 俺達はその前に並ぶレイキとツララさん達の横へ並ぶ。トウカ様の話を聞く時は昔からこの形だ。

 

 レイキは俺が横に並んでもこちらを一瞥もしない。話を聞く態度としては当然だが、昔はよくお喋りをしてツララさん達に窘められたのを思い出すと、少し悲しい気持ちになる。

 

「さて、皆も既に知っているだろうが紹介しよう。彼女の名前は田中マモコ、非常に優秀なランナーであり……そして、あの月読家の人間でもある」

 

「フフッ、改めてよろしくね。クリスタルハーシェルのみなさん」

 

 俺達の間に驚きと戸惑いの空気が流れる。俺はマモコさんに直接聞いていたので驚きは少ないが、他の皆はそうはいかないだろう。

 

 同じ惑星の一族の中で最も異端な存在。その能力の希少性と特異な成り立ちから、惑星達の序列にも当て嵌められる事なく、特別な立場に位置する謎多き一族。

 

 そんな月読家の人間が堂々と現れたのだ。驚かない筈がない。

 

「彼女から私にある提案があった。田中は自らの力で、私達クリスタルハーシェルをランナーチームとして一段階上へと引き上げる事が出来ると……その代わりに自分の望みを叶える為に私達の力を貸して欲しいと私に話を持ちかけて来た」

 

 チームを一段階上に引き上げる。それに望み……トウカ様とも契約を結んだのか?

 

「私はその提案に条件を付けて承諾した。田中の力と身元が確かなのは私の方で確認しているが、今は大事な時期だ。来年に開催されるスペシャルカップに向けて、私達は時間を無駄にする訳にはいかない」

 

 クリスタルハーシェルは、プラネット社が一族でも特に優秀な子供達を集めたチームからなる同盟“プラネットソウルズ“に名を連ねている。

 そして、プラネットソウルズの最大の使命は来年のスペシャルカップで五つのソウルギア競技全てで優勝を収める事だ。

 

 末端の僕には詳しい事は知らされていないが、なんでも来年のスペシャルカップは特別らしい。

 途方もないくらいに大量のソウルストーンを使用して惑星の意思達と契約を交わし、彼等に捧げる為に開催をする一族にとって絶対に負けられない戦いであると言い聞かされている。

 

 ソウルストーンを使って惑星の意志と契約を交わす以上、いくら開催者であるプラネット社でも勝敗を操作する事は出来ない。彼等との契約を反故にすれば……不正した者は彼等の加護を、ソウルその物を失うかもしれないからだ。

 いや、もしかしたら一族に関わる全ての人間がソウルを失うかもしれない。ソウルストーンの契約とはそれ程までに重く、厳粛で、神聖な物だ。己のソウルを懸けて結んだ誓約は絶対遵守、その理は何人も侵す事は出来ない。

 

 一昨年まではなにも問題なかった。プラネットソウルズの五つのチームは全て、それぞれが受け持つソウルギアでAランクの頂点に君臨していた。

 だが、完璧だと思われていたその体制は突如として崩れ去った。田中マモルが率いていると噂される例のチーム達が現れたからだ。

 

 プラネットソウルズを脅かす可能性があるとして、一番危険視されていた同盟“アークエンゼルズ“ではなく。突如としてソウルギア界隈に現れた謎の人物田中マモルによって率いられる惑星の一族を裏切った有力者を含む3つのチームは恐るべき快進撃を続け、ソウルランナーとソウルカードを除く三種目でAランクの頂点を俺達から奪い去った。

 

 今現在、惑星の一族は大いに荒れている。俺は落伍者なので直接には言われないが、トウカ様は頂点を維持し続けているのにも関わらず、一族の大人達やお父さ……いや、当主様にかなり強い叱責を受けているらしい。

 だからこそ今、一族の子供達は力を貪欲に求めている。もちろん俺もだ。このチームで一番のお荷物である俺は一刻も早く強くならなくてはいけない。トウカ様の……姉さんの足を引っ張るなんて論外だ。

 

「それを受けて田中はこう宣言した。一週間……たった一週間で自身の力を証明する事が出来ると。トウヤ、お前の力を一週間である水準まで引き上げて見せるそうだ」

 

「い、一週間で?」

 

 マモコさんが俺を鍛える契約、まさかみんなの前でこんな大々的に発表するとは思わなかった。

 それに、やる気はあるけど、いくらなんでも一週間は……

 

「ククッ、面白えなあ田中ァ! コイツをたったの一週間でどれほど強くしてくれるってんだァ! 今までウダウダしていたコイツをよォ!? 低学年のガキ共と渡り合えるぐらいかァ!?」 

 

「レイキ……」

 

 レイキがマモコさんに向かって吠える。苛立ちの感情を微塵も隠さずに大声で問いかける。

 

「フフッ、アナタに勝てる程度よ冷泉君」

 

 ……え?

 

「アァん? テメェ、今なんて言いやがった?」

 

「アナタに勝てる程度の強さと言ったのよ、聞こえなかったかしら? 私が一週間でトウヤ君をアナタに勝てるように鍛え上げて見せるわ」

 

 俺がレイキに勝つ? たったの一週間で?

 

「ククッ……冗談もここまで突き抜けると笑えるぜ。そうだよなぁお前ら! そう思うだろうトウカ様よォ!」

 

 レイキの声が体育館に響く、みんなは複雑な表情で沈黙を保ったままだ。その様子は、レイキの発言に反論の余地が無いことを物語っている。

 

「あら、怯えているのかしら冷泉君。トウヤ君が強くなってしまうのがそんなに恐ろしいの?」

 

「ま、マモコさん」

 

 レイキを挑発する様な発言をするマモコさん、制止の意味を込めて名前を呼ぶ。

 

「オイ田中ァ! その冗談は面白くねえぞ」

 

「フフッ、私は冗談は得意じゃないの、ごめんなさいね。冷泉君、アナタもチームの皆も気付いてはいるのでしょう? トウヤ君が秘めている力に。アナタ達は付合いの長い幼馴染ですものね、分からない筈がない」

 

 秘めている力か……そんな物が俺に残っているのかな?

 昔は当たり前の様に側にあった機体の声、今ではまったく聞こえて来ない。

 

「ハンッ、確かに昔のコイツは骨がある奴だったよ!! だけど今じゃすっかり腑抜けになっちまった!! もう四年間ずっとなァ!! たった一週間でそれが――」

 

「そこまでだ二人とも! これ以上言葉を並べても無意味だ!」

 

 熱を帯びる二人の口論を、トウカ様の一喝が中断させた。

 

「フフッ」

「チッ……」

 

「田中の提案の真偽は、実際にバトルしてみれば明らかになる。違うかレイキ?」

 

「……違わねえよトウカ様。実際にやり合えばハッキリするのは間違いねえ。だが、アンタは本当にそれでいいのか? こんな結果の分かりきったバトルを許可すんのかよ?」

 

「ああ、私は田中の提案を信じる事にした」

 

「そうかよ、なら俺はその判断に従うまでだ……いいぜ、バトルしてやるよ」

 

 レイキがバトルに同意した。俺は――

 

「トウヤ、お前はどうする? ランナーバトルはランナー本人が同意せねば始まらない」

 

「トウカ様……俺は、俺はやります! 一週間後に強くなった俺をみんなに見せます!」

 

 契約したんだ。覚悟は出来ている。

 

「トウヤ……分かった。バトルは一週間後、同じ時間にこの場で行う。トウヤ、期待しているぞ」

 

「ッ!? はい!」

 

 姉さんが俺に期待してくれた! 絶対に応えてみせる!

 

「田中、後は任せるぞ。体育館の使用は――」

 

「安心して、遅くなる前には切り上げるわ」

 

 ただでさえ一週間なのに遅くまで鍛錬しない? 一体どんな方法を……まったく想像が付かない。

 

「では、トウヤ以外の者は私について来い、まだPTA共がこの町に潜んでいる。手分けして町をパトロールするぞ」

 

 レイキを除くチームのみんなは、戸惑いと心配の表情を俺に向けながらもトウカ様の命令に同意の言葉を発する。

 そして、トウカ様に追従して体育館を出て行く。

 

「トウヤ、俺は加減なんてしねぇ。せいぜい足掻けよ」

 

 すれ違い様に、レイキは俺に目も合わせずにそう呟いた。

 

「レイキ……分かっている、待っててくれ」

 

 返事は無い。レイキは僕を一瞥する事もなく去っていく。きっとアレはアイツなりの激励だ。長い付き合いの俺には分かる。

 誤解されやすい奴だが、レイキは情に厚い。まだ俺なんかにも期待を残してくれている。

 

「さて、トウヤ君。不意打ちみたいな形になった事は謝るわ。でも、覚悟はできているんでしょう? さっそく始めましょうか」

 

 二人きりになった体育館で、マモコさんが静かにそう問いかける。

 

「ああ! もちろんだよ! 始めようマモコさん!」

 

 俺は……俺は変わってみせる! みんなの役に立てるような強い自分に!

 

 

 

 

 

「うーむ……」

 

 体育館でのトウヤ君育成計画発表から6日後の夜、僕は自室の机で送られて来た資料を読んで唸っていた。

 

「おいマモル、例のバトルは明日なんだろう? そんなに悩んでいて大丈夫なのかよ、もしかして上手く行かなかったのか?」

 

 人のベッドで勝手にくつろぐユピテル君が唸る僕に声をかけて来る。

 

 この背後霊はせっかく用意した彼用の部屋を使わず、もっぱら僕の部屋でダラダラと時を過ごし、加えプカプカと浮かびながら就寝までしていく。

 だが、ユピテル君は寝相が悪く、偶に人の上に乗っかって寝ている時がある。

 そんな日の朝は、重さでうなされ目覚めがイマイチ、疲労の回復も悪い。もしかしてこれも一種の取り憑かれている状態なのだろうか……

 

「大丈夫、大丈夫。なにも問題はないさ、全て想定の範囲内で作戦は進んでいるよ」

 

「ふーん……まあ、俺用のソウルメイクアップを中断してまで凍咲トウヤの修行に集中してたんだから当然だな。で? アイツはどれくらい強くなったんだよ?」

 

 ここ最近のユピテル君はご機嫌ナナメだ。

 

 他者へのソウルメイクアップはかなり消耗するので、現時点では一日一人にのみ使用するのが限界だ。慣れて来ればもう少しイケそうだが……少なくとも今は無理だ。

 よって現在、ユピテル君への就寝前のソウルメイクアップは中断中、それが原因で彼はすっかり拗ねてしまっている。好物の和菓子をお土産に帰っても中々許してくれない。

 

「トウヤ君は……そうだなあ、大体Aランク一歩手前ぐらいには強くなったかなぁ?」

 

 初日と比べるとかなり機体の操作がスムーズになった。クソ雑魚ナメクジから、そこそこ強いモブ程度にはランクアップしただろう。

 

「はあ? 対戦相手の冷泉レイキはチームで天王トウカに次ぐ実力者だよな、それで勝てるのかよ?」

 

 うーん、それは……

 

「たぶん……キツイかも?」

 

「おいおい!? お前が自分で一週間で勝てるってタンカ切ったんだろ!? なんか特別な方法があったんじゃねえのかよ!?」

 

「いや、トウヤ君に施したソウルメイクアップはユピテル君に施したのと同じだよ。彼の身体に触れてソウルに呼びかけ、彼の可能性を引き出す手伝いをするだけさ。トウヤ君なら一週間でもう少し強くなるかなあって思ってたんだけど……」

 

 僕とトウヤ君が手を繋ぎ、ソウルメイクアップを施した後に、その可能性のイメージを逃さない内に僕とランナーバトルをする。ここ一週間で行ったのはその繰り返しだ。

 だが、予想してたよりも、トウヤ君の実力は伸びなかった。

 

 今までと比較すれば驚異的な成長速度ではあるのだろうが……どんなに甘く見積もっても、冷泉君に勝てる程の実力には届いていない。

 

「おい、強くなる確信があったから一週間って自分で宣言したんだよな?」

 

「いや、一週間って言った方がインパクトがあって格好いいし……多分イケるかなぁと……」

 

「お、お前なあ、それじゃあ凍咲トウヤが可哀想だろうよ。そんな適当だと、クリスタルハーシェルの奴等と天王トウカからも信用されなくなるぞ?」

 

 いや、分かってるよ? もちろんそれは分かっている。

 

「それがさ、ヒカリちゃんに聞いたんだけどトウヤ君には幼少のトラウマがあるらしくて……なんでも昔、ランナーバトルの練習中に加減を間違えてヒカリちゃんの腕を傷付けちゃったそうなんだ。今でも傷が残っているのを見せてもらったよ、どうやらそれ以来思い切りよくランナーバトルが出来なくなったそうなんだ」

 

 ヒカリちゃんの右の二の腕には、割と大きめの傷が刻まれていた。

 聞いた話では、練習していたのはソウルワールドではなく普通のバトルフィールドだったらしい。

 つまり、トウヤ君は幼少の頃は相手のソウル体すら飛び越え、その先の相手の肉体の情報にまで己のソウルを浸食させる程の力を持っていたと言うことだ。

 

 それ程の才能の持ち主ですら、心の持ちようであそこまでヘナチョコになる。やはりソウルバトルにおいてメンタルの強さは非常に重要な要素だ。

 そうだな、ソウルギア使いにおいて重要な要素を順位をつけるなら、才能、メンタル、口喧嘩の強さ、技術、知識……って順番な気がする。

 あくまで個人的な所感だけどね? フフッ、僕は全て兼ね備えているから凡人の悩みは分からん……知識はちょっと怪しいけどね。

 

「ふーん、まあ、ユキテルの奴もマモルに会う前まではそんな感じだったしな。じゃあ今回は勝てなくても取り敢えず一歩前進したって事で納得する感じか?」

 

 まったく、最近のユピテルくんはすっかりバーサーカーソウルを失ってしまったな。そんな、ナアナアな結末を予測するとは……嘆かわしいぞ。

 

「フフッ、僕はやると言ったら必ずやる男だよユピテル君。そして僕は全ての勝負事に勝利する男さ。勝算が無いのに無茶な提案をする訳ないだろう? とっておきの作戦があるのさ」

 

 この前母さんと食事をした時、ソウルメイクアップについて色々と教えて貰った。最初は渋っていたがどうしても必要だと食い下がったら色々と応用方法を教えてくれた。

 そして、いざという時に使いなさいと餞別までくれた。修行と役目以外の部分では、意外と押しに弱い所は変わっていない。

 

「へぇー、じゃあ今机に拡げてるのがその作戦に関わる資料か?」

 

「いや、これはナガレ君が送ってくれたソウルスッポンの養殖に関わる資料だよ。絶対に儲かる話を特別に教えてくれたんだ」

 

 いやー、流石ナガレ君だ。こんな素晴らしい儲け話を持ち掛けてくれるなんて……やっぱり持つべきものは友だね。僕らのソウルの絆は本物だよ。

 

「なあ、マモル。俺はそういうのに詳しくないけど……それって騙されてないか?」

 

 騙される? この僕が? 

 

「嫌だなあユピテル君、この僕に限って騙される筈がないだろう? それにこれはナガレ君の“ネオ・ブルー・アクアα”で生み出したソウルたっぷりの水を使って養殖するソウルスッポンだよ? 絶対に売れるさ、僕のソウルがそう囁いている」

 

「そ、そうか?」

 

 そうそう、僕の相棒達もそう思うだろう?

 えっ、ちょっと怪しい? ハハッ、心配症だなあ。

 

「去年もソウルしいたけの養殖に出資したけど、大成功って話だよ? ソウルたっぷりって評判でバカ売れだってさ、送られて来たしいたけをユピテル君も撚糸町の僕の家で食べただろ?」

 

「あーそう言えば去年、マモルの家で食ったな。確かに肉厚で旨かったけど……それでどれくらい儲かったんだ?」

 

「配当はまだ僕の手元には来てないから分からないよ。それにソウルしいたけで得た利益でソウルスッポンの養殖場を作るって話だからね。もう一年もすれば百倍にして返すってさ。そもそもの元手はカイテンスピナーズが大会で手に入れた賞金の内の僕の取り分だから僕の懐は痛まない。僕はただ送られて来る書類に判子を押すだけっていう夢の様な儲け話さ」

 

 お金っていうのは一番最初に出て行って、一番最後に戻って来る。ナガレ君はそう言っていた。

 割と大量に書類が送られてるし、書かれている内容もお固くて難しいから半分も理解出来ないけど……ナガレ君もミカゲちゃんも取り敢えず指定した所に判子を押せば問題無いって言っていた。なにも心配はいらない。

 

「マモル……もし、お前が家を追われて路頭に迷う事があっても、俺は付いて行ってやるからな。その時は闇ソウルバトルで路銀を稼いで一緒に暮らそうぜ……」

 

「ん? ありがとうユピテル君?」

 

 なんか急に優しくなったぞ? そうか、僕が億万長者になりそうだから擦り寄っているのか。

 ははーん、更に高級な和菓子を強請るつもりだな? まったく卑しん坊め、儲けが出たらそれぐらいは買ってやるぞ♡

 

「さて、これで分かっただろうユピテル君? 僕はソウルバトルだけでなく、あらゆる物事において抜かりはないのさ。明日帰って来たら作戦が大成功した話を聞かせてあげよう。そして、天王さん達の信頼を得られればユピテルも学校に連れて行けそうだよ。楽しみにしていてね」

 

 フヒッ、この舞車町の権力者である天王さんと仲良くなれば色々と融通が利くようになるはずだ。背後霊の一匹や二匹、校則の捻じ曲げで小学校への同伴が可能になるだろう。

 

「そうか、ありがとうな……無理はするなよマモル、一緒に強く生きような?」

 

「はは、当たり前さユピテル君。生きてるって本当に素晴らしいよね!」

 

 はあ~早く不老不死になりてえ、一生死なずに生きてえ……

 

 加えて億万長者になり、人生を面白おかしく生きたいぞ♡ 不労所得で悠々自適な生活……いいね。

 

 ぐふふ、その為の準備はこうやって進めている。僕の素晴らしくも慎ましい夢の実現に向かって一歩一歩確実に進んでいる。

 

 その為にまずは明日だ! 

 

 明日のランナーバトルで、トウヤ君が冷泉君をギッタンギッタンのメッタンメッタンのケッチョンケッチョンのボッコンボッコンにのして勝利すれば、僕の天王さんからの信頼度と好感度はうなぎ登りでヤンス!

 

 フフッ、私の願いの為に……ちゃんと契約を果たしてねトウヤ君♡

 

 

 

 


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