オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!   作:定道

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超絶進化!! 叫べ僕らのエボリューション!!

 

 

 レイキと俺のバトルが決まった一週間後、放課後の第三体育館の控え室。

 そこで俺は、相棒であるサテライト・オベロンの最後の調整を行っていた。

 

 もうすぐバトル開始の時刻だ……遂にこの時が来た。

 

 マモコさんのソウルメイクアップと呼ばれる秘奥を使った一週間の修行は、俺を確かに強くしてくれた。

 マモコさんの手の平を伝わって来るビリビリとした感覚が俺の中にある様々な可能性を心の中に映し出した。

 その感覚を忘れない内にマモコさんとランナーバトルをする修行は、今まで俺が試してきたどんな鍛練方法よりも効果的な物だった。

 

 だが……足りない。同じチームのメンバーとして、俺はレイキの戦う姿をこれまで間近で見てきた。アイツの実力は誰よりもよく知っている。

 だからこそ理解出来てしまう、確かに強くなった俺のランナーとしての実力は、レイキに勝てる程の水準には達していない。

 

「トウヤ君、具合は悪くない? 本当に大丈夫?」

 

 ヒカリが不安そうに俺に声をかけて来る。心底辛そうな表情は、俺なんかよりもよっぽど具合が悪そうに見えてしまう。

 

 そんなヒカリを見ると、心配の感情と共にどこかおかしさを感じてしまう、自分よりも緊張している人を見るとかえって落ち着くというのは本当の事だった。

 

「大丈夫だよヒカリ、心配はいらないよ……見ていてくれ」

 

「うん、無理はしないでね? もしも怪我したら私が治すから……」

 

 控室を後にして、バトルフィールドへと続く通路を歩む。

 

 プラネット社が多額の支援をしているこの小学校はあらゆる施設が本格的で、この第三体育館も公式のバトルドームと遜色の無い造りになっている。

 

 その途中で、ここ最近ですっかり見慣れた人物が壁にもたれかかっていた。

 

「フフッ、トウヤ君。いよいよ始まるわね、気分はどうかしら?」

 

「マモコさん……そうだな、少し緊張してるよ」

 

 マモコさんは相変わらず堂々とした佇まいだ。不思議な力強さと自信に満ちたソウルを感じる。

 

 マモコさんは凄いランナーだ。No.1ランナーであるトウカ様と互角……或いはそれ以上の力を持っているかもしれない。

 そんな彼女が、俺の現在の実力を推し量れない筈がない。このままじゃレイキには勝てないであろう事が分かっているはずだ。

 

 それなのにこの落ち着き様、一週間前にみんなの前で発言した時と一緒で俺の勝利を疑っていないかのような態度。

 一体彼女にはどんな未来が見えているのだろう? バトルの先に待つものが分かっているとでも言うのだろうか?

 

「そしてこう思ってもいるのでしょう? 確かに強くなったけど、まだ冷泉君には敵わないって」

 

「……うん、その通りだよ」

 

 やはりマモコさんもそれを理解している。それなら一体なにを考えているのだろう。

 

「そんなトウヤ君に今回の修行の最後の仕上げよ。これを受け取ってちょうだい」

 

「これは……ソウルストーン?」

 

 マモコさんが手渡して来たのは、ビー玉程のサイズで黄金の輝きを放つ結晶の様な物体。

 間違いない、ソウルストーンだ。一般には流通していない、ソウルギアのコアとなりうる唯一の物質。惑星の一族でも限られた者しかその産出地を知らない、神秘のベールに包まれた鉱石だ。

 

「そのソウルストーンは私がお母様から託された物……そして、それには強力なソウルメイクアップの力を込めてある。アナタに今まで施して来た可能性を想起させるものではなく、アナタのソウル体そのものを変化させる力よ。もしもバトル中に追い詰められたら使いなさい」

 

 マモコさんがお母さんから? いや、それよりも……

 

「ソウル体を変化させる? そんな事が……でも、それにしたってランナーバトル中にこれを使うのは……」

 

 反則……か? いや、そんな特殊なケースはルールブックには記載されてはいない、微妙なラインではあるが厳密には反則とは言えないだろう。

 だが、ルール抜きにしてもそんな事をしてバトルに勝っても純粋に俺の力で勝利したとは言えない。とても正々堂々とした振る舞いとは言えず、みんなに胸を張れない結果となるだろう。

 

「フフッ、トウヤ君。アナタに足りないものは覚悟よ。今のアナタに欠けているピースは覚悟だけ、その意味をよく考えてね?」

 

 そう言ってマモコさんは俺に背を向けて歩き出す。

 

 覚悟……俺に足りない物? それはつまり、弱い俺は、どんな手段を使っても勝利を手に入れろ言う事か?

 

 そんな……そんなものが覚悟だと言うのか? マモコさん、君は……

 

 

 

 怒りとも悲しみの入り交じった感情を抱え、バトルフィールドへと到着する。

 体育館には、既にレイキと審判役のトウカ様がそこには立っていた。

 

「へっ、随分と湿気た面してるじゃねえかトウヤ。土壇場で怖じ気付いたか? どうする、棄権でもするか」

 

「レイキ……俺は覚悟出来ているよ。覚悟が足りない筈がない、俺はやれる!」

 

「面白え! それでこそだ!」

 

 ポケットの中のソウルストーンを握り締めて答える。こんなものは使わなくても俺は……俺は勝利してみせる!

 

「二人とも準備は出来ているようだな! 両者がバトルに同意したものとみなす! ランナーポジションに付け! 今から冷泉レイキと凍咲トウヤのランナーバトルを始める!」

 

 姉さんの号令に従い、ランナーポジションに付く。

 そして、腰のホルダーから俺の相棒、サテライト・オベロンを手に取って構える。

 

「今回のバトルはソウルチャージ制限なし! フリーエントリーでノーオプションバトル! プラネット社公式シングルマッチレギュレーションルールで行う!」

 

 大丈夫だ。俺はやれる、やってみせる。

 

「どちらかの機体が戦闘不可能な状態に陥る! もしくはソウル体が完全破壊された時点で勝敗が決する! それ以外ではランナーが棄権しない限りバトルは終わらない! それでは両者ソウルチャージを始め!」

 

 試合前開始直前、十秒のソウルチャージタイムが始まる。俺はソウルをオベロンに集中させる……頼む、応えてくれ……

 

「十秒だ! ランナァーバトルゥー!!」

 

「冷氷纏いて疾走れ!! サテライト・ジュリエット!!」

「全て凍てつかせろ!! サテライト・オベロン!!」

 

「ファイトォ!!」

 

 勝つんだ……勝利してみせる!!

 

 

 

 

 

 バトルフィールドから少し離れたチーム用のベンチでは、僕含めて七人のランナーが二人のバトルを見守っている。

 僕とヒカリちゃんとヒムロ君、そして六年生の四天王達だ。

 

 四天王達はトウヤ君の修行が始まった次の日に、転校初日に屋上であった事を謝ってきた。そしてトウヤ君をよろしく頼むとも言っていた。

 ソウルの半分が優しさで出来ている僕は謝罪を受け入れ、トウヤ君の事は任せろと返事をした。

 まあ、許すとは言っても僕をブスと言った事は絶対に忘れない。僕はカワイイ……カワイイのだ。

 

「よし! 二人ともいいチャージインだぜ!!」

「うん、ブレのない綺麗なチャージインだね」

「ああ、特にトウヤは見違える程に力強いチャージインだ。流石だよ田中マモコ、僅か一週間であそこまでトウヤの力を引き出すとは……」

 

 えーと、確か四天王で一番強い……水色髪でロングポニテの……そうだツララさんだ。この人の名前は氷筍ツララさんだ。まだ四天王達との付き合いは浅い、顔と名前が一致しない。

 

「フフッ、私は少し手助けをしただけ、あのチャージインは彼の今までの努力が実を結んだものよ。基礎と言うものは一朝一夕で身に付くものじゃないわ」

 

「そうか……そうだな。トウヤが努力していたのは私達もよく知っているよ」

 

 まあ、僕はランナー歴3ヶ月未満だけどめちゃくちゃ強いけどね! 

 いやー、天才はなにをやっても完璧にこなしてしまう……申し訳ないでヤンス! 配慮してこれからは自主練の量を減らそっかなー? 毎日の素振りはお休みしちゃおっかなー?

 えっ、素振りは基本で大事だからサボるな? ごめんよ……

 

 バトルフィールドでは両者の機体が円を描くように走り回っている。あれだけ威勢よく叫んでいたのに互いの機体は未だ衝突していない。機体の走った後が氷の道となってフィールドを少しずつ埋め尽くしていく。

 互いに様子見って感じかな? トウヤ君はともかく冷泉君は不良の癖に消極的だな……

 

「静かな試合展開ね」

 

 一体どういう意図が……

 

「今のトウヤもレイキもどちらかと言えば勝ち筋を組み立て戦う理論派、まずは自分の軌跡を少しでも多く描いてフィールドを自分の有利な状態に持っていく。セオリー通りの動きだぜ」

 

「うん、私達クリスタルハーシェルの機体が描く軌跡が生み出す氷の道は、攻撃にも防御にも転用できる戦術の要。互いに同系統の能力なら、少しでも自分のソウルが籠もった氷を多くすれば多くするだけ今後の展開が有利になる」

 

「フフッ、そうね」

 

 危ねえ、適当な事を言う所だった。ヒムロ君とヒカリちゃんが解説してくれて助かった……

 二人に限らず、この世界のソウルギア使い達は観戦中にやたら解説してくる。

 なんでだろう? ソウルがそうさせるのかな? 試合展開が解りやすくて助かるけどさ。

 

 ソウルランナーはソウルスピナーと違って空間を満たすような力場を展開する事は出来ない。

 だが、走った軌跡に自分と機体のソウルに応じた様々な現象を起こす事ができる。クリスタルハーシェルのメンバーなら氷を生み出し、僕のプラチナ・ムーンは走った跡がキラキラ光る。

 

 ソウルランナーはソウルスピナーに比べて攻撃範囲が狭い代わりに、スピードと突破力に特化している。

 雑魚を纏めて倒すならソウルスピナーの方が便利かな? いや、奇襲と不意打ちならソウルランナーの方が適しているしなあ……やはり悪の組織にはどちらもブチ込むのが正解だね。

 

「行け!!オベロン!!」

「はっ!! 遅ぇよ!!」

 

 トウヤ君が大きな声で叫ぶ。機体が急激に加速して冷泉君のジュリエットへと突進するが、あっさりと避けられてしまった。

 

「まだだ!! オベロン!!」

 

 空振った突進の勢いを殺さずに、それどころかトウヤ君のオベロンはどんどん加速して速度を上げて行く。

 

 おい!? あれじゃあバトルフィールドの壁にぶつかるぞ!?

 

「あれはまさか!?」

 

 ヒムロ君が驚き叫んだ……と同時にバトルフィールドの氷の一部が隆起した。

 そして、オベロンはその隆起に勢い良く突っ込んで衝突……かと思ったら更に加速して反対方向へと飛び出した。

 

 あの隆起は氷で出来た道か!? 勢いを殺さずに反転する為に氷を隆起させて道を作ったのか!? 修行中にはそんな動きしてなかったぞ!?

 

「チィ!! ジュリエット!!」

「逃すなオベロン!!」

 

 ジュリエットの横っ腹に反転して勢いを増したオベロンの突進がクリーンヒット……かに思われたが直前にズラされた。

 だが、当たった事に代わりはない。この試合のファーストアタックをトウヤ君が決めて見せた。

 

「間違いない“クリスタルターン“だ! まさかトウヤがあの技を……」

「知っているの? 氷見君?」

 

 こういう時は聞くのが礼儀だ。

 

「ああ、クリスタルターンはトウカ様が編み出した必殺技だ。アタックを避けられてもそのまま加速して前方に氷の道を生成、機体を百八十度反転させて最短距離で再アタックを仕掛ける。強力だが、一歩間違えれば壁やフィールドの端に激突してダメージを受けてしまう諸刃の剣でもある技だ!」

 

 な、なるほど。トウヤ君はそんな技を……あの野郎、僕との修行の後にコソ練したな? ソウルメイクアップの後の身体とソウルは十分休ませろって言ったのに。

 

「行けるはずだ!! もう一度行くぞオベロン!!」 

 

 フィールドを旋回して、再びアタックを仕掛けるトウヤ君のオベロン。

 

「ククッ、なるほどなぁ……悪くねぇ、悪くねぇぞトウヤァ!!」

 

 一度目のアタックが避けられる、そして再び氷の道を利用したクリスタルターンが冷泉君のジュリエットを――

 

「だが甘ェ!! 二度は通用しねェ!!」

 

 クリスタルターンで再アタックを仕掛けたオベロンの進路上に、突如として氷の壁が出現した。

 

「なっ!? オベロン!?」

 

 オベロンはその壁を避けきれずに激突する。正面衝突は避けた為に機体は停止こそしていないが、明らかにダメージを負っていた。

 

「初っ端にクリスタルターンをかましたのは正解だ!! だがその中途半端な練度で二度も使ったのは悪手だぜトウヤァ!!」

「ぐっ!?」

 

 先程とは一転して、冷泉君は激しい攻勢を仕掛け始める。トウヤ君はダメージを負った機体で必死にその攻撃を凌いでいる。

 

「クリスタルステップはトウカ様のウラヌスのスピードで!! なおかつ連続で使用する事によって初めて必殺技足り得る技だ!! お前のオベロンのスピードじゃ初撃の奇襲ならともかく二度目は簡単に対処出来る!! こうやって進行上に障害物を置いてやるだけで終いだ!!」

 

 まあ、確かにあの程度のスピードならそうだな。僕も反転を見てからでも回避余裕だ。なんならカウンターを決めてやってもいい。

 

「お前もそれを理解していたはずだ!! 実力差のあるこのバトル!! 初っ端に全力の奇襲でダメージを稼ぐのがお前に取って一番現実的な勝ち筋だった!!」

 

 冷泉君は叫びながらガンガン攻める……様に見えて冷静なヒットアンドアウェイ、実に手堅い戦い方だ。

 

 トウヤ君とオベロンは少しずつだが確実にダメージを受けている。機体が傷つく度にソウル体であるトウヤ君も徐々にボロボロになっていく。

 

「そこまではいい!! だが、外した後にもう一度同じ攻撃を放ったのはお前の甘えだトウヤァ!! 俺のジュリエットに攻撃が掠ったから行けると思ったか!?」

「くっ、そんな……」

 

 冷泉君、めっちゃ語るなぁ……いいマウントの取り方だ。対戦相手のミスを激しく攻めたてるのは良く効くよね。

 

 相手がミスした時には鬼の首を取ったようにはしゃぐのが正解、相手の傷口にはモリモリ塩を塗りたくってやるのがソウルバトルの真髄だ。

 

 冷泉君の攻撃は続く、トウヤ君の機体とソウル体が更に傷付いて行く。

 トウヤ君はソウル量が多い方だから、ダメージを負っても簡単にはやられないだろう。ソウル量はソウルバトルにおいて耐久力に直結する。

 だが、勝負の流れは完全に冷泉君の物となった。このままではトウヤ君はジワジワとダメージを負ってそのまま敗北するだろう。

 

「レイキの必勝のパターンに入ったな」

「目にも留まらぬヒットアンドアウェイに加え、軌跡の氷から浸食する冷気を放って徐々に相手の動きを止める」

「オベロンが冷気に耐性があるとはいえ、この流れでは……」

「トウヤに勝ち目は無い、勝負は決まった」

 

 四天王達が口々に語る。確かにトウヤ君は敗色濃厚だろう。

 

「あの状態に入ったレイキを打ち破った奴はいない。残念だけどトウヤは……」

 

 ヒムロ君も複雑そうな表情でバトルを見守る。

 純粋にトウヤ君を応援出来る僕とは違って、ヒムロ君にとってはトウヤ君も冷泉君も大事な友達でチームメイトだ。複雑な気持ちにもなるだろう。

 

「トウヤ君……マモコちゃん、なにか手はないの? 一週間の修行でこの状況を打破するような特別な力を授けたんじゃないの?」

「ひ、ヒカリ? 近い、顔が近いわ……」

 

 詰め寄ってくるヒカリちゃんの圧が怖い……

 だが、心配はいらない。

 

「フフッ、トウヤ君に種は撒いてある。後は彼の覚悟次第よ」

 

「トウヤ君の……覚悟?」

 

 僕の発言に、ベンチのみんなの注目が集まる。この完全に不利な状態から逆転できる手段が思いつかないからだろう。

 

 ククッ、トウヤ君に試合直前に渡したソウルストーン。あれはこの前母さんに貰った物だ。

 自分のソウルを込めて願えば、使い捨てだがソウルの力を増幅する使い方も出来ると言って渡して来た。

 いざという時、自分の身を守る為に使いなさいと4つもくれた。

 

 そして僕はトウヤ君に渡したソウルストーンにはソウルメイクアップの力を込めた。ソウルストーンによって強力になった特別なソウルメイクアップだ。

 彼に一週間施して来た、可能性を想起させるだけの術とは違う。僕が自身に施しているソウル体そのものを変化させる物だ。

 もちろん、トウヤ君を女の子にする訳じゃない。そんな事をしても可能性は拡がるが、急激に強くなったりはしない。

 

 あのソウルメイクアップは、使用者のソウル体を十年ほど成長させる。母さんが僕を騙る為に幼い姿を映し出していたから、逆に成長も出来るのかと思ったが案の定だった。

 

 あれを使用すれば心はそのままに、ソウルが育ちきり技量も十分に兼ね備えた大人トウヤ君が姿を表すだろう。

 天王さんが言っていたが、どうやら大人になると、惑星の意志やソウルギアの声が聞こえなくなるみたいではあるが……ソウルメイクアップなら心はそのままだ。

 体は大人、頭脳と心は子供のパーフェクトトウヤ君が爆誕する。十五分程度の時間制限付きだけどね。

 

 もちろん僕は自分自身でこの特別なソウルメイクアップを試している。自分で使う分にはソウルストーンは必要無い。流石にトウヤ君をぶっつけ本番の実験体にはしない。

 だから、副作用は……ちょっとしかない。時間制限が来ると地獄の様な筋肉痛に襲われてしばらくソウルが操れなくなるが……些細な問題だ。

 

 そう、あれを使えば確実に勝てる! 眠った力が引き出された完全なトウヤ君が姿を現す!!

 

 反則? ルールブックにはソウルストーンやソウルメイクアップを使ってはいけませんなんて書いてありませーん。そもそもこのバトルは公式戦じゃないからセーフだよ? あれは合法ソウルストーンだよ?

 

「さあ、アナタの覚悟を見せてちょうだい」

 

 フィールドでは、ボロボロになっていくトウヤ君が見える。その表情に諦めは見えないが、明らかに葛藤が浮かんでいる。

 

 フヒッ、悩んでいるんだろう? 僕の渡したソウルストーンを使うかどうか悩んでいるんだろう?

 

 使え!! ソウルストーンを使うのだ!! 君は追い詰められている!! 反則がどうとかちっぽけなプライドなんて捨ててソウルストーンにその身を委ねろ!!

 

 使えば僕のソウルメイクアップは君に無敵の力をもたらす!! ソウルストーンに勝ちたいと願うのだ!!

 

 圧倒的な力で相手を打ちのめす経験を得れば君は強くなれる!! 実際に力を振るう経験を得れば君は自力でも強くなれる!! 一度力を振るう感覚を体験すれば成長は容易だ!!

 

 今は圧倒的な力に酔いしれろ!! 勝利の美酒を飲み干してしまえ! 勝つ為の経験は勝利の中にこそ存在する!! 目の前の勝利を掴み取れ!!

 

 どんな手を使ってでも勝てば良かろうなのだ!! そうだ!! 君の覚悟を見せてくれトウヤ君!! 我が力を受け入れるのだ!!

 

 

 

 

 

「どうしたトウヤ!! お前の修行の成果はお終いか!? それならこれ以上機体を傷付ける前にサッサと棄権するんだな!!」

「ぐっ、くそ……」

 

 駄目だ。レイキのジュリエットのヒットアンドアウェイに為すすべもなく傷付けられる。

 時間が経てば経つほどに浸食する氷から発生する冷気のせいで動きが鈍っていく。

 

 負ける……俺は負けるのか? やっぱりたった一週間程度でレイキに勝とうなんて……

 

 そんな弱気になる俺に、熱い感触が届く。

 

 これはポケットのソウルストーン? さっきマモコさんに渡されたソウルストーンが熱を帯びている?

 

 そうだ、これを使えば勝てるはずだ。さっきマモコさんはこれはソウル体を変化させる力を持つって言っていた。

 

 俺の、弱い俺の姿を捨てて強い自分に……

 

 ふと、視線を感じた。トウカ様……いや、姉さんの視線だ。

 

 審判をしている姉さんは、無表情を保っている。

 だが、その瞳は揺れていた。俺の事を様々な感情の込められた瞳で見つめている。

 

 そしてバトルフィールドの向こう、レイキに視線を向ける。

 

 サングラスなのでレイキの視線は分からない……だけど、こうやって久しぶりにランナーバトルをしていると感じる。

 ソウルから伝わって来るのは怒りだけではない、なにかを期待しているようなそんな感情が伝わって来る。レイキ……

 

 ベンチにも目を向ける。

 

 ヒカリとヒムロが、ツララさんがヒサメさんがミゾレさんがアラレさんがこちらを見ている。俺とレイキのバトルを見守っている。

 

 みんなの前でソウルストーンを使う? みんなの気持ちを裏切る様な行為を? そんな事が許されるのか?

 

「さあ、アナタの覚悟を見せてちょうだい」

 

 俺の耳に、マモコさんの声が届いた。

 

 覚悟? 俺に足りない最後のピース……覚悟。

 

 試合の前はどんな手を使っても勝てと言う意味と捉えた。

 だが、よくよく考えてみればマモコさんがそんな事を言うはずがない。あの発言は明らかにおかしかった。

 

 ……そうか、そういう事かマモコさん。

 

 君がこのソウルストーンを渡した意味、俺に足りない覚悟。その意味が分かったよ。

 そうだな、レイキもさっき言ってたよな……甘えだ。俺は甘えていた。

 

 自分を隠したままに強くなろうなんて虫が良すぎる。それじゃあオベロンの声が聞こえないのも当然だ。

 そしてベンチに向き直り、俺はポケットからソウルストーンを取り出す。

 

「分かったよマモコさん!! 俺に足りない覚悟の意味が!!」

 

 突如バトルフィールドから背を向け叫びだした俺に、その場の全員が虚を突かれた様に驚く。だが止まるわけにはいかない。

 

「フフッ、理解できたのね? そう、それを使っ――」

「曝け出すのを恐れ!! 現状に甘える俺の心!! それを自覚させる為に君は俺にソウルストーンを渡したんだね!! ありがとうマモコさん!! 俺は自分の甘えに気付いた!! 覚悟はできたよ!!」

 

 ソウルストーンをマモコさんに向かって投げる。これはもう必要無い。

 

「いでっ!?」

「そしてヒカリ!! 俺はヒカリに伝えなきゃいけない事があるんだ!! 聞いてくれ!!」

 

「と、トウヤ君? 伝えなきゃいけない事って――」

 

 俺はもう自分の心に嘘を付かない!!

 

 

 

 

 

 あ、あの野郎ソウルストーン投げやがったぞ!? 急に投げるからビックリして受け取り損ねたじゃないか!! 

 

「ヒカリ!! 俺はあの時!! 君の右腕を傷付けてしまったあの日に――」

 

 ん? なんだなんだ? 例のトラウマの奴か。

 

「傷付くヒカリを見て美しいと感じた!! 優しくて可憐な君が痛みによって見せた剥き出しの表情を美しく感じたんだ!! あの時の俺は罪悪感を感じながらも……その表情をもっと見たいと思った!!」

 

「えぇ……?」

 

 な、なにを言い出すんだトウヤ君? 正直ドン引きだぞ? 

 ほら、みんな固まっているよ……空気がヒエッヒエだよ。

 

「俺はその衝動を恥じた!! あれ以来俺は自分の気持ちに嘘を付いて生きてきた!! そしてソウルランナーの声も聞こえなくなって……俺はドンドン弱くなった。自分を偽ったばかりに……」

 

 お、おう? そうなのか?

 

「だけど俺はもう自分の気持ちを偽らない!! 俺は自分の衝動に嘘をつかない!!」

 

 いや、それはそれでどうかと思うけど……

 

「俺は!! 人が痛みによって見せる真実のソウルが見たい!! 特に女の子の!! ヒカリや可愛い女の子の痛みに耐える表情が!! 涙で潤んだ美しい瞳が見たいんだ!!」

 

 …………こういう時、どういう表情をすればいいんだろう?

 

 第三体育館は静寂に包まれた。よく見るとレイキ君も完全にフリーズしている。オベロンもジュリエットもバトル中なのに停止している。物理的ではなく精神的に凍てつかせるとは……

 

「トウヤ君……」

 

 ヒカリちゃんが静かにトウヤ君の名前を呟いた。

 

 やばいぞ!? なんか僕のせいでトウヤ君がおかしくなったみたいに思われるんじゃないか!?

 

「ひ、ヒカリ? トウヤ君はバトルの興奮で少し錯乱して……」

 

「私……嬉しいよ! ようやく、ようやく正直に話してくれてたんだね! トウヤ君が私をそういう風に見ていたのはずっと分かっていた! でも、直接口に出して伝えてくれるのをずっと待っていたの……」

 

 あっ、そうか。ヒカリちゃんは相手の望みが分かる。トウヤ君の望みもバレバレだったのか……

 

 えっ、それでいいの!? 嬉しいのかそれは!? 今のカミングアウトで感動したの!? 喜びの涙かソレ!?

 

 するとヒカリは上着を脱ぎ出し、二の腕を露出して見せる。白くて綺麗な肌に痛々しい傷跡が残っている。

 

「私も本当の事を言うね! 本当はこの傷は私の癒やしの力で綺麗に治せるの! でも、この傷を見る度にトウヤ君が私の事を特別な気持ちで見てくれるから、そのままにしていたの……ごめんねトウヤ君……トウヤ君の視線が心地良くて」

 

 みるみる内に消えていくヒカリちゃんの傷跡……なんじゃこりゃ?

 

 なんだ? コイツラは何を言っているんだ……理解できん、僕の脳が理解を拒んでいる。ウゴゴ……人間とは一体?

 

「ヒカリ、謝るのは俺の方だよ……今までゴメンな」

「トウヤ君……」

 

 いや、バトル中だぞ? イチャつくなよ、この倒錯者共が……

 

「うぅ、ようやくか。トウヤ、ヒカリ……良かったなぁ」

「トウヤ、ヒカリ……言えたのね」

「ふふっ、なんか懐かしいな」

「うん、昔のトウヤを思い出すね」

「でも、少し男らしくなった」

 

 隣で泣き出したヒムロ君、四天王達も涙ぐんでいる。

 感動する場面かコレ? そういう微笑ましい気持ちで見ていいやつかな?

 

「なっ!? この光はまさか……」

 

 天王さんの驚きの声に、僕達はバトルフィールドへと再び視線を向ける。

 

 そこには光に包まれるトウヤ君のサテライト・オベロンの姿があった。

 あっ、この光は何回か見た事が……

 

「間違いない、サテライトオベロンが……」

「機体が進化してやがる!? しかもこれは……」

 

 やっぱり機体がパワーアップして進化する時の光だ。

 

 かつての仲間たちはピンチになるとよくこうやって機体を進化させていた……しかし過去最低のパワーアップイベントだぞ。

 

 光が止むと、そこには大きくフォルムを変えたトウヤ君のオベロンがあった……青を基調としたデザインは白へと変化し、黄金の縁取りと装飾が追加されている。

 大分変わったなあ、殆ど別モンだぞ? サイズもひと回り大きくなった。

 

「声が聞こえる……そうか!! お前の新しい名前はウーラノス!! 天王星の意思を宿し天を司るプラネット・ウーラノスだ!!」

 

「サテライトシリーズがプラネットシリーズへと進化した!? あり得ない……サテライトシリーズのソウルコアに含まれるプラネテスエレメントは20%以下だ。まさか……トウヤのソウルがプラネテスエレメントを生み出した!? それならばシン・第三惑星計画とは……」

 

 なんか天王さんがブツブツ言ってる……トウヤ君のカミングアウトがショックでおかしくなったか?

 

「ヘヘっ、面白え!! 最高だぜトウヤァ!! そうだ!! それでこそお前だ!! そうでなくちゃ俺の気持ちが報われねえ!! 決着をつけるぞ!!」

「ああ!! レイキ!! 偽りの無い俺のソウルを受け止めてくれ!! バトルを再開しよう!!」

 

 二人のソウルがどんどん高まっていく。特にトウヤ君の高まりは凄えな、見ててヒヤッとするくらい強力なソウルだ。

 ……やっぱり色々と曝け出した奴は強いのか? 失うもんが無いと無敵か?

 

「問いかけろ!! サテライト・ジュリエットォ!!」

「天を統べろ!! プラネット・ウーラノス!!」

 

 二人の機体があらん限りのソウルを纏って正面から激突する。

 

 結果は……圧倒的だ。ジュリエットは吹っ飛んで戦闘不能となり、冷泉君はソウル体を破壊されて生身へと戻った。

 

 トウヤ君の勝利だ。機体を進化させたトウヤ君は逆転勝利を掴み取った。

 

 うわぁ、レイキ君だいぶ吹っ飛んだな。トウヤ君のウーラノスは恐ろしい威力だ。このヤバさはミナト君のメルクリウスを思い出す。ううっ、古傷が……

 

「サテライト・ジュリエット戦闘不能!! このバトルは……凍咲トウヤの勝利だ!!」

「レイキ!!」

 

 審判の天王さんがトウヤ君の勝利を宣言する。

 

 それと同時にトウヤ君は吹っ飛んだ冷泉君に向かって走り出した。少し遅れて天王さんも駆け出す。

 ベンチのみんなも駆け出したので取り敢えず僕も後に続く。ヒカリちゃんならケガしてても癒やしの力で治せるけど……一応僕も見てやるか。

 

 みんなに追いつくと、トウヤ君が横たわる冷泉君に寄り添い。ヒカリちゃんは既に癒やしの力を冷泉君に施していた。

 

「レイキ、大丈夫か? 気分は……」

「へっ、体は多少痛むが気分は悪くねえよ。トウヤ、お前の最後の一撃、昔を思い出したぜ、お前はそうでなくちゃな……」

 

 ……何故かいい感じに和解しそうだな。トウヤ君のカミングアウトついでに愛しのヒカリちゃんもおかしい事が分かって錯乱してるのか?

 

「レイキ、お前のこれまでの怒りも、今満足しているのも嘘じゃないのがソウルを通して分かる。レイキ、お前は今までなにを望んで、なにに怒りを覚えていたんだ? 教えてくれないか?」

 

 うわ、それを聞いちゃうのか? 敗者にムチ打つとは容赦ねえなトウヤ君、ドS過ぎるだろ……

 

「へっ、くだらねえ嫉妬だよ。強いお前の側にいるなら納得出来たんだ。ウダウダと迷って足踏みしているお前に……お前から離れないのに腹が立った。俺の方が強いのになんでトウヤを選ぶんだってな、なんでトウヤの側にばかりいるんだって……」

 

 悲しいけど強さだけじゃ人は付いて来ないからなぁ……僕みたいに愛しさと切なさと心強さを兼ね備えていないとモテモテにはなれない。

 まあ、ヒカリちゃんの事はスッパリ諦めるのが吉だ。モンスターはモンスターと結ばれた方が世界の為だろう。危険な二人には周囲に被害が及ばないように二人きりの世界で特殊な愛を育んで貰おう。

 

「俺は……ヒムロが弱いトウヤの側にいる事に嫉妬してたんだよ! へっ、女々しくて笑えるよな……」

 

 んあっ!? そっち!? 気にしていたのはヒカリちゃんじゃなくてヒムロ君なの!?

 

「笑ったりしないよレイキ。話してくれてありがとう」

 

 友情的な意味だよな? まだ小学5年生だもんね? 微笑ましい子どもの嫉妬……そういう事にしておこう。

 

「レイキ! 俺だって寂しかったぜ! 昔はどこに行くにも四人一緒だったのにお前は離れちまってよ……これからはそんなことないよな?」

「ヒムロ、俺は……」

 

 うーん、ヒムロ君はピュアな小学生だ。その純粋な気持ちを忘れないで欲しい。四人の中で唯一の良心の気がする。

 

「そうだよ! 私達はもう自分に嘘は付かない! また四人で仲良く出来る! そうだよね?」

「ああ、ヒカリの言う通りだよ。俺達は……気持ちを打ち明け合った。また昔みたいに戻れるさ」

 

 打ち明け合った? 間違ってはいないのかな……なんか違うような気がする。

 

「へっ、甘ちゃんな所はそのままかよ」

 

 憎まれ口を叩きながらも、冷泉君のサングラスからは涙が溢れている。

 うーん、予定とは大分違うけど取り敢えず丸く収まったかな?

 

「無事に仲直り出来たようだな。私は嬉しい。チームのリーダーとして、お前達の姉としてもな。私はどうにも出来ない現状を見て見ぬ振りして来た。忙しさを言い訳にして。でも、本当はどうすればいいか分からなかっただけなんだ……すまない」

 

「姉さん……」

「トウカ様……」

 

 いやいや、天王さんは小学生なのに気負い過ぎだ。舞車町の平和を守る為に天王さんは十分に良くやっているだろう。そこに加えて弟達の人間関係まで完璧にケアするのは流石にキツイはずだ。そもそも前者は子どもに任せる仕事ではない。

 

 なにもかもを完璧な奴なんていない……僕以外はね♡

 

「お前達は田中の力を借りはしたが、一度綻んだ絆を再び取り戻した。それは一度も壊れた事の無い物よりもずっと強い。きっとお前達ならこれから先に、再び絆が揺らぐ事があっても必ず乗り越えられる。私はそう信じるよ……お前達は私の誇りだ」

 

 いい事言うなあ、やっぱりカリスマがあるよ。やっぱり天王さんは永遠に椅子から切り離しておいた方がいいな。

 

「そうだな、私もお前達に偽るのは辞めよう……実は私は信頼する相手にいじめられるのが好きなんだ。お尻とか叩かれると凄い嬉しい」

 

 おい!? なんでもかんでもカミングアウトすればいいって訳じゃねえぞ!? 

 

「わ、私は男の子達が仲良くしてるのを見るのが好きだ!! 実はそういう漫画を執筆している!!」

「私は女の子同士が好き!! イラストを書いてるの!!」

「私はどっちもイケるよ!! 性別なんて些細な物よ!!」

「そのぉ、ソウルギア達のね……擬人化って知ってるかな?」

 

 し、四天王共も便乗しやがった。碌な趣味の奴がいねえな……

 

「姉さん、みんなこれで俺達は――」

「ああ、トウヤ。自分を打ち明けて私達クリスタル・ハーシェルの絆は今までより強くなった」

 

 互いの弱点を握りあったの間違いじゃないか?

 

「ああ! 今日はチームが生まれ変わった記念日だぜ!」

「うん! クリスタルハーシェルは強くなったね!」

「へっ、照れくせえが同意するしかねえな」

「そうだ! 私達は進化したんだ!」

「そうだね! 一段階上のチームになった!」

「生まれ変わった私達は無敵だよ!」

「その通り! 負ける気がしない!」

 

 コイツ等……今ので団結していやがる!?

 

 恐ろしい、恐ろしいぞクリスタルハーシェル。僕はとんでもないチームを生み出してしまったのかもしれない……

 

「マモコさん! 僕達が進化出来たのは君のお陰だ! 本当にありがとう!」

「うん! マモコちゃんは宣言通りに私達を一段階上に引き上げてくれた! 本当に凄いよ!」

 

 いや、僕は決してこういう形の進化を促してはいない。濡れ衣だ。

 

「私からも礼を言うよ田中、君は宣言通りにトウヤを一週間でここまで導いた。そして、私達チームを確かに強くしてくれた。本当にありがとう。今度はこちらの番だ。私は全力で君の願いを叶える為に力を貸す、ここに誓おう」

 

 濡れ衣じゃないかも……言われてみれば僕の予想通りの展開になった。

 ヘヘッ、やはり僕の作戦は完璧で一片の狂いもなかった。

 

「フフッ、私は少し可能性を引き出しただけよ。でも、お礼はありがたく受け取るわ。これからよろしくね天王さん」

 

「ああ、よろしく頼む。そうだ、もしよかったら田中もクリスタルハーシェルに入らないか? チームの定員は十人まで、あと一人枠が空いている」

 

「私がクリスタルハーシェルに?」

 

 うーん、ちょっと怖いな、気が付いたら特殊な趣味に巻き込まれていそう……

 

「マモコさんが仲間になってくれるなら嬉しいよ!」

「うん、マモコちゃんも一緒ならきっと楽しいよね!」

「ああ、田中が入ってくれたら心強いぜ!」

「へっ、お前なら……もっと面白い物を見せてくれそうだな」

 

 めちゃくちゃ歓迎ムードで断りにくいな。どうしよう……

 

「そうだな、クリスタルハーシェルに加入すれば色々と特典がある。授業の出席には色々と融通が利くし、プラネット社の運営する施設のサービスが殆ど無料で受けられる。後は下部チームへの部分的な指揮権が……」

 

「そうね、クリスタルハーシェルに加入させて貰うわ。これからよろしくね。ちなみに私は平和が大好き、なによりも安心と安全の日常を望んでいるわ」

 

「おお! そうか! 歓迎するぞ田中……いやマモコ!」

 

 うんうん、ここまで望まれて断るのは人としてアレだよね? 別に特典とか権力に興味はないけどね?

 

「ならこの後は田中の歓迎会だな! クリスタルハーシェルに新しい仲間が増えた事をみんなで祝おうぜ!」

 

「そうだな、あれ以来組織もPTAも大人しい。溜まっている業務も無い。久しぶりにみんなで羽目を外すか」

 

「やった! それじゃあカラオケに行こうよ、カラオケ。マモコちゃんの歌ってるのが聞きたいな」

「みんなでカラオケか……凄い久し振りだね」

「それじゃあ駅前の舞車ビルだな。あそこならカラオケ以外にも色々あるもんな、ボウリングも捨てがたいぜ」

「そうだな、ボウリングで二戦目も悪くない……」

 

 天王さんの言葉に、みんなはあーだこーだと盛り上がる。

 

 羽目を外すといっても常識の範囲内で頼むぞ? 急に鞭を振り出したり、人間椅子とかセルフ亀甲縛りとか変な一発芸はやめようね?

 

 でもまあ、歓迎されるってのはやっぱり嬉しい。こうやって大勢でガヤガヤ盛り上がっているのは……なんだかんだいっても楽しい気分になる。

 

 これにて一件落着。僕の完璧な作戦通りにトウヤ君は強くなり、クリスタルハーシェルのみんなからの好感度は爆上がりだ。

 

 ああ、自分の才能が怖いね。なにもかも上手く行ってしまったよ。舞車町で一番の権力者から信頼を得て仲間入りまで果たした。

 力を貸してもらう契約もあるし、これでこの町での安心と安全は保証されたも同然。月のソウルの入手も確実だろう。

 

 ガハハ、勝ったな。よっしゃ、景気付けにカラオケで僕の美声を披露してやるか! 

 

 


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