オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!   作:定道

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ワクワク同盟会議編
風評被害!? 謂れ無きバウンティラッシュ!!


 

 

 若干の不安を感じたクリスタルハーシェルに加入しての生活は、僕の予想に反して実に平和的に過ぎていった。

 

 なぜなら、EE団とPTA共がめっきりと姿を現さなくなったからだ。最近の舞車町は実に平和で素晴らしい。

 

 トウカさん曰く、プラネット社の本拠地である星乃町で両者の大規模な抗争があったらしく、そちらに人員を割いたので他の活動が出来ないのだろう……との事だ。

 

 なので、僕が加入してからのクリスタルハーシェルのメインの活動は平和なパトロールと、何故かチーム内での模擬戦等の訓練ばかりだ。他のチームと試合をしないのか?

 

「トウカさん、私が加入してからチーム内で訓練ばかりだけど……大会やランク戦に参加しなくていいのかしら」

 

 本日の第三体育館には、四天王達以外のクリスタルハーシェルのメンバーが集まっている。

 

 暦の上ではもうすぐ7月、僕の加入以来チームの雰囲気は実に和やかなもので、訓練でもピリピリとした雰囲気にはならない、仲良くて大変よろしい。

 ただ、交代で町のパトロールがあるので放課後の訓練に全員集合はちょっと難しい。今日は四天王達が当番だ。

 

 そして今は模擬戦が終わって休憩中、ヒカリちゃんが持ってきてくれた白神庵の饅頭で糖分補給タイムだ。

 

「私も出来れば試合がしたいんだがな……クリスタルハーシェルは現在、大会やランク戦への参加を禁じられている。夏休みに行われるプラネットソウルズの同盟会議までポイントを変動させるなと通達があった。ランクポイントには余裕があるとは言え愚かな選択だ。タイヨウらしくない妙な指示だよ」

 

 ふーん、確かによく分からん指示だな。そして同盟会議ってなんだ? 例のプラネットソウルズが全員集まってミーティングでもするのかな。

 

 だが、タイヨウって名前は聞いた事がある。かなり有名人だ。

 

 天照タイヨウ、国内No.1であるソウルカードチーム“サンライズコペルニクス“のリーダーで、個人でもトップのテイマーだ。

 そして惑星の一族の子ども達の同盟プラネットソウルズの盟主で、プラネット社長の息子で御曹司でもある。

 

 更にはソウルカード以外のソウルギアを4つとも操る事ができる天才と評されており、将来はプラネット社を継ぐ事が約束されている。

 しかも、スタイルが良くイケメンでファンクラブまである。この前テレビで特集をやっていたのをユピテル君と一緒に見た。

 

 天才でイケメンで金持ち? けっ、気に食わねぇなぁ、世間の厳しさも知らねぇボンボンがナンボのもんじゃい! この箱入り息子め!

 

 それなら僕の方が優れて……僕が優れてる所? えーと……僕の方がカワイイから勝ちだな。

 

 カワイイは正義、すなわち僕の勝利だ。敗北を知りたいよまったく。

 

「ふん、あんな人は元々愚か者ですよトウカ様。本人は偉そうだし、いつもくっ付いてるあの女はトウカ様に失礼です」

 

「んぐ、そうなのかヒカリ? 確かにテレビでも自信満々そうな野郎だったけどよ……あーん」

 

 ユピテル君に饅頭を食わせながらヒカリちゃんが天照タイヨウを批判する。

 完全に餌付けされてるよあの背後霊、ペット感覚で飼い慣らされている。

 

「ヒカリはタイヨウさんに嫉妬してるんだよマモコさん。姉さんはタイヨウさんの許嫁の1人だからね。昔から姉さんを取られた様に感じて嫌ってるんだ。いつも側で仕えてる蒼星アオイさんも婚約者の一人でね、対抗意識がある姉さんへの態度がキツイんだ」

 

 僕の視線を見て解説してくれるトウヤ君。

 

 ほーん、トウカさんが婚約者の一人ねえ? しかも常に女を侍らせてるだと? ガキの癖に生意気だな天照タイヨウ……くそ、羨ましい。

 

 トウヤ君は納得してるのか? そんないけ好かない野郎にトウカさんを取られていいのか?

 

「フフッ、トウヤ君はお姉さんを取られて嫉妬しないの?」

 

「うーん、思う所はあるけど俺はタイヨウさんを尊敬しているからね、あの人は強くて厳しいけど公正な人だよ。それに、許嫁って言っても割と簡単に解消されるから絶対じゃない、俺にも昔は3人許嫁が居たんだけど……魂魄の儀に失敗したら0人だよ」

 

 おお、トウヤ君に悲しき過去……

 いや、逆によかったかもね。そのままだったらヒカリちゃんがどんな凶行に及んでいたか分からない。

 

「俺はいいと思うけどな。いずれプラネット社を背負って立つ最強のテイマーのタイヨウ様と、最強のランナーであるトウカ様はお似合いだと思うぜ! お前もそう思うだろレイキ?」

 

「そうだなヒムロ、トウカ様には最強の男が相応しい。その点ではタイヨウは悪くねえ、偉そうなのはムカつくけどな」

 

 なんだ。反対してんのはヒカリちゃんだけじゃん。

 

 ん、待てよ? いずれプラネット社の社長になる天照タイヨウの許嫁って事は……トウカさんは将来プラネット社の社長夫人になるのか?

 

 フヒヒ、トウカさんと仲良くなれてよかったぞ♡ 

 

 今からじっくりと友情を育んでおけば将来色々とおこぼれに与れるかもしれん。持つべきものは友だねえ。

 

「まあそう言ってやるなヒカリ。タイヨウもアオイもあれで色々と苦労している。特に今、私達の同盟プラネットソウルズは田中マモル一派によって窮地に立たされている。盟主であるタイヨウは上からの叱責と下の取り纏めにかなり苦労しているはずだ。仲間である私達ぐらいは労ってやろう」

 

 いやあ、本当に田中マモルは迷惑な野郎ですね? 我らの盟主である天照タイヨウさんに迷惑をかけるとは……まったくけしからん。

 

「なあトウカ様、今年の同盟会議は舞車町で開催するって本当か? 星乃町の友達からそういう噂を聞いたんだけどよ……なんか最近星乃町が凄い荒れてるって話だぜ?」

 

「ふむ、明日正式にみんなを集めて通達しようと思ったが……先に伝えておくか。その噂は真実だ。確かに今の星乃町は大いに荒れていて、とても同盟会議を開催する状態にない。だから、一番近場で比較的平和な舞車町が会場に選ばれた。夏休みに入れば準備で忙しくなるぞ」

 

 へえ、星乃町が荒れてるねえ……一応僕の生まれ故郷だからちょっと心配だ。僕の実家、つまり月読家はあの町にある。

 家に閉じ込められて育ったから町並みなんてまったく知らんけどね。それでも多少の思い入れはある。

 

 そういえば大規模な抗争があったって言ってたもんな、やっぱ悪の組織とPTAはどうしようもない。僕を始めとする無辜の一般市民には迷惑すぎる存在だ。

 

「理由は組織とPTAだけじゃない。これは威信を保つ為に一族のみに明かされている情報だが……実はプラネットラボとプラネットファクトリーが襲撃されて被害が出ている。しかも犯人は未だに捕まっていない」

 

 ん? 組織とPTA以外にもそんな危険人物が居るのか。

 

「ラボとファクトリーが!? 本当なの姉さん?」

 

 プラネットラボとプラネットファクトリーはめちゃくちゃ有名だよね。無知の知を体現する僕ですら知っている。

 

 最先端のソウルギアの研究で有名なラボに、世界で唯一ソウルコアの製造をしているファクトリー。

 

 どちらも世界中の悪党共がよだれを垂らして狙っているプラネット社の重要な施設だ。惑星の一族でも有力なソウルギア使い達が常に100人以上の警備体制で守られている。

 なので、稼働してから今まで一度も外敵の侵入を許していないことで有名……テレビで見た、情報ソースがテレビばっかりだな僕は。もしかして情弱なのん?

 

 防衛記録は破られちゃったみたいだけど、本当に今までも守れていたのか? 

 実は何回も破られていたけど隠蔽していそうだ。トウカさんの口振りから、襲撃された事実をコソコソ隠しているみたいだしね。

 

「プラネット社でも特に重要なあの施設を襲撃して逃亡に成功するなんて……凄い危険な人物が星乃町に出現したみたいだね。ちょっと怖いな」

 

 そう言いながらトウヤ君にすり寄るヒカリちゃん、僕は身近な分ヒカリちゃんの方がちょっと怖い。

 

「実はな、犯人は田中マモルなんだよヒカリ。ラボとファクトリーの襲撃者は我が校の4年4組に在席している田中マモルだ。詳細をタブレットに送るから確認してみろ」

 

 ファッ!? ホワイ!? 田中マモルホワイ!?

 

 急いでタブレットを取り出してデータを確認する……こ、これはマジか?

 

「うお!? ファクトリーの一番炉に二番炉、それに九番炉が襲撃により稼働不可能になるまで損傷。年内の修復はおろか下手すりゃ廃炉って……ヤバいな」

 

「ラボに保管されていたソウル産業革命以前の特級遺物が複数行方不明、ソウルカード用の新型ソウルラミネートのサンプルも奪われている。物凄い被害だ……確かに同盟会議どころじゃないね」

 

 か、母さん!? 何をやってくれちゃってんの!? やりたい放題かよ!?

 

「オイオイ、ビンゴブックにもしっかり手配されてるぜ。見ろよ、初手配なのに懸賞金額が3千万。これじゃあ少し察しの良い奴等には襲撃の事実がバレバレだな。しかし、面白え奴だな田中マモル。ここまで堂々とプラネット社に盾突くとはイかれてるぜ」

 

 えへへ、褒められちゃった♡ 田中マモル、齢十一歳にして賞金三千万で手配書デビューでヤンス!

 

 どうしてこうなった……何やってんだよオカン、正気か?

 

「うへぇ、その額じゃA級の賞金稼ぎ達も動くな。悪名高い“漆黒のブラックノワール“、“地獄のハイエナブラザーズ、“ソウル貴族のドリフト男爵“、“星狩りキララハンター“ああいう奴等が情報収集に舞車町に来るなら治安が悪くなる。注意が必要だよな。やってくれるぜ田中マモル」

 

 僕はこれから先、そんなふざけた名前の奴等に怯えて生きる事になるのか……

 

「もう、ヒムロ君にレイキ君! マモル君はマモコちゃんの親戚かもしれないんだよ! あんまり悪く言っちゃ可哀想でしょ!」

 

 饅頭をもぐもぐしながらユピテル君が僕を見てくる。

 なにか言いたげだね、そんな目で僕を見るなよ……賞金首はどう考えても僕のせいじゃねえぞ?

 

「あ、そうか……ゴメンなマモコ」

「へっ、分かったよ。悪かったなマモコ」

 

「わ、私に気を使う必要はないわ。誰であろうと罪は罪よ……」

 

 実際に迷惑な話だよね。マジで何やってんの母さん? 反抗期かな?

 

 人には大人しくしてろとか言って自分は大暴れじゃないっすか……関係各所に迷惑かけまくりですね。

 

 あっ!? 僕が所属していたチームのみんなもヤバいんじゃないのか!? プラネット社に拘束されたり尋問されたり、もしかして……

 

「トウカさん、田中マモルが所属していた3つのチームへの対応はどうなの? もしかして彼等にも賞金がかけられたり……」

 

「いや、彼等は様々な公式の大会にエントリー登録していて迂闊に手出しが出来ないんだ。公式のソウルバトルは全て、惑星の意思へ捧げるとの契約の元に行われる。つまり、大会へとエントリーしている彼等を害する事は、惑星の意思に反する事になるからな、少なくともプラネット社に関わる者は彼等に手が出せない。田中マモルは今の所、あらゆる大会やランク戦に参加していないので別だ。見つけ次第手段を問わずに拘束しろと通達されている」

 

「へ、へえ……そうなの」

 

 あ、危ねえ……迂闊に元の姿に戻れねえ。

 

 しかし、みんなに被害が及ばないで本当に良かった。たくましい奴等だけど、心配にならない訳じゃない。そういう所に抜け目ない人材が各チーム一人は居て良かった。

 リク君とかナガレ君とかビリオ君とかはそういう小細工が得意だ。

 彼等は情報通だし、危険を察知して大会にエントリーする事で身を守ったんだろう。帰ったら一応連絡して安否を確認しておくとするか。

 

「ところで同盟会議ってどういう主旨の催しなの? 集まって同盟の方針を話し合いでもするのかしら?」

 

 話題を逸らそう、これ以上田中マモルの話になると胃が痛くなりそうだ。

 

「確かにそれが主目的ではあるな。だが、恐らくマモコが想像しているよりも大規模な物だ。私達を含めたメイン五つのチームだけではなく、下部チームや関係者が一同に会する。おおよそ2千人程度のソウルギア使いが集まる大掛かりな会合だ。全体の方針や具体的な目標を決めたり、チーム間でのメンバーのトレード、交流戦なども行われる。毎年夏休みに五日間開催される。ただの会議ではない、一族の子供達の交流と団結を促す大切な行事だ」

 

 わざわざ全国から2千人も集めるのか……下っ端達はテンション低いだろうな、僕だったらお偉いさんだけでやれよって思う。正直面倒臭そう。

 

「同盟会議は田中マモルとそのチームへの対策についてがメインの議題になるだろうね。なにせ僕達プラネットソウルズは彼等に追い詰められている。ソウルシューターとスピナーではランク戦でランキング一位を奪われ、ストリンガーでも猛烈な勢いで追い抜かれそうだ」

 

 へへ、トウヤ君。アイツ等は加減ってやつを知らんもんでして……なんかすんませんね。 

 

 はあ……結局、田中マモルの話になるのか。

 

 本当に迷惑な野郎だよ田中マモル、偉大なるプラネット社と華麗なる一族に楯突くなんてな愚かな選択をした……してないのに……おかしいぞ、悪夢かな?

 

「へっ、ランキング首位が安泰なのは俺達クリスタルハーシェルとタイヨウのサンライズコペルニクスだけとはな。最強の同盟、プラネットソウルズの名も地に墜ちたよ」

 

「油断は禁物だぞレイキ、私達も慢心せずに成長せねばならない。だからこそマモコのソウルメイクアップは本当にありがたい、練習効率が飛躍的に上昇する素晴らしい技だよ」

 

「フフッ、お役に立てて光栄ね」

 

 チーム内での訓練では、トウヤ君だけでなくチームのみんなに順番にソウルメイクアップを施している。来たるべき日に僕の手足となって活躍して貰うためだ。手に入れた力で月のソウルを僕にもたらしてくれ。

 

 そして、ソウルメイクアップを使いまくったので、最近では一日に3人まではイケる様になった。

 ただ、ユピテル君が毎晩の権利を主張するので、クリスタルハーシェルのみんなの訓練は一日に二人ずつとなる。

 

 ヘヘッ、アッシはプラネット社のお役に立ちまっせ? 

 

 だから懸賞金をかけないでくださいお願いします……あっ、トウカ様、何なら足でも舐めましょうか?

 

「さて、そろそろ訓練を再開するか」

 

 トウカ様の言葉にみんなが訓練に戻る。

 

 そして、僕の元にトウヤ君とヒカリちゃんが近寄ってくる。今日のソウルメイクアップはこの二人の順番だ。

 

「マモコちゃん! ユピテル君に聞いたんだけどソウルメイクアップで他のソウルギアの習得も促せるって本当なの!?」

 

 ヒカリちゃんが何故か興奮気味に質問して来る。急にテンション高いぞ? 凄く嫌な予感がする。

 

「ええ、可能ね。残念ながらソウルカードは使った事がないから無理だけど、他のソウルギアならどれでも大丈夫よ」

 

「マモコさん、それならこの後は俺達にソウルストリンガー用のソウルメイクアップをして欲しいんだ」

 

「それは構わないけれど……なぜソウルストリンガーなの?」

 

 ついさっき、慢心せずに強くなろうって話になったよね。なんでこのタイミングで他のソウルギアに浮気するの?

 

「えへへ、ストリンガーになればいつでもソウルの糸で相手を拘束できるでしょ? 凄い便利だなあって思ったの」

 

 ほーん、拘束ねえ……ちなみに敵をだよね? 仲間を縛らないよね?

 

「慣れれば複雑な縛り方も出来るんだよね、楽しみだなあ」

 

 僕はトウヤ君を正しい方向に成長させる事が出来なかったようだ。

 これが僕の罪か……認めたくないものだね。ユピテル君の視線が痛い。

 

 結局断る事も出来ず、二人のストリンガーとしての可能性を映し出す事になった。

 

 やっぱり意欲があると習得が早い。その日の訓練の終盤になると、二人はそれなりに練習用のソウルストリンガーを使いこなしていた。

 

 ウキウキとした表情を浮かべ、ソウルの糸でヒカリちゃんを縛るトウヤ君、それを嬉しそうに受け入れるヒカリちゃん。

 これを間近で見せ付けられるのは報いなのか……ウゴゴ、罪と罰、因果応報。

 

 でも、他人の好きを否定するのは良くないよな、実際に好きにやらせたほうが強くなるのは事実だ。その糸が僕を捉える事が無い事を祈ろう。

 

 そしてその日の訓練は終了して帰り際になると、トウカさんがひっそりと声をかけて来た。

 

 ちょっとモジモジしているので再び嫌な予感がする。

 

「なあ、マモコ。明日は私とレイキがソウルメイクアップを受けるだろう? 私もソウルストリンガーの習得を希望する。いつでも縛れるのは素晴らしいな、実物と違ってすぐに解ける点も良い。そう思わないか?」

 

 こ、この似た者姉弟が……

 

 

 

 

 

 ユピテル君と共に帰宅し、地杜さんにくれぐれもお残しをしない様に注意された夕食を済ませた後、一応周囲の気配に注意をしながら安否確認の電話をかける事にした。

 

 連絡先は……ミカゲちゃんはちょっと怖いからな、取り敢えず御玉町のソラ君に連絡しよう。

 

 コール音が響く……響く……響く。なかなか電話に出る気配がない。もうそれなりに遅い時間だから寝ているのかな?

 

 そう思って電話を切ろうと思った直前、コール音が止んで電話が繋がった。

 

『おう! 久し振りだなマモル! この時間にかけてくるのは珍しいな! なにか緊急の用事か!?』

『目障りだよ! メルクリウスシンドローム!!』

 

 元気よく電話に出るソラ君、後ろからミナト君が必殺技をぶっ放す物騒な叫びが聞こえてきた。物凄い破壊音が聞こえる。

 

 なんだなんだ? 戦闘中か? こんな時間に公式戦な訳がないし……もしかして組織を相手にしてるのか?

 

「いや、あのさあ……ほら、例の懸賞金の件でみんなが危ない思いをしてるんじゃないかと思って電話したんだけど……戦闘中だったみたいだね。かけ直そうか?」

 

『今ので船は制圧したから問題無いぜ! 俺達を心配して電話してくれたんだな! おーいみんな! マモルから電話が来たぞー!』

 

 船を制圧? 何をやってんだよ……穏やかじゃねえぞ?

 

『マモルかい? 僕達は全員美しく無事さ、心配は要らないよ。君の方こそ美しく健やかかな?』

 

 ん? もしかしてアイジ君? えっ、なんでソラ君と一緒に居るんだよ。

 

『マモルですって!? ちょっと!! アンタ、ユピテルにちゃんと食べさせてあげてる!? 最近連絡が少ないじゃないのよ!!』

 

 この怒鳴り声……間違いなくイズナちゃんだ。どうなってるんだ?

 

『フッ、カイテンとヨリイトの奴等も中々やるなマモル。予想より早く片付いたぜ』

『マモル君、ソウルスッポンは軌道に乗ってるから安心してよ。今から利益を増やして来るから楽しみにしててね』

『マモル君、美味しいお土産を買って来るからユピテル君にもよろしくでやんす』

『マモル君……待っててね、もうすぐ、もうすぐ会いに行くから……』

『これからみんなで遠征だぜェ! 許可をくれよマモルゥ、暴れ足りねぇんだァ……』

『マモル君? 心配してくれてありがとうね、僕達は大丈夫ってユピテルにも伝えておいてよ』

 

 電話越しに次々と聞こえてくる聞き覚えのある声達……いっぺんに喋んなや。何言ってんのか分かんねえよ。

 

 もしかして3チームが揃ってんの? え、なんで?

 

『マモル殿! これから戦いへと赴く我らの身を案じてくれるのですか!? 感激です! ニンニン!』

 

 コイツか!? 絶対コイツだよな!? 今度は周囲まで巻き込んで何を企んでるんだよ!?

 

「ミカゲちゃん? 一体今どこで何をしているんだい? そしてこれから何をするつもりで……」

 

『この通信で詳細な位置は言えませんが……強いて言うなら実家の近くです! ちょっと忘れ物を取りに来たら鬱陶しいのが絡んで来たので大人しくさせました! ミタマとヨリイトの皆さんは流石マモル殿が見込んだ者達ですね! 協力もあってスムーズに制圧出来ました!』

 

 ますます意味が分からんが……絶対に平和的な目的で集った訳でない事は確かなようだ。実家の近く?

 

『このまま船で中国のとある場所にある裏ソウルカジノへと向かいます! 正規ルートではないので暫く連絡が取れなくなりますが……ご安心ください! 全て順調に進んでおります! ニンニン!』

 

 一つたりともご安心出来る要素がなかったよ? 裏ソウルカジノ? 正規ルートでは無い?

 

『マモル! 俺達ミタマシューターズの新しい仲間達が日本に残っている! 連絡はアイツ等から知らせるから待っててくれよな! 予定通り夏休みに会おうぜ! 楽しみにしているからな!』

 

「そ、ソラ君!?」

 

 そんな予定あったか!? それに新しい仲間って、話には聞いていたけど名前を教えてくれてないじゃん? せめて連絡先を……

 

『“カロン“が潜航を開始するよ! 今から全ての通信が遮断される!』

 

 えっ? 潜水艦なの? 

 

 プツっという音と共に電話が切れた。ああ……

 

 もはやまったく意味が分からん。事態は完全に僕がコントロール出来る範囲を超えている気がする。つーか、みんな小学校はどうした?

 

 はあ……もう寝よう、ジタバタしてもしゃーないよね。

 

 みんなは僕の不利益になるような事をしない……しないよね? 信じているからね?

 

 

 

 若干の不安を感じつつも、クリスタルハーシェルでの穏やかな日々は過ぎて行く。休みの日にはみんなでカラオケやボーリングに行ったり実に平和だ。

 

「なるほど、これがストリンガーを扱う感覚……なかなか難しいな。ふむ、お手本にお前のトワイライト・ムーンの糸で私を縛ってくれないかマモコ?」

 

 嫌です。

 

「なあ、マモコ。噂話で聞いたんだが、月読家には性別を変化させる力があるって本当か? もし本当なら俺によ……」

 

 レイキ君本気なのか? ヒムロ君の想いにそこまでの覚悟が……

 

「うお!? 田中マモルの懸賞金が上がってるぞ! 1億だってよ! 一族の有力者達が複数行方不明なのに関与している疑いだってさ!」

 

 ウフフ、1億の男になっちゃった♡ 

 

 ……なんで?

 

 

 

 さらに日々は過ぎて行く、チームのみんなと訓練や交流を深める毎日、いやー平和、平和。

 

「マモコ? 月読一族が性別を変える力を持っているとの噂は本当なのか? 名前は変えるからそのアイディアで漫画を書きたいのだが……許可をくれないか?」

 

「私も! 私にも許可をちょうだい! インスピレーションがどんどん湧いてくるわ!」

 

「えー、私は邪道だと思うけどなあ。でも、試していないのに批判するのは良くないよね。私にその術をかけてくれない? あとレイキにも」

 

「ね、ねえマモコ? マモコのプラチナ・ムーンは男の子と女の子のどっちかな? マモコはどう思う? わたしの解釈では女の子なんだけど……シルバー・ムーンは男の子っぽいよね」

 

 四天王の姿か? これが……

 

「うお!? 田中マモルの懸賞金が上がっているぞ! 3億だってよ! プラネット本社で天照アサヒ社長を襲撃!? マジかよ!? あの人に立ち向かってよく離脱できたな!?」

 

 母さん……アンタはいつまで暴れる気だ?

 

 3億……プラネット社にリークしてやろうかな……

 

 

 

 さらに日々は過ぎて行く。変わらず平和な舞車町で、訓練とパトロールをこなす。そしてたまに息抜きをしてチームの交流を深める日々だ。

 

「マモコ! ソウルメイクアップを頼むぜ! 俺はチームのためにもっと強いランナーになりたいんだ! いつも通りに強くなったランナーの俺の可能性を見せてくれ!」

 

 ヒムロ君、ソウルメイクアップに正しい望みを託してくれるのは君だけだよ……いつまでも純粋なままで居てくれ。

 

「ほう、田中マモルの懸賞金がまた上がっているな……な、15億だと!? 中国の名家である馬一族が条件付きで資金を提供? 理由は語られず……一体なにが?」

 

「うわあ、マジだよ。凄えなぁまも……田中マモル。なんで中国人を怒らせてるんだ? やらかしてるなぁ……」

 

 アイヤー!? ナンデ!? 田中マモル ナンデ!? 

 

 アイツ等は中国の裏カジノでなにやらかしたんだよ!? なんで僕の賞金が上がるんだよ!! おかしいだろ!?

 

 

 

 平和な舞車町とは裏腹に、徐々に不穏になって行くソウルギア界隈と僕の立場。 

 

 降り注ぐ日差しはすっかり夏らしい強いものとなり、舞車町では蝉の鳴き声が聞こえて来る様になった。

 

 もうすぐ夏休みが始まる。同盟会に参加するために日本各地のソウルギア使いが集まり、この舞車町は賑やかになるだろう。

 

 小学5年生の夏休みが始まる。不安だ……不安すぎる。

 

 


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