オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!   作:定道

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一致団結!! 地元最高マグルマスピリット!!

 

 

 体育館とは名ばかりのスタジアム。観客席を含めたこの場のほぼ全員がソウルギアを構え、スタジアム中央の僕とトウヤ君を狙っている。

 全方位からの集中砲火を浴びるのはよろしくない。大人の姿で無茶が出来る内に対処する。

 

「逆巻け!! シルバー・ムーン・エクリプス!!」

「クッ!? デタラメな真似を!!」

「大きい……これなら!!」

 

 シルバー・ムーンの回転による力場でフィールド全体を包み、観客席との間に壁を作る。斥力の結界はあらゆる攻撃を弾き飛ばす。

 

「なんだよこの力場!! デカ過ぎんだろ!?」

「硬い!! 攻撃が弾かれる!?」

 

 観客席では大勢のソウルギア使い達が力場に攻撃を仕掛けているが無駄だ。今の僕の全力を打ち破れる筈がない。

 

 二千人近くのソウルギア使い達をまともに相手をしている暇は無い。必殺技をぶっ放し纏めて吹き飛ばす事もできるが、この人数じゃ繊細な手加減が難しい。ケガをさせずに無力化するならこれが最適だろう。

 

 こうすれば残る敵は、フィールドに居るタイヨウを含めたプラネットソウルズ主要四チームだけだ。

 その数はマモリとミオちゃんを除いた38人、リーダー達はまず間違い無くプラネットシリーズを使う強敵、メンバー達も惑星の一族でも上位の実力者で、サテライトシリーズを使ってくるだろう。

 

 それでも、今の僕なら……僕達なら切り抜けられる。

 

「トウヤ君!! まずは皆を!!」

「分かった!! マモコさん!!」

 

 トウヤ君と同時にソウルチャージ、モタモタしている暇は無い。

 

「瞬け!! プラチナ・ムーン・エクリプス!!」

「疾走れ!! プラネット・ウーラノス!!」

 

 まずは、土星ホシワに捕らえられているクリスタルハーシェルの皆を助ける。狙いは繰り出したトリック、みんなを捕えているソウルの糸だ。

 

 周辺のリングカッシーニの連中が慌てて迎撃するが遅い、その程度の速度じゃプラチナ・ムーンの軌跡すら捉えることは不可能だ。

 

 皆の周りを白金の軌跡が走り眩い瞬きを見せる。手応えはあった。

 

「ぬぅッ!? 最硬度を誇るサターンの糸が容易く!?」

 

 驚いてはいるが土星ホシワは冷静だ。破られたトリックを再び展開しようとしている。立て直しが早い。

 だが、そこにすかさずトウヤ君のウーラノスが走り、皆と土星ホシワ達を遮る様に氷壁を出現させる。

 

「助かったぜトウヤ!! マモコ!!」

「やるぞお前達!! 構えろ!!」

「了解! 絶対にトウカ様を助ける!!」

 

 クリスタルハーシェルの皆は解放されると同時に、それぞれのソウルランナーを放ち戦闘態勢に移る。

 

「トウカ様!!」

 

 だが、ヒカリちゃんだけはトウカさんの捕らえられているコアソウルに向かって飛び出して行った。

 

「ヒカリ!?」

 

 まずい! フォローしないと!? 

 ヒカリちゃんの進行を阻止しようと、蒼星アオイの周辺のメンバーが次々と魂魄獣を召喚する。必殺技で撃ち抜いて――

 

「それ以上は好きにさせんぞ!! 月読ミモリ!!」

 

 飛んで来るソウルの弾丸を、ピース・ムーンの抜き撃ちで迎撃する。

 タイヨウの手には黄金に輝くソウルシューター、アポロニアスドラゴンもこちらへと向かって来る。

 ソウルシューターとソウルカードの同時使用……やるな、伊達に最強を名乗っていないか。

 

「トウヤ君!! みんな!! タイヨウと他の奴等は任せて!! ヒカリちゃんと一緒にトウカさんを!!」

「分かった!! 頼むよマモコさん!!」

「一人で突っ込むなヒカリ! 合わせるぞ!」

 

 ヒカリちゃんを追ってソウルランナーを走らせるトウヤ君達、生み出す氷壁や氷柱が魂魄獣達に襲いかかる。

 

「これ以上は行かせん!! アオイ様をお守りするぞ!!」

「諦めろクリスタルハーシェル!! 魂魄の儀は止められん!!」

 

 急ごう、ソウルカード使い達は皆に任せて、他の奴等を纏めて無力化する。

 

「ストリングスパイダープリズン!!」

 

 手から放たれた無数の糸が、僕に向かって爪を振り下ろすアポロニアスドラゴンを飲み込んで行く。

 一番厄介であろうこいつは倒しても蘇る。ならば、拘束して無力化してしまえばいい。

 恐らく復活にも限界はあるのだろうが、ソウルが切れるまで悠長に付き合っている暇は無い。

 

「そんな物!! 焼き尽くせアポロニアスドラゴン!!」

 

 身体から黄金に輝く炎を巻き上げて糸を焼き切り、僕のトリックから抜け出そうとするアポロニアスドラゴン。

 

「無駄よ!! 大人しく捕まっていなさい!!」

 

 とにかくソウルに物を言わせ、焼き切れた側から次々と糸を補充してトリックを維持し続ける。アポロニアスドラゴンを事が終わるまでこの場に縫い付ける。

 そして、さらに惜しみなくトリックにソウルを注ぎ込む。アポロニアスドラゴンだけではなく、他の奴等にも大量の糸を向かわせる。

 

 アポロニアスドラゴンを捕えている蜘蛛の巣から、大量のソウルの糸がフィールドに溢れ出す。

 このまま全員捕らえてやる。変な能力を使われても厄介だ。纏めて戦闘不能に追い込む。

 

「げ、迎撃が間に合わない……きゃあ!?」

「き、切れない!? それになんて量だ!?」

「ぬぅ!? なんと凄まじきトリック……」

 

 スタジアムにいるのはトップクラスのソウルギア使い、糸の量に怯まずに抗っている者も多い。

 だが、抗うとは言っても僅かな間、数手と持たずに蜘蛛の巣に捕らわれていく。

 

「よ、よくも僕の愛する仲間達を!! 叡智溢れる自在なる銀を!! マーキュリー!!」

「みんなを解放して……海神の怒りで大地を揺らせ!! ネプチューン!!」

「やるな!! だが容易くはとらせんぞ!! 全てを喰らう円環を纏え!! サターン!!」

 

 だが、リーダー3人は流石にやるな。それぞれの方法で糸を迎撃して反撃に転じている。トウカさんと同格の立場なだけはある。

 

「行くよ……沈んで!!」

 

 リエルのネプチューンが激しく回転、力場が展開され足元が激しく揺れ始める。

 すると、僕の周辺に複数の地割れが生まれ、意思を持った様にこちらへと広がっていく。

 嫌な感じがする。ただの地震じゃ無さそうだ。ソウルの糸を使って空中に退避する。

 

「ミズキ!! 繋いで!!」

「良くやったリエル!! 無様に惑え!! ケリュイオン・バレット!!」

 

 空中に飛んだ僕に、ミズキのマーキュリーから放たれた無数の弾丸が襲いかかる。

 銀色に輝く細長い弾丸、蛇の様な不規則な軌道、なんとか見切って避けたかと思えば、弾丸が軌道を変えて再び僕を襲って来た。

 これは……水銀? 撃ち落とそうとすると避け、繰り返し襲ってくる意思を持った水銀の蛇……そういう必殺技か、厄介だな。

 

「この僕が高貴に追い詰めた!! 魅せてやれホシワ!!」

「承知!! 飲み込まれろ!! サトゥルヌス・アステロイド!!」

 

 ホシワのサターンから放たれる糸が陣を描き、スタジアムの上空でトリックが発動する。

 巨大な輪を模した陣の中央に、宇宙を思わせる暗黒の空間が出現、そこから何かが……これは石?

 人の頭程度の大きさから、僕と同じ程度まで様々なサイズの岩石。数えるのが馬鹿らしくなる程の無数のそれが、勢い良く飛び出して来る。狙いは勿論僕だ。

 だが、みすみす当たってやる義理はない。避けて――駄目だ!? この位置関係は不味い! ここで避ければ魂魄獣と戦っている皆に当たるぞ? 嫌らしい攻撃をして来るな!

 

「纏めて吹き飛ばせ!! ルミナス・バレット!!」

 

 先程マモリに放ったのとは違う、貫通力ではなく範囲を広げた光を纏う弾丸で、岩石群を正面から迎え撃つ。

 放射状に放たれた光が、水銀の弾丸と岩石群を飲み込み上空の陣を破壊する。

 

「合わせるぞお前達!! ツインモード!! デュアル・ザ・サン!!」

「「「了解!!」」」

 

 

 チッ、アポロニアスドラゴンを諦めて直接やるつもりか?  

 そして……あれはなんだ? タイヨウの手に持ったソウルシューターが二つに別れて……二丁持ちに変形かよ! カッコいい機体持ってるな! 

 

「焼き尽くせ!! プロミネンス・ツインバースト!!」

「巻き起これ水流!! ネプチューン!!」

「行くよマーキュリー!! ヘルメス・ショット!!」

「やるぞサターン!! サタリング・スラッシャー!!」

 

 渦を巻いて真っ直ぐに放たれる二つの炎、地割れから湧き上がる激しい水流、上空に放たれ雨の様に落ちて来る銀の弾丸、サイドから薙ぐ様に襲いかかる糸で出来た鋭いリング。

 

 僕を空中へと退避させ、息をつかせぬ連携で追い詰め、最後はタイミングを合わせた多角攻撃……いいチームワークだ。避けるのは難しい。

 本来なら連携にトウカさんも加わっていたのだろう、吹き上がる水流を凍らせて対象を凍らせたのかもしれない。

 だが、避けられないのであれば耐えればいい。今の僕にはそれができる。

 

「トワイライトムーン・シェル!!」

 

 自身の周囲にソウルの糸を纏わせ、幾重にも編み込んで球体を形成し、完成した淡く輝く月の中に閉じこもる。

 ソウルの糸で出来たシェルター、僕の防御用のオリジナルトリック。惜しみなくソウルを織り込んだソウルの糸はどんな攻撃も通さない。

 

「ば、馬鹿な!? 美しき連携を耐えただとぉ!?」

「硬い……びくともしない……カチカチ……」

「むぅ、ストリンガーの弱点である斬撃すら通さんとは……」

「狼狽えるなお前達!! あれでは動けん!! もう一度合わせて――」

 

 悪いなタイヨウ、それは許さない。

 

「白金に瞬け!! プラチナ・ムーン・エクリプス!!」

 

 自身を絶対防御で包み、そのまま内部からプラチナ・ムーンを操作する。

 攻撃に集中し過ぎたな、四人とも隙だらけ、背後がガラ空きだ。

 

「クッ!?」

「きゃあ!?」

「ぐへぇ!?」

「ぬぅん!?」

 

 チッ、直前に反応したから微妙に逸れたな、ソウル体の解除まではいかなかった。

 でも、手応えはあった。ダメージは深い、まともな戦闘は不可能だろう。

 ムーン・シェルを解除、その糸を伸ばして蜘蛛の巣の一部に変換、そのまま四人を拘束する。

 

「クッ、月読ミモリィ!!」

 

 返事はしない、もう構っている暇はない。

 

 クリスタルハーシェルの皆は……大丈夫そうだ。

 魂魄獣を操っていたテイマー達は氷で拘束され、クリスタルハーシェルの全員が蒼星アオイとコアソウルを取り囲んでいる。

 

「アオイさん!! トウカ様の助けてって願いが聞こえる!! どんどん沈んで遠ざかって行く!! だからお願い!! 儀式を止めて!! アオイさんだって嫌がってるじゃない!?」

 

 目を真っ赤にしたヒカリちゃんが悲痛な声で叫ぶ。

 だが、蒼星アオイは表情を歪めながらも儀式を止める素振りをみせない。

 

「無駄だヒカリ!! コイツをぶっ飛ばすぞ!!」

「ああ!! それしかないぜ!!」

 

 レイキ君とヒムロ君の言葉に、それぞれが蒼星アオイに向かってソウルランナーを放つ……が、コアソウルから放たれた光に阻まれた。

 

「くっ……無駄よ!! コアソウルに守られる私に攻撃なんて効かない!! それに私は暴走しない様に儀式を維持している!! 下手な刺激を加えれば周囲が吹っ飛ぶわよ!! 諦めなさい!! 諦めて……諦めてよ……」

 

 泣きそうな声で叫ぶ蒼星アオイ。勝手な事を……

 

「諦めない!! 諦める訳がないだろう!!」

 

 トウヤ君がコアソウルに向かって走り出す。中に入って連れ戻すつもりか!?

 

 トウヤ君がコアソウルに触れようとした瞬間、激しい音を立ててトウヤ君が吹っ飛んで宙に投げ出される――危ない!?

 

 急いでトウヤ君を空中で抱き止め、そのまま癒やしの力を施しながら、地上へと降り立つ。

 

「怪我は無い? トウヤ君?」

「大丈夫だよマモコさん……それより姉さんを!!」

 

 トウヤ君は僕の腕から飛び出て、再びコアソウルへ向き直る。もう一度突っ込むつもりだ。

 でも、それじゃあ駄目なんだ。

 何か……何か方法は無いのか? トウカさんを助ける方法は……

 

「止めなさいトウヤ!! コアソウルに入れるのは少女だけよ!! それに境界を越せるのは蒼星家のみに許された力! ソウルコネクションだけ! お願いだから無駄な事は止めて!!」

「無駄じゃない!! 絶対に止めない!!」

「ああ!! トウカ様の為なら何度だって飛び込んでやる!!」

 

 境界を越せるのは蒼星家の力だけ? ソウルコネクション?

 

 そうだ……マモリは言っていた。タイヨウは従兄弟で、蒼星アオイもそうであると。

 そして、蒼星学園の学園長が祖父だとも……それなら答えは一つだ。

 

「待って皆、私に任せて。」

「マモコちゃん? もしかして……なにか方法が!?」

 

 ヒカリちゃんが縋る様な目で僕を見る、他の皆からも期待と不安の入り混じった視線を感じる。

 

「ええ、その通りよヒカリ。実は私、蒼星家の血も引いているらしいの。だから、私がコアソウルの中に入ってトウカさんを迎えに行くわ」

「蒼星家の血を? マモコお前は……いや、今は関係ない!! 頼むマモコ!! トウカ様を!!」

 

 だが、一つ問題がある。

 僕は周囲を見回す。観客席を隔てる力場も、スタジアムの敵を拘束している糸も僕のソウルで維持している。

 僕がコアソウルの中に入ってコントロールを手放しても数分は持つだろうが、残ったソウルが切れれば力場も糸も解除されてしまう。

 トウカさんを助けてコアソウルを脱出して、その後は? 

 でも、これしか方法は……それにトウカさんが……

 

「マモコさん!! この場は僕達が引き受ける!! だから――」

「だから頼むマモコ!! トウカ様を!!」

 

 ああ、そうだよな、ここまで来たらやるしかない。迷うのはトウカさんを助けてからでも遅くない。

 速攻で助けて、大人の姿が元に戻る前に脱出すればいい。まだ時間は残っている、

 

「ふざけんな月読ミモリ!! 少女だって言ってんだろ!? それにお前が蒼星家の血を引いている!? そんな訳がない!! いい加減にしなさいよこのババア!!」

 

 ば、ババア……蒼星アオイが憤怒の表情で怒鳴りつけて来る。

 こ、怖えー実際に少女でも無いけどババアでも無いのに……

 でも、改めてコアソウルの前に立って分かった。不思議と確信がある。

 コイツは……この天王星のコアソウルは、必ず僕を自身の中へと受け入れる。

 

「確かに長い歴史の中で血の交わりがある……隔世遺伝の可能性は否定出来んか……やむを得ん!! 使いたくは無かったがな!! 月読ミモリ!! 好きにはさせんぞ!!」

 

 糸に拘束されているタイヨウが叫ぶ。何をするつもりだ?

 

「ファクトリーから盗んだコアソウルを使わないとはな!! 何処かへと隠してから来たのだろうが失策だ!! 俺が貴様への対策を用意していないと思ったか!?」

 

 タイヨウのソウルが膨れ上がる……この感覚は!? さっきのマモリと似ている!?

 

「まさか、そのソウルの波動……コアソウル!?」

「そうだ!! なんの為に舞車町を会場に設定したと思っている!! 星乃町でコアソウルの力を無秩序に振るえば共振が起こる! その影響による炉の暴走を防ぐ為だ!! 見るがいい!!」

 

 急いでタイヨウを捕えている糸にソウルを注ぐが……駄目だ!? 糸の供給が間に合わない!! 凄まじい勢いで燃えていく!? アポロニアスドラゴンの方まで!?

 

「これが十番炉のコアソウル!! 太陽のコアソウルの力だ!! 日輪の炎が貴様を焼き尽くす!!」

 

 タイヨウのソウルがどんどんと膨れ上がり、威圧感を増して行く。

 チッ、本人のダメージまで回復してやがる! なんでもありだな!? 

 そして、どいつもこいつもコアソウル!! そんなホイホイと持ち出していいのかよ!? 炉は確か十番までだから半分がこの舞車町に集まってるぞ!?

 

 それにタイヨウの奴……確かに荒々しくはあるが、マモリよりもコアソウルが馴染んでいる? 

 ソウル量は間違いなくマモリの方が上だったが、より安定して制御している印象を受ける。自身の一族が司る太陽のコアソウルだからか?

 

 どうする? タイヨウを倒してからトウカさんの元へ……間に合うか? トウカさん……

 

 その時、観客席から爆発音が響いた。

 

「これは!?」

「何事だ!?」

 

 また爆発音、それにソウルワールドが縮小した? これって――

 

「な、何をしているんだお前等!? 止めろ!?」

「田中さん!! お願い!! トウカ様を助けて!!」

「この装置が壊れればソウル傾向は元に戻る!! アポロニアスドラゴンが弱体する!! だから頼む!! トウカ様を!!」

 

 あれは……鈴木さんとビッグアイスのメンバー達!? 周囲に押さえつけられている!! 観客席の装置を壊したのか!? ソウルカードが弱くなるって本当なのか!?

 

 違う場所でも爆発音。反対からも爆発音。

 

「止めろ!? 正気か!? プラネット・ナインの決定に背くつもりか!?」

「正気に決まってんだろ!! プラネット・ナインがどうした!! 舞車町のランナーにトウカ様を見捨てる奴なんて居ない!!」

「頼む田中さん!! アンタは早くトウカ様を――ぐむッ!?」

 

 その光景に触発され、観客席のあちこちでで舞車町のランナー達が周囲に抗い、装置を壊していく。

 

 トウカさん……一族に逆らってでもアンタを助けたい奴等がこんなに大勢居るぞ?

 一人で格好つけて、コアソウルに入ってる場合じゃ無い。トウカさんは抱え込まないで、最初から周りに助けて欲しいって言えば良かったんだ。

 

 やっぱり僕は間違っていない。トウカさんを助けたいと思う衝動は間違いなんかじゃない。

 トウカさんは普段から舞車町の代表として皆を助けて来た。始まりは役目だったとしても、トウカさんは自分の意志で町の皆を助けて来た。

 だからこそ、こんなにも大勢の人が危険を冒してまでトウカさんを助けようとしている。こんなに心強い事は無い、これ以上の安心を僕は知らない。

 

「みんな……それにこの声……分かったよウーラノス!!」

 

 トウヤ君から強いソウルの力を感じる。僕の中から、ソウルの奥から熱い何かが溢れて来る。

 すると、僕の中から、チームの皆から、そして観客席で戦う仲間達から光の球体が出現した。これはソウルの……

 そのソウルの光が、導かれる様にトウヤ君へと集って行く。

 

 何かを奪われた感覚は無い、寧ろ心地よいこの感覚……これと同じ現象を僕は知っている。見た事がある。御玉町の最終決戦でソラ君達を復活させた物と同じだ。

 ああトウヤ君、やっぱり君は主人公に相応しい。この奇跡を起こせるのはそういう事だ。僕がソウル爆弾にやられた後、ホムラ君達も同じ現象を起こしたとも聞いている。

 

「なんだこのソウルは!? アオイ!! 魂魄の儀が完了したのか!? まさか天王星のコアソウルがトウヤに力を!?」

「ち、違いますタイヨウ様!! 儀式は終わっていない!! まだコアソウルはまだ安定も活性化していない……これは……」

 

 違うな。これはトウヤ君の様に特別な人の願いと、多くのソウルギア使い達の願いが一致した時。大勢の人が心の底から同じ願いを抱いた時に起こるソウルの奇跡だ。

 

「マモコさん!!」

 

 無数のソウルの光を身に受け、輝きを放ち、強力なソウルを宿したトウヤ君。

 タイヨウとアポロニアスドラゴンを見据えたまま、トウヤ君は僕の名を力強く叫ぶ。

 

 ああ、分かってるよトウヤ君。任せてくれ。

 

「絶対に二人で戻って来る!! 待ってて!!」

 

 振り返る事なく、全力でコアソウルへと走り出す。トウカさんをイメージしながらコアソウルに強く呼びかける。

 

「コアソウルが迎撃しない!? そんなはずは!?」

 

 驚く蒼星アオイが見えるが気にしない。勢い良くコアソウルへと飛び込む。

 

 その瞬間、感じたのは水中に飛び込んだ様な感覚。

 

 だが、これは水とは違う。まるで僕を逃がさないとでも言うように纏わりつき、より深い所に引っ張る不快な感触。

 そして暗い……いや、何も見えない。真っ暗な暗黒がそこには広がっていた。

 しかも……冷たい。魂まで震える様な寒さをもたらす暗闇、ここがコアソウルの中?

 

 僕は……僕はこれと似た感覚を知っている。二度と体験したく無いと常々思っている恐ろしい感覚だ。

 

 かつての死の記憶、ひたすらに孤独で冷たい深淵に沈んで行く忌まわしい記憶。こんな所にトウカさんを……恐ろしい、ここは本当に恐ろしい場所だ。

 

 でも、あの時とは違う、今の僕は孤独じゃない。

 いつの間にか見えなくなった入口、人影どころか何一つ見えない深い暗闇の奥。その両方に待っている人が居る。入口には帰りを待っている大勢の仲間達、暗闇の奥には助けを求めて苦しむトウカさん。

 

 僕はそれを知っている。知っていれば孤独ではない。

 例え暗闇で何も見えなくとも、魂が震える様な寒さでも、そこに誰かが居ると知っていれば耐えられる。

 

 やっぱりこれは強い力だ。自分を求める友や仲間が、姿は見えなくてもそこに居る。

 一人では無いと知っている事、それは死の恐怖にすら打ち勝てる強い力、心の強さ、温かいソウルの輝きだ。

 

 これこそが安心だ。僕の求める安心はきっとこれだ。僕の望みはここにあった。

 安心と安全を兼ね備えた究極の不老不死は、やっぱりトウカさんを助けた先にしか存在しない。

 

「トウカさぁぁーん!! トウカさぁぁーん!!」

 

 叫ぶ、トウカさんの名を叫ぶ。あらん限りの力を振り絞って名を叫び続ける。

 

 トウカさんに届く様に、この安心が、心強さが少しでもトウカさんに伝わる様に。

 

 

 

 

 

 あれから、どれ位の時間が経ったのだろう?

 

 数分前にも思えるし、数年前にも思える。時間の経過が……いや、なにもかもが曖昧になって来た。

 

 そもそも私はなんでこんな所に? 私はなんで……いや、私は?

 そうだ……私はトウカ、私は天王トウカだ。ここに居るのは……

 

 そして、意識を取り戻すと同時に、痛みと寒さ、そして恐怖が私を襲う。

 

 痛い、痛い、痛い。

 寒い、寒い、寒い。

 

 なにも見えない、なにも聞こえない。

 

 だけど分かる。より深い所へと、見えざる手によって引きずり込まれているのが分かる。

 

 怖い、怖い、怖い。

 

 嫌だ……と声を出そうとしたが、喉は動かない。それどころか指先一つも動かせない。

 私は……そもそも私の身体は今どうなっている? 痛みや寒さは感じる。恐怖も感じる。

 

 これは肉体が感じる苦痛なのか? それとも私は肉体を失い既にプラネテスと化しているのか? 

 もしも、もしも肉体が既に奪われているのなら。この苦痛はいつまで続く? この恐怖はいつまで続く? 

 

 一番底に辿り着くまで? そもそもこの暗闇の奥に果てはあるのか? もしかして終わりは……無いのか?

 

 全身が凍りつく様な恐怖を感じる。こんなものが……永遠に続く? 

 肉体が失われても、魂とソウルだけになって暗闇を永遠に落ち続けると言うのか?

 

 嫌だ!! そんなのは……そんな物には耐えられない!! 耐えられる筈がない!!

 

 誰か!! 誰か私を!! 誰か?

 

 誰か、誰かとは……誰かって誰?

 あれ私は……私の名前は?

 私は誰だ? 私は誰に助けて欲しいと……誰に助けを……

 

 必死に記憶を辿る。私は誰に……誰に助けを求めようとした?

 私は……私は今までどうやって過ごしていた? 誰と一緒にいた? 思い出せない……

 

 居たはずだ……大事な、大事な人達が……居たはずなんだ!!

 

 怖い、大事だった筈の人達が思い出せない事が怖い。

 思い出せない……そもそもそんな人達は本当に存在したのか?

 

 もしかしてそれは私が苦痛から逃れる為に生み出した妄想で、最初から存在しないのでは?

 いや、そもそも私は、この暗闇じゃない場所に私は本当に存在していたのか?

 

 自分自身が揺らぐ、自分の輪郭がゆっくりとぼやけ、溶けて失われていく様な感覚。

 私は……私なんて最初から居なくて、そもそもこの暗闇で私は生まれた? 

 

 嘘だ……そんなはずは……

 

 頬を何かが伝う感触、恐怖と孤独に耐えきれず涙が溢れて来る。

 止まらない、涙が溢れて止まらない。

 悲しくて、怖くて。こんな所に一人でいるのが嫌で嫌で仕方がない。

 

「トウカさぁぁーん!! うわっ!? なんだよこれ!? 溶かされてる!? ソウルが……ソウルメイクアップが溶けてるのか!?」

 

 声が聞こえた気がした。自分では無い誰かの声が暗闇に響いた気がした。

 

 トウカ……私の名前!!

 そうだ!! 私は天王トウカだ!! 勘違いなんかじゃない、私は存在する。

 

 私の心は、私の魂は、私のソウルは確かに此処にある。

 

「早くしないと……トウカさぁーん!! トウカさぁぁーん!! 返事をしてくれぇー!! どこだ!? どこに居るんだ!?」

 

 声が聞こえた気がした。私が知っている声、私を知っている声。

 そして、脳裏に浮かぶ、助けて欲しい人、私の大事な人達の姿。

 

 私の弟のトウヤ、クリスタルハーシェルの仲間達……ヒカリ、ヒムロ、レイキ、ツララ、ヒサメ、ミゾレ、アラレ……

 

 ああ、浮かんで来る。舞車町の皆が……タイヨウとアオイが、プラネットソウルズの皆が、父様と母様が、一族の仲間達の姿が思い出せる。

 

 ちゃんと知っている……ちゃんと姿を思い出せる。私はここで生まれた存在なんかじゃない。

 私は……天王トウカは確かに存在していた。私は孤独な暗闇ではなく、大事な家族や仲間、友達と確かに生きていた。

 

「ッ!? なんだよそれ……分かったよ!! 私の……いや、僕の可能性をくれてやる!! 田中マモコは持っていけ!! だからトウカさんを返せよ!!」

 

 そして、この声……私はこの声を知っている。聞こえない筈のこの身体にも届く必死な叫び、私を呼ぶ声、このソウルを私は知っている。

 

 ――助けて!!

 

 声は出ない。それでも叫ぶ、自分の偽らざる感情を振り絞って助けを求める。

 

 ――私はここにいる!! 助けてくれマモコ!!

 

 次の瞬間、私の身体に縛られる感触が届く。

 糸だ……ソウルで出来た糸、私を拘束しているのはソウルの糸だ。

 

 知っている。私はこの感覚を知っている。引きずり込まれる恐ろしい拘束ではない、強く私を拘束して逃がさない、私の大好きだった心地よい感触。

 自分では無い誰かが、私の信頼する人が、暗闇の中で私を捕まえてくれた。

 

 ああ、身体が引き寄せられる。糸が私を暗闇の奥から引き上げていく。

 

「トウカさん!!」

 

 温かく力強い感触、私が強く抱き止められた。

 ……温かい。この暗闇の中で初めて熱を感じた。

 

 ああ……マモコ、私を助けてくれて……約束を守ってくれてありがとう。

 嬉しくて、心強くて、安心で涙が止まらない。私の助けに応えてくれた。温かい気持ちで胸が一杯になる。

 

 私を抱きしめる暖かさを、私も強く抱きしめる。離さないでくれと、ずっと捕まえていてくれと願いを込めて縋り付く。

 

 ――マモコ、ありがとう。

 

 感謝の言葉を伝えようとするが、声が出ない。

 痛みや寒さが消えた訳でも無い。ソウルもかなり消耗していて今にも気を失いそうになる。

 それでも、抱きしめる力は弱めたりはしない。離れるのが怖い、もう一人になりたくない。

 

「トウカさん……大丈夫だよ、声はちゃんと聞こえた。皆に助けられて迎えに来たんだ。帰ろう、トウヤ君も皆も待っている。大勢の人達がトウカさんを待っているんだ」

 

 これは? マモコの声が……身体の感触が少し違う気がする。

 それでもこのソウルは、私を抱き締めて拘束する感触と伝わって来る温かさはマモコの物だ。間違い無い。

 

 返事の代わりに抱きしめる力を強める。マモコも更に強く私を抱き締めて返事をしてくれた。

 

「行こう、声が聞こえるんだ。しっかり掴まっててねトウカさん」

 

 上に……暗闇の中を上へと向かって行く感覚がする。

 見えない筈なのに、聞こえない筈なのに。

 

 明るい所へと、皆が呼んでいる方へと向かっている。そう感じた。

 

 疲労のせいか、意識が遠のいていく……でも、怖くない。

 マモコは絶対に私を離さない、そう信じているから。

 

 


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