オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!   作:定道

28 / 32
熱烈歓迎!! だけど布教はキビシィーデヤンス!!

 

 

 体育館に存在する全ての視線が僕を捉えている。

 そう言っても過言ではない程に、今の僕は注目を集めているだろう。

 

 社長のスカウトに僕がヤンスで返答すると、ヒリついた場の空気が少しだけ弛緩した。

 そして、敵意や怒り、困惑の割合が強かったスタジアムの空気に嘲りや侮蔑の感情が混じり出す。

 

 好きなだけ見下せばいい、なんとでと思えばいい。へりくだるならこれが一番、とにかく時間を稼ぐ必要がある。

 

 今現在、敵の主要メンバーを拘束していたトリックは崩壊、フィールドを覆っていた力場も消え去っている。僕達は取り囲まれて圧倒的に不利な状況だ。

 

 観客席の舞車町のランナー達、トウヤ君を始めとするクリスタルハーシェルの皆はまだまだ闘志を失っていないが、先程の光は消え去っている。

 トウカさんを助け終わったからお終い? もう少し融通を利かせて欲しかった。

 

 そして、肝心の僕自身は正直に言ってヘロヘロのパー、虫の息一歩手前でハイパーピンチだ。

 大人への変身が解けた反動で全身がバキバキで泣きそう……めちゃくちゃ痛い。

 ソウルもソウル体を維持出来るギリギリしか残っていない。

 

 何故か社長が出張って来たおかげで場の戦闘は止まっているが、ここで僕が発言を間違えて社長の機嫌を損ねればタイヨウ達が再び襲って来るだろう。そうなれば僕達が全員無事にこの場を脱出するのが難しくなる。

 

 かと言って、社長の誘いに乗ってプラネット社の軍門に下るなんて選択も論外だ。

 

 モニターの先に映る社長は、ランナーの頂点を維持して舞車町を守り、一族に十分に貢献して来たトウカさんすら切り捨てる様な一族の親玉だ。信用出来る筈がない。

 

 望むがままの待遇と報酬は非常に魅力的ではある。昨日までなら十五億くらい要求して、我がまま放題で周囲にチヤホヤされつつ、タイヨウ達にデカい顔しながら気持ち良くプラネット社の仲間になっていただろう。尻尾をブンブン振っていただろう。

 

 だが、そこに僕と皆の安心と安全が存在しないのであれば意味など無い。そこは僕の居場所ではない。

 

 仮に、僕が誘いに乗ってチーム丸ごと仲間になったとしたら、プラネット社は僕や仲間の誰かをコアソウルに捧げるんじゃないのか?

 最近になって気付いたが、僕のチームの仲間達には一族の関係者が多い。加えて一族に対して反抗的だ。

 

 高待遇で迎えていい気にさせ、油断した所を罠に嵌める。

 子どもを生贄に捧げる事を決定し、その実行役すら子どもにやらせる外道だ。それぐらいはやっても不思議ではない。

 一度選ばれたトウカさん、クリスタルハーシェルの皆も安全だとは思えない。社長のスカウトに応じるのは無しだ。

 

 ――だが、媚びる。時間を稼いだ先にしか活路は存在しない。

 

 今の僕の全力のヤンスで場を持たせ、乗り気に見せかけ交渉を長引かせる。

 

『……今の発言はつまり、私の提案に了承してくれると捉えていいのか?』

 

 チッ、やるな社長。僕のヤンスに全く動じない、実に冷静だ。

 

 やはりプラネット社の社長ともなれば、僕のにわか仕込のヤンスではなく本物のヤンス使い……社会の荒波を媚びて生き抜く歴戦のヤンス達と交渉した経験も多いのだろう。

 

 そして、僕本来の“媚び“は両手使って擦るゴマすりスタイル。

 マモリに右腕を奪われた影響でそれが使えない。片腕のせいで重心が乱れ、ペコペコにもキレがない。

 さらに、社長本人がモニターの先にいるので足を舐めて媚びる事もできず、ソウルも感情も読みにくい。

 

 一体この人の真意はどこにある?

 

 周囲を一族で取り囲んだ圧倒的に有利な状況。そこでわざわざ僕と話をして勧誘する理由……もしかして、僕がコアソウルを安定させたから?

 

 なるほど、それならある程度納得はできる。強引に事を進めて僕にへそを曲げられるよりも、好条件で勧誘して他のコアソウルも安定させたい。制裁はその後でもいい……そんな所か?

 

 ……正直な所、もう一度コアソウルを安定させろと言われて再現可能かどうか分からない。

 トウカさんを助けたい一心で飛び込み、僕の最もカワイイ可能性を捧げて得た結果だ。無我夢中でやったので正しい手順が分からない。

 要はあの声の要求を満たせれば良いのだろうが……そもそも他のコアソウルも同じ事を要求しているのか?

 

 とにかく、もう一度チャレンジして、ホイホイ成功する試みではなさそうだ。そもそもあんな所には二度と入りたいと思わない。

 

 家族や友達、仲間がコアソウルの中で助けを求めているならいざ知らず、見ず知らずの誰の為にあの中には……

 うーん、せめてコアソウルの中に一兆円ぐらい放り込んで、中で掴み取り放題なら……いや、それでもゴメンだね。

 

「いやいや社長!! それがですね!! アッシとプラネット社さんの間には!! 御社と弊社の間には認識の齟齬と言うか……色々と複雑な行き違いがあると思うでヤンス!! まずは互いの為に、その当たりの誤解を解いて、じっくりと条件を擦り合わせてからお返事しようかと……ヘヘッ、いかがでヤンしょ?」

 

 じっくりとお話しようぜ? 出来れば懸賞金周りの誤解は本当に解きたい。あの辺りはマジで濡衣なんすよ……

 

 くそっ、せめてマモコモードなら社長を始めとする中年親父共なんてメロメロでイチコロなのに……どうせプラネット・ナインだって脂ぎったオッサンの集まりだろ?

 

 もう二度と悪い事しないで♡ 全裸で土下座しながらゴメンなさいして♡ プラネット社の全権を譲って♡ 百兆円ちょうだい♡ ってお願いすれば全てまるっと解決したのに……

 

 だが、今の僕にはヤンスしかない。

 人は配られたカードで、今の手札で勝負するしかないのだ。スヌー○ーも言っていた!!

 

 ビリオ君!! 僕にヤンスの力を――

 

「父上!! これ以上戯言に付き合う必要はありません!! これは明らかな時間稼ぎです!! それにコイツは田中マモルでは無く月読ミモリです!! 時間を稼いでPTAの救援を待っているに違いありません!!」

 

 おい! 余計な事を言うなよタイヨウ! 僕は母さんじゃないしPTAなんて待ってねーよ! 時間稼ぎはしてるけど……

 

『タイヨウ、私はお前に待てと言った。口を挟むのは止めろ』

「クッ、父上……分かり……ました」

 

 ププッ、怒られてやんの。人の話に割り込むからそうなる。

 

『田中マモル。君の言う通りに確かに誤解や行き違いがあった。それ故に、君が私やプラネット社を信じられないのは当然だろう。様々な要因が重なり、私も君を見極めるのが非常に困難だったが……ようやく答えが出た。まずは互いを知ろうじゃないか』

「ヘヘッ、やっぱり社長さんは話が分かるでヤンスねぇ……いやーその寛大なお心にアッシは感謝感激雨あられでヤンス」

 

 不気味だ。僕がプラネット社を信用していないのが分かっているのに友好的な態度を崩さない、諭すような雰囲気すらある。

 

『そうだな……まずは私の見解を述べよう。私は君が本物の田中マモルであると確信している。そして、君がラボとファクトリーの事件にも関与しておらず、一族の関係者をPTAに勧誘していないと思っている。もちろん、私も襲撃していない。ただ、中国での一件は詳細を知らないがね』

「な、なるほどでヤンス」

「なっ!? そんな……父上?」

 

 じゃあ人を賞金首にすんなよ! そう思ってんなら止めろや!

 

 それに、僕が言う立場じゃないけど知っているなら息子にも教えてやれよ、可哀想じゃん。アンタの発言が信じられなくてこの世の終わりみたいな顔してるよ? 

 一族が大勢いるこの場で、散々僕の事を母さんって主張したからなぁ……結構な赤っ恥案件、思い出すたび布団にうずくまってバタバタするレベルだ。

 

 だが、社長は何故僕が無実だと判断した? その根拠は? 例のソウル痕がどうとかって奴か?

 

『不思議そうな顔だな。理由はシンプルだ。私が襲撃された際に直接聞いたから知っている。ただそれだけだ。ソウルバトルをしながら言葉を交わし、君について色々と教えて貰った。バトルの結果は散々だったがね。なんとか左腕は奪ったが私はこの様だ』

「は、はあ? そうでヤンスか?」

 

 僕の事を聞いた?

 マモリ……ローキックだけじゃなく、社長とソウルバトルしながらお喋りまで?

 あれ、左腕を奪ったってマモリの? 普通に五体満足だったけど……

 

『そのおかげで、不可解だった君の行動に納得できた。三つの町でチームを結成、プラネットソウルズの王座を揺るがし、姿を偽ってクリスタルハーシェルに取り入ったのはプラネット社への反抗心からでは無い。君は、己の願いとソウルに従って力を振るって来ただけ……違うか?』

「ち、違わないでヤンス」

 

 話を聞いたからってそこまで分かるのか? 社長になる人間はやっぱり洞察力も一級品? 怖い……ハートを丸裸にされちゃう……

 

『田中マモル、今の君はこう思っているのだろう? 私の目当ては君のコアソウルを安定させる力で、勧誘は罠であり利用した後に切り捨てられる……違うか?』

「そ、それは……ちょっぴり似た事を思ったり……思わなかったり……でヤンス」

 

 だ、駄目だ……下手な誤魔化しの出来る相手じゃない。完全に話の主導権を奪われている。僕のヤンスがまるで通用していない……

 

『確かに君は素晴らしい力を持っている。可能性を映し出すソウルメイクアップ。ソウルワールドと繋がるソウルコネクション。己と他者を輝かせるソウルライトパワー。先程のコアソウルの安定は、三つの秘奥が枠組みを超えて一つになって成された奇跡。恐らく一族の歴史で君だけがそれを成し得た』

「あ、あのー社長? ちょっぴり勘違いしているでヤンスよ? アッシはそんな不思議パワーを習得していないでヤンス」

 

 人に勝手な力と設定を増やさないで欲しい。ソウルメイクアップと蒼星アオイが言ってたソウルコネクションはともかく最後のは何だよ? ソウルライトパワーなんて聞いたこともねーぞ。

 

『勘違いではない、君自身は知らないだろうがね。ソウルメイクアップは父親に習ったのだろう? ソウルコネクションもコアソウルに入れると言う事は習得した証だ。そして、ソウルライトパワーを間違い無く君は使っていた。モニター越しでも間違えたりはしない、私自身もその力の使い手だから分かる。君はソウルの光でトウヤを照らす事で、クリスタルハーシェルや舞車町のランナー達も輝かせた」

「えっ、トウヤ君が勝手に光ったんじゃないの?」

「そうか、あの光はマモル君の……」

「な!? トウヤではなく……こいつがソウルライトパワーを!?」

 

 あの光が集まるのは主人公特権じゃなかった? 皆の希望が一つになる元気玉っぽい奴……あっ、それじゃあ御玉町での光と廻天町で光ったのも僕のお手柄? 僕は気絶していたのに? 胡散臭え……

 

『本来の使い方から少し外れ、ソウルメイクアップと組み合わされたソウルライトパワーだった。そう、君は知らないからこそ枠組みに囚われないソウルの使い方が出来る。知らないからこそソウルの新しい可能性が引き出せる。君は意図的にソウルや一族に無知である様に育てられたのだよ、父親である蒼星ダイチにね』

「いやー放任主義な父親でして、お恥ずかしい限りでヤンス」

 

 うげぇ、そんな雰囲気は察していたけど他人に指摘されると複雑……

 

『あの光は天照家に代々伝わる力……君がそれを使える理由、ダイチにもミモリにも知らされていないだろうが、君にとっての母方の祖父は天照家の人間、私の叔父でもある。だから三つの力を使う素質がある。君は蒼星家と月読家だけではなく天照家の血も引いている』

「ほ、ほぇぇ?」

 

 いやいや、血が流れてるからってそんな簡単に力が引き継げんのか? どっちかって言うと技術じゃないの? モンスターの配合感覚で特技が遺伝するのかよ……

 くそっ、自分の生まれの高貴さが憎い! 血統が良すぎて困っちゃう♡

 いや、トウカさんを助けられたから結果オーライか……でも物凄く厄介事を惹き付けそうな血筋……やっぱり難儀な家に生まれたなぁ……

 

『無論、一族の血を引いているからと言って誰にでも出来る訳ではない。三家の長い歴史の中で条件を満たす者は大勢居た。だが、三つの力を全て使えたのは恐らく君だけだろうな。君の父親は二つだった。蒼星家の力であるソウルコネクションはもちろん。学生時代に初めて会った時からソウルメイクアップを使いこなしていた。私も出会って一年は騙されていたよ』

「そ、それは、愚父がご迷惑をかけたでヤンス……」

 

 社長は父さんと学生時代からの知り合い?

 しかも、騙されたって事は初対面で父さんは女の子? どうしようもねえな……恥を知れ恥を。

 

『君の父親であるダイチ、母親であるミモリ、昔から実に困った奴等だった。同じチームに所属していた私や他のチームメイト達は、二人が起こす騒動によく振り回されていたよ……今となってはいい思い出だがね』

「なっ!? 父上のかつてのチームには奴等の名前など……」

 

 社長と父さんが元チームメイト? 母さんまでそうなのか……

 しかし、記録に二人の名前が無いのは不祥事でも起こして公式から記録を消されちゃったのか? 父さんと母さんだから……性別詐称罪?

 

『二人は公の場では、名前も性別もソウルメイクアップで偽っていた。そもそも月読家は公には名前を明かさない。田中マモル、君が田中マモコを名乗ったのと同様だ』

「あっ、そういう……」

 

 別に僕は月読家云々で田中マモコやって無いけどね。

 それに、マモコのカワイイは失われた。もう変身する事は出来ない。

 しかし、社長はあれか? さっきから僕と昔話がしたいのか? 時間がかかるのは歓迎するけど……話がどんどん逸れていない?

 

 そんな僕の疑問を読み取るかの様に、社長は僕をじっと見詰めている。

 顔は怖いが……敵意は感じられない懐かしがる様な雰囲気。この人は何がしたいんだ?

 

『田中マモル。私が言いたいのは、私と君の関わりは君が思う以上に深いと言う事だ。親族としてなら義理の甥であり、かつての仲間達の間に生まれた息子だ。君は覚えていないだろうが生後間もない君をこの手に抱いた事もある。私はそんな君を追い詰めたいとは思ってはいない、君の現状と今後を憂いている。それが君をスカウトする理由の一つになっている。そう言いたいのだよ』

 

 義理の甥? 父さんが蒼星家って事は従姉妹である蒼星アオイがそっちだから……タイヨウの母親が家の母さんと姉妹なのかな? ややこしいな。

 つまり、社長は僕に親戚のオジサンムーブをかましたいのか? 情があるってのは嘘ではなさそうだけど……

 まあ、それだけのはずがないよね。本命はなんだ? コアソウルの安定じゃないなら……スペシャルカップか。

 

 皆やたらスペシャルカップにご執心だよな。賞金は魅力的だし、噂だとなんか凄いソウルギアやらパーツやらが優勝賞品なんだっけ? 

 

 ……よう分からん。プラネット社が開催する大会の優勝賞品をプラネット社が欲しがるってあり得るのか? 

 あっ、そう言えばトウカさんが公式戦は惑星の意思に捧げられる戦いで契約がどうとか言ってたな。

 それが理由で、プラネット社は公式の大会の参加チームに手出しが出来ない、そのおかげで僕のかつてのチームの安全は担保されている……つまり、プラネット社はソウルギアの大会に置いてズルが出来ない? 優勝賞品はやっぱりあげませんよ! とかは不可能なのか?

 

「い、いやーアッシと社長にそんなご縁があったとは驚きでヤンス! 光栄でヤンス! そ、そのー参考までに他の理由も教えて貰えると嬉しいでヤンス……できればでいいでヤンス」

 

「コアソウルの安定を君に頼む予定は無い。君のチームが各種目でスペシャルカップで優勝した際に、ウイッシュスターに託す願いをこちらで決定させて欲しい。それが私の要求だ。獲得した数に応じた対価も支払おう」

「……は?」

 

 え? 五つの願い? ウイッシュスター? なにそれ?

 僕のポカンとした様子で察したのか、社長は返事を待たずに言葉を重ねる。

 

「……来年の夏にスペシャルカップが開催されるのは知っているだろう? 五種目の優勝チームにはそれぞれ、グランドクロスを利用して願望を実現するソウルギア“ウイッシュスターシリーズ“が授与される。君のチームが優勝した際に、願いを叶える権利を譲って欲しいと言う事だ」

「ね、願いが叶う!? 月のソウルみたいに!? 不老不死も!?」

 

 な、なんだよそれ!? 聞いてねーぞ!? やたらスペシャルカップに執着してると思ってたけどそんな素敵な特典があったのか!?

 

『月のソウルの不老不死? 確かにその模倣は可能だろう。まさか君は……』

 

 なんだよ! もっと早く教えてくれれば真面目に優勝を目指したのに! 月のソウルに匹敵する素敵パワーじゃねえか! 不老不死が最大五つも手に入るのか!? 残機が五つも!?

 

 ……いや、落ち着け、落ち着こう。今気にすべきははそこじゃない。

 問題は社長が……いや、プラネット社と惑星の一族がどんな願いを叶えるつもりなのか知る事だ。

 

 私欲の為に誰かを傷つけたり、悲しませる様なろくでもない願いをするつもりなら許せない。その時は僕と仲間達で成敗してやる。正義の心で悪を挫く。

 ぐふふ、そしてウィッシュスターで僕の清らかで純粋な願いを叶えるんだ。五つもあるんだから……一つくらいはどさくさ紛れに使ってもバレへんやろ?

 

「なるほどなるほど、つまり社長はスペシャルカップで願いを叶えたい。だから、天才ソウルギア使いであるアッシと仲間達をスカウトしたいと言うことでヤンスね? 報酬はたんまり、成果によっては倍プッシュ、アッシの懸賞金はもちろん取り下げで手厚く迎え入れる……そう言う事でヤンスか」

 

『そうだな、その認識で正しい。報酬はもちろん、懸賞金も当然取り下げよう。馬一族の説得には時間がかかるだろうが、私が必ず解決すると約束する。君達が提案を受け入れてくれれば、スペシャルカップで五つの優勝を独占する事が可能だ。確かにアークエンゼルスを始めとする侮れない勢力も存在するが、君とタイヨウが力を合わせればさしたる問題ではないだろう』

「お、俺が……この男と……」

 

 なんだよタイヨウ、随分と嫌そうな顔してるな。そんな態度は傷付いちゃうよ?

 身内で固めたコネコネの縁故採用チーム、優勝候補達が結託して弱者共をいじめるのがそんなに嫌か?

 うん、確かに僕も嫌だな……それに――

 

「流石は社長! 正確な戦力分析でヤンス! ヤンスが……アッシにはどうしても気になる事があるのでヤンス! ヘヘッ、小心者のアッシはその疑問が解消されない事には、本来の実力が発揮出来ないでヤンス」

『ほう、君の疑問とは何かな?』

 

 分かってる癖に白々しい、それとも聞かせたいのか?

 

「えへへ、社長はウィッシュスターで一体何を願うつもりでヤンスか? アッシはそれが気になって多分夜も眠れないでヤンス」

 

『なるほど。私が……ひいてはプラネット社と惑星の一族が何を願うのか知りたいと思うのは当然の疑問だ。そうだな、君の為に始まりから話をしよう。一族の子ども達よ、君達もよく聞きなさい。これからする話は、我々の悲願、シン・第三惑星計画の全貌にも繋がる』

 

 社長の宣言に、周囲の空気が引き締まる。周囲は計画の全貌とやらに興味津々のようだ。

 長い話になりそうだ。今は歓迎するけど、普段なら長話に付き合いたいとは思わない。座っちゃダメかな……

 

『遥か昔、まだ人々がソウルを扱う術を持たなかった頃の話だ。現代と違い危険な魂魄獣が世に溢れていた時代、人々はその驚異に抗う術を持たなかった。逃げ隠れ、ひっそりと生きるだけの脆弱な種族だった人間。そんな我等の祖先の前に、伝道者が現れた。彼の人はソウルを操る術を素質ある者に授け、我等の行末を導いた。世界各地のあらゆる地を彼の人は巡り、人類は魂魄獣に抗う武器を、ソウルの力を手に入れたのだ』

 

 そ、そんな最初から話してくれるのか……いや、初耳だけどさ。

 

『現在は日本と呼ばれるこの国で、伝道者に叡智を授かったのは星を読んでいた一族。占星術を扱い、小規模ながら集団の長だった者達だ。それが後の天照、月読、蒼星家。伝道者から授かったソウルの叡智が、ソウルライトパワーを始めとする三つの力の原形となった』

 

 ふーん、そんな昔から性別を偽りたい人が居たのか。人がカワイイを求めるのは昔から変わらないんだなあ……

 

『その始まりの三つの一族が、伝道者から与えられた叡智をさらに人々へと伝えた。その中でも素質があった者達が守護一族となり、年月や代を重ね、規模と勢力を拡大、抗う術を持たない人々を護る集まりに……ひいてはこの国の護国を担う一族の集まりに変化した。我々一族はこの国の歴史を遥か昔から護っていたのだよ』

 

 う、胡散臭いなぁ、見栄張って話を盛ってない?

 家の先祖は昔偉い武将に仕えてただとか、戦で大活躍したとか、鬼退治したとか、河童と相撲取ったとかそういうレベルの与太話じゃないのこれ? 

 もしかして僕は親戚の叔父さんに先祖の与太話聞かされている?

 

 観客席は……真面目に聞いてるな。後ろのトウヤ君達は……特に困惑した様子は無い。

 一応確認の為に、トウヤ君達に小声で問いかける。

 

「ねぇ、みんな……今の話って知ってた? もしかして有名な話?」

「えっ、一族なら皆知ってると思うけど……」

「伝道者については歴史の授業でもやっただろ? なんでその部分まで知らねぇんだよ……」

 

 ……きっとソウルメイクアップの修行してた四月の授業でやったからだな、そうに決まっている。

 歴史は退屈だからちょくちょく居眠りはしてたけど……

 

『その流れはこの国だけではない、世界中で伝道者からソウルの叡智を授けられた者達が頭角を現した。そして、ソウルを扱う者達がソウルワールドで繋がる事によって意思を統一し、魂魄獣に勝利する為に人類は一つに団結……長き戦いの果てに勝利した。魂魄獣達をソウルワールドの深淵へと追いやる事で戦いは終わったのだ』

 

 えっ、神話とかじゃなくて実話? 本当にあった出来事なの?

 ……魂魄獣ってソウルカードで創造するペットみたいなもんじゃなかったのか……危険生物じゃん。どうりで手強いはずだよ。

 

『地球上の魂魄獣を全て追放するという偉業、それは惑星の力を借りて成された奇跡だ。数百年に一度、不完全ながら場が整うグランドクロスや惑星直列の時にのみ、宇宙の星々への願いが届く。彼等の偉大なるソウルが人類に授けられる。人類は三度の惑星直列、二度のグランドクロスを経て完全な勝利を勝ち取ったと伝えられている』

 

 は、はあ? なんか凄い壮大……

 

『だが、ソウルを操る術を手に入れ魂魄獣に勝利した人類に、ソウルを扱うが故の試練が訪れた。ソウルは人の感情に呼応する、人々はソウルによって繋がっている。人類の負の感情はゆっくりと折り重なり闇となった。その闇は世界各地で形を成し、人々を害するシャドウとなった。人類の第二の戦いが始まったのだ』

 

 闇……ああ、シャドウね。組織がよく使ってくる人型の影でしょ? 知ってる、知ってる。

 あいつ等パターン覚えれば雑魚いから僕は無双できて好きだ。必殺技でまとめてぶっ飛ばすと気持ちいいよね。

 

『世界中のソウルを操る一族達は、世界を闇から護りつつ、闇を完全に払う為に様々な方法を模索した。だが、魂魄獣という分かりやすい脅威が消え去り、ソウルを操る術を持たず直接闇と対峙しない人々は徐々にソウルに対する関心と興味を失った。そして、ソウルに依らないより物質的な方向へ文明の舵を切った……それが闇の拡大を促す行為であると自覚しないままに』

 

 いや、そうは言っても……話しぶりから言ってソウルを扱えない人の方が多かったんでしょ? 

 それなら仕方ないよね。自分が扱えない不思議パワーを意識しろって言われても無理があるだろう。

 

『闇は緩やかに勢力を拡大していき、ソウルを扱う一族達は危機感を募らせた。このままではそう遠く無い未来に闇から世界を護れなくなる……世界が闇に包まれてしまう。ソウルを操る術、当時は魂魄術と呼ばれたそれをさらに普及させて闇に対抗しようという試みもあったが、上手くはいかなかった。素養が無い者に魂魄術の習得は困難であり、ソウルを操る者達は自分達を特別だと思って非協力的な者も多かったからだ』

 

 ……駄目駄目じゃん。あれ? 人類詰んだ?

 

『だが、今から約五百年前に転機が訪れた。初代ソウルマスターである月読イザヨが世界中の有志を集め、ソウルワールドの深淵からソウルストーンを手に入れた。そこから画期的な魂魄術の補助装置であり、増幅装置でもあるソウルの核、ソウルコアの精製方法を確立させた。そのコアを用途に合わせ、各種パーツを組み立てて纏わせる事によって生み出されたのが――』

「もしかして……ソウルギア?」

 

 マジかよ……歴史のあるホビーだとは思っていたけど、そもそもオモチャじゃ無かった?

 

『その通りだ。ソウルギアを使えばソウルを持つ生物であれば誰でも魂魄術が使える。つまり、ソウルギアさえ普及させれば世界中の人々がソウルを扱う術を容易に習得できる。世界中の人々がソウルを扱う術を覚えれば、人々が無意識に闇を育ててしまう悪意が伝播するソウルを抑える事ができる。闇を払う為の答えソウルギア、人類は闇を照らす光を形にした』

 

 つまり、闇を払う為にプラネット社はソウルギアを普及させた? いや逆かな? ソウルギアを普及させる為にプラネット社が生まれたのか。

 

『月読イザヨは五百年前の惑星直列を利用し、九つの惑星と太陽から星の欠片、コアソウルを授かった。世界中にソウルギアを普及させる為には、ソウルワールドで採取出来る少量のソウルストーンでは到底足りない。莫大な数のソウルストーン、それを生み出せるコアソウルが必要不可欠だったからだ』

 

 あれ? じゃあ目的はもう達成してるじゃん。今の社会はソウルギア中心だし……これ以上普及は無理でしょ、ソウルギアを持ってない人なんて物凄い少数派だろ? 

 

 プラネット社はこれ以上何を望むつもりだ? そりゃあ願い事が一杯叶うのは嬉しいだろうけど……

 

『ソウルギアを世界中に普及させる為にプラネット社が設立され、それぞれのコアソウルと親和性の高かった月読イザヨの同志八人が現在の惑星の一族を立ち上げた。そして、五百年の時をかけて、ソウルギアの普及は成功、今や人類の96%が一つ以上のソウルギアを所持している』

 

 ほら、やっぱりそれぐらい普及してるじゃん。しかもシェアはプラネット社が独占でしょ? エゲツねぇなぁ……

 

『だが、普及した後の継続こそが重要なのだ。人々がソウルから関心を失い、闇を育てた期間は約二千年。少なくともそれと同じだけの時をかけなければ闇は消え去らない。人類がソウルギアを所持しながら悪意を闇に与える事無く、後二千年の時を過ごさねばならない』

「う、うわぁ……」

 

 二千年、あと二千年……流石にそこまでソウルギアブームは続かないんじゃないの? 僕が不老不死になったら確かめられるかなぁ……二千年……長いよね。

 

『そして、君も身を持って知っただろうが、ソウルギア生産の要であるコアソウルに限界が来た。これからの二千年間、コアソウルを使って炉を稼働させるのは現実的な方法では無い。だからこそ、新しいソウルストーン生産方法を確立する必要がある。その為のシン・第三惑星計画、その為のスペシャルカップ、その為のウィッシュスターシリーズだ』

 

 あっ、ようやく叶えたい願いがなにかの話に繋がるのか……

 

「そ、それで? プラネット社と一族はウィッシュスターに何を願うでヤンスか?」

 

 思わずゴクリと喉を鳴らす。周囲の皆も緊張した面持ちでで社長の答えを待っている。

 

 時間稼ぎの為の問答だったが、思った以上に壮大な話になった。純粋に答えが気になって来た。

 

『プラネット社が星に願うのは、地球のソウル傾向の最適化だ。それにより、星の欠片であるコアソウルではなく、地球本体のコアを意のままに操れる。地球はようやく真の第三惑星となるだろう。人類が平和を享受するのに最も適した環境にこの星を創り変える。そうだな……一言で表すなら地球のテラフォーミング。地球の地球化。人間の傲慢さと矛盾に満ちた計画ではあるが、なんとしてでも完遂せねばならん』

 

 ……!? そんな、そんな……?

 

 社長の壮大で衝撃的な発言に、体育館の全員が驚き慄いている様子だ。

 周囲は社長の言葉の意味を理解して、それを噛み締めている表情……ふむ?

 

 僕は痛む身体をふらふらと揺らしながら、トウヤ君のすぐ側へと歩み寄る。

 どうしてもトウヤ君に聞かねばならぬ事がある。

 

「……ま、マモル君?」

 

 近づいて来た僕に困惑した様子のトウヤ君、僕はその耳元へそっと顔を近付ける。

 

「トウヤ君……どうしても知りたい事があるんだ。聞いてもいいかな?」

 

 周囲に聞こえない様に、小さな囁き声を伝える。周囲に内容を聞かれたくない。

 トウヤ君の表情が何かを決意したものへ変わり、小さく頷いて同意の意を示してくれた。

 

「ありがとうトウヤ君……あのさ、トウヤ君はテラフォーミングってどういう意味か知ってる? もしかしてゴキブリに関係した言葉?」

「ご、ゴキブリ!? ま、マモル君本気で言ってるの?」

 

 あっ、違うっぽい。トウヤ君のマジかコイツみたいな視線が痛い。

 そんなに呆れないでくれよ……本当に知らないんだって……

 社長は言ってやった感を醸し出しているから聞きにくいし、なんか周りの奴等は理解してそうだから堂々と聞くのも恥ずかしい。

 とにかく地球をどうこうしたいってのは伝わったけどさ、具体的に何をどうするの?

 

 難しい言葉を使うなよ社長、テラフォーミングって何? 知らないよそんな言葉……日本語で言ってほしいでヤンス……

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。