オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!   作:定道

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堂々宣誓!! 邪悪を切り裂けソウルセイバース!!

 

 

 僕の宣言に体育館は静まり返る。周りの奴等の呆気にとられた気配が伝わってくる。ウェヒヒ、ちょっと爽快。

 

 しかし、後戻りは出来ない。安心安全を信条とするこの僕が、期間限定とは言え苦難の道を選んでしまった。

 でも、後悔よりも言ってやったって気持ちの方が強い。好き勝手言う父さん達には本当に腹が立った。何が正しい未来だこの野郎。

 

「おっ……?」

「マモル君!?」

 

 足元がふらつく。痛む身体に鞭を打って声を振り絞ったので限界が近い。

 そんな僕の様子に気付いたトウヤ君が、僕の身体を再び支えてくれた。

 

『……少し傲りが過ぎるな田中マモル。君は無知故に、自身の発言がいかに無謀な物なのか理解できていない。君は闇の本当の恐ろしさを知らないのだよ」

「そうかもしれませんね社長。でも、分からない事はこれから学んでいきます。だから邪魔しないでください」

 

 プクク、社長が負け惜しみ言ってるよ。闇の恐ろしさだ? ガソリンの味とか語っちゃうか? 

 

「マモル……少し見ない内に勇敢になったね。父さんはお前の成長が誇らしいよ。でも、ブルーアースにも主役は揃っているよ」

「は? 何言ってんの父さん?」

 

 突然、父さんの近くの空間が歪む。また転移だ。

 空間の歪みから現れたのは、仮面を被った十数人の子ども達。

 

「紹介しよう、ブルーアースが誇るマルチソウルギアチーム“ダークプラネット“。そしてリーダーであるダークヴィーナス。彼女達はランク戦にも登録されているチーム、惑星の意思に認められた正式な参加者だよ」

「仮面を使って洗脳した子ども達を利用ね……軽蔑するよ父さん」

 

 流石に許されない。超えていいラインを遥か彼方にブッちぎっている。

 

「それは誤解だよマモル、あの仮面はむしろ彼女達を守る為に用意した物だ。着用者の一番強い感情を増幅させペルソナを創り出す仮面。闇の侵食から心を守り、彼女達を現世に繋ぎ止めている」

「ふむ?」

 

 仮面が闇の侵食から心を守る? なんか闇が深そう……

 

「PTAだってスペシャルカップにエントリーするわよ!! 私のソウルメイクアップで皆を小学生に変身させて参加登録済み!! もちろん私も参加者!! チーム名は“健全児童矯正ガールズ“よ!! 覚悟することね!!」

「ふぇぇ……」

 

 別方向から地獄の様な情報が飛び込んで来た。耳を疑う宣言に周囲がざわつく……ガールズ? 

 なんで登録出来ちゃうのかなぁ、参加資格がガバガバ過ぎる。

 

『むぅ、登録申請が通ったのか? 惑星達よ……』

「ハハッ、惑星達はエンターテイメント性重視、大会が盛り上がるなら許可するだろうね。僕もエントリーすれば良かったかな? 左腕が使えないのが残念だよ」

 

 許可すんなや惑星共が!! 年齢詐称のママさん小学生集団なんて誰が得するんだよ!? 本当に盛り上がるかそれ!? 少なくとも僕は盛り下がるよ!! 

 

「そんな事が許されるはずが無い……許されるはずが無いだろう田中マモル」

「ん? ああ、僕も同意見だよ。流石に小学生はねぇ……」

 

 タイヨウが絞り出すような声で呟く。強く握られた両の拳が震えていた。

 分かるぜ、僕も母さんがスペシャルカップに参戦するのを想像すると震えるよ。全世界に見られると思うと……考えただけでも恐ろしい。

 

「違う!! あの女の戯言ではない!! キサマの宣言の方だ!! あの様な無謀で傲慢な願いが許されてたまるか!!」

「あっ、そっちね」

 

 無謀で傲慢か、言ってくれるじゃないか。

 

「お前がそう思うなら好きにすればいい。でも、それは僕が止まる理由にはならない。少し言われた程度で発言を翻すなら最初から望まないよ」

 

「クッ……コアソウルの件はともかく、他のふざけた願いはなんだ!? グランドクロスを無駄な願いで消費するのはそれだけで人類の損失だ!! しかも貴様がプラネット社の上に立つだと!? そこは現代社会の頂点にも等しい地位!! それを願いで実現しようなど……貴様こそ世界征服を企む不届き者だ!! どれ程の混乱をもたらすか理解しているのか!?」

 

 僕が世界征服? へぇ、確かにそういう見方もあるか。

 

「なら、世界征服でも構わない。好きに呼ぶといいさ。それにしても……お前は否定と文句ばかりで当事者意識が足りないんじゃないか?」

「当事者意識が足りない? 馬鹿を言え、俺は世界の行く末を憂い、天照家を継ぐ者としての責任を自覚している。役目を放棄して好き勝手する貴様とは違う」

 

 好き勝手なのは否定しないけど、僕が言いたいのはそこじゃない。

 

「違うよ、お前がウィッシュスターに託す願いの話だ。あそこにいるアホな大人達に言われた願いじゃない、自分自身が望む願いは無いのか? お前自身のビジョンって奴はどうなんだよ? お前の言葉からはそこが伝わって来ない」

 

 僕の問いかけに、何かを答えようとして言葉を飲み込むタイヨウ。

 ふぅ、論破してやったぜ……敗北を知りたいよ、フヒヒ。

 

「クッ……俺は無責任な発言をしない!! 同盟の長たる俺の言葉は少なからず仲間達に影響を与える!! 実現もしない絵空事で偽りの希望を与えるなど愚の骨頂!! 現状に則した最良の道へと導くのが率いる者の責務だ!!」

 

「そうかな? 自分の願いを取りあえず口にして、皆に伝えるのも大事だと思うけどね。やってみなくちゃ分からない事だってある」

 

「そうだとしても!! 人類の行く末を決める舞台で試す事では無い!! 貴様は現実が見えていない!!」

 

 現実……マモリも言ってたな。タイヨウの影響だったのか? 

 

「大層な宣言だが貴様はこの場から抜け出せるとでも思っているのか!? 我ら一族だけでは無くブルーアースとPTAも貴様を狙っているぞ!! この現実に貴様はどう対処するつもりだ!!」

 

 タイヨウがソウルカードをかざし、アポロニアスドラゴンが再び出現する。まだ召喚出来るのか、タフな奴だ。

 

「やる気だねタイヨウ……こうなっては仕方がない。ダークヴィーナス、マモル達を確保してくれ」

「了解です、グランドカイザー」

「ワシの与えた力を見せてやれダークヴィーナスぅ!! ダークプラネット達よぉ!!」

 

「あーもう!! やるわよ皆!! プラネット社とブルーアースにマモル達を渡しちゃ駄目よ!!」

「りょ、了解ですぅ!」

 

 僕達を取り囲む各々が、戦闘態勢に移る。

 僕を支えるトウヤ君とクリスタルハーシェルの皆も迎え撃つ為に身構える。決意に満ちたトウヤ君の表情、でも……

 

「心配いらないよトウヤ君、大丈夫だ」

「マモル君?」

 

 時間は十分に稼げた……合図は既に確認している。

 

「大丈夫だと? この後に及んで貴様は……」

「タイヨウ、さっきの宣言を少しだけ訂正するよ」

「……ほう?」

 

 僕が守るとは言ったが……あれは正確じゃなかったな。

 

「健全なソウルバトルを守るのは僕だけじゃない──僕達だ!!」

「何を言って……」

 

 次の瞬間、僕の影が物凄い勢いでフィールドの地面に広がって行く。影の広がりはフィールドだけに留まらず、観客席にまで侵食する。

 

 元の地面はあっという間に真っ黒な影で見えなくなった。突然の異常事態に、あちこちから混乱した子ども達の声が響く。

 

「なっ、この影はまさか!?」

 

 そして、影の中から無数の触手が飛び出し、アポロニアスドラゴンを拘束する。凄まじい勢いでアポロニアスドラゴンの全身の輝きが陰りを見せる。

 

「クッ!? アポロニアスドラゴン!! お前の光で闇を払え!!」

 

 アポロニアスドラゴンは身体からより強く光を放ち、藻掻いて影から抜け出そうとするが、影の触手は千切れる度に数を増やす。

 必死の抵抗も虚しく、巨体がみるみると影に包まれていく。

 

「全力で振りほどくんだ!! 空に逃げれば勝機が──」

「相変わらず脆弱な光……そして醜く滑稽、身の程知らずに相応しい姿だ。喰らい尽くせ、アンラ・マーニュ」

 

 相手を見下したような冷たい声が響くと、アポロニアスドラゴンに纏わりつく影が徐々に蠢いて一つの大きな塊になる。

 そして、影の塊が体中から無数の蛇を生やした異形へと、恐ろしい姿のドラゴンが出現した。

 

 し、知らないドラゴン……なんて思ったのも束の間、異形のドラゴンは大きな口を開けてアポロニアスを頭から丸かじりにする。

 えげつねえ……相変わらず敵には容赦ないね。

 

「馬鹿な!? 俺はあの時よりも強く……クッ、冥王ミカゲェ!! 姿を現せ!!」

「冥王? そんなくだらない名は捨てた。今は──」

 

 僕の目の前に、体育館中に広がった地面の影が集まって行く。

 黒さを増して立体的に盛り上がる影、それが徐々に人の形となり、中から現れたのはもちろん──

 

「今の名は黒神ミカゲ!! マモル殿の忠実なる忍び!! 世界を統べる偉大なる王の忠実なる下僕!!」

 

 記憶にあるよりも成長した姿、久し振りのミカゲちゃんだ。

 

 相変わらず勝手な事言ってる……王? 

 

 それに、身長伸び過ぎじゃない? 成長期か? 元々僕よりほんのりちょっぴり大きかったけど、頭一つ分以上に差を付けられてしまった。

 

「マモル殿!! お久しゅうございます!! 遅くなって申し訳ありません!! 舞車町のソウルワールドの壁が思った以上に強固で手間どりました!! ああ!! なんて痛ましいお姿に……ううっ、役立たずのミカゲを叱ってください!! ニンニン!!」

 

「うーん、どうやって境界を突破したのかな? 外からは入れない調整をしてあるのに……」

「ミカゲが来ちゃったじゃないのよ!! 肝心な所で使えないわねダイチ!!」

 

 口で謝る割には嬉しそうでハイテンションなミカゲちゃん。しかも自分の頭をグリグリと僕に押し付けて来る。

 痛い……筋肉痛の身体に地味にダメージが響く……

 

「ひ、久し振りミカゲちゃん。確かに待ったけど、タイミングは最高だよ。他の皆は?」

「運び屋の助力もあり間もなく到着します!! 拙者は船内から影の射程範囲内に入った瞬間に先行しました!! ミカゲがマモル殿のお側に一番乗りです!! えへへ……あっ、上空をご覧ください!!」

 

 ミカゲちゃんに促されるままに、空に目を向ける。

 上空の一部が金色に輝いている。更に重厚な鐘の音が鳴り響く。

 不思議と荘厳さを感じる光景、金色の輝きが徐々に何かを形作る。

 

「あれは……?」

 

 出来上がったのは豪華な装飾がなされた体育館の面積と同じぐらいに巨大な門。門は扉を地面に向けた姿で、上空に浮いている。

 まさかこの感覚……あの門はソウルストリンガーのトリック? ソウルの糸で出来た門か!? 一体誰の技だ? 

 

「ツバサの“ヘブンズゲート“!! あのゲス野郎!! 誰にも肩入れしないとか抜かした癖に!!」

『これ程巨大な門を作るとは……テレズマソウルの消費も相当のはず、本気なのかツバサ?』

「ハハッ、なるほどね。ツバサのヘブンスゲートならソウルワールドの壁を無視出来る。ミカゲちゃんが影で移動出来る訳だ」

 

 巨大な門が開く、大きな扉が開かれ中から現れたのは……なんじゃありゃあ!? 

 

「ミカゲちゃん、あれは……」

「あれこそがソウルワールドと闇を征く方舟にして渡し船!! 五百年前に建造された決戦用超弩級複合型ソウルギア“カロン“です!! マモル殿の為に実家で埃を被っていたのを奪っ──穏便に譲り受けて用意しました!! ニンニン!!」

 

 あんなに大きな乗り物がソウルギア? SFとファンタジーが融合した様な超古代文明的なフォルムの飛行船だ。

 凄い……電話した時に制圧してたのはあれか、あの船で中国まで遠征したのか。潜水艦じゃなくて飛行船だったとは。

 

「なんでカロンが起動して……まさか操者権限を書き換えたの!? コクヤは何をやってんのよ!!」

「いや、起動方法までは分からないけど多分コクヤは関わっていないよ。ミカゲちゃんに口も聞いて貰えないって嘆いていたからね、かなり嫌われてるみたいだよ?」

 

 上空の飛行船カロン底面部分のハッチが開く、中から次々と人影が飛び降りて来た。

 

「クッ、奴等の降下を許すな! 落下中に叩くぞ!!」

「了解ですタイヨウ様!! シューター達よ!! 不届き者を撃ち落とすぞ!! ケリュケイオン・バレット!! 

 

 水星ミズキの必殺技に追従して、ソウルシューターの弾丸がフィールドと観客席から上空へ次々と放たれる。物凄い集中砲火だ。

 

「マモル君への道を阻むな!! メルクリウスシンドローム!! 

「なぁ!?」

 

 聞き覚えのある声と共に、トラウマを刺激する極太の光が上空から放たれた。ああ、懐かしき殺人ビーム……

 必殺技の光は地上から放たれた弾丸を豆鉄砲の様に蹴散らし、どんどんと地面に近付いて来る。

 

 ……あれ!? この威力と規模じゃヤバくないか!? フィールドごと飲み込まれるぞ!? 

 

「いかん!? 防ぐぞストリンガー達よ!! 俺のトリックに糸を束ねろ!! サタリングシールド!! 

 

 土星ホシワが空中へと飛び出し、フィールドを守る防壁をトリックで展開。メルクリウスシンドロームの光と激突した。

 

 良くやった土星ホシワ!! 踏ん張れ!! 

 

「ぬぅ!? なんという衝撃!? だが……プラネットソウルズを舐めるな!!」

 

 光をなんとか留めたが徐々に地上へと押されていく土星ホシワ。

 そんな彼のトリックに、他のストリンガー達がソウルの糸を送る。防壁はどんどん大さを増して厚みを帯び、巨大で強固なトリックに変貌する。

 

 おお!? メルクリウスシンドロームを防ぎ切ったぞ!! やるな!? 

 

「邪魔だよホシワ」

「なっ!? ユキテル──」

 

 次の瞬間、視界を青い閃光が走り、空気を割く雷鳴が響いた。

 

 気が付くとプスプスと煙を立てて落ちて行く土星ホシワ……に、向かって襲撃者が雷で更に二回の追撃を加えた。土星ホシワがボロクズの様に地面へと落下する。

 

 や、やり過ぎだよユキテル君? 慌てた様子のチームメイト達に抱き止められたホシワがピクピクしている。ひえぇ……

 

「ホシワ!? よくも……敵を飲み込んで!! ネプチューン!! 

「甘いなリエル!! 燃え盛れ真紅の焔!! ネオ・レッド・フレイムΩクリムゾン!! 

 

 上空の襲撃者達を迎撃しようと海王リエルが突き上げた水流と、上空から出現した紅蓮の炎が激突。周囲が水蒸気に包まれる

 

 また機体が進化してないホムラ君? 何回目だよ、名前が凄い事になってる……

 

 水蒸気のせいで阻まれる視界。僕の周囲に続々と何かが降り立つ音が届いた。

 

「ああ、これでは僕達の美しさを観客達に見せつけられないね。吹き飛ばしておくれヴィーナス」

 

 そんな言葉と共にフィールドを中心に柔らかな風が吹き、水蒸気があっという間に散らされていく。

 

「マモル君、これは……」

「ああ、そうだよトウヤ君。助けが来たんだ」

 

 開かれる視界、そこには僕を取り囲む様に大勢の懐かしい顔ぶれが揃っていた。頼もしい仲間達の到着だ。

 

 派手に登場した皆は、昔練習した登場用の格好いいポーズをバッチリと決めている。やっぱり人数が揃うと映えるね! 

 

 あれ? チャイナ服とか修道服とかドレス着た見覚えの無い子が数人増えてる……誰? 

 

「ええ!? なんですか皆さんのポーズ!? ミナト様!? カイ様!? き、聞いてませんよぉ!?」

 

 ミオちゃんだけがオロオロとしてポーズを決めていない。さっき合流したならしゃーないね。

 

「ミタマシューターズ7名!! シューター魂に従って到着!! マモルの宣言に俺達も乗るぜ!!」

 

「カイテンスピナーズ9名!! 正義を信じて見参!! マモルと一緒に悪を焼き尽くすぜ!!」

 

「ヨリイトストリンガーズ7名!! 約束を果たすために推参!! マモル君を傷付けるなら僕達が相手だ!!」

 

 ……胸から熱い物がこみ上げて来る。別れる時には薄情な事を思っていたが、こうやって僕の為に駆け付けてくれたのを目の当たりにすると少し視界が滲む。

 

 ソウルギアで出来た縁は、そう簡単に無くなるものじゃなかった。少しぐらい離れていても変わらなかった……

 

「み、ミタマシューターズ!? 馬鹿な!? 一族から逃げ回っておいて何故いまさら……」

「仲間のピンチにはじっとしてられないぜ!! お前だってそうだろうミズキ!!」

「準備は整った!! これからは堂々と相手をするぜ!!」

 

 ソラ君もリク君も大きくなった。頼もしい背中だ。

 

「表立って一族に敵対するつもりか!? カイ!! ミナト!! 本気で一族を裏切るつもりか!? 父様にあれ程目をかけられておいて恩知らずな真似を!!」

「フッ、悪いな兄貴。俺達は信じると決めた、シューター魂って奴をな」

「マモル君! 助けに来たよ! もう安心だからね!」

 

 ミナト君、心強いけど水星ミズキをガン無視だね。一応兄弟じゃないの? せめて返事ぐらいは……

 

「ありがとうミナト君……んん!? えっ、なんで……」

 

 み、ミナト君がスカート履いてる……自然すぎて一瞬気が付かなかった。む、胸も膨らんでるだとぉ!? まさかソウルメイクアップか!? 

 いや、この感じは明らかにソウル体の波動、見分けの付きにくいソウルメイクアップによる変身じゃ無い。

 

 つまりミナト君は…………中国で性転換した!? 

 

 うう、母さんもマモリも父さんもミナト君もなんで再会時に性別が変わってるんだよ……絶対おかしいよ……

 

「その……この格好、僕には似合ってないかな……」

 

 不安そうに僕の様子を窺うミナト君。言ってくれればソウルメイクアップでお試し性転換をさせてあげたのに……小学五年生なのに判断が早すぎる。

 

 ああ、でも大丈夫だよミナト君。今の僕はカワイイを求める気持ちに理解がある。

 実際もの凄く似合っているから問題は無い。知らなければ只の美少女にしか見えない。僕は君の勇気ある選択を祝福する。

 

「いや、もの凄く似合っている。カワイイよミナト君」

「ほ、本当に!? 僕がカワイイ……ふふっ、良かった……」

 

 落ち着いたら一緒にカワイイ服を買いに行こう。ミナト君ならマモコに並ぶカワイイを手に入れられる。僕も微力ながら応援するよ。

 

「ホムラ……今度こそ私が勝つ……アナタを私で溺れさせてあげる……」

「何度やっても同じだリエル! もう一度俺の炎で焼き尽くしてやるぜ!」

「ヘヘっ……やってやろうぜホムラァ……オペレーションAKTは既に発動している……許可は出てるぜぇ! 暴れたりねぇんだ……なぁマモル?」

「だからオペレーションA・K・Tって何ですか!? 誰か教えてくださいよぉ!?」

「暴れる・許可出すから・突っ込め作戦だよミオ。各自の現場判断で臨機応変に柔軟な対応が求められる高度な作戦さ」

 

 相変わらず過激なカイテンスピナーズ。一度スク水集団を燃やしてるのか? 

 だけど、ヒカル君は物騒な発言とは裏腹に、こちらへと歩み寄り治癒の光で僕を包む。懐かしい温かさが痛む身体に染み渡り癒やされる……

 

「ッぬはぁ!! お前の雷は効いたぞユキテル!! 糸を地面に繋いでアースしておかねばやられていた!! あの頃のお前に戻った様だなぁ!!」

 

 うわっ、ユキテル君の雷三連発を食らってまだ立てるのか土星ホシワ。

 土属性だから雷に耐性が……いや、土星って土属性なのか? そもそも人間に対して属性って何? 

 

「君は昔より丈夫になったねホシワ、次は確実に仕留めてあげるよ」

『おう!! 息の根を止めてやれユキテル!! マモルの敵討ちだ!!』

「やるわよユキテル!! 今度は黒焦にしてやるわ!!」

「おう! 俺達ヨリイトストリンガーズには敵わねぇって教えてやろうぜ!」

「息の根は止めたらマズいでやんすよユピテルちゃん、みんな……程々にするでやんす」

 

 相変わらず戦闘になるとユキテル君は血の気が多い。それに僕は死んでねえぞユピテル君。

 

「クッ、冥王ミカゲ!! やはり貴様が裏で糸を引いていたのか!! 田中マモルを利用して反乱分子共を束ね!! 冥王計画を完遂するつもりだな!!」

「はぁ、先程のマモル殿の素晴らしいお言葉を聞いておいてまだ見当違いを……やはりお前は退屈だよ天照タイヨウ。幼子の様に怯えている。その小さな心とソウルは王の器足り得ない」

 

 ミカゲちゃん、昔から敵対する相手には口調変わって怖いよね……

 

「誤魔化すな!! ならば貴様は何を求めて戦力を集めた!! 冥王家の復讐の為だろう!!」

「冥王家など下らん、私はあの家にとっくに見切りを付けている。私はマモル殿の忠実なる下僕として働いたまでだ。他の者達は……理由や信念はそれぞれだが、私達には共通点がある。だからこの場に集った」

「共通点だと……?」

 

 みんなの共通点? 何かな……凶暴性? 

 

「生まれや役目などは関係無い。自分がそうしたいからソウルギアで戦う。ソウルギアを取り巻く下らない過去の柵を良しとしない。窮屈な理屈を押し付ける世界に抗う為に戦う。そしてそれを──」

 

 そっか、みんなもそうなのか。

 そうだよね、なんだかんだ言っても僕達は同じ所を持っていたから一緒に居て楽しかった。

 だから、僕達は友達になれた。僕達は仲間になれた。

 

「マモル殿とならば実現出来ると信じて集った!! マモル殿と目指したいと願い集った!! 故に私達もここに宣言しよう!! 私達は今ここでマモル殿を長とした同盟を結ぶ!!」

 

「ミタマシューターズはここに宣言するぜ!! 同盟の契りを結び!! 俺達の信念を貫くとソウルに誓う!!」

 

「カイテンスピナーズも宣言するぜ!! 同盟の契りを結び!! 俺達の正義を信じるとソウルに誓う!!」

 

「ヨリイトストリンガーズも宣言するよ!! 同盟の契りを結び!! 僕達の友情を育むとソウルに誓う!!」

 

 ……ちょっぴり泣きそう。心強さで胸がじんわりと熱くなる。

 

「お前達はどうするクリスタルハーシェル? 今ならソウルランナーの枠が空いている。マモル殿が仲間と認め、身を挺して助けたお前達ならば異論は無い」

 

 ミカゲちゃんがトウヤ君達に向かって誘いの言葉を投げかけた。

 トウヤ君がクリスタルハーシェルの皆を見回す、皆は無言で力強く頷いた。

 

「タイヨウ!! 俺達クリスタルハーシェルはプラネットソウルズを脱退する!! マモル君を盟主とした同盟と契りを結ぶ!! 自分達の衝動を偽らぬとソウルに誓う!!」

 

「クッ、トウヤ!! 冥王ミカゲの口車に乗るなど正気か!? それにクリスタルハーシェルはウラヌスを持つ者が率いる惑星の一族のチームの名だ!! 惑星の意思達との契約にそれが定められている!!」

 

「それならクリスタルハーシェルの名は置いていく!! 名前が変わっても心までは変わらない!! 共に居るならそこが俺達の居場所だ!!」

 

 力強く断言するトウヤ君……格好いいぜ、ちょっぴりキュンとする。

 

「ふふっ、当然の決断だ。惑星の一族の子ども達!! そしてプラネット社の愚かな大人達!! ブルーアースとPTA!! 私達の同盟はマモル殿の宣言に同意する!! 人類史上最大のグランドクロスはマモル殿が主導する!! そして聞け!! マモル殿が率いる同盟の名は──」

 

 えっ、名前がもう決まってるの!? 

 

 と、思ったらミカゲちゃんがニコニコと笑みを浮かべながら僕の方へ向かって来た。その手にはいかにもな巻物が握られている。

 

「マモル殿!! 同盟の名前の候補4つ選んで巻物に記しました!! この中からこれだと思う物をお選び下さい!! ニンニン!!」

「う、うん」

 

 まずい、ミカゲちゃんの発言に周囲が白けている。

 今から決めるのかよって空気がビンビンと肌に突き刺さる。早く決めないと……

 

「みんなでソウルドンジャラ大会して候補絞ったネ、ロンロンの考えた名前もあるから選んで欲しいアルヨー」

 

 ソウルドンジャラ大会? 楽しそうだな……っていうか誰!? さっきから気になってたけどこのチャイナ服の子は誰!? 新メンバーなの!? 

 

「あっ、ワタシは馬ロンロンっていう名前ネ。ユキテルにプロポーズされて仲間になたヨ。今後ともよろしくネ マモル」

「よ、よろしくロンロンちゃん?」

 

 むちゃくちゃ気になる情報が入って来たけど今は我慢だ。早く同盟の名前を選ばなくては……えーと、なになに? 

 

 “スーパーマモルブラザーズ“

 “ジャスティスフレイムジェノサイダーズ“

 “恩恩爱爱 ユキテル&ロンロン“

 “愚かな人類を導く偉大なる王と忠実なる忍とその他“

 

 あのさ、君たちはさぁ、もっと こう……

 

「いかがでしょうマモル殿!? 拙者のおすすめは一番最後の候補です!! ニンニン!!」

「一番最初のは!? 一番最初の候補はどうかなマモル君!?」

「二つ目がオススメだぜ!! めちゃくちゃ格好良いぜ!!」

「三番目アルヨー、三番目を選ぶネ マモル」

「個人名が入ってるのと公序良俗に反する名前は却下!! 他の候補はないの!?」

 

 ソウルドンジャラとか運ゲーで決めるのは駄目だな。次からは盟主権限で多数決にしよう。

 

「ううっ、ミカゲの候補はお気に召しませんか……それならばこちらの巻物に選考漏れした候補が記されております。ニンニン……」

 

 ミカゲちゃんに手渡されたもう一つの巻物に目を通す。

 くっ、みんな好き勝手な名前つけてるな、もっと無難で纏まってる奴は……おっ、これなんかいいじゃん! これで決定だ! 

 

「ミカゲちゃんこの名前でお願い。この名前をガツンと発表してくれ」

 

 言ったれ、言ったれ。僕は後ろから見てるからババーンと言ったれ。

 

「この名前ですか……なるほど、あそこの大人達へ心理的ダメージを与える効果的な名前を選ぶとは流石です、ニンニン」

 

 ん、心理的ダメージ? 

 

「聞け!! たった今マモル殿によって選ばれた同盟の名は“ソウルセイバース“!! ソウルギアを愛し迷える者達には救済を与え!! 邪にソウルギアを使う悪を断つ剣にもなる気高き名だ!!」

 

 ミカゲちゃんの堂々とした宣言、格好いいけどあんまり響いていない……体育館はシラーっとしてる。

 時間をかけ過ぎたせいか? き、急に決めろって言われた僕は悪くねぇぞ? 

 

「…………アンタが教えたのダイチ?」

「いや、僕ではないよ。知る方法は幾らでも考えられるけど、マモルの様子からして偶然じゃないかな? ハハッ、皮肉だね……」

『偶然の一致? だとすれば私達は……』

 

 なんか父さん達の様子がおかしい。

 雰囲気が暗い。へこんでるのか? どういう事だ? 

 

「闇の申し子を擁する同盟が、救済を騙り邪悪を断つだと? 妄言はよせ!! お前達は世間に混乱をもたらす危険な集団だ!!」

 

 タイヨウめ、ミカゲちゃんをディスり過ぎだろ。

 人より少しソウル爆弾が好きで、影が操れる忍者なだけだ。公共施設だって数える程しか爆発させてない。根はいい子……いい子だよ? 

 

「光だろうと闇だろうと関係無い!! 俺達はなりたい自分を目指す!! 大事なのは属性じゃなくて心だぜ天照タイヨウ!!」

 

 ソラ君いい事言うなぁ……流石主人公だね。

 その通り! 僕達は平和を目指す健全な同盟! 僕達は正義だ! 

 

「いい加減うっとおしいわね!! ユキテルを馬鹿にする引き合いに出てくるこの男は昔から気に食わなかったのよ!! この場でボコボコにするわよマモル!!」

 

「確かにこの場には主要な敵が揃っている、一網打尽にするのも悪くないね。いい作戦があるよマモル君、観客席の雑魚達を人質にするのはどうかな?」

 

「天に仇なす一族の薄汚い血を根絶やしにしましょう。主もきっとお赦しになります、彼等の罪を浄化するのです」

 

「ヘヘっ……、頼むぜマモルゥ……言ってくれよォ、殲滅しろとォ……皆殺しの許可をくれェ! 暴れたりねぇんだァ……」

 

 やっぱり悪かも、頼れる仲間達の口が悪い……知らないシスターも過激な思想だ。

 仕方ない、ここは僕がビシッと締めなくては。

 

「みんな聞けぇい!! ソウルセイバース最初の作戦だ!!」

 

 僕が叫ぶと、やいやい言っていたバーサーカー共が目を輝かせてこちらを伺う。戦闘の気配にワクワクし過ぎだ。

 

「オペレーションAKTは現時刻を持って解除!! これより戦略的撤退を開始する!!」

「えぇー!! 暴れないのか!?」

「そんなぁ!? やっちまおうぜマモル!!」

「そうだそうだ!! 血祭りにあげろー!!」

「ヒャハァッ!? お預けなんてあんまりだぜぇ!?」

 

 半分程のメンバーからブーブーと文句が飛んで来る。

 ええい、静まれ獣達よ! 人の心を取り戻すのです! 

 

「正しいソウルギア使いとして!! タイヨウ達との決着はスペシャルカップでつける!! 今は我慢だ!! 来年の夏にけちょんけちょんにしてやるぞ!! 全世界が見守る大舞台で僕達の完全勝利を見せつけるんだ!!」

 

 渋々納得と言った感じの面々、分かってくれたか。

 

「では、僕が皆をカロンまで運ぼう。去り際も美しくあらねば……ノバラ、イバラ、ミバラ、ヒバラ演出を頼むよ」

「「「「了解ですアイジ様」」」」

 

 アイジ君が指をパチンと鳴らす。吹き上がる風が僕達をフワリと空へ運んで行く。

 そんな僕達の周囲に、茨を生み出した四天王達が薔薇の花びらを散らす……この演出いるか? 

 

「クッ、逃がすか!!」

 

 空の飛行船へと浮かんで行く僕達に襲いかかる無数の攻撃が茨によって防がれる。い、意味があった……

 

「博士、シャドウで追うのは……無理そうですね」

「ぐぬぬ!! シャドウ達は黒神ミカゲのアンラ・マーニュに怯えて制御不可能じゃ!!」

「グランドカイザー、私が行きます。激しく舞え!! アフロディーテ!! 

 

 地上から仮面の女の子、ダークヴィーナスがソウルスピナーと一緒にすっ飛んで来た。この子も風使いなの!? 

 

 ダークヴィーナスの巻き起こす風と、アイジ君のヴィーナスが巻き起こす風がせめぎ合う。

 

「おっと、いきなり乱暴だね……姉さん。久し振りなのに美しく無い挨拶、貴女らしくない荒々しさだ」

「…………私らしさ? そんな物は闇の中に置いて来た。アイジ、邪魔をするならお前でも容赦はしない」

 

 えっ、姉弟なの!? 

 ダークヴィーナスの操るアフロディーテの巻き起こす風が激しさを増す、凄まじい暴風雨はまるで嵐だ。

 

「メルクリウス・シンドローム!!」

「グッ!?」

 

 ミナト君がダークヴィーナス目掛けて必殺技を叩き込んだ……よ、容赦ねえ。

 ダークヴィーナスは咄嗟に防御態勢をとったが地面まで叩き落された。

 

「アイジ、謝りはしないよ。今のアイカさんは敵だ。取り戻すにしても準備が足りない」

「分かっているさミナト……フッ、ままならないね」

 

 ……色々とありそうだけど、取りあえず今は置いておこう。

 かなり高い位置まで来た。地上からの攻撃は茨が防ぎ、よく見ると地上では影が蠢いて大勢の足に絡まって地面に縫い付けている。

 ようやく安心できる。無事に逃げられそうだ。

 

「アナタ達が本物のソウルセイバースだと言うならば……このくらい防いで見なさい!!」

 

 これは……地上から怖ろしいソウルの波動、凄く嫌な予感。

 

「月読流魂魄術!! 星辰教密言摩利支天の法!! タイ捨陽炎顕現ノ型!! オン・マリシエイ・ソワカ!!」

 

 な、なんだ急に!? 念仏か!? 

 

「顕世降臨!! 光明仏母摩利支天王尊!!」

 

 大仰な叫びの後に、イノリ伯母さんの背後に出現したのは巨大な人影……ぶ、仏像? 

 魂魄術で仏像を顕現させたのか!? ネ○ロかアンタは!? 

 

 三つの顔を持ち、六つの腕にそれぞれ武器を持った巨大な仏像が、陽炎の様に揺らめきながら動き出す。

 そして、仏像は巨大な弓を番える。照準をこちらへと合わせて弦を引き絞った。

 

「カロンの主は姉さんよ!! 奪われるくらいなら…………ここで堕とす!!」

『正気かイノリ!? 摩利支天を子ども達に差し向けるなど!? 落ち着くんだ!!』

「私は正気よ!! 摩利支天の光で人は死なないのは知っているでしょう!! それに、あの子達が船の行き着く先まで行ってしまったらどうするの!? 多少手荒でもこの場で止めるのが正解よ!!」

 

 絶対に間違いだよ!? ソウルギアの百倍は人に向けていい技じゃねえ!! 仏様なのに殺意が高すぎる!! 

 

 あの矢に込められたソウルは危険だ。発射前なのに僕が大人になった時の必殺技と同じぐらいの威力がビンビンに伝わって来る。

 

「チッ、メルクリウスで迎撃を──」

「ストップですミナト。摩利支天は陽炎の神格化、捕らえる事の出来ない揺らめく光の権能を持ちます。あの矢から放たれるのも太陽や月の光線、アナタの破壊に特化し物質的な側面の強い弾丸はすり抜けてしまう。ここはソウルの側面が強い防壁で防ぎつつ受け流すのがベターです。ニンニン」

 

 なんだよそれ!? 厄介な技だな!! 

 

「よし! 防御が得意なメンバー全員で力を合わせよう!」

「「「………………」」」

 

 あれ? 反応が薄い。

 

「防御……フッ、軟弱な概念だ。俺のシューター魂に反する」

「守りはマモルの仕事だったからな! 俺達はとにかく攻めまくりだぜ!」

「うーん、風の守りは光相手では効果が薄い。美しくないね」

「問題ありませんアイジ様! 私達の茨も炎や光熱の前には無力です!」

「こ、壊すのは得意なんだけど……ごめんよマモル君」

「氷の壁は……実体があるから駄目かな? 空中だと固定も難しいよね」

 

 この火力厨共が! パラメーターが極端過ぎるんだよ! 魔法防御にもステを振りなさい! 

 

「そうだ! ミカゲちゃんの影は!? 謎の闇ドラゴンは!?」 

「申し訳ありませんマモル殿。今の拙者にガチ目の光系は致命的な弱点でして……えへへ、ニンニン♡」

 

 くっ、誤魔化すときはあざといポーズで媚びやがって……相変わらずだなぁ!? カワイイぞコラ!! 

 

「やっぱり防御と言ったらマモルだぜ! ここはビシッと決めてくれ! シルバー・ムーンでチャチャッと受け流しだ!」

「そうよ! アンタは糸の繭に籠もってチクチク削るのも得意だったじゃない! トワイライト・ムーンでなんとかしなさい!」

 

 おい、ソウル切れかけでヘロヘロで死にそうな僕の姿が見えないのか? 更にムチ打つとか鬼かお前ら。

 

「マモル君これを飲むんだ! ソウルの回復するソウルエナジードリンク! 独自開発したソウルスッポンエキス配合の特別仕様さ!」

「流石ナガレ君! でかした! ……ヴォエッ!? 生臭ァッ!?」

 

 生臭いよぉ、口の中がジャリジャリするよぉ、一気飲みしちゃった……

 

『マモルが言ってた投資の奴か、あんな小さな瓶で本当に効果があるのかよ?』

「もちろん、成功した実験データは揃ってるよ……ラットのだけど」

 

 おい!? あっ、でもなんだか身体が熱い……滾るぞ? 

 

「これ、ソウル回復したかも……」

『マジか!? 凄えなソウルスッポン!?』

「マモル細胞を使ってスッポンを品種改良したからね、そりゃあ効くさ」

「えっ」

 

 なんか生命倫理に反する発言が……

 

「マモル君! 摩利支天の矢が来るでやんす!」

「くそっ、ヘキサゴンミラー・マルチプル!! 

 

 トワイライト・ムーンのソウルの糸で数十の巨大な六角形を形成、面の部分がソウルを跳ね返す鏡の障壁となるトリック、これを幾重にも重ねれば防げるはずだ。

 

「日天の前を疾行せよ!! 自在の通力番えるは神弓!! 放たれたるは闇を切り裂く光たれ!!」

 

 仏像の弓から光が放たれた。

 目が眩む程の極光、凄まじい光の奔流が僕のトリックの障壁に撃ち込まれる。

 

「ぬおぉぉ!?」

 

 凄まじい衝撃が伝わる、そして新感覚。これがソウルギアじゃなくて魂魄術を防ぐ感覚か!? 

 

 

 光の矢に貫かれ、パリン、パリンと割れていく六角形の障壁。

 やばっ、もう半分以上押されてる!? 

 

「踏ん張れマモル! 負けるな! そのままをキープだ!」

「よし、マモル君が抑えてる内にカロンを動かそう!」

 

 酷くない? 人の心とか無いの? 割とピンチだよ僕!? 

 

「や、やっぱり駄目ですよぉ!! 子どもたちを傷付けるなんて見てられません!!」

「赤神!? なんのつもりよ!?」

「燃え盛れ火星の赤!! マーズレッド・フレイム!!」

 

 地上で赤神先生が炎の壁をトリックで展開、光の矢の射線に割り込んだ。

 

「びゃゃあぁ!? あ、熱い!? で、でも負けません!! 子どもたちは……私が護る!!」

「赤神先生……」

 

 赤神先生が地上で光を一部遮ってくれたお陰で僕の負担が軽くなる。ありがとう先生……

 

「ふーん、あの変質者は燃え尽きないね。邪そうだから摩利支天の光に耐性なんて無いだろうに」

「いや、あれは……なるほど。摩利支天は陽炎、あの下劣な元教師が繰り出す炎が陽炎を散らしているのですね。意外にも炎で対抗するのは理に適った対処法です。しかもあの出力は……怪しいですね、ニンニン」

「赤神先生って意外にしぶといわよね。新学年から急に来なくなったけど元気そうじゃない、やっぱり心配するだけ無駄だったわ」

 

 もうちょっと感動してあげよう? 一応身を挺して僕達を護ってるんだからさぁ……

 

「あっ、駄目です……月のソウルが抑えきれないぃぃぃ!?」

 

 ドカンと爆発音が響く、赤神先生が爆発したぁ!? 

 

 だが、爆発と同時に光の矢も霧散した様だ。赤神先生は命をかけて僕達を守ってくれたのか……南無南無、ソウルワールドが解ければ復活するだろ。

 

 ん? 何かがこちらへと飛んで来る。僕の障壁をパリパリと突き破りながら…………赤神先生か!? 

 

 この障壁は対ソウル特化で物理的な衝撃には滅法弱い、割とムチムチして重めの赤神先生の質量には耐えきれない! こっちに飛んで来るぞ!? 

 

「ぐほぉッ!?」

「マモル殿!?」

「マモル君!?」

 

 物凄い勢いで飛んで来た赤神先生を正面から受け止めてしまった。

 熱っちぃ!? 赤神先生がホカホカに熱されて熱い!! そして重い!? 

 

「この女!! マモル君から離れろ!!」

「くっ、無駄に重い女だ!!」

 

 視界がグルグル、頭がグラグラして来た。重みと熱さは消えたが平衡感覚がぼやけている。周りの音が遠く聞こえる。

 

 あっ、この感覚懐かしいな……身体とソウルが限界で意識が沈んで行く感覚だ。

 

 暗闇に沈んで行く意識……何処か死を思わせる恐ろしい喪失感。

 

 でも、やっぱりそこまで悪い気分じゃない。

 

 だって、声が聞こえている。僕の名前を呼ぶ大勢の声が側にある。周囲に大勢の仲間が居て一人じゃ無いって分かってるから怖くない。

 

 きっと、僕の目が覚めるまで誰かが側に居てくれる。僕が目覚めた時に誰かが側に居てくれる。そうであると心の底から信じられる。

 

 そうこれが、これこそが安心だ。

 だから、怖くない。悪くない心地だ。

 

 

 

 

 

 




ちょっと忙しくなって来たので、週1回ペースだった更新間隔をニ週間に1回ペースに落とします。

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