不思議のダンジョン〜未熟な欠陥マスターと迷宮都市〜   作:ハチミツりんご

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 作者の活動報告にて、登場キャラクターを募集しております。良ければご参加下さい。


Prolog:一匹狼

 

 

 

 

『居たぞ!逃がすな!』

 

 

 叫び声をあげ、獲物を追う。鬱蒼とした森林地帯の中、あまり陽の射さない薄暗さをものともせずに、木の根で隆起した地面を躱しながら仲間を引き連れ駆け抜ける。

 

 追い掛けるのは一体の魔物。ココ最近噂になり始めた個体に危機感を感じた近くの街が出した討伐依頼。それを彼らが受理した為だ。それ以外に理由は無い。

 

 

『フッ!!』

 

 

 彼らの一党の内の一人、弓矢を携えた少女が木の上を走りながら矢を番え、狙いすまし、放つ。

 薄暗い森の中を走る矢は、真っ直ぐに目の先の魔物へと向かった。

 しかし、風切り音に気が付いたのか、それとも予見していたのか。小さく鋭い声を上げた魔物は、振り向きざまに手に持った山賊刀を一閃。地面に叩き落としてみせた。

 

 

『うっそぉ!?』

 

『反応が早い!マ素の定着が進んでレベルアップしてるんだ!』

 

『やっぱりただの個体じゃないな、アイツ!』

 

 

 まさか躱すでもなく防がれるとは思っていなかった弓使いが瞠目する。同じ一党の武闘家と僧侶の2人も、目の前の魔物が普段戦っているものとは違う事に僅かながら焦りを感じる。

 

 

『だが手負いだ!このまま追い詰めるぞ!』

 

『りょう………かいっと!!』

 

 

 しかし一党のリーダーらしき戦士がそう告げると、弓使いは手負いの魔物に向けて弓矢を三連で放つ。

 先程のように急所を狙いすましたものではなく、嫌がらせ、足止め目的の手数重視。

 

 放たれた三本の矢に気が付いた魔物は、一射目を身体を傾けて躱し、二射目を先程同様にたたき落とす。

 しかし、左腕付近に飛んで来た三射目を躱せず。毛皮を貫き、肉を抉りながら突き刺さった矢から伝わる痛みに呻き声をあげる。

 

 

『おぉ我が神よ!母なる精霊ルビスよ!我が敵、汝に牙を向けし悪しきなる者に罰を!愚鈍たる罪を!【ボミエ】ッ!』

 

 

 微かに動きを止めた瞬間を見逃さず、僧侶が杖を構え念じる。空気中のマ素が寄り集まり、対象に向けて暗い紫色の波動となってまとわりつく。

 一瞬その波動をモロに喰らい、全身から力が抜け、鉛を背負ったかのような重量感に襲われる。

 

 だが魔物は鈍る感覚の中で刺さった矢を掴み、ワザと痛みを感じるように引き抜く。

 鋭い焼けるような痛みを感じる中で、意識が明瞭とする。今一度雄叫びをあげ、先程までと変わらぬ素早さで一党から離れるように駆け出した。

 

 

『抵抗された!だがある程度は効いているはず!』

 

『ナイスだ!いくぞ!』

 

『おうっ!』

 

 

 僧侶の妨害魔法を跳ね除け、なおも逃げ続ける。しかし矢を引き抜いたことによる出血に加え、先程の妨害魔法も完全に跳ね除けた訳では無い。

 動きが鈍っている確信を持った一党は、リーダーの戦士と拳に布を巻いた武闘家で一気に強襲をかけた。

 

 

『はぁぁぁっ!!【かぶとわり】っ!!』

 

 

 先行したリーダーの戦士が盾を背に戻し、片手に持っていた『はがねのつるぎ』を両手に持ち変える。

 強く地面を蹴り、一気に肉薄すると、大上段から勢いよく振り下ろした。

 

 躱すのを難しいと判断したのか、魔物が山賊刀でその一撃を受け止めようとする。

 しかし、それは戦士も織り込み済み。切ることよりも、敢えて叩く事に重きを置いて振り下ろしたその剣は、古ぼけていた魔物の武器を粉々に打ち砕いてみせた。

 

 

『今だっ!』

 

『コォォォォォォ______【せいけんづき】ッ!!』

 

 

 己がこの世界に生まれ落ちた瞬間から共にあった、山賊刀。それを粉々に砕かれた事実に驚き戸惑っていると、合図を出しながら後ろに軽く跳んだリーダーの戦士と入れ替わるように武闘家が飛び込んで来る。

 

 武具に頼らず、自らの肉体のみで闘う者達。そんな武闘家の鍛え抜かれた肉体から放たれたその一撃は基本に忠実で、そしてだからこそ重い。魔物の胸部中心を捉えた拳は、敵を弾丸の様に大きく吹き飛ばしてみせた。

 

 まさしく《かいしんのいちげき》。武闘家の人生の中でも、指折りの拳撃に相違なかった。

 

 

 何度か地面を跳ね転がりながら吹き飛んでいく魔物は、込み上げて来た血塊を吐き出しながら、今までに感じたことの無いダメージに焦りを覚える。

 だがそれでもなお、魔物は生存本能のままに走り出す。手に持った山賊刀の残骸を放り投げ、低い四足の姿勢になり、野生動物の様に地を蹴って前進する。

 

 

『まだ動けるのか!完璧な手応えだったのに……!』

 

『っ!まずい!森を抜けられるぞ!』

 

 

 片腕を負傷し、武器を失い、正攻法で逃げ遂せる事は出来ない。不格好ではあるし、先程のように弓使いの攻撃を躱すのも難しくなる。

 だがそれ以上に、リーダーの戦士と武闘家の二者の攻撃を食らうのを避けたい。その為にも、敵に追いつかれない速度が必要だった。

 

 通常の個体ならば間違いなく生命を刈り取ったであろう一撃をもってしても、なお動く。その事実に武闘家が目を丸くするが、僧侶の一言で森の出口が近づいていることを知る。

 ここを抜ければ、街道がある。広い場所に出られてしまえば、あの速度の魔物に追い付くのは容易ではない。弓使いの攻撃も躱されやすくなるだろうし、何より商人や旅人といった無関係の人達を巻き込んでしまう。

 

 

 焦りを滲ませる一党に対し、魔物は微かな安堵を胸に感じていた。

 

 目の前の光へ、森の切れ目から差し込む陽の光に向かって駆ける。あのようなパーティが差し向けられたのだ、もうこの森で生きていくことは出来ないと分かっていた。慣れた住処を離れる事に不安はあれど、このまま捕まる訳にはいかない。

 

 死ねない。死ぬ訳にはいかない。

 

 まだ見つけていないから。手に入れるのだ、あの()()()()()()を。必ず、必ず手に入れる。そして約束を果たすのだ。

 

 

 

 決意と共に、森を抜ける。目の前に広がるのは広大な草原と、人の手によって整備された街道。

 そして、魔物の目の前を遮る様にして立ち止まっている、豪奢な巨大馬車だった。

 

 

『うおっ、なんだコイツは!?』

 

『落ち着け、手負いだ。大方、天敵かなんかに追い立てられて逃げてきたんだろ』

 

 

 馬車の周囲を護るようにして立つ、騎士のような出で立ちの人間。使い込まれた《はがねのよろい》や《てつのたて》で身を固め、盾を持っていない方の手には聖なる光が宿る騎士槍、《ホーリーランス》が握られていた。

 

 先程の一党の様にそれぞれの役職に合わせたバラバラの装備では無く、統一された強力な武具。ただものでは無い雰囲気も漂っている。武器すらない今、魔物が勝てる相手では無かった。

 

 

『居たぞ!』

 

『おっと、偶然挟まれたのか。へへっ、どこの誰かは知らねぇが、助かったぜ』

 

 

 そして同時に、追い付いてきた一党のリーダーの戦士と武闘家が森から姿を現す。少し遅れて、仲間の弓使いと僧侶の後衛二人もすぐさま合流し、陣形を整える。

 

 

『ん?お前ら、冒険者か。討伐依頼かなんかかい?』

 

『えぇ、【イカャシの街】登録のパーティです。流れ者の強力個体………そこの魔物の討伐が目的です』

 

『そんなら早いとこ始末してくれよ。俺らの雇い主、ただでさえご自慢の馬車がトラブル起こして止まってイライラしてんだ。これ以上刺激しねぇでくれよ』

 

『ははは、なら手早く済ませましょうか!』

 

 

 そう言いながら、構えた《はがねのつるぎ》を真っ直ぐに構えて魔物を見据える。武闘家はジリジリと右方向にズレながら逃げ道を塞ぎ、左方向は弓使いと僧侶の二人が慎重に距離をとりながら狭めていく。

 

 

 

 目の前には二人の騎士、後方には戦士。左右には戦士の仲間が立ちはだかり、逃げることすら出来ない。

 

 だがそれでも。それでも、何処か隙は無いか。

 そう思う魔物と、慎重に追い詰めていく人間達の間に緊張が走る。

 

 

 そしてそんな彼らの耳に、バァンッと荒々しく扉を開く音が聞こえた。

 

 

 

「______うるっせぇぞテメェら!!ぺちゃくちゃ喋ってる暇があるなら馬車をどうにかしやがれ!!」

 

『げっ、ダンナ!?』

 

 

 馬車の扉を開け放ち、眉を顰めながら苛立ちを隠す様子も見せずにそう告げてきた一人の男。騎士の一人がギョッとした様子で見やるこの男こそ、この馬車の持ち主なのだろう。

 

 一瞬だけ、全員そちらに目を奪われた。その刹那だった。

 

 

「グルァァァァッ!!」

 

「あん?」

 

 

 一か八か、視線が切れた瞬間を狙って馬車の男に飛びかかる。この中では最も脆そうであり、戦いに慣れている訳では無い事も本能で察せた。

 故に男を襲い、勢いそのままに馬車の向こう側へ脱出しようという起死回生の一手を取った。

 

 事実、現状魔物が取れる手段の中では最善の一手であったし、一党の不意を突くことにも成功した。

 

 

『フッ!!』

 

『あらよっと!!』

 

「ガッ………!?」

 

 

 しかし、力量差というものはどうしようも無いほど残酷に現れる。

 

 魔物にとって全身の力を集結させた飛びかかりも、騎士二人にとっては対応出来る速度でしか無かった。

 片方が《ホーリーランス》を反転、柄の部分で魔物の腹を打ち据え動きを止める。そのまま流れるように、もう片方が槍を叩きつけた。

 

 上から押さえつけられ、ダメージの蓄積によって最早そこから這い出ることすら出来ない。

 あまりの手際の良さと反応速度に、冒険者一党が感嘆のため息を洩らした。

 

 

『っと、一丁上がりってね。悪ぃなダンナ、騒がせちまって』

 

「ったく、テメェら給料減らすぞ?………んで、何があった」

 

『討伐に来た冒険者から逃げてここまで来たようです。幾らかレベルアップしている様ですが、まぁ大した個体ではありません』

 

「そうか…………ん?おいヘイル、そいつちょっと見せろ」

 

『はい?』

 

 

 暴れて逃げ出そうとする魔物を取り押さえる騎士の一人に、馬車の男がそう告げる。今しがた自分を襲ってきた魔物を見せろ、という妙な命令に首を傾げながらも、雇い主の要望に逆らう訳にも行かず。

 押さえつけていた《ホーリーランス》の位置をズラしながら、馬車の男にも魔物の姿が見えるようにする。

 

 飛びかかってきた魔物の姿を確認した男は、ほう、と声を出した。

 

 

「【さんぞくウルフ】か」

 

『別に珍しくも無いでしょ?なーにが気になるんすか』

 

 

 さんぞくウルフ。

 

 その名とは反し、山以外にも出没する二足歩行型の魔物。狼を思わせる風貌に加えて全ての個体がボロい水色のシャツに紺のズボン、紫色の腰巻きを身に付けているのが特徴。集団で固まって生活し、誕生した時から身の丈ほどの山賊刀を持って人間に襲い掛かる化け狼だ。

 

 

 騎士の一人が言ったように、大して珍しくも無く、集団ならばまだしも単体では大きな驚異とならない魔物。

 

 一体何が気になったのかと騎士が疑問を投げかけようとした所で、馬車の男はニヤリと笑う。

 馬車から降り、騎士二人が止めるのも聴かずにさんぞくウルフへと近づく。槍で押さえつけられ身動きの取れないその魔物を覗き込み、男は口を開いた。

 

 

「………お前、【自我持ち】だな?」

 

 

 確信を持って、尋ねてくる。馬車の男からの質問に暫くは黙りとしていたさんぞくウルフだったが、観念したように低く唸った。

 

 

 

「………だとしたら、なんだ」

 

『うおっ!?』

 

『し、喋った………魔物が………人の言葉を!!』

 

『そこまでマ素が定着しているのか!?離れて下さい、危険です!!』

 

 

 人の言葉を理解し、話す魔物。それは非常に珍しく、また同時に恐怖される存在でもある。

 

 空気中に漂う特殊な力の源《マ素》と呼ばれるもの。未だに全てが解析されていない謎多き物質であるが、その力の影響はとてつもない。

 

 

 例えば、魔法を行使する為、鍛え上げた特技を使う為にも、マ素が必要不可欠となる。己の中のマ素と空気中のマ素を練り合わせる事が必要となり、それを成して初めて顕現するのだ。

 

 

 そして何より強大な力。マ素は人を強くし、理を超えた力を授けるのだ。

 

 マ素から生まれ落ちる異形たるもの、魔物。彼らの殆どはマ素が寄り集まって生物の形となっている集合体であり、死亡すると光の泡のように消えていく。元のマ素へと還えるのだ。

 

 この時に現れるマ素、そのうちの一部は魔物を殺したものへと受け継がれる。この体内に蓄積されるマ素の量が多いほど、人は限界をこえていく………つまり、《レベルアップ》する。

 

 

 そして《自我持ち》と呼ばれる個体は、このレベルアップを何度も繰り返した末に多くのマ素が定着し、この世界そのものに接続した魔物だ。

 例え死亡してもマ素に還えらず死体となってこの世界に残るし、人語を完璧に理解し意思疎通も可能。同種の魔物よりも知性が発達し、本能だけで生きる獣から解き放たれる。

 

 

『《自我持ち》の個体は知恵も力も発達している!武器を隠し持っていたり、魔法を身につけているかも______』

 

「うるっせぇぞ冒険者!!黙ってろ!!」

 

 

 男の身を案じて声を上げる冒険者一党の戦士を睨みつけながら叫ぶ。さんぞくウルフの顔を覗き込みながら、男はもう一度語り掛けた。

 

 

 

「おいお前。なんで単独だ?《自我持ち》みてぇな連中は群れじゃ重宝される。特にさんぞくウルフみてぇな集団で生きる種族なら崇められるだろ。そこを離れた理由はなんだ?」

 

「…………とあるものを探している」

 

 

 《自我持ち》個体はレベルアップを繰り返した末に偶発的に生まれる為、必然同種族の中でも強者だ。その上人と変わらないほどに知性があるので、群れで生きる魔物の中では《自我持ち》はエリートの証。単独で生きるような個体は稀なのだ。

 

 捜し物をしている、と答えたさんぞくウルフに眉を顰める。大方自分の腕を試したいだとかそんなとこだろうと思っていたのに、予想外の答えが返ってきた。

 

 

 

「なるほどなぁ。んで、その捜し物ってのはなんだ?」

 

「それは____________」

 

 

 

 その答えを聞いた瞬間。男は目を見開き、そして大声で笑い始めた。

 

 

 

「______はっははは!!!マジかよ、自我持って群れも離れて、探すものがソレか!!はっははは!!あぁくそ、こりゃあいい拾いもんしたわ!!」

 

 

 ゲラゲラと笑い転げる男に、さんぞくウルフが不快に感じたのかキツい表情を浮べる。

 だが仕方ないだろう。さんぞくウルフの答えはそれほどまでに荒唐無稽なものだったから。

 

 しかしそれが、その答えが逆に男に刺さった。

 

 

「おい、さんぞくウルフ。その捜し物を見つけるのに最適な場所を教えてやろうか?」

 

「………何が目的だ」

 

「いいねぇ、話が早い。嫌いじゃないぜそういうの」

 

 

 突然の言葉にさんぞくウルフが訝しみながら尋ね返す。それもそうだろう、魔物である自分に親切心でそんなことを教えるわけが無い。

 

 その懐疑心を見てさらに笑みを深める男は、単刀直入に切り出した。

 

 

「簡単な話だ、契約しようや。俺の為にお前を利用する。代わりにお前の探してるもんが見つかる場所に連れてってやる」

 

 

 

 男は爛々とした目で魔物を見やり、告げる。

 

 

 

 

 

「来いよ。お前の求めるものがある場所______不思議のダンジョンに!!」

 

 

 

 これは、ちょっとしたお話。一匹の魔物が、運命に出会う栄光の道。それを綴った物語である______。

 

 

 

 

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