舞台裏の出演者達   作:とうゆき

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ハーレム物を書いてみました!よろしくお願いします><


ハーレムの集い人

時にはぶつかり

別れ、それでも変わらぬもの

配点(愛郷心)

 

 

 

 阿蘭陀。スパールネ川沿いに位置する都市、ハールレム。

 八十年戦争の初期に西班牙との戦争で被害を受けるものの西班牙軍撤退後に復興。

 元々盛んだった織物業や造船業、醸造業に加え、フランドル地方から戦火を逃れて流入してきた難民によって繊維業や漂白業も発展。

 1630年代から始まったチューリップの栽培と取引が都市に色合いを添え、市の中心にあるグローテ・マルクト広場は市民の活気に包まれていた。

 

    ●

 

 市街の外れにある会館はざわめきに満ちていた。

 会館内の広間には年齢や性別、種族さえ異なる数十人の学生。

 多くは黒に染まった三征西班牙の制服を着ているが、僅かながら英国など他国の制服を着た学生もいる。

 

「ビールは行き渡ったでしょうか?」

 

 一人の中年が壇上に上がって会場に視線を走らせる。

 

「まず会場の提供をしていただいたフランス・ハルス殿とビールの提供をしていただいたピーテル・サウトマン殿とユディト・レイステル殿に感謝を。そして乾杯!」

 

 今日はコルネリス・ファン・ハールレムを中心にしたエロゲサークルの互助組織「聖ルカ組合」の会合だった。

 ちなみに、名前の由来はTsirhc教譜における最初期の裸婦画家聖ルカにちなんだものである。

 

 サークルこそ違えど、彼等はハールレムの発展を願う同志だった。

 長く続く祖国の戦争。不安に思う人々を少しでも励ましたい。そんな一心でエロゲ製作に携わってきた。

 今では阿蘭陀の有力者であるフレデリック・ヘンドリックの後見を受け、外貨獲得手段として主校の生徒会や産業委員会からも頼りにされている。

 

「ではいつも通り、羽目を外しすぎない程度にお楽しみください」

 

 その言葉を合図に会合がスタートし、料理が置かれた丸テーブルの付近に数人単位のグループが出来上がっていく。

 

    ●

 

「サウトマン殿には毎度美味しいビールを提供してもらってすみません」

「いえ、なに。先日発売したエロゲ「両手に姉妹! ジグムント三世!」が大ヒットしたので、お裾分けのようなものですよ」

「そうでしたな。普段はやり手のコンスタンツェがふと見せる弱さが堪りません」

「いやいや、そこは平凡な容姿ながら健気に尽くすアンナでしょう」

「俺としてはメインのエスターライヒ姉妹よりサブのウルシュラ・マイェリンが良かったな。多くの敵がいながら最後まで国に仕える姿は気高い」

 

「……」

「む……」

「へえ……」

 

 信仰がすれ違った時、人々が話し合いよりも実力行使に出る事は歴史が証明している。

 

    ●

 

「今度は我らが英雄ケナウ・ハッセラール女史を題材にした作品を考えてましてな」

「それはそれは。期待していますよ」

「ありがとうございます。ヒロインは三百人ほどを予定しております」

「え?」

 

    ●

 

 基本的に和気藹々とした会合だが、一部では暗い空気も漂っている。

 

「神肖戯画(テレビアニメ)愚痴会~」

「1クールだったせいでサブヒロインが完全に空気に……」

「尺が足りなくて苦肉の策だったのは分かる。でもオリジナルならもっと脚本しっかりしろや!」

「2クールだったのだが、無理に全ルートを統合したせいでキャラとストーリーが破綻……」

「うん、気合入れすぎて複雑すぎるデザインにしたのは反省している。キャラデザがほぼその通りだった事には感謝している。しかし……崩壊するし動かないなら簡略化しても良かったんだぞ?」

「作画は問題ないし、2クールだったのだが声優の変更で原作組と神肖戯画組で対立が……」

 

    ●

 

 話題はエロゲばかりではない。

 彼等は言ってしまえば一企業の経営者であり、社会情勢にも敏感だった。

 

「印度会社は順調なようで」

「葡萄牙とは緊張状態ですがね。彼の国も西班牙を敵にするのだから協力したいものですが」

「主校の教導院は英国との間で起きるアンボイナ事件をどうするかで揉めているようだ。聖譜記述ではこの事件で阿蘭陀は東南アジアでの影響力を強めるが、友好国である英国との関係は大事にしたい」

「目先の利益を求める現場と長期的な国益を考える教導院の対立ですか」

「しかしまあ、傍論によりますと英国との戦争は避けられないようですから、教導院もタイミングを見計らっているという所でしょう」

 

    ●

 

「ヘントの十八人委員会からさぁ、カルヴァン派の布教用エロゲ作るよう依頼されたんだ」

「よりにもよってそこか」

「でもうちはロープライスのクロスアウト即ファイアーな作品がメインなんだよね」

「断れば良かっただろう」

「……前金たんまり貰っちゃって」

「阿呆が。とりあえず「十五歳からのカルヴァン派入門講座」的な感じの当たり障りのないゲームを作っとけ。あの乞食どもを敵に回すのは危ないぞ。最近もトップのヘムビゼがTsirhcの修道士が隠し持っていた男の娘系のエロゲを伝纂器(PC)ごと破壊したそうだ」

「えげつねー……」

 

「どうでもいいけどカルヴィニストって微妙にカリバニストっぽいよなー」

「フランドルからの移民には食人系異族もいるから笑えないな」

 

    ●

 

「オラニエ公の野望の新シリーズの進展具合は?」

「ゲームバランスの調整に苦心している。どうしても後半が作業ゲーになってしまって」

「ニデッゲン将軍が使いにくいのを何とかしてくれない? すぐ裏切るんだけど」

「それは仕様だ」

「スピノラはもう少し弱くしてもいいじゃね? ユスティヌスは何回ブレダを開城されれば良いの?」

「それも仕様だ」

「ドン・フアンやパルマ公アレッサンドロ・ファルネーゼは?」

「放っておけば死ぬから耐えろ。やり方次第ではレパント海戦で倒せる」

 

    ●

 

「じゃじゃーん。今日発売、ハールレムが誇るレビュアー、カレル・ヴァン・マンデル氏の新作レビューだ」

「ふむ。バルトロメウス・スプランヘルの「Hの勝利」の評価が高いな」

「彼の描画技術には一目置かねばなるまい」

「神話ジャンルメインなのも貴重よなぁ」

「プラハ在住なのが実に惜しい」

 

    ●

 

 会合は続く。

 「エロは暴力を圧倒する」をキャッチフレーズに彼等はこれからもエロゲ道に邁進し、後に黄金時代と称される阿蘭陀芸術の礎となる。




一部表記揺れがありました。すみません><

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